December 10, 2004

SANKENマイクロホン Mr.KOBAYASHI 中国サラウンドセミナー

中国サラウンド事情 By 小林実(三研マイクロホン)

2004年も押し迫った12月中国での代理店セミナーをかねて北京CCTVのサラウンドチームと上海OTVへ訪問する機会があったので報告する。


G社中国代理店でのセミナー
北京の三研中国代理店G社で12月1日社員の人々に対してサラウンドセミナーを行った。
その前日11月30日夜、北京の空港に降りた私をG社のSong君が迎えてくれた。私はてっきりこのままホテルにチェックイン、ゆっくり中華料理などを、と思っていたのが甘かった。その足でそのままG社に行きましょうとSong君。G社に着いてみるとPyramix、5.1スピーカーがセットされ、「今からテストしましょう。」ということになった。レベルあわせから始まり、当社CUW-180サラウンドマイクのテストを行った。
G社の多くの人々が居残っており、皆眼が輝いている。私もなにやら勇気が出てきてテストを敢行。その夜10時くらいまでかかって、ようやく準備完了。
翌12月1日、G社では会議室でセミナーを開始。さっそくCUW-180サラウンドセットで実験。Pyramixの前段でマイク4ch分を、シグマのミキサーに入力し、1chをPyramixのMic Inputに入力し、サラウンド再生を行った。15名ほどが集まり、熱心に私のプレゼンテーションを聞いてくれた。プレゼンのあとは5.1サラウンドの音を試聴。
日本から用意していったDVDをかけた。これは実際にCUW-180セットで野外録音したものをAC-3エンコードしたDVDである。
迎えにきてくれたSong君が通訳をしてくれた。
G社は中国のなかでもプロ用映像、およびオーディオ分野で1,2を争う企業である。プラニングから設備工事、販売まで手がけている。
中国各地に13の支店を持ち放送局から機器のプラニングから設置、配線までを全て請負うとのことである。
中国は現在2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博に向かい国家として世界に認められるようになりたいとの意識が伝わってくる。各放送局も例外ではない。各省に放送局がありそれぞれ現在設備投資を行っているとのことである。

CCTV 中国中央電視台


12月1日午後からCCTVを訪問。2002年8月に一度CCTVを訪問しているので、今回の訪問は2度目である。CCTV内に作られた5.1サラウンドスタジオでプレゼンテーションを行う。CCTVではまだサラウンドの放送を流してはいないが、その時のためにエンジニアがサラウンドのミックスを訓練できるようにと5.1サラウンドスタジオを作ったとの事。熱意を感じる。CCTVでは音声部長 Li Feng氏がサラウンドスタジオを空けておいてくれて、そこにAudio Div.の若手エンジニア Yuan Xuecheng, Wei Huan, Gong Miao各氏が集まり 当社CUW-180サラウンドセットについて、ならびにサラウンド全般についてプレゼンを行った。CCTVのAudio Div.のエンジニアは皆すごく勉強熱心。ひとことも私のことばを聞き逃すまいという気迫に圧倒される。CCTVとしてサラウンド放送はまだ行っていないものの、実験として5.1サラウンド番組を制作している。サラウンドスタジオは現在2つある。
訪問した部屋にはEuphonixのSystem-5 コンソールが置かれ、DynaudioのM-3モニターが前方スクリーンのうらにL,C,Rの3個、リアにLS, RSがレイアウトされていた。(スクリーンは上下可動式)LFE のみGenelecであった。操作画面のメニューが中国語なのは、なぜかとても面白い気がした。CCTVではやはり2008年のオリンピックの時のために世界の放送局に対してHD映像と音を提供できるようにしておくことが目下のところ至上命令である。現在新社屋建設のための準備が着々と進んでいた。サラウンドのマイクセッティング法として、FUKADA-TREEやHAMASAKI-SQUARE等も紹介、全員非常に強い興味を示してくれた。CCTVでは「故宮」というタイトルのドキュメンタリーを制作中とのこと。
CCTV終了後オーディオスタッフにお礼を述べて、上海に移動するため北京空港にむかう。
北京での車での移動はちょっとスリリング。わきから歩行者、自転車、バイクそれにバスがどんどん飛び出してくる。それらにあたらないように、蹴散らして自動車が行く。車線変更おかまいなし。クラクションはあちらこちらでけたたましく鳴り響く。同乗しているとちょっとこわい。この夜はあいにく北京の冬独特だという白い霧。前がよく見えないのだ。
「これでは上海行きの便は遅れるかな」などとSong君が言っている。
案の定、北京空港に着いてみると上海便は「遅れ」の表示。カウンターのあちこちで大声でしゃべっている人々の声が喧嘩に聞こえる。
ようやくひろーい食堂があったので、入って腹ごしらえをすることにする。
大きなスペースにたくさんのテーブルがおかれさまざまな人種の人々が食事をしている。
欧米人の数も割りに多い。 定刻から2時間遅れでボーディングしたのだが、飛行機にのりこみ座席に座ってから、さらに2時間とびたたない。離陸しない飛行機の中でドリンクサービスが始まる。妙なかんじ。上海に着いたのはなんと午前1時だった。

OTV 上海東方電視台

上海OTVは上海Media Groupの一員であり、現在三研のCOS-11を80本使っている顧客である。上海OTVはいくつかのチャンネルを所有し、それぞれ専門番組を放送している。
COS-11を大変気に入って使用している。上海OTVではChief of OTV Technical Sectionの Chen Enyan氏とTechnical Center のShen Jianqing氏が応対してくれ 様々な事柄について話すことが出来た。 ここでもサラウンド放送に興味を示してくれ、ハリウッド映画方式、すなわちモノ音源からポストプロでサラウンドを極めて人工的、油絵的に作り上げていく方法、またHD放送方式、ライブでサラウンドを「録り」の段階から行う方法、クラシック音楽のような「インドア」でのマイクアレンジ、スポーツ(この場合ポストプロを行う時間が無い)やドキュメンタリーのような「アウトドア」でのマイクアレンジと話は進んだ。特に「アウトドア」ではEasy to carry, Easy to setが重要との結論に達する。
上海にはもうひとつ上海TVという大きな局があるのだが、今回時間の制約で訪問できなかった。

中国市場
今回はG社の人達が非常に協力的で2つの放送局訪問もスムーズにことが運んだ。
立派な高速道路、高くそびえるビル群、自動車の数はいままさに急成長している国家、中国を感じる。13億人といわれる人口は今後さらなる成長した時には世界の大市場となることは容易に想像できる。
欧州、米国各社が中国に売り先を求めて乗り込んでいる。
今回はメーカーとして代理店と共に放送局を訪問したのでG社の人々からは非常に感謝された。翌朝は成田に帰るという短期だったため、その夜G社上海支店のSong Xiao Lu氏とGo Ei Kai氏 それに Song君と食事をした。彼らは率直というより結構客観的で 靖国問題に話が及ぶと「我々は感情的には何も思ってないんです。ただ小泉という人はへたくそだなって思うんです。」と言っていた。「だって何も今 総理大臣というFunctionで靖国に行って外交をことさらやりにくくすることはないんじゃあない。Functionが終わってからゆっくり行っても手遅れじゃないし。」ときた。さすがに、したたかによく見てるなーと感じた。私も昔日本には文字が無かった、中国から借りてきてから記録が残せる言語になった。とか中国は昔の日本にとって先生で、留学生団として遣隋使、遣唐使を送って知識をもらったんだ。などの話をして少し盛り上がった。
2004年は7月にも今回と同じようにイタリア代理店とRAI(イタリア放送)にてプレゼンテーションを行う機会を得た。今後もこのような地道な活動を続けていきたいと思っている。世界に向けて情報発信!

「サラウンド制作情報」 Index にもどる
「サラウンド入門」は実践的な解説書です

December 5, 2004

第19回サラウンド塾 サークルサラウンド方式によるFMサラウンド制作

By Mick Sawaguchi 沢口真生
2004年12月5日
テーマ:サークルサラウンド方式によるFMサラウンド制作について
講師:仁平、川島、野川(T-FM IRIS)

沢口:2004年12月の寺子屋はT-FMが取り組んでいるサークルサラウンド方式によるFM サラウンド制作について技術局仁平、川島さんと自然環境音でマルチチャンネル制作を行っている野川さんの講演とデモを実施しました。以下に概要を報告します。


仁平・川島:T-FM の仁平・川島です。今日はT-FM の録音スタジオIRISが2004年8月に更新したのを機に5.1CH サラウンドスタジオ対応とし、あわせてブロードバンド放送も可能な設備としました。T-FM では現状のアナログ2CH放送でも5.1CH放送が可能な方式としてサークルサラウンドという方式を採用しています。


主な制作は毎週 木曜日 19:00~19:55 「ライブデポ」
TFMホールでのライブコンサートをFM放送およびブロードバンドで生放送
毎週火・金曜日 12:30~12:50 「インフォシエスタ」 http://www.iiv.ne.jp/siesta/
ブロードバンド iivチャンネルで生放送です。これ以外にも
・TFMホールでのコンサート収録
・音楽レコーディングスタジオとしての使用
・映像収録スタジオとしての使用
・外部収録コンサートのトラックダウン
・5.1ch番組の完パケスタジオ 等 
などがあります。ではこれまでのサラウンド制作例をデモでお聞き下さい。

1.これは2004年8月1日に放送したサーカー中継です。
国立競技場 FCバルセロナ vs 鹿島アントラーズ戦をJFN38局フルネットでオンエア。
2.3セグメント地上デジタルラジオ Vioce98にて5.1ch番組を制作
*「トリオリベルタ」みなとみらいホールコンサート
*二期会マイスタージンガーズ スタジオ録音
これらは出演者のみなさんも色々なサラウンド音場の効果を実験したいという意欲と我々技術との共同実験で様々な配置や収録を試みる良い機会でした、
・ JET STREAM 1万回記念DVD制作 


これまでのサラウンドMIXで感じたことは以下のようなものです。
・ステレオ放送との互換性
→音楽ミックスにおけるリバーブ、リア成分の扱い。これはステレオにダウンミックスするとどうしてもリバーブ感が薄くなる傾向がありどちらでも気持ちの良いバランスを研究中です。
→ステレオ放送における完全逆相の防止。これはサークルサラウンド方式の宿命でリア成分は逆相として記録しているためステレオ再生ではキャンセルされて聞こえなくなることを防止しなくてはなりません。
・マトリクス方式の運用
→完全には再現できないパターンがあるため、実際にやってみて再現するものとしないものを経験則でノウハウを積む必要がある。(チャンネル間の早い音の移動等)
・5.1chミックス全般において
→ナレーションレベルのバランスの難しさ(背景音とのトレードオフ)
・今後の課題
→リスナーの聴取環境の把握。(デコーダーの設定として最適なセッティングを決定する必要あり)
→Circle Surround-II モード設定の問題
→番組制作時間のスマート化、制作設備の拡充
→番組出演者の理解の必要性

仁平:では次に、元T-FMのディレクターで現在は、自然環境音の収録から制作を行っているフィールド ストリームの野川さんを紹介します。野川さんよろしく!


野川:フィールドストリームの野川です。自然環境音によるコラージュという取り組みを仕事にしていますがこれらは私自身が全国各地にロケーションを行いそれらを組み合わせてマルチチャンネルのコラージュとして各地の博物館や展示資料館、プラネタリュームなどで再生しています。建築業者との仕事になるので素材を仕込んで後の最終バランスは実際の現場で行っています。建築業者の方々はオーディオ機器に対してはまだ聞こえればいい?といった認識が多いので機器の選定段階から十分な意見を出し合わないといい音環境が構築できません。収録機材はノートパソコンにNUENDO+RME/MULTIFACEをインターフェースとし4-CHで録音しています。使用するマイクはEARTHWORKS.ノイマン.サンケンCUW-180等です。バッテリー駆動で小型軽量なセットとしています。

本日のデモは私が永年取り組んでいる沖縄 竹富島をテーマにした5.1CHデモです。まず竹富島のイントロから集落の朝の風景、春の浜辺、スコール、あばあの機織り、夕暮れの祈り、ガーリーの祭り、深夜の浜辺でトータル30分ですのでお聞き下さい。

参加者からは、自然音だけのサラウンドの世界に音楽とはまた異なった新たな魅力を発見!(了)

「サラウンド寺子屋報告」 Index にもどる
「サラウンド入門」は実践的な解説書です

December 1, 2004

第117回 AESコンベンション キーノートスピーチより A&M社長 R.Fair

By RON FAIR 抄訳:Mick Sawaguchi 沢口真生

これは、第117回AESコンベンション サンフランシスコでのオープニングキーノートを行った現A&Mレコードの社長RON FAIRSの講演内容を抄訳したものです。音楽業界の立場からの彼の視点として参考にしてください。

まず、私の生い立ちからお話しましょう。現在はA&Mレコード社長という職にあり、毎日24時間7日にわたって様々なレコードプロデュースをてがけ椅子の前にはKRKのモニタースピーカとアンプと電話があります。作曲やアレンジも行いますが、重視しているのは多くのミュージシャンの音楽を聴くことです。こうした仕事の背景になった私の生い立ちは大変おもしろいと思います。

わたしの祖父はポーランド移民で役者でした。まずニューヨークで芝居の仕事をしていましたが、その後1940年にL.Aに移住してからは、
「ユダヤの時間」というラジオ放送をてがけました。これは毎日毎週5日間の定時放送でその後26年間も続けました。
この制作のために自宅の裏庭に自前のスタジオを建設し、AMPEXを中心とした設備を備えていました。
私が2歳の時「これらで放送を始めよう」とスタートしたのです。そこで私を膝の上に載せ録音したりしました。こうして自然と録音という世界に浸っていったわけです。
私の家族は、私を除いて全員クラシックの演奏家でした。でも彼らは、私がその世界へ入ることは望みませんでした。
でも私は音楽を愛し、音楽制作をやりたいと考えていました。それでピアノとギターを勉強し始めました。
なかでも私の姉が持っていた J.コリンズ・J.ミッテェル・バーズ・B.ディランといったレコードから大きな影響をうけ、クラシックとPOP音楽の感覚を身につけることができました。
裏庭でギターを演奏している10代に隣にいたドラマーが、16歳でABC音楽出版と契約し、そこへ一緒にいくうちに保管庫にある膨大なすばらしい音楽と出会うことができました。スティーリーダン・ママ&パパス・テリーギブス・ファラオサンダース・フレディハバード・等々。こうしてPOPSやJAZZなど多くの音楽と接することができました。
当時POPSミュージシャンはロングヘヤーでしたが、私はビルエバンスやチェットベーカといった音楽が好きでしたので、ショートヘアーで通しました。

高校では、コードに興味があったので、ハーモニーの勉強をしました。友人が小さな録音部屋と機材を持っていたのでそこでトイレの掃除からコピーまで何でもやり、夜になると友人を呼んでデモ録音を繰り返し、レコーディングの世界へ入っていきました。それからは、いくつものレコード会社を訪ね職を探し、ユナイテッドアート音楽出版の録音エンジニアとなることができました。20歳の頃です。ここでは8トラック録音が行われており、3時間で3曲のデモ録音を行うという仕事をやりました。一日では計6曲を録音しているスケジュールです。しかし、いずれはプロデューサをやりたいという思いはこのころからありました。1981年に念願のA&R担当にRCAレコードでなり、たいしたヒットをだすことなくCHRYSALISレコードへ移り、そこでGO WESTと契約し世界的なヒットを生み出すことができました。ロンドンとの関係もできたことからISLANDレコードの国際A&R担当となり、その後EMIへ移り再びアメリカへ戻りました。こうして多くの会社を異動しました。
EMIでは映画「プリティウーマン」のサウンドトラックを担当しました。正直いって私は、創造的な的を絞ったレコードを作りたかったので、サウンドトラックのようなごった煮的なレコードは乗り気ではありませんでした。しかし、これは世界で7百万枚も売れたのです。EMI時代は、多くの有益な経験を積むことができました。その後RCAへと異動し、そこでCHRISTINA AGUILERAと出会いました。私は、こだわりを重視した制作スタイルをとっていたので万人とうまくいくわけではありませんが、その呼吸が出会うと花が開くというわけです。かつての名門A&Mレコードとの出会いがそうかもしれません。

