By. Mick Sawaguchi
日時:2007年6月24日
場所:三鷹 沢口スタジオ
講師:宮澤裕行(JJazz.Net)
テーマ:品質配信ビジネスとサラウンド JJazz.Netの取り組みから
沢口:今月はインターネットの世界で高品質配信とサラウンドでのLIVE 収録制作を行っているJJazz.Netの宮澤さんを講師に、放送やパッケージとは異なったインターネット配信というビジネスとサラウンドの展開についてデモとお話をお願いしました。宮澤さんよろしく。
宮澤:JJazz.Netの宮澤です。今日は我々が7年前に立ち上げたベンチャー高品質配信ビジネスとサラウンドへの取り組みについて紹介させていただきます。沢口さんとはパイオニアに我々の業務内容を紹介に行ったときの縁で本日こうした場でお話をすることになりました。JJazz.Netは、2000年に立ち上げたJAZZをメインとした配信ビジネスです。
今日は大きく3つの柱で話をしたいと思います。
1 JJazz.Netのコンセプト
2000年にスタートした時点では、まだまだインターネットはナローバンドでしたがそこでのインターネットラジオの可能性を模索して立ち上げたビジネスです。ここに来て回線容量が大きくなり、ようやくブロードバンドの時代になってきたので、我々の意図したコンセプトが実現出来るようになってきました。
大切なものに出会うために、JJazz.Net
A place to meet something special, JJazz.Net
をキーコンセプトにしてマスメディアでは取り上げないニッチな部分をカバーしたいと考えました。現在では国内JAZZにと止まらず400レーベルと協力関係を持っています。ワールドワイドに展開するため表現には世界感覚を取り入れ、ダウンロードではなくストリーミング オンデマンド方式でかつ高品質とサラウンドをキーにしています。以下にキーコンセプトを紹介します。
インターネットは英語オリエント。だからバイリンガル!
⇒JJazz.Net Ave.のバイリンガル体制、海外ページのプロモーション
⇒海外のラジオ文化に学び、コンテンツ共有を推進予定
・マス・ミュージックとの差別化!
⇒CDの出荷枚数=音楽文化のバロメーターなのか?
⇒音楽ジャンルに最適なメディア創出
・音楽記録フォーマットは進化する!
⇒44.1k/16bit/2chでは物足りない、HD音響への欲求
⇒これからの技術進歩(インフラ整備、ハードウェアの登場)
・JAZZの名盤にライブ音源が多い?
⇒ライブ収録は、歴史の目撃者!
⇒音の世界遺産
・所有の時代から共有の時代へ!「世界共有知的財産」の構築!
⇒ローカル環境は容量争い?共有サーバーは無限大?
⇒お宝サーバーへのアクセス権
2 ビジネス モデル
2000年当初はスポンサード中心でスタートし、 2003年にリアルネットワーク社と課金システムの契約を結びました。月額1000円という会員制は、インターネットの世界では高いといわれましたが、趣味性の高いコンテンツを提供することで一定の会員を維持しています。これは本物志向の高い大人マーケットというコンセプトが支持されているためだと考えています。2006年にブロードバンドが普及し始めたのを契機にサラウンドコンテンツの配信もスタート。現在本格的な配信にむけて再構築中で、今年秋にはスタート予定です。また携帯への配信も行うため容量は64kbps に落としてサービスもスタートしました。逆にe-モバイルなど3.6Mbpsといった大容量を活かしたサービスも検討しています。さらにFM/AMラジオ局が今後とりくむデジタル ラジオの配信モデルも先行している我々がモデルケースとなっています。
配信の再生環境は、パソコンにPCIカードを装着してそこからサラウンド出力を小型スピーカへ接続するといった簡易型であれば4万円以下で実現できます。また本格的なオーディオとしてはONKYOなどが製品化しているPC オーディオ製品があります。これは音質面、S/N面でもすばらしい設計がなされており我々もこうした製品が多様化してくれることを希望しています。パソコンオーディオというと第一印象はノイズだらけで音が悪い!といったことが言われますが、実際は聞いて頂ければお分かりのように大変すばらしい世界を楽しむことができます。
我々のメディアの価値は、パッケージメディアの先行PRやマーケティング機能、さらにオーディオメーカやファッションメーカといった会社のブランドアピールとしてのコラボなどを複合することでチラシ 広告 インターネット レーベル プロモーションといった相互メリットがでることを活かしたビジネスモデルを実現しています。これはそれぞれが単独でPRするコストと効果を考えればはるかに有効なアピール方法になっています。データの更新は 週3回と月2回のサイクルで行いその間には無料視聴コーナーが用意されています。
3 コンテンツ制作
それでは今回参加の皆さんが関心のあるサラウンドJAZZ LIVE 収録についてです。これは光回線が普及し始めて大容量高品質のソフトが配信可能になるという状況に合わせて過去3ヶ月に一度のペースで制作を行ってきました。ライブハウスとしては、収録に協力的という点で赤坂Bフラッツ ピットイン モーションブルー横浜などで実施しています。収録の基本は、我々で4CHサラウンドマイクをセットし、演奏者のピックアップマイクはハウスのPAアウトを提供してもらいそれをMIXして96-24で録音するといった構成です。ステレオの時にはDSD録音も行っています。図に示したのは、初期の録音系統図と現在の録音系統図です。最終的なマスターは当社にてプロツールズDAWで実施しています。では、ここで実際にネットに接続してデモしてみたいと思います。
デモ:
最初は、赤坂Bフラットでのレディ キムの来日LIVEです。それからモーションブルー横浜でのピアノ・ギターデュオ。そしてTpのボビー シューです。海外のアーティストの場合、レーベルとの事前打合せや予算面での交渉に慎重になりますが、この時は88レコードの伊藤八十八さんに大変お世話になり実現しました。アーティスト側もこれがプロモーションの一環になると判断した場合は、快くOKをいただけますし、LIVEハウス側も同様です。
沢口:ではみなさんから質問があればどうぞ。
Q-01:権利処理についてネットでのビジネスはどういった点がポイントですか?
