テーマ:5月サラウンド月間連動イベント〜
最新UNAMAS
/2Lレーベル サラウンド音楽の試聴と制作解説
講師:Mick沢口(沢口音楽工房)上畑正和(リードオルガン奏者・ピアニスト・作曲家)
講師:Mick沢口(沢口音楽工房)上畑正和(リードオルガン奏者・ピアニスト・作曲家)
場所:SONA試聴室 2012年5月27日 14:00−−17:00
沢口:今月はサラウンドの日月間イベントが各地で開催されています。このサラウンド寺子屋仲間でも色々とサラウンドを啓発するイベントを行いました。
今回は、その締めくくりとなる連動企画として192-24/96-24サラウンドの音楽ソフトをUNAMASレーベルと2Lから聞いてみたいと思います。
音楽のサラウンド制作は、正直活発ではありません。しかし地道にこうして継続していくことが大切だと思っています。
最初に、UNAMASレーベルでの8作目となりました最新作「SOYOGI」これは、足踏みオルガンという大変柔らかな音色の楽器を使って童謡や子守唄、唱歌などを192-24サラウンドで制作したものです。この演奏を行っていただいた上畑さんからまず、リードオルガンとはどんな構造で発音している楽器なのか?いつ頃日本で普及したのか等について解説していただきます。また今回、会場を提供していただきましたソナの中原さんと三上さんにも感謝申し上げます。
1 リードオルガンの解説
上畑:上畑です。「SOYOGI」のアルバムで使いましたリードオルガン、(足踏みオルガンともいいますが)、について歴史 種類 構造等をお話して、その後何曲か再生したいと思います。
1−1歴史:
今から2000年ほど前の古代ギリシャ・ローマ時代に「水オルガン」が登場し、「ふいご式オルガン」という形で進化しました。これがパイプオルガンへと発展し宗教と深く結びついて教会オルガンとして定着しました。19世紀にフリー・リードという音程の正確な発音体が発明されました。この原理は、ハーモニカやアコーディオンでも同様です。この発明によってリードオルガンが登場し、小型化できたため賛美歌の伴奏として世界各地でのキリスト教の布教に大きく活躍するようになりました。足踏みオルガンは空気の流れによって
● 吐気式
● 吸気式
の2種類があります。吐気式は、ヨーロッパで発展し空気を貯めてそれを吐き出す力でリードを鳴らす方式で表現力は豊ですが演奏テクニックを必要とします。もうひとつの吸気式は、アメリカで発展した方式で、表現力に劣る部分がありますが演奏しやすいというメリットがあります。
1−2 国内への導入:
日本へリードオルガンが持ち込まれたのは、明治になってキリスト教の布教とともに導入されました。明治の作曲家として有名な滝廉太郎や山田耕作といった人々は、教会のオルガニストとしてオルガンを演奏しながら西洋作曲技法を学び作曲を行った人々です。ここで重要な人物を2人紹介します。エドワード・ガントレットと島崎赤太郎です。
エドワード・ガントレットはイギリス人で、アメリカ・カナダを経て布教活動のために日本へやってきました。彼はオルガンの優れた演奏者であると共に構造に詳しく、全国で布教活動を行い各地にオルガンを導入しました。その後、山田恒(ツネ)
もう一人の島崎赤太郎は、明治期最初のオルガニストでした。作曲では、後世に残るような曲はありませんが、オルガン教則本執筆や尋常小学唱歌編集委員の中心人物としてオルガンの全国的な普及に貢献しています。当時すでにピアノもありましたが、全国へ普及するには大変高価でしたのでリードオルガンが導入された訳です。
もう一人の島崎赤太郎は、明治期最初のオルガニストでした。作曲では、後世に残るような曲はありませんが、オルガン教則本執筆や尋常小学唱歌編集委員の中心人物としてオルガンの全国的な普及に貢献しています。当時すでにピアノもありましたが、全国へ普及するには大変高価でしたのでリードオルガンが導入された訳です。
1−3 リードオルガンメーカー
明治初期は、まだ需要も少なかったため国産には至らず、主に海外から輸入されていました。主なメーカーはMason
and Hamlin、Esteyなどがありました。その後需要の拡大と共に国内でも製造が始まり、西川、山葉、河合等が製造するようになりました。今回のアルバムでは戦後に参入した天竜楽器のエテルナというオルガンをメインに使っています。
1−4 リードオルガンの構造
リードオルガンのタイプは大きく分けるとストップと言われる音栓のあるものと無いものの2種類あります。アルバムではストップの無いオルガンがメインでしたが、ここではストップのあるものを解説します。鍵盤の前にあるボタンのようなものがストップで、これで空気の流れをコントロールします。ストップを手前に引くと空気がリードに流れて音が出たり、音色が変わったりします。足踏みペダルによって空気袋から空気を抜いていき、バネの力で空気袋が元に戻ろうとすることで空気が流れます。ストップによっては、オクターブ違いやオクターブを重ねたり、リードの音色が明るいものや柔らかいもの、コーラス効果を得るもの、Vox
Humanaという風車でビブラート効果を加える超アナログな機構のものまであります。また、スウェルというレバーを膝で操作することでリードの蓋の開け閉めを行い、音量や明るい/暗いといった音色を、コントロールすることも出来ます。
発音体となるリードは真鍮で出来ています。量産型になると台がアルミのものもあります。リードの調律についても触れておきますと、リードを台から斜めにすることで音色を柔らかくし、リードの先端を削ることで音程を上げ、リードの元を削ることで音程を下げるといった調律方法です。
私の演奏方法は、リードオルガンの持つ柔らかな音色を出すため、そしてリードオルガン(吸気式)の表現力の劣る部分をなくすため、常に空気袋をピアニッシモの状態に維持し、フォルテが必要な時に最小限のペダルを踏み込むというスタイルです。その中でも今回のアルバムでいえば子守唄2曲は、そうしたピアニッシモの限界に挑戦した演奏をしました。最後に、演奏する椅子は、腰への負担を軽減するために座面が斜めになった椅子を使います。
Q-01 リードは、交換できるのですか?
