By. Mick Sawaguchi日時:2006年10月29日
場所:目黒 TACシステム4Fスタジオ
講師:染谷和孝
テーマ:ゲームのサラウンドデザイン
沢口:今月は15日と2回開催となりました。本日は、日本が誇るワールドワイドなソフトであるゲームのサラウンドデザインについて染谷さんを中心としてゲーム制作に携わっている方々を中心に集まって頂きました。20名を越える参加者のため目黒TACシステム山本さんのプロツールズ スタジオをお借りして持ち出しで行います。またサラウンド再生モニターシステムはオタリテック石井さんのご協力でGENELECの音場補正機能を装備した最新モデルを用意していただきました。それでは進行役を染谷さんにお願いして始めたいと思います。
染谷:みなさん、こんにちは。染谷です。7月にAES技術委員会のスティーブを迎えてゲームのサウンドデザイナーの方々に集まってもらって情報交換会を持ちました。以来多くの方に呼びかけてゲームオーディオを高めていこうという主旨で今回サラウンド寺子屋in ゲームというテーマにしました。20名予定のところに40名程集まって頂き有り難うございます。最初に私の方から10月5-8日にサンフランシスコで開催されたAESコンベンションでのトピックスとゲームオーディオ技術委員会の様子を報告します。AES のコンベンションでは、最新技術展示と平行して技術発表・ワークショップ・チュートリアルセッション・学生セッション・スペシャルイベントやテクニカルツアーなどが目白おしで同時進行しますので自分で毎日なにをどうするのが一番有効か組み立てていかなければなりません。私をはじめ日本から参加した方々の多くは、興味のあるワークショップを中心に空いた時間で機器展示会場を回るといったスケジュールで動きました。機器展示で私が興味を持ったいくつかを紹介します。
● ノイマン デジタルマイクのラインアップが充実
● コルグが発表した1ビットデジタルレコーダ 大変コンパクトでロケ用にいいと感じました。
● R.NEVEが今回新たに設計したディスクリート アナログコンソール これも興味あります。
またテクニカル ツアーでは、サンフランシスコゴールデンブリッジの近くに改装移転したILM/ルーカス アーツで行われたシネグリッドネットワークによる4k 映像と音声リアルタイム配信デモに参加しました。
今回AES技術委員会ゲームオーディオの会合にも初参加しました。ここではゲームオーディオのハード面とクリエイティブなソフト面で課題やガイドラインとなるべき技術情報の公開、次回のAESコンベンションでのワークショップテーマなどが討議されました。今回の技術委員会で私がアジア担当の副議長に選任されました。これでアメリカ・ヨーロッパ・そしてアジアの3極コンビが出来上がりましたので、今後一層みなさんとも協力してゲームオーディオを盛り上げていきたいと思います。是非みなさんもAESメンバーにも参加されて一緒に活動していきましょう。
では次に沢口さんからゲームでサラウンド デザインを行う上で参考になるデザインの考え方についてデモを交えながらお話して頂きます。
沢口:今日は、ゲームオーディオもサラウンド制作が増加してきつつあることを受けて、サラウンドでデザインする場合の基礎と注意点についてお話します。こうした勉強会をサラウンド寺子屋塾として毎月我が家のスタジオで開催しています。今回のように参加者が多い場合は持ち出し寺子屋として会場を提供して頂きながら開催してきました。
サラウンド基礎デザイン
サラウンドの音場を設計するときに、「あっ、この表現だったらこんなとこからいけばいいのかな」というような取っ掛かりがうまくつくれるんじゃないかと思いまして、6つの基礎デザインここでご紹介したいと思います。それぞれの名前は私が勝手につけたもので、別に統一した呼び方ではありません。
1つは一番スタンダードな“アンビエンス効果”というデザインです。2つ目は、“フライオーバー効果”という、縦に音が動くというパターンです。3つ目に、“水平面回転効果”という、回転効果があります。4つ目に、“先行・残像効果”と呼んでいますが、あるシーンよりも先行してリアから音が出る、あるいは逆に、そのシーンは終わったのに、前のシーンのキーになるような音が次のシーンまで残っている、という音場の設定の仕方があります。
5つ目に、音の降り注ぎ効果“サウンドシャワー効果”と呼んでいますが、あたかも天井の方から音が降り注いでくるようなデザインです。6つ目に、“音像強調効果”というのがあります。シンプルな音では迫力も出ない、大きさも出ないというときに、5.1チャンネルをうまく使うことによって、非常にボリュームのある、なおかつ迫力のある音場設計をすることができます。以上述べたような6つのサラウンドサウンドデザインの基礎が私はあるのではないかと思っています。ですから、これらをどういうふうにうまく組み合わせるか、さらにもっと違うデザイン表現のアプローチをして頂ければ、おもしろいサラウンドの世界ができるのではないかと思います。 では、それぞれにデモを交えながら聴いて頂きたいと思います。
●アンビエンス効果
アンビエンス効果というのは、フロントの音場の方に直接音等メインの音が出て、リアにその響きの成分があるデザインのことです。例えば音楽でいえば、オーケストラをホールで録音してサラウンドにしたというのがその例です。ドラマでいえば、例えばガレージの中、競技場、地下の駐車場、潜水艦の中、そういったところで、前面にメインの音があってリアにその空間の成分があるデザインです。これが一番自然で80%以上のデザインはこれが使われていると思います。基礎的なサラウンドのデザインではないかと思っています。それではこの例を聞いてください。
―デモ―
このようにアンビエンス効果といいますのは、何となく臨場感のある音場をつくるという、一番基礎的なサウンドデザインだと考えればいいと思います。これはドラマに限らずドキュメンタリー、スポーツ、音楽、何でも可能なデザインかと思います。今聴いて頂いたクリップでいえば、雨の音ですね、これで今進行している環境が提示できます。アンビエンス音は、理想で言えば最低4CHで最適なアンビエンスを収録した素材を使うのがベストですが、必ずしもそうした素材が無い場合は次に示すような3つの方法でステレオ素材からサラウンド空間をつくってください。
