October 29, 2012

第79回 サラウンド寺子屋塾 in 名古屋 名古屋制作による最近のサラウンド番組制作を聴く


By Mick Sawaguchi サラウンド寺子屋塾主宰

日時:2012−08−22
場所:(株)東海サウンド MA1スタジオ
講師:メ~テレ(名古屋テレビ)  中瀬 武 氏   白木  貴之 氏
   CBC テレビ       名畑 輝彦 氏    杉 英行 氏
   中京テレビ      日比野 正吾 氏     安藤 正道 氏(発表代理)




安藤:“名古屋音やの会” 幹事のCTV MID ENJIN安藤です。今年も沢口さんが大学の講義で名古屋に来られるのを機会に“出前サラウンド寺子屋塾”in名古屋を、東海サウンドの澤田弘基さんと企画しました。今回は、名古屋の放送局3局が制作したサラウンド番組を持ち寄って視聴と制作の内容をお話していただきます。今回も会場を提供していただきました、東海サウンドの 伊藤 琢磨 社長に感謝申し上げます。また今回は、プロサウンド編集部から取材で中村 進さんにもおいでいただきました。ありがとうございます。

本日は、
● メ~テレ(名古屋テレビ)から「名古屋ど真ん中祭り」
      のサラウンド生放送の視聴と解説
● CBCテレビから名古屋ドームで行われた
      プロ野球「オールスターゲーム」サラウンド生放送の視聴と解説
● 最後に中京テレビからフィギュアスケートのイベント
       「ザ・アイス2012」のサラウンド制作について紹介します。

 ではさっそく始めたいと思いますが、最初に塾長の沢口さんに一言お願いします。

   沢口:みなさんこんにちは。2回目の名古屋での出前サラウンド寺子屋塾を開催してくれました幹事の皆さん、アレンジ大変ありがとうございました。寺子屋に関連ないのですが、大変名古屋音声にとって心強いビッグニュースがありましたので私からもエールを送りたいと思います。日本ポストプロダクション協会主催のJPPA  AWARD MIXING部門の審査をスタート当初から担当させて頂いていますが、6月1日の受賞に経済産業大臣賞を東海サウンドの澤田さんが、そして情報番組・バラエティ・アニメ・その他部門でゴールド賞をCTV MID ENJINの日比野さんがそれぞれ受賞されました。また受賞には至りませんでしたが、それ以外にも名古屋制作の作品がたくさん応募され、高い志と向上心に感銘を受けました。こうした受賞はご本人にとっても、また所属する会社、さらに名古屋の地域にとっても大きな励みと目標になると思います。是非継続して取り組んでいただきたいと思います。


今日は、3番組それぞれ取り組みのジャンルも異なりますし、皆さんでノウハウを共有していただければと思います。私からも先週終りました東京芸大のサウンドデザイン夏期集中ワークショップで行いましたサラウンドドラマ制作のメーキングビデオを名古屋のホテル滞在時に編集しましたので参考に再生してみたいと思います。
安藤:では早速、メ~テレ 中瀬さんと白木さんから解説と視聴をお願いします。


   中瀬メ~テレの中瀬と白木です。名古屋テレビ、通称メ~テレではレギュラーサラウンド番組としてスタジオ音楽LIVE「ボンバーE」という視聴者参加の番組を制作しています。今日は、昨年夏に挑戦しました「名古屋ど真ん中祭り」という、にぎやかなパレードのサラウンド生中継放送を紹介します。

このイベントは、夏に名古屋の久屋広場をメイン会場にその他大通りを音楽に合わせてパレードするというイベントで3年目になります。放送は2時間の生放送で、メインを久屋広場の特設ステージ脇において、そこから各大通りのパレードを結んで構成しています。
メイン会場は、据え付けで移動はないのでサラウンド現場MIXをしてDolby-Eでエンコードし本社受けサブへ伝送。

