抄訳:By Mick Sawaguchi 沢口真生
・映画音楽にどのように従事してこられましたか。
Malcolm Luker:私は1983年に「ムッソリーニ」と呼ばれるTVプロジェクトで知り合った、Georgio Moroderを通して映画に携わりました。「ムッソリーニ」では多くの優秀なアメリカのTVスタッフと知り合いました。私がDan Wallenという青年(彼はある意味、私の良き師でもあるのですが…)と一緒に映画の仕事をしていた時、映画音楽について衝撃的なひらめきが起こりました。ある日彼からオーケストラレコーディングのヘルプを要請され、手伝い、そのあと彼は、レコーディングに対する私の考えを質問攻めしてきました。彼からの質問でマイクはどのように働くのか考えさせられましたし、Dolby Stereo Boxで音声をデコードした時、意図した表現が劣化しないための攻略法を教えてくれました。私は彼の考え方を取り入れ、それを基礎にし、その後の私自身の方向性が決まりました。Danのような私を助けてくれる人がいて、私はとても幸運でした。というのは、たいていの人は、どうしてそのようなことが起こるのか教えてくれないからです。私はとても感謝しています。
・その時はステレオの仕事をされていましたか?それともサラウンドでしたか?
私はドイツでステレオのクラシックレコーディングの仕事を始めました。ドイツではPlacido Domingoの二組のアルバムを制作しました。実をいいますと、1988年にL.Aで開かれたオリンピックのアメリカ国歌は、私がLSOと一緒にレコーディングしました。
・サラウンドでのオーケストラレコーディングで、独自のアプローチがありましたらお聞かせください。
昔、私はX/YやM/Sそしてspot microphonesといったGeutsche Grammaphone(ドイツグラムフォンレコード)のアプローチを使っていました。しばらくして私はDecca Treeを見つけ、それを使って何ができるのか分かりました。しかし、それを吊るすことはやさしいことではありません。というのも、吊るす高さと同様に、マイクお互いの距離が鍵になり、それはそこの空間に大いに関係があるからです。
今、私はいつでもDecca Treeを使っています。extreme Lとextreme Rに私はAB方式を使い、それをサラウンド成分にももっていきます。また、サブウーファートラックにおくものは別個にレコーディングしています。それが全体の鍵になるからです。私はLchとRchからSWch成分を引き出すことはしませんので勝手に80Hz以下からSWch成分を引き出すことはありません。
別個にレコーディングしたものをサブウーファートラックにおいていますのでその結果は驚異的です。
・omniマイクを使いますか?それともcardiodマイクを使いますか?
私はその両方のコンビネーションで使います。しかし、それは完全にはominiではありません。数年前、私はDirk Braunerというマイクロフォン設計者に会い、彼は私にVM-1の初期バージョンを送ってくれました。私はそれを多くの仕事で使い、その感想を報告しました。6ヵ月後、私たちは何とかしてそのマイク5本を集めました。そのサウンドは本当に、本当に素晴らしいです。<Dirk Braunerマイクの美しいところは、マイクがひろった音の特性が正確なので、そのアプリケーションには何が適当かと考察できる点です。>
・何本のマイクを使いますか?
5本のBraunerマイク(2本はサラウンド用に吊るします)とsub用に1本のTLM170(subに適したところに置きます)を使います。そして私は正面に1本のマイクを使い、もう1本別に半分ほど下げた位置にviolinセクションのマイクを吊ります(このとき、高さと距離からくる位相差を正す必要があります。さもないと泥沼にはまります)。そしてviolaに1本のステレオマイクを使いますので、このtreeに関して位相問題は起こりません。木管には私は4本のMKH-80番台を使います。そしてhornにはSM-69ステレオマイクを使います。
マイクをセッティングすることはとても重要なことで、まるで私が数学者と建築家に同時になるようなものです。というのは、世界の70%はまだ4:2:4だからです(Left、Center、Right、そしてMono SurroundチャンネルからなるDolby Stereoは2チャンネルステレオにエンコードされ、そのあとLCRSの4トラックにデコードされます)。すべての国でディスクリート5.1になったら素敵ですが、残念なことにほとんどの国がまだそこまでいっていません。DVDは素晴らしいですが、アメリカ国外ではまだ新しいテクノロジーなのです。映画館に関する限り、音声は変化するという事実を知っていなければなりません。マイクを置いたときに、何が起きるのか私は正確に知っていますそれはDan Wallenから教わった哲学の一部なのです。
・mixするとき、ユニークな方法でリバーブをセッティングするとお伺いしていますが?
リバーブの使用については多くの事柄を含んでいます。もし5.1サラウンドをmixしていて、ステレオリバーブを使うことができたら、すべてがワンダフルになるでしょう。でも、たいていがそうはいきません。というのは、Dolby boxを使って仕事をするやいなや、あらゆる種類の音がサラウンドチャンネルにいってしまいますし、全体のサウンドは劣化してしまいます。私は(Lexicon)480を好んで使います。というのは、それが私にとって依然、ベストであるように思うからです。入出力を別々につなぐので、サラウンドにもっていきたいものに、独立したsendによって、別々のリバーブをつけることができるのです。私は480をmono splitsで使いますので、2入力4出力になります。たいてい、Send1は1台目の480のmachine1に送り、フロントの左手側に定位させます。センターには、Send2をmachine2に送り、その出力両方を中央におきます。そして、Send3は2台目の480のmachine1に送り、フロントの右手側に定位させます。Send4は2台目の480のmachine2に送り、これだけはstereoでサラウンドに定位させます。もちろん、2台の480を同じに設定します。これで位相ずれ・分離のない完璧なサラウンドリバーブの完成です。同じユニットならばそのような問題も起こりません。
・サンプラーをどのように扱っていますか?
