UNAMAS-Label・サラウンド寺子屋塾主宰
はじめに
本作は、2009年スエーデンの同名作品をリメークした2011年ハリウッド版「ドラゴンタトゥーの女」です。2012年の第84回アカデミー賞BEST MIX/音響編集賞をM.スコセッシ監督のHugoに譲りましたがデザイン・コンセプトがとても秀逸なので紹介します。
サウンド・デザインと音楽は、David Fincher監督の2010年作品Social Networkでコンビを組んだチームが再結集し、サウンド・デザインと音楽が融合した内省的なサウンドを形成しています。また2009年のスエーデン・オリジナル作品「ミレニアム1・2・3」とのサウンド・アプローチの相違についても比較してみました。
1 スタッフ
監督:David Fincher
Mix: David Parker/Michael Semanick /Ren Klyce/Bo Persson (Skywalker Sound)
Sound Supervisor: Ren Klyce
Foley Artist: John Roesch/Alyson Dee Moore
Sound Recordist at Sweden: Rune Palving
Production Sound: Mark Weingarten
Music: Trent Rezner/Atticus Ross
2 作品の起承転結と特徴的なデザイン例
ハリウッド版は、158分と大作です。(オリジナル版も153分あります)
● プレオープニング 55“
今回のメイン舞台は、ストックホルム郊外ヘーデスタ。ここにバンガー・グループの本拠があります。冒頭冬のシーンから始まりバンガー・グループ会長のヘンリックへ毎年クリスマスに届けられる送り主不明の押し花の額。彼は、「今年も来たが送り主の名前はない」と携帯電話で元警官のモレルへ連絡します。壁には、これまで毎年送られてきた額が、全面に飾られそしてオープニングタイトルへ。
MGMのタイトルロゴから音楽が始まり、メイン舞台となるヘーデスタのワイドショットに冬の風音がさりげなくリアで流れています。そこへONで携帯電話の呼び出し音がフロントで登場します。この2つの素材音を聞いただけで、質の良い素材が使われていることがわかります。会話の後、オープニングタイトルは音楽で占め(オリジナルは、Led Zeppelin's "Immigrant Song)、タイトルが終わると法廷シーンとなり、主人公ミカエルに敗訴の通告が行われます。
● 起 3‘20“
今回の主人公ミレニアム社の記者ミカエルが、裁判所で敗訴を言い渡され、失意の中クリスマスを迎えます。そこへバンガー・グループ会長の弁護士フルーデからヘーデスタで面会したい旨電話がはいりヘーデスタで会長のヘンリックと面談し40年間、謎の失踪事件で迷宮入りしている孫娘ハリエットの捜索を依頼されます。彼は、一族の中に事件に関与した人物がいるのではないかと考えていたのです。
ミカエルの今後ともう一人の主人公リスベットの紹介
ミカエルが、報道陣に取り囲まれ上訴するかどうかと言った緊張感をリアチャンネルに定位したドアの閉まる音で区切りをつけています。音楽もここで自然に消えています。法廷を出てミカエルが行きつけのカフェでタバコを買い1本だけ火をつけ後は捨ててしまいます。店のTVのニュースでは、彼の敗訴と勝訴した大物実業家ベンネル ストレームの「ジャーナリストは、これで横暴な記事は、書かなくなるだろう」というコメントが流れます。失意の中にいるミカエルの心情を、ロングの救急車のサイレンで表しています。
本作のもう一人の主人公 天才ハッカー リスベットがオートバイで勤務している調査会社へ現れます。バンガー・グループの会長ヘンリックの依頼でミカエルにある事件の解明を依頼するうえで、それに値する人物であるかどうかをリスベットが調査した結果を提出するためです。ここは、さりげない町音アンビエンスと移動シーンをつないでいくトラッキング音楽という標準的な構成です。彼女は、ミカエルは優秀な記者で勝訴した実業家ベンネル・ストレームには、不審な点が多いことを指摘します。
アパートに戻ったリスベットは、興味を持ったミカエル、そしてベンネル ストレームに関するデータをハッキングして入手します。この背景には、部屋で流れているソース音楽がさりげなく流れていますがハッキングしてデータを入手した場面でアパートのドア外で聞こえる派手な笑い声がリアCHで配置されています。今後も出てきますが、本作では、登場人物の心情表現やストーリ展開のアクセントを音楽が受け持つのではなく、さりげない効果音が受け持っているのが、特徴です。同様に、ミカエルがミレニアム社を休職してバンガー・グループの会長の依頼でヘーデスタへ出向くシーンの変わりでは、ミカエルが使っているノートブックパソコンの蓋をしめる小さな音で区切りをつけヘーデスタ行きの列車のシーンへ転換しています。
