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January 16, 2014

フンクハウス・ベルリン・ナレーパシュトラッセでのオーケストラ•サラウンドレコーディングについて:SPECIALリポート

              名古屋芸術大学 音楽学部 音楽文化創造学科 長江和哉
 


1.概要
 この報告は2012年12月18日~21日にドイツベルリン、フンクハウス・ベルリン・ナレーパシュトラッセで行われた、オランダ•ポリヒムニアのバランスエンジニア、ジャン=マリー氏の録音による、パーヴォ・ヤルヴィ指揮 ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団 (Paavo JärviDeutsche Kammerphilharmonie Bremen) のSACD「ベートーヴェン:序曲集」(Beethoven : Overtures)の制作リポートである。この作品はサラウンドとCD-DAレイヤーを持ったSACDハイブリッドディスクとしてRCA Red Seal / Sony より2013年7月24日に発売された。(このSACDは、2箇所で録音されているが、今回のレポートは、フンクハウス・ベルリン・ナレーパシュトラッセで行われた「プロメテウスの創造物」「コリオラン」「フィデリオ」序曲 の収録についてである。尚、「レオノーレ」「エグモント」「献堂式」の録音は2010年にハンブルク•フリードリッヒ・エーベルト・ハレで同じ録音チームによって行われている。)

2.録音ついて
 録音はフィリップス・クラシックス・レコーディングセンターが源流で、1998年に独立したレコーディングカンパニーとなったポリヒムニアのジャン=マリー氏 (Polyhymnia International BV Jean-Marie Geijsen) によって、24ch DSD Surroundフォーマットで行われた。

3.制作の背景
 ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団は、1980年に優秀な音楽学生が集まって創設された世界屈指の室内オーケストラで、2004年からパーヴォ・ヤルヴィが芸術監督を務めている。パーヴォ・ヤルヴィとドイツ・カンマー・フィルは、2004から2008年に、ベートーヴェンのすべての交響曲をサラウンドDSDでレコーディングを行う「ベートーヴェン・プロジェクト」に取り組んだことで知られ、その新たなリリースが今回の序曲集となっているが、そのべートーヴェンへの強いこだわりが支持を集める源になっている。オーケストラのセッション形式の録音は、その採算性から少なくなっている中で、今回のように、素晴らしいアコースティックを持ったのホールでのサラウンドによるセッション録音で作品を制作することはとても有意義なことである。収録チームは、音楽監督プロデューサーとして、これまでに多くのクラシック音楽のCDを手がけてきた、フィリップ•トラウゴット氏 (Philip Traugott) 、バランスエンジニアとして、ジャン=マリー氏 (Jean-Marie Geijsen)が担当した。

4.収録場所
 収録は1956年から1990年まで、旧東ドイツ国営の放送施設であったフンクハウス・ベルリン・ナレーパシュトラッセの Große Sendesaal 1 で行われた。この施設はベルリン中心地から12kmほど離れたベルリン南東部トレプトー=ケーペニック区のシュプレー川に面した場所に存在し、1990年のドイツ統一後は放送施設としての機能を終えたが、その後、録音施設として整備され、大中小 4つのホールと、2つのポップ•ロックに適したスタジオがあり、今回の録音はオーケストラ収録に適した一番大きなホールで録音が行われた。元東ドイツのトーンマイスターによると、旧東ドイツ時代は、政府のプロパガンダにより諸外国からの音楽の輸入が制限されていたが、この施設でポップスからクラシックまで、さまざまな音楽が収録され国民の元に届けられていたとのことである。


Funkhaus Berlin Nalepastrasse (フンクハウス・ベルリン・ナレーパシュトラッセ ) 
ホール•スタジオのレイアウト © Studio Presse Verlag GmbH from 10.2007 Studio Magazine

