August 9, 2019

Immersive Audio 大賀ホール録音集大成から見えたもの

大賀ホールImmersive Audio制作6年の集大成
「UNAHQ 2015 ViVa The Four Seasons」の11.1CH制作リポート

Mick Sawaguchi C.E.O UNAMAS Label


はじめに

UNAMASレーベルがクラシック・ジャンルの制作を始めたのは2014年で最初に取り上げたアルバムは、[Four Seasons]でした。その理由の一つは、ポスト5.1CHと言われるImmersive Audioが音楽としてどんな表現の可能性があるのかを研究や実験でなく実際の制作を通じて表現してみたいと思ったからでそのためのジャンルとしてはJAZZではなくクラシック演奏の持つ豊かなアンサンブルや響きの空間性がImmersive Audio表現のために大変大きな優位性があると考えたからです。現在でもこのPVは、YouTubeで60万以上の視聴をされています。

それから6年を経た大賀ホール録音は、スタート時に比べ音楽性も、マイキング手法も、機材構築面でも大幅な試行錯誤を重ねて現在に至っています。本作は、改めてA. VivaldiのFour Seasonsを取り上げ、これまでのART-Technology-Engineeringの集大成として制作したアルバムとなりましたのでその舞台裏をリポートします。



1 アルバム楽曲



UNAHQ 2015 ViVa The Four Seasons-
M-01 Concerto No.1 in E Major. RV 269. [SPRING] 11’28”
Allegro. Largo. Allegro
M-02 Concerto No.2 in g minor. RV 315. [SUMMER] 11’07”
Allegro non molto - Allegro. Adagio Presto Adagio. Presto

M-03 Concerto No.3 in F Major.RV 293. [AUTUMN] 12’11”
Allegro. Adagio molto. Allegro

M-04 Concerto No.4 in f minor. RV 297. [WINTER] 09’53”
Allegro non molto. Largo. Allegro

YouTube PV:
https://www.youtube.com/watch?v=FCS_vGrH1Wg&list=PL0SQ5wEqfkKVzjArvfv1LfNl_vXnF4-33

https://www.youtube.com/watch?v=NZEIG2dOyS0&list=PL0SQ5wEqfkKUgABWd7EKKNnSHxRv20Rea


UNAMAS Strings Sextet
Vn Solo Shiori Takeda
Vn1 Jun Tajiri
Vn2 Fuuko Nakamura
Va Atsuko Aoki
Vc Makito Nishiya
Cb Ippei Kitamura


2 制作スタッフと録音情報



Rec. Date 28TH-29TH January – 2019
At Ohga Hall Karuizawa Nagano Pre JAPAN

Producer: Mick Sawaguchi (Mick Sound Lab UNAMAS Label)
Recording Director: Hideo Irimajiri (Armadillo Studio)
Venue Organizer: Seiji Murai (Synthax JAPAN Inc)
Rec/Mix/Mastering: Mick Sawaguchi (Mick Sound Lab)
Digital Edit: Jun Tajiri
Artist Booking: Shiori Takeda
Recording System Engineer: Jin Itoh (Synthax JAPAN Inc)
Peripheral Facility by Kiyotaka Miyashita (JINON)

MADI Rec by DMC842/Micstasy/MADI face XT
 (Synthax Japan Inc)
Digital Mic KM-133D as Main Mic (Sennheiser JAPAN K.K)
Mic Cable: The Chord Company
AccousticRevive (Sekiguchi Machine CO.LTD)
Battery Power Supply by PowerYIILE PLUS (ELIIYPower CO.LTD)
DAW: Pyramix V-11 192-32 Rec-Master (DSP-JAPAN LTD)
     Magix Sequoia V-13

4K HD Production: Tad Hosomi (Studio C'est la vie Co. Ltd.)
Photo by Tad Hosomi Mick Sawaguchi
J.K Design : M-Works

3 アルバムコンセプト

UNAMASレーベルは、毎回アルバム制作を行う前に3つのキーコンセプトを設定し実際の制作に入ります。今回もそれに準じてART Technology, Engineeringの三つについて具体的な取り組みを紹介します。

3-1 ART

前作では、若手アーティスト4人により弦楽4重奏のスコアを元に各4楽章のソロパートを4人それぞれがオーバーダビングによりソロ演奏するというレコーディング方式を取りました。まずアンサンブルパートを仕上げてから、春のソロはVn2で夏は、Vc秋はVaそして冬はVn1の方々にソロパートを演奏していただきました。元々Vnソロのために作曲しているスコアをそれぞれの楽器に合うようにアレンジし特にVcでの演奏では、その素晴らしい運指さばきで見事な夏が完成しました。このアルバムは、現在でもベストセラーアルバムを維持し、YouTube にアップロードしているUNAMAS—4Kチャンネル内でもこのPVは、60万に及ぶビューイングを数えています。