もう一人、私の人生に大きな影響を与えてくれた人物を紹介します。BILL CONTEです。彼とは低予算の映画録音で知り合いましたが、
彼は「君は、少しミュージシャン、少しアレンジャー、少しエンジニアだ。だからプロデューサがむいているよ」と言ってくれた人物です。彼との仕事は「ロッキー」の映画音楽録音です。「君はスコアが読めるからここのエンジニアにトランペットが鳴るときにハープを絞るタイミングを教えてくれ。時間$20でどうだ」といわれました。3時間のセッションで$60もらいました。1977-78年にかけての彼との仕事ロッキーで私は映画音楽の世界を知ることができ、そして、私の初めてのゴールドレコードとなりました。

最近の音楽は、あらゆる面で変革を遂げたといえます。苦悩と痛みそしてさらなる困難という局面も否定できません。しかし、一方で明るい未来も見えています。ファイルという感覚で扱う音楽。。コピー問題、いまや音楽は持ち運びでき、扱いやすく、ダウンロードという手段で再生することもできます。このことで違法なコピーが充満し、我々が多くの音楽家と契約し、レコード会社を運営し、多くの従業員を雇用し、高価な機材を購入し、映像も制作し・・・といった一連のワークフローに変化を与えています。私が一番の関心事はコピー問題です。一枚CDを買えば、たちどころに25枚のCDが自宅で焼ける時代です。

もうひとつの問題は、音楽的に高度な教育と高い芸術性の確保です。
かつては、居間にピアノがあり、レッスンを受け、ライブハウスではバンド演奏していました。今はこうした音楽環境が消え去り、ガレージバンドがテクノロジーを駆使して音楽が可能な時代です。この恩恵も否定はしませんが、磨き抜かれた芸術表現とは無縁です。
手軽に音楽が制作できることのデメリットもあります。ここL.Aでは、かつて毎日5つのスタジオオーケストラが録音していました。今その仕事はシアトルやプラハ、ロンドンへと移動し映画の音楽録音で構成されていた一連のワークフローは分裂し、200名もの職がなくなったといえます。

FCCなど政府のメディア規制も問題です。ジャネット ジャクソンのカメラシーンに過剰反応したメディアは次回のグラミー賞の演出をどうするか、頭を悩ませています。ヨーロッパからみれば「なんとせせこましいことに無駄な時間と金を使っているのだ!」と見られています。

音源の保存についても考えなくてはなりません。多額の投資を行って制作された多くの音楽は、膨大な記録と様々なタイプの音源が残っています。その記録方法は、数年おきに変わっています。ここ10年・15年・20年さき、どう対処すればいいのか検討もつきません。

明るい面も述べなくてはなりませんね。アップルがI-PodやI-Disc I-Tuneなどで奇跡的な復活を成し遂げたように、我々もロンドンで仕上げたMIXがAIFFファイルで受け取り、15分後にはMIXがここL.Aで完成するといった驚異的なフローができました。
5.1CHサラウンドもそのひとつでしょう。いまや家庭で音響空間を享受できるようになりました。リハーサル.COMという私の友人が立ち上げたサイトは、今人気です。その理由はリハーサルスタジオでリハーサルしているミュージシャンのLIVE配信を見ることができるからです。とくにグラミー賞や大きな授賞時期の前になると、大物ミュージシャンがここで行うリハーサルはファン必見となります。
衛星ラジオも新たな動向の鍵をにぎるでしょう。

音楽は、日常の空気のような存在となり、いつでもどこでも広範囲に楽しめる存在となっています。電気や水道のように・・・音楽という大きなパイプが家庭へ配信され、そこで聞きたい環境に応じて様々な形態で再生することが可能で支払いは、電気やケーブルTVと同じ感覚で曲単位ではなく毎月の固定料金例えば月$12とかで支払われる時代でしょう・・・
すばらしい才能のアーティストも続々と登場しています。

レコード会社は、SONY/BMGが合併し、残るはWAENER EMI UNIVERSALのみとなりました。
でも音楽を愛し制作をする優れた人々は存在しています。音楽を愛し世の中に紹介しビジネスすることに喜びを持った人間です。
新たな方向と新しい道を造るための挑戦へ挑むひとびとへ輝かしい未来を確信しています。(了)

「サラウンド制作情報」 Index にもどる
「サラウンド入門」は実践的な解説書です

November 10, 2004

InterBEE2004国際シンポジューム サラウンドセミナー

By Mick Sawaguchi 沢口真生(シンポジュームコーディネーター)

今回は、初の中国からのPOPSエンジニアの参加や我が寺子屋のメンバー野尻さん、そして伝統的なクラシックサラウンドさらにPOPS音楽制作で頭を悩ます、センター成分の使い方と幅広い分野をカバーしました。寺子屋の大きなテーマでもあります、最も入り口へパワーシフトという点からも、作曲家やアーティストがこうした場で様々なサラウンド創作の考え方を発表するのは、業界にとってもいい刺激だと思います。夏のソナで行ったサラウンドデモで紹介した中国SA-CD POPS サラウンドのエンジニアSTEPHEN LIM と遭遇できたのも、本寺子屋メンバー リエさんのネットワークがあったからです。彼からはシンポジュームで来日できることを大変喜んでいるという快諾がきて嬉しい気持ちでした。


[ モスクワ ボリショイ劇場でのオペラ サラウンド制作について ]
ジーン メリー Polyhymnia

我が社はフィリップス レコーディング センターが前身で1998年にその全てを移譲し独立したクラシック制作会社となった。ここでは、SA-CD CD DVD-AUDIO/VIDEOなどクラシックでの高品質ソフト制作を行っている。
スタジオは5室、4式の屋外録音システムを持ち1996からサラウンド録音に取り組み始め、現在はすべての録音をサラウンドで行っている。
今回紹介するオペラ「RUSLAN&LYUDMILA」は全5幕でモスクワのボリショイ劇場でライブサラウンド録音した。

1 収録機材


図-1に示すのが今回の機材系統で出力はDSD8チャンネルで録音。マスターにはピラミックスDAWを使用している。これは音質、価格、安定性と音楽編集が実にバランスしているDAW であるという理由で使用している。
バックアップとしてTASCAM DTRS3台で24チャンネル録音、5KWの電源もスタンバイしている。(ロシアは電源事情に難があり不測の事態に備えるためである)
使用するマイクの回路はすべてオリジナルに改修してありコンデンサーやトランスをすべて取り外し、出力インピーダンスは8オーム以下、全ての感度は同一に調整してある。マイキングは永年の実験結果からアンブレラ形式のITU-Rレイアウトを模した、つり下げ方式のメインマイクを使用している。(彼らの録音手法はフィリップス伝統の方法でとにかくミキシングフェーダーをいじらないで済むように、原音場でベストな状態を作ることに努力し、そのためマイクの感度もいつ交換しても無調整でいいようにそろえてあります)

2 収録
この劇場は大変響きの少ない会場でかつ初期反射音は大変多い客席とステージの音響も大変異なるという特徴がある劇場である。観客は常に携帯電話を鳴らし収録には多くのノイズがはいる状況であった。特にオペラに使用したスモークマシンの騒音には悩まされて、このためリハーサル前日にステージ照明が大幅変更された。
録音はリハーサル、3夜の公演に加え3時間の手直し用素材を録音。

3 ポストプロダクション
編集は2週間、ステレオのMIX DOWNに3日、サラウンドに2日をかけ3枚組のSA-CDハイブリッド盤に仕上げた。
クラシックオーディオ業界からのコメントは賛否両論で今までで最悪の録音だ・・・というものからオペラの録音でも秀逸の作品である・・・まで多様なコメントをいただいたが評価は是非みなさん自身で確認してほしい。
写真 収録機材1/2
写真 メインマイク
写真 マイキング全体
写真 SA-CDソフト

[ 中国におけるPOPSサラウンド制作 ]
ステファン リム Mica Productions

彼の会う以前は、かなりベテランのエンジニアを予想していましたが、なんと30代前半独身の若者でした。滞在中は池袋・渋谷・上野そして秋葉原と地図を片手に飛び回っていました。

POPSにおける録音段階のフローは、ステレオ録音と大差ないマルチトラックで録音している。
すなわち個々の楽器が独立で録音されるわけである。
中国本土および香港の音楽制作はプロツールズやデジタルパフォーマ、ロジックといったコンピュータベースでのホームレコーディング制作が多いという特徴がある。(彼に寺子屋メンバーのデモを聞かせたところ、これがデモ!とその仕上がりの高さと音の良さをほめてました。中国のデモは簡単なメロディーと伴奏くらいだそうです)こうして完成したマスターはピラミックスでDSDに変換しSA-CDとしてリリースしている。それは中国の沿海都市部は大変経済的に裕福となり耳の肥えたリスナーが高価なサラウンドオーディオ機器を購入し始めているという現実があるからである。難点は、サラウンド収録のためのマイキングテクニックの知識は極めて少ないといえる。


1 ステレオVsサラウンドミキシングの特徴
2チャンネルという極めて限られた音響空間のなかでいかに音楽のエネルギーや勢いを出すかに工夫を必要とする。そのために多くのエフェクターやプロセッサー、リミッターなどの機器を必要とし、無理矢理空間のなかに閉じこめなくてはならないという制約を生じる結果となる。(彼は音を押し込めると言う意味でSQUEEZEを連発!)
一方のサラウンドミキシングでは、多くの空間を使うことができ、結果としてむりやり音楽を押し込めるといったことを考えなくても良い。
その結果エフェクターやプロセッサー、リミッターといった機器の使用頻度は少なくなりより自然な音を作り上げることができる。逆にいえば、録音素材段階ですばらしい音はよりすばらしく、だめな音はそのまま出ることになるので録音段階での音楽性が最も重要となる。

2 サラウンドミキシングでのポイント
私がサラウンドでミキシングする場合は、強調したい、あるいはキーとなる楽器をセンターとしている。サラウンドの音場は2つのアプローチで使い分けている。ひとつは音楽の海の中にリスナーが浮かんでいるような感じのサラウンド、もうひとつは、楽器のリアリティを感じるような空気感を作り出すことである。ダイバージェンスというチャンネル間へ音をこぼす機能があるが、これは楽器の大きさを変化させたい場合に使用している。サラウンドリバーブとしては、TC-エレクトロニクスM-6000やプロツールズのプラグインリバーブ例えばWAVES R-360等と通常のステレオ機器も組み合わせて使う。
LFEは、あくまでエフェクトチャンネルとして扱っているので全ての音源をここに送ることはしていない。
サラウンドのトータルデザインを行っておくことも重要である。リスナーにどんな音楽として聞いてもらいたいか?空間を包んだ感じなのか?あるいは、目の前で演奏している感じなのか?しかし大事なことは常に音楽にフォーカスをあわせてもらうことでこのためには、特別の決まりはない。まさにThere are no ruleである。

[ センターチャンネルの使い方 ]
JEFF LEVISON DTS エンターテイメント

映画の世界では、ダイアローグがハードセンターチャンネルにくることによって劇場の広いエリアでも安定したバランスを提供してきた。一方のPOPSを中心とした音楽制作では、今日どういったセンターの表現法が適切か?について模索している段階である。ここではこうした点に注目してPOPS音楽サラウンド制作における様々なセンター成分の表現方法と特徴についてデモを交えながらお話したい。本日のデモ制作にあたっては以下の方々から音源の提供を受けたことに感謝したい。
本日講演の3名の方々に加えN.Kunkel G.Mraz S. Parr Mack R.Prentである。

● ポリフェニアの録音にみられるITU-R 配置を近似したフロント全指向性L-C-R録音で得られる正確なセンター定位とリスナーの聴取位置による音色の濁りの改善

● ソロボーカルのハードセンター+L/R への大幅なダイバージェンス

● これも同様なアプローチを様々なセンターの使い方でデモする。
まずファンタムセンターのみ。次にハードセンターのみ、次はフロントL-C-R に等分のレベルで配分した例、そして次はハードセンターをメインとしてほんの少しL-Rにもダイバージェンスした例。これらを聞くことでみなさんは明確なセンター定位とリスナーが頭を移動した大きさによって生じる位相シフト歪みの影響を知ることが出来る。

● 次のグラハム ナッシュのサンプルは、VoとAgt の弾き語りの例で
ステレオMIX で問題となるのはお互いのマイクにあるかぶりが干渉して音色が変化してしまうということにある。このサンプルでは、ギターをL-Rに定位させ、Voをハードセンターとすることで滑らかな音場が出来る例を、さらにファンタムセンターだけの場合、そしてギターとVoの時間軸を合わせてセンター定位した例、最後は当初の配置、すなわちAgt はL-RでVoをハードセンターとした例で音色が濁らずいかに自然な音場を得るにはどうするかの例といえる。

● 次の例は野尻氏のペトリューシカで用いられたセンターの例である。
ここでは、純粋なハードセンターとそれにアンビエンス効果として加えたわずかながらの響きがL-Rに加わった場合の相違をデモする。
もうひとつの例は、音場の中におけるモノーラル音場の効果的な使用例である。ここではサラウンド空間の広がりとモノーラルの音場のコントラストが実に効果的に表現されている。

● この例はR.Prent のアプローチ例である。メインのボーカルはハードセンターに明確に定位しているがリバーブは無い極めてドライな音である。しかし残りのチャンネルにリバーブを定位することで明確さと心地よさを両立している。

● 最後の例は、J.Mack が行ったヘビーメタル Gtサウンドをいかに大きな音場にするかの例である。通常Gtアンプは一台しか使わないがここでは計6台のアンプを分散配置し音圧レベルも均一とすることで大きさと音圧をサラウンド空間に創出した例である。

●  そのほかにもステレオ音源からプロセッサーを用いることでセンター成分を抽出しそれを加えることでフロント音場の安定性を創出したり、ドラマ的な要素を加える上でファンタムセンターから少しづつハードセンターへ変化させるといった使い方の例を示す。

* サンプル素材をDVD-V DTS エンコードしたディスクをJEFFから10枚もらっていますので勉強したい方はMick へ申し出てください。

[ 作曲者からみたサラウンド音楽制作の魅力 ]
野尻修平

野尻氏は2004年音楽大学を卒業、在学中のサラウンド作品がDVD-Aでリリースされるといった、サラウンドを前提に作曲創作活動を行う次世代若手クリエータのひとりである。今回は最も入り口となる作曲者の立場からサラウンド音楽制作への取り組みを講演していただいた。

1 サラウンド音楽制作
在学中に冨田勲氏に師事しサラウンド音楽制作に触発されたが、当初はどれくらいのリスナーが5.1CH という多くのスピーカで楽しんでもらえるか悩んだ時もあった。しかしステレオでは表現できない音楽をサラウンドというツールを使って音場構成することで、より魅力的な音楽表現が可能であると感じて以来積極的な創作を行えるようになった。
私の場合は、シンセサーザーを多用したホームレコーディング制作をメインとしており、モニター環境は、かつてのクオドラホニック4CHを基本にセンターとLFEを加えた5.1CHセットアップである。このことでリスナーは、どこで聞いても良いという前提ができあがる。この手法は、「パノラマ作曲」と名付けているが音楽表現の中でも原音場再現型サラウンドではなく音場クリエイト型のアプローチである。