 東ドイツのサウンドエンジニアであるガーハード•シュタインケ氏 (Gerhard Steinke)が、ナレーパシュトラッセのホールについてまとめた、Das Funkhaus= „Stammhaus“von Rundfunk-Orchestern 
© Dipl. Ing. Gerhard Steinke によると、このホールの音響は、ウィーン楽友協会ホール (Musikvereinssaal)や、西ベルリン•ダーレムのイエスキリスト教会(Jesus-Christus-Kirche Dahlem)のように、音楽に適したよいアコースティックを得るためには、天井の高さは、横幅の倍以上必要であるという思想のもとにデザインされているとのことである。残響の平均は2秒程度であるが、S-フォームとよばれる、Sを横の時にしたように、125Hzから250Hzの残響時間が減少する独特の残響時間の周波数特性により、楽器の音の明瞭さに影響する中低域の音域がマスキングされにくく、また、150 Hz 以下の残響は、サラウンドで必要となる空間のつながりを実現すると記述があった。尚、ナレーパシュトラッセ (ナレーパ通り) は、幹線道路からこのスタジオに通じるわずか80mほどの通りの名前である。


from Das Funkhaus= „Stammhaus“von Rundfunk-Orchestern 
© Dipl. Ing. Gerhard Steinke



5.収録方法と機材
 図-1に示すのが今回の機材系統で、ポリヒムニアの機材車によってすべてオランダから持ち込まれた。コントロールルームの機材は、DAW : MERGING Technologies Pyramixを中心としたシステムでDAW フェーダーコントロール用にコンソールTASCAM DM-3200 、モニターには、L-RにB&W Nautilus 
803、C•LS•RSにB&W Nautilus 805が設置された。マイクロホンプリアンプにはフィリップスが、フィリップスレコーディングセンターのために製作したカスタムモデルが使用され、Emm Labs ADC8 / DAC8 MK IVでAD-DAされ、24Track DSDでマルチ収録された。

機材系統(図1)

Equipment

収録機材
Control RoomSurround LS
EMM Labs ADC8 MK IV / DAC8 MK IVSpecial Microphone Preamps by Philips

6.マイクアレンジ
 図-2に示すのが今回のマイクアレンジである。通常、ポリヒムニアは長年の独自の研究より、5つのオムニ(無指向性)マイクロホンを、サラウンドスピーカーの配置であるITU-R BS775を模した位置に配置する、ポリヒムニア5オムニ (Plyhymnia 5 OMNIS) を使用している。今回はサラウンドレーヤーと、ステレオレーヤーを収録したSACDハイブリッドディスクとして発売される予定であるため、メインマイクはそのサラウンドとステレオとのコンパチビリティーを追求し発展させた、Cを1つではなく2つのオープン•カーディオイドSchoeps Mk22をXYステレオ配置し、CL-CRとしたポリヒムニア•サラウンドアレイが用いられた。この方法は、ステレオミックスの際に、C = Mono 成分をセンターに定位させると、ステレオイメージが狭くなるために、ステレオミックスでは、CL-CRをL-Rに定位させ音源の定位が狭くなるのを防ぎながら、サラウンドミックスではCL-CRをMonoに合算し、Cに定位させ、サラウンドと、ステレオの双方の特性にあった方法でミキシングすることを実現するためであった。スポットマイクは、B&K 4011,4006 Schoeps Mk4,Neumann KM140が用いられ、収録する楽器の放射特性に適した指向性のマイクを、ふさわしい位置に配置しただけで、必要なスポットのマイクの音が得られる工夫がされていた。尚、ポリヒムニアは異なる種類のマイクであっても、出力ゲインが同一になるようにマイク本体の増幅回路をモディファイしているとのことである。

マイクアレンジ (図-2)
ポリヒムニア•アレイの概観





スポットマイクの概観


7.ポストプロダクション
 ポストプロダクションは、オランダのポリヒムニア•スタジオで行われたため、その詳細についてジャン=マリー氏にインタビューをした内容を以下に箇条書きで記します。

  1. 編集はニューヨーク在住のプロデューサー、フィリップ•トラウゴット氏からマークしたスコアが送られ、ジャン=マリー氏の前にドイツ・カンマー・フィルの「ベートーヴェン・プロジェクト」のバランスエンジニアであった、ポリヒムニアのエベレット•ポーター氏によって行われた。編集後、ステレオミックスを行いフィリップ•トラウゴット氏に送付し、その後、編集について幾度かのやりとりをおこなった。
  2. 編集とミキシングの最終調整を行う「プレイバックセッション」は、エベレット•ポーター氏が、指揮者のパーヴォ・ヤルヴィ氏と共に2日かけておこなった。(通常この作業はドイツで行うことが多いとのことである)
  3. 指揮者より、音楽上の編集とステレオミックスのOKがでたら、エベレット•ポーター氏は、ポリヒムニア•スタジオでサラウンドミックスをおこなった。その後、ステレオとサラウンドマスターは、オーサリングスタジオに送られた。
  4. ミキシング•マスタリングには、コンプレッサーやその他のダイナミックプロセッシングツールは使用していない。