● 同一録音源の異なるタイミングを使用してFL-FR/SL-SRへ定位することで空間を疑似シミユレート
● 同一音源しかない場合、フロントにたいして30-60msec遅れた音源をサラウンドチャンネルへ定位させる。
● 同一音源をフロント、オリジナルに比べてピッチをほんの少し上下させた音源をサラウンドチャンネルへ定位。
こうすることで擬似的に水平面内のサラウンド空間をシミユレートすることが可能でサラウンドロケーション音源が無い場合にサラウンド素 材を制作しなくてはなら場合有効な方法です。
●フライオーバー効果
続きまして、フライオーバーというのはどんなものかというと、これは大変分かりやすいサラウンドの効果の1つです。音が飛び交うといわれますが、初めてサラウンドはどんなものかというのを聴く方には、このデモが一番手っ取り早いですね。縦、横、斜めというふうに音が飛び交うデザインがフライオーバーという効果です。では、これも同じようにデモをお聴きください。
―デモ―
これを多用した映画といえばチャン イーモ監督の「HERO」があります。一度じっくり聞いてみてください。
●水平面回転効果
次の水平面の回転効果とはどんな感じになるかというと、図のように、音場の中で音が浮遊をするといいますか、動いているという感じを出すというデザインです。これはあまりやり過ぎると、中で聴いている人が船酔い状態になりますので、効果的に使ってください。使う場面としては、心理描写とか、異常な世界にトリップするという入り口、竜巻のシーンですとか、大海での嵐の状況、等に使うと効果的です。
―デモ―
5.1でやる場合に、ジョイスティックで素材をぐるぐる回せば誰でも回るから楽でいいなんて思うんですが、多少気をつけてやって頂きたいのが、フロントとリアの間の側面の情報が結構抜けます。そこをちょっと工夫して、一定ではなくジョイスティックのパンをその辺で少し緩めにしてあげてまた戻すといったような、操作をした方がいいときもあります。また面の厚みを出すためにはレベルや音質を変化させたステムを重ねていくことで奥行きと厚みのある音のうねりを作り出すことができます。
●先行・残像効果
次は、先行あるいは残像効果です。これは、例えばフロントにメインのシーンがあるとしますと、次のシーンを予感させるような音がリアから出てくる、というのが先行効果です。もう1つはその逆で、フロントにメインのシーンがあるときに、その1つ前のシーンで存在した非常に印象的な音、それがその次のシーンにもこぼれてリアから出てくるというようなデザインです。ここでは戦争をイメージするようなシーンが最初に後ろの方から出てくるという、先行効果音というのが出てきます。残像効果のデモはDVDで再生しましたが、30年前の戦闘シーンでスタンレーという兵士が自決を止めるため叫んだ「NO」という声が30年後の現在の終戦記念レセプションに参加している同一人物のシーンへこぼれてくることで30年をつなぐといった例です。
―デモ―
こういった時間軸をシフトするデザインというのが、先行・残像効果の特徴かと思います。
●サウンドシャワー効果
それでは次のサウンドシャワーです。われわれが聴いているこの平面のちょっと上の方から、音が降り注ぐような感じにデザインしたものです。実際にはスピーカや上方チャンネルはないわけですが。例えば神の啓示のように、天井からイエス・キリストの声が聴こえるとか、潜水艦には伝声管というのがありますが、潜水艦の艦内で艦長が指示する声が聴こえるあるいは、空港で案内の声(ページング)が聞こえるというようなときに、あたかも何か上の方から聴こえる感じのデザインをすると効果的な場合に使用します。
―デモ―
●音像強調効果
では最後に、音像強調効果というサウンドデザインをご紹介します。これは例えば、アクション映画で拳銃を撃つときの“バーン”という音がありますが、この実際の音は“パン”という一瞬の音です。しかしドラマ的な心象で、その“バーン”という音から次のシーンの展開を予感する、とても大事な音として扱いたいといった場合やドアの開閉に迫力を加えたいといった場合に利用されます。オリジナルの音は、ハードセンターに置いておき、それを加工したものをL, Rに置いて、もう一段何か加工したものをリアに置いておくというような、重箱を重ねたような音のつくりをしますと、迫力のある音になります。これが音像の強調効果というデザインです。ではその例ということで、実際は人の声ですが神の声が大きな声となってリスナーを包むというシーンのデモを聴いて頂きたいと思います。これは完成版とばらばらのものとをお聴きください。
―デモ―
もともとが人の声だけですと、ハードセンターで非常にこじんまりとまとまってしまうんですが、この場合はL, Rに少しピッチを落としたりしたものを置いて、リアにさらにもう少しピッチを落としたものを置いて、LFEを加えますと、もともとの素材は非常に小さい音かもしれませんが、5.1チャンネルをうまく利用することによって、音像を大きくすることができます。
音楽のサラウンドデザイン
次に音楽のサラウンドデザインについてですが、ここでは3つの基本デザインについてご紹介しようと思います。
1つはアンビエンスと全く同じですが、ステージレイアウトというものです。普通のホールでオーケストラをサラウンドで録る場合をイメージして頂ければいいと思いますが、フロントにメインの音があって、リアにその空間の情報をとらえた音があるという、あたかもステージがそこにあるという感じを出すデザインです。2つ目に、独立チャンネルレイアウトというものがあります。これは、5.1チャンネルそれぞれに違った音源を配置することによって、ステレオで聴いているよりも新たな表現ができるデザインです。この場合でもあくまでも聴く方向はフロントというのが、先ほどのステージレイアウトと同じです。こういったサラウンド音楽は、クラシック音楽ではなくて、マルチトラックで録られたポップスやキーボードシンセ系でつくった音楽のサラウンドミックスによく使われている手法です。3つ目に、全方位レイアウトというのがあります。これは、どこを向いて聴いてもいいというものです。いってみれば、音楽の音の壁、サウンドウォールが360度にあるというような音楽のつくり方をしたレイアウトです。日本でいえば、富田勲先生が「私の場合はどこを向いて聞いてもらってもいいですよ。音の壁がさーっと全面を取り囲んでるっていうのがいいんです。」というようなつくり方をしておられますが、そういったものがこのタイプに入ると思います。フロントがどこでも構わないというのが、先ほどの独立チャンネルレイアウトといわれるものとの違いだと思います。
