May 15, 2005

第23回サラウンド塾 愛地球博記念 冨田勲 源氏物語幻想コンサート

By Mick Sawaguchi 沢口真生
2005年5月15日 三鷹 沢口スタジオにて
テーマ:源氏物語幻想コンサート 愛地球博開催記念 名古屋芸術劇場(NHK BS-Hiサラウンド放送)
講師:冨田勲 深田晃(HNK)



沢口:今月は、愛地球博前夜祭記念として行われた名古屋芸術劇場での「幻想コンサート 源氏物語」3月25日のサラウンド作曲とサラウンド制作についてお話をお願いしました。まず。冨田先生から、コンサートまでの音楽制作面についてお願いします。

コンサート概要
冨田:寺子屋でみなさんに話すのは、2度目になりますね。今回ポスターにあるように、愛地球博OPENINGコンサートの作曲をやりました。(90分)長編の作曲となり1年程を費やしたことになります。 源氏物語は、膨大な話。その中で「若紫・後に紫の上」をキーとしてイメージを構成。六条の御息所の源氏に対する愛の力と対比した。これを生き霊にしたて、本妻の葵の上との対比をサラウンドで構成。シンセサイザーによるプリMIX部分は、生き霊・死霊を制作しこれを8チャンネルのサンプラーで再生する必要があった。会場では、7.1chでそれをリアルタイムのオーケストラ内で篠田さんが再生。DJ感覚で再生するのに苦労した。朗読の高橋さんの一部も亡者のイメージとするためあらかじめ加工して再生、生の朗読との違和感をなくすために、これも8チャンネルのサンプラーを使用した。また試聴後に詳しいお話をしますが、とりあえずの予備知識としてこれくらいを。技術面は深田さんにお願いします。
深田:私も寺子屋で話すのは3回目。今回の収録では、通常のLIVEサラウンド録音のアプローチではなく、ポストプロダクション中心に音響空間を構成することにした。会場は、反響板のない、オペラ劇場でオーケストラ+和楽器+朗読という構成。朗読は、オペラ感覚。かぶりと定位の変動を避けるため、朗読は、DPAのリップコンタクトマイクを使用し動きのある朗読でも明瞭度を確保した。収録は、64CHでPAかぶりと会場内アンビエンスはポストプロダクションを重視して避けた。LIVEにありがちな観客や演奏者の咳やノイズも丁寧にクリーニングした。これは今回使用したDAW Pro Tollsの持つ編集機能を最大限活用した結果と言える。MIXは、サウンドインスタジオF-スタジオで3日で実施。ここは、プロツールズの物理コントローラI-CONが設置されたスタジオで私にとっても初使用。

沢口:では第4楽章より終章まで視聴してそれからまたお話を続けましょう。

(作品視聴)

冨田:光源氏とは何者か?は私も謎。それぞれが思い思いにイリュージョンをかき立てる長編小説だと思います。人々の人間関係はよほど、しっかり把握しないと混乱するくらい、複雑なのでじっくり読み込まないとなかなか全てが掴めないですね。ペールギュウントの小説にも、複雑な人間関係と男と女のひたむきさが出た物語があるが、この源氏物語と共通した考えをかんじる。今回は、源氏のなかでもほんの一部を作曲したにすぎない。




[ Q&A ]
Q:ピッチのあわせは?
A:洋楽器と和楽器。琵琶の音階と12音階をあわせるのは、大変でしたけど。雅楽のみなさんは、大変正確にあわせてくれた。リハは2日で一日6時間というスケジュール。朗読のタイミングは、昨年先に読みを録音し、それをもとに作曲し、仮MIXを渡して高橋さん自身が覚えてくれた。朗読部分の音楽もBGMにはしたくないので、オペラ感覚で朗読と音楽パートを作曲。結局1年かかった。途中でどうなるかと心配したけど、生き霊のサラウンド再生をどうするか?現在のステレオサンプラーでは不足なので7.1CHのサンプラーの実現が課題。ローランドが精力的に実現してくれたので一安心でした。システムのつきあわせを3月21日東京で行い、翌日から22日に名古屋へでむきリハーサルそして本番は、25日。非常にタイトなスケジュールでしたがよく全員が力を発揮してくれました。名古屋フィルのバンドマスターの方の力が大変大きかったと感じています。そんなわけで疲労の色濃い中での本番でしたので収録では指揮者カメラはなるだけ使わないでとお願いしたくらいです。

