November 13, 2014

第88回サラウンド寺子屋 〜 ハイレゾ&3Dサラウンド at 神戸

by Mick Sawaguchi サラウンド寺子屋塾主宰

テーマ:ハイレゾ&3Dサラウンド
講師:入交 英雄 ( MBS )
期日:2014年9月23日 神戸富士通テンスタジ


はじめに
沢口:大阪での出前寺子屋塾、初開催となる今回のテーマは、ハイレゾと3Dサラウンド制作という大変ホットな話題です。これまでの水平面音場をメインとした5.1CHサラウンドに加えハイトCHを新たに加えた場合のメリットやその制作の実際について入交さんからデモと講演をお願いします。また今回神戸での開催にあたり会場のご協力をいただきました富士通テン 小脇さんはじめスタッフの方々にも感謝申し上げます。今回のハイトCHをデモするために、わざわざ特注のハイト用ECLIPSE SPスタンドまで制作していただきました。





入交:みなさんこんにちは、入交と申します。
本日のテーマは、ハイレゾ&3Dサラウンドとしました。2013年秋頃から、にわかに注目され始めたハイレゾ音声、一方、映画音響で注目され始めた高さ方向にもスピーカを置く(ハイトCHと呼ぶ)Auro3DDolby Atmosが登場してきました。大阪でも初のDolby Atmosシアターが3月にTOHOシネマズ・くずはモールに完成しています。

ハイレゾの定義についてはJEITAJASから提起されていますが、どちらも高周波が聞こえることに主眼が置かれています。



私が考えるにCD規格を振り返ると、44.1KHz16bitという仕様において、サンプリング周波数の1/2以上の周波数成分を通さないようにする急峻な特性のLPFが必要ですが、そのために生じていた可聴範囲の位相歪みが軽減すること、言い換えると、波形の時間軸分解能の向上が音質の向上に大きく寄与していると思います。さらに24bit解像度により低レベル時の波形再現が向上することも大きな音質向上の要因です。

また従来から考えられていた聴覚周波数特性の限界以上である20KHz以上の成分不要論については、「ハイパーソニック効果」という研究においてPETを用いた脳内血流測定研究などからも、高周波帯域が人体にもたらす影響について少しずつ明らかになってきました。
確かに西洋楽器の多くは、20KHz以上の周波数成分を含まないものが多いのですが、民族楽器などは高い周波数成分まで発生しますし、自然音に至っては20KHzをはるかに越える100kHz付近の周波数領域まで分布しています。

自然界では、主にジャングルなどの虫が発生させているそうですが、自然環境は、非常に高い周波数までの音に満ちあふれているということなのです。
まとめますと、ハレレゾ制作では、従来のCD制作に比べ、以下のような特徴があります。

   質感や音質の向上
   波形再現性の向上
   ハイレゾの性能を上手に使い切るために、マイキングやエフェクターの使い方について、制作方法論の見直しが必要




3Dサラウンド
サラウンドの歴史については、4 CHステレオ 3-1マトリックス方式 5.1 CH   22.2CH/Auro3D/Dolby Atmosと進歩してきましたが、その市場は、主に映画音響のジャンルで成功をしてきました。では、音楽のサラウンドは不必要なのでしょうか?
残念ながら、音楽のサラウンドは未発達といわざるを得ません。その原因は、メディアの不統一と、制作から再生までの思想が異なる結果、一気通貫の流れが阻害されていることに大きな原因があると思います。つまり、制作者、コンスーマー機器開発者の思惑が、聴取者の要求に一致していないのではないかということです。

ハイト・チャンネル(以下ハイトCH)との出会い
私が水平面内サラウンド音場からハイトCHに心を動かされたきっかけは、2007年に行ったAESサラウンド研究会「オーケストラにおけるサラウンドメインマイクの評価実験研究」の成果をAES N.YViennaで発表した時に同じViennaの会場で聴いたハイトCH音源のデモでした。またその時に見学したホールの響きは、日本国内の響きと異なり残響が上昇していくということを実感しそれまで言われてきた「欧州の名ホールにおける包まれ感と響きは、上に昇っていく」という説を体で感じ、ハイトCHの可能性を実感したのがきっかけでした。