A:我々が始めた7年前は、権利処理についてもたいへん未開拓な領域でした。ここにベンチャーの存在価値があると思います。その後少しづつ整備され、現在はネットワーク送信化権、音楽CD使用のためのレーベルとの公衆送信権などの権利処理があります。双方がメリットを出すという前提に立つと個別交渉で解決でき、相手はプロモーションとして利用できれば無料にできますし、レーベルを越えた独自企画で相乗効果がでると判断すればお互いのメリットが生まれます。ネット配信の著作権使用料に関しては、JASRACとの包括許諾で月間収入に対し定率で計算されます、3ヶ月単位でJASRACへ楽曲使用報告とともに払います。これはスポンサー収入も含めた総収入に対する率となっており1URLについての課金です!また、JASRAC以外ではE-ライセンスといった所に権利を登録している楽曲もありますのでこちらは個別確認です。またLIVE音源の権利関係については、公衆送信の許諾をいただくことを基本として個別に交渉して値段を決めています。アーティストやレーベルからLIVEが良かったのでそのままCD化に使いたいといったリクエストもありますので、その場合、以降のプロセスは個別交渉ということになります。
Q-02:会社のスタッフ構成は?
A:正社員で5名 委託で5名程度で、私は設立以来のメンバーです。HPデザイナーや番組プロデューサー 著作権管理 レコーディング担当に営業といった感じで大変小回りの利くところがメリットです。
Q-03:LIVE収録スタッフ構成は?
A:3名で行きますが、実際の収録関係は2名で1名はディレクター役です。
Q-04:収録音源のMIXと最終確認はだれがやるのですか?
A:MIX DOWNは三鷹のOFFICEで行いっています。モニター環境は通常のスタジオに比べればそれなりの機材ですが。最終確認は当日現場へいったディレクターがその時の感じを再現出来るように仕上げています。またクライアントがある場合立ち会ってもらうこともあります。あるケースでは、LIVEのサラウンド感を強調したいというリクエストでオーディエンスを強調したりしています。
Q-05:高品質を唱っていますが、使用している機材などは。
A:ステレオではDSDレコーダーを使用し、サラウンドではヌエンドに96-24で収録しています。マイク以降のヘッドアンプやミキサー関係については機動性と音質を考えて選定しています。配信フォーマットは、ステレオで256kbpsをサラウンドでは128kbpsx6で768kbpsでの配信を行っています。今後はメガクラスでの配信も視野にいれています。
Q-06:FM局はLIVE収録制作が激減してDJ番組ばかりになっていますが、ネットでのLIVE配信の反応は?
A:聞き手の反応が書き込めるブログ型式でフィードバックをもらっています。また聞き手はCDでは聞けないその一晩限りのLIVEという音楽に貴重さを感じていると思います。過去にもJAZZはLIVEでの演奏に名作が残っていますし、B.エバンスの「ワルツ フォー デビー」の客席にはジムホールもいた等と言った逸話が残るのもJAZZのLIVEの醍醐味ではないでしょうか?
Q-07:今後サラウンドのLIVEの方針は?
A:現在光回線のプロモーションで実施していたスポンサー契約が終了したので、秋以降で自前の配信を行えるようインフラを整備中です。収録は3ヶ月に一度くらいの頻度で行っていく予定です。
Q-08:どれくらいの番組制作とその後の保存などをおこなっていますか?
