August 6, 2011

フィールド サラウンド録音と音楽の融合「サラウンド スケープ」の制作


By Mick Sawaguchi 沢口音楽工房 UNAMAS-HUG代表

はじめに〜サラウンドスケープのコンセプト
まずは,サラウンド スケープというコンセプトを解説しておきます。(「サウンド スケープ」という分野は、以前から存在し、学会レベルでも活発な活動がなされています。)ここで紹介する「サラウンド スケープ」とは、題材を自然のフィールド サラウンドに求め、その出会いの中から一つのストーリーを構成し、さらにそこに共鳴する音楽を組み合わせた表現方式です。(と私が勝手に定義していますが)。完成した作品は、96KHz-24bit のロスレスFLACサラウンドデータとして配信し、ダウンロードされます。

サラウンド音響といえば、放送を始め、映画やゲーム、音楽特にクラシック等で多くの作品が制作されてきました。私は1+1で3以上になる可能性を探求し、その結果音楽とそれ以外の音全般がコラボすることで作り出される表現力として、自然音とのコラボレーションに大いなる可能性と今日性を見いだしています。環境音や自然音もダミーヘッド録音やステレオ音源で多くの制作が行われていますが、私は、同じ音源でもサラウンドで音場を捉えた場合、その表現力は2チャンネルを超えた無限大の力を感じます。なにより心地よさを感じるのです。まさに自然が持つ力です。この力と音楽をコラボし、且つ、サラウンドという表現領域を用いれば「人のリズムではなく自然のリズムを味わう空間」が出来上がります。ここでは、その制作から配信までの制作舞台裏を紹介したいと思います。

1 ワークフロー
制作ワークフローの全体を紹介します。この流れは、ドラマやドキュメンタリー番組のフローに大変似ています。違いは、映像が無いだけです。
● 企画 テーマの設定とロケ地選択
● フィールド サラウンド 録音
● 素材編集とPRE-MIX
● 音楽録音と音楽MIXDOWN
● 全体のPRE-MIX
● FINAL MIXとマスタリング オーサリング
● リリース 配信
と言った流れになります.以下フローに沿って詳細を述べます。

2  テーマの設定
まずは、テーマ設定と言う企画の検討から始まります。今回 事例として紹介するのは、すでにリリースしている熊野幻想 山河幻想そして海竹—山竹Southern Islandという4作品の制作を例に紹介していきたいと思います。

1作2作では、世界自然遺産やパワースポットといった場所を選定しました。熊野幻想では、以前BS-TBSで何度もオンエアされた「熊野 神々の響き」というサラウンド ドキュメンタリーに大いに啓発されました。なにか日本の原点のような雰囲気を感じたからです。どんなところだろうか、どんなサラウンドストーリができるだろうか?というところが企画のスタートでした。
また山河幻想では、熊野を調査している時に日本のパワースポットという情報を読む機会があり、今まで全く知らなかった世界でしたので、大いに関心を呼び起こされこのテーマ設定となった次第です。「気」をアピールしたCDがたくさん出ておりそれなりに人気があるというので、それなら96KHz-24bitサラウンド録音ならもっと「気」が入っているだろう。と考えたわけです!
第3、4作目の場合は、フィールドで録音していて出会った竹林を吹き抜ける風音がきっかけになりました。竹にそよぐサラサラという音は、聞いてなんとも心地よくきこえましたので、海竹—山竹とSouthern Islandでは、この竹の音をテーマにしてフィールド録音することにしました。

3 フィールド録音
サラウンドでフィールド録音を行った方ならもうすでにご存知ですが、現状フィールド サラウンド録音を行うためのサラウンド マイクやマルチチャンネルのポータブル録音機は、十分充実してきました。あとは、チーム編成や行動、期間などからどんな機材が最適なのかを各自判断すれば良いわけです。私の場合は、基本単独行動、あるいは、コーディネータと行動という条件下で、軽量な機材選択とセンターチャンネルに音楽が定位するということを考えて、ロケは、4チャンネル録音としています。国内外でフィールド録音を多く手がけている土方さんのように映像を伴った場合は、センターに記録する音源の役割が、重要になりますので、あとでズーム可変できる工夫をしたサラウンド記録を行っている方もいます。