Q:会場での音とこの仕上がったデザインの相違は?
深田:MIXでは、プロツールズの特徴をいかして、タイミングやノイズ、場内の咳などもクリーニング。会場は、非常にデッドだったのでPAオーディエンスには、響きを付加した。これらのシステム構築は、ヒビノの宮本さんのおかげです。平安サラウンドをめざした。特に終わりの方で死を迎えた楽章では、冨田先生から-15度を感じるサウンドにとリクエストがありキーは明珍火箸をどうレイアウトするかにあった。放送では圧縮のAACなので鈍ってきこえるが、オリジナルでは澄んだ透明感を出せたと思います。場内アンビエンスは、極力使わないでメインフロントL-C-RとEXT-L EXT-R部分を逆に横まで広げた。SL-SRは、楽曲にあわせてON/OFFした。マイクも多く使ったので、不要なチャンネルのON/OFFも頻繁に行った。来世を表す、笛などは、バンダ バルコーニに配置。オーケストラと次元を変えた。PA担当のヒビノ宮本さんと場内レベルについては慎重に打ち合わせを行いレベルの最適化をリハで両者で行った。最終的には、いいレベルで落ち着いたと思います。今回のデザインはリアリティやドラマ性が融合したユニークなサウンドでサラウンドを有効にいかしている。和楽器の揺れの特徴が効果的。LFE には、和太鼓、などPERCのみ送って、ダウンMIXでも破綻しないバランスとした。


Q:ダウンミックスの注意点は?
A:リバーブ感とセンター成分を注意すればいい。ダウンMIXするとどうしてもリバーブが少なくなるため。こうした作品は、時期など関係ないので地上デジタルやパッケージそして国内1回公演でなく世界公演も実現して欲しいといった参加者からの熱いメッセージで終わりとなりました。

終わりのほうでは、大学における音楽教育のあり方に議論白熱、そのさなか
ロスアンジェルスで仕事をして13年目の音楽ミキサー kenji nakai君が到着その足で成田からきてくれ、またまた学生と音楽教育論に拍車がかかり夜半も盛り上がりました。大阪から参加のY-TV三村さんもお疲れさまでした。(了)

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May 10, 2005

SANKEN CUW-180サラウンドマイク アレイ評価レポート

LINE UP Magazine April/May 2005  INSIDE TRACK
SANKEN CUW-180 サラウンドマイクセット
Mike Skeet 新マイクアレーをレポート 抄訳:小林実

SBES 2004展示会で最初に目に入ったのがSanken の興味深いサラウンドサウンドアレーであった。これは2本のSanken CUW-180 XYステレオマイク前後に向けてセットされ、それにCS-1ショートショットガンマイクが足されたコンパクトな5chサラウンドマイクセットである。展示会の後Rycote GS-180WSサスペンション、風防、ハンドグリップ、ジャマー一式が アルミケースに入って送られてきた。

概要
サラウンド録音用のマイクシステムとしては、すでにステレオ録音のときと同じようにいくつかのバリエーションが存在している。異なる理論に基づくスペースマイクアレーが其々異なった効果を生み出している。また小型のものとしてはダブルMS方式のものが知られている。また、サラウンドに特化したものもあり古くはSoundfieldと呼ばれるもので、今ではハードとソフトが出されておりサラウンドプロセッサによりB-フォーマット(W,X,Y,Z)を自由にマニュピュレートできる。またカナダのHolophoneからはダミーヘッドコンセプトによる5本の無指向性マイクを楕円形ヘッドに埋め込んだものも紹介されている。
Sanken のシステム
ステレオCUW-180マイクはふたつのカーディオイドカプセルを1本のマイクボディーに搭載したもので個々のマイク部は15度ステップで180度回転する。サラウンドセットではCUW-180が2本使用され前後の方向に取り付けられている。ハードセンター用としてCS-1がマウントされる。これらのマイクはRycote ケージに入れられるようサスペンションにセットされ、ハンドリングノイズはきわめて低い。5つのディスクリートマイク信号は2本のXLR-5と、1本のXLR-3により出力する。

第一段階の物理評価
カスタムビルトのマイクプリからMOTU828 8ch ADDA コンバータを通しMac G4に接続。またDEVA 5 HDレコーダにも接続した。SANKENサラウンドアレーをこのどちらにも使用した。サラウンド録音時忘れてはならないのがMSD600Mメータで表示されるDKテクノロジーのJelly Fishモードである。このディスプレイは5つのチャンネルからの信号が全く同一であれば、きれいな円を描くというものでSANKENのシステムを接続したら5つのトランスデューサからのレベル、位相関係が示され全体的に入力音源の位置も表示される。プレイバックに使用したのはATC20AProをフロントスピーカに、ATC10Asをリアとセンターに使用。サブウーハもATC。自然な音の質が得られた。Near ITU スタンダードの中央に座ると正確な移動感を感じられる。もちろんITUレイアウトは音像移動の描写に特化したものではないが、正確なフロント音とサイドとリアのdiffuseサラウンドを提供する。