A:現在常時50番組を毎日配信しています。ステレオのLIVE収録は週1回のペースです。使用しているサーバーは、全てプロバイダー側の提供でリアルネットのサーバー 無料用サーバー 有料用サーバーそしてWMA用サーバーと目的毎に別れています。メンテナンス費用はリアルネットワークと折半です。音源は、有料番組が4ヶ月ルールで消去、無料番組はプロモーション期間終了とともに消去していますので新規更新と会わせると毎日大変多忙です。番組はサーバーへアップしてしまえば放送局のようなトラブル対応バックアップや電話対応といったこともありませんので精神的には楽です。(笑い)音源のアーカイブはHDDベースで、OFFICE に現用を銀行管理で予備と2式を保存しています。
Q-09:将来のメンバー規模はどれくらいを考えていますか?
A:現在の3000単位から将来は10倍を目標にしています。ここまでやればLIVE収録でのミュージシャン側にもお店にも今以上に対価もお支払いできるとおもいますし!
Q-10:現在のトップランキング項目は?
A:新譜紹介、JAZZの昔の作品を紹介する温故知新、アーティストが語るインタビューなどです。インターネットのユーザーは大変流動的でどんなキーワードで聞いてくれのかは原則がありません。今後はSA-CDなど高品質ソフトも配信したいと考えています。
Q-11:スポンサーにはどんなジャンルのメーカーが多いのですか?またサラウンドに対する反応は?
A:スポンサーの反応がいいのは、インフラ回線会社 オーディオメーカ 住宅メーカーそしてホームシアター関連の順ですね。サラウンドに関しては、「どうしてそんな必要があるのか?」といった反応がまだ多いですね。また音声中心の配信だけでなく動画付きを希望するメーカも多いです。
Q-12:7年間運営していて今感じるビジネスしての課題は?
A:やはり知名度をどうやって上げるかです。パソコンを媒体とした新しいオーディオの楽しみ方、世界観をもっとアピールしなければなりません。ヨーロッパの番組見本市でブース展開したり海外配信urlと番組交換したり今後既存ラジオ局とコラボしたりと多角的な展開を実施してきました。本日参加のみなさんとも是非連携してやりたいのでよろしくお願いします。DSDデータによる配信や事業向けのB to Bビジネスのリクエストもありますし、またカフェなどでのサラウンド カフェといったビジネスもリクエストがあります。
沢口:宮澤さんどうもありがとうございました。7年の継続で現在のビジネスモデルを作った経緯と明快なコンセプトは皆さんにも大変参考になったのではないかと思います。今後ネットで自分の作品を紹介したいと考えているかたにも参考になる内容だったと思います。
この後:同じような配信ビジネスを立ち上げたアーキー竹中さんのサラウンド エフェクトのHPにアクセスしての各種サラウンド効果音のデモ 及びSC アライアンスの山本さんが制作した白神山地のサラウンド サウンドスケープのデモがありました。今回から寺子屋メンバーとして参加してくれました土方さんや山本さんもフィールドでのサラウンドやネットビジネスの展開について大いに語り合うwine partyとなりました。(了)
「サラウンド寺子屋報告」Index にもどる
「サラウンド入門」は実践的な解説書です
Mick Sawguchi & 塾生が作る サラウンドクリエータのための最新制作勉強会です
http://surroundterakoya.blogspot.com
June 24, 2007
June 10, 2007
Let's Surround No.11 サラウンドにおける課題
By Mick Sawaguchi 沢口真生 >> Download(PDF)
"サラウンドソフトを生み出す若手クリエーターの登竜門を支援:いくら素晴らしいサラウンドスタジオとエンジニア デザイナーを充実しても、また家庭に素晴らしいサラウンドAV視聴設備を導入しても肝心の「楽しむ良質 なソフト」が提供されなければ単なる器でしかない。" 「ビデオ α」より
「Let's Surround(基礎知識や全体像が理解できる資料)」目次
「サラウンド入門」は実践的な解説書です
"サラウンドソフトを生み出す若手クリエーターの登竜門を支援:いくら素晴らしいサラウンドスタジオとエンジニア デザイナーを充実しても、また家庭に素晴らしいサラウンドAV視聴設備を導入しても肝心の「楽しむ良質 なソフト」が提供されなければ単なる器でしかない。" 「ビデオ α」より
「Let's Surround(基礎知識や全体像が理解できる資料)」目次
「サラウンド入門」は実践的な解説書です
第44回サラウンド塾 2007年JPPA AWARD学生部門授賞作品から 片野裕史
By. Mick Sawaguchi
日時:2007年6月10日
場所:三鷹 沢口スタジオ
講師:MIX担当 片野裕史(現 ニュービデオ 勤務)
テーマ:2007年JPPA アワード 学生部門授賞作品から
~部門2 シルバー賞受賞「もしもライブに行けたなら」サラウンド作品~
日本工学院八王子専門学校