写真01:土方方式のマイキング


図−01:土方方式の録音系統例

3−1フィールド サラウンド 録音〜一期一会の音
一般的なステレオでのフィールド録音とサラウンド録音の大きな相違は?といえば、まずロケ地についてからの場所の選定にあります。ステレオ録音の場合は、目的とする音源が一カ所で決まればそこを狙って録音すれば良いわけです。サラウンド録音では、360度でバランスの良い音源ポイントを探さなくてはなりません。前方にだけ欲しい音源があって、それ以外は静か?といった場所では、ステレオ録音とさほど変わらない録音になってしまいます。そのため私は、以下の2つのサラウンド音場を想定して場所を決めています。

● 空間が立体的に成立する音場
これは、閉空間を構成できる音源で有効です。特に木立に囲まれた森や洞窟、竹林、雨などは、こうした空間に最適で、特に上方にも十分な音源が有る場所を選定します。不思議なことに適切なポイントで録音した音は、例え4チャンネルサラウンドでも高さの情報も感じることが出来ます。


写真02:森の閉塞空間録音例

● 水平に展開しOPENな音場
これは、海岸や川の岸辺、視界が見通せる草原など。ここでは、上方が抜けた音場になりますので極力水平面で均等なレベルで録音できるポイントを選択します。特に海岸では、通常打ち寄せる波音は前方からのみ寄せてきますし、後方は、防砂林などがあるだけでリアの成分が少ない場合が通常です。こうした場合は、スポーツサラウンドで良く使われる前方4チャンネルマイク配置にして波音を録音します。また、機材ごと波の中に入ってマイクの周りに波が通り過ぎていくポイントで録音することもサラウンド音場を楽しむ方法です。


写真03:波の中へ入っての動きを意識したサラウンド録音、手持ちで近接ねらい

写真04:珊瑚礁での前方4CH録音例

どちらにしても、360度で均一なレベルがとれる、または別々な音がしているといった場所をロケ地に着いてからこまめに探してポイント選びをしなければなりませんので、録音前の入念な場所決めが効果的なサラウンド録音の要といえます。ステレオ録音になれていると、ついつい耳が前方にだけ注目しがちですが、常に全方向で適切なレベルの音源がある場所を選ぶと言うことが、大切です。
前方しか音源が無い場合でも、後方に反射がある場所を利用すると、耳で聞いている場合より以外にリア音があることに気づきます。
例えば、海岸でも後方が、防砂林といったロケーションでなく、切り立った断崖があるとか、滝音でも、後方に岩場があるロケーション、花火では、後方にビルや壁などがあり反射音が存在するロケーションなどです。


写真05:銚子海岸 屏風ヶ浦。ここは波打ち際から後方が切り立った崖で反射音がある。

写真06:秩父 滝の録音例。ここも滝の周りが岩で囲まれ反射音が多い。

自然は、生き物なので、同じロケーションといっても日々音は、変化しています。「また今度録音に来よう」といった気持ちは、あとで後悔する何者でもありません。一期一会の気持ちでその時に巡り会って、「これだ」とおもった音源は、録音しておくことが良いと思います。

3−2 使用機材
私の場合は、単独行動が多いので、機材は、極力軽量かつ高品質を目標に現在は、以下の機材を基本にしています。

● マイクロフォン
SANKEN CUW-180X2 フロント90度 リア120度角
マイクハンガー:AEA ステレオハンガー、マイク取り付け部間隔:32cmマイクヘッド間隔:46cm。SANKENでは、専用のハンガーがついた風防も用意していますが、私の場合は、マイクを常に平行にして録音するという基本だけでなく、音源によって上方や、逆に下に向けて録音したいというニーズがあるためこうした組み合わせにしています。事実その方が、様々な現場で大変柔軟に音源を録音することができるからです。