● 承 25‘40“
ミレニアム社を休職したミカエルは、ヘンリックの依頼に応えてハーベスタの島へ滞在します。ハリエットと親しかったというアニタ(実は、失踪した孫娘ハリエット)をロンドンへ訪問し、ハリエットの情報を聞き出す等バンガー・グループ・ファミリーの関係を調べ始めますが本格的な捜査のため優秀な助手の要請を会長の弁護士に依頼します。彼は、背中にドラゴンの入れ墨をした天才ハッカー、リスベットを紹介します。
密やかなFoley
サウンド・デザインを担当したRen Klyceがインタビューで述べていますが、本作では、密やかなFoleyが随所で活躍します。
会長ヘンリックの部屋で皮張りの椅子に相対して事件捜査の内容を話すシーンでは、2人の動作に伴った皮のきしみ音が、丁寧な音質でFoleyされています。
謎の失踪事件をおこした孫娘ハリエットの背景を紹介するシーンでは、随所にアクセントとしてLFE音がスポット的に登場します。
約束の16:00をすぎても事件の詳細を話し込んでいると会長ヘンリックから捜査を引き受けてくれれば敗訴した相手のベンネル ストレームの弱点となる資料も提供しようと申し出るシーンでは、この言葉を強調する意味で本作では、珍しいアタック的な音楽が短く加えられています。(StingerとかBumperとよばれる使い方です。)
ミカエルが、ヘーデスタで捜査を開始。新発見で助手が必要に。
いよいよ、ミカエルが、ヘーデスタの湖畔の別荘を拠点として調査を開始します。外のアンビエンスは、寒さを表す風音や吹雪がリアへ定位。会長のヘンリックが、一族の住む屋敷を案内していると遠くで猟銃の発射音がします。
Swedenの独特のアンビエンス を表すために地元で活躍しているRenの友人でサウンドレコーディストであるRune Palvingが録音した素材が活躍します。
これは、後の転(95‘30“)でミカエルが銃で狙われ負傷するシーンの伏線として銃声を強調したものです。
ミカエルが、これまでの資料を調査している中に、ハリエットの手帳を見つけます。一番後ろのページに書き残された4人の名前と数字に興味を持った彼は、当時の事件を担当し、今は退職している警官モレルをたずねその意味を知ろうとします。「迷宮入りだよ」というモレルとその手帳のアップに遠くで列車の警笛が響きます。これも前述したさりげない効果音でのアクセントデザインです。後にこの数字と名前が事件の解決の大きな手がかりとなるからです。
39‘のシーンは、後に猟奇殺人犯人と分かるマーティンの居間でミカエルと香港からきた女性客と食事をしているシーンです。この背景にドアに吹き込むすきま風が鳴っていますが、これも110’から始まる「結」でマーティンが猟奇殺人の犯人へとつながるミカエルの家宅捜査時の背景音を先行予告するものです。
次のシーンは、リスベットが地下鉄構内でバッグを奪われてバッグ内のパソコンが壊れてしまうスリル感のある場面ですが、ここでも音楽でなくロケーション録音した地下鉄の列車のレールが軋む高域をアクセントに使っています。
リスベットに新しい後見人が付きますが彼は、その立場を利用したセクハラを繰り返しているという人物で、リスベットもその餌食となります。このシーンでも彼のOFFICE前で床を掃除している掃除機のキンキンとした音と不気味なアンビエンス中心の音楽が混沌としたムードを作り上げています。音楽というよりも両者の合成によるMEといったほうがいいでしょう。両者は、同じピッチで作成されお互いが違和感なくオーバーラップするのに貢献したとRenが述べています。
音楽の定位を効果的に使ったシーンとしてミカエルが湖畔の別荘で資料を読み込んでいるシーンを紹介します。シーン冒頭は、場所を示すハーデスタの島へわたる橋のロングショットから始まります。この部分では、宗教音楽が画面全面でBGMとして流れていますが、次の別荘内ミカエルのアップになるとその音楽は、彼のi-podから聞こえている音質でセンター定位に変化し、このシーンを終えて次のシーンでリスベットが、後見人の部屋から彼女のアパートへ戻りシャワーを浴びるまでを、逆にi-podでの音質から再び本来のBGM音楽となり全面で定位してこのシーンをくるんでいる構成になります。同一音源のScoring MusicとSource Musicの典型的な使い分けの例として参考になる例だと思います。
● 転 75‘30“
2人で調査開始、そして発見したのは!