2 デモと具体手法例
ではその一例として レスピーギ 交響詩 ローマ3部作から聞いていただきたい。私はこのスコアをみたとき、大変立体的な楽器の構成に感動しサラウンド化したものである。ここに描かれている壮大なローマの世界を表すにはサラウンドという表現がもっとも有効であると感じて作った音楽である。創作の段階からサラウンドという音場を考えながら組み立てていくことが重要で単に色々な楽器がばらまかれているだけでは説得力のある音楽世界とはならない。ステレオの方が返ってインパクトを持つといった現象になったのでは失敗である。
私の場合は、大まかな構成をステレオで組み上げて、それをDAW上でより詳細にパンニングなどの定位を決めていくが、音場構成が不自然だと感じた場合は、その音楽がどのような演出を求めているのかを考え直し理想的な音場が構成出来るように組み上げている。今日のパーソナルコンピュータで構成できるDAWの出現は、こうした世界を身近に実現できるツールとして実に有用である。

以下ガラパゴスシンフォニーとバレエ音楽ペトリューシカをお聴き頂きたい。
ここで試みたのは、立体的な情景をサラウンドという表現でいかに実現するかであった。作曲の段階からこうしたサラウンド表現を念頭におく手法は古くからあったとはいえ、より積極的な創造性を加えたアプローチは今後の大きな魅力のひとつになると考えている。ペトリューシカでは、市場の雑踏風景から主人公の人形の心理描写まで、サラウンドの音場が有効に機能した例ではないかと思う。リスナーの皆さんがテーマパークの中に足を踏み入れ、そこで体感する自由な音楽世界、いわば音楽アトラクションといったより、聞き手の側の波長を重視した新たな音楽の愉しみ方を提示できるツールとして、私はサラウンド音楽表現にあらたな魅了を見いだしている。

Q&A
会場の参加者とのパネルディスカッションででた質問項目は、以下のような内容である。
Q-1:ホームレコーディングでシンセサイザー制作する場合、サラウンドパンニングの方法は?
Q-2:オペラなど観客がいるLIVE録音後のノイズの除去方法
Q-3:センターチャンネルの使い方を放送界HD制作者へ普及啓蒙するには
Q-4:中国ではどんなサラウンド制作が行われ、どんな反応か
Q-5:クラシック サラウンド制作時のポストプロダクションの詳細
Q-6:家庭環境と制作でのモニター環境でSWEET SPOTをどう考えているのか
Q-7:スピーカのリアの高さはどれくらい許容度を考えればいいか

2005年7月に東京科学技術館で開催されるAES TOKYO CONVENTIONでも様々なサラウンドへの取り組みがテーマになる予定です。またご参集ください。(了)

「サラウンド制作情報」 Index にもどる
「サラウンド入門」は実践的な解説書です

October 10, 2004

中国のサラウンド事情 第1回FARASフォーラム リポート2004-10

第1回 中国で開催された初サラウンド フォーラムに参加して at 広州リポート
By Mick Sawaguchi 沢口真生

[ はじめに ]
中国の南、香港の裏側に位置する広州がアジアの音響文化向上を目指したフォーラムをやるが、その第一回目のテーマにサラウンド音響を取り上げるので、講演に来ませんか?と誘いをうけたのは、2004年の4月ころでその話は、香港の出版社で「サラウンド制作ハンドブック」の中国語版を出版してくれた出版社からの誘いでした。中国は、まだ放送はモノーラルが多いし、ステレオから勉強するのが着実かな?と考えましたが、世界の動きに敏感な国ですし、中国の音声事情も知りたいと思い、OKとアンサーしておきました。

いかに広州での開催となった第一回アジア音響フォーラムとサラウンド事情をリポートします。

10月9-12日まで中国広州市で開催された第1回アジア音響フォーラム
(Forum of Asian Recording Arts and Science in Guangzhou)

中国本土の放送界を中心としたサラウンド音声への取り組みは、殆ど我々が知ることができないこともあり、今回は貴重な経験ともなった。
本フォーラムFARASは、広州市と広州文化局 広州市音楽家協会、広州新聞放送局と中国音響協会が主催してアジアでの音文化の向上と、それを支える音楽、放送、映画のサウンドエンジニアのスキル向上を目指したフォーラムである。期間中は広州市の各イベント会場で最新機器展示、ホームシアターデモ、コンサート、ジャンル別録音賞審査なども開催され、これと並行してサラウンド制作に関するセミナーが2日間広州市のオリエンタルリゾートと呼ばれる郊外の会議場で開催された。海外からの講演者は3名でDolby Europeのアンドレ氏、私とTC-エレクトロニクスから京田氏が参画した。

広州がこうした大規模なフォーラムに多額の予算を負担し開催するという背景には、近年の広州の経済発展が大いに関係している。
彼らいわく「中国の3大都市北京、上海そして南の広州はお互いにその覇権を競ってきた。広州は、経済面で大きな成長を成し遂げたが、ここで文化芸術でのイニシアティブをとることで、アジアにおける地位をアピールしたい」と開会式冒頭の挨拶で市長が述べている。
こうした戦略にもとづいて今回中国各地から初めて放送、映画、音楽に関わるエンジニアが一同に参集するというフォーラムが実施されたわけである。

1 フォーラムの概要
写真に示すのが今回の会場となったオリエンタル リゾートのメイン会場である。


国連の会議場を思わす石作りの建物内は、円形配置で周りはガラス張りである。9日のプログラムは午前がDolby Europeのアンドレ氏で中国語の通訳は、Dolby北京支社のkateが担当し世界の放送界におけるサラウンド状況やDVD-Vの制作、Dolby社の取り組みなどが講演された。


この中で痛感したのは、BBCやORF、FOX ,ABC,NBCなどの放送機関がDolby社へデモ素材や情報を多く提供し、放送界におけるサラウンドの先駆者は我々である!とアピールしていることである。NHKは1980年代半ばから先駆的にとりくみ、1990年からハイビジョン制作と放送を行っているといってもこうした世界を駆けめぐって講演している人々とネットワークしていないことから極めて限定した情報しか彼らが手に入れていないことである。NHKがハイビジョンとサラウンド制作のと理組で彼から紹介されたのは、今期アテネオリンピックでの放送のみであった。
「みなさん!まめに世界にむけた情報発信をしましょう。」ドメスティックで満足しては決してグローバルに認知はされない。ちなみにBBCのプロモーションビデオ、これはNHKとの共同制作ソフトブループラネットの一部だがそこには大きくBBCこそHD制作の先駆者!と高らかに謳ったロゴが最後についている周到さがある。

講演を終了したアンドレは、夕方の飛行機で北京へ飛び11日の日曜日に中国、フランス文化交流50周年記念の一大イベントの模様をヨーロッパHD 5.1CHサラウンド中継するための機材準備へと出発した。これは、同日NHKでも放送したので見られた方がいるかもしれないが、制作はヨーロッパアルファカム社で天安門広場からのフランス現代音楽の演奏会をHD/サラウンドで中継したものである。13日には上海TVにいきそこでもサラウンドの講演を行うという精力的な行動で、プレゼン用のパワーポイントも英語と中国語併記の充実ぶりである。北京OFFICEのKATEによれば3年前に北京にOFFICE をだしたが当初はさっぱりの反応であったが、最近になってようやく各州の拠点局クラスでサラウンドにたいする関心が高まってきたと言っていた。機材の貸し出しやデモDVD-Vのマスタリングなど様々なリクエストに応えておりハード面は香港のACEという会社がハンドリングしているそうである。

午後は、私の講演で午前の概要編を受けてサラウンド制作の実際編、各種マイクアレンジ例やデモ素材の再生を行った。来場者の多くは、日本製の高品質デジカメ(SONY、キャノン、オリンパスなど)とノートブックパソコンを持参しており、マイクアレンジ例など自分が必要なデータがスクリーンにでると一斉に撮影を開始する熱心さ!であった。私の技術通訳は広州ラジオのBAY WAY君が担当してくれたが、「MIKING」という業界用語にとまどった以外は、極めてスムースな通訳を行ってくれた。デモで持参した素材に中国のPOPSでSA-CDサラウンドソフトを2曲ほど入れていったのだが、それを再生したときは、音楽スタジオのエンジニアの人々が一斉に会場の真ん中に歩み寄って熱心にききいっていたのが印象的であった。ほかでは、ラジオドラマやFUKADA-TREEで録音した楽曲やINA-5 HAMAZAKI-SQ SEIGEN ミONOのスタジオ内に、サンプリングリバーブを介して同時に収録した楽曲などが気に入ったようである。


兼六館から出している筆者監修「サラウンド制作ハンドブック」の中国版を昨年出していたのであるが、参加者の10名ほどはそれを参考書にして大部分の基礎知識やサラウンドのメインマイクアレンジなどは学習していた。
「Itユ my Bible」と言ってくれたのは、大変光栄であった・・・
サラウンドソフトで実際の音を様々なジャンルで聞いたのは、これが始めてという感触であったがその熱心さはワールドワイド!

講演終了後の反応が、大変興味深かったのでご紹介したい。
AES等では、内容が良かった場合、講演者席にきて握手とコメントを述べる例が多いが、ここ中国ではやおら壇上に駆け上がってツーショットをデジカメでとる・・・のである。一人終わるとまた一人と言った具合でコメントなどは、いっさい無し。
しからば、筆者もまねをして午前の講演者アンドレとそして今回の講演以外の通訳を担当してくれたMOONとドクターそして今回のフォーラムの事務局担当のフォン氏とデジカメにポーズ。



2 中国サラウンド事情
中国のサラウンドの取り組みはどういった状況なのであろうか?
筆者を招聘するのに尽力してくれた現深川TVの音響コンサルタントでAESメンバーでもあるELITEN CHENGから色々な話を聞いた。
現在中国では、2008年の北京オリンピックのHD放送とサラウンド制作にむけインフラを整備している。
サラウンド制作は、3年ほど前から熱心な各地の放送局キーメンバーと北京電影学院(BFI)やCTDPCといったアカデミーレベルで実験や試作を行い始めた段階である。中国のTV局はCM収入の状況がいいのでハード面の導入は急速に進んでいるようである。
事実彼が今在籍する深川TVは10月に新社屋がOPENNし写真をみると巨大な高層タワーである。

11日の午後にこうした人々15名ほどが広州TVの試写室に参集しそれぞれが試作した番組を互いに視聴して意見交換するワークショップが独自に計画されこれにも参加して意見を求められた。彼らは、いわば中国におけるサラウンド ソフト開発のパイオニアなのである。中国全土から集まるというこの機会を利用してそれぞれのサラウンドソフトの試写と意見交換会を行っているわけで、大変OPENな態度ではありませんか!


CCTVの Lix Xianpei氏がmixした作品は、現代もののドラマであった。台詞はしっかりハードセンター、SEはシーン毎にサラウンドアンビエンスも変化し音楽もサラウンドにしてあるなかなかのできであった。これはCCTVで初めてトライしたドラマのサラウンド版だそうである。続いて北京電影学院(BFI)の制作した登翔平氏の歴史ドキュメンタリーの作品を試写した。これは、LFEの使い方も含めて自然な音場設計でフイルムオリジナルの音源も丁寧にノイズやスクラッチの除去が行われた秀作であった。
担当したJoe Zhao氏は、英語も流ちょうで日本語もよくわかるので聞いたら、今彼のクラスには大阪から留学生がきて映画音響制作を学習しているとのことである。
続く試写は地元広州TVが初挑戦したクラシックコンサートのサラウンドである。現在広州TV放送はモノーラル放送だがサラウンドに挑戦する態度はあっぱれ。オーケストラと合唱の組み合わせでオーケストラメインと合唱にSM-69をリアはAKG単一指向をペア ステージ3名のソロ歌唱スポット3本をハードセンターというシンプルなマイキングだがホールトーンを十分感じる内容であった。北京のCTDPCというアカデミーが収録した中国現代音楽はDTS-CDでDVD-Aにもしているという純音楽サラウンドで、中でもマリンバとビブラフォン5台の演奏はサラウンドマイクを中心に同円心に配置し収録している。

現在使われているサラウンドメインマイクの様々な方式も収録実験しており、どういったときにどんなマイキングが適しているのか?など実践的な質問も多く寄せられた。音楽エンジニアからは「ハードセンターはどう使うのか?」といった質問があり特にPOPSのミキシングに興味があるようであった。中国では放送界がサラウンドに大変熱心な状況が見られるといっていいだろう。試写を行った広州TVの試写室もM&KモニタースピーカとベースマネージメントそしてFOSTEXのサラウンドモニターコントロールが設備されておりしっかりインフラを整えつつある。特に中国の各州の拠点局クラスは、大変熱心である。
恐るべし3000年のパワー!

3 フォーラム周辺雑感
広州は、経済的に豊であり広大な市内にはあちこちに巨大ビルの建設ラッシュで4スタークラスのホテルも数多くある。
国際飛行場も建設中で市内にあった旧飛行場は香港資本が買収し、やがて一大ビル群になる予定だそうである。
私が抱いていた「中国」すなわち朝は自転車のラッシュで、道には鶏や豚が歩いている・・・といったイメージはうち砕かれてしまった。
広州は世界のメーカが進出し海外部の都市特有の経済発展をしているため収入も豊で人々のマイカー購入は日に30台ベース。
町は高速道路が張り巡らされ交通渋滞は東京並である。夜12時頃でも若者は公園でバトミントンに興じているのは広州か?
アテネオリンピックでも広州のバトミントン選手が活躍したそうである。

イメージのずれのもうひとつは、こってりした油料理と「乾杯攻め」になったらどうしようという点であったがこれも杞憂であった。
広州は食材の新鮮さとシンプルな味付けで大変日本人好みの味で中国全土からも広州料理を味わいにくるそうである。
乾杯の件はここ広州では中国産ワインがブームのようで宴席では3点セットの飲み物が好まれていた。
ひとつはワインそれも赤。ひとつはヨーグルト飲料。そしてもう一つが中国茶である。
このワイングラスで各席をめぐり乾杯・・・となるわけである。

日常生活を見る限りではもはや中国が共産主義であるといた雰囲気はここ広州では感じられない。
がさすが宴席や式典では市の幹部や党委員といった面々が長々と演説を行う。
「我が同胞は人生の半分をこれで無駄にした・・・」とELITENNが耳打ちしてくれたのである。
彼は文化大革命についても大変興味ある考えを述べてくれた。これは2人で世間話をしているときのことである。
彼は68歳であるが当時数少ない大学卒業のインテリであったが農村に追放され豚の飼育をやっていたそうである。
昼間はそうして暮らし夜になると英語の音響関係の本を取りだしては勉強したおかげで今世界が開いているといっていた。
私にはとても想像できないがきっと今にそれが役に立つと信じて勉学に励んだ話は感動的だった。

中国ミキサーの生活レベルは、いかほどか?
ELITENNによると拠点局放送局レベルの収入は、現在の中国都市部の平均的な額で最低生活するには困らない程度だそうである。
しかし、業務がないときは音楽家の依頼でオフタイムの仕事が認められておりこれがミキサーのレベルとスキル
(1級2級とランク分けがある)によって1時間の単価設定がなされておりスキルがあれば1時間2000元から3000元
(15000円から20000円くらい)となる。
道理でセミナー会場に参加している面々の持ち物は最新だったのだ!

