May 2, 2011

第70回 ライブとレコーディングのサラウンド音楽制作について 上畑正和


By.Mick Sawaguchi
日時:2011年04月17日
場所:三鷹 沢口スタジオ
講師:上畑正和(作曲家)
テーマ:ライブとレコーディングのサラウンド音楽制作について

* USTREAMのアーカイブ Part.1 / Part.2はこちらです。
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沢口:2011年3月に札幌での「出前サラウンド寺子屋」を予定していましたが、地震の影響で延期になりました。そこで、みんなに元気をつけてもらおうをと4月の第70回サラウンド寺子屋は、音楽のサラウンド制作をテーマにしました。最近の音楽のサラウンド制作は、はっきり言ってあまり元気がありません。みんなやる気が無いのか、お金が無いのか、それぞれでしょうが、そこで、記念すべき第70回寺子屋で、上畑さんに元気をつけてもらうことにしました。上畑さんは、作曲家でもあり演奏者でもあり、なにより貴重なサラウンドで表現するアーティストの1人です。それでは上畑さんよろしくお願いします。


上畑:みなさん、こんにちは。作曲家、演奏家の上畑正和です。今日は、ライブとレコーディングの音楽制作について、「作曲家から考えるサラウンドとは」をテーマにお話します。まず、自己紹介をします。普段はコマーシャルの作曲家として活動をすることが多いのですが、みなさんご存知のトイレマジックリン消臭・洗浄スプレーをはじめ、コマーシャルの作曲を多く手掛けています。それと、テレビのテーマ曲を書いたり、最近はピアノや足踏みオルガンでのコンサートをしています。それと並行して、サラウンドにも興味があり、2010年くらいからサラウンド作品を作り始めて、曲が揃いましたので、みなさんに聞いて頂き、コメント等頂ければと、本日講師をさせて頂くことになりました。よろしくお願いします。

[ 上畑流 音楽サラウンドとは?なぜステレオでないのか? ]
サラウンドの大きな特色として、
1 空間の表現が出来る。
2 リスナーの想像力を直接的に刺激するものとしてのサラウンド。
3 自分の音楽の表現方法としてステレオの限界を感じていた。
4 作品を聴いたリスナーからよく「映像が浮かぶ」という意見を頂くことが多い。
5 環境音なども曲の中に取り入れやすく、違和感がない。
6 パンポット(音の定位)が360度自由にできる。
事などが大きな理由です。

詳しく説明していきます。ストーリー性のある楽曲を聴くときにリスナーが目を瞑るというのはよくあります。目を瞑ることによってリスナーの想像(映像)世界が膨らみます。そのきっかけとして、具体的な環境音を用いることもできるが、曲(メロディ)による想像の膨らみは一層、個人的な世界に入り込むきっかけになると考えています。曲(メロディ)がサラウンドであることで、より直接的に想像力を刺激すると思います。曲から連想される映像の膨らみを増すためにサラウンドが最適だと思います。サラウンドは空間表現が出来るため、リスナーが曲として楽しむだけでなく、曲を体験としても感じとれる。ということは、ストーリーを曲の中に効果的に入れることが出来るとも言える。(サラウンド=空間表現)+メロディ、として曲を作っていくことで、個人的な想像世界の膨らみつながって行くと思います。
ここで、自分の作品のことをあらためて考えると、自分の作品、すなわちCDやライブを聴いた方からの意見として「映像が浮かぶ」という意見をよく頂くことを考えると、音楽サラウンドが自分の表現方法としてよりよいのではないかと考えるようになりました。サラウンドは空間表現ということで、環境音なども曲の中に取り入れやすく、違和感がありません。パンポット(音の定位)が360度自由になることで、単純な音の繰り返しを気持ちよく聴かせる空間を作ることができます。以上などから、サラウンドミュージックというものにたどりつきました。

[ サラウンドとの二つの出会い ]
友人のスタジオでのサラウンドのディレイエフェクトとの出会いがありました。ハンドクラップで実験をし、飛び交う音に大きな可能性を感じ、人工的な音場による新たな空間を構築出来ると思いました。それに加えて、笙(しょう・雅楽などで使う管楽器)を演奏している友人のレッスン会場にお邪魔することがありました。10人の笙で取り囲んで演奏していただき、音の重なりや空気の揺れが半端で無く気持ち良かったんです。その中で自分がピアノ演奏することができたらいいなという欲求が生まれ、ライブで演奏をしました。その時は、大きなホールで、客席のお客さんを10人の笙で取り囲んで演奏しました。お客さんにも笙の空間ができたと喜んで頂けました。ライブハウスのような小さい空間では再現しにくいものをレコーディングにより可能にすることができます。この二つの出逢いがあったことで、サラウンドで音楽を作って行くことになりました。

[ 今回の曲の制作について ]
曲のアイディアやコンセプトをどうしたのかについて、お話します。1曲目は、コンセプト「縄文」で作品「六橋」と言い、1年半ほど前に作った作品です。空間美術家・大串孝二、舞踏家・小山朱鷺子、写真家・落合英俊の3人の方がコラボレーションをすると、その打ち合わせの場所にたまたま私もいました。そこで、音楽もやろうよと盛り上がりました。そこで、ギャラリーに向けて、何か音楽作品で表現ができないかと考えました。その時、サラウンドなら、スピーカーとコンピュータを持ち込んでセッティングして、ギャラリー的な音楽的な発表ができるのではないかと思いました。「縄文」というコンセプトから広げて、縄文人→アイヌ民族→ムックリ(楽器)→北海道→風・波などの自然音を取り入れて曲にならないかと考えました。ではその曲を聞いて下さい。


( Demo 「縄文」 )

続いて、スペースアーティストの岩崎一彰とのコラボレーションです。宇宙細密画を描かれる方で、伊豆高原に宇宙美術館があり、そこの館長でもあります。今年の7月に発表予定の「GENESIS」と言う曲です。宇宙がコンセプトのテーマ曲を作りたいと思い、宇宙の始まり・壮大なものからGENESIS(紀元)とタイトルを付けました。


( Demo 「Genesis」 )

