by
Mick Sawaguchi サラウンド寺子屋塾主宰
期日:2015年6月30日(木)
場所:シンタックス JAPAN 赤坂OFFICE 5F mEx-Lounge
場所:シンタックス JAPAN 赤坂OFFICE 5F mEx-Lounge
はじめに
〜2015年リリースされた打楽器奏者の加藤訓子さんのSA-CDサラウンドアルバムを始めハイレゾ制作においてデジタル・マイクロフォンの持つ特徴が注目され始めました。今回のサラウンド寺子屋塾では、国内でデジタル・マイクロフォンを早くからレコーディングに導入してきたongaq伊藤隆文さんから制作の実際とデモを。そしてデジタル.マイクロフォンの原理とAES42規格についてゼンハイザーJAPAN堂田淳さんから解説していただくことにしました。
講師:伊藤隆文(株ongaq)www.ongaq.com
1972年山形県米沢市生まれ。専門学校卒業後,音響ハウスへ入社。1995 年レコーディングエンジニアとして活動が始まり、アナログテープレコーダーでの録音からD S D レコーディングまで幅広くレコーディングテクニックを学ぶ。
18年間のスタジオ修行を経て、2011年3月より活動の場をongaqへ移し、デジタルマイクをメインに使用した活動を行っている。録音専門オーケストラ「gaQdan」にもレコーディングエンジニアとして参加。
堂田 淳(ゼンハイザーJAPAN 株)
沢口:91回目のサラウンド寺子屋塾を始めたいと思います。今回のテーマは、「デジタル・マイクロフォン」です。現在の音響制作でアナログの技術が健在なのは、音の入り口であるマイクロフォンと出口のモニタースピーカですが、ここにもまずモニタースピーカにDSPとD/A変換器が搭載されLANケーブルで接続できるモニタリングシステムが登場しました。そして今回は、音の入り口であるマイクロフォンにもデジタル化の技術が登場したというわけです。しかしデジタル.マイクロフォンという製品自体は、10数年まえからあった訳ですが、最近注目され始めた背景は何か?という点を今回は、考える事にしたいと思います。本日の講師役は、最初にデジタル・マイクロフォンの原理についてゼンハイザーJAPANの堂田さんから、そしてその実際と応用についてongaq社のエンジニアであります伊藤さんからお話とデモをお願いしました。そして毎回会場を提供していただいていますシンタックス.ジャパンの皆様に感謝申し上げます。では,堂田さん、よろしくお願いします。
堂田:みなさん初めまして。ゼンハイザーJAPANでプロ機器を担当しています堂田です。サラウンド寺子屋塾への参加は、前回90回の時に参加しまして今回は,講師役を担当します。4年前に伊藤さんが興味をもっていただきデジタル・マイクを担当しましたが、私自身もその当時は、どういったマイクロフォンなのか、明確なイメージを持つ事が出来ませんでした。それでは,本日の内容を紹介します。
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デジタル・マイクロフォンの原理
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AES42規格とは
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A/D変換の流れ
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デジタル・マイクロフォンの歴史と現在
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具体製品の紹介
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放送.Live.Recording等の導入事例
といった流れでお話します。
1. デジタル・マイクロフォン Vs アナログ・マイクロフォン
図にしましたのが,従来のマイクロフォンからDAWまでの信号の流れと、デジタル.マイクロフォンの信号の流れです。大きな相違は、マイクカプセルに直結したA/Dコンバータ+DSP回路の後で、デジタル・マイクロフォン専用マイクプリを経由してDAWへ記録される事です。
この結果以下のような従来にない特徴を得る事ができます。
最も特徴的なA/D変換について紹介します。
図のようにマイクカプセルの直後に変換回路があります。A/D変換で生じる遅延は、サンプリング周波数により0.5msec~2msecあり、得られるダイナミックレンジは、130dbです。
