By. Mick Sawaguchi
日時:2006年2月26日
場所:三鷹 沢口スタジオ
テーマ:新シルクロードのサラウンド制作
沢口:2006年最初のサラウンド寺子屋は、2005年ステレオ版と 2006年1月に5,1CHサラウンド版を放送しました「新シルクロード」日中共同制作のサラウンド制作についてNHK緒方さんと深田さんを講師にデモとお話が行われました。以下にレポートします。
緒方:緒方です。新シルクロードは、2004年から制作が開始され、50分版が毎月一回音声はステレオで放送。続いて90分版が今年の1月に10集を連続してサラウンドで放送されました。この企画は、あらたなシルクロードを探訪する内容で、長く後生のアーカイブにする目的もあり、映像はHD-CAM SRというより映像美を記録可能な方式で、音声は5.1CHサラウンドで制作されました。音響デザインとしては、中国の生活や人々の息づき、自然を臨場感豊かに表現したいと思いサラウンドロケを行っています。このシリーズのミキサーはメイン2人で全てを一貫して担当しました。音楽については、シルクロードで担当した喜多郎の音楽と並ぶ音楽制作を検討しヨーヨーマとシルクロードアンサンブルというまさにアジア各地のミュージシャンのコラボレーションで制作されました。音楽制作については、後ほど深田さんが解説してくれます。
サラウンド ロケーション用に使用した各種マイキング
では、はじめにサラウンドロケーションで今回、色々工夫した各種レコーディング マイク方式とその特徴について述べます。今回サラウンドの素材を全10集で使う目的でサラウンド録音に2回出かけています。純粋に音源録音を目的としていますので撮影クルーとは、別の単独行動と言う形です。
1 サラウンド ロケ 方式1 SANKEN CUW-180+CS-1 5CHワンポイント
この収録は、写真でおわかりのようにフロント・リア4CH+センター ガンマイクという3本のマイクをかご型風防にワンパックで納めた収録方法です。全てがワンパックで構成されているので、機動性もあり、チャンスを逃さず録音できます。大変音質と定位に優れていますのでおもに対象物が明確な音に対して使用しました。
デモ:馬車に乗ってのON 移動。バザールでのにぎわい。
2 サラウンド ロケ方式2 IRT-X 4CH 方式
これは、IRT-クロスという90度に設置したバーの先端にSCHOEPS CCM-4単一指向性マイクが4つ取り付けられたマイク方式です。この特徴は、均一な音場を収録出来る点にあり、その特徴をいかしておもにベースノイズの収録に使用しました。
デモ:沼地のトリベース。ポプラ並木を渡る風音。川のせせらぎ。
3 A-RAYマイクスタンド 方式
これは、AMBIENT社が開発した角度可変の5CHマイクバーでグラスファイバー製のスタンドに取り付けます。時間がありじっくりと目的に応じたマイクを選択しながら使用することが出来ます。軽量化のために穴があいてますが、ロケ地で風が強いとここが鳴いてしまいます。
デモ:魔鬼城での吹き渡る風。この風おとは、10集全編で低域のベースとして活躍しました。例えば、高層ホテルで収録した窓のすきま風と混ぜるなど大変効果的に使った素材です。
4 アンブレラ マイクによる5CH 収録
これは、開発が間に合ったので後半第8集から使用しています。写真でおわかりのように和傘の形状を模してこれをグラスファイバーで浅草の和傘屋に制作してもらいました。間隔は、80cmと広く、ここにSCHEOPS CCM-2無指向性小型マイクを5つ設置しています。この特徴は、スピーカの外側まで拡がる豊かな立体感にあると思います。
5 アンブレラ マイク簡易版 5CH 収録
これは、どこででも手に入る300円傘のフレーム先端にゼンハイザーMKE-2R を設置した方式です。手軽にパッと傘を開いて録音できる機動性が有効でした。
デモ:結婚式の音楽隊。
収録機材について
録音機器は、FOSTEX PD-6を使用しました。リチューム電池で2.5時間DVD-RAM両面でSF=48KHz/16bitで40分弱の5CH録音ができます。砂漠など開閉が出来ないシーンのために内蔵40G HDタイプも使用しました。これはHD-のデータを一度DVD-RAMに記録しないとデータを外部に取り出せないので時間が必要です。ロケが終わると記憶のあるうちにホテルでファイアーワイヤー接続したノートブックタイプDAW NUENDOにファイル転送します。その時にネームやコメントも加え、デジカメ撮影した現場の様子なども記録し、素材の整理が後で効率的に行えるようにしました。