これは、「Song of Persia」という作品です。これは製作途中なのですが、今作品の「雨」と「鳥」という2曲ができていまして、これはペルシアという名前の通り、イラン人アーティストのレザ・ラハバさんと一緒にコラボレーションの企画として今、製作途中です。曲は、歌を入れずにペルシア語の詩をメインにしていますね。それとアーティストの方が描いた絵楽譜と共に音楽をサラウンドで表現する。そのような企画で、それがどう広がっていくかは製作をしながら色々と工夫して広げていこうということでやっています。その中でですね、渋谷PARCOパート1にロゴスギャラリーがあるのですが、そこで2曲が完成した時点で発表をしました。その展示会と共に、音楽も流しまして。その時はかなり盛況でして、満員になりました。100人位の方にギャラリーに来て頂いて聞いて頂きました。その2曲も後でまた聞いていただきます。

そして次は、コンセプト「祈り」です。これは宮角孝雄さんという、原爆の被爆二世の方なのですが、この方は写真家で写真展がありまして。その写真展のインスパイアーライブということで、テーマは「祈り」で色々なことをしようと。その中でやった一つなのですが、この曲は、生で和尚さんにお経を呼んで頂いた上で、後で聞いて頂く曲をリアルタイムで流して、その上でお経も読んで頂いたと。リアルタイムとの融合ですね。まさにライブで使うという形を実験的にやってみました。これが一応、元になって色々な別の話が持ち上がりまして、「五大五感」というライブをやる予定です。その時はゲストで巻上公一さんも呼んで、ちょっと変わった形のライブになりますので、またそれはお知らせをしたいと思いますので、是非来て頂ければと思います。

そして最後。コンセプト「パラダイス」。パラダイスというのは非常に広い範囲の意味になりますが、これはダンス映像作品を作りたいという話が持ち上がりまして、その方のイメージの中でパラダイスというイメージがあり、そのパラダイスも能天気なパラダイスではなくて、どちらかというと心の奥底に秘めたようなちょっと暗いイメージも含めた上でのパラダイスだということで、色々説明を頂いた中から曲を製作していき、その曲を元にダンス映像を撮影するという形で作った曲です。
それでは後半の聴いて頂かなかった曲の製作過程を少し話していきたいと思います。

まず、イラン人アーティストのレザ・ラハバさんとコラボレーションでやった「Song of Persia」のプロジェクトです。企画は「Song of Persia」と題してペルシア語の詩と絵楽譜、そしてサラウンド音楽の表現をするという企画です。楽曲コンセプトとしてはストーリー性のある楽曲で、ペルシア語の詩の意味を表現する。ペルシア語自体は日本語訳を曲の中には入れずに、ペルシア語のみで詩を読んで頂いて、その意味の部分をわかりやすくするわけではありませんが、意味が持っている部分を曲の一部として表現していこうという曲の作り方をしています。ペルシアで「雨」の意味はですね、日本の雨と全然違って、恵みをもたらすとか幸せを運んでくるとか、全ての循環である、というような意味を雨というものは持っているそうです。確かにそうですよね。恵みをもたらす。雨は嫌だな、と言ったりしますが実際は、雨があることによって稲が実ってお米が食べれるというような、やはり恵みをもたらすものだと。すなわち幸せを運んでくるものだという発想ですよね。ペルシアと日本の共存。ペルシアと、僕が日本人なので、その二つの部分を曲の中で共存させたいということがコンセプトの中にありまして。当然、ペルシア音楽と、そして自分の音楽も共存させていこうと。プラス、過去と現在と未来のつながりを表現していきたいです。あとは詩と音楽の融合ということをしっかり表現していかなくてはいけないというのが楽曲のコンセプトです。

次は、実際に楽曲製作の部分をお話しします。
最初に詩の朗読。詩がまず出来上がってきまして、私のスタジオで、そのできた詩をまず朗読してもらい、仮録音をして軽く編集をしながら「間」などを詰めたり伸ばしたりして、気持ちのいい状態にして、それを元にひたすら聞き込みました。聞き込むことによって曲のアイディアを増やしていったと。そしてコンセプトを元に主音色を選定していきました。雨という意味にはですね、先ほども言ったように、恵みをもたらす、幸せを運んでくると共に、全ての循環という意味ということで無限音階的なフレーズを曲の中に入れようと。後半にこの曲を聴いて頂きますが、オルガンの音が上昇していくようなフレーズが入っています。それはこの音からこの音に上昇するということではなくて、永遠に上昇していくように聞こえる。そのような効果の音を無限音階と言うのですが、そのフレーズを曲の中に取り込んでみました。次にペルシアと日本の共存ということですが、これは楽器によって表現しようかなと。日本という意味でリードオルガン。足踏みオルガンですね。40歳以上の方は、リードオルガンまたは足踏みオルガンというと分かると思います。40歳を越えてない方はリードオルガンといわれてもピンとこないかもしれませんが、足で電気を使わずにペダルを踏むんですね。それでオルガンを弾くと普通にオルガンとして弾けます。仕組みは、リードという名前がついているのでハーモニカやアコーディオンと一緒です。そしてイランの楽器として、サントゥールやネイ、ダフ、トンバクなど、そのような楽器を取り入れていこうという事で、使おうと考えました。ペルシア音楽と自分の音楽という事で、フレーズをたくさん作りまして、そのフレーズを曲の中にどんどん取り込んでいこうということで、即興的な演奏を100種類程作りました。その作ったものをペルシア音楽の基本の音階といいますか、旋法でダストガーを使いました。それの後にシュールからはずれていってドリアン。これはペルシア音楽ではないのですが、現代音楽との接点として使っています。簡単に言うと使う音が違うという事です。そのようなことでペルシア音楽と自分の音楽の融合を考えました。その次はですね、過去、現在、未来ということなのですが、ここでは効果音。実際の雷雨の音を使っています。その雷雨の音を曲の中に取り入れて、そして曲の最後に出てくるのですが、足音で未来に向かっての表現という形で足音を使用しています。一通り方針が決まったところで、簡単な曲の構成デモを作曲しました。ここではまだ完全な形ではやらずに、色々と試行錯誤をしています。そして、それらができてきた時点でサラウンドデザインを考えつつ膨らましていきました。フレーズを考える時点で、実はサラウンドは考えていたのですが、やはり作っていく中で修正がどうしても必要になってきます。最初考えていたことよりもこっちの方がいいなとか、これは動かしていたけれどじっとしていた方がいいななど。そういうことは随時、考えながら修正をしていきました。そして曲ができてきた時点で、録音作業なのですが、リードオルガンというのは先程も言ったように電気で動くオルガンではなく、アウトプットは生音のみなので、それは録音をしました。どういう風に録音したかというと曲のテンポをまず決めて、そのテンポで先に決めたフレーズを弾きこみました。その弾きこんだフレーズを元に構成していきました。詩の朗読は本番として、曲の構成ができた時点でもう一度それに合わせて読んでいただきました。読んでいただいたのですが、最終的にはかなりリットしています。位置であるとか間であるかとかは、秒単位、フレーム単位の精度でいじっています。そして効果音ですね。効果音は雨や雷の音、足音の音などは実際に録音しています。これは録音した音と、さらにフリーの音源なども活用しています。シンセサイザーも色々な音に使用していまして、例えばサントゥールですね。サントゥールはこの時、生演奏を録音する事ができなかったので、サントゥールに近い音。この時は似ている音としてダルシマーを代用して使いました。そういったことはシンセサイザーで行っています。パーカッションでいうと、ダフなどもシンセサイザーを使っています。そして歌はですね。ちょっとしたフレーズをメロディーとして入れたかったのでファルセット的な歌で歌っています。それは私が歌いました。仕上げですが、曲とサラウンドデザインを再構成してミックスするという形で仕上げています。これが「雨」の作り方です。それを踏まえて、後で聞いていただきたいと思います。