クラシック・アルバム制作を経てこの「Four Seasons」に新たな味を加えてみたいと2018春からアーティストの皆さんとどんな編成が有効かを検討しました。今回はソロパートをVnで単独演奏し、それ以外に最低4−5名で編成可能なスコアを前提しました。VnソロはこれまでもUNAMASクラシック・アルバム制作で常連でもありアルバムごとのアーティスト・ブッキングも担当している竹田詩織さんに依頼しました。彼女にとってもアルバムでのソロは初となります。その結果、弦楽5重奏+パイプオルガンという編成のスコアがありましたので、このパイプオルガンのパートをコントラバスで演奏する弦楽6重奏でアルバム制作することにしました。UNAMAS Labelの特徴の一つである低域成分の重視を今回もコントラバスによって表現しています。
前作では、弦楽4重奏でしたのでVcが低域を受け持っていますが、これがコントラバスまで拡大すると同じホールであっても表現力が大きく拡大していることがお聞きになれると思います。




もう一つは、Four Seasonsには、作曲者であるA. Vivaldiが情景描写の解説-Sonnetを書いていますので本作ではこれを元にアーティストの方向性と演奏ニュアンスを統一しました。

例えば、春の第一楽章アレグロでは春がやってきた、小鳥は喜び囀りながら祝っている。小川のせせらぎ、風が優しく撫でる。春を告げる雷が轟音を立て黒い雲が空を覆う、そして嵐は去り小鳥は素晴らしい声で歌う。鳥の声をソロヴァイオリンが高らかにそして華やかにうたいあげる。

最後の冬第3楽章 アレグロ。私たちはゆっくりと用心深く、つまづいて倒れないようにして氷の上を歩く。ソロヴァイオリンは弓を長く使ってこの旋律を弾き、ゆっくりと静かな旋律に続く。しかし突然、滑って氷に叩きつけられた。氷が裂けて割れ、頑丈なドアから出ると外はシロッコと北風がビュービューと吹いていく。そんな冬であるが、もうすぐ楽しい春がやってくる。
といった情景描写です。特にVnソロの竹田詩織さんはこれに基づいて演奏のニュアンスを設定しています。


世の中には、何百枚という「Four Seasons」アルバムがありますが、本作は、その中でも11.1CH 192KHz-24bitという大きな表現を実現した挑戦的なアルバムといえます。



3-2 Technologies

UNAMAS Labelのレコーディングシステムは、これまで7年間の積み重ねの中でほぼ一定に集約されてきました。ポイントは、

マスター・チャンネル数と同じ数のマイキング(現状は、Immersive Audioマスターなので11.1CHがファイナル・マスターとなりレコーディング時のマイキングも12CH)
メインマイクは、インパルス・レスポンスに優れ外来ノイズにも強いデジタル・マイクロフォン
演奏者近傍に設置したリモート・マイクロフォンプリアンプとDAW機器までをMADI 192-24 光伝送
S/N比向上、外来ノイズ排除のための様々なノイズ対策やアース対策
機材の電源は、バッテリー給電しインバーターノイズも対策
マイクロフォン・ケーブルや電源ケーブルの吟味・ACアダプターの専用化
リスナーの聴取環境の多様化に応じたリリース・フォーマット








3−3 Engineering

本作の最大の特徴は、Immersive Audio録音用に開発されたメインマイクツリーの導入にあります。7.1CHのメインマイキングは、図に示すようなツリー構造です。このツリーを中心にして演奏者は、それを取り囲むように配置します。




 もう一つは、SONY社が26年ぶりにリリースしたハイレゾ対応マイクロフォンC-100をハイトチャンネルに4本設置し、同時にさらに離れたホール2階席のバルコニーにもハイトチャンネル用にSanken CUW-180X2を設置したことです。同じ演奏で異なるハイトチャンネルの録音で再現される音場にどのような相違があるのかを検証するためでした。




3-4 2タイプのハイト・マイキング比較

今回は、同一メインマイキングに2タイプのハイト・マイキングを行いました。これまでは、場所は異なりますが、ハイト・マイキングはそれぞれ1個所の設置でしたので今後の検証も含め2タイプ設置して特徴などを比較し、最終的にはどちらかを使用するという目的で設置しました。

タイプ−01:「UNAHQ 2012 フローレンスの思い出」で設置した2階バルコニー席からの設置
タイプ−02:「UNAHQ 2009 死と乙女」で設置したステージ両端からの設置

以下に春第一楽章と夏第3楽章のそれぞれのスペクトルを示します。

春第1楽章
ステージ両端(SONY C-100X4)

2階バルコニー席(SANKEN CUW-180X2)

夏第3楽章
ステージ両端(SONY C-100X4)

2階バルコニー席(SANKEN CUW-180X2)


