By. Mick Sawaguchi
UNAMAS-Label・サラウンド寺子屋塾主宰
はじめに
2012年第85回アカデミーBEST MIX /音響/音楽 受賞作007 SKYFALLを分析します。007シリーズは、1962年制作「ドクター・ノオ」からこの作品で23作となる歴史的な映画です。143分という大作で、そのうち音楽が使われた時間が、91分、比率で64%と音楽の割合が多くベテラン作曲家のトーマス・ニューマンのスコアリング音楽の使われ方を理解するには、良い作品です。
1 スタッフ:
監督Sam Mendes
Final Mix
Scott Millan/Graig Russel/Stuart Wilson
サウンド・デザイン
Peter Staubli/Christpher Assells/Dino R. Dimuro
音響効果
Per Hailberg/Karen B. Landers
音楽MIX
Simon Rhodes
作曲
Tomas Newman
音楽スタジオ
Abbey
Road /Sphere
ポストプロダクション
Delanelea(www.delanelea.com/)
時間:143分
2 あらすじ
ジェームズ・ボンドは新人女性エージェントのイヴとトルコでの作戦に参加していましたがMI-6の工作員が殺され、各国のテロ組織に潜入しているNATO工作員のリストが記録されたハードディスクが奪われます。ボンドはディスクを取り戻すべく、犯人パトリスを追跡、列車上で彼は、川に落下し行方不明に。
数ヶ月後。MI-6ビルが爆発。僻地で体力回復していたボンドもニュースでしりMI-6へ復帰します。体力の衰えたボンドをMが復帰させデータを盗んだパトリスを捕獲するため上海でボンドはパトリスを倒しパトリスの所持品にあったカジノのチップを手掛かりにマカオへ向かいます。さらにマカオから今回のハッカー シルビアのいる孤島へ向かい2人は、対面します。格闘の末シルビアを逮捕、ロンドンのMI-6新本部に拘禁しますがここから脱出したシルビアは、Mへの復讐を国会内で行います。国会からMを救出したボンドは、シルビアとの対決の場としてスコットランドの実家「Sky-Fall」邸で、かれらを待ち受け激戦の末シルビアを倒し同時にMも命を落とします。
3 作品の起承転結
● プレオープニング:13‘00“
犯人との派手なアクションとチェースシーンを展開し、観客を引き込む役目をしています。
● オープニングクレジット:4‘00“
アデルの主題歌といつもながらの007のイメージを再現
● 起:24‘00“
ボンドの復活とMI6への犯人シルビアからの復讐。新しいエージェントとボンドのような古いタイプの人間のコントラスト。Mへの国会からの辞任要求と幅広く今後の展開の背景が観客に提供されます。
● 承:40‘00“
ボンドの復帰初回の仕事が開始。犯人逮捕のため上海〜マカオと移動。真犯人シルビアとの対面。お互いがMI6からすでに見捨てられた古いネズミだと告げられ、シルビアのMへの復讐という動機が、観客へ送られます。
● 転:23‘00“
犯人シルビアは、ロンドンMI6に監禁。しかしこれも彼のプログラムに計画された行動で、いよいよMがいる国会査問委員会へ仲間と乗り込み復讐劇が開始。Mは、ボンドの救出で危うく難を逃れます。
● 結:33‘00“
Mを救出したボンドは、犯人との決着をつけるべくMをスコットランドの実家「Sky-Fall」邸へと移動し、犯人との戦いに望みます。Mは、死亡し、後任マロリーから次の任務を告げられて再出発する007で幕がおります。
では、それぞれのシーン毎に特徴的なサウンド・デザインを紹介します。
3−1 プレオープニング
●このシーンは、ほとんど全編音楽で、展開され映像のカットやアクションに合わせた細かなCUEによって「セグエ」という手法で自然に聞こえながらも様々なリズムやテンポとムードのスコアリング音楽が継続しています。
●配給のトレードマークが出た後は、一瞬ノンモンになります。ここで観客の耳をリセットして聴覚神経を高めておく役目です。TVですと逆にラウドな音でリ視聴者に注意を向けるサウンド・デザインが多いですが、映画の場合は、これだけを鑑賞にきているお客に向けたリセット効果としてノンモンが良く使われます。
●冒頭のトルコ イスタンブールの町であることを告げるアンビエンスが低く静かにリアチャンネルから登場。少し遅れて何かが始まる予感をイメージした音楽が低いレベルでカットインします。
ここで状況を観客に混乱なく伝えるためのセオリー「違う音を同時に発音しない。2つ以上の音を出す場合は、必ずタイミングをずらして発音」という基本がしっかり行われています。
●ボンドが、エージェントのいる部屋へと入っていきます。暗い彼の顔に一筋の光線があたり、ボンドだということが分かるカットで音楽CUEが入りキーンといった注意をひくフレーズが一瞬はいります。ドアをあけるアクションでCUEがあり部屋の惨状が音楽で示されます。台詞が始まるとBGMで十分低いレベルに構成が変わり台詞の邪魔をしないで、かつムードを継続しています。(こうした作曲手法は、日本でも参考にして欲しいと思います。FINAL MIXでMIXERがレベルを下げてBGにするのではなく、本来の作曲の段階で曲想や編成をかえることで違和感のないUNDER SCOREが成立している訳です!)