最近の多くの若者は「19Percussion」(サンプラー)を使っています。しかし、不幸にもその音はサンプラーにしか聞こえません。[サンプラー]の音をより大きくさせるために私は、その音をスタジオに送り、Left、Center、Rightとマイクをセッティングします。ケースによっては、空間とサイズを出すために、2本のサラウンドマイクさえセッティングするのです。最近のスコアミクサーはフィフティフィフティでサンプラーを使っているようですが、平面的な音にどうしてもなってしまいます。実際に使ったサンプラーが少なければ少ないほど、空間的広がり感は増すでしょう。その結果、ダイアローグと効果音に対して音楽が聞こえてくるのです。実際、サンプラーはあなたのミクシングから深みを取り除いてしまい、結果あなたは効果音にたいして終わりのない戦いを始める羽目に陥るでしょう。広がり感があれば、音楽と効果音は一緒に、むしろよいものとして、生きてきます。
・何に録音していますか?
私はEuphonixのR-1を気に入っています。そしてマイクをClass Aのマイクアンプに直接つなげます。マイクアンプについていいますと、私はGraceに恋に落ちたくらい夢中です。いくつか理由があるのですが、BrunerのマイクとGraceのマイクアンプのコンビネーションがすばらしいからです。これらをふたつの映画で使いましたが、私はその結果にとても満足しています。
・レコーディングと映画、両方にたくさん関わって以来、そのふたつの違いは何だとおもわれますか?
それは全く違うアプローチですね。仕事に着ていく服から違うと私は思います。私はロックバンドのギタリストとして仕事をはじめたのですが、アンプのボリュームを最大にチューニングするのが好きです。長年、あらゆる種類のロックやジャズレコーディングをしてきており、私はそのすべてが好きです。特にそれが良くできたときはなおさらです。しかし、私はオーケストラのレコーディングの仕事も愛しています。というのは、80人の人が一斉に声を出した時、それはまるでボリュームを11の位置にチューニングした2つのMarshallの正面に立っているかのようです。私はそれを愛しているのです。それは情熱です。単なる仕事ではないのです。(了)
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「サラウンド入門」は実践的な解説書です
Mick Sawguchi & 塾生が作る サラウンドクリエータのための最新制作勉強会です
http://surroundterakoya.blogspot.com
July 10, 2001
April 1, 2001
アメリカHBO Stomp Out Surround !
By Ken Harn 抄訳:小出 大一
HBOがこの番組のMIXを誰にやらせるかを検討し私に声を掛けてくれたのは光栄です。今までわたしはHBOの放送で数々のショーをミックスした経験はありますがその多くはドキュメンタリー番組でした。それは、ある「生存者の思い出(One Survivor Remembers)」、「喫煙への警告(Smoke Alarm)」、子どものための禁煙番組、「ガース・ブルークス・ライブ・フロム・セントラルパーク(Garth Brooks's Live from Central Park)」、そしていつも人気のある「真実の性(Real Sex)」のシリーズのような番組です。しかし、今回のプロジェクトは今までのMIXとは異なっていました。それらは一般的なステレオMIXではなくサラウンド(テレビのサラウンドは、レフト、センター、ライトとモノのサラウンド成分で構成されるのですが)でミックスするからです。私は今回のようなショー形式の番組はサラウンドでミックスされるべきであることを顧客(クライアント)に説得しましたが、そうした結果はそれ以降の作品を容易にサラウンドMIXにすることの糸口となります。
私が担当した作品は、「ストンプ(Stomp)」と呼ばれる映画化されたステージパフォーマンスショーのRE-MIXでした。ストンプとは、ミュージカル、パフォーマンス、ダンスの複合として描写されその音楽は、ほうき、バケツ、バスケットボール、ナイフ、クズたる、トラック、手などの伝統的でない楽器で演奏されるリズムと音程で構成されます。演技者はぶつけたり、ドンドン叩いたり、こすってみたり、連打したり、コツコツと叩いたり、他にいろいろなことを言わば「演奏」するわけです。ショーの上演は本当に驚くべきものです。このパフォーマンスの創設者でありディレクターである Luke Cresswellによって率いられている役者たちが演技する複雑でシンコペーション風な音楽のリズムは眩惑的です。様々な場所(キッチンやひざまでつかる水の中、あるいは路上等)で演技する人たちとライブの観衆の前で演技するパフォーマンスをいくつか組み合わせて作品にする "Stomp Out Loud(声高々に足を踏み鳴らせ)"は、すべて一緒に編集され、HBOにてオンエアされます。
本稿では、わたしが去年の2日間にやり遂げたサラウンドミックス(素材のレコーディングは、フリーランスの録音エンジニアのLarry Loewingerが担当サウンドデザイナーMike Roberts担当)について紹介したいと思います。
技術面について
ショーはわたしが所有するマンハッタンにあるSync Sound Inc. のスタジオBでミックスされました。コントロール ルームには148インプットのAMS/Neve Logic2ディジタル・ミクシング・コンソールが設置されています。音素材はPCM-3348 ソニー・ディジタル・マルチトラック・レコーダーに録音され、マスターはソニー・ディジタル・ベータにレイバックされます。わたしは最後の修正になるとは机上においたディスクベースのDAW AMS/Neve AudioFileを用いました。モニターシステムは5.1サラウンドで、前方3つに813sをセットアップしています(センタースピーカーはビデオプロジェクションスクリーンの後ろに埋め込んで置いています)。サラウンドスピーカーとサブウーファーにはJBLを、KRKスピーカーとオーラトーンをそれぞれミッドサイズモニターとスモールのモニターに設置しています。LCRとモノSのサラウンドエンコードにはDolby SEU-4を通し、デコードにはSDU-4を通しています。(エンコーダ出力のLtとRtのマスターミックス音声はマスタービデオテープにレイバックされます。)特注のシンクロナイザー、エディタ、マシンコントローラーはすべての機器のシンクを保ちソニーのビデオプロジェクターで映像がモニターされます。