沢口:2007年6月の定例は24日で企画していましたので今回は、急遽飛び込みの寺子屋塾です。毎年日本ポストプロダクション協会が優れた編集 ミキシングに対して表彰しているJPPAアワードという行事があり今年2007年で11年目を迎えました。私はミキシング部門の審査員を担当していますがこの表彰式が5月25日に青山で開催され、それに出席していた時に学生部門の授賞のなかにビッグバンドのスタジオ制作をサラウンドで行った作品がシルバー賞を受賞したのが目にとまりました。たまたまその学校でクラスを担当しているのがInterBEEシンポジュームをともに企画している掘さんでしたので、堀さんにお願いしてこの作品を担当した学生の片野さんを講師に寺子屋を開催しようと思いました。プロの世界でもまだまだ音楽のサラウンドを手がけるひとは少ない中で、なにか我々にも参考になる点が多いのではないかと考えたからです。片野さんは、今春学校を卒業しビデオ制作会社ニュービデオに就職しており、彼の勤務の空くところを工面して頂き急遽6月10日で開催となりました。本日も朝5時からの生放送を終えて、ここへ来てくれました。では、片野さん、よろしく。
片野:こんにちは、片野です。これは昨年8月から卒業制作として取り組んだ企画で、私が企画から準備 収録までを一貫して担当し映像、美術といったスタッフとともに制作した作品です。TVスタジオにラテンビッグバンドを配置してサラウンドでダイレクトMIXするとどんなサラウンド空間が得られるのか経験してみたいと思ったのがきっかけです。そのきっかけを与えてくれたのは、今日もお見えの井上先生です。井上先生が授業でTV朝日映像のお話や実際のサラウンドをデモして頂きそれらのデモを聞いて自分でもやってみたいと思ったのが最初でした。それではDVDを持ってきましたのでまず、これを聞いてみてください。内容はラテンの名曲3曲を映像とともに収録、1曲は音声のみで録音しています。私が企画書作成から制作まで一貫して取り組んだ成果が今回JPPAアワードの部門2でシルバー賞を受賞できましたことは、ほんとうにやって良かったという実感ととともに嬉しい気持ちで一杯です。またご指導いただいた堀先生や井上先生にも感謝感謝です!
デモ再生
片野:それでは当日の収録について資料を参照しながらお話します。
これがスタジオのバンド配置図です。当学校のTVスタジオは約80坪でTVスタジオにしては音楽録音も考慮して響きの少ないデッドな仕上げのTVスタジオですので録音面での心配はありませんでした。バンドの配置をどうするか映像面も考えて検討し、結果的にカメラの動く範囲を広く確保するためにV字形の配置としました。これは幸い演奏者にもお互いの音が聞きやすく好評でした。サラウンド空間へビッグバンドをどう定位させるのがいいかについては事前に彼らのライブを見に行ったりリハーサルスタジオでの練習を見学して構想を練りました。ここにあるのが私の手書きのサラウンド MIXイメージ図です。井上先生からも、録音当日までにサラウンドでのサウンドデザインをしっかり考えてから本番に望むことの重要性をアドバイスしていただきましたので、色々なイメージを検討しました。
当初ビッグバンドが360度で全方位に配置するとどうだろうといったことも考えましたが、実際のスタジオでのバンド配置から、それぞれのかぶりが多いのでイメージしたようなサークル音場を作るのは難しいことが体験として理解できました。今回は、あくまでスタジオをライブ会場と考えてスタジオ天井からの吊りマイクとスタジオ後壁に設置したPZMマイクによるアンビエンスサラウンドをメインとしています。ドラムは、私がこだわったところで今までの実習やライブハウスなどにいって聞いた音やマイキングを参考にしてセッティングしました。また当日のスタジオフロアー担当にはマイクの距離や角度なども細かく注文してセッティングしました。ブラス関係は、リハーサルの音を聞きながら距離を調整しています。
これは本番当日の回線図とスケジュールです。準備から収録までリハーサルも限られているし、ダイレクトサラウンドMIXなので大変緊張しました。サラウンドMIXは、そのまま収録VCR PANASONIC D-5 8CHレコーダーへ6トラックをサラウンドMIXで、残り2トラックにステレオのダウンMIXを収録しています。ポストプロダクションといった過程は全く無しで、収録後はディレクター、編集マンと映像中心で編集し、マスターが完成です。ポストプロダクションで曲間に拍手などを入れてみようと言うことでトライしてみましたが、逆に、違和感を感じたのでこれは採用しませんでした。(笑い)
堀:少し補足説明しますと、このラテンビッグバンドは、アマチュアとしては大変息の長いラテンビッグバンドで三砂さんが東京キューバンボーイズを解散したときにそのスコア全てを譲り受けたというくらいレベルが高く現在30数名の団員がいます。高校生から高齢者まで多彩で隔月で川崎にてライブ活動を行っています。バンマスが私のJAZZの師匠でもあることから、機会があれば学生の制作実習で収録してみたいと考えていました。通常学生の制作実習で取り上げる音楽というとどうしてもロックバンドと相場が決まっており、社会に出る前に色々なジャンルの音楽を経験しておく大切さを常日頃感じていたひとりでした。とはいえ学生自身にそうした意欲がないと実現できませんが、2006年の学生の片野君が大変意欲的でなおかつサラウンドで制作したいというので実現したものです。
サラウンドフロントSPはEXCUSIVEの上の黒い部分
リアサラウンドSP
以下参加者とのフリーディスカッションです。
Q-01:スタジオのモニター関係は?