スコアリング音楽を作曲する時のCUEとは、ドラマの進行でなにかきっかけや注意を引きたい映像を引き立たせる役目をもっています。
●エージェントのリストがはいった機密データHDが無くなっていることに気づいた007は、部屋から外に出て犯人の追跡劇がはじまります。音楽は、イスタンブールの市内を象徴する中近東ムードの曲調で全開、犯人とのチェースが繰り返されるシーンとロンドンMI6のOFFICEで指示するMとの台詞のやりとりがカットバックでくり返されています。このシーンでは、イスタンブールのチェースシーンが、音楽と車の激突や屋台の転倒、階段や窓ガラスの破壊、屋根の上のオートバイ走行音や瓦の崩れる音といった各種Foleyに人々のざわめきがサラウンドで組み合わされたダイナミックなサウンド構成であり、ロンドンのMI6 OFIICEは、Mが出す指示の台詞が主体です。ここでも音楽は、見事にチェースシーンでのダイナミックな動きとカットバックMのOFFICEでの台詞で押さえたレベルで流れるBGMがコントラストのついた音楽になっている点に注目してください。
●アクションを補完する音楽の役目の例としてこのシーンで、オートバイが転倒し通りを長いストロークで滑っていくシーンがあります。この滑っていくストローク分をストリングスで長いフレーズを同期させて使っています。また車が激突するカットには、アクセントにティンパニーを加えるという例があります。
●バザールの狭い通りの人ごみをかき分けてオートバイでチェースするシーンで、効果音はリア側から通過の風音が使われています。この作品全体にいえることですがサラウンドの使い方は、大変オーソドックスでアンビエンスとFLY-OVERが使われている程度です。
●新人エージェント イブがジープで2人を追跡しています。高架橋にさしかかり車はい行き止まりになります。この不安なイブのカットに次ぎにくる列車の汽笛が先行し次のカットを観客に予感させています。
●列車に飛び乗ったボンドは、危うく列車から落ちそうになりますが、かろうじて列車の端に手をかけて、屋根へと上ります。このシーンで、おなじみの007のテーマが流れます。こうした使い方を「Leitmotiv」と呼びます。この後も007の山場の活躍やシーンの転換点で何度も使われています。
●列車の上の2人のアクションシーンでは、お互いのガンショット効果音が、非常にリアリティあるサウンドで使われています。特に犯人パトリスが発射した弾丸がクレーンの掘削部に跳弾する効果音は、十分な高域を含んだ素材がつかわれていることがわかります。ここでも音楽は、ボンドのアクションに合わせた多くのCUEが使われてテンポある映像を盛り上げています。ボンドが犯人を客車内で捕獲するために新たな行動へでるカットに「Leitmotiv」としてボンドのテーマが使われボンドの反撃姿勢をサポートしています。
●トンネル内通過のシーンでは、通過音の低域がサラウンドで全体を包み、OPENな空間とのコントラストをつけています。イブは、ライフルを構え犯人を狙いますが、2人が格闘しているためボンドにもあたる危険があります。しかしもう時間がありません。ロンドンからMの指令で「SHOOT」という指示で放った弾丸はボンドにあたり橋から落下。このタイミングで音楽は、カットアウトとなり弾丸の余韻と激流の流れに変化します。
●カットは、MのOFFICEとなり窓辺にたたずむMに外の雨音が密やかなアンビエンスとして流れていますが、そこに激流に流されたボンドの印象を高めるためリアから激流の音がスネークインし、オープニングクレジットが始まります。
3−2 起