これらの構成機器はすべて部屋の中に常置してある機器でこれらはわたしやほかの人が日常用いてるモニターシステムです。私たちが信頼を持てるリスニング環境を持つことは、様々なフォーマット(5.1、サラウンド、ステレオ他)をミックスするとき是非ともやっておかなければならないポイントだとわたしは思います。ここでは5.1、サラウンド、ステレオ、モノの音を3つの独立したスピーカーシステムでモニターすることができます。またスタジオBでミックスされた音はそれ以外のスタジオ環境ではどのような音になるのかも把握しておかなくてはなりません。。これはテレビや映画のポストプロダクションでは特に重要です。他のスタジオで最終作業が行われる「マスターリング」のステップがない分だけ私たちは家庭でどう聞こえるかを直接判できる環境にいるといえます。
わたしたちは、5年前シンクサウンドにLogic 2を導入するにあたりコントロールルーム環境も総合的に見直ししました。それらは5.1のモニターリング環境、新しいビデオプロジェクション、そしてオールディジタルの信号経路(シグナルパス)です。(ディジタルフォーマットで可能な音声卓以外の機器のすべても含みます。D-Aコンバーターはモニターの出力信号で20bitその他はすべてディジタルです。)わたしがLogic 2を好きな理由の一つは、すべてのシグナルパスが同期していることです。これはドルビーサラウンドの処理のようなエンコード、デコードのモニター機構を使うとき重要な絶対時間や位相の正確さを保証します。
オリジナル・レコーディングは複数のTASCAM DA-88で行いMike RobertsとLuke Cresswellが最初の音編集とプリミックスを行いました。これらのテープは(最後の絵のカットに合わせて編集され)3348にコピーされこれが行われると、私たちはミックスを始める準備段階に入ります。
マルチ・ミクシング
ここで大げさにいうわけではありませんが、わたしは事前の計画と構成をすることなくこのような複雑な番組のミックスを始めることが可能であるとは思えません。私たちにはすべての音素材を知り、すべての適切な機器を使い、そして(あなたの聴衆のために)どのようなミックスが最も適切であるかを十分考えられるだけの知識が必要です。
"Stomp Out Loud"のミックスでわたしが目指したゴールのひとつは、映像の持つ遠近感をサウンドによって増大させることです。例えばニューヨーク街の路地の濡れた舗道でバスケットボールをバウンドさせている人々をカメラで撮影した"Stomp Out Loud"ショーの1セクションでわたしは意図的にステレオ音像を相当狭くしています。また頭の上を越えるショットでは(それは屋上で撮るわけですが、)それをとても大きいアンビエントサウンドにしました。そのアンビエントサウンドにはエコーやリヴァーヴレーション、そしてニューヨークシティ・アンビエンスを含んでいます。スクリーンのイメージに合うようLogic 2のステレオ・インプットのパラメータをコントロールしモノからステレオに、また極めて広いステレオ音像にすることもできます。(位相の関係や、バランス、パンニングと、MS方式もまた巧みに操ることができます。)映像がステージ上でコツコツ叩くほうきのクローズアップから10人のワイド ショットになったとき、モノからワイドへの音像コントロールはとりわけ有効です。ディレクターと映像編集者が編集した映像の様々なカットの積み上げに全体としてマッチするようなサウンドイメージを心がけました。(ステレオ音像の左側にある音は、別のショットに絵が変わった時でも、左側に置きました。)
わたしにとって、ミクシングとはつまりコントロールのことをいいます。わたしがマルチスピーカーのフォーマットでミックスするとき、コントロールに必要とされる要素とは音を増殖させることです。Logicコンソールでコントロールするとは時間軸に沿ってダイナミック オートメーションを使用することで、すべてのレベル、ゲインの変化、EQ、フィルタ、コンプレッサ、パンニングのすべてを私のイメージどおりに記憶 再現する事が出来ます。(ジョイスティックや他のチャンネルに対して諸々プログラムできる機能も含みます。)これは、ミクサー(つまりわたし)とわたしの顧客に、どれだけ多くのことをわたしが思い出すことができるかでなく、わたしたちがどれだけ好きな要素のすべてを引き出すことが出来るかを可能にしてくれます。
ステージの上の演技者の何人かによって演じられるトラックが運転されているシーンのMIXは、このようなタイプのオートメーションなしでは不可能だったでしょう。トラックが遠くからスクリーンのセンターに入ってきます。トラックが近づくに連れて、トラックは右に曲がり、そして次の瞬間右から左に走り、ステージと観衆の最も近くに止まります。わたしはペアのオートメーションのジョイスティックをアサインし、スクリーン上を動くトラックに合わせてパンニングしたプミックスを様々なトラックについて用意しました。2つの異なるリヴァーブ(TC5000のアンビエンスとウェットハウス)はカメラ(あるいは見ている人)に対し、トラックの遠近感を補強するように使いました。
ミキサーへのヒント
もしあなたが様々なタイプのサラウンドやマルチスピーカー配置のミクシングに興味があるのなら、あなたは1つのルールを知っているはずで(あるいは知るべきです)それは、いつ何時でもダイアログやヴォーカルは真ん中に定位させておくということです。
幸いにもこの番組ではそのルールを考慮する必要はありませんでした。(エレベーターの中のシークエンスは例外です。)本作品ではダイアログはありません!ミクサーの夢があります!今日多くの番組が、ステレオやサラウンドの音像を(コンサートのヴォーカルやベース、ドラムは真ん中に定位され、他の楽器は音場の中のふさわしいポジションにパンされて演奏されるようテープに録音されたバンドに対し)一定の静的な定位として扱うのに対し、今回わたしは可能な限り遠近やパンニングを、動かしたり変えてみたりすることができました。
