April 29, 2007

第42回サラウンド塾 YAMAHAサラウンドパッケージの使いこなし 関根聡、山本卓弥、高橋昭夫

By. Mick Sawaguchi
日時:2007年4月29日
場所:サイデラ・マスタリング
講師:関根聡(YAMAHA イノベーティブテクノロジー本部 サウンドテクノロジー開発センター)
高橋昭夫(YAMAHA イノベーティブテクノロジー本部 サウンドテクノロジー開発センター)
山本卓弥(YAMAHA CA営業)

沢口:2007年4月の寺子屋は、青山にあるオノセイゲンのサイデラスタジオをお借りして持ち出しで開催することになりました。テーマは、YAMAHAが開発したポストプロダクション用のプラグインツール3種類
● サラウンド ドップラー
● ルーム反射
● フィールド ローテーション
の技術解説と参加者による実際の体験です。講師は、YAMAHA関根 聡(イノベーティブテクノロジー本部 サウンドテクノロジー開発センター)高橋 昭夫(イノベーティブテクノロジー本部 サウンドテクノロジー開発センター)そしてCA営業の山本卓弥さんです。最初にスタジオを提供していただき今回のテーマを提案してくれたオノセイゲンからこのソフト開発との関わりなどを話してもらいます。

オノ セイゲン:みなさんこんにちは。今回デモしてもらうサラウンドポストプロダクション パッケージというソフトは、2002年にプロトタイプが出来上がり、私もその評価者としてアルバム制作などで徹底的に使いYAMAHAへフィードバックをしました。それだけ潜在能力が高かったので完成への期待も高かったからです。2005年秋に完成型として3種類のプラグインソフトになりました。でも私を含めそれをあまり知りませんでした!(笑い)いままでこうしたサラウンド音場を作るには、私の経験からも大変な時間と労力が必要でしたので、これら3つのソフトは、今後有効なツールになると思っています。2月末にG.マッセンバーグもここにきてこのソフトを体験しましたが、大変感激していました。YAMAHAは、デジタルオーディオの初期から20ビットレコーダを開発するなど先進的な開発チームを持っていますが、それがどうマーケット戦略と結びついていくのかが今後のテーマではないかと個人的思っています。
山本:CA営業を担当しています。私の方から3種類をつかったデモを再生しながらこの特徴について概要を述べます。開発を担当したイノベーティブ テクノロジー本部という部門は、先進技術をどう応用できるかを研究している先端研究開発部門といえます。サンプリング リバーブS-REV1も彼らが開発しました。ではデモを再生しながら3つの使用目的を体験してください。

デモ再生
● オートドップラー:空間を移動するバイクの音の変化を
● ルームER:室内を移動するキャラクターの声の変化を
● フィールド ローテーション:キャラクターを中心に全体の音場が回転

では、実際の開発チームから技術解説を行います。

高橋:今回の開発チームをプロデュースしました高橋です。今回のサラウンドエフェクト開発コンセプトは
● リアリティ:空間表現に優れている
● 使い勝手:ユーザーが直感的に操作
● オリジナリティ:どこにもない先進性
● コスト エフェクティブ:対投資効果
を基本としました。これらを実現するための基本技術は、我々が永年研究してきた音響シミュレーションの技術です。1986年から早稲田大学 山崎研究室と近接4点法という音場解析手法を用いて実際の空間がもつ特徴を研究しその成果をホール音響設計やS-REV1などのサラウンド機器へ展開してきました。こうしたリアルな音場をよりユーザーがダイナミックにコントロールできる有益なツールが提供できないだろうか?ということを基本に我々はiSSP(interactive Spatial Sound Processing)というコンセプトにまとめました。2002年にプロトタイプを作りここサイデラスタジオに持ち込んでテストを行い2005年に完成したものです。では、3つの特徴について実際の開発を担当した関根のほうから説明します。

関根:それでは、3つの特徴について操作画面を参照しながら述べたいと思います。

オートドップラー:
従来の方法で音源をサラウンド空間で自由に移動させたいとすると大変な手間がかかったと思います。例えばまず素材の動きと速度に応じてピッチを変化、これを移動軌跡に応じてパンニングしさらにON-OFFのコントロールをEQ するといった具合です。オートドップラーは、画面上でリスナーのポイントを決めると後は3つの行程ポイントすなわち
Sスタート
T最近接地点
Eエンド
でマークします。このタイミングはタイムコード入力やマニュアルでコントロールします。移動感のコントロールパラメータは
速度(人の歩行~高速ジェット機まで3km/hrから1000km/hr)
フェードタイム(開始の感じ)
ディスタンス(遠ざかる感じ)
音の吸収(音のこもり感)
で望みの音にコントロールします。