写真07:CUW-180水平基本セット

写真08:CUW-180上方空間を重視した設定例

写真09:CUW-180下方空間を重視した設定例

● マルチトラック レコーダ
SONOSAX SX-R4レコーダ
これに60GBマイクロHD内蔵。96KHz-24bit録音で28時間録音できます。これは、1日4時間録音したとして、6日分です。私の場合は、1回のロケを1週間単位で行動していますので、これでいけます。希望としては192KHz-24bitなどでも録音したいところですが、外部にバックアップしなければならなくなり、機材も増えるため96KHz-24bitとしています。またPre-mixの所でもふれますが、私のDAW Pyramixは、96KHzまでは、プラグインでG-EQが使えますが、192KHzになると4ポイントのP-EQしか使えないので、整音に不便なことも影響しています。


写真10:SONOSAX SX-R4録音機

長期ロケで皆さん悩む一つにバッテリー管理があります。このレコーダも基本は、単3X6の9V駆動ですが、連続で1時間しか持ちません。なにかいい外部バッテリーはないかと探したところ、2009年のNAMM-SHOWでSANYOがミュージシャン向けのENELOOPバッテリーをだしたと言うニュースを読み、早速これにしました。KBC-9V3Jというバッテリーで出力は9V-2A(価格は1万くらいです)これですと、3時間ほど持ち切れれば内蔵単3へ切り替わりますので、1日4時間は大丈夫です。宿に戻って充電しておけば、翌日も安心。なにより海外ロケに重たい単3電池をたくさん持参しないで済みます。ミキサーケースの横にワイアレス受信機をいれるポケットがあるのですが、ここにぴったり収まるのもラッキーです。


写真11:SANYO ENELOOPバッテリー

写真12:SONOSAXケースへの取り付け例、ワイアレス受信機ポケットにぴったり

この録音機には、ハイゲインというマイクプリの切り替えがあり、これも草原や竹 葉のそよぎといった低レベルの音源をS/N良く録音するのに有効です。ヘッドホンアンプも、どんなヘッドフォンでもばりばりドライブするのでモニターにも困りません。レベル管理は、レベルマーカーをフルビットから-9dbのところに設定してありどんな素材もここまで降らせておけば十分なレベルで録音することが出来ます。HPFの特性は、135Hz -6db/octの緩やかなフィルターですので私は、常にこれをONで録音しています。

● マイクスタンドなど
マイクスタンドは、軽量にとはいかず、低くも高くも自由度が必要なのでカメラ用のSLICK PRO ACT-2という三脚です。これはたためば、60cm最大で、1m40まで自由度があり頑丈なので、風が強くてもマイクが倒れることはありません。これにアタッチメントをつけてワンタッチでマイクハンガーが取り付けます。
マイクハンガーとの間には、防振用としてAMBIENT社のFloater QPF-Mというショックアブソーバをいれています。これは、もともとブームマイクの防振用に出している製品を応用しました。ヘッド部は小さくてクランプもしっかりしたManfrotto 329に交換しています。


写真13:マイクスタンドに取り付けた全体。ホルダー下部の円筒形のものがAMBIENT社のショックアブソーバ

4  ロケーション素材の編集と構成
ロケーションが終了すれば、素材をDAWへコピーし、ストーリーを構成していきます。これも映像編集のアプローチと全く同じです。音を聞きながら、どういった起承転結を作ればいいのか考えていきます。
このサラウンド スケープは、基本20分前後で一つの構成を考え、それが3部構成となった60分で全体を構成しています。なぜ20分もあるのか?それは、今までの経験から、それくらいの時間、音空間に浸っているとまるで座禅をしているような無我の気持ちになれるからです。ですから20分を1単位とした起承転結を構成します。

PRE-MIXの手順は、
● SONOSAX SX-R4 USB経由でPyramix HDへWAVデータをコピー。
● Pyramixで編集画面を作成し(通常8トラックA-Bロールで作成)シーン毎に使える音源をチェックし整音(G-EQを使います)。
● 使える音源の整音データをMIXDOWNしてクリップにまとめる。私の場合は、短いクリップをループしてアンビエンスにするのではなく極力録音した時間軸を大切にして同じような音でも現場の時間の変化を維持するようにしています。
● 整音したクリップとノートを見ながら起承転結のできるサウンドストリーを構成します。
● これを3部構成の60分にしてPRE-MIXは、終了です。