おわりに
私にとっても初の中国訪問であったが、全土から参集した60名あまりのミキサーとの交流は、文化。芸術でも成長を遂げようとしている中国の力を感じる機会でもあった。ここサラウンド寺子屋のメンバーと同じ波長を感じましたね!
今回の参加のきっかけは、中国版を出す際に知り合ったLuiesa FuからEliten氏への紹介があり実現し、今回また7名くらいのミキサーを知ることもできた。人の出会いの大切さと発信し続けることの大切さを、今回も再確認できたフォーラム参加だった。ちなみにこの後11月に行われたInterBEEでの国際フォーラム「音楽サラウンド制作」には、香港のPOPSエンジニアステファンリムを招聘し、大変しっかりした考えでPOPSのサラウンドに取り組んでいる状況を講演してもらいました。このリポートは、また掲載しますのでお楽しみに。

彼とのPRO-SOUND ASAIが行ったインタビューなども追加します。是非参考にしてください。(了)

「サラウンド制作情報」 Index
「サラウンド入門」は実践的な解説書です

July 10, 2004

第16回サラウンド塾 DVD-AUDIO 鈴木弘明

By Mick Sawaguchi 沢口真生
日時:200年7月xx日
場所:中野 株式会社ソナ
テーマ:DVD-AUDIO
講師:鈴木弘明(JVC,VD-A フォーラムWG-4議長)

沢口:先月6月の寺子屋は、六本木のテレビ朝日のピカピカのサラウンドスタジオで持ち出しでやりました。7月は、またここもソナの出来たばかりのピカピカのスタジオをお借りしてDVD-Aとはなにか?そして最新のサラウンドソフト聞きまくり会とします。私の感じでは、塾生のみなさん、だんだん物を作りたいという気持ちが強くなっていますので、参考になるようなポップスを中心に、いろんなものを聴いてみて、どんなかんじかな、それぞれ勉強してみようというテーマです。まずイントロは、日本ビクターのバイク鈴木さんに、お願いしました。彼は、DVDオーディオフォーラムのチェアマンをずっとされてまして世界中の何十社といういろんな人たちを束ねてDVDオーディオの規格を作り上げた第一人者であります。DVDオーディオとはどんな物かお話を頂いて、その後、みなさんが持ってきましたいろんなソフトを、聴きまくることにしましょう。では鈴木さんお願いします。


鈴木:沢口さんとはずいぶん長い間おつきあいさせて頂きまして、沢口さんと始めてあったころはやっぱり、マルチチャンネルの件でお会いしたんですよね。ただ、そのころはDVDオーディオもSACDもなかったんです。もともと私は音響関係の仕事をやっていたのですが、豊島さんという人を御存じの方も大勢いらっしゃるかと思うのですが、豊島さんと一緒にスタジオの音響設計の仕事をやっていたんですよね。それがたまたまどういう訳か良く分からないデジタルの世界に飛び込まなきゃいけなくなりまして、それでDVDオーディオの規格の理事長をやる事になったんです。沢口さんともマルチチャンネルの事でお会いしていろいろな話をさせて頂いたのですけれども、それがまたDVDオーディオをやる事になって、またやっぱりマルチチャンネルの世界に入って、それでDVDオーディオの規格をずっと通して自分でやってみまして、やっぱりマルチチャンネルはいい物だなって自分で肌身で感じてきています。今日は、そう言う事を多少でもお話出来ればと思っているのですけどまあ規格の話ですからあんまり面白くないとは思うんですよね(笑)。

みなさん大体「DVDオーディオってこんな物かな」っていう事を知って頂ければと思います。1997年からDVDオーディオ規格の策定が始まったのですが、それ以来7年近くになるのですが、人によっては「DVDオーディオってのがどういう物なのか全く知らない」とか「DVDオーディオってなんだ」って今でも言われているような状態なんです。かたやSACD規格もある訳ですけれど、DVDオーディオもSACDも本当の意味で次世代のオーディオの規格にはまだなっているとは残念ながら言えないような状態じゃないかと思います。ただ、これからオーディオの事を考えると、是非両方の規格がしかり育ってほしいと、私自信もDVDオーディオに自分も関わってきていますけど、マルチチャンネルがどんどんこれから発展していき、両方の規格が育ってほしいとは思います。そう言うような気持ちでちょっと話をさせて頂きます。

まずこのDVDオーディオの規格が97年から始まったという事なんですけれども、日本のRIAJアメリカにはRIAA、それからヨーロッパや世界のレコード会社を集めたIFTIという組織があるのですが、その3つの組織が一緒になってISCという団体が出来ました。そことDVDフォーラムのWG4という規格を作るグループが話し合いを続けまして、出来た規格がDVDオーディオなんですね。したがって、DVDオーディオの規格は技術屋と音楽業界とが話し合いをしてその中から生まれてきた規格なんです。何回ミーティングをしたか覚えていないくらい会合をやりました。したがって音楽業界の要望はほとんど全て取り入れた規格にはなっていると思っています。これはその、今言ったような話をまとめた図なのですが(モニター参照)DVDフォーラムと言う組織には約200社の企業が集まっており、その中にワーキンググループ(WG)がいくつかありまして全部で11ほどある。そのなかのワーキンググループ4(WG4)がオーディオの規格を作ったグループになります。WG1がDVDビデオを作ったグループで、DVDの規格としては一番WG1が中心になってきています。オーディオはWG4になります。2004年7月現在でWG4には55社に人たちが集まっており、今もまだその規格を改定したり新しい改編をしたりしているので、定期的に会合を開き修正などをしております。

DVDオーディオの特徴なのですが、まずは高品位オーディオの記録ということですね。高帯域で高分解度、それからなによりも大きな特徴としてはマルチチャンネルということですね。オーディオの規格ですから、オーディオその物のクオリティーも大事なのですが、加えてテキストとか静止画とか動画、メニュー情報などが収録出来ます。オーディオといいながらも、動画も一緒に入れられます。したがって、マルチメディア的な要素が非常に高い規格になのです。それと、当然DVDの規格の一つですからDVDビデオとの親和性も特徴になっています。特に音楽業界、映画もそうですけれども、著作権管理が非常に重要な要素になっているのでコピープロテクションについても配慮された規格になっております。

これはディスク内のコンテンツを出した物なのですが(モニター参照)、基本はもちろんこのオーディオトラックです。オーディオの基本は高音質なリニアPCMになっています。それに最近みなさんもよくお聞きになるかと思うのですが、ロスレス符号化がもう一つの記録方法としてあります。これはイギリスのメリディアンという会社が開発したMLPというロスレス符号化を採用しております。それからオーディオトラックにはテキストですね、こう言った物が入ります。それからビデオトラックですね。これはあのDVDビデオの一部の規格をそのままつかったような内容をそのまま入れる事が出来ます。したがって、ビデオクリップとかライブシーンなんかを入れられる訳です。これは後でみなさんが実際にディスクを再生場合にこういったサンプルのディスクがありますからそれを御覧頂く事が出来ると思います。ですからオーディオだけを聴く場合と、そのオーディオに例えばAC-3のマルチチャンネルにして動画をつけるというような、ケースも増えてきています。それからアルバムのテキストやアーティスト名やURLアドレスなどを入れる事も出来る。それからビジュアルメニューという項目も入れられます。

これはディスクの構成ですね。(モニター参照)これはイメージを書いた物なのですが、グループが全部で1~9まで取り入れてありますね。大体グループ一つがおおよそCD一枚に相当するくらいの物ですね。そう言うイメージで捕らえてもらえれば良いと思います。各グループがトラックの1~99まで定位する事が出来る。さらにそのトラックに対して1~99までインデックスをつける事が出来る様になってます。これは超高音質と言う事でイメージ的に書いてみた物なのです。(モニター参照)CDが16bit44.1kですけれどもDVDオーディオの場合は基本がリニアPCMですので16bitを拡張して24bitまで。それからサンプリング周波数はCDの44.1kに対して最高で192kまで記録する事が出来る様になってます。これはいろいろな組み合わせで使用する事が出来ます。最初はDVDオーディオの規格を進めていく上で192kって話はありませんでした。それがオーディオの新しい規格だからって事で192kまでいくべきだという議論が強まってきて、決まるまでに結構時間がかかったのですが、最後の段階になってマルチチャンネルでは再生できないが2chで再生可能になったという経緯がありあした。192kの色々なテストを行う上で韓国のサムスンさんが随分色々録音をして熱心に研究していた時期がありました。これはマルチチャンネルについてなんですが(モニター参照)DVDオーディオの場合、最高で6chまで規定する事が出来、それで6chについて色々な、ビット数やサンプリンレート数を組み合わせて使う事が出来ます。ここのLFEの所にも書いてあるのですけれども、もちろん6チャンネルすべて同じ周波数帯とサンプリングレートで規定する事が出来る。必ずしもLFEってのがローフリークエンシー(低周波帯域)だけで定位されている訳で無くて、全6chすべて同じスペックで定位することも基本的に出来ますし、前の3つと後ろの二つのビット数やサンプリングレート数を別にして収録する事も出来ますが、実際にはまだそういったディスクは出ていません。2chは最高で192kの24bitとマルチチャンネルが基本になっておりますが、特に日本の家庭での再生環境の事を考えますと、マルチで実際に家庭で聴くって事はまだ限られた家庭だと思うんですよね。そう言う事からマルチチャンネルを2chにミックスダウンしていくと言う事もプレーヤー側の処理で出来るようになっています。実際にオーサリングをする段階でミックスダウンの係数を入れる事ができ、それによって自動的にプレーヤーが読み取って2チャンネルにミックスダウンする事が出来る。もしくは、2chとマルチチャンネルをはっきりわけて入れたいと言う事もありますよね。そう言う場合は2chとマルチチャンネルの2つを入れる事が可能になっております。ロスレス符号化を使った場合どうなるか言う事なのですが、リニアPCMだけで考えると、例えば96k16bitの5チャンネルの場合ですね、その場合は大体ロスレスを使うと160分入りますがリニアPCMだけですと64分しか収録できない。こんどは96k24bitの6ch、 DVDオーディオのマルチのディスクで一番多いスペックなのですが、これの場合で74分収録できます。このロスレスがなぜ入ったかといいますと、これも音楽業界から、特にアメリカから要望があって「CDと同じ74分を24bit96kのマルチで収録出来るべきだ」と言う事を最後になって言ってきたんですね。そういう事からロスレスが採用されました。24bit96kの6チャンネルをリニアPCMだけでやるとスペック上実現出来ません。それをMLPロスレスを使う事によって実現出来るようになり、今、特にアメリカで発売されているDVDオーディオのマルチは、ほとんどが96/24で6chのMLPエンコードになっている物が非常に多いと思います。

これはオーディオトラックとビデオトラックの基本的な仕様をまとめた物なのですが(モニター参照)これについては一つ一つ説明する必要は無いと思いますが、ビデオトラックについてです。これもみなさんDVDビデオを御覧になる方は多いので御存じかと思いますが、ビデオトラックはリニアPCMとDOLBYのAC-3で入っている事が多いですね。PCMが48と96でドルビー出力が48となっています。ビデオの場合は24bitまで設定は出来ますが、それに対してオーディオの場合は48から192までいける。それから44,1の系列もあって、その場合は176.4までになります。まあこう言った特徴になっています。それからオーディオ、これもあとでディスクを再生している時に見て頂ければ良いのですが、オーディオのトラックを再生している時にあわせて高精細な静止画を一緒に出す事が出来る。しかも静止画表示には二つの方式がありまして、そのまま再生していきますと絵が自動的に切り替わる、いわゆるスライドショーですね。そう言ったタイプの物と、画面に小さく矢印のようなポインターが表示され矢印の所をクリックすると自分の好みに画面が切り替えられるブラウザのような物の2タイプあります。静止画のスペックはMPEG2またはMPEG1で、これはそのスライドショーのものとブラウザモードのイメージをあらわした物です(モニター参照)。ブラウザモードは矢印を操作していく事によって画面に自分で選んだ画面を表示する事が出来、スライドショーは再生していると自動的に画面が切り替わる。それからビデオトラックは、さっきもお話した通りあります。例えば同じコンテンツ、同じ曲を一つはAC-3でエンコードして動画をあわせ、高音質96/24のマルチ音声のみのトラックの二つのコンテンツを一つのディスクに収録する事も出来ます。ビデオのコンテンツに関してはDVDビデオプレーヤーでも再生可能。したがってDVDオーディオのディスクは基本的にはDVDビデオのプレーヤーでは再生出来ないが、DVDビデオと一緒になっているディスクが最近多く、そのビデオの所だけは再生出来るようになっています。DVDビデオのプレーヤーはかなり出回っているので、その環境を利用しようって事ですね。アメリカで最初に出版されていたものはDVDビデオのトラックが一緒になっているものが非常に多いし、現在でも一緒になっている物が多く出回っています。ビジュアルメニューで、DVDビデオの場合は最初にかけますとメニューが出てきて、そのメニューを使って映画のチャプター選択とかをするのですが、DVDオーディオでも同じでメニュー画面を操作して音楽を聴くと言う事になります。ただしCDと同じような操作も必要で、例えばカーオーディオの場合だと画面を使わずにCDと同じようなトラック操作も出来ます。それから色々なテキストが入れられます。従来のCDやLPと比べると、絵やテキストやその他複数の情報を入れられる。そう言う意味ではディスクの容量が多いだけに色々出来る。それから文字もそうですね。マルチの言語がサポートされていますから日本語や欧米の言語でも表示が可能です。それからこれは一つの特殊な使い方なのですが、ボーナスグループって言うグループがあって、このボーナスグループには特別な番号をもってないとアクセス出来ないようにする仕組みになってます。実際にまだこう言ったディスクは出ていないと思いますが、、、したがってインターネットとかで特殊な番号を貰って、その番号を入力する事によってそのトラックにグループにアクセス出来るようにする事も出来る。ユーザーとレコード会社の間の特殊な権利を販売し、それをユーザーが使ってそのグループを視聴出来るようにするって事も出来ます。

これはCDとDVDオーディオとDVDビデオをスペック的に表にしたものです(モニター参照)。例えばダイナミックレンジで言いますと、これは理論的な数値なのですが、CDの場合ダイナミックレンジは96dbと言われていますが、DVDオーディオやDVDビデオは144dbに理屈上はなります。それから記録時間ですが、さっきもお話しましたが74分以上になります。MLPを使えばかなり長くなる。DVDビデオの場合だと平均で133分になります。これもあわせて規格表ですね(モニター参照)。動画についてはオーディオもビデオも両方とも同じような物です。これも方式の比較をなんとなく絵であらわしたものですが(モニター参照)CDやCD-textがあり、ビデオCDという物もありました。横側に音の品質(クオリティー)が書いてあり、たてにマルチメディア的な性能を書いてみたのですが、DVDオーディオがCDよりも多くカバーしている事が分かりますよね?クオリティーはSACDとDVDオーディオの一番クオリティーの高いところは大体同等の所まではとれていると我々は思っているのですが、、、あとはマルチメディア的な機能って言うのはDVDという規格のファミリーの一つですから、いわゆるDVDのインタラクティブな機能?ただ、SACDも規格がどんどん変わってきておりましてマルチもそうですし絵の機能も付け加わったとの事ですから、この絵(モニター参照)は比較的古いので現状そのまま反映されているかどうかは分からないので、おおよその概念として捕らえて頂ければと思います。