ルームER:
これは音源がリスナーから見て方向を変化させた場合と逆にリスナーの視点は固定で周りが変化した場合の2つの視点(客観視点と主観視点)の音質の変化をシミュレートしています。このため部屋の6面体の一次反射音を再現し音源の指向性が変わればそれに応じてこもり感やクリアー感も連続してコントロールできます。

フィールド ローテーション:
これは今までサラウンド音場を経験した人々がまずやってみたいデザインといわれていた「サラウンド音場全体を回転」させるツールです。先ほどのルームERは、主観・客観と2通りの音場をシミュレーションしましたがこれはリスナーの位置がスイートスポット固定です。音場全体の移動や変形、縮小といったこともできますので、例えば小宇宙空間がサラウンド音場に多数浮いているといった表現も可能となります。従来こうした表現を行おうとすれば時間と労力は膨大でした。
以上まとめますと
● 従来のレベル差サラウンドパンから指向性も加えたパンニング
● 手間と労力を軽減したドップラー
● 音楽、映画、ゲームなど応用範囲の広い全体回転パンニング
が可能となったツールではないかと思います。
山本:それでは残りの時間でみなさんに実機を操作していただき、その時に質問やコメントなどありましたら、何なりとお願いします。用意した素材はナレーション、車、ジェット機、音楽、映画などです。

実機体験:このなかででた参加者からの質問やコメントです。

Q-01:ソフトはYAMAHAコンソール内蔵ということですがプラグインツールとしての単体発売を希望します。
A:現在はDM-1000/2000コンソールユーザーがターゲットです。VST型式はコピープロテクトが十分ではないのでTDM型式でのプラグインは将来検討したいと思います。マーケットという視点からはどれくらいのニーズが予測できるか?もポイントとなります。
Q-02:S-REV1のMK-2といったプロセッサーにしてハード機器として出すと行った方法はないのか?
Q-03:入出力の関係は?
A:ドップラーとルームERはモノーラル入力で5-OUTです。フィールドローテーションは、5-6CH IN-5-6CHOUTとなっています。
Q-04:3つのエフェクトどうしのリンクはできるか?
A:同時に2つは立ち上げられます。それ以上の同期が必要な場合はタイムコードを合わせての同期ということになります。
Q-05:操作して大変自然な動きとピッチ変化ですがチップの性能が高い?
A:DSPチップはこれで7世代目になります。高速処理が可能だということもそうした結果に反映されていると思います。

Q-06:操作にペンとタブレットを使いましたが、大変操作しやすい。
Q-07:大学などでの授業のツールとしても理解しやすい。
Q-08 プロセス後のレーテンシーは?
A:最大で1サンプルとほぼリアルタイム処理が可能です。

まとめ:
寺子屋の参加メンバーは、目的がサラウンド制作と目標が明確なため、どう使えば良いかを考えた体験と質問が多く出されていました。恒例のAFTER-5では、東京だけではもったいないので大阪や名古屋のサラウンド勉強会としてもやろうとか、開発と市場マーケットをいかにうまく結びつければ開発者からエンドユーザーまでがハッピーになれるか?ポータブルマルチレコーダーへのニーズは?など学生の皆さんも含め議論が交わされました。今回会場を提供してくれましたサイデラスタジオ オノ セイゲンにも感謝!(了)





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April 10, 2007

サラウンドめぐり 染谷和孝(ダイマジック) 



"今日は私が日頃「サウンドデザイン」という言葉の使い方に対し、「疑問」に思っていることがありますので、少し書かせて頂きたいと思います。さてその疑問と言いますのは、元来「サウンドデザイン」、「サウンドデザイナー」という言葉の持つ意味は一体何なのか?ということです。"「放送技術」より

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Let's Surround No.9 ポストプロダクションMixing空間のつくり方

By Mick Sawaguchi 沢口真生


「Let's Surround(基礎知識や全体像が理解できる資料)」目次
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April 1, 2007

第41回サラウンド塾 サラウンドロケDVD 制作「SUPER ROLLING IN THE SKY - BLUE IMPULSE」 桐山裕行

By. Mick Sawaguchi
日時:2007年4月1日
場所:三鷹 沢口スタジオ
講師:桐山裕行(1991スタジオ)
テーマ:「スーパーローリングインザスカイ ブルーインパルス」DVDのサラウンド制作について