次は「般若心経」。有名なお経です。その有名なお経を題材にしてサラウンドで表現できないか、ということで構成しました。これは企画としては宮角孝雄さんのグラウンド・ゼロ。この場合のグラウンド・ゼロというのは広島の原爆ドームのことを指しています。原爆ドームの前でいろんな方を撮った写真集を出版したのですが、その写真展の記念ライブということで「祈り」というコンセプトの元に般若心経を色んな形で取り上げようという企画がありまして、例えば現代解釈の朗読劇。これは田口ランディさんが朗読をして、私がそこに即興演奏でオルガンを弾きました。そのようなことを行っていく中で、演奏と共に即興のサラウンドもやろうということになり、行ってきました。楽曲コンセプトですが、般若心経というお経をサラウンドで音楽として表現するということに、自分なりに挑戦しました。これは録音がメインで、最初から最後まで録音がつきまとう作業になりました。これは和尚さんにお寺で実際にお経を読んで頂いて、それを録音しました。これは色々な形で録音をしました。モノラルで録ったもの。アンビエントステレオで録ったもの。サラウンドで録ったもの。みんなやってみました。最終的に色々なものをミックスして一番いいと思ったものを選んで使っていくという形でやっています。その録音の段階で、もうすでに音楽にしたいという思いがあったので、音程と読み方、音色(声色)などを指示しました。その指示していく中で重ねていくと、後で聞いて頂ければわかると思いますが、和音として音楽的な分かりやすい和音であったり、不協的な和音であったりということがおきます。それによって音楽としてのお経に仕上げていくというということをしました。この段階から曲に対するアイディアやサラウンドデザインなどもすでに考えはじめて録音をして行っています。次に編集ですが、録音している音がメインなので、この編集という作業がかなり重要になってきました。持ち帰ったお経の素材をとにかく何度も聞いて、曲としてのアイディアを練り上げていき、並べ方も含めて構成していきました。そしてサラウンドデザインしたものをまた編集し直したりと繰り返して作り上げていきました。

次は「REGENERATION」という曲なのですが、この曲はコンテンポラリーダンス映像の作品のための音楽を作るということで企画が始まりました。楽曲コンセプトは監督のイメージコンセプトによって製作をして、曲に合わせてダンスを撮影するというものです。イメージというのは盛り上がりがあったり、包み込むような光溢れるイメージであったり、また、細かいリズムを使ってほしい、ループを使って欲しい、曲の構成などの具体的な指示が監督からありました。それを含めて製作をしていきました。楽曲製作についてですが、これはまずダンサーの動きのためにをダンサーと二人で音を録りに行き、動きから出る音や、足のノイズなど、それらをたくさん録音しました。あまり大きな音では録れないのですが、ボリュームを上げたりして、動きをほとんど編集することなく、部分的に使うということをしたかったので、あまり編集をしてません。編集をせずにテンポ感のあるところを抜き出すと、驚く事にテンポがbpm84という事が分かりました。なので84bpmに共通部分があったので、それを切り出してループとして採用しています。また、荒廃感を表すためにノイズやサラウンドという部分で表現しています。そして、バーチャルインストゥルメントのダンスノイズのみで色々作り上げていきました。最終的にはそこに声を足したりもしていますが、サラウンドの5.1ch作成後にステレオコンバートをしてダンスを撮影しています。撮影した後にもう一度サラウンドを見直して、サラウンドミックスをして終了という形です。


それでは、次に使った音源や録音素材について話したいと思います。まずペルシア語の詩の朗読ですが、これは自宅スタジオで録りました。これは家で普段、作曲活動をしている小さなスタジオがあるのですが、そこで録音をしました。雨や雷は、自宅で窓際にマイクを置いて、そうすると風の音も入りにくいということもあり、意外と良い音で録れました。たまたまその時期に雷が鳴ってくれていい素材が録れたので、それを使ったりしています。あとは、フリー音源で色んな音を聞き比べて、一番場面に当てはまる音を使っています。そして足音なんですが、これはかなり色んな所で録りました。その結果、最終的に多摩川で、自分が歩きながら録った音を採用しています。これを言ってしまうとペルシアとかなくなってしまいますが。(一同笑い)
お経なのですが、これはお寺で録音をしました。機材を一式持ち込んで行っています。機材は後程ご説明します。そしてミックス方法。どんな機材を使っているかということで、実際に使ったものなのですが、DAWは基本的にDigidesign Pro Tools HDを使用しております。サラウンドリバーブに関してはまだ購入してませんので、もう一つ持っているDAWのMOTU Digital Performerのものをそのまま使っています。MOTU Digital Performerは私がチェックをしたところ、前の音も後ろの音も、前が中心でサラウンド化されるので、後ろの音は後ろ用にひっくり返した状態で使っています。そして、フィールドレコーディングはKORG MR-2とROLAND EDIROL R-09HRで、これはステレオレコーディングのみで使用をしています。この二つを同時に録音して前後に
このような(手を叩いて)ハンドクラップの音を入れて、Digidesign Pro Toolsで調整をすることで、サラウンド化しているものもあります。そして、お寺でのレコーディングですがこの場合はDAWをMOTU Digital Performerを使って、オーディオインターフェイスはMOTU Travele- mk3を使っています。マイクはRODE NT2というものを使っています。そんなに良いマイクは持っていないのですが、予算もかけれないということで、自分の持ち物で全て行っております。ステレオにはMXL600というマイクを使っています。サラウンドなのですが、サラウンドのマイクは自作で作りました。Panasonic WM-61Aというエレクトレットコンデンサーマイクで、カプセルに端子をつないで、それをフィールドレコーディングで使ったKORG MR-2や、Roland EDIROL R-09HRにステレオで入れて、そのマイクセッティングには自分で木箱で作ったサラウンドの箱の中に全部入れて、その角からちょっとマイクを見えるようにして、その先に風防だけを付けて使っているという形です。