ミカエルが調査を進めるうちにハリエットが残した手帳の最後にある4つの文字と番号の謎が彼の娘のことばをヒントに聖書の一説「レビ記」に関係していることをつかみます。助手が必要だという彼の依頼からいよいよリスベットとチームを組んで謎の4件が未だ迷宮入りの猟奇殺人事件であることをつきとめます。この転のシーンの捜索シーンは、全編音楽の曲想を変化させながら包んでいく構成です。
殺人事件の起こった場所とVangerグループの関連を突き止めた2人は、当時の記録を平行して調べます。この2人の調査シーンは、資料室のリスベット側を時計の秒針をモティーフにしたサスペンスBGMで進行し、ミカエルの調査シーンは、39‘で先行させた隙間風と葉のそよぎ音という効果音でサスペンスを強調するという対比をつけながら真犯人を突き止めていきます。
「Hello Martin!」という決め台詞を区切りにして転の40‘に及ぶシーンは、終了です。
● 結 115‘55“
真犯人の謎解きそして孫娘ハリエットとの40年ぶりの再会、
デザイン上の山場と言えるのは、真犯人マーティンがミカエルを拘束しこれまでも猟奇殺人を行ってきた地下室でのシーンです。ミカエルの地下室への移動シーンでは、39‘で先行登場しているドアの隙間風が全面サラウンドとなり、ゆっくりと回転し、緊迫感を表しています。そして地下室へ…
マーティンは、ミカエルを椅子へ拘束した上で、これまでの猟奇殺人の経緯を語ります。6mmテープレコーダを回しENYAのOrinoco Flowが地下室いっぱいに鳴り響きます。このSource Musicを大胆に使ったデザインは、単なるサスペンスBGM以上に緊迫感を表現した手法です。もうひとつ本編で唯一のサラウンドデザインを有効に使った箇所があります。マーティンが、ポリ袋をミカエルの顔に被せ、ミカエルが窒息状態になるカットです。ミカエルの口のアップから映像がフォーカスアウトし彼の苦しい息がフロントからリアへ流れるという部分です。短いカットですが、大胆なサラウンドデザイン例としては、唯一ここだけです。
翌朝ミカエルとリスベットは、ロンドンにいるアニタが、実は失踪したハリエットだと解明しロンドンへ向かいます。ロンドンの会社の隣にある公園に腰掛けてこれまでのいきさつを話すハリエット「私もあなたも人に助けられたのね」という彼女のカットに公園にいる他の人の笑い声が入ります。これもこの台詞にアクセントをつける効果音としてこれまでにも使われた手法といえますが、どれもさりげなくしかし有効なアクセントになるセンスあるデザインといえます。ハリウッド人は、こうした控えめで印象を引き出す手法より派手にドーンと表現することを好む傾向が多分にあると筆者は、考えておりそのため受賞を逃しノミネートになったのではないかと推察しています。それは2002年作品「Road to Perdition」でも見られた傾向だと筆者は感じています。
● エンドロール158‘
ミカエルの反撃、敗訴相手ベンネル ストレームの失脚とミレニアム社の復活
結の部分で一件落着ですが、エピローグは、敗訴相手ベンネル・ストレームの不正マネーロンダリングをリスベットが解決するというシーンがあります。
リスベットがスイスの銀行へ出向き彼の不正口座の金を全額引き出すシーンで彼女が飲んだティーカップについた口紅を拭き取る「キュ」というFoley音のすばらしい音質に注目してください。
名誉を復活したミカエルとミレニアム社、そして再会した2人の街角にはクリスマスソングが流れています。ここで1年の時が経過したことが分かります。
そしてクレジットとともにエンド音楽となり158‘の大作は、終了。
3 デザイン上の特徴
本作の特徴は、効果音がアンビエンスで状況説明を行い、所々ポイントでアタック音や爆発といった山場を担当し感情のリズムや状況の変化は、Underscoreと呼ぶ音楽が受け持つという通常のD-M-Eの役割分担を逆転させたサウンド・デザインにあると言えます。
これはサウンド・デザインを担当したRen Klyceの考えなのか、あるいは、監督のDavid Fincherや音楽のTrent Rezner/Atticus Ross等との話でそうした方向性を見いだしたのかは、分かりませんが、Underscore は、あまり主張も、Cueによるアレンジの変化もなく淡々とBGMに徹し逆にメリハリやCUEとなる音を効果音が担っているのが、最大の特徴と言えます。Trent ReznerとAtticus Rossは、インタビューの中で「監督からは、あまり明快な方向性が示されなかったのでたくさん素材音楽を作りサウンド・デザイナーのRenと両者が渾然一体となった音響を作った」と述べています。
