July 31, 2005

第25回サラウンド塾 George Massenburgの世界とUNAMAS JAZZ LIVEを聴く 小林実

By Mick Sawaguchi 沢口真生
2005年7月31日 三鷹 沢口スタジオにて
テーマ:George Massenburgの世界とUNAMAS JAZZ LIVEを聴く
講師:小林実(三研マイクロホン)



沢口:今回はメインテーマにジョージ・マッセンバーグがプロデュース・エンジニアで制作したサラウンド作品を2曲聞いてもらいます。その後6月に三鷹のLIVE HOUSE[UNAMAS]で私が収録したJAZZのサラウンドMIXを聞いてください。では、小林さんよろしく。

小林:SANKENの小林です。夏休み前の寺子屋なのでじっくり音をきいてもらう企画としました。今日紹介する音源は、私の昔からの友人である、ジョージ マッセンバーグという優れたエンジニアで自らGMLという会社で音響機器も製作している天才が最近プロデュースしたJon Randallの作品を聞いてもらいます。ことのきっかけは、AESバルセロナ コンベンションの会場で彼と会ったときこのサラウンド寺子屋の話をしたところ、彼も大変興味を持ってくれたので、それじゃ何かやってくれないか?とリクエストして実現したものです。彼の略歴や活動については、http://www.gmlinc.comから参照してください。

では、さっそくデモしてみます。スタジオの雰囲気を理解してもらうためまずDVD-Vでセッションの風景をみてください。では次にDVD-Aで送ってきたJon Randallの曲を2曲きいてください。これらの録音がどういった考えで、どんなマイキングなどで録音されたかについてはジョージから詳細なデータも送られてきましたのでその抄訳を読みながら代弁します。

05-07-31寺子屋用George Massenburgのサウンドアプローチ
日本のみなさんへ、特にわたしの古くからの友人である小林実さんと音の良き仲間であるMick Sawaguchiを含めて私の音にたいする考えを述べてみる事にします。私が住んでいるアメリカのナッシュビルという街には、多彩で多様な音楽が息づいています。中でも「カントリー音楽」は皆さんもよくご存知でしょう。Faith Hill&Tim McGraw,Kenny Chesney,といったカントリーのひとたちはエンターテイメントを主眼として活動していますが、アーティストとしての作曲家やミュージシャンもたくさんいます。こうした中でも芸術としての音に取り組んでいるのは、AlisonCkrauss,Emmylou Harris,Steve EarleやGillian Welshといった人々です。私の仕事を振り返ってみて、いつもいい仕事をしたといえるのはアコースティックなサウンドを扱ったときでした。例えばDolly Parton,Linda Ronstadt,Emmylou Harrissなどのプロジェクトは、すべてアコースティックな楽器の録音です。どうして私がアコースティック楽器に魅力を感じるのかは、いまだ明快な答えを持ち合わせていませんが、多分アコースティック楽器が出す微妙な表情や優れたダイナミックレンジといった所に惹かれるのでしょう。こうしたサウンドは、聴く人に深い感動と音楽のメッセージを伝える事ができまたそうした演奏を実現するためには、ミュージシャンも大変な努力と使命をもって研鑽している結果、彼らは、すばらしいサウンドを醸し出してくれるわけです。

では、今回のサラウンド寺子屋で紹介するアコースティック音楽を紹介しましょう。彼の名前はJon Randallです。わたしは、常々レコード会社は、優れたアーティストの録音をじっくり制作することができないことに不満をもっていました。ですから私のところにそうした仕事は回ってこなくなったので、私は、自分でやりたいことを自分でやることにしたのです。私とJonのつきあいはかれこれ数年になりますが、作曲家としてもアーティストとしても大変優れた才能の持ち主です。彼はEmmylou HarrisとEarl Scruggsと共演していますが、Earlはアメリカのトップバンジョー奏者でみなさんのなかにも「Bevery Hillbillies」という曲の中で彼のバンジョーを聴かれた方がいるかもしれません。Jonの演奏スタイルは、ブルーグラスという範疇にはいるといえますが、それにこだわる事無くすばらしい演奏とボーカルの腕前を持っています。この彼の作曲、演奏、ボーカルという才能を融合して生演奏のアコースティック音楽を制作したくなりました。

2003年にこの計画を進める手始めとして生演奏にわずかばかりのオーバーダビングによる歌を重ねテスト録音を行いました。録音は96k/24bitでプロツールズに録音しています。プラグインのエフェクトもほとんど使っていません。それまで私の仕事の多くはすでに録音の終わったトラックのミキシングでしたが、このとき初めて96/24の録音を手がけました。録音は、Petewood studioで行い、同時に映像も記録することにしました。このスタジオは友人のPete Wasnerのために私が設計したスタジオでとても良い響きを持っておりおもにデモ録音スタジオとして運営しているスタジオです。SONY MUSICが気に入ってくれたので出来上がったマスターをSONY MUSIC N.Y へ持って行きました。そこのA&R担当は、これを聴いて「これはいけるね!でもどうしてWhisky LULLABY は入ってないんだ?」と言いました。しかし、我々は、SONY MUSICナッシュビルの連中から「それはいれないでくれ」と言われていたのです。しかし、N.Yのお偉方は、「これはJON自身の演奏としてレコード化しよう」と言ってくれました。そこで我々は、制作に必要な資金の提供を受けWhisky Lullabyを制作することができたわけです。