●オープニングが終わると、MI6のビル全景が登場し、リアには、遠雷と雨が流れボンドの死を予感させます。追悼文をパソコンで入力するMの静かなレベルは、それまでのダイナミックなサウンドと大きなコントラストがありメリハリがしっかりと表現されています。
●Mは、責任を問われマロリーが待つOFFICE へ向かうカットになるとウエストミンスターの鐘が印象的に流れシーン転換したことを表します。
●マロリーの執務室は、台詞にも響きがつけられ、2人の台詞中心で進行。そして辞職勧告を辞退したMの決意を表す音楽がはいりそのままMI6へ戻る移動シーンのBGMになります。
こうした様々な場所を移動していくシーンをひとつのムードで接合していく音楽の使い方を「TRACKING MUSIC」と呼んでいます。この使用も映画では、大変良く使われます。
●MI6ビルに近づいたMの車は、爆弾予告により道路封鎖。Mの目の前でMI6ビルが爆発炎上します。この余韻に次のシーンを予感させる波音が入ってきて、シーンが変わり、海岸で救出され体力回復しているボンドのシーンとなります。海辺には、レストランがありそこから流れる音楽が「SOURCE MUSIC」として使われます。翌朝同じレストランで酒を飲んでいるシーンでは、密かにウインドチャイムが風に吹かれて聞こえます。この音は、主張はありませんが、海辺の静けさと立体感を表すのに有効な効果音です。
●CNN NEWSからロンドンでMI6がサイバーテロ攻撃を受けたことを知ったボンドは、帰国。サイバーテロというニュースのコメントをきっかけに音楽が移動を表す音楽となり、葬儀の終わったMの自宅でウイスキーの栓を開ける音とボンドの「戻りました」という台詞に合わせて音楽が終わります。
こうした音楽のIN点とOUT点がどういったきっかけとリンクしているかをチェックするのもサウンド・デザインでは、良い勉強になります。是非クリティカル リスニングを実践してみてください。
●MI6に復帰する007を載せた車が市内を移動し地下にある新MI6ビルへ到着するまでは、移動を表すトラッキング音楽が使われています。地下の新OFFICEは、石つくりなのでここでも台詞には響きが付加。ボンドが、復帰のためのテストをうけるシーンには、音楽が流れていますが、懸垂テストで疲れ果ててマットに倒れ込むカットで終わります。
●このOFFICEが、ロンドン地下鉄に近接した場所にあることを示す地下鉄通過音がさりげなくリアから流れ場所の説明をしています。最後の心理テストを受ける部屋は、最も響きが多い台詞です。
そしていよいよ復帰検査結果の発表。実際は、落第だったにも関わらずMの決断で復帰となりその最初の任務としてパトリスが上海に表れるという情報からボンドも上海へ向かいます。雇い主とHDを探すという新たな任務へ向かうボンドと上海の夜景が音楽で包まれドラマが次の展開へと向かうことを印象つけます。
3−3 承
説明のための上海夜景、エアーショットでホテルの最上階が映るとそこは室内プールだということが、なんとなく分かりますが、プールのアップになるとボンドがスイミング中でしかし体力の衰えは、隠せない様子が映像からわかります。プールから上がり、バーラウンジにいると犯人パトリスがPM21:00 EWA-226便で上海にくるという情報が携帯へ。このイントロは音楽で包んでいます。
●空港へ行ったボンドの顔アップにEWA-226便の着陸音が先行してかぶさり、一気にテンポをあげる役目をしています。パトリスが、狙撃に向かうビルまでの追跡シーンは、TRACKING MUSICでカバーし。目的のビル内犯人の乗ったエレベータの底へボンドが飛びついて乗るアクションから、犯人の狙撃、ボンドの犯人との格闘、そして犯人は、雇い主もHDの所在も言わず高層ビルから転落までの7‘30“を一気に音楽と効果音だけで表現しています。このなかは、それぞれのアクションをCUEとして様々な音楽の展開が行われます。効果音の中では、犯人を屋上で追いつめたシーンでリアからビル風が吹いています。犯人のトランクから見つかったマカオの賭博換金コインを手がかりにマカオへ向かうボンド。ここでテーマに使われたアデルの主題歌のメロディを「Leitmotiv」として使ったTRACKING MUSICが移動を表しています。