それでは、曲を聴いていただきたいと思います。コンセプトは聞いていただきましたが、そのサラウンドデザインです。このようなパンの配置になっています。これはもう一言では説明できないので。(一同笑い)非常に複雑です。正直。やっていく中でどんどん複雑になりました。一番分かりやすいもので言うと、グルッと赤い矢印が一周してますが、ずっと鳴っているメインになるムックリがゆっくりとぐるぐると回っています。他にもムックリという文字がたくさんあると思いますが、ムックリがサラウンドに散らばっているという状態です。声は、ちょっと怖い印象を持つ、ディレイがかかっていたような、そのような声も色んなところに配置していて、それもディレイで飛ばしたりしています。止まっている素材としてはトンコリであるとか。トンコリ1というのは真ん中から左に少し動いたりもしますが、それはイントロで真ん中でそれ以降は左に寄っているということです。そしてピアノが普通にテーマで鳴っている時は、ピアノAという位置にいます。途中で静かになる場面がありますが、そこではディレイとリバーブを強めにかけてピアノBという状況にちょっと遠くに飛ばすといった形にしています。ドーンというエフェクトの爆発のSEがあったのと、それとパーカッションですが、それはステレオでサラウンドとして配置していると。爆発音はサラウンドの状態になっています。大体そういった感じです。そしてもう一つですが、最初の風は3種類の風ではなくて、実は7種類の風を使っています。風の音を固定として、風1、2、3というステレオを作りまして、それ以外に動き回る風を作っています。やはり風は動いているものなので、空気が動くように音場も動くと思ったので。そこに書いてある矢印が動き回っているのは大体の感じです。もっと複雑に動いてますが、そういう感じで動き回っているという事ですね。

その次に岩崎一彰の世界として「GENESIS」宇宙のテーマ曲ですけれど、これもまた複雑なのですが、最初のところで声がフワ~とフェーズがかかったような感じになりましたが、後ろの真ん中から始まって、どんどん、どんどんとサラウンド化していきます。ここになると大体聞き手の位置になるので全体から聞こえるのですよね。サラウンド化していって、その時点でフェーズが目一杯かかるのでぐるぐると回るように聞こえます。これは音場を回していたり、移動させているのではなくて、フェーザーの効果としてぐるぐると回したり、グチャっとしたりと感じるということです。それをボイスの音だけとフェーザーをかけたものをフェイドイン、フェイドアウトでクロスフェイドしています。これで特徴的なのはストリングスですね。ストリングスは色々な形で存在しているのですよね。チェロはこの辺にいたりしますし、メロディーはここにいるのですが、実際はこの辺でバッキングが鳴っていたりとか、ここからこっちへ動いたり。複雑な動きを結構しています。フレーズごとに動かしたり止めたりしています。ノイズはステレオですが、ノイズ自体がパンポットで動くノイズを作っているので、ノイズ自体も動き回ってます。なので結局ノイズは一箇所にいない感じがすると思います。ピアノは4箇所にいますが、ピアノは一つのフレーズを4つに分けて使っています。その事でかなり複雑なパンポットが素直に聞けると。その割り振り方はいろんな工夫でその時々違うので、こういう風にしましたとは言えませんが、それは後で曲を聞いて頂く中でピアノの「鳥」という曲があるのですが、その曲はピアノのパンポットが動いていませんが、フレーズが動く事で動いているように聞こえるフレーズと、パンポットをグルッと動かす事で動いているフレーズと二種類のパンポットの動きを使っています。それは後の曲でピアノだけになりますのでわかりやすく聞いていただけると思います。

それではまず、「雨」を聞いて頂きます。このパンポットを参考にしながら曲を聞いてみてください。


( Demo 「雨」 )

上畑:そして、次は「鳥」を聞いてみましょう。「鳥」は先ほども言ったように、色々な位置へ移動したりするものと、(音が)ぐるっと回ったりするものもあります。固定されている音もあり、固定のものでも、フレーズが動いているものはあります。その時に印象がちょっと違うのです。パンポットで動いているものと、固定の中でフレーズが動くのとは位置が違うので、そのへんを感じ取って頂ければ。この図の中の赤い文字で書いてあるのが動いているものです。黒い文字で書いてあるのが止まっている音です。


( Demo 「鳥」 )

上畑:今日の曲ですが、ライブでやる事を大前提に考えて作ったので、センターがありません。最後に聴いていただく「REGENERATION」だけ映像のために作りましたので、これは5.1chで作ってあります。それ以外(の曲)は4chです。低音がなっていても基本的にはLFEから低音がなっているわけではなく、4つのスピーカーで低音がなっているだけということです。それでは後2曲、聴いていきたいと思いますが、「般若心経」です。この「般若心経」は先ほども言った通り、基本的には般若心経のお経だけで作ってあります。お経以外はエフェクトのみです。エフェクトとサラウンドパンだけです。パンニングのみで作ってあります。それで一応曲として成り立つのかと実験的にやってみよう、ということでやったものです。ではそれを踏まえた上で聴いてみてください。