わたしはまた演奏された楽器のいくつかの「サイズ」を巧みに表現しました。トラックの屋根を連打することによって作った原音は、わたしが思うほどリッチで深みのあるものではありませんでしたし演技する人がレザーのビーターで打つ大きなブルーの樽の音は、望んでいたより厚い音ではなかったので、私はサブハーモニック・シンセサイザーの波長をあわせ、それらしく聞こえるようにファット(fat) や ラウド(round) あるいはビッグ・オールド・ボトム (big old bottom) といったエッフェクトを加えました。わたしはまたダイナミックな起伏を持つショーを望んでいました。他の言い方をすれば、いくつかのシーンは神秘的で静かで、そして他は騒々しく迫力があって鋭いことが必要でした。一方にはTVのオンエアが持つダイナミックレンジの制限があります。この両方の妥協点としてわたしは技術的に可能な限り広いのダイナミックレンジを番組に持たせるよう努力しました。
こうした要素のすべては、わたしのスタジオ環境において確実に表現する事が出来ます。しかし、それらが出来上がった後に様々な再生環境でのバランスチェックをしておかなくてはなりません。例えば・・・ステレオではどう聞こえるのか?モノでは?低いレベルではどうなのか?他の部屋ではどう聞こえるのか?平均的な19インチのテレビではどうなのか?・・・わたしたちはSDU-4の「サラウンド/ステレオ/モノ」のモニターセレクターを使い、スタジオB内でスピーカーを切り替えることでこれらのすべての組み合わせを聴きましたし他のスタジオの設備でも聴きました。最後には、プロデューサーやディレクターやわたし自身が家庭のシステムで聴くためにVHSにコピーしたテープを作りました。これら視聴テストの結果、わたしはマニュアルで補正したゲインと TC Electronic のファイナライザーによって修正されたプログラムを組み合わせることで最終的なバランスを整えることにしました。
このショーのサラウンドMIXを担当できたことはまさに働くことの喜びでした。プロデューサーの David Marks とディレクターの Steve McNicholas そして Luke Creesswell はわたしにシーンの多様さへ様々なサウンドでアプローチできる自由を与えてくれました。わたしの感謝の気持ちを彼等に送り、このような革新的なテレビ番組を放送するHBOに感謝します。"Stomp Out Loud" は言わば音のショーと言えます。サラウンド音声は視聴者やリスナーを音場の中に浸す事が出来ます。そして人々がテレビをつけ、ヴォリュームを大きくしたとき、HBOで放送されるドルビーサラウンドのミックスがスタジオで聞いているのと同じくらいの楽しみを家庭で味わえることを期待しています。
Ken Hahn はニューヨーク Sync Soundの共同オーナーである。彼は4つのエミー賞と、13 ITS モニターアワーズ、サウンドミクシングでの突出した業績に対する 1996年 Cinema Audio Society (C.A.S.) アワードを獲得している。"Stomp Out Loud" は1998年のエミー賞におけるベストサウンドミクシングの決勝戦出場作品に相当する、1998年 C.A.S. でのベストサウンドミクシングの最終ノミネート作品である。(了)
「サラウンド制作情報」 Index
「サラウンド入門」は実践的な解説書です
HBOがこの番組のMIXを誰にやらせるかを検討し私に声を掛けてくれたのは光栄です。今までわたしはHBOの放送で数々のショーをミックスした経験はありますがその多くはドキュメンタリー番組でした。それは、ある「生存者の思い出(One Survivor Remembers)」、「喫煙への警告(Smoke Alarm)」、子どものための禁煙番組、「ガース・ブルークス・ライブ・フロム・セントラルパーク(Garth Brooks's Live from Central Park)」、そしていつも人気のある「真実の性(Real Sex)」のシリーズのような番組です。しかし、今回のプロジェクトは今までのMIXとは異なっていました。それらは一般的なステレオMIXではなくサラウンド(テレビのサラウンドは、レフト、センター、ライトとモノのサラウンド成分で構成されるのですが)でミックスするからです。私は今回のようなショー形式の番組はサラウンドでミックスされるべきであることを顧客(クライアント)に説得しましたが、そうした結果はそれ以降の作品を容易にサラウンドMIXにすることの糸口となります。
私が担当した作品は、「ストンプ(Stomp)」と呼ばれる映画化されたステージパフォーマンスショーのRE-MIXでした。ストンプとは、ミュージカル、パフォーマンス、ダンスの複合として描写されその音楽は、ほうき、バケツ、バスケットボール、ナイフ、クズたる、トラック、手などの伝統的でない楽器で演奏されるリズムと音程で構成されます。演技者はぶつけたり、ドンドン叩いたり、こすってみたり、連打したり、コツコツと叩いたり、他にいろいろなことを言わば「演奏」するわけです。ショーの上演は本当に驚くべきものです。このパフォーマンスの創設者でありディレクターである Luke Cresswellによって率いられている役者たちが演技する複雑でシンコペーション風な音楽のリズムは眩惑的です。様々な場所(キッチンやひざまでつかる水の中、あるいは路上等)で演技する人たちとライブの観衆の前で演技するパフォーマンスをいくつか組み合わせて作品にする "Stomp Out Loud(声高々に足を踏み鳴らせ)"は、すべて一緒に編集され、HBOにてオンエアされます。
本稿では、わたしが去年の2日間にやり遂げたサラウンドミックス(素材のレコーディングは、フリーランスの録音エンジニアのLarry Loewingerが担当サウンドデザイナーMike Roberts担当)について紹介したいと思います。
技術面について
ショーはわたしが所有するマンハッタンにあるSync Sound Inc. のスタジオBでミックスされました。コントロール ルームには148インプットのAMS/Neve Logic2ディジタル・ミクシング・コンソールが設置されています。音素材はPCM-3348 ソニー・ディジタル・マルチトラック・レコーダーに録音され、マスターはソニー・ディジタル・ベータにレイバックされます。わたしは最後の修正になるとは机上においたディスクベースのDAW AMS/Neve AudioFileを用いました。モニターシステムは5.1サラウンドで、前方3つに813sをセットアップしています(センタースピーカーはビデオプロジェクションスクリーンの後ろに埋め込んで置いています)。サラウンドスピーカーとサブウーファーにはJBLを、KRKスピーカーとオーラトーンをそれぞれミッドサイズモニターとスモールのモニターに設置しています。LCRとモノSのサラウンドエンコードにはDolby SEU-4を通し、デコードにはSDU-4を通しています。(エンコーダ出力のLtとRtのマスターミックス音声はマスタービデオテープにレイバックされます。)特注のシンクロナイザー、エディタ、マシンコントローラーはすべての機器のシンクを保ちソニーのビデオプロジェクターで映像がモニターされます。
