June 18, 2013

第82回 サラウンド寺子屋塾 最新 192kHz - 24Bit ハイレゾサラウンド音楽制作と試聴:報告〜サラウンド月間連動イベント

by Mick Sawaguchi サラウンド寺子屋塾 主宰

テーマ:最新 192-24ハイレゾサラウンド音楽制作と試聴


第1部:


ワルシャワオーケストラによる「火の鳥」DSD/192サラウンド制作について

講師:村上輝生 Mu-s代表 http://www.mu-s.com/profile-J.html

今年2月に録音された北村憲昭氏指揮ワルシャワ国立管弦楽団のストラビンスキー作品集の収録制作解説と試聴。











第2部:


4月末に録音された清水絵理子+Strings4 UNAMAS 最新アルバム[AfterGlow] 192-24サラウンド制作の解説と試聴

講師:Mick Sawaguchi 沢口音楽工房 代表 http://hw001.spaaqs.ne.jp/mick-sawa/













第3部:2Lレーベル新譜の試聴

● LIVING
● THE SHUBERT CONNECTION
● POSSIBEL CITESESSENTIALLANDSCAPES
● LA VOIE TRIOMPHALE

沢口:みなさんこんにちは。82回目のサラウンド寺子屋塾を始めたいとおもいます。今回は、初めてここ赤坂にありますシンタックスJAPANの試聴室「m-Ex Lounge」を提供していただきました。大変ありがとうございます。
5月は、JAS JEITAなどが設定しましたサラウンド月間で、5月1日から3日にはJAS主催のイベントも企画されています。サラウンド寺子屋塾もこれに連動して企画しました。今回は、まだリリース前のまさにとれたてのマスターを192-24のサラウンドで聴いてみようという寺子屋塾です。

それでは、第1部の講師をお願いしました村上さんを紹介したいと思います。

村上さんは、エンジニア歴35年以上というベテランエンジニアで主な仕事は,ロック系が多いのですが,今回は、クラシックのオーケストラでダイレクトMIXを行っています。また村上さんは、海外でのレコーディングの経験も大変豊富で、びっくりする程たくさんの国でレコーディングをされています。また「ハイパーレゾリューション」という高品質音楽レーベルをお持ちでここではSA-CD/ROM WAV DATAの2枚組というユニークなリリース形式で制作をおこなっています。それでは今年2月にポーランド ワルシャワのワルシャワ国立フィルハーモニー ホールで行われたオーケストラ録音について、解説をお願いします。(拍手)

1ストラビンスキー「火の鳥」制作について

村上:
みなさんこんにちは。村上です。私からは今年の2月に録音しました北村憲昭氏指揮ワルシャワ国立管弦楽団のストラビンスキー作品集の制作について紹介します。

制作全般について




制作は、2日間で3曲を録音しています。(1曲づつは長いですが.
ここのオーケストラの仕事は、4時間が1セットとなっていまして、午前中4時間録音すると、4時間の長い休憩が入り、午後は、17:00−21:00の4時間という組み合わせでオーバータイムといったことは、基本的にありません。またもしそうなると高額の時間外コストが派生します。

オーケストラの録音には、みなさんご承知のように楽器ごとにスポットマイクを設置してMIXINGするマルチマイク方式と少ないマイクを最適な場所に設置するワンポイントマイク方式の録音があります。それぞれのメリット/デメリットは、この図で示すような傾向になります。







今回の指揮をしました北村さんは、「指揮者の位置ですべての音がバランス良くなるように演奏しているので少ないマイクで録音して欲しい」それも現在使える最高の録音方式を使って欲しいというリクエストでした。

そこで私が選択した機材は、KORG MR-1000 DSD 5.6M SFのレコーダによるダイレクト2CH MIXRME FF UCXPT 10HDによる192-24 4CHサラウンド録音でした。日本からは私一人でいくため軽量コンパクトで高品質を実現するための選択です。

録音システム:
図を参照してください。マイクプリは、日本から持参した機材は使わずにホールで常設してあるSTUDER2台を使用しました。
ここから1系統は、DSD 5.6Mフォーマットでのダイレクト2CH MIXを。もう1系統とリアサラウンドの信号は、FF UCX経由でPT 10HDに192−24で録音しました。