8.おわりに
 2012年4月から1年間、名古屋芸術大学の海外研究員としてベルリンに滞在し、クラシック音楽の録音と、トーンマイスター教育の研究を行う中で、さまざまな方々の善意により多くの録音に立ち会うことてができた。このプロジェクトは、パーヴォ・ヤルヴィとドイツ・カンマー・フィルハーモニーが取り組んできた、ベートーヴェンの全交響曲録音の集大成として行われたが、これは、決して容易なことではなく、オーケストラ、レーベル、録音制作スタッフの努力と、いい作品を作ろうというコミュニケーションがあることで成り立っているということを垣間みることができた。また、今回収録したナレーパシュトラッセのホール音響はすばらしく、サラウンド録音に適したホールで、セッョン録音が行われたことは大変有意義であると感じました。
 今回、このレコーディングレポートについて快くサラウンド寺子屋への掲載許可を頂いた、ポリヒムニアのジャン=マリー氏 に感謝いたします。


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SACD Infomation
Beethoven: Overtures
Deutsche Kammerphilharmonie Bremen
Conductor : Paavo Järvi
Released: 24 July 2013
Label: Sony Classical  SICC-10190


1.The Creatures of Prometheus (Die Geschöpfe des Prometheus) Overture Op.43
2.Coriolan Overture Op.62 
3.Fidelio OvertureOp.72c
4.Leonore Overture No.3 Op.72B
5.Egmont Overture Op. 84
6.The Consecration of the House (Die Weihe des Hauses) Overture Op.124 


Credits

Recording :
1.2.3 on December 18-20,2012 at Funkhaus Berlin Nalepastrasse
4.5.6 on July 19-21,2010 at Friedrich-Ebert-Halle, Hamburg

Produced by Philip Traugott (www.philiptraugott.com)
Balance Engineer : Jean-Marie Geijsen (Polyhymnia International)
Recording Engineer : Roger de Schot (Polyhymnia International)
Editing, Mixing, & Masteing Engineer : Everett Porter (Polyhymnia International)
Editing : Everett Porter & Ientje Mooj (Polyhymnia International)


℗&© 2013 Deutsche Kammerphilharmonie Bremen.
Under Licence to Sony Music Japan International Inc.


Profile

バランスエンジニア  ジャン=マリー•ヘイセン  
Director & Balance engineer: Jean-Marie Geijsen
1984年から1988年までオランダ•ハーグ王立音楽院で、バロック音楽を中心にクラシック音楽の録音を学ぶ。1988年から1990年はマスタリングエンジニアとしてキャリアをはじめ、フリーランスのクラシック音楽の録音と、PAエンジニアとして活動する。1990年よりフリーランスとして、フィリップス・クラシックスにてエディター、リマスタリングエンジニアとして、また、1996年にはフルタイムのバランスエンジニアとなる。1998年にフィリップスレコーディングセンターは独立し、ポリヒムニア・インターンショナルとなる。現在はそのポリヒムニアのバランスエンジニアとして、オランダをはじめ、ベルリン、ロンドンなど、ヨーロッパ各地でクラシック音楽録音を勢力的に行っている。これまでに、アルフレート・ブレンデル、リッカルド・ムーティ、小澤征爾、イヴァン・フィッシャー、アンドレア・ボチェッリらの録音を手がけている。

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December 3, 2013

ベルリン•イエスキリスト教会でのオーケストラ•サラウンドレコーディングについて:SPECIALリポート


              名古屋芸術大学 音楽学部 音楽文化創造学科 長江和哉

 Tabea Zimmermann (viola) Deutsches Symphonie-Orchester Berlin, Hans Graf

1.概要
 今回の報告は、2012年8月にベルリン•イエスキリスト教会で行われた、ミリオス•クラシック (Myrios Classics)とドイツの公共放送ドイチュラントラジオ•クルトゥーア (Deutschlandradio Kultur 以下DLR)が、コプロダクションし制作された、ヴィオラ奏者 タベア•チィンマーマン (Tabea Zimmermann)と、ベルリン・ドイツ交響楽団 (Deutsches Symphonie Orchester Berlin 以下DSO) とのSACD「ヒンデミット : コンプリート ヴィオラ ワークス ボリーム1」(Hindemith: Complete Viola Works Volume 1) のセッションレコーディングのレポートである。 