このように、ドラマ、ドキュメンタリー系でいえば、先ほどお話をした6つの基本のサウンドデザイン、音楽でいえばこの3つの基本のサウンドデザインを、入り口にして次に進んでいけばいいかと思います。別にこれ以外のサウンドデザインが絶対ないということを申し上げるつもりはありませんので、皆さんのアイデアと工夫で、どんどん新しいサウンドデザインというものを、サラウンドの中でまた追求して頂ければいいと思います。
ドラマを例にした構成要素
それでは、ドラマを例にして、どんなコンポーネントでそういったデザインがされているかというのをご紹介しておきます。ドラマというのはご承知のように、台詞があって音楽があって効果音があって、それで総合のサラウンドの音場をつくっているわけですが、そのそれぞれがどんな感じで音場を構成しているか図で示します。スピーカの配置でL, C, R, SL, SRとありますが、この中で台詞というのは、映画ですとハードセンターにほとんどの台詞があるわけですが、それだけではありません。例えば、ハードセンターに台詞があるときもありますし、ステレオを使った台詞というのもあります。特に群集シーンなどですと、フロントもリアも全体を使うというように、台詞の場合でいえばハードセンターの場合もありますし、L, C, Rを使うときもありますし、リアも使うときもあるというような構成になろうかと思います。
音楽は、最初にレコーディングをしてミックスダウンをした段階で5.1チャンネルだったら、5.1チャンネルのものが出来上がりますので、音楽としては5.1チャンネルで完成というのが普通のスコアリングミュージックといわれるものです。ドラマの中で、いわゆる劇中音楽として使われる、例えばラジオから流れているとかカーラジオから出ているとかラジカセから出ているとか、そういうものはほとんどハードセンターにもってきますが、それは劇伴とは違いますのでここでは省きます。
効果音は一番いろいろな自由度が高いといえます。フォーリーといわれる生音系の音は、大概ハードセンターに置いておきます。それから拡がり感のあるものについては、L, Rで組み合わせる場合と、L, Cで組み合わせる場合と、C, Rで組み合わせる場合と、3つの組み合わせがあります。それから、それを全部使うとL, C, Rの全部が組み合わされるというときと、リアのSLもしくはSRから単独で出す場合、またリア全体を使うというものもあります。効果音の場合には一番そういった自由度が高いデザインでしで、これらが全部構成されて初めてサラウンドという音場になるわけです。一見複雑なようですが、実はそれぞれの要素で区分けをしていけば、そんなに大変なことではないということがお分かり頂けると思います。
どう作るLFE
LFEをどう作るのか?についていくつか述べてみます。LFE 成分を作る素材としては以下のようなものがあげられます。
● ピンクノイズの低域成分
● マイクの吹かれ
● ボンベなどの噴出音
● 染谷式マイク圧迫法
● 市販LFE-素材CD
これらはメインのチャンネルで使用する素材とは異なった音源を組み合わせて使うことになります。また低周波成分を作り出すためには「サブハーモニックシンセサイザー」といったエフェクターも利用できます。
LFEとメインチャンネルの位相関係を正しく合わせるーフェーズコントロールの重要性について
先ほど述べたLFE素材はメインで使う素材とは異なった音源を加工合成して使う場合の例ですが、ここで述べるのは音楽などのベースやキックといったメインと同じ音源をLFEにも使う場合の注意点です。結論から言えば、この場合高域をカットするために使用するLPFの特性によって遅れがでますので、その結果メインのキック音とLFEに送ったキック音で遅延による位相キャンセルがおこり低域が濁ることになります。LFEを付加したのにどうもパンチがない・・・・といった場合の原因となるのがこの遅延です。
図に示したのは各種ディジタルLPFのカットオフ特性とカットオフ周波数の組み合わせでどれくらいの遅延が生じるかを示しています。最大で15msec もの遅延が生じることがお分かりになると思います。こうした位相管理をしっかり行いましょうというコンセプトがパオニアから提唱した「フェーズコントロール」というコンセプトです。
ゲームではポスプロで制作する場合がほとんどですのでLFEを作った場合必ずメインの音とずれが無いかを波形上で確認、またマスタリングの段階でもメインチャンネルとLFEチャンネルの位相関係が合っているかをチェックするようにしてください。こうして制作されたソフトには「フェーズコントロール」のロゴをつけることで品質をアピールすることも出来ます。
サラウンド デザインの基礎と注意点についてお話しました。私は、ゲームのサラウンド制作が今後充実していけばいままでの映画やドラマ音楽とは異なった新たな発想のデザインが可能だと思います。特にユーザーとのインタラクティブ性という特徴を活かせば新たな表現が開拓できると思いますので是非皆さんの様々な挑戦に期待します。ゲームソフトは、日本が世界で通用する重要なソフト産業ですので、個々人やメーカ単位で孤立せず、こうした勉強会や情報交換そしてAESなどへの参画を通じて全体的なレベルアップをどんどん行って欲しいと思います。海外のゲームデザイナーは日本の動向に大きな関心をよせていますのでそのお膝元の皆さんがそうした自覚で仕事に取り組めばさらに発展していくことと思います。
染谷:有り難うございました。そうなんですよ! 今回のAESのゲームTCでも海外の皆さんは日本の動向に大変関心と敬意を表していましたので みなさん大いに誇りを持って制作していきましょう。
Q&A
Q:デモした中で最長の制作期間は?