A:おおげさなモニターは組んでいません。カメラマン用にMIXOUTを場内PAそれにVOがありましたのでこれを薄くバンド全体にバンマス中心で返しています。
Q-02:やってみてどんな感想ですか?
A:やってみて良かったと思います。ステレオでは味わえない臨場感が経験できました。また音楽だけでなくドラマや映画、バラエティなどでサラウンドをやったらどうできるのかなど、挑戦してみたいです。学校にはサラウンドの設備がありますが、今まで放送制作関係では使ったことがありません。昨年声をコラージュした作品が卒業制作で作られていますがその1作くらいです。私はせっかくサラウンドという新たな音を創造できる時代になったのだから自分でも是非これを経験してみたいと考えていましたので、とても勉強になりました、今の会社でもいつか是非実現したいと思います。
Q-03:ボーカルの曲ではどんな仕上がりをイメージしてMIXしましたか?
A:ボーカルがバンド全体に柔らかくなじむようなイメージにしたいと思いました。
参加者:そのためにはサラウンドでのリバーブの使い方を工夫したらいいですね。今回のMIXでは、フロントにかたよりすぎてやや浮き上がった印象でした。
Q-04:専門学校2年間でどういった実習が行われるのですか?
A:2年間は大変短いのが実際です。この間に放送制作に関わるあらゆるジャンル:スタジオ制作、中継、ロケ、ポストプロダクションやコンサートライブなど経験しなければなりません。一つのことを突き詰めるためには学生個々人のやる気の大小が2年後には大きな差になってきます。基本が重点となるのでサラウンドの学習はほとんどできません。
Q-05どの曲が満足な出来ですか?
A:私は最後の3曲目が好きです。先生方もこれが一番いいと言ってくれました。それはバンド自体も3曲目でようやく乗ってきたし、映像スタッフもディレクターやカメラマンがスコアを追いながら楽器を捉えることができるようになったからです。カメラマンはSAXといってもどれがSAXなのか始めは知りませんでした。またディレクターも歌詞の無い音楽スコアは初めてで3曲目でようやくスコアを追えるようになりましたので映像と音がここでうまく絡んだ結果だと思います。
Q-06:逆に反省点は?
A:そうですね。パーカッション楽器をもう少し追い込みたかったと思います。全てごちゃごちゃと団子に混じってしまったので。
Q-07事前にどんなイメージトレーニングをしましたか?
A:学生バンドコンテストというのが学校で開催されますが、この時に色々なマイクを試して感覚をつかみました。またスタジオにいままでの録音素材がフェアライトDAWに残っていますのでそれを素材にして空いた時間をみつけてサラウンドにするとどうなるのかといったトレーニングをしました。
Q-08:卒業制作は他に何がありましたか?またスタッフは?
A:ほかにドキュメンタリーとドラマの制作が並行して進行しましたので学生は掛け持ちで役割分担しながら制作しました。私は、2006年の8月から企画書を提出して、準備期間を経て2007年の2月に制作へこぎ着けました。最終的な事柄が決まったのは1週間前で、それまで映像や美術と様々な検討をおこないました。ディレクターは音楽ドラマにしたいという意見でしたし、私は、純粋な音楽番組にしたいと考えていましたのでその調整も大変いい勉強になりました。
参加者コメント:そうですね。特に音楽番組でサラウンドや新たな試みをやりたいと思ったときは音声だけでなく制作側をいかにその気にさせるかの説得も大変重要だというのが我々プロの間でも大切です。きっとこの企画が実現したのも井上流企画書の書き方という伝授があったからではないでしょうか(笑い)
Q-09:今はどんな仕事をしているのですか?