PRE-MIXからPOST PRODUCTIONまで MIXのヒントなど
素材の整理は全てNUENDOで準備し、サラウンドのデザインを行いました。NHKの方式では、ナレーションがMIX直前となるため、サラウンド設計とナレーションとのぶつかり合いを修正することも必要でした。こうした番組の傾向として多くのナレーションが入ってきますので、サラウンド感をどこでしっかり出せるかに注意しました。時に音だけで聞いてもらうようなシーンを設定しましたが、単にベースノイズが拡がっているだけでは、視聴者を引きつけることが出来ませんので、なにか興味を引く音を提示していかなくてはなりません。LFEに送る素材は、極力メインチャンネルと少し違った素材としてLPFは最大でも120Hzまでとしています。
では、新シルクロードのなかから第1集・5集・9集を聞いてください。
沢口:デモ再生ありがとうございました。ではこのシリーズの音楽制作を担当した深田さんから音楽についてお願いします。
深田:音楽制作は、2004年秋にボストン タングルウッドでのリハーサル、続いてN.Yライトトラックス スタジオでの録音と約一月半で録音が終了し、その後ステレオMIXは、N.Y SONYが担当、番組用のサラウンドMIXは、NHKで私が担当しました。ヨーヨーマとシルクロードアンサンブルのメンバーはロシアからイランまで幅広いミュージシャンが様々な分野の音楽と楽器を持ち寄り、それぞれのアイディアをコラボレーションしながら曲を固めていきますので曲想を固めるまでに大変時間が必要でした。曲作りの核は、中国のジャウ ジーピン氏です。
喜多郎のシルクロード メインテーマの印象が大きいのでこれに匹敵するテーマの曲想を固めていく模索が続きました。これには、ロシアのバイオリニストが貢献してくれました。彼は出たアイディアをその場でアレンジしパソコンでDTM 作曲後みんなに聞かせるという早業を持っておりこれで、曲想を固めていきました。録音したスタジオは、映画のスコアリングステージ用で響きの豊かなスタジオです。今回は音量もことなる様々な楽器が集まっていますので、基本的にはマルチマイクで収録、アンビエンス用にペアで録音 メインフロント3本も用意しました。録音機器は、PYRAMIX DAW をメインに予備にプロツールズという構成です。PYRAMIXを使用したのは、音楽編集が容易な点とそれらの編集データがファイル形式としてメールでやりとりできる機動性です。
録音は40曲で計300GのHDで持ち帰りました。N.Yで編集したデータがメールで送られてくるとこれをPYRAMIX上で読み込ませるとオートコンファームでOKテークが出来上がります。これをMIX-DOWN用にPCM-3348にコピーしてMIX DOWNを実施しました。不定期にデータが送られてくるため固定スタジオとすることが出来ませんので、スタジオの空きを見つけてモニター環境毎移動しながらの日々でした。
完成音はステレオMIXをMP-3にファイル化しそれをN.Yに送りアーティスト承認を受けるという手順です。当初リクエストもありましたが、スコアリング音楽としてBGM時のバランスを優先した設計思想が理解されてからは、順調なOKが出るようになりました。音楽のバランスとしては、単体楽器の集合体ですが、あまり個々が全面にでることなくサラウンド音場を作るようにしました。ギミックなエフェクトや定位も行わず、LFEもほんの少しです。
デモ再生
参加者からの質問は、多岐におよびましたが、中でも収録マイク各種方式とそれらをITU-R配置でスピーカ再生した場合、それぞれが持つ特徴や音像の移動感などに定量的な究明が今後必要ではないのか?という感想です。ロケというタイトな業務の中でも各種マイキングを工夫し様々なサラウンド録音に挑戦しているアプローチは、参加者も大いに参考になったようです。AFTER-5は、ロケのスタッフ構成やカメラ同録とタイムコードの扱い、ポータブルDAW用パソコンや各種インターフェース、新たなサラウンド用マイクスタンドなどの話題で盛り上がりました。(了)
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