( Demo 「般若心経」 )

最後に空調の音が残るのがお寺らしいです。(一同笑い)そして(「REGENERATION」は)先ほども言った、今日唯一の5.1chですね。これはサラウンドデザインだけでも3種類ありまして、これもかなり複雑な曲の作りをしました。曲調が複雑な訳ではなく、色んな音がちょっとずつ出てくるということで、説明するのもややこしいですがここにはSEしかありません。SEの状態で色んな動きがあったり、爆発がドーンと真ん中に集まってきたりします。ここでもSEが中心なのです。キーンという音が前にあったり、「ピピッ」という音が左にいたり、ループが真ん中であったりとかです。その位置もど真ん中のへんにいるのか、前の方の真ん中なのかというところも一応考えながら作っていて、ムービングパットが動き回っているという感じになっていますけれども、それはパッドの音ですね。フワフワ~というのがなんとなく漂っている感じになっていたりします。で、「ピピッ」という音は前と後ろに存在しているということですね。ループも各箇所にノイズループというのが存在していて、このダンスノイズループというのが、ダンサーの足音であったりだとか、動きの「キュキュッ」という音であったりだとか、「ガサッ」という音であったりを84(bpm)のテンポでループしているという事です。それは編集して84(bpm)を作ったわけではなく、ある一部を切りだして84(bpm)という音の中にハマっていたので、それをそのまま使っています。全く編集していません。自然の中にループが存在するっていうのが、丁度面白かったなぁと思っています。
さらにもうひとつ、ここには動くものを中心に書いたのですが、グルッと回っているのは、ずっと上がっていくシンセが出てくるのですけども、その「ウーン」とあがっていくシンセはどんどん回転します。そういう音が存在し、それと別個に移動するものが幾つかあって、例えばベースとかですね、フィルゲルヴォイスっていうのもあっち行ったりこっち行ったりします。フィルゲルヴォイスは「アァアー」などという声が出て来ますのでそれを聴いてみてください。あとベースは真ん中です。完全にど真ん中にいます。その周りに、ムービングベースというのが同じフレーズで別の音色、もっと尖った音で、ちょっとテクノ的な音で出て来ますけれども、それは色んな場所を動き回るという風にしてあります。ではこれを踏まえて曲を聴いてみてください。




( Demo「REGENERATION」 )

(拍手)
上畑:ありがとうございました。それでは今後の可能性ということで、2点述べたいと思います。

1 HD配信時代に音楽サラウンドは存在できるかということです。高音質配信に音楽サラウンドとしての存在価値を
考えていくことです。
2 どんなニーズを想定して制作していくのか。今後のビジネスの方向性を考えて、どんな対策が必要か?

についてお話します。
それでは、HD配信時代に音楽サラウンドは存在できるか、どんなニーズかということですが、まずDAWのパワーが必要ということがかなりのネックになります。投資額がかなりかかるということで、やはりお金がかかるということは一つのネックとなる材料になります。しかし、そこを踏まえても、私にはチャンスがあるのではないかと思います。AV機器やテレビを含めても標準にネットにつながるようにできています。聞く側は簡単になってきています。しかもテレビも3D化してきています。聞くほうはどんどん選べるようになって来ています。ですが、ソフトがない。なのでとりあえず映画を見るか、ということになってしまい、ほとんどが映画中心になっています。サラウンドといえば映画ということに陥りやすい。だからこそDAWのパワーが必要で、少々投資額が高いがみんなで支えあって作品を出すことが大切なのです。

次ですね。5.1chのスピーカーは、すでに安いものはすぐ手に入る状態で、あるネット通販サイトで見ても2万円くらいでそろいます。それぐらい簡単なものはすぐ手に入ります。セッティングはHDMIという端子ができたことによりAV機器との接続が非常に簡単になりました。つまりそれは個人的な導入がしやすいということになります。そのことにより、視聴者が増え、ニーズが増えるということになります。しかし、今ほとんどの人がニーズの中に音楽サラウンドということはないと思います。それはなぜかというと作ってないからです。普通にCDを聞くというようにサラウンドを聞くということがあると思います。そのような状態になんとかもっていけたらと思っています。
どういった利点があるのかというと、自分の空間が作れるということです。今の時代は個性を重視する時代になっていますので、非常に自分の空間を大切にするという方が多い。たとえば、香りを楽しむとともに音楽を楽しむ。もしくはサラウンドの環境音を楽しむというのもありうると思っています。なので、殺風景ないつもの部屋の中に、香りのような音楽が存在してもいいのではないかと思っています。それにより瞑想ができたり、リラックスできたりして、次の日の活力になっていくのではないかと思います。

そして先ほどから申しておりますが、イベントやライブというところでのサラウンドの価値ですね。これが非常に私はあると思っています。実際に少しずつライブでサラウンドをやっていっています。それの反応としては、思いもよらなかったのですが、サラウンドの曲だけという大前提で聞くとお客様が思った以上に集中して聞いていました。そしてその集中の仕方が下を向いて眼をつぶり、集中している方が多かったです。これはどこの会場でも、かなりの方がそうやっていました。そのとき私はこういうのはニーズがあるのだなと思いました。このようなものは、やってみないとニーズに気づけないもので、やってみてよかったなと思いました。あと、年齢的なものなのですが、実際にライブでやったところで偏りがあるのかと思っていたのですが、実はまったくありません。子供用の曲をやれば子供が楽しむ、大人っぽい曲をやればお年寄りでも楽しんでいただけます。当然若者でも楽しいし、中高年の人でも楽しいということになります。年齢的な偏りはまったくないということがライブを通してわかりました。子供はわかりやすいほうが楽しめるようですね。たとえば波の音が前から「ざばーん」とかやってみたりしたんですけども、そうすると、それにあわせて後ろを振り返るんですね。後ろで音が鳴ったら後ろを向いて、音が前にいくにつれて首も前にいくということです。子供は非常に正直で「海はどこにあるの?」と言っていました。それくらい、映像がないことが面白いということです。映像があると前に映っていれば前にあるとわかってしまいます。なので前の映像のために音が流れていると意識してしまいます。なので、映像がないことによりそのような想像力が膨らむということがわかりました。なので、これには絶対ニーズがあると思います。ということで、このいい音で流すということが、家で楽しむことにおいても、ライブで楽しむことにおいても、サラウンドを再現するうえでとても重要になってきます。なぜかというと、より自然になるからです。サラウンドというのは最初にも言ったとおり空間表現なので、空間表現というのはそれが自然であればあるほど入り込めるということなのです。はいりこむためには自然に近い状態にしてあげる。そして高音質であればあるほど自然に近い。例外として、歌謡曲やテクノのようなものは高音質でなくてもサラウンド感が楽しめます。基本的に、自然の音や生楽器を再現するときは自然に近い音のほうがよりサラウンド感を楽しめるということです。