サラウンドの録音:

私は、クラシック音楽のサラウンド制作は、センターCHLFEは,必要ないと考えていますので4CHサラウンドとしました。クラシックの録音をサラウンドで行う場合に2つのアプローチがあります。ひとつは、各種提唱されているツリー方式を使ったワンポイント サラウンド マイキングであり、もうひとつは、私は、オープンマイキング方式と呼んでいます、フロントメインマイク+SPOTマイクに加えてホール内の響きが良い場所を探してそこに後方用のペアマイクを設置する組み合わせです。

ワンポイント サラウンドマイキング方式では、スイートスポット付近では臨場感とバランスが良い再現ができます。しかしスイートスポットから大きくずれるとバランスが劣化する傾向があります。私は、どこで聴いてもそのホールの感じが再現できる点とスイートスポットが広いという点を優先して、オープンマイキング方式の録音を選択しました。

まずメインのフロントですが、DPA 4006 x2をメインマイクとして指揮者の近傍に設置。ここのホールもそうですが、国内のホールのような3点釣りといった設備はないのでスタンドで設置しています。その左右にWIDE L-RマイクDPA-4006 x2を設置。そしてSPOTマイクとしてオーケストラの中程にDPA 4006 x2という計6本です。(曲によってはハープ、CB等の補助マイクも使用)




サラウンド用マイクについては、ホール内でマイクを持ってHPでモニターしながら、一番響きが良い場所を選択しました。サラウンド用マイクの間隔ですが、北村先生は、人間の顔の間隔に近い17cmを好んでいますので今回もその間隔でDPA 4006を設置しています。このホールは、真ん中に通路があり、バランスの良い場所をそこで確保することができたのは、良かったとおもいます。全体の音場は、ホールの客席の前列から7−10列目で聴いているようなバランスとしました。



マスタリングは、いつもは私自身でやるのですが、客観的なマスタリングも必要だと思い、今回はアンズサウンドの粟飯原さんにお願いしました。

それでは、再生しますのでお聴きください。再生レベルは、録音時のオーケストラのフォルテシモのレベルがおおむね85dbくらいでしたので、ここでも同じ環境を再現するために85dbに合わせました。では再生します。




「再生」拍手

村上:
質問があればお願いします。

Q-01:
パワーポイントで見たオーケストラでのハープの位置と録音データのハープの位置が逆ですが?
A:すいません。実際の録音時に、写真を撮る暇がなかったのでパワーポイントには先方とマイク位置の打ち合わせをした際の写真をのせていますので、ご了承ください。

Q-02:
TD時には、SPOTマイクのタイムアライメントをおこなっているのですか?
A:この録音は、ホールでのダイレクトMIXですのでタイムアライメントは行っていません。またSPOTマイクとメインマイクの時間差は、15msec以内になるように設置していますので時間差の影響がない距離で設置しています。
マルチで録音した場合などでタイムアライメントが必要な時は、PT上で調整します。(1ビットの場合は不可能です)

Q-03:
チェレスタやApfがあったと思いますがこれらにはSPOTマイクを設置しているのですか?
A: 設置していません。北村先生のところでベストなバランスになるよう演奏者がコントロールしただけです。

Q-04:
マイク位置の決定は、どうやったのですか?
A:ホールの図面を事前にもらって、検討しそれをもとにメールで打ち合わせを行って使用マイクと設置位置を指示しました。微調整は,現場といった感じです。打ち合わせは写真と図面を多用したのと、ここは、ショパンコンクールを始め映画音楽やコンサート録音など豊富な経験を持ったスタッフがいますので、意思疎通はとてもスムースでした。

Q-05 :
DSDマスターはどのようにマスタリングまで行うのですか?
A:DSD録音は、音はすばらしいですが、編集やMIXという作業ができません。KORGのスタジオの試作機では可能なのですが,時間とスタジオコストがかかります。DSDはその点がつらいですね。ですからまずはハイビットハイサンプルで編集して満足いくものが出来上がってから編集ポイントを記録し、1ビットのファイルをラフに切って準備してコルグのスタジオに持ち込む予定です。