沢口:今月は、1991スタジオの桐山さんを講師に、日本の誇る曲技飛行チーム ブルーインパルスの飛行テクニックを映像はHDで音声はサラウンドでDVD制作した内容についてロケーションからFinal Mixまで初挑戦で得た新たな視点についてお話していただきます。
桐山:1991スタジオの桐山です。普段はCMや音響効果の仕事がメインですが、本日は、私のサラウンド初挑戦体験記をデモを交えてお話したいと思います。ロケーションは2006年9月から11月という長期ロケになりました。また事前準備としてその前に各地で開催された航空ショーを下見して「航空ファン心理」なども勉強しロケに望みました。ロケ地は航空自衛隊松島基地にある訓練飛行場がメインです。ブルーインパルスチームは自衛隊の広報に所属しパイロットの皆さんは、教官を経験した腕達者ぞろいです。

この曲技飛行シリーズの歴史は大変古く1987年のLD時代からローリング スカイシリーズとして現在まで10作品が継続しておりコアなファンがいます。HDで撮影を始めたのは、このソフトのひとつ前のイタリアチームのDVD制作からですが、5.1チャンネルサラウンドにしたのは今回が初でDVDの発売は3月末です。では、はじめにソフトを再生したいと思います。40分くらいお楽しみください。

デモ再生

桐山:まずこのサラウンド制作を担当するに当たり以下の4項目を基本としました。
1.限られた予算で何をメインにやるか?
ロケは週3回で一回の飛行時間はは、20分x3回また天候の変化など変動要素も多いのでロケーションが長期間になるのは予想していました。
2.ロケーションはサラウンド収録。機動性のある機材を自前で用意する。
3.音楽も10曲ほど使いましたが、これもサラウンドとする。
4.MIXもサラウンド環境を構築して実施。

ロケーション
自前の機材でサラウンド収録をやるということで私が選択したのはDAT2台による4チャンネル収録です。アンプ/DATはシグマSS-340x2とD10-Prox2です。同期はフリーランでカチンコあわせだけですが、特段問題なく4チャンネル録音ができました。マイクはゼンハイザーMD-441x4をオーダーしたクロスバー マイクホルダーに水平90度 仰角45度でとりつけ、全方位とすることでどこがフロント、リアといったことは考えずに収録しました。ではこれで収録したジェット機の素材と同じ音を2チャンネルステレオからMixで擬似的にサラウンド化した素材を聞き比べてください。

最初は:ダイアモンド テイクオフという飛行形態です。まずサラウンドで続いてステレオから擬似サラウンド化した素材です。

デモ:

私の感じではオリジナルのサラウンド音に比べてステレオから作ったサラウンドは水平面移動についてはそれなりに感じがでていますが、高さの感覚が出ていないと思います。

次に一機だけでロールオン テークオフという素材を同様にサラウンドとステレオからサラウンド化した音を聞いてください。

デモ:

次はレインフォールという編隊です。

デモ:

後方から前方に上昇編隊です。

デモ:

下見で航空ショーに出かけてファンの方の声を聞いてみると、みなさんどの編隊でどんな音がするかを大変シビアに聞き分けているということです。ですから映像は長玉で狙っていても音は、その飛行編隊にふさわしい音がしっかり捉えられて無いとファンは満足しませんので様々なポイントで収録することを心がけました。収録ロールはトータルで26ロールです。そのうち使えたのは数ロールでしたが。

2の機動性については、広い飛行場内を迅速に行動しなくてはならないのでセッティングを変えるといった時間がないためカメラ同録用は sanken CMS-10と7による小型4チャンネルマイクセットを1ペア用意してこれに対応、ゼンハイザーマイクの4チャンネルはオンリー素材録音専用と使い分けました。

今回の収録系統図を示します。HD-カメラへは、4チャンネルアダプターを経由して4チャンネル収録しています。

音楽のサラウンド
テーマ曲はサラウンドの定位を意識したアレンジで作曲、MIXしています。これ以外にもBGMが10曲ほど必要でしたがすべて新録できるほど予算がありませんでしたので著作権フリー選曲から選びこれを音響ハウスにてサラウンド化しています。前回は自前でサラウンド化したのですが、機材レンタルや時間を考えると専門のエンジニアに担当してもらったほうが返って結果も良いということでお願いしました。サラウンド化に使用したのはTC-S6000のアンラッププログラムです。バンドものよりオーケストラのほうが広がり感はを得ることができました。

MIXサラウンド環境の構築
1991スタジオは、基本的にステレオ制作にしか対応していません。いろいろ実験もしながらサラウンドMIXを行ってみたかったのでここに仮設でサラウンドモニター環境を作りました。図に系統図を示します。幸いサウンドクラフトのコンソールが8チャンネル ダイレクト出力を取り出せるのでこれを利用しました。モニタースピーカはGENELEC 8020x5とLFEは、7050です。アライメントはチャンネル当り85dBで調整しましたが、実際のMIXでは、75dBあるいは、家庭環境をチェックする上で60dBでモニターしています。