9CH 3Dサラウンド
そこで録音の機会があるとハイトCHの可能性を検証するために様々なハイトCH用のマイクをセットし9 CH録音を行い評価してきました。

9 CHサラウンドのコンセプトは、

   現場の空間を切り取って再生
   教会では教会にいるかのような、ライブハウスではライブハウスにいるかのような演出
   CH数がふえると基本コンセプトをしっかり考えて取り組まないと
 音のまとまりが無くなる恐れがある。

音楽をターゲットとした場合に理想的には4 CH のハイトCHを加えるのが、良いという感触を得ましたが、現状のBDメディアや家庭での設置条件等を考えると、7.0CHの内、2 CHをフロントに設置することで、十分その効果が得られることを検証しています。


ITU-R BS-2159規格
参考までに、以下の規格を紹介します。これは、ITU-R BS-2159という規格で22.2 CH 規格を前提にした規格ですが、この中に7.1 CH 規格として6つのレイアウトがあります。私は、この中でも音楽のハイトCHの有効性と市場での実用性を考えると、5.1 CH +ハイトフロント2 CH という7.1 CH 構成が有用だと思います。





録音制作例とデモ
まず、名倉誠人さんの「バッハ・ビート2(仮題:ナクソスよりリリース予定)」の録音から聴いていただきます。この録音は、本日の会場からも遠くない、神戸女学院大学のチャペルで行った録音です。
録音系統は、マイクプリ 光伝送 DAWというシンプルな流れですが、192k-24bit24 CH 録音を行うことができました。最新のツールを使うとこれだけコンパクト、かつ高品質な制作が可能となります。







マイキングを図で示します。このホールの天井高は、17mと大変高く、左右の平行壁によって残響が上昇していきます。表面がでこぼこしていますので、フラッターエコーは殆ど発生しません。





まず、マイク7本によるサラウンド用と別立てしたマイク2本によるステレオ用のメインマイクを配置しています。図のXマークが、ハイトCH用で、無指向マイク4本を、1.4m角に配置しました。この方式をオムニ・スクエアと呼んでいます。高さは約5mです。マイクはフロント用に4006、リア用に4015、ハイト用は4006BRを用いています。

ハイトCHのレベルは、メインマイクのレベル設定と同じで1:1の関係で録音、再生します。
余談ですが、このチャペルの残響時間は、4.2secです。パイプオルガンが見えると思いますが、パイプオルガンも吸音体として働き、約2sec分くらいの吸音をしているそうです。壁に縦のスリットが開いているのが見えますが、これは、残響成分の低域を押さえる吸音体としての役目を持っています。



欧州の古い教会には、色々な大きさのワインボトルの口の部分を、壁の表面となるように壁の中に埋め込み、壁に小さな穴がたくさん開いているように見える教会があるそうです。ワインボトルは、その形状から、ちょうど150~200Hz付近に共鳴周波数があるヘルムホルツレゾネータとして動作し、その帯域成分を吸収します。その結果、石造りの建造物にありがちな、低域の残響時間上昇を抑えることができ、残響時間が長いにもかかわらず、すっきりした印象の残響を実現しています。今回の録音からは

   教会の響きをリアルに実現
   サラウンドスピーカを意識させない
   スイートスポットが広い
   残響の上昇感が聞き取れる

といった成果を得られました。
では、実際の録音をお聴き下さい。

デモ−1 ビブラフォンの演奏で、JSバッハのパルティータ2番よりシャコンヌ


入交:本日は、ハイトCH部分を4CH再生で聴いてもらっていますが、ハイトCHがあるとスイートスポットが広くなるというメリットをこれからみなさんで検証してみてください。ハイトCHON-OFFを行いますのでみなさんで会場内を自由に移動して検証してください。



デモ−2 マリンバで、JSバッハの無伴奏ソナタ3番より第1楽章と3楽章
次に、別場所で録音した、ビオラとビブラフォンの2重奏をお聴き下さい

デモ−3 アルバム「Forest Shadow」より、ビオラとバイブラフォンのための2重奏
この録音は、京都の北白川教会で2012年に録音したものです。部屋の形は、全体として5角型の壁構造で、天井高さは神戸女学院大学のチャペルよりも低く、一番高いところで10mほど傾斜を持った構造をしています。材質は木材です。



