July 10, 2005

スターウォーズ エピソード-3「シスの逆襲」のサウンドデザイン

A.M 05-05 by S.Bullins 抄訳:Mick Sawaguchi 沢口真生

[ はじめに ]
スターウォーズ エピソード-3は、これのみがすばらしいというだけでなく、映画音響の歴史を継承し最先端のノウハウが発揮されているという点でも注目される。というのもこれに関わった優れた才能の人々が、その持ち味と最大限のアイディアを発揮した結果であると言わざるを得ない。音響効果のエディターを担当したTom Myersは「勿論我々は、ベストの力を出し切りましたが、それを可能とするだけの十分なスケジュールも確保できたのが重要です。これは、スターウォーズシリーズの最後を飾るわけですし、、、、」とコメントしている。
Tom Myersと仕事をともにしたのは、サウンドスーパバイザーのMatthew WoodそしてSkywalker Sound V.PのGlenn Kiserのコンビである。
「エピソード-1の段階で我々は、編集段階でのサウンド制作をプロツールズベースで制作するシステムを構築しました。徐々にそれを全体の制作フローへ拡大していくことを検討し、このエピソード-3でその構想が完成したという訳です。エピソード-3の撮影は、中国、タイ、スイス、チュニジア、シシリー、などで行い、スタジオ撮影はオーストラリアのシドニーFOX SOUND STAGEやイギリスShepperton, Elstree Studio等で行いました。極力ADRをしないで済むようにいい音を現場で録音し、映画の3/4は、現場同録(production sound)を使っています。音楽は、もうこのシリーズでは無くてはならないJohn Williamsがロンドンフィルで録音。ADRの大部分は、ロンドンGold crest Postで行い残りはバハマ、バミューダなどで実施しています。」とKiserは、述べている。

制作過程
G.Lucasのサウンド制作ポリシーは、「できるだけ少人数でじっくりやる」という考えである。こうすることでサウンドの統一性と創造性を高めることができるため、プリからFinal mixまでをこうしたやりかたで統一している。

Kiserも「なにか打ち合わせが必要になっても少人数であればすぐに顔をつきあわせてアイディアを出し合えるし機動性があります。以前私はLAで仕事をしていましたが、そこでは音声編集だけも40名のクルーがいました。彼らは必要もないサウンドを予備トラックとして何百トラックも仕込んでくるためFinal Mix担当のミキサーは、頭をかきむしりながらどれが一番最適かを選択しなければなりません。
でもここのシステムでは台詞担当1名、音響効果担当1名が全責任をもって編集作業を行い、その結果はつねに統合されたDAWプラットホームで共有しています。ですからFinal Mixの段階にきたらほぼ完成形に近いデザインにすることができます。音響効果担当のTom Myersと台詞担当のChris Scarabosio、音楽担当のAndy NelsonがFinal Dubbing Stageへ入れば、すぐに完成形ができあがります。というのも少人数で何ヶ月も試行錯誤し仮Mixをつくりあげてきたチームだからです。この方法の落とし穴は、少人数で同じ音を何ヶ月も聞いているので耳が先入観をもってしまうことです。ですから常に新鮮な感覚で音を聞かなくてはなりません。スターウォーズ作品では、ベテランのサウンドデザイナーBen Burtとも、それまでの音源をどこにどう使うかを話合い有効に活用しています。

新しいスタジオに新しい手法を
我々は、Final Dubbing Stageでのpre-mixという過程をスキップして、編集から一気にFinal Mixへいく過程をプロツールズの総合システムによって実現することができた。編集室やpre-mix roomはプロツールズ プロコントロールと既存のツールが融合できる設計であるが、基本はすべての音がプロツールズHDに記録されておりFinal Mixでもここにある音源をコントロールしているという極めてシンプルな構成である。今回は、加えてデジデザイン社がプロツールズHD をコントロールするI-CONデジタルコンソールを提供したので、システムはさらにシンプルとなった。
G.Lucasが、Finalの段階で細かい変更を出したとしても、今までのように「George30分もらわないとその変更は無理だね。」と言わないですむようになった。

ADRセッション
海外ADRを行う場合、スタジオの録音媒体はまだDATなどテープベースがほとんどである。
我々は、プロツールズをメイン機材としていたので、持ち運び可能なプロツールズADRセットを作りあげた。ADRセッションは、細やかな機能が必要で役者に聴かせる同録、タイミングを知らせるキュー音、映像のプリロール、ミキサーは片側に同録、片側がADR。G.LucasはADRのみモニターなど。これをラップトップにまとめていつでもどこでも簡単にセッションが録音できるようにした。
スターウォーズが最初に制作された1975年の段階からG.Lucasは、映画の音響にも撮影監督と同じ責任を持つ専属のサウンドデザイナーが必要で、その制作プロセスも最初から最後までをすべて少人数で行えるシステム構築を意図してきた。エピソード-3は、その集大成として新機軸が盛り込まれた作品である。(了)

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