第二段階評価 オルガンレコーディング
私が気づいたステレオと比較したサラウンドの予想外の収穫は低域におけるスタンディングウエーブ効果で、これは実際のオルガン演奏ではたびたび現れる。これはオーケストラのダブルベースやチェロでも起こる。プレイバック時ステレオ、サラウンドを切り替えるとよくわかる。
オルガニスト、レコーディスト、レーベルオーナーでもあるBernard Martinは、教会で同じ曲を3種のサラウンドマイクで録ることを許可してくれた。そこでSANKENサラウンドセットに加えてSchoepsのダブルMS、とSchoepsのOmni入りHolophoneを使用した。
これらは後日の評価のためDevaに録音した。楽曲はメンデルスゾーンのHere Comes the Brideである。気づいたことは3種の5.0サラウンドセットでの音のステレオに対する優位性であった。これらの音情報は会場の雰囲気をそのままリスニングルームに運んできた。
フロントイメージには一種の3D効果であり、低域のリアリティーをより一層与えるものである。これは100Hz以下をEQで持ち上げるのとは本質的に異なる。SANKEN セットは非常に良かったのでJ.C.Bachのクリスマスオラトリオの録音に使用した。

オーケストラ、コーラス、ソリスト
Harpendenユs Hardynge合唱団、Sinfonia Britannica 室内オーケストラと4人のソリストによる演奏にSANKENサラウンドセットを使用した。会場はHarpendenユs メソジスト教会。SANKENサラウンドセットを指揮者のすぐ後ろに置き、DEVAの1~5トラックに録音。理想的にはコーラスは階段の上に配置されるべきであった。ソプラノ、アルト、テノール、バス指揮者の両側に配置された。2本のAudio-Technicaロングショットガンを、別のスタンドにセットし、SANKENサラウンドの後ろに外側に向けて立てた。コーラスCDのステレオ素材としてである。これらはDEVAの7、8に入れサラウンドのフロントL,Rにミキシングすることも想定した。ステレオの定位にするためにパンでやや内側に振った。
合唱のポジションによるバランスの変化を無視しても、オーケストラとソリストはすべて非常に良く録れた。SANKENの後ろは前後に長く幅の無い教会の会衆席であったがサラウンドとステレオの差ははっきりと収録できた。フロントとリアの相対的レベル差がどうしても残ってしまったのでプレイバック時リアを数dB上げた。
Jelly Fishの形とともにDKメータが5本のバーでレベルを示してくれて非常に助かった。
それにしてもマスタリング時のサラウンドモニターのレベル表示のスタンダードはできないものであろうか。

フィールド サラウンド録音
サラウンドで蒸気機関車?ノースハンプトン、ランポート間に残されている蒸気機関車をSANKEN/Rycoteで録ったのは面白かった。20世紀の終わりに蒸気機関車をかなり録音した。DPA-4006を使ったダミーヘッドとTascam DA-P1sで録音した。
SANKEN サラウンドセットの音をサラウンドモニターで聴くとどうなるのだろう。1950年代の0-4-0 Peckettに引かれる3両編成の列車だ。客室暖房用に最終両にディーゼルが付いている。興味深いことは列車の移動感がフロントスピーカーの幅より広がって聞こえることである。屋外のデッドなアコースティックであっても、センターとリアのマイクをOFFにすると音の質感が失われることがわかる。

おわりに
SANKEN サラウンドセットは2本のCUW-180を使用し、CS-1がハードセンター用にセットされている。これはサラウンド収音に非常に効果的である。またRycoteの風防とサスも整備されている。少し乱暴に扱ったとき中のマイク位置がずれた。これは気をつける必要あり。
興味深かったことは、ステレオXYを90度にセットすると定位がいくぶん狭くなることである。そこでそれより開き角度をひろげたらステレオ定位がより自然になった。センターにはショットガンの信号がはまる。
クリスマスオラトリオのサラウンドL、R用には、カプセルを120度に開いていたため、ステレオCD用にはCS-1の音をステレオミックスのセンターにミックスした。(了)

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