A:オリジナル ビデオとして制作ものでPRE-MIXで3ヶ月FINAL MIXで1ヶ月半かけました。最後は腰が痛くなるくらい椅子に座りっぱなしでしたけど。
Q:バイクのロケ収録システムは?振動・風防対策など
A:サンケンのステレオマイクとDATの組み合わせで録音しています。風防対策はW-ウインドジャマーでさらに運転席の後ろに乗って体で風邪をよけながら録音しましたので、大変疲れました。振動対策は私の背中にバックパックにして背負い人間ショックアブソーバ状態でした。
山道での走行シーンはこれでは、体が持たないと思いワイアレス2波でとばし併走車で録音しました。
Q:次世代ゲーム機と新たなサウンドデザインの方向性
A:だんだん本体の性能が向上してきましたので、音質面での改善ははるかにやりやすくなります。いままで低サンプリング低ビットだから仕方がないとあきらめていたことも可能となります。課題は長時間高品質ディスクが登場してくる場合の内容と制作マンパワーをどこでバランスさせるかではないかと思っています。ゲームの特徴は映画のように映像が固定されているわけではなくユーザーとのインタラクティブ性で映像が多様に変化する点にあります。こうした場合それぞれに応じてサウンドのデザインをどうやっていくのか、例えば映像が右端へ寄ってしまった場合に全ての音もよせるのか?といったデザインの考え方に方針をもってデザインやプログラミングしなければならない点が課題です。
Q:PCタイプと専用機の今後?
A:だんだん境目が無くなってきました。逆にどう差別化できるのかなどを検討する時期かもしれません。
Q:ゲームのサウンドデザイナーを啓蒙するような賞の設置について
A:ゲームのサウンドデザインは、いまや大きな産業となりつつあり、その制作期間も予算も膨大なビジネスとなっています。その割にはサウンド デザインに対する正当な評価を行う場が無いのが現状で、なんとかステータスの向上が図れるような賞などがあればいいと思います。
Q:国の振興策とゲームデザイナーのレベルアップ
A:アジア各国は、ゲーム制作を自国の大きな産業基盤にしようと国をあげて支援策や地盤強化に取り組んでいます。また海外研修制度などもありスキルアップが図られています。こうした面でもまだまだ努力しなければならない点は多く残されているのが現状です。
おわりに
残りの時間では各自が制作したサラウンド クリップを再生しながらその制作過程やステムの作り方、苦労した点などを情報交換する場となりました。ゲームのサウンドデザインを行っている多くの人々がお互いの考え方やデモを聞くことで今後ともデザイナーのネットワークを広げていける期待が感じられました。特にデザイナーの皆さんがFoley録音の重要性に気づかれ、様々工夫してFoley素材を録音しているという話は大変興味深いものでした。
内容によっては大規模な機材のレンタルやロケーションも実施しており、制作期間や制作規模も並みの邦画をかるく越えるくらいの充実度であったことも驚きでした。次世代ディスクの登場は、より品質と制作マンパワーをどうバランスさせるかも今後の大きなテーマだと思います。
今回も冨田勲さんからうまし「菊姫」をご提供いただき一同感謝!そして会場とAFTER-5の屋上パーティをご用意頂いたTAC システム山本さんとスタッフのみなさんに改めてお礼申し上げます。(了)
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「サラウンド入門」は実践的な解説書です
Mick Sawguchi & 塾生が作る サラウンドクリエータのための最新制作勉強会です
http://surroundterakoya.blogspot.com
October 26, 2006
October 15, 2006
第36回サラウンド塾 角田健一 Big Band Stage DVD-A制作について 内沼英二
By. Mick Sawaguchi
日時:2006年10月15日
場所:三鷹 沢口スタジオ
講師:内沼英二(ミキサーズラボ)
テーマ:Big Band Jazzのサラウンド制作
沢口:今月は29日と本日と2回講演になります。今日は日本J-POP音楽の大ベテランで現在ミキサーズ ラボ代表も務めています内沼英二さんを講師に今年の春制作したDVD-A サラウンド「Big Band Stage」角田健一Bandの制作とサラウンドへのアプローチについてお話していただきます。内沼さんは2005年12月の「音の日」10周年特別表彰で音の匠にも顕彰されました。
内沼:ミキサーズ ラボ内沼です。私は今月で62才を迎え、ミキサー人生は40年になります。テイチクから日本ビクターそして現在とJ-POPという売れる音楽を制作してきました。「いい音より売れる音」とも言われた時代です。最近こんなことを感じています。専門学校でクラスを持っているのですが3年前から生徒に我が家で音楽を何で聴いているか?アンケートしてきました。3年前は170名の生徒の中で50%弱がスピーカできいていました。それが2年前は20%になり今年は何と10%を切ってしまいました。将来音響で身を立てようと言う若者が空気を振動した音を聞いていないことに愕然としたわけです。彼らにラージスピーカで音を聞かせると「うるさい」「分からない」といったコメントが帰ってきます。こんなこともあり、またミキサーズ ラボを設立して29年という段階を迎え私は「いい音を提供する」という役目を担わなくてはならないのではないかと考え、今回の企画を考えました。
企画意図
40年のミキサー人生で私の音の原点は、Big Band Jazz にあります。38年前新宿厚生年金会館できいたカウント ベーシーの生音とBig Bandの感動は私のいい音という原点にあります。いつかそうしたサウンドを私自身で制作したいと思ってきました。それが今なのかなと思い制作に着手したわけです。Big Band Jazzとして選んだのは角田健一バンドです。みなさんもあまり馴染みがないかも知れませんが、私も数年前に聞く機会がありアンサンブルの良いすばらしいバンドだなあと記憶に残っていたバンドです。これを高品質、かつサラウンドで制作したいと思い角田さんへ打診しました。彼はサラウンドが何か当初知識がありませんでしたが、我々のスタジオでサラウンド ソフトを聞いてもらうと「内沼さんこれいいね。すごいよ!やろうよ」となって企画が進行したわけです。ただしBig Band Jazzはあくまでステージ音楽なので楽器を四方に分散させずにフロントに集中して録音して欲しいとリクエストがありました。私もその考えでしたので意見はぶれることなく進行することができました。