Whisky Lullabyは、私自身世に出したいと思っていた音楽なので、空間を最大限に生かしてストリングスセプテットですべてLive録音する事にしました。歌の内容を考えて、ビオラなどを主体としたローキーのストリングス編成がいいのではと考えました。制作にあたり私は、友人のDavid Campbell(彼はBeckの父親です)にこれを聴いてもらいアレンジを考えてもらいました。彼もこの楽曲が大変気に入ってくれいいアイディアを提供してくれました。いよいよ録音となり、私は響きの良いスタジオということでCapitol Studio-Bとロスアンジェルでトップのストリングスチームを手配しました。映像も収録するため2台のDVX-100Aを用意し映像編集は、Final Cut Pro HDで、音声は5.1CHで私自身マスターを制作しています。

このやり方は、今後の音楽制作のあるべき方向だと思っています。ビデオ制作のプロに頼むと音楽のエッセンスも分からずやたらと手の込んだ映像を撮影したり派手なコンピュータグラフィックと組み合わせた映像になりますが私は、収録スタジオそのものでミュージシャンがどういったアプローチで制作しているのかをじっくりと観察してもらえることが重要だと考えているからです。撮影は機動性のあるカメラで我々が行いました。

Whisky Lullabyのレコーディング
私の録音哲学はクラシックであろうとPOPSであろうとすべてのミュージシャンが同一の場を共有しLIVEで演奏することです。そしてできるだけお互いが生の音を聞きながら、可能な限り歌も一緒に録音するようにしています。だめな時は、その後にボーカルだけオーバーダビングしますが、こうしたやりかたが最良の結果をもたらしていると考えています。私は、録音時には、いつもスタジオ内にいることにしています。コントロールルームでのエンジニアリングは、信頼のおける友人にまかせています。私は録音にはいるまでに最終の仕上がりを完璧に設計してから録音に望みますので、ミュージシャンがスタジオにきてあれこれ悩むことはありません。録音に使用する機器は、ほとんど私が設計したGMLの機材を使います。なによりどんな音になるかを熟知しているからです。もちろん日々市場にでてくる様々な製品も入念にチェックしています。メイン機器は、GML-8304/GML-8200/GML-8900で、ミキサーが必要な場合は、GML-HRTを使用しています。モニター用にこのミキサーを使う事もあり、モニターSPは、ATC-020/Genelec8050/ATC150等を使っています。マイクロフォンは、カスタム仕様のU-67 C-24 C-12 Coles 4038 AEA R-84 Royer R-121 B&K 4006+Millennia HV-3 ダグサックスがオリジナルで制作したCK-12カプセル使用のチューブマイク、Sennheiser MD-431(スネア用)D-112(キックドラム用) Alesis AM-40そしてEvil Twin&Demter DI等がメインマイクです。プロツールを使う場合もプラグインソフトはほとんど使いません。MDWのEQくらいです。小型モニターSPは、ATS-020 Genelec 1031a /1032を使っています。

AGtには、sankenCU-44XをX-Yで使います。ただしX-Yの向きは縦方向でなく横方向です。この方が、私には、サウンドが自然だと思うからです。CU-44Xは、大変フラットでナチュラルな音がしますのでAGtには、よく使っています。
今回は、sankenの新製品co-100kマイクを4本高さ2.5mで配置しました。このマイクの特質は、10k-25kの範囲に人工的な不自然さが見られない大変自然な音をしている事です。レコーディング中に私の仲間も音を聞きにきましたがAl Schmittもこのマイクの素直な音をいたく気に入っていました。(了)

では、このときのマイクアレンジを以下に示します。見ておわかりのようにJonを中心として円形にストリングスが配置され、それも大変近接しています。VOには、U-67 SP AGtには、cu-44xをXYで、ストリングスには、C-12をそしてサラウンド用にCO-100Kを使用しています。ストリングスの編成がユニークな点は、ビオラX4 チェロX2Wbx1というローキーな編成です。ジョージによればこの楽曲は失恋の歌なので悲しさを表現するためこうした編成にしたといっています。


沢口:どうも有り難う御座いました。芳醇なアコースティックサラウンドを堪能できたのではないかと思います。

冨田:いやー!私は、あんなにマイクが近いのにストリングスのおとが松ヤニ臭くないのでなぜかと画面をじっくりみてました。 彼らが演奏する弓の位置がいつもより駒から遠いんですね!まあ演奏者の腕もあるのでしょうがミュートなどつけずにあんな柔らかいおとがでているのがよかったですね。

沢口:では、残りの時間でJAZZクラブの雰囲気を楽しんでください。これは三鷹のLIVE HOUSE[UNAMAS]の一周年記念イベントのときに録音しました。以下にマイキングとデザインを示します。Dsのover headには、sanken co-100kを使いました。シンバルの響きをとらえることができると思ったからです。WBsは同じくsanken CUW-180を使っていますが、これはデザインのところを見てもらうとおわかりのようにハードセンターにラインOUTを入れ、マイク成分をセンターの左右に広げてベースのうなりを出したかったからです。VOとTsはハードセンターでなくやや手前、すなわちハードセンターとSL/SRにこぼすというレイアウトです。


録音はマッキーONIX 8CH MIC PREX2でAESデジタルOUTをPYRAMIX DAWへ接続という極めてシンプルな構成です。フォーマットは48K/24BITです。

では、6月1日のセッションからメンバーはVO:安則チャカ真美 Apf:ユキアリマサWBs:佐藤ハチ恭彦 Ds:原大力。そして6月3日のセッションからメンバーは、ts:井上淑彦 A pf:大石学 WBs:上村信 Ds:原大力です。


寺子屋終了後のメールでは、ジョージ・マッセンバーグの同時演奏やモニター無しでお互いの音を聞きながら演奏するのが最良の演奏になるといった録音哲学、そしてでてきた自然で豊かなサラウンドの世界を堪能したというメッセージに効率優先の音楽産業だけでいいのか?という思いがこめられていたと思います。今回は関西から新たに参加がありました。またどうぞ!(了)

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