2.レーベルと録音ついて
 ミリオス•クラシックは、ルール大学ボーフムで音楽学を学び、ロベルト・シューマン大学デュッセルドルフで、サウンド・エンジニアリングを修めたシュテファン•カーエン氏 (Stephan Cahen) によって「良い音楽を高音質のフォーマットでリスナーに届ける」ことをコンセプトとして、2009年にドイツ南西部のマインツで設立されたレーベルである。これまでにタベア・ツィンマーマンを始め、ハーゲン弦楽四重奏団などのCDをリリースしている。今回の録音のトーンマイスター (ムジーク•レジー=音楽監督) は、今回のリリース先となる、ミリオス•クラシックより、シュテファン•カーエン氏、トーンエンジニア (トーン•レジー=バランスエンジニア) は、DLRのトーマス•マナヤン氏 (Thomas Monnerjahn) によって行われた。

3.収録楽曲と制作の背景
 2013年に没後50年を迎えるヒンデミットは、生涯に600曲以上を作曲したドイツ・ハーナウ出身の作曲家で、交響曲やオペラばかりではなく、オーケストラを構成するほぼすべての楽器のための楽曲を作曲したことで有名である。また、ヒンデミット自身もヴィオラ奏者だったこともあり数々のヴィオラとオーケストラの作品を残している。その中から以下4曲が収録された。

 •Trauermusik for Viola and String Orchestra (1936)
  葬送音楽
 •Kammermusik No. 5, op. 36 no. 4 (1925) Viola Concerto
  室内音楽第5番 (ヴィオラ協奏曲)
 •Konzertmusik for Viola and Large Chamber Orchestra Op. 48 (1930)
  ヴィオラと大室内管弦楽のための協奏音楽
 •Der Schwanendreher for Viola and Small Orchestra (1935)
  白鳥を焼く男


 公共放送DLRは、クラシック音楽のさまざまな録音をコプロデュースし、外部レーベルと共同で原盤を制作しているが、このコプロデュースの内容は、録音技術、録音スタッフ、録音場所を提供して、発売は外部レーベルから行うという方法である。それらの多くは、ベルリン•フィルハーモニー (Berliner Philharmonie)、コンツェルトハウス・ベルリン (Konzerthaus Berlin)、シーメンスヴィラ (Siemensvilla)と、今回のベルリン•イエスキリスト教会 (Berlin Jesus-Christus-Kirche)で行われている。
 オーケストラのセッション形式の録音は、その採算性から考えて少なくなっており、近年はコンサートのライブテイクとリハーサルテイクを組み合わせて、原盤を制作する機会が多いのが現状であるが、その中で今回の録音は6日間に渡るセッション形式の録音であり、大変貴重な機会に立ち会うことができた。


4.収録場所
 1933年に建設されたベルリン市内の南西に位置するダーレムのイエスキリスト教会で、2012年8月20日から計6日間に渡って行われた。この教会は室内音響が素晴らしく1960年代にカラヤンとベルリンフィルが録音を行ったことで知られており、アーリーリフレクションは暗めで、残響約2.5秒程度に感じ、響きが減衰していくにしたがって「響きがビブラートしていく」と形容されるとおりの音響であった。DLRはこの教会に常時収録機材が設置してあるコントロールルームを所有しており、今回はDLRがコプロダクションする原盤制作ということで、このコントロールルームを使用して収録が行われた。


 Jesus-Christus-Kirche Dahlem
収録場所 : イエスキリスト教会 Jesus-Christus-Kirche Dahlem



5.収録方法と機材
 図-1に示すのが機材系統である。今回の録音は、ミリオスクラシックからSACDとして発売される作品のためサラウンドのマイクアレンジで収録された。DLRの収録機材は、Console : YAMAHA DM2000、DAW : Merging Technologies Pyramixを中心とし、HA/ADC : YAMAHA AD824 24ch分が教会内に設置され 、MADI Audio ServiceのYGDAI Cardを使用したMADIオプティカル接続でコントロールルームまで信号を転送するシステムであった。また、コントロールルームには、サラウンドのモニタースピーカーも常設されており、L/C/R : Musikelectronic geithain RL 903、LS/RS : 同 RL 905であった。今回は、既存システムに加え、ミリオスクラシックよりHA/ADCとして、Digital Audio Denmark AX24が2台が持ち込まれ、AES/EBU経由でYAMAHA AD824に接続された。尚、マスタークロックは、 プライマリーのDigital Audio Denmark AX24から供給され48kHz/24bitで収録された。