DVD-Aだけですと再生環境が限られるのでアメリカのW-パッケージ方式を取り入れDVD-AとCDの2枚組でDVD-AのビデオレイヤーにはDolby-DとDTSエンコードのサラウンドもいれてありますので合計4週類のサウンドを楽しむこともできます。一部問い合わせが来たのは初期のDVD-A再生機はDVD-A音声が入っているとビデオゾーンへ行けないという機種があり困りました。パイオニア製品は切り替え機能があるので問題ありませんでしたが(笑い)。
ではバンドリーダーの角田さんの経歴を紹介します。1951年生まれ。桐朋学園、バークリー音楽院卒業後、日本の名門ビッグバンドでTb奏者として活躍。1990年に自己のビッグバンド角田健一ビッグバンドを結成。毎年意欲的なコンサートを開催し 現在唯一レギュラーでBig Band活動を行っているバンドです。特に角田さんはサックスのアンサンブルに大変気合いが入っているバンドでもあります。
今回選曲はこの年代のかたなら誰もが懐かしいと感じる名曲スタンダードを取り入れました。一聴するとオリジナルの譜面をそのまま使っているように聞こえるかも知れませんが、角田さんの絶妙なアレンジが随所に施されています。ゲストプレーヤーには、マルタさんをお願いしソロでも3曲とほかでもアンサンブルで参加しています。
録音について
録音は、このクラスのメンバーが入りかつ音が飽和しないという点でビクター青山スタジオ301 としました。
基本的にサックス ブラスセクションはメインエリアで配置し、ピアノ・ベース・ドラムスを前方のブースへ、鉄弦のギターとソロAsaxは後方のブースへ配置しています。アンビエンスマイクは、フロント2本リア2本の4本です。Sax セクションを一番後ろにしたのは、従来配置ですとブラスの音がSaxセクションへ飛び込んでくることを避けこのバンドの特徴であるSaxのすばらしいアンサンブルを十分活かしたいと考えたからです。Saxブラス関係はノイマン系マイクを、ドラムのTopにはSONY C-37A を使っています。このマイクは私のお気に入りで大変素直で高域も十分伸びており後の加工が必要になった場合も音が汚れないという特徴があります。ソロのAsaxはノイマン系とSONY800Gをたてて聞き比べた結果800Gにしました。
マイクプリはほとんどOLD NEVE 1073を使用しています。決してレンジの広いマイクプリではありませんが、実に音楽としてまとまりが良いからです。この回路に使用している手巻きのトランスがその一因かもしれません。
各マイクプリOUTはプリズムA/Dコンバーターでデジタル信号になりプロツールズへ入力。そのOUTをSSLへ返してモニターしています。
192Vs96
これは私も色々実験した結果ですが、ハイビット ハイサンプリングになればなるほど原音に近い再現は出来るのですが、歪みが少なくなる分楽器の迫力も薄められていくので、その両者のバランスをとると96/24が良いところかなと考え今回も96/24で収録しています。
ミキサーズ ラボのコントロールルームのサラウンド化
ここは元々2チャンネル仕様で設計し、メインモニターはGENELEC 1035Aです。ここにサラウンド化を行うに当たり、様々検討した結果同一ユニットを使って小型版の1038AC/1037Bをセンターとサラウンドに設置しています。全て同じモデルでないとダメかなと心配しましたが音を出してみると大変自然なつながりで安心しました。多分メインのユニットが全て同一だったのが幸いしていたのかも知れません。MIX-DOWNはSSL6000の3系統のステレオ出力バスを利用して6チャンネルをアサインして使っています。ステレオMIXとサラウンドMIXは個別に行い通常のサラウンドからのDOWN MIXをステレオへ使うことはしませんでした。2 チャンネル ステレオではスタジオ録音風の迫力を重視し、サラウンドでは厚生年金会館で聞いているようなホールトーンを重視したかったからです。マスタリングも別々のエンジニアが担当していますので印象も異なっていると思います。定位は図に示したように極めてシンプルで見た目とおりです。
では、3曲程再生します。ついでに2チャンネルMIXも聞いてみましょう。
デモ
内沼流サラウンド アンビエンス制作方法
私たちは永年スタジオ録音という音場で録音をしてきました。2チャンネルステレオの場合は何の問題も無かったのですが、サラウンド録音をやるようになって困ったのは、スタジオはどんなにアンビエンス マイクをたてても十分なアンビエンスがとれないということです。サラウンド制作では音場をどう作るかがポイントになると考えましたので、さてスタジオ録音でどうするか?そこで考えたのは、和差動トランスというMS-LR変換で使用するトランスです。クラシックなどではこれで良い雰囲気のアンビエンスを取り出すことができたという経験があったのでアンビエンスステレオマイクをこのトランスを経由してL+RとL-R 成分を取り出しこれをサラウンドチャンネルへ定位させてみました。これにわずかのリバーブとディレイを加えると結構イメージしたアンビエンス空間ができあがりました。次のデモで聞いてみてください。これは冨田さん作曲のNHK大河ドラマ 天と地のテーマですがこのトラックの中のアンビエンスマイク成分をいま言った方法で作り出しています。
デモ
もうひとつは、UP-MIXという機能を持ったDSPプロセッサーの利用です。このデモは角松敏生のLIVEですが、LIVE音源のようにアンビエンス成分が多く含まれたステレオ音源ではこのUP-MIX という機能を使ってかなりの程度疑似サラウンド化ができるなあというのが素直な感想です。
冨田:私も使ってみたいね。なかなかおもしろいね。緻密なデザインには向かないかも知れないがこうしたLIVE 音源では有効だね(笑い)
もう一つは、スタジオ収録したアンビエンス成分を約64msec遅らせてレベルは6dBほど下げた成分をサラウンドに持っていく方法です。これは2年前のサラウンドチェック ディスクを作成するときに斉藤ネコさんと「どうせならなにか変わったことやろうよ」ということでスタートした録音曲シエラザードで取り入れた方法です。この時はオーケストラのパート毎にスタジオ録音しました。合計80トラックあまりをコンソールに立ち上げるともののみごとに全て全面に一直線に並んでしまいます。これを楽器パート毎で奥行きをだして立体的にするために、マルチ録音時にセットしたアンビエンス成分を先ほどの方法でサラウンド化しました。これもかなりいい方法だと思います。
デモ
以上でデモと話は一区切りとします。
沢口:どうも有り難うございました。感想や質問があればどうぞ。
冨田:イヤー角田さんのJAZZはすごいね。中学一年で終戦しそれから聞いたJAZZ は SPだったからね。こんなすごいサウンドと演奏を今聴けるのは感激だね。JAZZはSPという考えが変わったね。
Q-01:192のステレオ版はどの段階で作ったのか?