●マカオのカジノにあるバーのシーンには、BGMが流れSOURCE MUSICが使われています。謎の女セブリンと黒幕に会う取引後、ボンドは3人のガードマンとカジノで派手なアクションをおこしカジノを去りますが、ここに流れる音楽のラストには、AGt演奏によるボンドのテーマが「Leitmotiv」として使われています。
●長崎 軍艦島でロケした真犯人シルビアの住まいで初めて対面する2人。大事なシーンは、基本台詞中心で展開していますのでここも台詞と低いレベルのアンビエンスのみで展開し台詞は、広い倉庫内を表す響きがたっぷりついています。外へ出ると柱につけたトランペットSPから懐かしい60年代のアメリカ音楽が流れ、これもSOURCE MUICとして処理されています。腕試しをする2人がうつ昔の銃の発射音と弾道音は、すばらしいリアリティで高域と空気を切り裂く低域成分が、参考になるでしょう。良い素材を録音しておく大切さが分かります。ひそかに発信器でボンドの位置をMI6に知らせていたボンドに上空からヘリコプター3台が接近。真犯人シルビアは捕獲されます。ボンドの復帰後の初手柄となる承のエンドは、おなじみボンドの「Leitmotiv」で幕を引きます。
分析後分かったのですが、承と転、結それぞれボンドが有利な立場でシーンが終わると必ずボンドの「Leitmotiv」が曲想を変えて使われています。よく計算された音楽構成だと思います。
3−4 転
●真犯人シルビアがMI6の一室に頑丈なガラス製の檻で監禁されています。Mとの対面シーンは、ここも大切な情報が多いので台詞中心でシルビアの台詞とその外にいるMには、それぞれ異なった響きが付加されています。
●ここからはシルビアが仕掛けたプログラムによってMへの復讐劇が展開。地下道や地下鉄 車内 地下鉄駅 ウエストミンスター駅から国会と次々とアクションがくりひろがられますが、転のラストまでの18‘26“を様々なCUEをきっかけに音楽で展開しています。音楽の構成は、重厚なシーンでは、アビーロードで録音したオーケストラサウンドを、そしてアクションが展開するテンポの良いシーンには、Sphere Studioで打ち込み制作した音楽と使い分けがされておりそれが違和感なく一連のスコアリングとして成立していることです。
●効果音が主体のシーンは、地下鉄の暴走と国会内の銃撃戦です。こうした素材も大変Hi-Fiなのでリアリティがあります。(地下鉄の暴走効果音ですばらしいサウンド・デザインを行った一例としては、1994年製作「Speed」の後半で大暴走シーンがあり、このサウンドも参考になります。ついでに主役のキアヌ・リーブスがつけていたCASIO G-SHOCKも話題になりました!)
●Mを救出したボンドは、犯人からの追跡を逃れるため公用車からボンドの自家用車にガレージで乗り換えます。扉が開くにつれて姿をあらわしたのは、なんとかつてのボンド車「アストンマーティン」です。ここでもボンドの「Leitmotiv」が使われいよいよ決戦。という雰囲気を表しています。
3−5 結
●スコットランドの典型的な風景とともにゆっくりとアストンマーティンがボンドの実家へ向かいます。風や鳥そして嵐が来そうな予感をアンビエンスでさりげなく表現。ここの同録のみ、かなり苦しい編集で、断続的な背景音が聴かれます!