Pre-mix
映像編集を行っている段階に立ち会ってまず不要音声とタイミング調整を実施しました。映像はスモークというノンリニアで編集しこれには12トラック音声があるのでここでまとめ、データを1991のサーバーへ送ってもらいこれをプロツールズへペーストしています。ちなみに1991スタジオのポリシーは環境に配慮するということで極力媒体を介さずにサーバーでデータのやり取りを行っています。

Final mix
2006年の年の瀬12月23-26日で行いました。Pre-mix段階のトラック数は60トラックです。今回は長期ロケのおかげで音を聞くとこれが何の時の音か聞き分けられるようになっていましたので映像を見ても的確な素材を選択することができました。LFEは、パイロットとの会話からどんな状態のときが低音を感じるか。。。聞き取りをして要所要所のみに使っています。プロセッサーはAphex Big Bottom Waves IR-1というプラグインなどを使用しました。

制作を終えて
Final Mixは、試写をかねた外部ポスプロのマスターVCRへサーバー経由で送りマスターが完成です。Mixを終えて感じたのは、全編サラウンドとなったので、耳休めのポイントを作っておくべきだったという点です。ロケーションでは前半戸惑うことが多かったのですが、10月には行ってからは目的も絞れて、カメラマンやプロデューサともカメラアングルやパンニング、編集ポイントなどについてサラウンド音声を活かせるようよく議論するようになりました。予算が少なくても自分でやる気を持って取り組めばいろいろとできることはたくさんあるなあというのが終わってからの実感です。

沢口:桐山さん、どうもありがとうございました。質問をどうぞ。
Q-01:ロケーション期間はべったり3ヶ月という感じですか?
A:レギュラー番組もあるので週に3日出かけてまた戻るという繰り返しでした。
Q-02:26ロールのオンリーと編集済み映像はどうやってあわせたのですか?
A:クレジットがたよりで、長期間のロケでしたので映像をみればどんなときのどの音かが分かるようになりましたので、メモから素材を取り出すといった極原始的な方法です。
セッションファイルは全部で32GBの容量でした。
Q03:コックピット内の録音は?
A:コックピット撮影は、専門のカメラマン以外できません。小型カメラの2CH音声にパイロットの会話と室内音を独立して録音。モノーラルのコックピットから広がりを組み立ててました。
Q04:単独で録音したオンリー素材はありますか?
A:撮影優先で収録しましたので、まわりがうるさいときやコックピット内で着席する音などはオンリーで録音しました。毎回正確に行動している人たちなのでどこを使ってもぴったりシンクします。(笑い)
Q05:ブルーインパルスの音は想像以上に耳に優しい音ですが?
A:通常我々が耳にするジェット機の音というのは、戦闘用のFという機種ですがブルーインパルスで使っている機種はTという機種で練習用なのであまり耳をつんざくような音はしません。
Q06:4チャンネルのモニターは?
A:基本的にはフロントとリアの2チャンネルを別々でモニターしましたが、後半イヤフォンを2つ耳の両側へ配置して4チャンネルで聞きましたが、これでも十分感じがつかめました。
Q07:高くなると音はどんな感じで聞こえますか?
A:高くなると高域が無くなってゴーという低域だけになります。
Q08:試写+音戻しという方法は能率的ですが、もし手直しなど生じた場合は?
A:このシリーズを担当しているクルーは永年やっているので音に関しては我々を信頼してくれていますので手直しなどはありませんでした。試写にはブルーインパルス ファンネットと方々にも聞いてもらい、PRしてもらいました。彼らは、家庭でモノーラルで聞いている人もいますのでサラウンドで聞いたのは、今回が初体験ということもあり、大変喜んでくれました。
Q09:完パケはダウンMIXも作ったのですか?バランスチェックは?
A:今回は、サラウンド一本でいくという方針でしたのでダウンMIXは再生側に任せています。バランスチェックもスタッフでしましたが、特に問題ありませんでした。
Q10:収録時にはレベルは調整しましたか?
A:ジェット機のピークは前より排気音が大きいのでこのレベルに合わせたら後はそのままで録音しています。

桐山さんの初挑戦サラウンド制作は、これまでにもまして参加者に新鮮な感動と「そうか!それでできるんだ!!」という納得がえられたのではないでしょうか。なにもないところから手作りで作り出したサラウンド音響のDVDは、きっとファンの方々にも納得されることでしょう。寺子屋で話をする3日前から緊張で睡眠不足になったといっていましたが、丁寧な事前準備のおかげで参加者もいろいろなヒントをえたようです。 桐山さん、どうもありがとうございました。(了)

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