これらの構成機器はすべて部屋の中に常置してある機器でこれらはわたしやほかの人が日常用いてるモニターシステムです。私たちが信頼を持てるリスニング環境を持つことは、様々なフォーマット(5.1、サラウンド、ステレオ他)をミックスするとき是非ともやっておかなければならないポイントだとわたしは思います。ここでは5.1、サラウンド、ステレオ、モノの音を3つの独立したスピーカーシステムでモニターすることができます。またスタジオBでミックスされた音はそれ以外のスタジオ環境ではどのような音になるのかも把握しておかなくてはなりません。。これはテレビや映画のポストプロダクションでは特に重要です。他のスタジオで最終作業が行われる「マスターリング」のステップがない分だけ私たちは家庭でどう聞こえるかを直接判できる環境にいるといえます。
わたしたちは、5年前シンクサウンドにLogic 2を導入するにあたりコントロールルーム環境も総合的に見直ししました。それらは5.1のモニターリング環境、新しいビデオプロジェクション、そしてオールディジタルの信号経路(シグナルパス)です。(ディジタルフォーマットで可能な音声卓以外の機器のすべても含みます。D-Aコンバーターはモニターの出力信号で20bitその他はすべてディジタルです。)わたしがLogic 2を好きな理由の一つは、すべてのシグナルパスが同期していることです。これはドルビーサラウンドの処理のようなエンコード、デコードのモニター機構を使うとき重要な絶対時間や位相の正確さを保証します。
オリジナル・レコーディングは複数のTASCAM DA-88で行いMike RobertsとLuke Cresswellが最初の音編集とプリミックスを行いました。これらのテープは(最後の絵のカットに合わせて編集され)3348にコピーされこれが行われると、私たちはミックスを始める準備段階に入ります。
マルチ・ミクシング
ここで大げさにいうわけではありませんが、わたしは事前の計画と構成をすることなくこのような複雑な番組のミックスを始めることが可能であるとは思えません。私たちにはすべての音素材を知り、すべての適切な機器を使い、そして(あなたの聴衆のために)どのようなミックスが最も適切であるかを十分考えられるだけの知識が必要です。
"Stomp Out Loud"のミックスでわたしが目指したゴールのひとつは、映像の持つ遠近感をサウンドによって増大させることです。例えばニューヨーク街の路地の濡れた舗道でバスケットボールをバウンドさせている人々をカメラで撮影した"Stomp Out Loud"ショーの1セクションでわたしは意図的にステレオ音像を相当狭くしています。また頭の上を越えるショットでは(それは屋上で撮るわけですが、)それをとても大きいアンビエントサウンドにしました。そのアンビエントサウンドにはエコーやリヴァーヴレーション、そしてニューヨークシティ・アンビエンスを含んでいます。スクリーンのイメージに合うようLogic 2のステレオ・インプットのパラメータをコントロールしモノからステレオに、また極めて広いステレオ音像にすることもできます。(位相の関係や、バランス、パンニングと、MS方式もまた巧みに操ることができます。)映像がステージ上でコツコツ叩くほうきのクローズアップから10人のワイド ショットになったとき、モノからワイドへの音像コントロールはとりわけ有効です。ディレクターと映像編集者が編集した映像の様々なカットの積み上げに全体としてマッチするようなサウンドイメージを心がけました。(ステレオ音像の左側にある音は、別のショットに絵が変わった時でも、左側に置きました。)
わたしにとって、ミクシングとはつまりコントロールのことをいいます。わたしがマルチスピーカーのフォーマットでミックスするとき、コントロールに必要とされる要素とは音を増殖させることです。Logicコンソールでコントロールするとは時間軸に沿ってダイナミック オートメーションを使用することで、すべてのレベル、ゲインの変化、EQ、フィルタ、コンプレッサ、パンニングのすべてを私のイメージどおりに記憶 再現する事が出来ます。(ジョイスティックや他のチャンネルに対して諸々プログラムできる機能も含みます。)これは、ミクサー(つまりわたし)とわたしの顧客に、どれだけ多くのことをわたしが思い出すことができるかでなく、わたしたちがどれだけ好きな要素のすべてを引き出すことが出来るかを可能にしてくれます。
ステージの上の演技者の何人かによって演じられるトラックが運転されているシーンのMIXは、このようなタイプのオートメーションなしでは不可能だったでしょう。トラックが遠くからスクリーンのセンターに入ってきます。トラックが近づくに連れて、トラックは右に曲がり、そして次の瞬間右から左に走り、ステージと観衆の最も近くに止まります。わたしはペアのオートメーションのジョイスティックをアサインし、スクリーン上を動くトラックに合わせてパンニングしたプミックスを様々なトラックについて用意しました。2つの異なるリヴァーブ(TC5000のアンビエンスとウェットハウス)はカメラ(あるいは見ている人)に対し、トラックの遠近感を補強するように使いました。
ミキサーへのヒント
もしあなたが様々なタイプのサラウンドやマルチスピーカー配置のミクシングに興味があるのなら、あなたは1つのルールを知っているはずで(あるいは知るべきです)それは、いつ何時でもダイアログやヴォーカルは真ん中に定位させておくということです。
幸いにもこの番組ではそのルールを考慮する必要はありませんでした。(エレベーターの中のシークエンスは例外です。)本作品ではダイアログはありません!ミクサーの夢があります!今日多くの番組が、ステレオやサラウンドの音像を(コンサートのヴォーカルやベース、ドラムは真ん中に定位され、他の楽器は音場の中のふさわしいポジションにパンされて演奏されるようテープに録音されたバンドに対し)一定の静的な定位として扱うのに対し、今回わたしは可能な限り遠近やパンニングを、動かしたり変えてみたりすることができました。