写真14:筆者MIX ROOM全景 PYRAMIXコントローラはTANGOで構成

一例を紹介します。海竹山竹篇では、伊豆 稲取海岸での絶壁に吹き上げる風に吹かれる竹と丘の上で風に吹かれている笹をストーリーにしました。
ここでは、海竹の20分の流れをみてみます。
海岸の絶壁に打ち寄せる波の波頭をイントロにして、次にこの海岸のややロングショットとなる潮騒にクロスフェードします。情景が見えたところで、ゆっくり潮風に吹かれる竹林の音が入ってきます。これがメインの音ですので、極力変化のある部分を選んで構成します。そしてラストは、またロングの潮騒でゆっくり終っています。ロケ地での録音は、音場のサイズを考えて録音しておきます。これは、撮影と同じで音源が決まれば、ロングの素材、中間くらいの素材、そして音源に近接したクローズアップと距離をかえて30分から40分は、最低録音しておきます。


写真15:稲取灯台下の岩場波

写真16:岸壁の上にある竹林内での録音

Southern Island篇は、フィリプンの本島から西にあるPALAWAN島という世界自然遺産に指定された小さな島でロケーションしました。


地図:フィリピン西部 パラワン島

ここでは、パークレンジャーのイテックさんにガイドをお願いして、様々な波音、マングローブ林の野鳥、珊瑚礁、草原の風やココナツ林を吹く風、竹林の風、そしてスコールなどを録音しました。


写真18:パラワン島 サバン村でのロケーションでお世話になったパークレンジャー イッテクさんとコーディネータのアリ君

第1部SUN RISE編では、まず島の広い浜辺のロングから入り、マングローブ林の河口付近のベース、そしてメインのマングローブ林で鳴く野鳥となります。当初ここは貴重な録音ができたので、色々な鳥の音を聞かせたいとトラックを重ねて大変にぎやかな情景を作ったのですが、あとで音楽を入れてみるとあまりに隙間がなく慌ただしい感じになったので、1トラックだけにしました。そして終わりは、珊瑚礁に打ち寄せる波です。珊瑚礁に波が打ちよせるとすぐ海水を吸収するのでシューという高い音がします。


写真19:マングローブ林内での録音

SUNSHINE編の静かな波は、大変ひろい浅瀬の砂浜に機材毎入り周囲から波が行き交う音としました。また背後の森からは小さいですが鳥がなくという立体的なスケープができました。次に丘を流れるように吹き抜ける草原の音、そして岩場のくぼみに円を描いて流れる潮の動き、ココナツ林を吹き抜ける風、最後は、岩場に打ち寄せる静かな波音です。