機材系統(図1)
Equipment

収録機材
YAMAHA DM2000
Console : YAMAHA DM2000
Merging Technologies Piramix
DAW : Merging Technologies Pyramix
Digital Audio Denmark AX24
HA/ADC : Digital Audio Denmark AX24
Sonodore Microphones
Mic PSU : Sonodore Microphones


6.マイクアレンジ
 図-2に示すのが今回のマイクアレンジである。ヴィオラソロは、通常のコンサートの配置では定位がメインマイクの左側となってしまうため、それをさけるためよりやや中央寄りに配置された。メインマイクは、Shoeps MK2SによるGrossA-B(大A-B)、DPA 4006によるKlein A-B(小A-B)、ファンタム60Vで動作する無指向性マイク、Sonodore Microphone RCM-402によるDecca Tree ''Sonodore Tree''が設置され、LS-RSはNeumann KM130が教会天井の角に向けて設置された。この
Decca Treeと大小のA-Bを配置したメインシステムは、録音後のミキシングの可能性を広げることができ、ドイツでの録音で幾度か見ることができた。
 スポットマイクは、ヴィオラソロ Sennheiser MKH 80、弦楽器 Neumann KM84、木管楽器 ワイド•カーディオイドSchoeps MK21や、オープン•カーディオイドSchoeps MK22、金管楽器 Neumann U89、Timpani DPA4011が用いられた。


マイクアレンジ (図-2)
Arrangement of Microphones

メインマイクの概観
Main Mic

Main Mic
Main Mic
Gross A-B, KleinAB
Main Mic
Surround LS

スポットマイクの概観 
Spot Mic
Spot Mic
Solo Viola : MKH80
Spot Mic
Woodwinds : Schoeps Mk21&22
Spot MicWoodwinds : Shoeps MK22Spot Mic
Timpani : DPA 4011
Spot Mic
Contrabass : Neumann KM84Spot Mic
Harp : Schoeps MK4


7.ポストプロダクション
 ポストプロダクションの詳細についてシュテファン•カーエン氏にインタビューをした内容を以下に箇条書きで記します。

  1. 編集とミキシングにおいて特に特別なことはしなかった。ソリスト•指揮者の編集のOKが出てから、ステレオと5.0ch サラウンドミックスを作成した。サラウンドはLFE を使用しなかった。
  2. タイムアライメントは、メインマイク''Sonodore Tree'' の時間軸とあうように、スポットマイクにディレイを施した。
  3. Shoeps MK2SによるGrossA-Bは使用しなかった。また、人工的なリバーブは追加しなかった。ほんの若干のEQ処理を行った。

8.おわりに
 2012年4月から1年間、名古屋芸術大学の海外研究員としてベルリンに滞在し、クラシック音楽の録音と、トーンマイスター教育の研究を行う中で、さまざまなトーンマイスターの善意により、多くの録音に立ち会うことてができた。ヒンデミットはベルリンで活躍した作曲家で、現ベルリン芸術大学の教授であったが、戦前はナチスとの関係でベルリンを離れざるを得なかったわけであるが、それらの曲をベルリンのオーケストラが、ベルリンで録音するというのはなんとも感慨深いものであると思いました。今回、快く、サラウンド寺子屋への掲載許可を頂いた、ミリオス•クラシックのシュテファン•カーエン氏とドイチュラントラジオのトーマス•マナヤン氏に感謝いたします。




CDinfo
Hindemith: 
Complete Viola Works Volume 1 (MYR010) 
Tabea Zimmermann (viola)
Deutsches Symphonie-Orchester Berlin, Hans Graf

3rd June 2013, Number of Discs: 1
Format: Hybrid Multi-channel SACD
Amazon de Amazon uk  Amazon jp