A:現在入社したばかりなので色々なTV制作業務のアシスタントをしています。カメラマンのアシスタントとかやると、映像のことがわかるので「ブームはここからはいればやりやすい」とか「もしこの番組をサラウンドでやるとしたらどんなことができるだろうか」等と言ったことを考えながら仕事しています。
友人でも音声志望でしたが実際の仕事をしたらカメラマンのセンスが良くてカメラマンになったひともいるので幅広い経験は大切にしたいと思います。
沢口:片野さんどうも有り難うございます。では参考にDMPのTOM JUNGが制作したビッグバンドサラウンドと内沼さんが制作したDVD-Aのビッグバンドサラウンドを聞いてみましょう。
デモ:
深田:参考になるとおもっていくつか素材を持ってきました。私が今年5月にウイーンで行われたAES CONVENTIONのなかの学生制作コンペティションのサラウンド ノンクラシカル部門の審査員を担当したときのヨーロッパの学生が制作したサラウンド作品です。
4曲 デモ
深田:いずれも学生が全て制作した作品ですがどれも大変音楽性やミキシングという点でも参考になると思います。これが世界の学生のレベルだとうことを我々プロとして仕事をしている仲間も認識しておかないといけないでしょう。私が印象に残ったひとつにロシアの学生がヌエンドで初めて収録から完成までを担当したアコースティック作品があります。サラウンドデザインとしては今一歩でしたが、そのクオリティの高さは特筆で審査員一同感心しました。
沢口:片野さん長時間有り難うございました。今日は朝5時からの生放送を終えての講師役ということで、どうも有り難うございました。社会人になって2ヶ月たらずという片野さんにとっては、周りの先輩に囲まれての講演は、いささか緊張きみでした!
世の中にでると自からの仕事を他の人へどうプレゼンするかも大変大切なスキルです。ステレオだけではなく学生時代にサラウンドに挑戦したそのバイタリティを今後の業務でも活かしながら次はニューメディアという会社の環境のなかで周りにいい企画をだしてサラウンド制作が実現することを寺子屋メンバー一同期待しています。またその時はこのサラウンド寺子屋塾で堂々と講演してください!(了)
「サラウンド寺子屋報告」 Index にもどる
「サラウンド入門」は実践的な解説書です
日時:2007年6月10日
場所:三鷹 沢口スタジオ
講師:MIX担当 片野裕史(現 ニュービデオ 勤務)
テーマ:2007年JPPA アワード 学生部門授賞作品から
~部門2 シルバー賞受賞「もしもライブに行けたなら」サラウンド作品~
日本工学院八王子専門学校
沢口:2007年6月の定例は24日で企画していましたので今回は、急遽飛び込みの寺子屋塾です。毎年日本ポストプロダクション協会が優れた編集 ミキシングに対して表彰しているJPPAアワードという行事があり今年2007年で11年目を迎えました。私はミキシング部門の審査員を担当していますがこの表彰式が5月25日に青山で開催され、それに出席していた時に学生部門の授賞のなかにビッグバンドのスタジオ制作をサラウンドで行った作品がシルバー賞を受賞したのが目にとまりました。たまたまその学校でクラスを担当しているのがInterBEEシンポジュームをともに企画している掘さんでしたので、堀さんにお願いしてこの作品を担当した学生の片野さんを講師に寺子屋を開催しようと思いました。プロの世界でもまだまだ音楽のサラウンドを手がけるひとは少ない中で、なにか我々にも参考になる点が多いのではないかと考えたからです。片野さんは、今春学校を卒業しビデオ制作会社ニュービデオに就職しており、彼の勤務の空くところを工面して頂き急遽6月10日で開催となりました。本日も朝5時からの生放送を終えて、ここへ来てくれました。では、片野さん、よろしく。
片野:こんにちは、片野です。これは昨年8月から卒業制作として取り組んだ企画で、私が企画から準備 収録までを一貫して担当し映像、美術といったスタッフとともに制作した作品です。TVスタジオにラテンビッグバンドを配置してサラウンドでダイレクトMIXするとどんなサラウンド空間が得られるのか経験してみたいと思ったのがきっかけです。そのきっかけを与えてくれたのは、今日もお見えの井上先生です。井上先生が授業でTV朝日映像のお話や実際のサラウンドをデモして頂きそれらのデモを聞いて自分でもやってみたいと思ったのが最初でした。それではDVDを持ってきましたのでまず、これを聞いてみてください。内容はラテンの名曲3曲を映像とともに収録、1曲は音声のみで録音しています。私が企画書作成から制作まで一貫して取り組んだ成果が今回JPPAアワードの部門2でシルバー賞を受賞できましたことは、ほんとうにやって良かったという実感ととともに嬉しい気持ちで一杯です。またご指導いただいた堀先生や井上先生にも感謝感謝です!