大通りのパレードについては、常に音楽再生車(アルミトラックの後方から大音量のスピーカーを荷室いっぱいに設置)と様々なパレードグループがどんどん移動していくため固定設備ができません。よって現場音とリポーターコメントを独立して伝送し本社受けサブでSYSTEM6000によるUP-MIXでサラウンド化しています。説明をしていてもイメージが分からないと思いますので、視聴をお願いします。

[ デモ再生 ]

大音量の音楽再生車と移動という条件でどんなサラウンド音場にしようか悩みました。また中継地点とメイン会場との掛け合いも多いので、これはサラウンドのセンターチャンネルと現場リポートコメントチャンネルとの送り返し回線で掛け合いに対応しています。

 

安藤:どうもありがとうございます。私もお祭りのサラウンドは、初体験でしたので大変参考になりました。特に爆音で移動する音楽再生車とコメンタリーのバランスは難しいですね。
では次にCBCテレビの名畑さんと杉さんから、昨年7月名古屋ドームで開催されましたプロ野球「オールスターゲーム」戦のサラウンド制作について紹介していただきます。


   CBCの名畑と杉です。CBCでは、過去に音楽番組の収録のサラウンドをやっていましたが、生放送でのサラウンド制作は初めてとなります。
13年ぶりの名古屋でのオールスターゲーム戦ということもありTBSからも是非サラウンドでやって欲しいとリクエストがあり実現しました。
まずは、サラウンド放送を実現するにはどうすれば良いか検証するために、機材車に手持ちの音声機材をバラックで組み上げて何度かテストを繰り返し感触を掴みました。これを踏まえて、レギュラーである野球中継(中日ドラゴンズ戦:名古屋ドーム)でもサラウンド放送を一度行いまいした。

実際のオールスターゲームの試合放送では、TBSから音声中継車を借りる事が出来ましたので、車内でのサラウンドMIXとなりました。

今回は音中車ということから前日現場入りで操作方法もその時からの習熟となりましたので、大変緊張した生放送となってしまいました。後でじっくりきいてみると色々反省点も出てきましたが、まず一部を再生します。


[ デモ再生 ]

写真を見てもらえれば分かると思いますが、テストで使用した車と機材です。

名古屋ドームという屋内アリーナでの競技ですので、いかに屋内空間を感じてもらうかに注力してマイクアレンジを行いました。マイク配置とサラウンドイメージは、このような感じです。メインとなるサラウンドマイクは、KFM-360というボール型のマイクを使用、また球場共同設備のサラウンドマイク(MKE50を4本使用し形成)も使用しました。LFEも積極的に使ってみるとどんな音が効果的なのかテストをしたり、場内歓声音もフロントとリアでどういったバランスが効果的か検討し、本番では、ややリアを大きめにしています。

大きなイベントですのでメインのサラウンドMIX以外にも多くの掛け合いやコミュニケーション回線構成が複雑にあり、そちらの構築も大変時間をかけました。インサート映像などでも極力サラウンド感を出したかったのでステレオ効果音はリア側に定位させています。
コメンタリーに関しては、Centerチャンネルを20%くらいダイバージェンスを掛けてダウンMIXによる音圧が下がるのを防いでいます。

放送中あるいは終了後で視聴者からコメントが聞こえにくいという意見もあり調査したところTV受信機の「サラウンドモード」「ダイナミックモード」といった疑似サラウンドになっているケースがみられ、放送側でのサラウンドフォーマットを正しく理解してもらう再生側の周知も必要だと感じています。
今後は、現場でマルチ録音しておけるDAWやHDDレコーダなどを用意して経験を積んでいかなければならないと感じています。

安藤:どうもありがとうございました。
   名古屋ドームの臨場感が十分表現出来ていたのではないでしょうか。
   あとテレビ受像機のバーチャルサラウンドモードも注意しなくてはいけませんね。
    私個人的には、これでCBCさんがサラウンドに参入してくれて名古屋でのサラウンド経験局が増えたのが大変嬉しいニュースです。