Der Schwanendreher concerto after old folk songs for viola & small orchestra
Trauermusik for string orchestra with solo viola
Kammermusik No. 5 Op. 36 No. 4 Bratschenkonzert for solo viola & large chamber orchestra
Konzertmusik Op. 48a for solo viola & large chamber orchestra (early edition)world premiere


Recording Credits
Location : Jesus-Christus-Kirche Berlin-Dahlem August.2012
Executive Producer : Rainer Pöllmann (Deutschlandradio Kultur) & Stephan Cahen (myrios classics)
Recording Producer,Balance engineer & Digital Editing : Stephan Cahen
Recording Engineer : Thomas Monnerjahn (Deutschlandradio Kultur)
Assistant Engineer : Maksim Gamov


(P)2012 (C) 2013 A co-production of myrios classics & roc Berlin & Deutschlandradio Kultur

 「サラウンド入門」は実践的な解説書です。

November 8, 2013

ドレスデン近郊ラーデベルクでの教会音楽のサラウンドレコーディングについて:SPECIALリポート

名古屋芸大の長江さんから教会音楽のサラウンド制作の詳細なレポートがきましたので掲載します。長江さん、どうもありがとうございました。こうしたジャンルのレコーディングは、なかなか日本では機会がすくないので、皆さんも参考にしてください。
(Mick Sawaguchi)



ドレスデン近郊ラーデベルクでの教会音楽のサラウンドレコーディングについて

            名古屋芸術大学 音楽学部 音楽文化創造学科 長江和哉  


1.概要
 この報告は、2012年10月14日〜18日にドレスデン近郊の街、ラーデベルクで行われた、ドレスデン室内合唱団 (Dresdner Kammerchor) による、16世紀のドイツ初期バロック音楽を代表する作曲家、ハインリヒ・シュッツ作品のサラウンドレーヤーを含むSACDのセッションレコーディングの報告である。この作品はサラウンドとCD-DAレイヤーを持ったSACDハイブリッドディスクとして2013年10月4日にクラウス•フェルラークより発売された。

2.レーベルと録音ついて
 クラウス•フェルラークは、1972年に合唱指揮者であるギュンター•グラウリッヒ (Günter Graulich)によって設立された教会音楽にフォーカスをあてたシュトゥットガルトの音楽出版社である。これまでにJ.S.バッハの長男、ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハ全集など、数々のコアな教会音楽のCDをリリースしている。
 録音はベルリンを拠点にフリーのトーンマイスターとして活躍している、フローリアン•シュミット氏(Florian B. Schmidt)、アキ•マトゥッシュ氏 (Aki Matusch)によって行われた。

3.制作の背景
 ハインリヒ・シュッツは、J.S.バッハ生誕のちょうど100年前である1585年にドイツ中部のテューリンゲン州に生まれ、1617年よりドレスデン宮廷楽団付きの作曲家として活躍した「ドイツ音楽の父」と称される作曲家である。ドレスデン室内合唱団は、来る2017年にシュッツが宮廷付き作曲家となった400周年のメモリアルイヤーを迎えるにあたり、全22枚のシュッツのすべての作品の録音に取り組んでおり、今回はその10枚目にあたる「ダヴィデ詩篇歌集」 Psalmen Davids SWV 22-47の録音であった。尚、オーケストラと合唱のセッション形式の録音は、その採算性から少なくなっているが、今回の予定を確認すると、4日間のセッション録音の前後の日程で、
この楽曲を取り上げた4回のコンサートが計画されており、録音のみでなく同時期にコンサートをすることにより、十分に採算を考慮したスケジュールであった。

4.収録場所
 ドレスデンから北に15kmほどにあるラーデベルガーピルスナービールの製造で有名な街、ラーデベルグ (Radeberg) の小高い丘の上にある教会、シュタット•キルへ ラーデベルク(Stadtkirche zu Radeberg)で行われた。この教会は、400年以上前から存在し、音楽と強い結びつきを持った教会であるとのことで、今回のドレスデン室内合唱団をはじめ、数々の教会音楽の録音が行われている。アーリーリフレクションは暗めで、残響約2.5秒程度の響きに感じた。
5.収録方法と機材
 図-1に示すのが今回の機材系統で、DAW : Merging Technologies Pyramix、Audio I/F : RME Fireface UFX, Head Amp : RME Micstasy を中心としたコンソールレスのシステムで、司祭の部屋をコントロールルームとして機材を設置して行われた。マスタークロックは、 プライマリーのRME Micstasyから供給され、44.1kHz/24bit 22chのマルチトラックで収録された。サラウンド•セッションで計22chインプットの録音システムであったが、すべての機材が2人が乗ったアウディの乗用車1台で運搬できたことが印象的であった。