デモ再生
片野:それでは当日の収録について資料を参照しながらお話します。
これがスタジオのバンド配置図です。当学校のTVスタジオは約80坪でTVスタジオにしては音楽録音も考慮して響きの少ないデッドな仕上げのTVスタジオですので録音面での心配はありませんでした。バンドの配置をどうするか映像面も考えて検討し、結果的にカメラの動く範囲を広く確保するためにV字形の配置としました。これは幸い演奏者にもお互いの音が聞きやすく好評でした。サラウンド空間へビッグバンドをどう定位させるのがいいかについては事前に彼らのライブを見に行ったりリハーサルスタジオでの練習を見学して構想を練りました。ここにあるのが私の手書きのサラウンド MIXイメージ図です。井上先生からも、録音当日までにサラウンドでのサウンドデザインをしっかり考えてから本番に望むことの重要性をアドバイスしていただきましたので、色々なイメージを検討しました。
当初ビッグバンドが360度で全方位に配置するとどうだろうといったことも考えましたが、実際のスタジオでのバンド配置から、それぞれのかぶりが多いのでイメージしたようなサークル音場を作るのは難しいことが体験として理解できました。今回は、あくまでスタジオをライブ会場と考えてスタジオ天井からの吊りマイクとスタジオ後壁に設置したPZMマイクによるアンビエンスサラウンドをメインとしています。ドラムは、私がこだわったところで今までの実習やライブハウスなどにいって聞いた音やマイキングを参考にしてセッティングしました。また当日のスタジオフロアー担当にはマイクの距離や角度なども細かく注文してセッティングしました。ブラス関係は、リハーサルの音を聞きながら距離を調整しています。
これは本番当日の回線図とスケジュールです。準備から収録までリハーサルも限られているし、ダイレクトサラウンドMIXなので大変緊張しました。サラウンドMIXは、そのまま収録VCR PANASONIC D-5 8CHレコーダーへ6トラックをサラウンドMIXで、残り2トラックにステレオのダウンMIXを収録しています。ポストプロダクションといった過程は全く無しで、収録後はディレクター、編集マンと映像中心で編集し、マスターが完成です。ポストプロダクションで曲間に拍手などを入れてみようと言うことでトライしてみましたが、逆に、違和感を感じたのでこれは採用しませんでした。(笑い)
堀:少し補足説明しますと、このラテンビッグバンドは、アマチュアとしては大変息の長いラテンビッグバンドで三砂さんが東京キューバンボーイズを解散したときにそのスコア全てを譲り受けたというくらいレベルが高く現在30数名の団員がいます。高校生から高齢者まで多彩で隔月で川崎にてライブ活動を行っています。バンマスが私のJAZZの師匠でもあることから、機会があれば学生の制作実習で収録してみたいと考えていました。通常学生の制作実習で取り上げる音楽というとどうしてもロックバンドと相場が決まっており、社会に出る前に色々なジャンルの音楽を経験しておく大切さを常日頃感じていたひとりでした。とはいえ学生自身にそうした意欲がないと実現できませんが、2006年の学生の片野君が大変意欲的でなおかつサラウンドで制作したいというので実現したものです。
サラウンドフロントSPはEXCUSIVEの上の黒い部分
リアサラウンドSP
以下参加者とのフリーディスカッションです。
Q-01:スタジオのモニター関係は?
A:おおげさなモニターは組んでいません。カメラマン用にMIXOUTを場内PAそれにVOがありましたのでこれを薄くバンド全体にバンマス中心で返しています。
Q-02:やってみてどんな感想ですか?
A:やってみて良かったと思います。ステレオでは味わえない臨場感が経験できました。また音楽だけでなくドラマや映画、バラエティなどでサラウンドをやったらどうできるのかなど、挑戦してみたいです。学校にはサラウンドの設備がありますが、今まで放送制作関係では使ったことがありません。昨年声をコラージュした作品が卒業制作で作られていますがその1作くらいです。私はせっかくサラウンドという新たな音を創造できる時代になったのだから自分でも是非これを経験してみたいと考えていましたので、とても勉強になりました、今の会社でもいつか是非実現したいと思います。
Q-03:ボーカルの曲ではどんな仕上がりをイメージしてMIXしましたか?
A:ボーカルがバンド全体に柔らかくなじむようなイメージにしたいと思いました。
参加者:そのためにはサラウンドでのリバーブの使い方を工夫したらいいですね。今回のMIXでは、フロントにかたよりすぎてやや浮き上がった印象でした。
Q-04:専門学校2年間でどういった実習が行われるのですか?