わたしはまた演奏された楽器のいくつかの「サイズ」を巧みに表現しました。トラックの屋根を連打することによって作った原音は、わたしが思うほどリッチで深みのあるものではありませんでしたし演技する人がレザーのビーターで打つ大きなブルーの樽の音は、望んでいたより厚い音ではなかったので、私はサブハーモニック・シンセサイザーの波長をあわせ、それらしく聞こえるようにファット(fat) や ラウド(round) あるいはビッグ・オールド・ボトム (big old bottom) といったエッフェクトを加えました。わたしはまたダイナミックな起伏を持つショーを望んでいました。他の言い方をすれば、いくつかのシーンは神秘的で静かで、そして他は騒々しく迫力があって鋭いことが必要でした。一方にはTVのオンエアが持つダイナミックレンジの制限があります。この両方の妥協点としてわたしは技術的に可能な限り広いのダイナミックレンジを番組に持たせるよう努力しました。
こうした要素のすべては、わたしのスタジオ環境において確実に表現する事が出来ます。しかし、それらが出来上がった後に様々な再生環境でのバランスチェックをしておかなくてはなりません。例えば・・・ステレオではどう聞こえるのか?モノでは?低いレベルではどうなのか?他の部屋ではどう聞こえるのか?平均的な19インチのテレビではどうなのか?・・・わたしたちはSDU-4の「サラウンド/ステレオ/モノ」のモニターセレクターを使い、スタジオB内でスピーカーを切り替えることでこれらのすべての組み合わせを聴きましたし他のスタジオの設備でも聴きました。最後には、プロデューサーやディレクターやわたし自身が家庭のシステムで聴くためにVHSにコピーしたテープを作りました。これら視聴テストの結果、わたしはマニュアルで補正したゲインと TC Electronic のファイナライザーによって修正されたプログラムを組み合わせることで最終的なバランスを整えることにしました。
このショーのサラウンドMIXを担当できたことはまさに働くことの喜びでした。プロデューサーの David Marks とディレクターの Steve McNicholas そして Luke Creesswell はわたしにシーンの多様さへ様々なサウンドでアプローチできる自由を与えてくれました。わたしの感謝の気持ちを彼等に送り、このような革新的なテレビ番組を放送するHBOに感謝します。"Stomp Out Loud" は言わば音のショーと言えます。サラウンド音声は視聴者やリスナーを音場の中に浸す事が出来ます。そして人々がテレビをつけ、ヴォリュームを大きくしたとき、HBOで放送されるドルビーサラウンドのミックスがスタジオで聞いているのと同じくらいの楽しみを家庭で味わえることを期待しています。
Ken Hahn はニューヨーク Sync Soundの共同オーナーである。彼は4つのエミー賞と、13 ITS モニターアワーズ、サウンドミクシングでの突出した業績に対する 1996年 Cinema Audio Society (C.A.S.) アワードを獲得している。"Stomp Out Loud" は1998年のエミー賞におけるベストサウンドミクシングの決勝戦出場作品に相当する、1998年 C.A.S. でのベストサウンドミクシングの最終ノミネート作品である。(了)
「サラウンド制作情報」 Index
「サラウンド入門」は実践的な解説書です
January 10, 2001
BBC プロムナードコンサートのサラウンド制作
LINE UP誌2001-01月号
By SIMON HANCOCK 抄訳:Mick Sawaguchi 沢口真生
[ はじめに ]
通称PROMSと呼ばれる夏の8週間コンサートは、1927年から開始され、今回で106回を迎えるに至った。当初は、QUEENS HALLで開催されていたが、第2次大戦の空襲で崩壊して以降1941年からここRAH(ROYAL ALBERT HALL)で開催されている。しかしこのホールの音響は悲惨で2重のエコーを発生する独特の音である。60年代にホール中央にマッシュルーム吸音体が取り付けられ、改善は見られたが・・・・
私はBBC-RADIO-3の音楽バランサーと言う立場で、このコンサートをリスナーがまるでそこにいるような、自然な音でミキシングすることを第一優先としギミックな定位などは考えずにホールのベスト席で聴いている感じを再現するように努めた。しかし、プログラムの多彩な内容や生放送そして音場の補正をする必要からいくらかの補助マイクとリバーブの付加はやむを得なかった。
マイキングはメインマイクと補助マイクの組み合わせでメインマイクは、かつての同軸ステレオから全指向ペアに変化している。これはステレオの正確な定位以上に自然な豊かさと空間の奥行きを感じる点で最近の傾向である。
サラウンド収録用マイキング
家庭におけるホームシネマの期待と増加に見られるように、今日サラウンド音声制作への新たな取り組みが放送、レコードを問わず行われつつある。
BBCもそうした流れに無縁でいられるわけではなく、我々の新たな取り組みが模索され始めた。プロムスコンサートはその内容、質およびアーティストの技量を含めサラウンド録音を試みるには最適のイベントである。ホールを埋めた聴衆の歓声やメインステージから離れた場所での演奏や合唱などサラウンド音場を実験するには最適の環境が整っているからである。
実験録音は、BBCのオーケストラ演奏を主体にマルチトラックで録音しポストプロダクションで様々な検証ができる手法とした。従来からステレオ収音用に行ってきた配置は、フルオーケストラから弦楽4重奏まで様々な編成を柔軟に対応できる配置である。サラウンド用は、この基本配置をもとに以下のマイキングを追加している。
* アリーナ席客席の頭上にかなり離して全指向性ペアを配置。
* メインステレオペア
今回は単一指向性ペアをORTF方式で配置。
* メインアレイ
3本の全指向マイクをツリーとして設置。
* カーテン部分
ステージ全面より少し前に5本の全指向性マイクを配置。
* 指揮者位置
指揮者の位置より、やや手前に近接収音用として同軸ペアを配置。
これはソロ演奏や小規模アンサンブルの収音が目的である。
* ステージ補助
オーケストラのストリングセクションをカバーする3本の単一指向性マイク。
* 木管・コーラスマイク
木管セクションの補助マイク。
* 合唱用補助マイク
* 補助マイク
使うか使わないかを別にしてバランス補正用の補助マイクを用意。
これ以外にサラウンド録音用として3本の全指向マイクを天井の吸音体下部に設置、さらにPAUL SEGARが考案したサラウンドマイクアレイを設置した。