両者のハイトチャンネル成分だけを聞いてみると
ステージ両端のサウンドは、メインマイクからのカブリが少なく豊かな響きが多く捉えられている。
2階バルコニー席からでは、意外にもメインマイクと同様なメインの成分が多く、響きはやや少ないという結果でした。

当初の予想では、逆の結果が出るかと想像していましたので、こうした検証も大切だと痛感しました。

細部で言えば、メインマイク用のデジタルマイクケーブルに今回イギリスThe Chord Company社のデジタルケーブルを使用しています。Chord社としても初めてのデジタルケーブルを輸入元であるアンダンテ・ラルゴ社のご好意で特注していただきました。



UNAMAS Labelの音楽の特徴である静寂から音楽から浮かび上がってくるS/N比の良さと解像度の良さが一層高まったと思っています。


参考:ライナーノーツ抜粋
麻倉怜士(AV評論/津田塾大学音楽史講師)

今作品、ヴィヴァルディ『四季』ViVa The Four Seasonsは、UNAMASの大賀ホールプロジェクトの集大成だ。「集大成」という意味は音楽的、技術的、録音テクニックの3つの領域での総決算ということだ。

『四季』はイ・ムジチ以来、数百のアルバムがリリースされている超人気作。UNAMAS『四季』は第1作「Four Seasons」からして実にユニークだった。弦楽4重奏スコアをそのまま演奏し、アンサンブルパートを録音。次ぎにソロパートをオーバーダビングで重ねた。ソロは弦楽4重奏の4人のそれぞれが取った。春のソロは第2ヴァイオリン、夏はチェロ、秋はビオラ、冬は第1ヴァイオリンがソロパートを演奏するという世界初の企画だった。ヴィヴァルディは「ヴァイオリン協奏曲」として書いたが、季節毎にソロ楽器が変わるというのは、前代未聞だ。「ViVa The Four Seasons」の新『四季』の注目はまずは音楽性だ。そのポイントは3点。

1.竹田詩織のソロヴァイオリンの魅力竹田は、UNAMASプロジェクトではこれまで第2ヴァイオリンのセクションを担当。表に出ず、アンサンブルを和声と対旋律で支える地味な存在だった(本職の東京交響楽団も第2ヴァイオリン)。今回は躍動感に溢れ、エモーションとテンションが立つ見事なソロを披露している。特にディミニーク表現が感動的だ。バロックならではの強弱の対比を文字通りダイナミックに表現している。

2.アンサンブルの魅力。縦線の揃った繊細で俊敏なリズムの切れ味が堪能できる。UNAMAS Strings Sextetと名付けられた本楽団の正体は東京交響楽団。これまでの作品でも奏者の多くが東響メンバーからセレクトされている。第1ヴァイオリンの田尻順氏は、東響のアシスタント・コンサートマスターだ。広く世界を見渡すと、大きな管弦楽団には、そのメンバーが集まって小規模の室内楽団を結成する例が多い。日頃から研鑽している仲間同士ならではの細部まで息の合ったアンサンブルは、天晴れだ。

3.『四季』のソネットを深く意識した。『四季』には春夏秋冬の情景を表したソネット(小さな詞)が添えられている。ソロの竹田詩織とメンバーは、この詞を意識して演奏している。竹田詩織は言った。「2013年の『四季』の第一回の演奏の時は、音符を勢いよく弾くことがメインでしたが、今回は、ソネットで描かれている情景をいかに音で表現するかに、こだわりました。まるで当時の映画音楽のように、景色が具体的に書かれているのです。例えば冬の第三楽章は氷上のぎこちない歩行の情景です。ここは弓の木の部分で弦を叩くコルレーニョという特殊な奏法でカチカチとした氷の触感をあらわしました。聴く人にどんなイメージを持ってもらいたいかをはっきり演奏で示したかったのです」

音楽監督の入交英雄氏は「これまでのバッハ作品などは純粋に音楽的な追求に終止しましたが、『四季』は標題音楽です。写実的な躍動感を奇抜でないような正統的な形で、音にすることに気を払いました」と、述べた。

大賀ホールで本録音に立ち会っていた体験から書くと、シンタックスジャパンのリスニングルームで再生したイマーシブサラウンドの再生音には、この時、この楽器は実はこんな音を鳴らしていたのかという、実演では分からなかった新しい発見がある。大賀ホールの客席で聴いていると、楽団の各楽器が積層されたトータルの音が耳に入ってくるのだが、きちんとしたチャンネルアロケーションにて編集され、そのとおりに再生されたイマーシブサラウンドは、各楽器の演奏がまるで、スコアを見ているような明確さで分析的に聴けると同時に、トータルでの音場取聴が楽しめる。それこそ、イマーシブサラウンドで小編成を聴く、醍醐味であろう。


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