2. AES-42規格とは?
デジタル・マイクロフォン信号伝送用の規格として1997~99年にノイマン社を始め4社でAESコンベンションにて規格を提案し,2001年にAES42-2001規格として策定し2010年まで改訂をしながらバージョンアップしています。その内容は、
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モード1とモード2
これは,デジタル機器特有の同期に関する規定です。
モード1は、自身の固定サンプリング周波数で動作し,信号受信側に可変サンプリング機能が必要となるモードです。具体例では、Schoeps Super CMIT 2Uというガンマイクなどがこの動作です。
モード2は、自身に可変サンプリング周波数機能があり、外部ソースとも同期することができますのでマルチマイク運用が可能です。DSPやリモートコントロールも出来ますのでマイク自身の各種設定等をこれでコントロールできます。
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デジタルファントムパワーリング(DPP)
10V+/-0.5V
250maの電源をマイク側へ供給し、AES3伝送用の2芯線を介していますので同軸のAES3id伝送では供給できません。
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AES3音声出力
AES3伝送ケーブルが指定されていますが、短い距離であれば通常のバランスアナログマイクケーブルも使えます。その許容距離は、48KHzサンプリングで100m,192KHzで30mを目処にしてください。AES3伝送ケーブルですとそれぞれ300m.90mと3倍に伸びます。
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モード2におけるリモートコントロール機能
図に示すようにマイクロフォンの指向性切り替え/Pre-Att/フィルター/ゲイン/Comp-Lim設定/ミュートといった各チャンネルコントロールとメーカー.モデル/シリアル番号/ステータス情報/ソフトウエアーinfo等をコントロールまたはメモリーしておく事が出来ます。
3 デジタル・マイクロフォンの歴史
デジタル・マイクロフォンは、1988年NeXT computer用にAriel Digital Micが16bitでダイナミックレンジ92dbの仕様で登場しまた。その後スタジオ用途としてBeyer Dynamic社が1995年にプロトタイプを出し、それを1997年に改良したモデルが、今日の原点となっています。MCD800シリーズは、商業ベースで成功した製品です。
同年Milab社もデジタル・マイクロフォンを登場させました。
2000年代になってノイマン社は,D−01モデルを筆頭にKMシリーズやTLMシリーズ、ハンドマイク、ガンマイクなどでデジタル・マイクを市場へ送り出しています。
4. 現在の製品例紹介
ゼンハイザー社の設計コンセプトは、同じマイクカプセルでありながらプリアンプ部をアナログ対応かデジタル対応か使いわけることでユーザーが選択できるという点が特徴です。
ノイマン/ゼンハイザー社のデジタル.マイク以外にも以下のような各社のモデルがあります。
5 デジタル.マイクロフォン用インターフェース/マイクプリアンプ
シングルのマイクロフォン用コネクションキットから2CHインターフェースそして8CHインターフェース等があります。
6. その他のインターフェース及び対応機器例
デジタルコンソールやフィールドレコーダといった機器でもデジタル.マイクロフォンとの接続を可能にするインターフェースが用意されていますので,紹介します。
7. 実際の制作例
以下では、デジタル・マイクロフォンの様々な使用例を紹介します。
伊藤:ongaqのエンジニア伊藤です。堂田さんからデジタル・マイクロフォンの技術面の解説と現在の製品ラインアップを紹介してもらいましたので、私からは,デジタル・マイクロフォンをどう使うと効果的なのかといったユーザー目線でお話とデモを行いたいと思います。
1. デジタル・マイクロフォンとの出会い
ongaqには、2011年に参加し、それに伴ってこれまでと違う自由な発想で新しいサウンドを作りたいという思いも強くなりました。その理由のひとつは、それまでのスタジオ制作に加えてホールでの録音が増え、ホールにいて耳で聞いていいなと思う場所に従来のマイキングをして戻ってから再生してみると、耳で聞いたサウンドにならないということが度々ありました。そこでアナログ.マイクではなく違った手法をコストとスタッフを増やさないでできないだろうか?と考え,以前パイオニアの岡田さんとスタジオで録音した時に推薦されたデジタル・マイクロフォンを思い出したわけです。
ちょうど5年前くらいから、私自身が、どうデジタル・マイクロフォンを使えば良いかを研究しながら,実践してきました。その当時の感想は、使いにくい!というのが,正直な感想でした。例えば
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距離感がいつもと違う
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他とうまく混ざらない EQ/COMPができない
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セッティングが、いつもと違うので戸惑う
しかし,最近沢口さんの制作した「フーガの技法」等の録音でデジタル・マイクロフォンを使うといったようにデジタル・マイクロフォンということばを耳にするようになりました。ひとつには、種類が増えたことで選択肢が増え、従来と異なったマイキングという発想も出て来たからではないかと思います。
2. デジタル・マイクロフォンを使う大きな理由と特徴
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S/N比と解像度の良さ
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音像の大きさが出る
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セットアップの安心感
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ノイズに強い
私のユーザーとしてのコメントとしては以下のような特徴を上げたいと思います。
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S/N比が良い、解像度が良い
この理由は、堂田さんの解説にもあったようにカプセル直後でA/D変換してデジタル信号伝送する。外部からの雑音の飛び込みや妨害に強くノイズが乗りにくい。ダイアフラムのスペックをみてマイキングプランを作る事が出来る。点にあります。