このアレイは5本の全指向マイクをマウントしたマイクアレイである。
近年サラウンド録音用のメインマイクとして、どういった方式が最適なのか様々な議論が起きている。なかでも指向性についての議論は活発であるが、私は、全指向性でも単一指向性でも録音の条件によって、最適な組み合わせを採用すれば良いと考えている一人である。このアレイは5本のDPA-4060マイクが設置されそれぞれの距離や角度、間隔は、厳密な研究の成果を採用した寸法と成っている。隣接したマイク同志のカバーエリアは、ちょうど均一に収音できるよう設計されたアレイである。この5本のマイクはホール内の自然な音響再現を主目的として設計されており、特にホール側壁からの第1次初期反射音を有効に捉えることができる。このアレイを会期中様々な場所に設置して実験した。
サラウンドVsステレオ
サラウンドMIXでは天井に高く設置したマイク出力をサラウンド用にしたが、メインマイクに比べて僅かに生じている遅延が効果的であった。また4チャンネルタイプのリバーブも付加してみたがこれも効果があったと感じている。
センターチャンネルの扱いであるが、ツリーのセンターマイク出力をセンタースピーカへ送ったが、リスナーが中心軸にいなくても明確な定位が維持されるメリットがある。しかし、あまりレベルを大きくしすぎるとフロントの音場が狭くなるので適度なレベルが良い。LFEいついては、低音楽器の補強程度であれば効果的であるが、あまり使いすぎると音を濁してしまうので注意しなければならない。いくつかの課題も発見したがそのひとつは、サラウンド情報が加わることで音場の定位が安定しない点と、左右真横の定位は抜けるという点である。さらに心配のタネは、家庭でどういった環境でサラウンドが聴かれているのか?である。多分ITU-R推奨の配置で聞ける人は限られているのではないか?という懸念である。
サラウンドマイキングの比較
今回のプロムスコンサートの期間中我々は、3種類のサラウンドマイキングを同一の演奏で比較録音する機会に恵まれた。演奏はベルリオーズのレクエイムでこれはメインステージ以外に4カ所の異なった場所での合唱とブラスの演奏がある。
まずマルチマイクで収録した素材をサラウンドにMIXした音源を制作した。
これは音楽的に満足出来る内容でスポットマイクをパンニングで振り分けることで定位の再現も明瞭であったがリバーブがやや多すぎた感じがする。音質的には近接マイクを使わずOFFマイクを主体としリバーブを付加したので5.1CHマイクアレイの音に比べやや甘くなった。拍手に関しては、スイートスポットから後ろへ異動するにつれて位相の変化を感じたのが気になる点である。
この原因として考えられるのは、アリーナ席の収音マイクをフロントとリアの中間へ定位させたため頭部伝達関数の変化が生じたためではないかと思う。
全指向性5.1CHマイクアレイで録音した音は、まるでロイヤル アルバートホールにいるような臨場感を再現し素晴らしい空間を現出した。このサラウンドCHから得られる音は、すばらしくアレイのフロントとリア用の間隔が短いことが好結果を出していると思う。音楽的なバランスに関しては悪くはないが、全てに満足できるわけではなかった。特にオフステージに配置したブラスセクションが大きな音で演奏した場合は、バランスがくずれてしまう。また今回のセッティングでは、少し前に設置しすぎたので次回はもう少し後ろに設置すればバランスも向上すると考えている。フロントとリアのレベルバランスも微妙で最終的にはフロントにくらべリアを2dB落としたバランスが良い結果であった。拍手が予想に反してサラウンド感を出してくれなかったのは、今回のアレイの設置位置が前過ぎた結果であろう。しかし、マルチマイクのサラウンドMIXに見られたような位相の変化や不連続性は無く大変安定した音場がアレイ方式では得られた。
まとめ
マルチマイク収音方式と5CHアレイ方式のどちらも、実験としては有意義な結果を我々にもたらしてくれた。パンニングを多用するマルチマイク収音とワンポイント的なサラウンドアレイで捉えた、時間差によるサラウンド空間も、いずれも効果的である。我々の印象で言えばサラウンドアレイマイク方式は、マルチマイク方式以上にホールの音場が再現できる方式ではないかと感じている。それは、アレイの方がホール内の複雑な反射音響を正確に捉えているからであろうと考えられる。一方でアレイ方式の欠点は、どこに設置するかの選択に非常な注意と経験がいる点である。今後の課題は、アレイ方式にいかに融合してスポットマイクやマルチマイクを使えるか?にある。こうすれば生放送でダイレクトにサラウンドMIXを行わなければならない音楽バランサーにとって機動性を加えることが可能となる。こうした実験の積み重ねがさらに新しい発見とすばらしい可能性を見いだしていくことを願っている。(了)
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「サラウンド入門」は実践的な解説書です
By SIMON HANCOCK 抄訳:Mick Sawaguchi 沢口真生
[ はじめに ]
通称PROMSと呼ばれる夏の8週間コンサートは、1927年から開始され、今回で106回を迎えるに至った。当初は、QUEENS HALLで開催されていたが、第2次大戦の空襲で崩壊して以降1941年からここRAH(ROYAL ALBERT HALL)で開催されている。しかしこのホールの音響は悲惨で2重のエコーを発生する独特の音である。60年代にホール中央にマッシュルーム吸音体が取り付けられ、改善は見られたが・・・・
私はBBC-RADIO-3の音楽バランサーと言う立場で、このコンサートをリスナーがまるでそこにいるような、自然な音でミキシングすることを第一優先としギミックな定位などは考えずにホールのベスト席で聴いている感じを再現するように努めた。しかし、プログラムの多彩な内容や生放送そして音場の補正をする必要からいくらかの補助マイクとリバーブの付加はやむを得なかった。
マイキングはメインマイクと補助マイクの組み合わせでメインマイクは、かつての同軸ステレオから全指向ペアに変化している。これはステレオの正確な定位以上に自然な豊かさと空間の奥行きを感じる点で最近の傾向である。
サラウンド収録用マイキング
家庭におけるホームシネマの期待と増加に見られるように、今日サラウンド音声制作への新たな取り組みが放送、レコードを問わず行われつつある。