今の商品として多く出ているのは、DVDオーディオとビデオの再生機能があるユニバーサルなものが非常に多いです。DVDオーディオのみ再生可能なプレーヤーは私の知る範囲ではまだないと思います。さらにはこれにSACDの再生機能を持った本当の意味でのユニバーサルプレーヤーもいくつが出ています。日本でも数社から販売されています。大手ではパイオニアから出ています。つい最近決まった規格なのですが、絵で説明させて頂くと、DVDオーディオのディスクには2つのゾーンがあると考えられているのですが、リニアPCM、PPCM、MLPの事をPPCMというのですが、まん中の領域がいわゆるDVDオーディオの領域になっています。それに対してセカンドセッションというのを定義して、こっちの外側の領域に圧縮した音声を入れていきましょうってのが最近決まった規格なんです。これも音楽業界から要望があって、何故そう言う事をやるかというと、内容的にはリニアPCMの音楽と全く同じ内容の音楽を外側に入れておくんです。それで基本は、外側の圧縮した音楽をコピーしたりポータブルの機械で再生したりするという用途なんですね。マルチチャンネルまで規定には入っているのですが、外側に入っているデータは基本的には2chで視聴するのが主になります。したがって、まだ世の中にはこのディスクは出てきていませんが、アメリカのレコード会社あたりは規格が決まったのでこの規格のディスクを出したいと考えている様です。特に圧縮した音楽になりますと、携帯型プレーヤーだとバッテリーで駆動しますから、消費時間が長く持つというメリットもあるそうです。そう言う事からこう言ったところまで拡張された訳です。それで圧縮の領域のコーデックなのですが、何を使うかと言うと、これについても長い間やり取りというか議論がありまして、一番最後になって全部で6つのコーデックからひとつ、ワンダというコーデックを選びなさいと言う事になって、それで時間がかかりまして、最終的に決まったのがHEAACというのになった。正式に承認されたのは随分最近の事なのですが、AACが圧縮領域のワンダになった。したがって、こう言ったディスクに対応したプレーヤーはすべてAACのデコーダを入れなければならないってのがつい最近決まりました。

これがDVDオーディオの規格についてざっとお話した内容になるのですが、規格が正式に決まったのが2000年位で、いま、世界でDVDオーディオのディスクがどれくらい出ているかと言うと、はっきりとした数字は分かりませんが、おおよそ700タイトル位はでています。SACDはたしか1000タイトルを超しているはず、、、。DVDオーディオもこれだけ時間が経っているが、まだ時間がたった割にタイトルが少ないというのが頭の痛いところで、規格は出来たが世の中にそういったディスクがまだ出てこないって事があるんですね。ただ実際にこう言った話やDVDオーディオのデモを色々なところでしているのですが、もちろん2chの高音質ってのも非常に大きな魅力なのですが、マルチチャンネルを実際に聴いてもらうと、自分は「いいな~~」って思うと同時に、聴いてると感動がおおいですよね。2chでは無かった魅力を感じてもらうってのは、非常に自分でも色々な場所で感じてきたし、DVDオーディオもSACDもマルチチャンネルって事に本質的な魅力があるのでは無いかと思います。

もう一つお話をしておいた方が良いと思うのは、これも最近決まった事なのですが、去年の春頃、アメリカのワーナーとソニーミュージックから連名で提案があったのですが。基本はDVDオーディオなのですが、片面はDVDでもう片面がCDを張り合わせたディスクで、これを是非規格化したいと言う話があって、それに対してそれに対応するDVDの規格変更をずっと考えているのですが、最近DVD側からみたら、規格上問題ないという、ディスクの厚みとか反射率とかの規格の変更が行われました。それによって、近々DVDとCDの張り合わせたディスクがかなり多く出てくる環境は出来ました。ただこれに関しては日本で非常に反発が多く、ソニーミュージックはDVDオーディオとCDの張り合わせを出すとは言っていないが、DVDビデオとCDの張り合わせは出したいと言っている。DVDのプレーヤーは世の中に物凄い数ありますから、それを使いたいって事ですね。ワーナーさんはCDとの張り合わせによってDVDオーディオの数を飛躍的にのばせるといっており、是非張り合わせのディスクをやりたいと言っていた。聴くところによると、今アメリカのメジャーはこの張り合わせのディスクを全部用意しているそうです。早ければ9月とか10月には出ているのでは無いかと思う。ただ、何故問題になっているのかと言うと、張り合わせたディスクの厚みが1.5mmになるので再生上トラブルがおこる可能性がある。古いCDプレーヤーで再生出来ないと言う事がおこる可能性がある。それを日本のハードメーカー側が非常に心配して、否定的な反応になったのだと思います。うちはDVDとしての規格の変更が出来たと言う事で、こういったディスクが作れると言う事なのですが、、、。CDの規格から見るとレッドブックの規格からはみ出た物になってしまう為、DVDのロゴは付けられるがCDのロゴが付けられない。と言うような問題があるのですが、、、。まあCCCDもCDのロゴがついていないのでそれと同じ事で、CDのロゴを付けずにCDとして売ってますし、、、。もう一つの心配はカーオーディオの場合にディスクがつまる、出てこない、傷がつくといった懸念があると言われている。ドイツのある車メーカーのカーオーディオには厚さは1.3mm以下で無いといけないと警告がされている。そう言った事から初期の段階ではいろいろ混乱はあるのでは無いかと思われます。ただ実際にチェックしてみたところ、97~8%は問題なかったって感じでした。ただ97~8%なので100%ではないって事ですよね。

それからもう一つDVDオーディオのレコーディングの規格もあります。ただオーディオのレコーダーを製作する会社が一社も無いんです、、、レコーディングをわざわざするって言う時代じゃなくなっているんですかね、、、再生がかなり大きな比重を閉めていると思います。なので規格は出来ていても録音用の機器を製作する会社がいないのではないかと考えられます。ただ、DVDオーディオのレコーディング規格もプロ用としてならひょっとしたら用途があるのでは無いかと考え、プロ用の規格をDVDフォーラムの方で作っています。

実際の記録なのですが、次世代のブルーのディスクの話もありますよね。これはブルーレイディスクとDVDフォーラムがやっている、HDDVD、また二つの規格が争っているのです。VHSの場合にはテレビの録画が主だったのですが、時代とともに製品になったテープが売られるようになり、それが結構売れるようになった。DVDになってからはDVDビデオの記録もあるが、再生が主ではじまっていますよね。だから次世代のブルーディスクも再生が主で始まると思います。世の中が再生主導型になってきていると思う。オーディオのレコーディングは大体、仕様とすればDVDオーディオの規格をそのまま継承するような、ハイクオリティーの規格になっていますから、合わせて圧縮のコーディックも入っていますからかなり長時間、何十時間も録音可能な機能を持っています。だからどこかのメーカーが作ってくれれば良いのですが、、、(了)

「サラウンド寺子屋報告」 Index にもどる
「サラウンド入門」は実践的な解説書です

April 25, 2004

第13回サラウンド塾 TOMITA ISAO サウンドクラウドの歩み 冨田勲

2004年4月25日
場所:三鷹 沢口スタジオにて
講師:冨田勲
テーマ:OMITA ISAO サウンドクラウドの歩み
Reported by 木村佳代子


沢口:今回は冨田さんにおいでいただき、サラウンド音楽の先駆者として活動されてきた歩みをお話していただきます。歴史を体験する貴重な内容をみんなでじっくりかみしめてみたいと思います。

冨田:私は、このメディアの仕事をはじめましたのが、昭和27年にNHK、まあ当時内幸町のラジオだけでしたけれども。それからすぐ近くにあるコロンビアというのが間借りしてて、日本コロンビアですね、そこで仕事をしてたわけですけれども。で、主に鑑賞用レコードのアレンジとか、大学2年の時でした、当時は作曲する者が少なかったんですねえ。結構いろんな仕事をやってました。その頃のレコーディングはダイレクトカッティングなんです。原盤といいまして、これぐらいの厚さのワックス、ロウで作った鑞盤ですか。これがミキサー室の横に山積みになっていてダイレクトカッティングをしてくんだけれども、編集はできないわけですね。だから楽団がNGをおこすとそこでストップして別な新しいのをそこにはめて又最初からカッティングするわけです。カッティング技師をいうのがいまして、で演奏が終わると最後のところあのストッパーをとめるための。あれは実は手でこうやるんですね。それを失敗すると、又演奏しなおすという(場内笑 ふっふっふ・・・)、編集できないもんですから。テイク3までつくるんですけれども、その中の一番いいやつはカッティングへいくわけですけれども、今でもレコードの、レコード会社原盤ということを聴きますけれども、今ハードディスクだとか、ていうことになってしまうと、原盤、ていうのが、何が原盤なのかよくわからない。だけどまあ、お金を出して、とにかく、その著作権とは別に、その音をつくったそのものが原盤。その原盤をやっぱり見た人間というのは、ちょ~っと古い世代の人間であると(場内笑 ふっふっふ・・・)まあ、僕らもう原盤という、あの言葉ていうのはすぐ「あれだ!」て、ピンとくるわけですねえ~。

天皇陛下がご成婚が決まったその時に皇居前で盛大な花火をあげたんですね、昼間に。それでその国税庁のビルが安普請なもんですから、花火の音が入っていちゃうんですね~録音の最中で『ド~ン!』と鳴ると、もおそれNGで(場内笑 ハハハ)。
元々音に対して子供の頃から妙な興味を持っていて。ま、糸電話をステレオで聴いた、ていうのは(場内笑 ハハハ)小学校4年ぐらいの(ハハハハ)・・・。まあ糸電話ていうのは皆さんご存知のあれですね。ところがステレオにするとですね、両方糸電話ていうのは、耳にこうつかなくちゃいけないんで、細工しなくちゃいけないんですね。竹・・・孟宗竹の筒を、先をボール紙でこう折って、うまくこう耳にあたるように。で、今みたいにセメダインとかそういうのはない頃なんで、あのーごはん粒をこう、練って、で、乾くまで手で押さえてるという。とか、絆創膏とかですね、そんなものを使って作ったんですが。これが大したもんです。菜の花なんかあって、今と違って虫や、いろんな虻とか、ていうのが来るわけですね。その音が本当にリアルに聴こえたんですねえ。で、『釣り糸』を使うと非常によく聴こえるんで。『木綿糸』なんかだと途中で音が聴こえなくなったりしてやみつきが今も続いちゃってると言う(場内笑 ハハハ)ことです。

シンセサイザーといったものが出てきて、それまでオーケストラの譜面を書いて、いろんなテレビのドラマなんかの作曲をやってたわけですけれども。モーグシンセサイザーというアメリカで考案されて。で、自分のアイデア次第によって、どんな音でも出るという装置だそうだというんで、早くそのモーグシンセサイザーを入れたいわけです。『MOOG』なんですが、あの『モーグ博士』、まあオランダ系の人だそうで、『モーグ』と発音するんだそうです。ま、普通『ムーグ』と言ってますけれども。(場内感心 へ~・・・)当時、ちょうど1970年の初頭ですねえ。演奏する音ていうのは、まあとにかく生身の演奏家が演奏する、それがあの、演奏。これが仮に録音されて、姿は見えなくても、その演奏者の姿があるという、これが常識だったものですから、そのシンセサイザーで創った音は、その演奏者の存在感がないというんで、平面的だとかなんとかまあかなり悪口を言われたんですが・・・。それじゃあ、存在感にあたる部分を、4チャンネルステレオを使ってその中に音が移動する、或いは近くにあった音が、4チャンのリバーブによって、遠くの方に離れて行ったりなんかするような事で、何かその音の存在感というものを出そうと考えて立体音響という事が始まったきっかけだったのです。とにかく自己流でやったんですが、今聴くと、ちょっと音をこう動かしすぎたかなあと思うんですけれども、当時4チャンネルのパンて言ったら大変なんですよ。2チャンであればね、パンポットなんてものがあったんですけれども。4チャンネルともなると、結局そのフェーダーがこう上げといて、次をこう上げて、こっちを上げて、こうやってこうやって(手のアクション)音を移動します。この技術は僕はかなり訓練しましたね(場内笑 ハハハハ)。今でもやらしたら結構うまいと思いますよ(ハハハハ)。

それではですね、ラベルの曲から聞いてください。これはあの、わがままな女王の周りをおもしろおかしい踊りをやって、ご機嫌をとるという、そういった曲ですが。

(曲リスニング中)

これどっちむいて聴いても大丈夫ですよ。特に正面は決めてませんから。
次は、『ムソルグスキーの展覧会の絵』の中の、まあよく僕はあっちこっちでかけているから、お聴きになった方もいるかもしれませんが・・・・ヒヨコがこう、ピヨピヨ遊んでるところをドラ猫がそれを食おうとする。すると親鶏がそれを一所懸命かばう自分の方へ猫の関心を向けてヒヨコを救おうとする。で、最後に、パッとその身体をかわしたら、勢いあまって猫がドブ池に落っこっちゃって、落ちたというところのオチなんです。これはあのお、『おそまつ君』という番組が当時流行ってまして、そこにニャン相の悪い猫が出てくるんですよねえ。それのイメージにしたんですが。

Q:すいません。その何チャンネルくらいのテレコ使ってましたか?・・・
A:えーとね、<アンペックス>の16チャンを使ってました。16チャンネルの中でやりくりしよう、ていうのはできないんでもう1つアンペックスの4チャンネルていうのを持っていたものですから予め4チャンネルに組んだもの、例えばヒヨコが逃げるようなところをその4チャンネル部分だけでいろいろ部品を作ってだから印刷と同じ、昔のオフセットの印刷のようなやり方をしたわけです。シンクロナイザーがない頃だったんで『カチンコ』ていうんですかねえ映画でいう。最初にカチンという音を入れといて、ヤマカンスタートして、それが合ってると後は大体あってるという。だから、その時のあのテープの伸び縮みとか、そういう誤差ていうのはどうしてもでてきちゃうんですけれども
あまりに長い、シーケンスは使わないで、なるべく短い範囲でいくつかまとめて、作っていきました・・・。
アナログで、クオリティを最後まで維持するのが非常にむずかしくて。弱い音の部分はその音を実際は弱い音なんだけれども、ゼロDB以上に全部組んどいて最終的な音量バランスの時に、最後に下げる。それからdbxの187を使ってました。圧縮が1/2でちょっとでも、そのテープに手垢がついたりゴミがつくと、ノイズも倍になって出てきますんでテープの扱いていうのは本当に神経使いました。だからテープを扱う時にはこの端と端しか、こう持たないという・・・。手は必ず洗うようにしてですね。だからピーナツとか塩飴なんかポリポリやりながらやったら、もお本当に大変・・・(場内/爆笑)・・・埃がつかないように。だから最後のミックスが終わるまではテープの保管にかなり気を使いました。
Q:おつくりになったのは、何年くらいなんですか?
A:これは70年代です。
Q:これはマスターは保管されてるんですか?
A:ええ、しています。
Q:オリジナルマスター?
A:部品も全部保管してます。
Q:音源はモーグだけ?
A:そうです、この頃は。この頃はそうです。ただローランドとかだったら小さなシンセサイザーも出してましたから。部分的にはそういうものも。装飾的な音で、すごくチャーミングな音のでるシンセサイザーがあったので、そういうのは利用してますけどね。ただ、当時まあ今から30年前でしたからできたけれども、もう今じゃとてもできないです。あんな作業はねえ。
Q:じゃあさっきのこうグルグルとまわるのはフェーダーをこうやって・・・。
A:フェーダーを・・・あの・・・まあ、こういう風にまわす場合と8の字にまわす場合とあるんですけれども・・・。それ、フェーダー、当時あの4チャンネルステレオを最終的に作ろうとしてましたんで。(手の動作)フェーダーをまずこっちを上げといて、まあそうすっとこうなりますよね。それでこーやって・・・するとこちらへくる。すると次にこうくる、そうすると(生徒/ああ、後ろに)つまりフェーダー4つを使ってこう・・・こう・・・(生徒/ああ、手が交差しちゃうんですね。)ええ、でもこうきてこうでしょ、で、こうくるんですが、一か所だけなんですよね(場内 ハハハハ 爆笑)。でもまあ結構馴れれば(アハハハ)それでうまくいったやつは、そのデータが残るもんですから。で、それで他にも使ったりなんかしたんですけどね。
Q:編集はできないんですよね
A:いや、アップデートはできるんです以前のデータと同じところへこのフェーダーを動かしてくると、そこに青いLEDがつきますので、そこでパッとオフにすれば、全く同じボリュームでつながるわけです(場内/ああ・・・)ところが再生ヘッドと録音ヘッドの間があるもんですからねえ。何回も繰り返すとだんだんおかしくなってくるんですが。一瞬その・・・ちょっと音が途切れて・・・そのデータが途切れても、そのままキープしてるもんですから、まあ・・・ごまかしごまかしやってました(場内/ふーーーむ・・・感心)。ただ16チャンネルのアンペックでそのデータ記録用チャンネルを2つ用意してないと・・・。まあ、1つのチャンネルでそのアップデイトして、そいで又前と同じレベルになった時にポッと元に戻す、ていうやり方もできるんですが、やっぱりそれをやって失敗することもあるので2チャンネル使って、片方のデータをキープしながらもう1つのチャンネルで修正するというやり方をしてたわけです。そうすると16チャンネルあっても、使えるのは14チャンネルですよね。それにモーグシンセサイザーを動かすクリックをよんでステップがこう動いていくわけですけれども、それのチャンネルはやっぱり2ついるとなると結局12チャンネル。そうすると12チャンネルとなると4チャンネルのマスターで3つできるわけですよね。その中でどうでもこうでも全てやりくりをする、ていうやり方でやってましたけどね。それでその3つをうまく、そのミックスしたものを別のアンペックスの方に・・・4チャンの方に入れて、それでそういう部分をいくつもつくって、後で並べるというようなやり方だから・・・まあ、dbx のノイズリダクションのおかげでアナログテープの割にはシャーノイズ出ず、済んだところですが。非常に大変だったのはアナログのマルチであるあのラクダのコブ、てやつですねえ。低音が、こう3デシ上がってしまうという(場内/ほお・・ほお・・・)。これがですね、dbxをかけると・・・まあdbxていうのは入れた時の状態・・・そのテープを入れた時の状態でかえってくるという想定で設計されてるもんですから。そうすると低音がそれだけ上がるとですね、なーんかおかしくなってくるんですよ。フワフワフワフワ。低音のあの、とまってる音ならまだいいんですけれども、こうストリングスは耳では同じような音量で聴こえても、実際メーターはこう振れてますよねえ・・・。だからその振れの通りに圧縮したりなんかしてるのが、こう・・・大きく影響してきちゃうんで。そうなるとこう低音が最後に入れ込まなくちゃいけないみたいな。だから低音入れたままコピーをやると低域がもこもこになります。スピードが76cm/secでやってましたから。多分38cm/secの場合はもっと下の方にいってしまうんで、あまり気にならないと思うんですけど76でやると、ええ・・・60ヘルツぐらいだったかなあ・・・あがってきてしまって1回コピーをしてもう1回再生に使うとその盛り上がってるヤツが又盛り上がってきますんでね。そこを下げるように工夫するんですが、うまく下げる、ていうのはうまくいかない。なーんか音が変わっちゃうんですね。