音響ハウス時代に得た様々なノウハウのひとつに接続する機器の組み合わせで音作りをするというテクニックがあります。しかしデジタル・マイクロフォンによる制作フローは、接続系での変化は、ありませんのでマイキングそのものを吟味すれば望むサウンドが得られるというメリットがあります。
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音質について
印象は,非常にフラットです。音速が速いという印象で音の輪郭も明瞭です。ホール録音等では、画角が広いというか、ステレオでも高さの情報をしっかり捉えていると言えます。
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指向性について
音源とマイクの距離による変化が少ない。映像で言えば被写界深度の深いパンフォーカスと言えます。マイクの指向特性は,非常にシビアなので、マイキングの時は、レーザーポインターやアングル計を使ってきちんと設定すると狙ったサウンドが録音できます。
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安定性
これはモード2での場合、シンクがOKであれば、動作は問題ないのでセットアップの時間が短縮でき,その分演奏者のみなさんと音楽的な話に時間をかけられますので,結果良い出来上がりになります。
◎マルチBOXを使う場合、アナログ信号との棲み分けを行う
これは従来のアナログマイク回線とデジタル回線を同じマルチBOXに共存させないで、独立させることでアナログ回線へのノイズの飛び込みなどを回避させます。スタジオ録音では、スタジオからマイク回線—パッチ盤—コンソールと接続箇所が多くなりますが、アース電位が異なっているとノイズを出す場合があります。その時は,デジタル.マイクロフォンから直引きするのが良いと思います。ホールの場合も同様で回線の経由が多くなると同様の現象が出易くなるので直引きをお勧めします。
映像を伴った撮影スタジオでの録音では、デジタル・マイクロフォンは,大変効果的で回りの電源や照明といったノイズだらけの中でもS/N比よく動作しますので大変心強いです。
3. モデル別の特徴紹介
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D-01
フラグシップといえるマイクで万能です。音は、アナログマイクを立てた場合に比較すると1mくらいは,近く感じます。
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KM133D:大変きめ細かでシルキーな音です。
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KM184D:とても使いやすいデジタル.マイクロフォンです。
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TLM103D:コストパフォーマンスの良いところが気にいっています。
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MKH-8000シリーズ:20/40/50/90とあり指向性は大変正確です。90のワイドカーディオイドは,かぶりの音もきれいなところが気にいっています。
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MZD8000ユニット:これを使うとデジタルoutになりますので、同じ8000シリーズでもアナログとデジタルを楽しむ事が出来ます。
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ノイマンDMI-8 :コントロールするのにパソコンを接続しますので常設機むきです。AES-OUTはYAMAHA/TASCAM両方に対応。
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RME DMC-842:アナログOUT/デジタルOUT/MADI-OUTと3系統あり万能デジタル.マイクプリといえます。
4. 最近作の試聴
それでは,完成MIXサラウンドVERとリストに示しました各マイク別の音を聞いてください。
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サラウンド完成MIX
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デッカツリーのみ
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ステージ上L-C-R
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ORTF
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客席アンビエンス
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天井吊りマイク
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SPOTマイク
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スタジオ録音例
ドラムのトップに使った例です。ハイハットの厚みが良く捉えられているかと思います。次は,女性VOです。新たな試みとしてAGtの録音でU-47tubeとデジタル・マイクロフォンの共存を行った例です。
5. 今後に向けて
私が、デジタル・マイクロフォンの今後にむけていくつか提起しておきたい点は以下の点になります。
Q-01: 指向性の可変は、DSP内で行っているのですか?
Q-02: レベルをリアルタイムで変化した時にノイズや,レイテンシーは、どんな感じですか?
A:ノイズは出ませんが、反応は,少し遅れた感じになります。
Q-03: 通常のファンタム給電は、48Vですがデジタル.マイクは全て10v仕様ですか?
A:全て10vです。ゼンハイザー社MZD 8000は、それを内部で昇圧して、従来の48v給電を可能にしております。これはゼンハイザーMKH 8000 シリーズのマイクヘッドそれ自体が、アナログマイクとして確立されているからです。
Q-04: リモートコントロールできる機能がありますが、マイクカプセル自体の設計は、特別なのですか?
A:カプセル自体は,パッシブなので従来と同じです。
Q-05: カプセルのダイナミックレンジが130dbとありますが、これ以上のレベルがあって、PRE-ATTの20dbでもカバーできない入力ではどうなるのですか?
沢口:今回の講師役 堂田さんと伊藤さん長時間ありがとうございました。本日会場には、デジタル.マイクロフォンとマイクプリ、インターフェースも展示しましたので、ご興味ある方は、どうぞ手に取って見学してください。またテストしてみたい方々も堂田さんや伊藤さんとコンタクトしていただければ,幸いです。(拍手)
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