A:2年間は大変短いのが実際です。この間に放送制作に関わるあらゆるジャンル:スタジオ制作、中継、ロケ、ポストプロダクションやコンサートライブなど経験しなければなりません。一つのことを突き詰めるためには学生個々人のやる気の大小が2年後には大きな差になってきます。基本が重点となるのでサラウンドの学習はほとんどできません。
Q-05どの曲が満足な出来ですか?
A:私は最後の3曲目が好きです。先生方もこれが一番いいと言ってくれました。それはバンド自体も3曲目でようやく乗ってきたし、映像スタッフもディレクターやカメラマンがスコアを追いながら楽器を捉えることができるようになったからです。カメラマンはSAXといってもどれがSAXなのか始めは知りませんでした。またディレクターも歌詞の無い音楽スコアは初めてで3曲目でようやくスコアを追えるようになりましたので映像と音がここでうまく絡んだ結果だと思います。
Q-06:逆に反省点は?
A:そうですね。パーカッション楽器をもう少し追い込みたかったと思います。全てごちゃごちゃと団子に混じってしまったので。
Q-07事前にどんなイメージトレーニングをしましたか?
A:学生バンドコンテストというのが学校で開催されますが、この時に色々なマイクを試して感覚をつかみました。またスタジオにいままでの録音素材がフェアライトDAWに残っていますのでそれを素材にして空いた時間をみつけてサラウンドにするとどうなるのかといったトレーニングをしました。
Q-08:卒業制作は他に何がありましたか?またスタッフは?
A:ほかにドキュメンタリーとドラマの制作が並行して進行しましたので学生は掛け持ちで役割分担しながら制作しました。私は、2006年の8月から企画書を提出して、準備期間を経て2007年の2月に制作へこぎ着けました。最終的な事柄が決まったのは1週間前で、それまで映像や美術と様々な検討をおこないました。ディレクターは音楽ドラマにしたいという意見でしたし、私は、純粋な音楽番組にしたいと考えていましたのでその調整も大変いい勉強になりました。
参加者コメント:そうですね。特に音楽番組でサラウンドや新たな試みをやりたいと思ったときは音声だけでなく制作側をいかにその気にさせるかの説得も大変重要だというのが我々プロの間でも大切です。きっとこの企画が実現したのも井上流企画書の書き方という伝授があったからではないでしょうか(笑い)
Q-09:今はどんな仕事をしているのですか?
A:現在入社したばかりなので色々なTV制作業務のアシスタントをしています。カメラマンのアシスタントとかやると、映像のことがわかるので「ブームはここからはいればやりやすい」とか「もしこの番組をサラウンドでやるとしたらどんなことができるだろうか」等と言ったことを考えながら仕事しています。
友人でも音声志望でしたが実際の仕事をしたらカメラマンのセンスが良くてカメラマンになったひともいるので幅広い経験は大切にしたいと思います。
沢口:片野さんどうも有り難うございます。では参考にDMPのTOM JUNGが制作したビッグバンドサラウンドと内沼さんが制作したDVD-Aのビッグバンドサラウンドを聞いてみましょう。
デモ:
深田:参考になるとおもっていくつか素材を持ってきました。私が今年5月にウイーンで行われたAES CONVENTIONのなかの学生制作コンペティションのサラウンド ノンクラシカル部門の審査員を担当したときのヨーロッパの学生が制作したサラウンド作品です。
4曲 デモ
深田:いずれも学生が全て制作した作品ですがどれも大変音楽性やミキシングという点でも参考になると思います。これが世界の学生のレベルだとうことを我々プロとして仕事をしている仲間も認識しておかないといけないでしょう。私が印象に残ったひとつにロシアの学生がヌエンドで初めて収録から完成までを担当したアコースティック作品があります。サラウンドデザインとしては今一歩でしたが、そのクオリティの高さは特筆で審査員一同感心しました。
沢口:片野さん長時間有り難うございました。今日は朝5時からの生放送を終えての講師役ということで、どうも有り難うございました。社会人になって2ヶ月たらずという片野さんにとっては、周りの先輩に囲まれての講演は、いささか緊張きみでした!
世の中にでると自からの仕事を他の人へどうプレゼンするかも大変大切なスキルです。ステレオだけではなく学生時代にサラウンドに挑戦したそのバイタリティを今後の業務でも活かしながら次はニューメディアという会社の環境のなかで周りにいい企画をだしてサラウンド制作が実現することを寺子屋メンバー一同期待しています。またその時はこのサラウンド寺子屋塾で堂々と講演してください!(了)
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「サラウンド入門」は実践的な解説書です
サラウンドめぐり 山口裕司(日本テレビ放送網)
"自然界の突然変異は偶然が生み出す神秘なのでしょうが、サラウンドの場合には神秘などありません。“あなたの情熱”があるのみです。"「放送技術」より
「サラウンドめぐり」 サラウンド開拓者の熱いメッセージ Index
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