派手なサラウンド・デザインと言った見せ場は、唯一 山場となるマーティンの家の地下室でミカエルが顔にポリ袋をかぶせられて窒息状態になるときの彼の緊迫感をサラウンド・デザインしたくらいです。それを除けば、極自然で品質の良い素材がさりげなく、しかし絶妙のバランスでデザインされているといえます。一見「ヘタウマ」風にも聞こえますが、そこには、予算やスケジュールの制約で手抜きした結果でなくデザインされた結果が出ていると言えるでしょう。
4 音楽
作曲を担当したTrent ReznorとAtticus Rossは、インダストリアル・ロックと言われるNine Inch Nailsというバンドで活動しています。彼は、80年代クリーブランドの音楽スタジオで働きながら空き時間に作曲したデモテープにレコード会社が注目してデビューしたという経歴です。映画のスコアリングを担当したのは、2010年の「Social Network」でいわゆるスコアリングが専門ではない音楽家です。彼の音楽は、典型的なスコアリング作曲技法である、映像とのタイミング・マッチングやストーリ展開に合わせたCueは、重視せずライト・モティーフやテーマといったメロディラインもなくアンビエンス音が基本4CHで構成されています。推測ですが、元々2CHで基本楽曲が出来上がっており、これにセンターやリア成分を追加したような構成ですので、一般的な臨場感重視でオーケストラがサラウンドを支配するといった音場ではなくドライな音場です。音源には、効果音がうまくサンプリングされており、とてもユニークな構成で本作の猟奇ミステリーの雰囲気をうまく反映していると思います。そうした音楽制作アプローチの結果だと思いますが、アカデミー音楽賞には、ノミネートされていません。きっとアカデミーの会員は、伝統的なスコアリング・サウンドが好きなのでしょう。
オープニングタイトル曲は、2CHの楽曲にハードセンターにリズムパートを入れて3CHとし、リアのLS/RSには、フロントL-Rをコピーしたという構成です。
エンドクレジットの曲は、逆に最初はハードセンターのみでVOが登場し、徐々にL-Rでバックラインが追加され、さらにLS/RSが追加されたサラウンド空間になるという構成をとっています。典型スコアリング作曲のように映像の尺を計算して音楽制作がなされていないためだと思いますがBGMとして使う場合音楽が先行してフェードインし、終わりも次のシーンの冒頭へこぼしてフェードアウトといった使い方が多く見られます。
ドラマの中で使用されたSource Music
リスベットのアパートBGM
ミカエル クリスマスParty BGM
ハッカーの相棒の一室に流れるBGM
ディスコクラブダンスのBGM
マーティンの家での食事GBM
町のタトゥー店内BGM
カフェBGM
等です。
● BGMをドラマティックに使った、秀逸な使い方
マーティンの殺人現場である地下室でミカエルを同様の手口で抹殺しようとするシーンに流れるENYAの代表作「Orinoco Flow」のBGMをあげたいと思います。彼の父親と彼自身の猟奇殺人事件の謎解きをする本場面は、通常であればENYAの曲であったとしても、Scoring Musicにして使うところを6mmテープレコーダから再生する汚れた音というアイディアが秀逸です。(マーティンの部屋には、B&0の高級オーディオシステムが置いてあることからかなりのオーディオマニアであることが伺える設定でもあります)
音楽は、全部で30ヶ所 計89‘で、全体に占める割合は、56.33%と最近の音楽過多な傾向とは異なりポイントを絞って的確に配分されていると思います。
5 効果音
Foley
全体に非常に質の良い素材が使われているのが特徴です。低レベルの音が多いですが、どれも音質的に大変自然で丁寧な素材が録音されたことが分かりす。スコアリング音楽が、通常の扱いとは異なりアンビエンス風にフラットなレンジ感で使われている分を効果音でメリハリをつける役目を随所ではたしています。
ロケーション録音
ロケーション現場から監督のメッセージがあり「ここは独特のサウンドがあるのでSweden の気候を生み出すため現場録音素材を集めて欲しい」と言われました。そこで私の友人SwedenのサウンドレコーディストRune Palvingにあらゆる音を録音してもらいました。彼は、地理に詳しいので必要な音がどこにあるかを熟知しているからです。