写真20:浅瀬の波音録音

写真21:ココナツ林を吹き抜ける風音の録音

写真22:竹林内での風音録音。このあとスコールがきて貴重な雨音もゲット

写真23:草原に吹き渡る風音の録音

こうして自然音で60分のストリーができあがると、それを音楽家とサラウンドできいてイメージをつかんでもらい音楽制作となります。

5 音楽家との出会い
サラウンド スケープは、自然音だけで構成するのではなくアコースティックな楽器とのコラボを基本にし、いわゆる電子楽器での楽曲は、つかいません。自然の音に上手くなじまないと感じているからでもあります。ここでどんな音楽かいいかということと、そうしたコンセプトに理解のある音楽家がいるのか?が課題です。今までの経験では、通常音楽が99%のバランスで、自然音は、あってもまさにBGM程度、それもどこかの一部で付け足しのように使われる場合がほとんどでした。音楽家は、自分の音だけで勝負したいのです。しかしサラウンドスケープは、自然音と音楽が50:50のバランスでお互いが補足し、共鳴することを理解してくれる音楽家でないとこのコンセプトは、成立しません。第1作.2作では、今年芸大卒業で作曲を勉強し自らも音楽以外のサウンドとのコラボに興味がある村上史郎さんと出会いました。彼が芸大のアートパスという大学祭で自ら録音した雨音を再生しながらピアノを演奏しているイベントに遭遇したのがきっかけです。また、第3作4作では、尺八の原点と言われる法竹という尺八を使い江戸時代から口伝で伝えられてきた「本曲」という楽曲を演奏している奥田敦也氏と出会いました。法竹は、正式名「地なし 延べ管 尺八」と呼ばれ自然の竹を一本そのままで、中も節をくりぬいただけの素朴な尺八です。大きな音は、出せませんが細かな演奏者のニュアンスは良く出るので個性を発揮しやすく、海外の愛好家が多い楽器です。
現在法竹で本曲を100曲以上演奏できるのは、奥田氏だけという存在です。彼は、これまで、CDでアルバムを出しましたが、そのサウンドは、十分表現を捉えていないと感じ、それ以降CD制作は、やめてきたそうです。今回マスターを192KHz-24bitで録音し、そのサウンドの生々しさに感動していました。元々邦楽器は、自然の中で演奏されてきた歴史があるので、こうした自然音とコラボするのは、面白いということで実現しました。

6 音楽録音
6−1ピアノ録音(熊野幻想 山河幻想 編)
まず構成が出来上がったサラウンドの自然音を聞いてもらい、タイミングやテンポを考えた作曲のアイディアを相談します。その後作曲用にサンプルCDを渡して、作曲となります。今回は、50:50のバランスを活かすために間の多い作曲(Fragment Music)としました。
録音は、千葉の日東紡音響AGSスタジオです。ここは、AGS拡散体のおかげで響きが大変整った波面を捉えることが出来るので録音に適しているだろうというもくろみです。マイキングは、
L-RにSANKEN CO-100K LowパートにBrauner ファンタム クラシックそしてサラウンドにSANKEN CUW-180というシンプルな構成です。マイクプリは、Low パートをTL-Audio A-1それ以外は、RME-OCTMIC-2です。このアウトは.RME Fireface UCへ入力されUSB-OUTをPyramix Native+Macbook proで96KHz-24bit録音しました。


写真24:日東紡スタジオでのピアノ録音

写真25:作曲と演奏を行ってくれた村上史郎氏

6−2 法竹録音
「さわり」とか「遠音」と言われるように法竹の演奏は、大変レンジが広く録音にはS/N比の良い環境が必要でしたので収録は、音響ハウス第1スタジオを使用しました。邦楽の演奏では、音が吸収される音場では、演奏自体がやりずらいので、それをスタジオで解消すべく、日東紡音響のAGS拡散体で取り囲むような配置としました。さらにこれには、崎山さんの一工夫がいれてあり、通常のAGSの背面に反射板が下げられています。これで疑似邦楽堂の音場を作ることが出来ました。どこで演奏してもらうかあらかじめチェックし、位置決めをしてからAGSをセット。今回は、床にも並べて床の波面を整理するようにしています。


写真26:音響ハウス1スタジオでのAGS位置決めを行う日東紡音響のみなさん。AGSの背後の反射板に注目

マイキングは、感度の高いマイクが必要だろうと思い、かつピーク成分を適度に滑らかにしてレベルをとれることを考慮した結果、Gefell UM-900とRoyer R-122をメインに、サラウンド用マイクは、やはり感度の高いSANKEN CO-100kとしました。UM-900は、国内では、あまり見かけませんが、ラージダイアフラムのチューブマイクですが、専用電源が入らない、ファンタム電源供給というユニークな設計です。


写真27:奥田氏の法竹録音マイキング

写真27−b 奥田敦也氏

この時は、1スタジオのSSL 9000Jのマイクプリ ダイレクト アウトをFireface UCへ接続してPyramix NATIVEで録音です。マスターは、今後のアーカイブも考えて192KHz-24bitで録音しました。


写真28:コントロールルーム内録音機器

写真29:録音中の筆者

音楽部分は、OKテークを選ぶと、5チャンネルのマスタークリップを作ります。
今回は、192KHzサラウンドまで対応したircamのサラウンド リバーブを使用しました。大変ナチュラルな音質で音源に馴染むことができます。CPUパワーをかなり使うためCPUの性能は、最新版をお勧めします。