Q:それはテレコが・・・向こうのイコライザーがおかしいのでは・・・。
A:いやあ、アナログのテープていうのは必ずヘッドの形状効果があって、それはスピードで違うんですけど、100ヘルツで上がって、その下が下がってこう山場になるんですね。だからそのあるところ、60ヘルツとかが上がっちゃうんですね、アナログは必ず。うん、必ず上がる。
A:いや、だから1回録音の場合はそれでいいんですよね、一発録音の場合。こういう多重録音の場合は、ははは・・・相当辛い思いをしましたねえ。モーグシンセサイザーでこういろいろ音を作ったりなんかして、フィルターも全部意識して動かさなくちゃいけないわけですね。つまりブライトになるかアンブライトになるかっていう、こう、それを音量に合わせるとか、ていうのを。どんなにしてもオーケストラのまねをしたら、オーケストラというのができないんで、それで違った方向へ違ったアイデアの方に、えーもってったわけですけれども、例えばあの、ストラヴィンスキーの火の鳥の中これは途中に能のようなふざけた部分が出てきたりなんかして。まあ今でいうゲーム・・・ゲーム感覚ていうのかな。ゲーム音楽みたいな感じにしたわけですけれども。
Q:全部弾いてらっしゃるんですよね・・・(当然の事ですけど)。
A:ええ・・・だけど、こんな早くは弾けないから。半分の回転にして・・。
Q:すいません、テンポ管理は、さっきあのクリックでシーケンサーていうのがあったんですけども、その曲を通してのテンポがあって、それを最初に何か進行に沿ってつくる・・・
A:いやこれがねえ一番最初にクリック・・・所謂ドンカマてやつですねえ。あれを入れちゃうんですね。で、その時にはもう曲想が頭の中にできてないといけないんですけれども(生徒/えーえー)。それをですねえ、そのクリックを指示するためのアナログシーケンサーで早くなったり遅くなったりさせる事ができるんですよ。で、CVでそうなるとですね、キーボードとつないで、そのテンポの変化をそのクリックを聴きながら、譜面を書いちゃうんですね。つまりうーん、テンポがだんだんこう早くなっていく場合は、C(ツエー)からC#(ツエーシャープ)、D(デー)からていう、それをどのぐらいの早さでテンポ早くするかを聴きながら、これはもうとにかく指で弾くよりしょうがないですね。で、これは全曲やらないと。
Q:ドンカマていうと、どうしてもこう『カッコッコッコッ』ていう・・・・
A:ええ、そういう風にプログラムするわけですよ、そういう音が出るように。で、あのお、そのアナログシーケンサーていうのはボリュームで決めた電圧がそれぞれ変わって行くわけです。だからカッという音を出したければ、ちょっとボリュームを足して(場内/うんうんうん・・・)で、『コッコッコッコッ』というのにして・・・その4ステップをまあ繰り返しするわけです。ただ変拍子もありますからね。そうすっとそこの部分が、頭のあとで、耳で聴いて頭のある音、つまり一拍が高い音になる。その頭の音ていうのを決めるわけですけれども。最初はただ『プップップップ』だけなんです。だから途中で一拍見落とすと(場内/ああ・・・)あとは全部そのクックックッていうのを聴きながら、そうすると楽譜上にそのドレミファじゃなくて、いやこれはC#(ツエーシャープ)でこの辺でした方がいいだろうとかアチェランドする場合ですね、だんだんそのクックッてのを聴きながら、その通りに鍵盤を弾いてくわけ。(場内/大変ですねー・・大変・・・)アルバムつくる場合は音をこうブラインドかけといて、それで3度・・・長3度ぐらいで下におりてくと。で、最後フェルマータの場合は離れたところでキーボードを押せばフェルマータになりますからね。これはねえ、音を組んでって、いやしまったこれは・・・ていうことに気がついてももう間に合わないんですね。だから決めたテンポの中で、どうやってその・・・今度は音色とかですね、演奏の仕方でもってくかっていう。いろんなものが絡んでるんで、大事になりますね。下手すると3日・・・(場内/フフフ・・・)

どんなのやりましょうか?パシフィックなんかよくかけましたかね?蒸気機関車、SLの・・・。
Q:プラネッツか・・・。
A:まああれはさんざんかけたんで(場内/笑)。じゃあ、『パシフィック231』。で、これは劇画みたいな感じで勿論サラウンドにはなってるんですけれども、そのどっちの方向へ進むとか、そういう事じゃなくて、車輪のアップだったり、或いは汽笛を湯気を出しながらパーッとその音のしている汽笛のアップであったり、ま、そういう様な感じで描いてみたんですが。途中、駅をこう通過する時のポイントの上を走る感じとか、僕は割と鉄道マニア的なところもあったんで、非常に楽しみながら作ったわけです。まあ蒸気機関車ていうのは、なんか僕らが子供の頃は、もう全部殆ど東海道線の機関車だったわけです、あのお、なんでしょうか、猪突猛進ていうか、・・・なかなか速くならないんですよね、スピードが。だから僕らが小学校の頃は、客車の窓が自由に開け閉めできたんで、弁当売りのおじさん達や、おばさんなんかもホームにいっぱいいて、首から吊るしてですね。アイスクリームとかアイスキャンディーを売ったり、それから弁当なんか売ったりなんかしてたんですけれども。動きだしちゃってから『あれが欲しい。』と言ってもちゃんとついてきてくれるんです。ホームの端まで行ってもそんなにまだ速くならない。ちゃんとツリまでくれて。なんという時代です。ところが一旦速くなっちゃうと今度は止まるのが大変のようで、もう駅の随分前あたりから、スピードを落としてくるんです、今の電車からしたらちょっと考えられない・・・。だけどやっぱり、あの尖ってる時の・・・湯気を吹きながら尖ってる時、ていうのは、怪物がですね、これからなんかしでかす前の、じっと息をひそめてる、ていう感じがしてスリルもあって、非常に僕は好きだったんですが。・・・・。それをまあ、描いてみました。これも同じ様な行程で、テンポが途中で変わったりなんかしてますけれども。今のようなやり方で、テンポをまず決めてドンカマ『カッカッカッ』ていうのが決まれば、それをよんで、シーケンサーが『カッカッカッ』てそのドンカマの音をよんで、アナログの音を直流に変える『エンベロープ』というのがモーグシンセサイザーについてて。そうするとパルスになるわけですね。で、それを2分割にしたりすると、その『カッカッカッカッ、カッカッカッカッ』というのが『カッツカッツカッツカッツ、カッツカッツカッツカッツ』と裏がでてくるということで、それをよんでシーケンサーが自動的に動いてく。それも一台が24ステップですから、僕は、3台しか持ってなかったので、かける3でもう終わっちゃうわけです。だから、短いフレイズの間でうまくその区切りをですね、どこで区切りをつけるかってことを決めてやらないと。まあ勿論スピードを遅くして手弾きていうのもあるんですけど、シーケンサーが随分とそういうやり方をされましたね。一か月くらいかかりましたね・・・もうちょっとかかったかなあ・・・。

それでは、『源氏物語幻想交響絵巻』を、実は、モーグシンセサイザーをはじめたきっかけというのは・・・。それまでオーケストラの曲を書いてたわけですけれども。やはりその音源が誰が使っても同じ音色だ。ホルンはホルンの音だ、それからバイオリンはバイオリンの音色だ、ピアノはピアノの音、というのがですね、譜面を書いてて、今その書いてる譜面ていうのは、もう既に誰かがやってんじゃないか、なんかそういうおかしな妄想にとらわれてきたのと、確かにワグナーまで、モーツアルトの頃からワグナーまでの100年ていうのは、ものすごく楽器が改良されて、もう最高のところまできましたよね。それから現代まで楽器の改良というのは殆どなされていない。ていうことはもう、オーケストラの音はどれももう最高の音になってるということは分かってるんだけれども、じゃあ自分はどうしたらいいか、ていう時に、なんかやる事がない、みたいな・・・、その時期にモーグシンセサイザーがでてきたんで、もうオーケストラ、ていうのはもう新しい曲を作る意味がないんじゃないか、て思ったんですよ。まあ、ちょっと浅はかだったんですがねえ。それで、・・・80年代の後半になってから、又再びオーケストラをやりたくなって。今、手塚治虫さんのジャングル大帝のリメイクなんかあったりした時に、やっぱり手塚さんがオーケストラの音が好きだったんで、オーケストラの編成で、その時はシンセサイザーは使わなかったですけれども・・・・やったり、それから映画なんかも・・・大河ドラマなんかも、その頃やってましたけれども、これはやっぱりオーケストラですね。N響がテーマを演奏すると。それでやっぱりオーケストラはまだ自分がやり残してることがあるなじゃないかということで『源氏物語幻想交響絵巻』を書いてみたわけです。これはシンセサイザーも入ってます例えば生霊の部分などです。オーケストラはロンドンフィルでロンドンで演奏した時も、そこの部分ていうのは、シンセサイザーのエフェクト、それからローランドのRSS なんかを使ってやったわけですけれども、オーケストラなんかでいくらどんな表現をしても、夜中に生霊が浮遊する、ていう感じは、シンセサイザーを使って、ローランドのRSSを使って場所によっては、その座席の中で、ふっとこう耳元までその・・恨みの声が『フッ』と耳を通りすぎるみたいな効果は・・・これはねえ、まあ今までの電気のない頃に相当凝った事をやったワグナーのその連中もやってみたかった事ではないかなあ・・・と思うんですがねえ。彼らは後ろの方でコーラスが聴こえてきたり、なんかすごくその立体的な音響ということに思考を凝らしてた連中ですから。ただ電気がなかったんですね、あの頃ねえ。
冨田:じゃあ1から・・・雅の春、桜の季節ですねえ。そのあたりから・・・

(リスニング中)

Q:オーケストラの録音された時は、どのようにされたんですか。・・・。なるべくセパレーションして・・・位置は普通のオーケストラの位置ですか。
A:いえいえ、もう・・・全くこだわってないです。・・・・
Q:じゃあパートごとに・・・
A.:ブラス楽器は大きいんでブースに入れちゃったんですね。そうでないとストリングスの方に入ってきちゃうんで。だからもうオーケストラの配置は全く無視してます。やじろべえの感覚でいくとバランスが悪いような気がするんですよ。僕はオーディオの場合はやっぱり低音ていうのは均等にスピーカーが充実した低音を・・・低音ていうのはオクターブ下がる度に、倍、倍にエネルギーが増えていくから、それは負担かかりますよねえ、右の方が。それはどうも僕は・・・誰があんな配置決めたんだろうと・・・(場内/笑)。ビルでいえばやはり真ん中で支えてるから塔でもなんでもいいんで、それが片方だけにあって、ていうのはなんかこう不安定な感じがしますよね。僕だけなんですかね、そんな事思うの ・・・・


等々4時間に渡るサウンドクラウドの歩みをデモを交えて話していただきました。全てを書いてますと長ページになってしまいますので、ここら辺で中締めとします。続きは冨田勲 著「音の雲」NHK出版¥1700でお楽しみください。終了後のWINE PARTYはいつも以上に盛り上がりました。(了)


「サラウンド寺子屋報告」 Index にもどる
「サラウンド入門」は実践的な解説書です

April 11, 2004

第12回サラウンド塾 自然音フィールドでのサラウンド録音について 小野寺茂樹

By Mick Sawaguchi 沢口真生
日時:2004年4月11日
テーマ:自然音フィールドでのサラウンド録音について
講師:小野寺茂(NHK)

沢口:今回は、自然音フィールドでのサラウンド録音について、NHK音響デザインの小野寺さんにお話をしていただきます。ではよろしく。
小野寺:NHK音響デザインの小野寺です、よろしくお願いします。

Part-1
NHKが「音の風景」というラジオ番組を始めて来年で20年を迎えます。その歴史の中で今回初めて、サラウンドで制作してみようじゃないか、ということになり、制作してみました。本日は「魅力あるサラウンド空間をつくるには」というタイトルで、「快適な収録と視聴者に心地よさを感じてもらう音づくり」をテーマにお話したいと思います。

1-1「楽しい収録 ~重さにマケズ、不思議な目で見られ~」
サラウンド機材というのは、非常に重たいものです。僕達が「音の風景」収録の時には、どうしてもひ一人でロケに行くことが多いのですから、機材の重さが身に染みるという事と、マイクを持っているとどうしても、いろんな人に話しかけられたりするものですから、自然の音を収録する、というのは非常に難しい、というのが現実です。それでもロケに行ってしまうのは何故でしょうか?(写真を示しつつ)この写真の場所も、機材を担いで雪山の中を1時間歩いて辿り着いた場所です。帰るのは「もうやだ!」と(笑)現場にいる時には思ったんですけども、東京に戻ると、またどこかにフィールド録音に行きたいな、と感じてしまうその理由を、みなさんにお伝えしていきたいと思います。「サラウンドによる収録はロケ場所の印象をより伝えられる」