●実家SKYFALLへ入った2人を向かえるのは、昔からの番人キンケイドです。3人は、決戦に備えて武器と仕掛けを準備します。「最後の武器は、このナイフだよ」というキンケイド。ラストで有効にきいてくる台詞の伏線です。
●家の中は、台詞に響きが付加され、決戦の準備をする2‘13“の音楽にも様々なCUEがあります。一段落した3人は、台詞のみで前の音楽とコントラストがついた後遠くで犬が吠え始めいよいよ対決の時がきたことを予感させています。
●11人の配下が車からおりて家のドアへ爆弾をセット爆発とともに音楽が緊張感を高めます。ここで番人キンケイドがショットガンを構えて犯人を迎え撃つのですが、彼の台詞「WELL COME SCOTLAND」で一瞬音楽はCUT OUTそしてまた再開します。このコントラストも大事な台詞に観客を注目させる上で効果的な方法です。
いよいよシルビアの登場です。彼はヘリコプターで乗り込みそこにはアメリカンロックがSPから大音量で再生されています。この手法は、1970年代の名作「地獄の黙示録」で川から村を攻撃するサーフィン好きのキルゴア中佐がワーグナーを流しながら攻撃したシーンを再現しています。サウンド・デザインを担当したウオルター・マーチを尊敬しているのかもしれません。
●反撃するボンドは、部屋にガスボンベを仕掛け、脱走用の地下室へ飛び込みます。ここでもボンドの「Leitmotiv」が使われています。逃走した3人とそれを追う犯人たち。ここも約8分という長いシーンを様々なCUEをきっかけに音楽が受け持っています。
シルビアは、ついにMを小屋でみつけお互いの頭に銃をむけ「さあ2人で自由になろう」とせまります。テンションの高い音楽は、ここで「アー」という彼の悲鳴で一気に下がります。このシーンの冒頭で予告した「最後の武器はナイフ」という言葉のとおりボンドの投げたナイフでシルビアは、絶命。そしてMも「ボンドを復帰させたことは正しい決断だった」といい息を引き取ります。Mを抱き起こすカットから入った音楽は、50“もの悲しい雰囲気を下支えしたあとホルンのメロディで雰囲気を変え、場所はロンドンMI6屋上へと時間経過を示しています。
●屋上では、ロンドンのアンビエンスと遠くではためくイギリス国旗のパタパタというFoleyがさりげなく状況説明。マロリーが後任Mとなりボンドに新たな任務が告げられるとここでもボンドの「Leitmotiv」が使われエンドロールへつながっていきます。
4デザイン上の特徴
冒頭でも述べましたが、サウンドの組み立ては、大変オーソドックスで、特段驚くようなデザインは、ありません。音楽が60%とドラマの展開に寄り添って大きな役割を果たしているからだと思います。しかし、音楽が活躍するシーンの対比として、
● 転パートの犯人シルビアが地下鉄の壁を破壊して暴走する地下鉄のシーン
● 国会内の銃撃戦、
● 結パートのヘリコプターでの攻撃から墜落
シーンの3パートは、効果音がメインとなってダイナミックな山場を作っています。
4−1先行効果例
●プレオープニングのなかで、新人イブが高架橋へ着きます。ここで次に列車がくることを汽笛の先行音で表現しています。
●MI6 Mの部屋でボンドが死亡したと報告を受けたあとのガラス窓にむかうMの雨音に先行して激流を流れるボンドの水音が入ってきます。
●同様の表現でMI6ビルが爆発した余韻に次のとある海岸でボンドが生きているシーンの波音が先行しています。
●もうひとつは、上海空港で狙撃犯パトリスの到着を待つボンドのクローズアップに飛行機の着陸音が先行し、この音だけで、次に市内を移動する2人へテンポよくシーンが変わります。
4−2台詞の空間表現例
響きのないドライな台詞に加えてOFFICEやMの住居、シルビアの隠れ家である倉庫、シルビアが捕われたガラスの独房、新MI6地下OFFICE 復帰テストで心理テストを受ける検査室、スコットランドの実家内、ラストの小屋の中といったシーンにさりげない響きから広がりを感じる響きまで空間表現がされています。これらもきわめて自然な扱いといえます。
4−3台詞でクローズアップ表現例