A:SSLでMIX し2チャンネルになった段階でSTUDERのハーフインチアナログへ録音しこれを192 でデジタル化しています。
Q-02:リアのアンビエンスはどれくらい使いましたか?
A:収録したレベルはほぼそにまま使いました。フロントのアンビエンスに比べれば6 dBほど少ない感じです。
Q-03:リアへ楽器はこぼしていないのですか?
A:大胆な配置していませんがリズム系はやや後ろまでこぼしていますので聞く位置では後ろに定位したように聞こえるかもしれません。
Q-04:ステレオMIX とサラウンドMIXはどちらを先に行いましたか?
A:ステレオMIX を先に行い、基本設計を構築したうえで、サラウンドMIX しています。
Q-05:LFEのレベルはどれくらいにしましたか?
A:私は大きめに作る傾向にあるのですが、マスタリングの段階で大きすぎると抑えられました。(笑い)
Q-06:CD-4を制作していた時代と何か変化がありますか?
A:あの時の経験は今でも十分活用できます。音楽の場合あまり四方に配置するとどこをむいて聞いて良いのか分からなくなる場合があるので、私はあくまでフロントメインという定位を心がけています。
冨田:確かに存在感のある生楽器の場合は、そうかもしれないけど、私のようにゼロから作った存在感のない音源で曲を構成する場合はどこに配置しても自由度がありますね。トレバー ホーンの制作したアート オブ ノイズなどもその良い例だと思います。
Q-07:LFE スピーカの設置位置と音質の関係は?
A:これはなかなか一定の基準がないのと家庭でどれくらいのレベルで聞いているか分からないので今のところ決め手がありません。
冨田:LFEは定位を感じないのでどこにおいてもいいと言われるが、私は長くきいているとどうしても定位を感じてしまいます。ですからLFEは横とかに置かないでヤジロベエのバランスのようにやはりフロントの中間がいいと思いますけど。他の人はどうですか?
石井:GENELECで以前エンジニアにLFEの定位を検知できるかというアンケートをやりました。結果は20%が感じる、残り80%は感じないという結果でした。
沢口:横に置く場合は、シングルではなくペアで置くことで部屋全体の低域分布を均一化しようという目的ですね。また最近はフロント置きにしてもペアで配置して均一化させようという傾向にあります。
好美:LFEで定位を感じる一つの要素は、LFEが十分なパワーハンドリングを持たずに結果歪みを生じてこれが高い周波数で発生し、定位を感じると言った場合もあります。
SEIGEN:僕はLFEのスピードがメインに比べて遅いのでLFEBOXにキャスターを付けて最適場所をいつもさがしています。タイミングが合っていない気がするので。
沢口:細井さんが研究しているメインとLFEのタイミングを制作段階から合わしましょうという「フェーズコントロール」の考えをさらに普及させないと解決しませんね。メインとタイミングが合うと低域は実にシャープで豊かになります!
その後議論は様々展開し、広帯域と迫力の関係、生演奏と優れた録音再現の相違、同一音源の2チャンネルとサラウンドの印象、LFEチャンネルは定位が分かるか?などなどその続きはWINE PARTYにまで持ち込まれました。(了)
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「サラウンド入門」は実践的な解説書です
日時:2006年10月15日
場所:三鷹 沢口スタジオ
講師:内沼英二(ミキサーズラボ)
テーマ:Big Band Jazzのサラウンド制作
沢口:今月は29日と本日と2回講演になります。今日は日本J-POP音楽の大ベテランで現在ミキサーズ ラボ代表も務めています内沼英二さんを講師に今年の春制作したDVD-A サラウンド「Big Band Stage」角田健一Bandの制作とサラウンドへのアプローチについてお話していただきます。内沼さんは2005年12月の「音の日」10周年特別表彰で音の匠にも顕彰されました。
内沼:ミキサーズ ラボ内沼です。私は今月で62才を迎え、ミキサー人生は40年になります。テイチクから日本ビクターそして現在とJ-POPという売れる音楽を制作してきました。「いい音より売れる音」とも言われた時代です。最近こんなことを感じています。専門学校でクラスを持っているのですが3年前から生徒に我が家で音楽を何で聴いているか?アンケートしてきました。3年前は170名の生徒の中で50%弱がスピーカできいていました。それが2年前は20%になり今年は何と10%を切ってしまいました。将来音響で身を立てようと言う若者が空気を振動した音を聞いていないことに愕然としたわけです。彼らにラージスピーカで音を聞かせると「うるさい」「分からない」といったコメントが帰ってきます。こんなこともあり、またミキサーズ ラボを設立して29年という段階を迎え私は「いい音を提供する」という役目を担わなくてはならないのではないかと考え、今回の企画を考えました。
企画意図
40年のミキサー人生で私の音の原点は、Big Band Jazz にあります。38年前新宿厚生年金会館できいたカウント ベーシーの生音とBig Bandの感動は私のいい音という原点にあります。いつかそうしたサウンドを私自身で制作したいと思ってきました。それが今なのかなと思い制作に着手したわけです。Big Band Jazzとして選んだのは角田健一バンドです。みなさんもあまり馴染みがないかも知れませんが、私も数年前に聞く機会がありアンサンブルの良いすばらしいバンドだなあと記憶に残っていたバンドです。これを高品質、かつサラウンドで制作したいと思い角田さんへ打診しました。彼はサラウンドが何か当初知識がありませんでしたが、我々のスタジオでサラウンド ソフトを聞いてもらうと「内沼さんこれいいね。すごいよ!やろうよ」となって企画が進行したわけです。ただしBig Band Jazzはあくまでステージ音楽なので楽器を四方に分散させずにフロントに集中して録音して欲しいとリクエストがありました。私もその考えでしたので意見はぶれることなく進行することができました。
DVD-Aだけですと再生環境が限られるのでアメリカのW-パッケージ方式を取り入れDVD-AとCDの2枚組でDVD-AのビデオレイヤーにはDolby-DとDTSエンコードのサラウンドもいれてありますので合計4週類のサウンドを楽しむこともできます。一部問い合わせが来たのは初期のDVD-A再生機はDVD-A音声が入っているとビデオゾーンへ行けないという機種があり困りました。パイオニア製品は切り替え機能があるので問題ありませんでしたが(笑い)。