マイク配置は、メインマイクは、高さ2.2mで、左右幅1mのデッカツリースタイルです。センタは、左右ラインから0.3mほど出っ張らせましたので、どちらかというと深田ツリーに近い配置となります。リアは、メインより1.5m後方で左右幅1mとなります。ハイトCHは、4.5m1.4m四方のオムニ・スクエアで設置しています。なお、マイクはフロントがDPA4006で、リアはその仲間である4021です。
残響の感じは全く異なりますが、やはりハイトCHによる空気感が感じられると思います。

次は、同じ北白川教会ですが、2009年に5.0サラウンド作品(SACD)として収録したバッハ・ビートから聴いていただきます。
この作品は、アンビエンスマイクを高い位置に配置していたため、これを利用した7.0作品としてミックスダウンしました。

メインマイクはフロントが1.2m幅の、センタをやはり0.3mほど前に出っ張らせたデッカツリーで、高さは、2.2mです。リアは、フロントより2m後ろに幅2mで設置。ハイトCHに利用したアンビエンスマイクは、高さ3mでフロントより5m後ろに幅4mで設置しています。

デモ−4 アルバム「バッハ・ビート」より JSバッハ トッカータとフーガ ニ短調
9.0CHサラウンドに比べると、やや狭い感じで残響が上に昇っていく感じはあまり聞き取れません。ハイトCHマイクの左右が離れすぎているのと、その位置が低いところに原因があると思います。

次は、沢口さんがUNAMASレーベルより6月に5CHサラウンドでリリースした音源ですが、サラウンドマイクとして通常配置以外に、ハイトCHも設置されているので、今回はハイトCHとメインCHを分けた9.0CHミックスをお聴き下さい。

デモ−5 ビバルディFour Seasonsより 冬
次は、2007年に行ったAESサラウンド研究会「オーケストラにおけるサラウンドメインマイクの評価実験」の録音からですが、この研究では様々なマイクによる同時録音を行いましたので、3Dサラウンドミックスに用いることの出来る配置が、たまたまありました。メインマイクは、11.5mのデッカツリーで、ハイトCHはメインマイクより7m後方に設置された2m四方のオムニ・スクエアとなります。
途中の鳥の声はサウンドコラージュですが、実際にドイツの黒い森で収録した4CHの野鳥の録音に、色々な野鳥の声を8CHで再現すべく再構成しました。



デモ−6 ローマの松 RE-MIX
次は、同じく2007年、シンフォニーホールで録音した大阪音楽団の演奏です。
メインマイクは、11mのデッカツリーで、その後方3mに幅1mとしたリアペア、天井から垂らし、幅3mとしたアンビエンスマイクという構成です。
この曲の特徴は、曲間にシンセサイザーによる効果音が挿入されている点です。この部分は、作曲者にお願いし、4系統のステムミックスとして音源を頂き、8CHへ再構成しました。ハイトミックスを積極的に行った場合の効果を検証しました。



また、この曲では、コーラス隊が2階席に配置されています。コーラス隊の一部のスポットマイクをハイトCHへ振り分ける事で、コーラス隊の定位がオーケストラ位置よりも上昇し、その結果オーケストラとマスキングされず、5CHミックスではオケに埋もれてしまった部分も分離して聴こえるようになり、良いバランスになったと思います。



デモ−7  ヨハン..メイ プラネットアース 
最後にサウンドインスタレーションと言いましょうか、生録をお聴かせします。この録音はメイン4CH+ハイト2CHで、ハイト2CHはフロント・ハイトとリア・ハイトの両方に割り振り中間定位としています。
4CH録音に2CH追加という構成ですが、大変位置関係がよく判る録音になったと思います。ドキュメンタリーに於けるサラウンド表現の可能性について考えさせられる録音となりました。



デモ−8 神社のお祓い

おわりに
入交さんのデモと講演の後で、会場を提供していただいた富士通テン 小脇さんから、ECLIPSEスピーカが採用している発音に重要なインパルスレスポンスをどう忠実に再現するかを実用化したタイムドメインの考え方と最新LFE用スピーカのデモを行っていただきました。

インパルスレスポンスが向上すると「コンテンツの良し悪しがそのまま出る」という小脇さんのコメントは、我々、制作側にとっても良い教訓になったと思います。






[ 関連リンク ]
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