以上を踏まえた上で、今後のビジネスを踏まえた方向性はどうなるのか、またその対策はどうするのかということです。私の中では、4つ重要な点があると考えています。現在すでに実現されているものもあると思いますが、あえて取り上げてみました。

1 ライブとレコーディングの融合です。これは私もすでにやっておりますが、他にも何名かいらっしゃるみたいです。リアルタイムコントロール。ライブの醍醐味はリアルタイムであるということです。その場で起きる出来事を楽しむのがライブのよさなので、録音したものと、生のパフォーマンスをプラスする。たとえば生演奏、生歌がそこで行われるとします。それを踏まえたうえでレコーディングされたものを混ぜるということです。しかもレコーディングされたものを音量を少し抑え、生演奏は生で聞いてもらう。そうすると生音の空間ができますよね。空間とレコーディングされたものを混ぜていくということです。それを前もって把握した空間の音で曲作りをしていくと面白いのではないかと思います。それにプラスしてリアルタイムコントロールということはつまり、生でのミキシングです。これは普通のステレオのライブだと、いたって普通に行われていることです。そのリバーブをかけたりすることをサラウンドでも生で行われたら、もっと面白いと思います。

2 協力体制の確立だと思います。作曲家もエンジニアも機材を持っている会社も、そのような垣根をとりはらいサラウンドの面白さを皆が理解したうえで、協力体制ができないかということを考えています。
まず曲を作る側としては、作品を作る段階でサラウンドを意識しないといけません。別々に発想するなら、エンジニアにやってもらったほうがよいと思います。曲を作る際、どのようなサラウンドにするかということを明確にすることが重要になってきます。それにはやはり他の色々なサラウンドを聞き、それに慣れていくことが必要なのではないかと思います。もうひとつは、エンジニアの方とのサラウンド的な交流です。ステレオだと、作曲家なら普通に家でミックスするということが多々あると思いますので、ステレオには慣れていると思いますが、サラウンドに慣れるには、今まで経験したことのない方法でなければサラウンドにならないので、実際にエンジニアの方に話を聞いたりしないといけないと思います。協力体制として機材ですね、たとえばマイクとか、良い音に録音するには、やはり高くなってしまいます。それを個人レベルで考えていると大変なので、みんなの協力の下でなにかができないかなと考えています。要するに、プロになってやっと生計が立てられるようになりましたという状態のあとでは遅いということです。小さいころからサラウンドに慣れ親しんだ人のほうが絶対に良い作品を作れると思います。なので、今の小さい世代の人たちに今からサラウンドに慣れ親しめるような環境を作り、今は協力してそのような状態に持っていけたら良いなと思っています。そして、このサラウンド寺子屋というのがとてもいい環境だと思っています。あとは企画という意味でコンテストがあっても良いかなということで、そういった宣伝的なものもあっていいかなと思っています。用するに、コミュニケーションが垣根なくできれば良いと思っています。

3 機材を簡素化していくということです。それにより、たとえば、あまり大きくない部屋でサラウンドのライブができるかと考えると非常にやりやすいと思います。ちょっとしたコンサートですぐにサラウンドができるということです。小さいスピーカーで良い音を出す。あとはパソコンのパワーですね、これは最近、だいぶ上がってきましたのでかなり表現ができるようになってきました。
コンサートもやりやすくなり、作品に関わる人が増え、仕事も増え、そうなればお金も動き、活性化してくると思います。お金がかかるから協力しようということもあるのですが、そうではなく1人や2人など少ない人数でもできるような機材をメーカーさんには作っていただき、それは協力体制の中で実現できればいいな思っています。

友人たちにサラウンドについてどう思っているかということを会うたびに聞くのですが、一番多い答えは「必要性を感じない」でした。ステレオでいいじゃないかということです。そしてやはりお金がかかるということも絡んでいるようです。そのような壁にぶつかった方はたくさんいると思います。しかし、その中でもなぜサラウンドに必要を感じないと思うのかを考えてみました。まず、作曲家・ミュージシャンからしてみると、演奏中はミュージシャンは快感を覚えています。作ることでの快感というものを感じています。その快感の中から生まれたものにアーティスト性はあるということです。それにより聞くほうが魅力的に感じます。そこの部分を原点に立ち返らせるということです。つまり、サラウンドで作る快感を覚えるようになれば、サラウンドでの需要も増してくるということになります。

4 映像とサラウンドの相乗効果です。音楽は映像を盛り上げるという大前提があります。たとえば映画でも映像を盛り上げるために音楽や効果音を足していくという考えだと思いますけども、このサラウンドはこういう映像が合いますっていう考えは、今はほとんどないと思います。音楽としてのサラウンドを作ることにより、映像にいい効果をもたらし、相乗効果でいいものが作れるのではないかと思います。

5 ライブとレコーディングの融合。これは新しいジャンルになりえるほど面白いと思います。これはレコーディングしたものをライブに持ち込むということで、ステレオと違い空間としてできたものをライブに持ってこれるということになります。ライブ空間を違う感じで表現できるのが面白いと思っています。実際にライブのリハーサルでサラウンドを行った際、ミュージシャンの反応がよく、空間の中に自分が入り込むというのがすごく気持ちいいみたいで、ポテンシャルが上がるとミュージシャンもおっしゃっていたので、サラウンドの効果はあるんだなと感じました。当然それは客席にも効果があるわけですから、ミュージシャンだけでなく、お客様も楽しんでもらえるということで相乗効果でよい空間がライブでできるということになります。当然サラウンドでは実在しない空間というのも作れるので、先ほどの「REGENERATION」のような仮想空間を作って、そこのお客様を引き込んでしまうということがおきます。それに映像や照明を加える効果も期待できます。そのような意味でサラウンドはライブと相性が良いと言えます。