機材系統(図1)
Equipment


収録機材
Grace Design m802RME Misctasy ,Fireface UFXMerging Technologies PiramixMerging Technologies Pyramix

6.マイクアレンジ
 図-2に示すのが今回のマイクアレンジである。シュッツの時代の曲はメロディや合唱を2つ以上の場所に分けて交互に歌う、アンティフォナ (Antiphon)が多く取り入れられており、今回は、教会の前方の左右に、歌唱ソリストと通奏低音で構成されるFavorit-Chor IとII 、教会の後方の左右に、合唱のCapell-Chor IとIIが配置され、それらの配置の距離感がよくあらわれるように、収録がサラウンドで収録が行われた。
 メインマイクは、B&K 4006によるDecca Treeが設置され、LS-RSは可聴周波数が完全な無指向性となるノーズコーンを付けたB&K 4006が設置された。
 スポットマイクは、前方の通奏低音楽器にはB&K 4011、後方の楽器にはSchoeps MK4といったカーディオイドが用いられたが、歌唱Soloにはオープン•カーディオイドSchoeps MK22、合唱にはワイド•カーディオイドSchoeps MK21が用いられ、マイクのかぶりを考慮しながら理想的な音がスポットマイクからピックアップできるよう工夫がされていた。
 尚、録音休憩時に、メインマイクとスポットマイクとのタイムアライメント(時間補正)を行うことができるよう、各スポットマイクの前で、クリップのようなものでインパルス音を発してメインマイクとスポットマイクとの波形の時間差をはかり、DAW Pyramixミキサーのトラックディレイで、スポットマイクを遅延させ、各マイクの相関関係を考慮したミキシングがおこなわれた。

Dresdner Kammerchor



マイクアレンジ (図-2)Dresdner Kammerchor


メインマイクの概観
Main Mic

Decca Tree
LS RS
Nose Cone

スポットマイクの概観Spot Mic
Spot Mic

7.おわりに
 2012年4月から1年間、名古屋芸術大学の海外研究員としてベルリンに滞在し、クラシック音楽の録音と、トーンマイスター教育の研究を行う中で、さまざまな方々の善意により、多くの録音に立ち会うことてができた。シュッツはドレスデンで活躍した作曲家であり、その曲をドレスデンのアンサンブルが演奏し、ドレスデンの近郊で録音するというのは、とても自然な流れに感じた。
 今回の録音では、サラウンドでリアに配置される、LS、RSのマイクは、教会の祭壇部分に配置されたが、そのマイクに、特に前方の左右に配置された歌唱ソリストの声が、祭壇の奥の弧を描いた壁に反射した音がよく入っており、通常のホールではおこらない教会特有の独特な立体感を感じることができた。
 このプロジェクトは数年間で、すべてのシュッツ作品の収録を行うということであるが、これは、決して容易なことではなく、指揮者•アンサンブル•レーベル•録音制作スタッフの「良い作品を作ろう」というコミュニケーションがあることで成り立っているということを収録の間に感じることができた。今回、快く、サラウンド寺子屋への掲載許可を頂いた、トーンマイスター、フローリアン•シュミット氏とアキ•マトゥッシュ氏に感謝いたします。



CDinfo
SACD Infomation


2013/10/4
Format:Hybrid SACD, ASIN: B00G2XM5PM
infomation

Credits

Heinrich Schütz : Psalmen Davids

Orch : Dresdner Barockorchester
Dirigent : Hans-Christoph Rademann
Singing Soloists:
Soprano : Birgit Jacobi , Isabel Jantschek, Dorothee Mields, Marie Luise Werneburg
Alto : David Erler, Stefan Kunath
Tenor : Tobias Mäthger, Georg Poplutz
Bass: Stephan MacLeod, Felix Schwandtke
Recording Team: Florian B. Schmidt, Aki Matusch

(C) 2013 Carus-Verlag GmbH & Co KG


 「サラウンド入門」は実践的な解説書です。