ではバンドリーダーの角田さんの経歴を紹介します。1951年生まれ。桐朋学園、バークリー音楽院卒業後、日本の名門ビッグバンドでTb奏者として活躍。1990年に自己のビッグバンド角田健一ビッグバンドを結成。毎年意欲的なコンサートを開催し 現在唯一レギュラーでBig Band活動を行っているバンドです。特に角田さんはサックスのアンサンブルに大変気合いが入っているバンドでもあります。
今回選曲はこの年代のかたなら誰もが懐かしいと感じる名曲スタンダードを取り入れました。一聴するとオリジナルの譜面をそのまま使っているように聞こえるかも知れませんが、角田さんの絶妙なアレンジが随所に施されています。ゲストプレーヤーには、マルタさんをお願いしソロでも3曲とほかでもアンサンブルで参加しています。
録音について
録音は、このクラスのメンバーが入りかつ音が飽和しないという点でビクター青山スタジオ301 としました。
基本的にサックス ブラスセクションはメインエリアで配置し、ピアノ・ベース・ドラムスを前方のブースへ、鉄弦のギターとソロAsaxは後方のブースへ配置しています。アンビエンスマイクは、フロント2本リア2本の4本です。Sax セクションを一番後ろにしたのは、従来配置ですとブラスの音がSaxセクションへ飛び込んでくることを避けこのバンドの特徴であるSaxのすばらしいアンサンブルを十分活かしたいと考えたからです。Saxブラス関係はノイマン系マイクを、ドラムのTopにはSONY C-37A を使っています。このマイクは私のお気に入りで大変素直で高域も十分伸びており後の加工が必要になった場合も音が汚れないという特徴があります。ソロのAsaxはノイマン系とSONY800Gをたてて聞き比べた結果800Gにしました。
マイクプリはほとんどOLD NEVE 1073を使用しています。決してレンジの広いマイクプリではありませんが、実に音楽としてまとまりが良いからです。この回路に使用している手巻きのトランスがその一因かもしれません。
各マイクプリOUTはプリズムA/Dコンバーターでデジタル信号になりプロツールズへ入力。そのOUTをSSLへ返してモニターしています。
192Vs96
これは私も色々実験した結果ですが、ハイビット ハイサンプリングになればなるほど原音に近い再現は出来るのですが、歪みが少なくなる分楽器の迫力も薄められていくので、その両者のバランスをとると96/24が良いところかなと考え今回も96/24で収録しています。
ミキサーズ ラボのコントロールルームのサラウンド化
ここは元々2チャンネル仕様で設計し、メインモニターはGENELEC 1035Aです。ここにサラウンド化を行うに当たり、様々検討した結果同一ユニットを使って小型版の1038AC/1037Bをセンターとサラウンドに設置しています。全て同じモデルでないとダメかなと心配しましたが音を出してみると大変自然なつながりで安心しました。多分メインのユニットが全て同一だったのが幸いしていたのかも知れません。MIX-DOWNはSSL6000の3系統のステレオ出力バスを利用して6チャンネルをアサインして使っています。ステレオMIXとサラウンドMIXは個別に行い通常のサラウンドからのDOWN MIXをステレオへ使うことはしませんでした。2 チャンネル ステレオではスタジオ録音風の迫力を重視し、サラウンドでは厚生年金会館で聞いているようなホールトーンを重視したかったからです。マスタリングも別々のエンジニアが担当していますので印象も異なっていると思います。定位は図に示したように極めてシンプルで見た目とおりです。
では、3曲程再生します。ついでに2チャンネルMIXも聞いてみましょう。
デモ
内沼流サラウンド アンビエンス制作方法
私たちは永年スタジオ録音という音場で録音をしてきました。2チャンネルステレオの場合は何の問題も無かったのですが、サラウンド録音をやるようになって困ったのは、スタジオはどんなにアンビエンス マイクをたてても十分なアンビエンスがとれないということです。サラウンド制作では音場をどう作るかがポイントになると考えましたので、さてスタジオ録音でどうするか?そこで考えたのは、和差動トランスというMS-LR変換で使用するトランスです。クラシックなどではこれで良い雰囲気のアンビエンスを取り出すことができたという経験があったのでアンビエンスステレオマイクをこのトランスを経由してL+RとL-R 成分を取り出しこれをサラウンドチャンネルへ定位させてみました。これにわずかのリバーブとディレイを加えると結構イメージしたアンビエンス空間ができあがりました。次のデモで聞いてみてください。これは冨田さん作曲のNHK大河ドラマ 天と地のテーマですがこのトラックの中のアンビエンスマイク成分をいま言った方法で作り出しています。
デモ
もうひとつは、UP-MIXという機能を持ったDSPプロセッサーの利用です。このデモは角松敏生のLIVEですが、LIVE音源のようにアンビエンス成分が多く含まれたステレオ音源ではこのUP-MIX という機能を使ってかなりの程度疑似サラウンド化ができるなあというのが素直な感想です。
冨田:私も使ってみたいね。なかなかおもしろいね。緻密なデザインには向かないかも知れないがこうしたLIVE 音源では有効だね(笑い)
もう一つは、スタジオ収録したアンビエンス成分を約64msec遅らせてレベルは6dBほど下げた成分をサラウンドに持っていく方法です。これは2年前のサラウンドチェック ディスクを作成するときに斉藤ネコさんと「どうせならなにか変わったことやろうよ」ということでスタートした録音曲シエラザードで取り入れた方法です。この時はオーケストラのパート毎にスタジオ録音しました。合計80トラックあまりをコンソールに立ち上げるともののみごとに全て全面に一直線に並んでしまいます。これを楽器パート毎で奥行きをだして立体的にするために、マルチ録音時にセットしたアンビエンス成分を先ほどの方法でサラウンド化しました。これもかなりいい方法だと思います。
デモ
以上でデモと話は一区切りとします。
沢口:どうも有り難うございました。感想や質問があればどうぞ。
冨田:イヤー角田さんのJAZZはすごいね。中学一年で終戦しそれから聞いたJAZZ は SPだったからね。こんなすごいサウンドと演奏を今聴けるのは感激だね。JAZZはSPという考えが変わったね。
Q-01:192のステレオ版はどの段階で作ったのか?