先ほど言っていた、リアルタイムコントロールですが、エフェクトがかなり重要になってくると思います。ディレイやリバーブがステレオよりも効果が大きいです。そういった効果をリアルタイムでミュージシャンが感じられればもっと面白くなると思います。これはとても大変なことです。ですが、効果は「大」です。ミュージシャンが簡単に操作できるような機材があれば面白いですよね。感覚的にミュージシャンが操作できたらいいと思います。それに近いものは徐々に出てきつつあると思います。あとパンポッドの操作ですが、これはPAでぐるぐるまわしたり、後ろから前にいったりなど、必ずしも前でパフォーマンスをしなくてもいいということです。


という感じでお話をしてまいりましたが、これからはご意見やお質問などあればと思うのですがいかがでしょうか?


Q:(質問ではなく)曲の感想になりますが、「般若心経」を聞くと教会での聖歌のようなイメージでしたが、サラウンドで教会をイメージされましたか?
A:サラウンドにする意味を考えました。お経を読むだけではサラウンドする意味が全くない。実際に生で読んで頂い方が良いに決まっているではないですか。作品にするには音楽的なものを加えないと作品にはできない。でも、実際にお経を読んでもらうのに、歌ってもらうわけにはいかないので、「高めに読んで下さい」とか「低めに読んで下さい」とかお願いしました。一人のお坊さんにお願いしたので同じ声なので、コーラス効果もでますし、重なって行けば歌のように聞こえますが、でも内容はあくまでもお経です。

Q:いろいろな声が重なっているときに、歌のように聞こえ、凄いなと思いました。
A:実際のお経や声明などをサラウンドで録音したり、放送などはあると思います。声明をただ録音するだけでは私がやる意味が無い。(私がやるのなら)音楽になってなくてはならない。いちおう、これが試作品で「五大五感」と言うコンサートでは、声明もお経もたくさん取り込んで、今までに誰もがやったことのないお経のコラボレーションをやってみようと思います。

Q:ライブでやることが、凄く良いなと思っています。私も一度だけ、自分で作ったサラウンド作品に、役者の友人とコラボレーションをしたことがあります。リハーサル時に5.1(サラウンド)のシステムを用意することができなくて困りました。(上畑さんは)どのようにされていますか? コンサートの時、モニターをどうやって組んでいるのが教えてください。
A:演奏者にはミックスしたものを使っています。演奏者の方にサラウンドで聞いてもらうのは不可能です。できれば、ステレオミックスで。演奏者の方が聞こえるような場所を選ぶことが重要だと思うのです。演奏者がサラウンドに包み込まれることによって、テンションが上がっていくことがあります。サラウンドの効果として考えるならば、ステージ含んでサラウンドで包みこんでしまう。そこで、ハウリング対策なども考える必要があります。その中に演奏者を含めることは演奏者にとっても面白いことです。例えば演奏者の声がサラウンドで再生されるこの面白さは、今までに演奏者が経験したことがない面白さがあるので、よりテンションが上がって、思いもよらないフレーズをやってくれることがあります。リハーサルですが、私はサラウンドのスピーカーを持っているので、MacBook Proとオーディオインターフェイスから再生しています。リハーサルをサラウンドで行うことを考えると、同じスピーカーで安いものでいいので、揃えるのが一番早いと思います。それすらも結構大変なので、誰かから借りやすいもの借りると、2つステレオを借りれば4チャンネル(サラウンド)になる。(笑い)同じものを持っている人を探す、そうゆう協力体制ができるとだいぶ違ってくると思います。

Q:音楽のサラウンドで低音の使い方のコツはありますか?。
A:ムービング・ベースに関しては、ベースの音でこうしたいではなく、音色を選ぶ段階でたまたまベースの音が自分の感覚と一致したのでそれを動かしてみました。それが、テクノ的な感じのイメージとも合ったので、それが動きまわると面白い、(ベースなので)低音も動き、ハイの音も出ているので、上下感もあると思います。ドーンという低音は基本的に真ん中に置きます。以前は、端っこに置いていたのですが、沢口さんに助言を頂いてセンターが良いと。実際にやってみると何が良いかと言うと、座る位置によらず、どこでも低音を感じることができるということです。低音は、お客さんの座る位置に寄らず感じさせたい。低音に関しては、結構、お客さんの感覚に影響します。(定位は)フロントのセンターではなく、サラウンドセンターです。

Q:先ほど聞かせて頂いた、上から下に降ってくる雨の録音で工夫をされたことはありますか?
A:基本的には、雨を雨らしく録れるポイントを探すことです。特に上から下に降ってくるので、上下にマイクをセットしたわけではなく、普通にセットをしました。それでも、録る位置によって全然聞こえ方が違うので、チェックをしながら(聞きながら)、セッティングをしています。ここが気持ち良いなとか、自然に聞こえるとか、雨の音が聞こえて風の音が聞こえにくいとか、色々なポイントがあることを、マイクを向けて探しています。

Q:サラウンドで、動かしにくい音や、大きく動かしやすい音はありますか?
A:それは音色によって違います。気を引く音で動かしてわかりにくいのはサイン波です。携帯が鳴っていてわからないのと同じです。それと、低音は定位感がわかりにくいです。それ以外のものはちょっとした工夫で。一番重要なのことは、動かすことをきちんと意識してミックスすることです。動いているのに、他に意識が行くと無駄になり、ノイズのようになります。逆に、動いていても意識しないような曲作りもできます。本来は、動かしたところに意識が行くようにすれば、効果としては伝わりやすく、楽しんでもらえます。

Q:お経のレコーディングで、高くとか低くとか読まれるようにとお願いしたとのことですが、譜面上に音程があるわけではないので、工夫されたことはありますか?
A:音程を出すプロではないので、(無理にお願いして)不自然になり、お経として成り立っていなければ心には届かないといます。実際にお経の中で音程が変わっていくことも取り入れています。補正せずにそのままで、編集で切ればなんとでもなります。お経を読んで頂く時は、高く読んで下さいとお願いをしますが、毎回同じ音程にはならないし、偶然に生まれた方が面白い。予定調和でなく偶然にはまったときは、録音しながらぞくぞくとします。録音したものは聞いてもらっていません。聞いてもらうとプレッシャーになります。一回サンプルとして録ったものを聞いてもらって、音程やタイミングを合わせました。