では最後の作品となりましたが、中京テレビから解説したいと思います。番組を担当した日比野氏ですが、本日レギュラー番組のMA作業中ということから私(安藤)から解説と視聴をさせていただきます。

 「THE ICE 2012」とは!中京テレビが毎年行っているフィギュアスケートのイベントであり、会場として名古屋・大阪・日光(栃木)で開催。このイベントを90分のダイジェスト版(ステレオ)と120分の完全版を(5.1chサラウンド)制作をしました。

 番組は、名古屋会場(愛・地球博記念公園(モリコロパーク)内アイススケート場)の中継車収録をメインに、他会場のENG取材を適宜インサートしていく構成。
7月に90分版を制作し放送しましたが、こちらは2モードステレオという方式でメイン(主音声ステレオ)がナレーション入り、サブ(副音声ステレオ)は会場競技音のみという構成です。フィギュアスケートのファンの中にはナレーションや実況などは不要なので会場競技音だけ聴きたいという要望も多くありますのでこうした構成で放送しました。また、収録から放送まで時間的な制約もあったということからステレオにしたのも事実です。

完全版は120分(競技は基本的にノーカット)で、こちらは2ストリームを使いメインは5.1chサラウンド音声(ナレーション入り)、サブは会場競技音のみのステレオ音声という構成です。
この番組をサラウンドで制作しようと2010年からテスト制作を行い制作側にプレゼンを行ってフィードバックをもらいながら今年実現したものです。
 技術的なシステムの解説などは後にして、まずは聴いて見てください。

[ デモ再生 ]

如何でしたでしょうか。

会場の配置とマイキングは図のようになっています。様々な位置での観客の反応をピックアップするために色々な場所にピックアップマイクを設置しました。また競技の音(氷を削る音:スケーティングノイズ)についてはスケート音が拾えそうなコーナーなどにMKH-816、カメラマイクにもMKH-816と指向性の強いマイクを画面の見切れぎりぎりまでで無理矢理取り付けました。実際の会場内は、PA音量が大変大きいということから、ポストプロでの処理用にもオンリー素材も録音しました。


制作のワークフロー
中京テレビの音中車はすでに23年経っていることから、とてもサラウンド環境でモニタリング出来る状況でないと判断し(車内的な音場やスペース等)、マルチ収録をすることを考えました。

メインがタムラ 36CH(6グループステレオBUS)サブでSIGMA 8CHこれをDAWピラミックスにマルチで録音しています。バックアップとしてタムラ36chのグループOUTをTASCAM  DR-680で録音しました。
DAWの録音用にDM1000(HAとA/D変換の為)を用意し、メイン卓とサブ卓に入力されたものを頭分けし録音。

やはり、収録から編集・MAまでの時間がタイトであったことから、映像編集とMA作業(PRE-MIX:イベント全体をサラウンドMIX)は、ほぼ平行しておこないました。この後、編集済みOMFデータをもらいながら実際の箇所はお互いの波形をみてあわせていくという地道な作業が続きました。
場内音はリンク内/観客/会場メインと分けFINAL MIXで調整できるステムとしています。コメント解説は、ポスプロで録音。今回はステレオとのレベルを同じようにするためセンター成分は20%L-Rにこぼしています。FINALMIX音声はDVC-PROHDに収録後、納品用のHDCAM SRへコピーしています。


完成後、検証のためラウドネス値を測定してみましたが、サラウンドでは-17.6ステレオでは-22.3 LKFSとなり、これは本格運用時に解決しなければなりません。
また本来であれば、現場の音中車内でサラウンドMIXができれば時間短縮にもなりますし、その臨場感も増すのではないでしょうか。今回の反省点として、次に繋げていきたいと思います。

安藤:以上で今回の出前寺子屋 in名古屋は終了です。みなさんどうもありがとうございました。来年もなにか良い企画できるよう頑張ります!(拍手)

この後も参加者で懇親会を行い、名古屋のサラウンドが盛り上がるよう話は尽きませんでした。!