A:SSLでMIX し2チャンネルになった段階でSTUDERのハーフインチアナログへ録音しこれを192 でデジタル化しています。
Q-02:リアのアンビエンスはどれくらい使いましたか?
A:収録したレベルはほぼそにまま使いました。フロントのアンビエンスに比べれば6 dBほど少ない感じです。
Q-03:リアへ楽器はこぼしていないのですか?
A:大胆な配置していませんがリズム系はやや後ろまでこぼしていますので聞く位置では後ろに定位したように聞こえるかもしれません。
Q-04:ステレオMIX とサラウンドMIXはどちらを先に行いましたか?
A:ステレオMIX を先に行い、基本設計を構築したうえで、サラウンドMIX しています。
Q-05:LFEのレベルはどれくらいにしましたか?
A:私は大きめに作る傾向にあるのですが、マスタリングの段階で大きすぎると抑えられました。(笑い)
Q-06:CD-4を制作していた時代と何か変化がありますか?
A:あの時の経験は今でも十分活用できます。音楽の場合あまり四方に配置するとどこをむいて聞いて良いのか分からなくなる場合があるので、私はあくまでフロントメインという定位を心がけています。
冨田:確かに存在感のある生楽器の場合は、そうかもしれないけど、私のようにゼロから作った存在感のない音源で曲を構成する場合はどこに配置しても自由度がありますね。トレバー ホーンの制作したアート オブ ノイズなどもその良い例だと思います。
Q-07:LFE スピーカの設置位置と音質の関係は?
A:これはなかなか一定の基準がないのと家庭でどれくらいのレベルで聞いているか分からないので今のところ決め手がありません。
冨田:LFEは定位を感じないのでどこにおいてもいいと言われるが、私は長くきいているとどうしても定位を感じてしまいます。ですからLFEは横とかに置かないでヤジロベエのバランスのようにやはりフロントの中間がいいと思いますけど。他の人はどうですか?
石井:GENELECで以前エンジニアにLFEの定位を検知できるかというアンケートをやりました。結果は20%が感じる、残り80%は感じないという結果でした。
沢口:横に置く場合は、シングルではなくペアで置くことで部屋全体の低域分布を均一化しようという目的ですね。また最近はフロント置きにしてもペアで配置して均一化させようという傾向にあります。
好美:LFEで定位を感じる一つの要素は、LFEが十分なパワーハンドリングを持たずに結果歪みを生じてこれが高い周波数で発生し、定位を感じると言った場合もあります。
SEIGEN:僕はLFEのスピードがメインに比べて遅いのでLFEBOXにキャスターを付けて最適場所をいつもさがしています。タイミングが合っていない気がするので。
沢口:細井さんが研究しているメインとLFEのタイミングを制作段階から合わしましょうという「フェーズコントロール」の考えをさらに普及させないと解決しませんね。メインとタイミングが合うと低域は実にシャープで豊かになります!
その後議論は様々展開し、広帯域と迫力の関係、生演奏と優れた録音再現の相違、同一音源の2チャンネルとサラウンドの印象、LFEチャンネルは定位が分かるか?などなどその続きはWINE PARTYにまで持ち込まれました。(了)
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「サラウンド入門」は実践的な解説書です
October 10, 2006
第10回サラウンドへの道 サラウンド寺子屋と次世代へ Road to Surroundの35年を振り返って
By Mick Sawaguchi 沢口真生
" 2003年にようやく機材も一段落し、環境が整ったのでいよいよ「サラウンド寺子屋塾」をスタートすることにしました。とはいえ、周知方法もPR活動もありませんでしたのでまさに実践あるのみ。スタートにあたって考えたのは、
・地道に継続していくことで、そのうち口コミで何人かは知ってくれるだろう...ということだけでした。
・講師は、これまで知り合ったサラウンド仲間にお願いする。
・地道に誠実に、そして参加者が具体的に勉強になった!と、感じてもらえる内容を積み上げていくこと。
・大げさな組織や会といった制度にはしないで、あくまで勉強したい人が自らの意思で参加し、興味がな くなったり、十分勉強したと思えば自然に去っていく出入り自由な形にしました。 " 「放送技術」より
「サラウンドへの道」 Index
「サラウンド入門」は実践的な解説書です
" 2003年にようやく機材も一段落し、環境が整ったのでいよいよ「サラウンド寺子屋塾」をスタートすることにしました。とはいえ、周知方法もPR活動もありませんでしたのでまさに実践あるのみ。スタートにあたって考えたのは、
・地道に継続していくことで、そのうち口コミで何人かは知ってくれるだろう...ということだけでした。
・講師は、これまで知り合ったサラウンド仲間にお願いする。
・地道に誠実に、そして参加者が具体的に勉強になった!と、感じてもらえる内容を積み上げていくこと。
・大げさな組織や会といった制度にはしないで、あくまで勉強したい人が自らの意思で参加し、興味がな くなったり、十分勉強したと思えば自然に去っていく出入り自由な形にしました。 " 「放送技術」より
「サラウンドへの道」 Index
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