1-2 サラウンドによるフィールド録音の魅力は何か?
なぜ、重い機材を担いでサラウンドのロケ収録に行ってしまうのか?それは「ロケ場所の印象をより伝えられるから」です。ただ単にその場所の様子を伝えるだけでなくモ印象モをモよりモ伝えられるということが、サラウンド収録の非常に魅力的なところだと思っています。ここでいうモ印象モというのは、あるロケ場所に行ったとして、(ロケ前の企画段階で)狙ったもの以外の、現地の人から得た情報によって知ったものですとか、その場で偶然耳にした音、偶然起こったことだとか、そういった音のことです。ステレオでは詰め込みきれなかったそうした音を(2ch以外の)別チャンネルに振ることによって、「音場」を再現することが可能なのです。自分がその現場で体験したこと、感じたことを音づくりに反映できる、というのが、サラウンドの大きな魅力ではないか、と思っています。例えば(千葉・久留里線のロケ収録の列車の写真を示しつつ)このロケの場合、列車の音を聴かせたいとなると、ステレオ(2ch)の場合は、メインの列車の音だけをONで収録し、まわりの音をベース扱いにしないと分かりづらくなってしまいます。しかし、サラウンドの場合は、列車の向こうで、鳥が飛び立った、ということがあったとしたら、別チャンネルにその飛び立つ音をいれてもきちんと成立します。では、1本目、「千葉・久留里線の春」という作品を聴いていただきます。

(「千葉・久留里線の春」のサラウンドMixとステレオMixを試聴)
 
この作品のポイントは「電車がすれ違う」ところです。IRTクロスのマイクを、前方に入ってくる電車、後方に去ってゆく電車、という形で置いてみました。ところが、NHKの中で、いろいろな人の意見を聴いてみたところ、「よくわからない」という意見がおおく出ました。それは何故か?というとIRTクロスで録った場合、マイク間の距離が短いのでどうしても他の音をひろってしまい、ごちゃっとしてしまいます。それを防ぐためにはどうするか、を考えたのですが、結論として「マイクを分けて収録しポスプロの段階で、はっきり定位感がわかるようにMixする」という方法しかないのではないか、と感じました。「行き交う感じ」と「現場感」をどう表現するか?については、「他のチャンネルへのモこぼしモとサラウンドリバーブを活用する」ことによって、ステレオとサラウンドのなじませ感をつきつめていく、そういった方法をとらないと、なかなか「電車が離れていく感じ」を出すのは難しいんじゃないかな、と思いました。では、この1本めについて、みなさんのご意見を伺いたいと思います。

受講者の方からの感想:サラウンドとステレオのMixで大きく違う点は、遠くの音がサラウンドだと、とっても気持ちいいんですけど、近付いてくる音に関しては、「音の持つリアリティー」が、ステレオMixの方がよりはっきりしていたと思います。サラウンドの音は広がった感じがしますね。それから、ステレオのスピーカーから出てくる音の感じに慣れているので、それで聴いた方が、「スピーカーから出てくる音だ」というのがはっきり認識できる、と思いました。サラウンドは、なんだか「異次元の体験」という感覚がありました。
Q:ステレオマイクって、どれぐらい離しているんですか?
A:ステレオマイクは、土手となった線路のほぼ下ぐらいで収録しています。
Q:マイクの間隔なんですけど
A:このマイクはCSS5なので、ワンポイントですね。MSのワンポイントマイクですね。416で距離をつけている、という感じではないんです。
Q:416を二本セットだと幅は20cmとか30cmですよね。それと比べて分離が悪いというのはなぜなのか、ちょっとわからないですね。MSマイクのほうが分離がよくなる理由というのが。基本的には、ワンポイントマイクだから、MSだと。どちらかというとMSの方が分離が悪いのかな、と思ったのですが・・・。
A:まあ、それをサラウンドにしていく段階で、擬似的な分離を作っていくとでもいいましょうか、移動感をサラウンドパンで作っていったりですとか、そういう方法の方が、効果的なのかな、と考えています。
Q:そうするとステレオマイク、MSマイクで前と後ろを4chぐらい録音するんですか?
A:そうですね。
Q:それでパンを振る、というのはちょっとどうやって振ればいいのか、というのがよくわからないのですが。
A:う~ん、それは実際やっているわけではないので、今後考えなくていけないところなのですが、もしかすると、416か何かをもっと間隔を開けて立てて、レベルで差をつけてゆく、そういう方法もあるのかもしれません。別の聴講者よりの意見:甲州街道のど真ん中、センターに立って、LRで車の往来を収録したことがあるのですが、ワンポイントを前後に振って、前後を、前がマイクのR側、後ろがマイクのL側という風に使うと分かりにくいんですね。それよりも単純に右左で分けた方が効果はでた、という経験があります。後ろと前をまったく違う間隔でやるより、R、SRマイクを右、L、SLマイクを左にという風にした方が、やってきて去っていく移動感がよく感じられたという経験があります。
Q:LFEの成分用に別のマイクを立てたわけではないんですね?
A:そういうわけではないですね。Mixの時にLFEのための成分を送りっています。
Q:電車ではない、ディーゼル車の音がよく感じられたと思います。サラウンドのトラックの方が、それがよく分かりました。ステレオトラックの時は、電車なのかディーゼル車なのかよくわからなかったのですが。

Part-2
2本めは「ベネチア」です。これは3年前に収録した作品です。基本は4chで収録しています。では、聴いてみてください。

(「ベネチア」のサラウンドMixとステレオMixを試聴)

では、解説いたします。ポイントは「音の遊び」です。まず、教会の礼拝のところの収録方法なのですが、かなり広い教会だったそうです。礼拝に来ている人たちに向けて、416のマイクを隅4カ所それぞれに立てて後はギターのの方向に1本向けています。それから、アンビエント用にセンターの高い位置に416をステレオペアで使用し、そのように録音した音をMixしている、という方法をとっています。次に、広場で子供たちがボール遊びをしている部分なのですが、子供の声は完全に「オンリー」です。ボールはIRTクロス・4chの上を、子供たちにうまく投げてもらって、方向性を後で微調整して、音をばらばらにした、という方法を用いています。これらの素材を後で、いろいろMixして作成しています。これについても、何か質問などありますでしょうか?
Q:いかにもプロロジック、という印象を受けたのですが、これはエンコードだけですか?
A:そうですね、エンコードだけです。
Q:先ほどの作品の電車の音もそうですか?
A:そうですね。
Q:プロロジックでエンコードされた音という印象は確かにありますね。全体の雰囲気に、逆位相感が強いように感じました。
Q:5本(サラウンドMix)で聴くのと2本(ステレオMix)で聴くのとで、2本だと(音で)一杯になっている、という感じがしました。特に教会の部分ででも、サラウンドで聴くと非常にリバーブ成分が強いのだけれど、ひとつひとつの音が分かる。でも、ステレオだと、ひとつひとつの音はもう分からない、という状態のように感じました。ステレオだと、鐘の音なんかもすごく小さく感じますよね。(サラウンドMixだと)ここに大きくあったものが(ステレオMixだと)小さい、という感じですね。
A:サラウンドだと、広い場所を表現するのに適している、ということだと思います。
Q:教会に立てていたマイクの四隅の距離はどれぐらいあるのでしょうか?
A:1本ずつの距離は、横にや約20~30m、縦に約40mくらいです。
Q:マイクは中央に向かって立ててあるのですね。
A:そうです。縦長の場所だったそうです。ちなみにSystem6000で、若干リバーブを足しています。
Q:それだけ離れていると、マイクの間のつながりがなくなってしまいますよね。その間をどうやって埋めるのか・・・
A:そうですね、非常に難しいところですね。(Mixする)人それぞれの感覚の部分もあります。あまり埋め過ぎてしまうと、広さが十分に出なくなってしまう、という場合もあります。録音してきた人の感覚で、「このぐらいの距離だった」という感じでしか再現できない、というのが実際のところですね。
Q:真ん中にも2本マイクを立てたんですよね。
A:ええ、アンビエント用にステレオマイクを2本。

Part-3
では、3本目はマレーシアのボルネオ島にある世界遺産「グヌンムル国立公園」の洞窟の中の音を収録した作品です。

(「グヌンムル国立公園」のサラウンドMixとステレオMixを試聴)

このロケに行った本人が書いた文章がありますので、それを見ながら解説していきたいと思います。この作品は、「ハイビジョンスペシャル」として収録されたもので、ロケ期間が6月26日~8月13日という、かなり長いロケでした。最初の予定よりも2週間ぐらい延びまして、非常に過酷な番組収録となったそうです。この収録では、音声と音響効果を同時に担当しておりますので、マイクもIRTクロス4ch、センターに416を使っています。416を同時収録のメインに使うという試みをしています。この収録での「サラウンドロケの目標」として、世界最大の空間を持つ洞窟(東京ドーム10個分)の「閉じられた空間」を表現する、すべての同時録音をサラウンドで収録する、ということでした。使用機材はPD-6という6chレコーダーと、オーディオテクニカの防滴マイクです。非常に湿気が多いところなので、まず、湿気に強くなければいけないということでこのマイクを第一に選びました。ショップス社のも持っていったそうですが、こちらは防滴マイクではなかったため1週間くらいでだめになってしまったそうです。基本セットは、IRTクロスの真ん中に416があります。そして、ポスプロ、音の整理では、NUENDO2.0を使用しました。

ここで、PD6の特徴について、簡単にご説明します。記録メディアは8cmDVD-RAMで、記録形式はWAVファイル形式で記録します。このDVD-RAMに、片面5chで収録して、16ビット48キロヘルツで25分程度収録することができます。そして、ファイヤーワイヤー端子でパソコンに接続すると、DVD-RAMドライブとして認識させることができるので、現場でその日に収録した音をパソコンに取り込み、DVD-RAMをフォーマットし直すことによって、持って行くメディアを少しでも減らすことが可能になりました。また、ホテルに戻ってからパソコンを使って音素材を整理することでき時間の有効活用の点でも威力を発揮した、と担当者は言っていました。音データの流れですが、PD6から、PowerBookG4にファイヤーワイヤーでつないで、DVD-RAMドライブとして認識させ、持って行った外付けハードディスク2台に音データを保存していく、という流れをとりました。モニターを使用するために、今回はモバイルIOを持って行きました。それを、サラウンドモニターで、確認すると、いう形です。実際にはホテルで確認する時間はなかったそうで日本に帰ってから確認したそうです。NUENDOを使用したプロダクションの利点としては、トラックの自由度、それから、ブロードキャスト・ワブ・ファイルを使用できるということです。タイムコード情報が入っていますので、何時何分に録音したというそのオリジナル時間でNUEND上に貼付けることができるので、ECS編集データをもらったらその時間軸上に本編にコピーし貼付けていく、という方法をとることができます。これは素材音を起こす時間の短縮になります。それから、オートメーション情報も書き込めますので、プリプロ段階で、ある程度オートメーションを書き込んだ状態でポスプロに臨めますのでポスプロの時間短縮をはかることができたということです。これまでの制作スタイルですと、ステラDAT4chなどで収録した後、実時間でDAWにコピーし、音を並べ替え編集作業をし、音楽を準備した後でMAに入る、という作業でした。MAで音像の移動やエフェクトや移動をつけていたのですが、今回の制作スタイルですと、ハードディスクから直接素材整理とコピーをしてしまうことによって、MAへの準備時間を非常に短縮することが可能であるとともに、音像の移動やエフェクトを含めてある程度プリプロ段階で準備をすすめることができました。この番組制作の前に「イグアス国立公園」という番組を我々が制作したのですが、その制作では、事前準備110時間、MA174時間かかっていたものが、今回の「グヌンムル国立公園」の制作では、事前準備68時間、MA124時間だったそうで、事前準備の点で、半分程度に時間を短縮できた、ということですね。実時間で音をコピーする時間が省けた以上に、大きな成果があがった、といえると思います。

まとめますと、DAWソフトを用いることで作業効率の大幅な向上と6ch収録によるリアルな表現力により番組クオリティーの向上と効率化を同時に実現でき、またコストパフォーマンスも非常によくなった、といえます。

今後の課題ですが、まず「レコーダー側の8ch以上の対応」があげられます。これからも音声兼音響効果でロケに行くことが多くなりますので、VTRと同じタイムコード上に同時収録用のマイクを用意しなければならないということが多くなりますので、チャンネルが6ch以上必要になるということが想像できます。そして「DVD-RAMの転送速度の向上」も課題としてあげられます。現在、1GBを転送するのに、だいたい5~6分かかってしまいますので、それがもっと向上していけば、早く作業が進むかな、と考えています。それから、「ECSデータの読み込みとソフトウエア開発」というのもあげられますが、これはECSという映像編集用のデータをDAW上で読み込むことによって、勝手に時間軸に貼っていってくれる、というようなソフトウエアが開発されたら、非常に楽になるということです。実はもうAvidを利用してAvidデータをNUEND上で展開して、それを時間軸に貼付けていく、ということはもうやっているのですが、それがAvidを使用していないデータも読み込めるようになれば、作業時間短縮につながるということが考えられます。8chのハードディスクレコーダーあるのですが、非常に大きい、重たい機材です。僕自身はまだこれを持ってロケに行ったことがないのですが、あまり使い勝手はよくないと聞いています。それに値段が非常に高いということでそう何台も揃えられるものではないということです。HDひとつ交換するのにも何十万円もかかってしまうので、もう少し、メーカーさんの努力をお願いしている、という感じです。

では、この作品についての質問はありますでしょうか?
Q:はじめの方で、舟に乗っているシーンがあったのですが、その時も同時録音をされていたと思うのですが、舟の音から想像するに、それほど大きな舟ではないと感じたのですが、恐らくボートサイズの舟ですよね。ボートサイズの舟だと通常エンジンは後ろにあると思うのですが、今聞いた限りでは前からエンジン音が聞こえる印象が強くて、進行方向の方にエンジン音が聞こえているような感覚が非常に強かった、というのが正直な印象です。
A:はじめのエンジン音は、LFEを特に強調したものです。音のメリハリをつけるための演出、と考えていただいければと思います。また、ダウンミックスでお聴きになる方も多いのでL,Rにも十分な音量感が必要だと判断しました。
Q:ボートに乗っている時の低音の感じは多分、こんな感じなんだろうな、とは思ったのですが、進行方向がいまひとつ分からなかった、という感覚がありました。
Q:PD6というのは、ハードディスクレコーダーですよね。そうすると、移動しながらの録音中に音が飛んでしまったりすることもあるんじゃないかな、と思ったのですが、そのあたりはどうなのでしょうか?
A:常に、メモリーに一度書き込んでからRAMに書き込んでいますので、音飛びはありませんね。基本構造は、ムービーカメラとまったく一緒です。そのため衝撃にも非常に強いです。われわれも早くハードディスクに移行したいのですが、まだまだ値段が高い、というのが現状です。
Q:PD6の録音時間が片面で25分ということで、基本的には問題ないとは思うのですが、長尺でまわしたい時なんかに「もうちょっと欲しい」ということはありますか?
A:正直ありますね。非常に思います。しかし、携帯するとなると、あの大きさ(8cm)が限界ですね。

Part-4
次は「鎌倉」です。私が録音してきた作品です。お聞き下さい。

(「鎌倉」のサラウンドMixとステレオMixを試聴)