BBCもそうした流れに無縁でいられるわけではなく、我々の新たな取り組みが模索され始めた。プロムスコンサートはその内容、質およびアーティストの技量を含めサラウンド録音を試みるには最適のイベントである。ホールを埋めた聴衆の歓声やメインステージから離れた場所での演奏や合唱などサラウンド音場を実験するには最適の環境が整っているからである。
実験録音は、BBCのオーケストラ演奏を主体にマルチトラックで録音しポストプロダクションで様々な検証ができる手法とした。従来からステレオ収音用に行ってきた配置は、フルオーケストラから弦楽4重奏まで様々な編成を柔軟に対応できる配置である。サラウンド用は、この基本配置をもとに以下のマイキングを追加している。
* アリーナ席客席の頭上にかなり離して全指向性ペアを配置。
* メインステレオペア
今回は単一指向性ペアをORTF方式で配置。
* メインアレイ
3本の全指向マイクをツリーとして設置。
* カーテン部分
ステージ全面より少し前に5本の全指向性マイクを配置。
* 指揮者位置
指揮者の位置より、やや手前に近接収音用として同軸ペアを配置。
これはソロ演奏や小規模アンサンブルの収音が目的である。
* ステージ補助
オーケストラのストリングセクションをカバーする3本の単一指向性マイク。
* 木管・コーラスマイク
木管セクションの補助マイク。
* 合唱用補助マイク
* 補助マイク
使うか使わないかを別にしてバランス補正用の補助マイクを用意。
これ以外にサラウンド録音用として3本の全指向マイクを天井の吸音体下部に設置、さらにPAUL SEGARが考案したサラウンドマイクアレイを設置した。
このアレイは5本の全指向マイクをマウントしたマイクアレイである。
近年サラウンド録音用のメインマイクとして、どういった方式が最適なのか様々な議論が起きている。なかでも指向性についての議論は活発であるが、私は、全指向性でも単一指向性でも録音の条件によって、最適な組み合わせを採用すれば良いと考えている一人である。このアレイは5本のDPA-4060マイクが設置されそれぞれの距離や角度、間隔は、厳密な研究の成果を採用した寸法と成っている。隣接したマイク同志のカバーエリアは、ちょうど均一に収音できるよう設計されたアレイである。この5本のマイクはホール内の自然な音響再現を主目的として設計されており、特にホール側壁からの第1次初期反射音を有効に捉えることができる。このアレイを会期中様々な場所に設置して実験した。
サラウンドVsステレオ
サラウンドMIXでは天井に高く設置したマイク出力をサラウンド用にしたが、メインマイクに比べて僅かに生じている遅延が効果的であった。また4チャンネルタイプのリバーブも付加してみたがこれも効果があったと感じている。
センターチャンネルの扱いであるが、ツリーのセンターマイク出力をセンタースピーカへ送ったが、リスナーが中心軸にいなくても明確な定位が維持されるメリットがある。しかし、あまりレベルを大きくしすぎるとフロントの音場が狭くなるので適度なレベルが良い。LFEいついては、低音楽器の補強程度であれば効果的であるが、あまり使いすぎると音を濁してしまうので注意しなければならない。いくつかの課題も発見したがそのひとつは、サラウンド情報が加わることで音場の定位が安定しない点と、左右真横の定位は抜けるという点である。さらに心配のタネは、家庭でどういった環境でサラウンドが聴かれているのか?である。多分ITU-R推奨の配置で聞ける人は限られているのではないか?という懸念である。
サラウンドマイキングの比較
今回のプロムスコンサートの期間中我々は、3種類のサラウンドマイキングを同一の演奏で比較録音する機会に恵まれた。演奏はベルリオーズのレクエイムでこれはメインステージ以外に4カ所の異なった場所での合唱とブラスの演奏がある。
まずマルチマイクで収録した素材をサラウンドにMIXした音源を制作した。
これは音楽的に満足出来る内容でスポットマイクをパンニングで振り分けることで定位の再現も明瞭であったがリバーブがやや多すぎた感じがする。音質的には近接マイクを使わずOFFマイクを主体としリバーブを付加したので5.1CHマイクアレイの音に比べやや甘くなった。拍手に関しては、スイートスポットから後ろへ異動するにつれて位相の変化を感じたのが気になる点である。
この原因として考えられるのは、アリーナ席の収音マイクをフロントとリアの中間へ定位させたため頭部伝達関数の変化が生じたためではないかと思う。
全指向性5.1CHマイクアレイで録音した音は、まるでロイヤル アルバートホールにいるような臨場感を再現し素晴らしい空間を現出した。このサラウンドCHから得られる音は、すばらしくアレイのフロントとリア用の間隔が短いことが好結果を出していると思う。音楽的なバランスに関しては悪くはないが、全てに満足できるわけではなかった。特にオフステージに配置したブラスセクションが大きな音で演奏した場合は、バランスがくずれてしまう。また今回のセッティングでは、少し前に設置しすぎたので次回はもう少し後ろに設置すればバランスも向上すると考えている。フロントとリアのレベルバランスも微妙で最終的にはフロントにくらべリアを2dB落としたバランスが良い結果であった。拍手が予想に反してサラウンド感を出してくれなかったのは、今回のアレイの設置位置が前過ぎた結果であろう。しかし、マルチマイクのサラウンドMIXに見られたような位相の変化や不連続性は無く大変安定した音場がアレイ方式では得られた。
まとめ
マルチマイク収音方式と5CHアレイ方式のどちらも、実験としては有意義な結果を我々にもたらしてくれた。パンニングを多用するマルチマイク収音とワンポイント的なサラウンドアレイで捉えた、時間差によるサラウンド空間も、いずれも効果的である。我々の印象で言えばサラウンドアレイマイク方式は、マルチマイク方式以上にホールの音場が再現できる方式ではないかと感じている。それは、アレイの方がホール内の複雑な反射音響を正確に捉えているからであろうと考えられる。一方でアレイ方式の欠点は、どこに設置するかの選択に非常な注意と経験がいる点である。今後の課題は、アレイ方式にいかに融合してスポットマイクやマルチマイクを使えるか?にある。こうすれば生放送でダイレクトにサラウンドMIXを行わなければならない音楽バランサーにとって機動性を加えることが可能となる。こうした実験の積み重ねがさらに新しい発見とすばらしい可能性を見いだしていくことを願っている。(了)
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