森の銃声やドアの隙間風、電車のブレーキ音や笑い声、汽車の警笛 風 Snow アンビエンス カフェ 人々 電話 Ice 風に揺れる木々などこれらは、我々がハリウッドで使う効果音素材では得られない風土を作ることに大いに貢献しています。とRenは、述べています。
彼が気に入っているシーンは、
● レイプシーンのデザイン
● 地下鉄のファイトシーン
● メディアの取材シーン
シーンの転換点や、人物の感情表現、予告として記憶に残しておきたいカットでは、これらが、大げさに強調されるのではなく、さりげなく自然なレベルと音質で、あたかも同録に入っていたのかと思わせる扱い方である点が、感心させられる点だと思います。
空気感をたくさん取りいれた自然な音質
従来のFoleyは、非常にONで録音し、かつ低レベルでもマスキングされないよう中高域を強調した音質にしていますが、本作のFoleyは、空気感をたくさん取りいれて自然な音質で制作されているのが、特徴だと思います。
これは、数年前からSkywalkerのサウンドデザイナー、特にBen Burt等が、コメントしていますが、今後FoleyをドライなFoley stageで録音するのではなく、Open空間やシーンに合った場所でその場の空気も一緒に録音するアプローチをやっていきたいと述べています。本作もSkywalkerで制作されているので、そうした思想が反映されているのではないかと想像しました。
HONDAバイクの素材録音
リスベットが載っているHONDA 350-450(1974)は、ONからOFFまでを計10トラック録音し、そこから編集し使用したと述べています。6トラックは、バイクのメカ音を残り4トラックは、ラベリアマイクでライダーのジャケットやヘルメットに装着しています。
6 スエーデン・オリジナル版「ドラゴンタトゥーの女」のデザインの特徴
2009年制作のオリジナルも、153分となかなかの大作です。クレジットを見るとNiels ArldというMIXERが一人で担当していますが大変すばらしい仕上がりだと思います。
ハリウッド版と比較した大きな特徴は、
● Scoring Musicは、正調オーケストラのScoringで、さらにシンセサイザーとの組み合わせなどもあり、大変凝った音楽制作でリア成分もLFEも大胆に活かしたバランスです。
● ライト・モティーフとなる3音で構成したフレーズが、随所で活躍し、音楽のタイミングも計算されています。使用したCueは、43ポイントで、総計104分あり全体との比率は、67.97%とハリウッド版にくらべ多めの音楽となっています。
● 台詞のMixでは、キーとなる大切な台詞部分は、レベルもあげて強調しています。ハリエットの回想となるモノローグが3ヶ所でてきますが、それぞれ異なったサラウンド処理と定位を行うなど工夫しています。
● アンビエンス関係は、地味な扱いでFoleyも典型的な音質でタイトな作りをしています。
サラウンド・デザインとして参考になるのは、112‘から始まる「結」パートのラストです。ハリウッド版でもマーティンが地下室でミカエルを拘束しているシーンですが、このラストでマーティンは、自動車で逃走し道路から転落し車内へ閉じ込められて動けません。エンジンルームからガソリンが漏れだし電気系統からは、パチパチとスパークが出始めついに大爆発となりマーティンは、命を落としてしまいます。この密閉空間をONの電気系統の線がこげる音やガラスの破片、ガソリンの滴り音、煙の充満する空気など全面サラウンド定位させ緊迫した閉塞感を表現しています。
サラウンドのデザインで広い空間をデザインするのは、比較的容易ですが、こうした小さな密閉空間のデザインは、参考になると思います。
音響関係のスタッフは、
MIX: Niels Arld
SE: Niels Arld
Foley Artist: Andrea King
Studio: Nordik Film Audio
Music Mix: Peter Schiotz
スロバキア ラジオコンサートホール録音 Mix: Takt&Tone Studio
終わりに
密やかなアンビエンスなど効果音が主役を務める作品で筆者が気に入っているのは、2002年第75回アカデミーで6部門にノミネートされ音響効果賞とベストMIX、ベストスコア音楽にもノミネートされたSam Mendes監督Road to Perditionです。
サウンド・デザインを担当したのは、Scott Hecker(Foley ArtistのGary Heckerとは兄弟)です。これも後々紹介したいと思います。