Q:サラウンドの作品は、作曲家の段階で音の定位を考えた上で次に渡すとありましたが、普通の歌謡曲でサラウンドにしたものに意味があると思いますか?
A:歌謡曲でも意味はあると思います。(サラウンドを)想定して曲を作れば意味があると思います。でも、想定せずに作ると無理矢理感が出ると思います。いろいろなロックの曲などのサラウンドを聞いてみると、正直、これはサラウンドにする意味があるのか疑問に思う曲も沢山ありました。その中で、これはサラウンドにする意味があったと感じたのは、ビートルズの「LOVE」です。あの企画が始まった時点でサラウンドを想定していたので上手くいったのではないでしょうか。ビートルズ自身がサラウンドにしたかったのではと思わせるほど(サラウンドで)構築されています。(ビートルズの「LOVE」のように)サラウンドでポップスを作って行くのだと考えて作っていくとサラウンドの意味があります。

Q:(サラウンド作品の)ステレオでの再生は考えていますか。
A:ステレオでの再生は、できればして欲しくない。しかし、ステレオ再生ができないとなると、聞く人が限られてしまいますのでそうしないように、ステレオでのサラウンド感を保つコンバートの方法を考えていきたいと思います。例えば、コンバートする段階で、イヤフォン限定で聞いてもらうことにして、それに対してミックスをして、イヤホンで聞いてもらう。ダウンミックスするのではなく、まったく(一から)ステレオのミックスを同じ雰囲気になるように作る方法もありまが、これは大変労力がかかります。できればそうするのがベストです。

Q:今回の作品は、パッケージ等で発売する予定はありますか?
A:現在、検討をしています。パッケージでの販売を考えた場合、ステレオでの再生環境の方が圧倒的に多いのでの、そこが(サラウンドの)入り口になると思います。その作品をステレオで聞いた上で、さらに「5.1chサラウンドを聞くともっと面白いんですよ」となると良いと思います。そこで先ほどお話した協力体制で、このサラウンド感を(ステレオでも)どうにかしてよとなります。まず、(サラウンドで)新曲をどんどん作って行って、それで活性化していく。次の段階で、みんなが関われるように、良い悪いではなく、作品があるかないか、(サラウンド作品が)沢山あれば選べるので、この曲が好きな人ができてくる、そうなれば、その曲を修正し、仕上げて行けばと考えています。デモでも良いと思います。いきなり完成品を作ることを考えると、どうしても、お金がないと動かないとなるので。


Q:(Ustreamからの質問1)音の、右回転と左回転に意図はありますか?
A:それは特にないです。曲を作る上で好みはありますが、右回転したから、右脳を刺激するとかの理屈はありません。(一同笑い)作曲家とかミュージシャンは快感をもとに判断しでいるので、快感があるのが右回転なら右回転、この音は左回転で快感があるなら、多分、左回転にすると思います。作る方の快感の感じ方だと思います。

Q:(Ustreamからの質問2)ライブでの、ミュージシャンへのモニターへの対応は考えていますか?
A:対応するには、ミキサーをもう一人置くしかないです。でも予算が増えるだけなので、基本的にはステレオの素材を作ってステージ上に返すのが簡単です。それでは演奏者がサラウンドを楽しめない。本当はステージ上でもサラウンドに聞こえるようにセッテイングする、会場からステージに戻ってくる音はあるので、ステージの後ろにもスピーカーを置くことです。その時、問題になるのがハウリングです。ハウリングを上手にクリアーしつつ、ステージ(後方)にもスピーカーを置ければサラウンドになり、演奏者がサラウンド体験すれば楽しくなることはわかっています。

沢口:作曲家の方から質問はありませんか?
Q:ピアノのフレーズで、スコアーで書くと、スラーを書くようなひとつのフレーズをパンニングの分けるときのエフェクトの工夫はありますか?
A:いろいろあります。流れるようにパンニングする、また、流れるようなフレーズを切ると、本来流れるはずのものが急に移動し、裏切られ、気持ちが悪い。その気持ち悪さを楽しむ。人間は裏切られることが好きです。サラウンドではそのような楽しさがあります。他にもいろいろあります。

沢口:上畑さんどうもありがとうございました。大変な制作ノウハウがつまった資料も用意していただき、また初公開の楽曲もデモしていただきました。USTREMのみなさんには、コピーライトを考慮して楽曲再生は、無音になったしまいましたが、ご了承ください。音楽サラウンド、是非元気にしましょう!(一同拍手)

[関連リンク]

上畑正和オフィシャルサイト
http://www.uz-world.com/


「サラウンド入門」は実践的な解説書です

May 1, 2011

第78回 3D 劇場作品 Sound Horizon 7th Story Concert:実践5.1ch サラウンド番組制作


By Satoshi Inoue 井上 哲 + 浜田 純伸氏(ワンダーステーション)


“まずはワンダーステーションで完成されたステムミックスを、映画館の環境に適合させるようにバランス、音質、定位、ダイナミックレンジなどの調整を行った。特に フロントの楽器のパンニングや広がり具合、 ダイバージェンスの量などは、小型の映像モニターを基準に作業をおこなったスタジ オでのMIX 時と、大型スクリーンの東映ダビングステージではイメージがかなり違って聴こえるため、それに合わせて修正を施していった。(中略) ほぼ仕上がりに近いミックスが完成した段階で、同じ東映デジタルセンター内にある 3D 対応シアターにて、完成された 3D 映像(HDCAM-SR・デュアル ストリーム)に Pro Toolsを同期させてプレビューを行い、確認作業も行った。同じ映画館サイズの音響環境とはいえ、別の環境でのチェックは頭(耳)をリフレッシュする意味でも非常に有効で、ここで 3D映 像とサラウンド音声のマッチングや全体のバランスを最終確認した上で、ダビングス タジオに戻り、再修正、ファイナルミックスを行った。”
月刊FDI 2011/5(PDF)より

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