LINE UP Magazine April/May 2005 INSIDE TRACK
SANKEN CUW-180 サラウンドマイクセット
Mike Skeet 新マイクアレーをレポート 抄訳:小林実
SBES 2004展示会で最初に目に入ったのがSanken の興味深いサラウンドサウンドアレーであった。これは2本のSanken CUW-180 XYステレオマイク前後に向けてセットされ、それにCS-1ショートショットガンマイクが足されたコンパクトな5chサラウンドマイクセットである。展示会の後Rycote GS-180WSサスペンション、風防、ハンドグリップ、ジャマー一式が アルミケースに入って送られてきた。
概要
サラウンド録音用のマイクシステムとしては、すでにステレオ録音のときと同じようにいくつかのバリエーションが存在している。異なる理論に基づくスペースマイクアレーが其々異なった効果を生み出している。また小型のものとしてはダブルMS方式のものが知られている。また、サラウンドに特化したものもあり古くはSoundfieldと呼ばれるもので、今ではハードとソフトが出されておりサラウンドプロセッサによりB-フォーマット(W,X,Y,Z)を自由にマニュピュレートできる。またカナダのHolophoneからはダミーヘッドコンセプトによる5本の無指向性マイクを楕円形ヘッドに埋め込んだものも紹介されている。
Sanken のシステム
ステレオCUW-180マイクはふたつのカーディオイドカプセルを1本のマイクボディーに搭載したもので個々のマイク部は15度ステップで180度回転する。サラウンドセットではCUW-180が2本使用され前後の方向に取り付けられている。ハードセンター用としてCS-1がマウントされる。これらのマイクはRycote ケージに入れられるようサスペンションにセットされ、ハンドリングノイズはきわめて低い。5つのディスクリートマイク信号は2本のXLR-5と、1本のXLR-3により出力する。
第一段階の物理評価
カスタムビルトのマイクプリからMOTU828 8ch ADDA コンバータを通しMac G4に接続。またDEVA 5 HDレコーダにも接続した。SANKENサラウンドアレーをこのどちらにも使用した。サラウンド録音時忘れてはならないのがMSD600Mメータで表示されるDKテクノロジーのJelly Fishモードである。このディスプレイは5つのチャンネルからの信号が全く同一であれば、きれいな円を描くというものでSANKENのシステムを接続したら5つのトランスデューサからのレベル、位相関係が示され全体的に入力音源の位置も表示される。プレイバックに使用したのはATC20AProをフロントスピーカに、ATC10Asをリアとセンターに使用。サブウーハもATC。自然な音の質が得られた。Near ITU スタンダードの中央に座ると正確な移動感を感じられる。もちろんITUレイアウトは音像移動の描写に特化したものではないが、正確なフロント音とサイドとリアのdiffuseサラウンドを提供する。
第二段階評価 オルガンレコーディング
私が気づいたステレオと比較したサラウンドの予想外の収穫は低域におけるスタンディングウエーブ効果で、これは実際のオルガン演奏ではたびたび現れる。これはオーケストラのダブルベースやチェロでも起こる。プレイバック時ステレオ、サラウンドを切り替えるとよくわかる。
オルガニスト、レコーディスト、レーベルオーナーでもあるBernard Martinは、教会で同じ曲を3種のサラウンドマイクで録ることを許可してくれた。そこでSANKENサラウンドセットに加えてSchoepsのダブルMS、とSchoepsのOmni入りHolophoneを使用した。
これらは後日の評価のためDevaに録音した。楽曲はメンデルスゾーンのHere Comes the Brideである。気づいたことは3種の5.0サラウンドセットでの音のステレオに対する優位性であった。これらの音情報は会場の雰囲気をそのままリスニングルームに運んできた。
フロントイメージには一種の3D効果であり、低域のリアリティーをより一層与えるものである。これは100Hz以下をEQで持ち上げるのとは本質的に異なる。SANKEN セットは非常に良かったのでJ.C.Bachのクリスマスオラトリオの録音に使用した。
オーケストラ、コーラス、ソリスト
Harpendenユs Hardynge合唱団、Sinfonia Britannica 室内オーケストラと4人のソリストによる演奏にSANKENサラウンドセットを使用した。会場はHarpendenユs メソジスト教会。SANKENサラウンドセットを指揮者のすぐ後ろに置き、DEVAの1~5トラックに録音。理想的にはコーラスは階段の上に配置されるべきであった。ソプラノ、アルト、テノール、バス指揮者の両側に配置された。2本のAudio-Technicaロングショットガンを、別のスタンドにセットし、SANKENサラウンドの後ろに外側に向けて立てた。コーラスCDのステレオ素材としてである。これらはDEVAの7、8に入れサラウンドのフロントL,Rにミキシングすることも想定した。ステレオの定位にするためにパンでやや内側に振った。
合唱のポジションによるバランスの変化を無視しても、オーケストラとソリストはすべて非常に良く録れた。SANKENの後ろは前後に長く幅の無い教会の会衆席であったがサラウンドとステレオの差ははっきりと収録できた。フロントとリアの相対的レベル差がどうしても残ってしまったのでプレイバック時リアを数dB上げた。
Jelly Fishの形とともにDKメータが5本のバーでレベルを示してくれて非常に助かった。
それにしてもマスタリング時のサラウンドモニターのレベル表示のスタンダードはできないものであろうか。
フィールド サラウンド録音
サラウンドで蒸気機関車?ノースハンプトン、ランポート間に残されている蒸気機関車をSANKEN/Rycoteで録ったのは面白かった。20世紀の終わりに蒸気機関車をかなり録音した。DPA-4006を使ったダミーヘッドとTascam DA-P1sで録音した。
SANKEN サラウンドセットの音をサラウンドモニターで聴くとどうなるのだろう。1950年代の0-4-0 Peckettに引かれる3両編成の列車だ。客室暖房用に最終両にディーゼルが付いている。興味深いことは列車の移動感がフロントスピーカーの幅より広がって聞こえることである。屋外のデッドなアコースティックであっても、センターとリアのマイクをOFFにすると音の質感が失われることがわかる。
おわりに
SANKEN サラウンドセットは2本のCUW-180を使用し、CS-1がハードセンター用にセットされている。これはサラウンド収音に非常に効果的である。またRycoteの風防とサスも整備されている。少し乱暴に扱ったとき中のマイク位置がずれた。これは気をつける必要あり。
興味深かったことは、ステレオXYを90度にセットすると定位がいくぶん狭くなることである。そこでそれより開き角度をひろげたらステレオ定位がより自然になった。センターにはショットガンの信号がはまる。
クリスマスオラトリオのサラウンドL、R用には、カプセルを120度に開いていたため、ステレオCD用にはCS-1の音をステレオミックスのセンターにミックスした。(了)
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