Q-06
サラウンド用のマイクは、通常ホールの後方に向いていますが,今回はフロントを向いている理由はなんですか?
A:ツリー等の場合は基本的に各マイクが近い位置にあるのでサラウンド用のマイクは後方を向けますが、オープンマイキングの場合はもともとちゃんと距離分の時間差や音質の変化が明確に感じられるよう録れますので後方マイクも音源方向を向けています。それとDPA4006は無指向性マイクという事になっていますが、実際には高域はある程度指向性がありますのでフロントを向けた方がクリアに録れますので。

沢口:村上さん、どうもありがとうございました。私も後方の席で聴いたり、前の席で聴いたりとスイートスポットからずれた場所でききましたが、どこで聴いてもバランスが壊れないという村上さんの考えがよく実証されていました。

2 UNAMASレーベルの新作「After Glow」の制作について




沢口:
現在、ハイレゾ配信で提供しているソフトの制作方法には、2通りありまして,ひとつは昔の名盤のマスターをA/D変換して提供する方法です。もうひとつは、現在の録音テクノロジーを活かした新作の録音で提供する方法です。
私のアプローチは、後者の方で、ハイレゾの特性を最大限に活かせる機材やテクノロジーで2CHステレオでなくサラウンドで制作しようというものです。

今回のアルバムでは3つの試みを行いました。

     これまで2アルバムでリリースしてきましたピアノソロシリーズの3作目としてピアノと弦楽4によるサラウンド音場の表現を考えました。サラウンドのデザインとして中心にピアノがありその周りをストリングスが囲んでいる、それもリアは、アンビエンス音でなく実音で定位させる。というアプローチです。

     2月にHOME STUDIOに導入しましたPYRAMIXの新システムHORUSというIP伝送を採用したインターフェースのサウンドがすばらしいのでこれを録音でも使用し、入力もMADAI伝送を受け付けるのでマイクプリからMADI伝送してサウンドを検証してみるという点です。

     ハイレゾでリボンマイクのピアノ録音をするとリボンマイクの持つ自然な特性が出るのではないか?と思ったことです。



今回の録音に参加してくれたミュージシャンのみなさんです。ピアノは、清水絵理子さんで弦楽4は、芸大を卒業した竹田さんを中心に若手で結成しているグループです。右端には、寺子屋メンバーでもある土屋君がいますが,今回弦のアレンジを担当してもらいました。


録音は、音響ハウス 第一スタジオです。ピアノパートを4月27日に弦楽4パートを29日で録音しました。


マイキングは、こんな感じです。ピアノのONは、私の定番であるSANKEN CO-100K+低域補強でMojave Audio MA301fetを使いました。リアは、オーディオテクニカAT-4050 URUSHIです。リボンマイクは、AT-4080を低域、4081L-RCO-100Kに並べてセットしました。ケーブルは、VOVOXをメインの3本に使っています。
毎回私は日東紡音響のAGSという拡散体を使うのですが,今回はひとつをピアノの下に設置し残りをガラス面に設置しました。





これが弦楽4の録音とマイキングです。2CHステレオの録音ですと通常横並びでレイアウトする例が多いと思いますが,今回は、弦パートが360度で取り囲む音場をイメージしましたので、演奏も円周形にしてONマイク4本 アンビエンスマイク4本をそれぞれ、L-R-Ls-Rsと定位しています。




録音システム:
今回は、192-24、16CH録音です。
DAW Pyramix ver8.1 インターフェースがHORUSでマイクプリにRME Micstasy 8CH MADI-OUTそしてMADI BridgeD/A変換にRME M-16D/Aという構成で図に示すような接続です。D/A-OUTからSSL-9000Jコンソールに入り、モニタリングしています。



では、いくつか再生してみますのできいてみてください。


再生 拍手

寺子屋メンバーは、エンジニアリングにも興味がありますので、ピアノソロでCO-100Kの組み合わせとAT 4080/81によるリボンマイクの組み合わせの比較再生をしてみます。

再生

いかがですか。私は、当初リボンマイクはS/Nが良くなく,中域中心でゴリッとしたサウンドになるのかなあ。。。と予測したのですが、再生してみると大変自然で、ピアノの前で聴いているような感じに録音できていましたので、正直新しい発見でした。