4-1 「ひとりきりでロケに出て後悔しないためには」
今回の「鎌倉」の場合、まったく下見ができませんでした。2003年の大晦日から2004年の元日にかけて行ってきたのですが、収録ポイントがまったくもってわからない、という感じでした。まず「機材は最小限にしよう」ということで、PD6と、オーディオテクニカのマイクとマイクアーム、後はメモだとか名刺ぐらいに絞りました。それでもボストンバッグひとつ分ぐらいにはなりますので、結構重たかったですね。なぜ最小限にしようとしたか、といいますと、ロケに行っていると走らなければならない時が絶対にあるんです! 今回ですと、除夜の鐘の収録ですね。なんと、どんどん鐘をついていってしまうんですね。40分ぐらいで全部つき終わってしまうんですよ。最初に耳にした時「これはやばい!」と思いまして、建長寺から北鎌倉の駅の方まで機材を抱えて走りました。もうひとつの留意点は「イメージトレーニングをする」ということです。何故かといいますと、5chもあるとマイクを取り付けたりとかのセッティングだけで非常に時間がかかってしまって、せっかくのいいタイミングを逃す恐れがあります。なので、例えばケーブルにはあらかじめ色分けしたテープを貼っておいて、その場で接続に手間どらないようにしておくとかですね、アームにマイクをつけたままでも走れるようにしておく、と。そういうことを事前にイメージしておくと、例えばケーブルは腰にまいておく、といった工夫もできるます。また、その時思ったのは、「その瞬間」に「もう一回」というのは、「自然」の場合はありえません、できるだけ収録ポイントをはずさないように、心構えをして行くことが非常に大事です。「とりあえず」というのは禁句です。とりあえず録っておこう、と思って収録した素材は中途半端で、まず使えません。一人でロケに出ている場合は「どこにその音を使うのか」「その音は加工するのか」といった「構成」をはっきりとイメージして収録していかないと、無駄な素材ばかり増えることになってしまいます。それが対象物からの距離ですとかそういったものに関係してきますので、「とりあえず」で録るのではなくて、オフで録るのかオンで録るのか、といったことをあらかじめシビアに考えて、しかも現場に着いたら瞬時の判断で作業していくことが非常に大事だな、と思いました。

4-2 「鎌倉」編の内容について
お年寄りから小さな子供まで、いろいろな人たちがいるだろう、と思って行ってみたのですが、若い人ばかりでした。マイクの前を通っていろいろなことを言って去ってゆく、というのばかりで編集が非常に大変でした。そこにその他の音、例えば鐘の音を合成しています。最後に海の場面があるのですが、ご存じのように、鎌倉の海の手前の国道134号線というのは大晦日から元旦にかけては大渋滞でして、普通に録った状態でベースノイズがすごいんですね。鐘を録った時も、ベースノイズがきついな、と感じたのですが、134号線は暴走族が結構走り回るんですね。遠くを走り回るので、なるべく静かなポイントを探したつもりなのですが、あのぐらいが精いっぱいだった、という感じです。北鎌倉から鎌倉に至る道はすべて通行止めになるんですが、少し高台に上がるとその周囲の音まで全て入ってきてしまうので、ある程度、木などでマスキングされていて、それが切れている場所というのを歩きまわって探しました。ちなみに最後の波音は使える素材が録れなかったので、事前に収録したものを使いました。そうするしかなかったですね。民放のヘリコプターが頭上を何台も飛び回ってですね(一同爆笑)まったく収録になりませんでした。

Q:雑踏を録る時なんですが、手持ちでクロスマイクで録られたんですよね。僕らも経験があるのですが、マイクの前に行くとみんな黙っちゃうじゃないですか。でも、今回のを聞いているとみんなしゃべってますよね、あれは編集でつなげたのですか?
A:つなげたというのもありますし、若者が多かったというのと、正月ですので、酔っぱらった人が多かったということで、みなさん結構しゃべっていましたね。
Q:意外と自然に録れていましたね。あれぐらいしゃべり声が聞こえるというのはなかなかないなあ、と感じました。
A:そうですね。ただ、再生している時に感じたのですが、近くの音はよく録れるのですが、一歩離れた音、というのはなかなか録りにくいですね。そのあたりはもう一工夫必要かな、と感じました。
Q:PD6ですが、録音中は何をモニターしているのですか?
A:いろいろ切り替えられるのですが、基本的には前後2chのステレオですね。時々後ろにも切り替えてみてモニターしています。だから結果だけを聞いて、「あ、こういう音も録れていたんだ」と思うことが多々あります。ですから、ある程度モニターしていたら、一度ヘッドホンをはずして周囲でどんな音がしているのかというのを何回も確認したりすることが重要ではないかなと思います。

Part-5
「サンマルタン運河」をお聞き下さい。

(「サンマルタン運河」のサラウンドMixとステレオMixを試聴)

この素材は、サラウンドは「おまけ」といった感じで録ってきてもらったので、冒頭の街の「ガヤ」などは、ステレオ素材をいろいろ合成して、サラウンドにしてみました。水の音のところはすべてサラウンドで収録してきたのですが、他の町並みはだいたいがステレオで収録しているものをまぶしている、という感じです。ここでは、「IRTクロス」についての僕個人の印象をお話したいと思います。IRTクロスで収録すると「人声」は非常に近く感じます。なぜなのか、はよくわからないのですが、この間InterBeeでゼンハイザーの人に「off感を録るにはどうしたらいいですかねぇ」と尋ねたら「それはテクですね」と言われまして(一同笑い)、そんなこと言わずに何か方法を教えてくれ!、という感じだったのですが・・・。逆に自然音に関しては適度な広がりが得られるのですが、更に奥の雰囲気を欲しい時にどうしたらいいのかわからない、というのがIRTクロスの問題点だと思います。「ベネチア」などで使用している機材は、ステラDATと4chのIRTクロス、これが最近まで使われていたスタイルなのですが(写真1)、現在は真ん中に416と4chの防滴マイク、それをPD6で収録、というスタイルです(写真2)。更に、IRTクロスを基本に同じ幅でセンターチャンネルを追加したスタイルもあります(写真3)。今、NHKの音響デザインでつくているのが、伸縮自在のタイプで、もう少し幅広く録れるタイプです(写真4)。まだ僕はこれをロケで使ったことがないのですが、今度はぜひこれを使ってみようかと思っています。上が部分が「カクッ」となっているのがポイントで、こうすることによって、水平がずれない、という利点があります。ただ、風が吹くと接合部分がカタカタいって、非常に使いづらいですね。ですから、その部分のもう一工夫が必要です。

Q:(伸縮タイプのIRTクロス5chマイクについて)これでセンターの分離ができますか?
A:いま、センターに指向性が狭いタイプのマイクを使ってみてはどうか、というのを試しています。分離は考えどころですね。
Q:これは長くすると、分離が録れてくるということでしょうね。通常のIRTクロスだと幅20~30cmで、分離はかなり厳しいんじゃないかと思います。
A:そうですね。ただ、4chにしてしまうとちょっとだけもの足りなさを感じる、というのが正直なところです。今のところセンターチャンネルは補助的な役割として考えているところです。
Q:ちなみにこれはどのぐらいまで伸ばせるのですか?
A:これは50cmぐらいまで伸びます。更に伸ばそう、という計画もありましす。150cmぐらいが理想的かもしれませんが、あまりに大掛かりになってしまうと、今度は一人でいけなくなってしまいますので、体力との微妙なバランスを考えつつ、いろいろ使ってみて、やってみよう、といった段階です。

Part-6
最後は「プラハ」です。写真右側の天文時計を中心に収録したものです。お聞きください。

(「プラハ」のサラウンドMixとステレオMixを試聴)

 ここでは、僕自身が考えている、「今後の展開」、「音の風景」をどうしていきたいか、ということについてお話しておきたいと思います。まず、地上デジタルラジオが、サラウンド対応になっていくであろうと、それに向けてストックを増やして行きたいと思っています。また、例えば「職人技」ですとか「SL」など、日本にはもうなくなってしまった音を収録していたりしますので、そういった素材を海外に向けての「日本紹介」として使えないか、と考えています。また現在、世界で起きている日本ブームに乗れないか、と考えています。そのためには、今しか録れない音をしっかり録っていく、ということが重要ではないかと思います。
 
6-1 「ハイビジョン4000本」について
今、私が携わっている仕事で、22.2chサラウンドというのがあります。その目標としているところは、「これまでどのメディアでも体験できなかった感覚を体験したい」「前後左右上下のあらゆる方向から聞こえる音に包まれている感覚、音がいろいろな方向に移動する感覚、音が大きな群れとなって移動したり押し寄せたりする感覚を再現できないだろうか」こういったことにトライしています。将来的には愛知万博に出展する予定です。ハイビジョン4000本というのは600インチのスクリーンに投影するもので、200~300m先の観覧車に乗っているお客さんが何をしているか見えてしまう、というぐらい非常に高精細な映像を再生できるシステムです。そのスクリーン上の映像の移動にできるだけあった音像の移動を体感できるにはどうしたらいいだろうか、これまでの左右移動だけではなく、上下移動をなんとかさせてみようではないか、音がスクリーン方向から飛び出してくるのを体感してみようではないか、音が観客に近付いてきて通り抜けていく感覚というのをなんとかできないだろうか、と考えています。スピーカーの配置は、一番上の階層が9ch、中階層に10ch、最下層にセンターとLRとLFEが左右の5chで、合計22・2chです。これにスピーカーを12個縦に並べたスピーカーアレイが左右につきます。これは、レベルを下げると音が(1個1個)offになっていく、単に音量が小さくなるのではなく、リバーブ成分を足していきつつ、オフ感も一緒にだせないか、というスピーカーが両端につきます。動きに合わせた音をどれだけつけられるか、というのがポイントで、スピーカーの位置を感じさせない工夫をしてみようじゃないか、というのを考えていまして、目標としては、「音を浮遊させるにはどうすればいいだろうか」というのが、一番悩んでいるポイントです。今やろうとしていることは、NHKの技術研究所でやっているのですが、その講堂に何十個ものスピーカーを円形に並べて、そこから音を出して、それを何個かのマイクで拾う、それを繰り返すことによって、ある程度スピーカーから浮き上がった音を捉えられるのではないか、ということを考えています。

よく言われるのが「22.2chなんて家庭に入るわけないじゃないか」ということなんですが、ここで検証しようとしているのは、サラウンドスピーカーが一体どの位置にあるのがもっとも効果的なのか、家庭に持ち込んだサラウンドスピーカーは一体どこにセッティングされるのが理想的なのか、というのを探ってみようではないか、ということも考えています。まだまだ試行錯誤で、例えば右側に音を感じさせたい時、天井や左のスピーカーにも少しだけ音をこぼすことによって、実際にそこにいるかのような存在感を出していこう、といった工夫をしています。

では、全体を通してご質問はありますでしょうか?
Q:2chにおとすのはドルビープロロジック2を使用しているとのことなのですが、その意図は?
A:将来的に、家庭でデコーダーをお持ちの場合、疑似サラウンドを体験できます、ということですね。普及のためになにか方法はないかなあ、と思ってつくってみました。実際に放送はしていません。そういうものもつくっておく方が
いいだろう、ということで今回は制作してみました。
Q:デコーダーで5.1chで聴くのと、もともとの音は違いがありますか?
A:全体的に音像が前にある、という感じがします。
Q:後ろの音が定位しないということですか?
A:定位はしているんですが、目の前の後ろ、と言う感じでしょうか。
Q:比較試聴の機会がなかなかないですね。
A:機会があれば聴いていただけるとよくわかると思います。
Q:全体を通してサラウンドのフィールドレコーディングについては、モニターしていても何が録れているのかさっぱりわからない、とおっしゃていましたが、イメージトレーニングも含めて、経験による勘を養うしかない、といったところでしょうか?
A:そうですね、それしかないと思います。何かあればサラウンドマイクを持って収録に出かける、と。ステレオマイクを持っていって、いろいろ聴きくらべをしたりとか、そういうのが、理想的なかたちでしょうね。8chレコーダーがあれば、同時にサラウンドとステレオが録れるのですが・・・。そういう実験もこれからはできるようになってくると思います。僕自身は、ステレオ番組であっても、極力サラウンドで録るようにしています。

小野寺:今日は、ご静聴いただいてありがとうございました。以上で終わりたいと思います。(了)

「サラウンド寺子屋報告」 Index にもどる
「サラウンド入門」は実践的な解説書です

March 21, 2004

第11回サラウンド塾 POPSの5.1ch MIXについて 山田道雄

By Mick Sawaguchi 沢口真生
日時:2004年3月21日
場所:三鷹 沢口スタジオにて
講師:山田道雄(NHK)
テーマ:JUNKY FUNK Band 5.1CH MIXについて

沢口:今回は、POPSのサラウンド音楽MIXの実例をレポートしてもらいます。講師はNHKのミキサーで山田道雄さんです。ではよろしく。


山田:今日はJUNKY FUNKというFUNKバンドのMIXを担当したときにサラウンドでやってみましたのでデモを交えてお話します。

[ POPS音楽サラウンドのポイント ]
今回のポイントとしては以下の5点に挑戦してみました。
1 サウンドステージは、ドラムのプレーヤーが聞いているような音場にする
2 客席で聞いているリアリティとは異なった創作系のリアリティを追求
3 点音源楽器は大胆にパンニングして70年代的な途中が抜けた空間とする
4 客席とは見た目が逆になることを音だけで説明できるか?
5 映像なしのサラウンド制作でできることを追求

録音は平和島の倉庫街にあるSOUND CREW STUDIOでプロツールズで録音。ここは、楽器が豊富に用意してありどれでも即使うことができます。ミキサーもデジデザインのプロコンを使用、モニターはGENELEC 1031です。天井が高いスタジオなのでドラムスはガレージ風のアンビエンスを捕まえるようにしました。ドラムス録音の詳細は本ドラマー嶋村さんのHPにも紹介されていますので参照してください。http://itto9.hp.infoseek.co.jp/各楽器はブースを使用し通常のマルチ録音と同様の段取りで録音しています。ですから音源は点音源の音マイク音源となりますので、以下のような考えで組み立てました。

1 モノーラル音源レベル差で奥行きをだす
2 ステレオ録音音源は情報量も増え、広がり感もあるので積極的に利用
3 無指向性マイクでステレオ収音し奥行き感と情報量の向上をはかる



これらを最終的な音場をイメージしながら録音することで的確な音源が録音できる。モノーラル音源は必要に応じてエフェクト処理で広がり感をだす。ドラムは各楽器は点音源の集合体だが、お互いのかぶりがあるので適切な定位を与えるだけで空間と奥行きができあがる。センターの扱いは、ハードセンターのシャープな定位感を十分活かしたいと思いモノーラル音源では積極的に使いました。ファンタムセンターを多くするとステレオへのダウンミックス時にバランスがくずれるので注意して使っています。図に示したのが今回のサラウンドMIXの定位です。みておわかりのようにスネアー キックをハードセンターとしてこれを取り巻くようにタム系とシンバル類が取り囲んでいます。FPfはリアをメインにセンターを結ぶ三角形に定位させています。サラウンドmixではコンプレッサーなどで音圧を稼ぐといたやり方は極力せず自然なダイナミックスを心がけました。また可能であればマイクの数も極力減らして音場を重視した録音も魅力的だと感じています。


[ 今後の挑戦 ]
今後の挑戦としてはそれぞれのプレーヤの位置で聞いているような定位と音場を作ってみたり、メインボーカリストの立場になってバンドがリアチャンネルでオーディエンスがフロントといった構成もやってみたいと思います。
各プレーヤーに1チャンネルづつを割り当ててどんな可能性があるかもおもしろい試みではないかと考えています。あとは、マルチで素材を用意しましたので皆さんでさわってオリジナルなサラウンドMIXをやってみてください。(了)

「サラウンド寺子屋報告」 Index にもどる
「サラウンド入門」は実践的な解説書です