写真30:今回使用したサラウンドリバーブ IRCAM VERB

7 PRE-MIXとFINAL MIX ~ 5CH MASTER 4CH MASTER 2CHMASTER-iTune Music Storeまで
自然音の構成が出来上がったPRE-MIXに今度は、音楽パートをペーストして生きます。ここで、自然音との微妙なタイミング調整を行います。これもトータルで起承転結が、音で見えるようにするためで、いわゆる「ぶつかり」をなくしてメリハリがでるようなタイミングとします。
私のスタジオのモニターレベルは、ピンクノイズ-18db基準で、チャンネルあたり65dbに決めてmixし、小さいレベルでチェックする時は、さらに6db下げた59db/ch—Cウエイトと固定です。これで、これまで様々な環境で再生しましたが、バランスが崩れると言う経験は、ありません。


写真31:筆者MIXルーム

これで、OKであれば、
● 5チャンネル マスター 96KHz-24bit(L-R-C-LFE-Ls-Rsレイアウト)
● 4チャンネル マスター 96KHz-24bit(L-R-C-LFE-Ls-Rsレイアウト)
● 2チャンネル マスター 96KHz-24bit
● 2チャンネル i-tune用マスター 44.1KHz-16bit

の4種類をmix-downします。2チャンネルのmixは、ダウンMIXではなくステレオバスでのモニターで別に行います。本作では、自然音と音楽のバランスがサラウンドで良くてもステレオでは、自然音が大きいと言った場合があるので、個別に調整するためです。クリプトンでのHD配信フォーマットは、ダウンロードの時間短縮と既存音楽愛好者でサラウンドを楽しむ方々にフロント既存ステレオ+サラウンド追加2チャンネルという聞き方が好まれていることを考慮しました。これを可逆圧縮FLAC形式として4チャンネル60分で2GB相当となり光回線であれば15—20分でダウンロードできます。

7−2 サラウンドをダウンロードで再生するには?
現在、ダウンロードでサラウンドを再生できる方法は、どんなものがあるのでしょうか?無料ソフトではWINDOWSにFOOBER2000と言うソフトがあり、これはDVD-Aも再生できます。また国産では、ulilithというソフト、またMac対応では、VLCやPLAYといったフリーソフトでサラウンド対応です。しかしD/A変換するツールは、まだステレオ対応がほとんどのため、業務用のオーディオインターフェースを使うのが、確実です。RME Fireface UCといったインターフェースには、192KHz対応で、6チャンネルのアナログ出力があります。
また、リスナーのなかには、無料ソフトではなく業務用のDAWソフトをパソコンへインストールしてオーディオインターフェース経由でサラウンド再生する方もいます。AVアンプは、もともとサラウンド対応ですので、これらのデジタル入力が、こうした対応となれば、映画ソフトを楽しむことからさらに世界が広がっていく可能性もあります。


図−2 サラウンド再生例

おわりに
インターネットという流通も、最近は、品質へも注目できるようになりました。アメリカでは、HD-TRACKSやi-traxsそしてヨーロッパでは、2Lやリンレコード等、国内ではクリプトンHQM-STOREとe-ONKYOが現在高品質配信を手がけています。しかし大部分は、2チャンネルステレオが主流で、2Lやi-traxsがサラウンドを提供しているのについで国内では、このサラウンド スケープが、初のサラウンド配信となります。始まったばかりなので、今後どういった展開が可能なのかは、未知ですが、少なくとも今までのDVD-AやSA-CDでのサラウンド制作にくらべ、よりフットワーク良く制作できる環境が、整ってきたことは事実で我々コンテンツ制作側も多様な可能性にトライできる、状況が出来たと言えます。(了)

関連リンク
HQM STORE
Hotchiku + Surround Scape, Atsuya Okuda × Mick Sawaguchi


「実践5.1ch サラウンド番組制作」
「Let's Surround(基礎知識や全体像が理解できる資料)」
「サラウンド入門」は実践的な解説書です

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