リボンマイクをオーケストラやピアノに使っている例は、ないかと検索してみましたが、ROYER社がサポートしてサンディエゴシンフォニーの2台のピアノとオーケストラの録音でメインマイクに使用している例がありました。
リボンマイクの新しい展開も期待できるのではないかと思った次第です。これに気を良くしてアルバムもCO-100K MIXとリボンマイクAT-4080/81 MIXの2タイプをだしてみようかなと色気を出したりしてます。(笑い)

32L新譜試聴

では残りの時間で、2Lレーベルの新作4アルバムから聴いてみることにします。
今回リリースされたのは、

Living
The Schubert Connection
Possible Cities/Essential Landscape
LA voie Triomphale

等です。録音の様子を図と写真で紹介します。

Livingは,ピアノソロの録音ですが,写真を見てください。ピアノの下に木片が並べてあるのがわかると思います。
「これで音をコントロールしてるの?」と聴いたところ「そうだ」とMortenがいうので、私がいつも録音で使っているAGSという吸音拡散体を紹介したところ大変興味をもっていました。
ヨーロッパでAGSが使われるといいですね。




The Schubert Connectionは弦楽4の演奏で曲によって2タイプのマイキングをしています。図を見てください。ひとつは、弦のレイアウトも左右が低弦配置でマイキングも、先ほどの村上さんのリアマイクと同じようにフロント方向を向いて設置しています。もうひとつは、弦は通常の並びで,マイキングも5CHがフロントとリア側に向いています。ではこの2つを再生してみます。




再生

次のPossible Cities/Essential Landscapeは、現代音楽で曲によって様々な楽器編成がありこれに応じて配置も変化しています。Mortenは、常に5chの音場を均等に使って表現するためのレイアウトをアーティスト一緒に事前に検討して配置を決めている点がすばらしいと思います。では聴いてみましょう



再生

LA voie Triomphaleは、ノルウエー軍楽隊のメンバーの演奏ですが,編成も大掛かりでサウンドも大変ゴージャスです。これも図でみられるような配置でそれぞれ最適なバランスになるように検討されています。では再生します。



再生

沢口:
2部と3部編まとめて質問などありましたら、どうぞ。

Q-01:
ピアノと弦楽4という録音は、みんなで同時演奏しても良かったのではないでしょうか?2日間に分けた理由は、なにですか?
A:
2CHステレオ制作でしたら、同時演奏でも良かったと思いますが、今回のサラウンド デザインのコンセプトがピアノの周りに実音で弦楽4を配置した表現を意図しましたので、同時演奏ですとどうしてもピアノのかぶりで音場が意図したような表現になりにくいので別々で録音しています。

Q-02 
弦楽4のストリングスの音色が通常の弦楽4より強い印象を持ちましたが、これは意図した音色なのですか?
A:
そうですね。いわゆるクラシック演奏での弦楽4という音色よりは、やや楽器を強調した音色にしています。
VER1MIXでは、もっと弦のONマイクを出したバランスでMIXしたのですがピアノの清水さんからもっと下げてくれとリクエストがでてこのバランスと音色になりました。(笑い)

Q-03 
HORUSIP伝送を使っているという説明でしたが、遅延はどれくらいですか?
A:
遅延は、大変少ないですね。データでみると今回の192KHZ録音で5サンプル(26μs, 96kHZ録音で7サンプル(73μs)です。

Q-04
 2LのデータシートでDXD録音という記述がありますがこれは何ですか?
A:
DXDフォーマットは、PCM録音方式で352.8KHZ-24bitサンプリングでDSD信号を扱えるという方式です。規格を提唱したのはSony.フィリップスで、これを現在実機で導入しているのがPyramixです。また独自に192-24の倍となる384KHZ-24bitという規格もあります。



沢口:サラウンド月間連動イベントの寺子屋塾いかがでしたでしょうか?

第1部の講師を務めていただきました村上さん大変ありがとうございました。

また今回、会場「m-Ex Lounge」を提供していただきましたシンタックスJapan村井さんはじめスタッフの方々にも感謝申し上げます。(了)

「サラウンド入門」は実践的な解説書です

No comments:

Post a Comment