プレオープニングのラストでボンドが撃たれて橋から落下した後、イブがロンドンへ報告する無線の声「ボンドが落下」、ボンドがMの自宅内で「007職場に復帰しました」と語るカット、Mの息を引き取る最後の言葉「私の決断は、正しかった」とボンドの復帰を落第点にもかかわらず承認したこと、そして一番ラストの「新たな任務につきます」というボンドの決め台詞といった箇所です。大事な台詞は「アップ」という基本がここでも実証されているといえます。
4−4ダイナミックレンジ感
静かなシーンの設定は、こうした派手なアクション中心の映画では、大切なコントラストとなります。
●まずは、起の冒頭、ボンドが死亡した報告をうけてMが追悼文をパソコンへ入力するシーンです。ここは、キータッチの音と雨、遠雷といった控えめなレベル設定でその前の13‘にわたるアクションシーンのダイナミックスをリセットする役目を果たしています。
●ボンドが、海岸で体力回復しているシーンは、昨晩のギャンブルの喧噪とコントラストのついた翌朝の静かな海岸のレストランにひそかにウインドチャイムが風に揺れているというシーンがあります。
●転の冒頭シーンでは、その前の真犯人シルビアの逮捕劇で華やかなボンドのテーマで終わったあとの廊下からガラスの独房にはいったシルビアとの出会いが密やかなアンビエンスと遠くの地下鉄走行音でコントラストがつけられています。
●結の冒頭も同様でロンドンからスコットランドの自然へ帰ってきた状況とこれから起きるシルビアとの対決を予感する風音や鳥、霧雨といった押さえた表現でコントラストがつけられています。
●全てが終わった後のロンドン新OFFICEの屋上にたたずむボンドにイブがMの形見のブルドックの置物を手渡すシーンです。やはり市内のアンビエンスと密やかなイギリス国旗のはためきという構成でこれまでのダイナミックなレンジ感をリセットしています。
5音楽の特徴
Tomas Newmanの音楽は、大きく2つのパターンで構成されています。
●ひとつは、重厚なオーケストラによるアコースティック音楽。
●もうひとつは、シンセサイザーを多用したノイズ感の音楽です。
この2タイプが重みのあるシーンでは、オーケストラを、チェースシーンやアクションではシンセサイザー音楽をと使い分けています。
本作で参考になるのは、映像のキーポイントとなるカットにシンクロして曲想が変化していく時のCUEの使い方、そこでどんな楽器がその役目をしているかを分析すること。もうひとつは、台詞がなく効果音と音楽で押していくシーンでの曲想と台詞がある場合のBGMの曲想が違和感なくつながっている点に注目していただきたいと思います。
第1作目から演奏している TP
6効果音 Foley
映画のサウンドが新鮮だと感じたりリアリティや、ゴージャスなサウンドだと感じる要素の大きな部分は、効果音にあります。どれくらい作品にふさわしい効果音が用意でき、ふさわしいFoleyがしっかり録音できているか?本作では、足音は、当然として様々なFoleyが高品質で使われています。効果音の高品質とは、低域が必要な音は、しっかり低域成分があり、高域成分が必要な音は、抜けの良い高域を持った音が用意されることです。
おわりに
たびたび名前が上がるFinal mix studioのWarner Bros所属De Lane Leaロンドンの歴史を調べてみました。始まりは1940年で主に外国映画の吹き替えダビングスタジオとしてスタート、その後映画のみでなくTV、オーケストラ対応の音楽スタジオまで拡張し現在制作規模別のダビング・ステージが4スタジオ、ADR2室そして50の編集室を設備し年間14作品の仕上げをおこなっています。
また、映画音楽録音では定番ともいえるAbbey Road 1stも紹介します。面積は、縦28.22m幅16.89m高さは、12.15mで残響時間は、2.3secそれに独立したブースが2つあります。コントロールルームは、スタジオに比べとても狭くあまり快適とは言えません。ここのスコアリング録音を担当している、Simon Rhodes の名前がたびたびクレジットされます。写真で見ると若手のようです。
アカデミー音響効果賞に見るサラウンドデザイン分析 Index
「Let's Surround」は基礎知識や全体像が理解できる資料です。
「サラウンド入門」は実践的な解説書です。