A:リードは、台へ焼き付けていますので折れたら交換はブロック毎でしかできません。しかし丈夫なのでそうした例は、少ないですね。また調律を繰り返すことでリードが薄くなり、折れやすくなります。
Q-02編曲する場合にもリードオルガンにあった編曲があるのですか?
A:まず、ピアノと違い鍵盤を押さえている間しか音が出せないので、両手で出来る表現を意識します。そして、空気量がダイナミックレンジを決めるのでそれを念頭に入れて編曲しています。クレッシェンドは簡単ですが、デクレッシェンドは大変難しいのでスウェルとペダルの踏み込みが重要です。
それでは、実際にアルバム「SOYOGI」から再生してみたいと思います。
メドレーで浜辺の歌/海/砂山
同じく 早春賦/春の小川/さくらさくら をお聞きください。
[ 再生 ]
どうもありがとうございました(拍手)
2 UNAMASレーベル サラウンド制作の解説とデモ
沢口:リードオルガンの解説とSOYOGIからのデモでした。上畑さんありがとうございました。
2−1 UNAHQ-2002
「SOYOGI」の制作
私の方から、この「SOYOGI」のレコーディングについて解説します。録音は、2011年12月18日 音響ハウス第一スタジオです。ここは、大変天井が高いので、私のお気に入りのスタジオです。録音は、192-24プロツーズズHD9で録音しMIXは、私のPyramix ver 7.1で行いました。
いつもは、録音からPyramixで行っていますが、今回はオーバーダブが何曲かあったのでオペレーションまで手が回らないと思ったからです。(笑い)
まずスタジオで出音のバランスの良い場所を探してオルガンを設置、その後いつも私が愛用している日東紡音響のAGS音響拡散体を崎山さんがオルガンを四方で囲むように設置しました。AGSは、スタジオ内の反射音を整音するうえで大変有効でどこに設置すれば効果的かのノウハウは、崎山さんがノウハウをもっていますのでいつも崎山さんの耳に場所決めを頼っています!
上畑さんも話していましたが今回は、ピアニッシモのサウンドを狙うと言うことでオルガンが発するタッチノイズやメカノイズを軽減するために名古屋から調律できてもらいました安達さんが孤軍奮闘してくれました。
マイキングは、L-C-RにB&K 4003/4011 Ls-Rsには、sanken co-100kでちょうど演奏者の場所がスイートスポットとなるサラウンド音場を想定しています。
何曲かボーカルもありましたので山崎阿弥さんに歌ってもらいました。ボーカルマイクは、いくつか試して、結果的にはオーディオテクニカAT-4050
URUSHIを使っています。女性ボーカル向きだったのとオルガンと相対で録音したときのかぶりが少なかったという特徴があります。それぞれのマイク距離は、図を参照ください。
2−2 HDサラウンド配信の背景
サラウンド音楽ソフトの制作が活発でない状況を少しでも活発化しようと私が立ち上げたUNAMASレーベルでのサラウンドソフトのリリースも昨年から数えて8作目となりました。私がなぜHD配信(96-24以上のフォーマット)にこだわっているかというと以下のような点を上げることができます。
1 CDのマーケットは、既に高原状態から右肩下がりになってきており新たな
パッケージとしてのビジネスモデルを模索している。
2 音の持つ情報量を現在のテクノロジーで最大限記録しておきたい。このた
めには、2CHステレオよりもサラウンドが適している。
3 現在のテクノロジーを活かす上でHD録音が私のようなブティックレーベ
ルでも可能となった。PCMで言えば、DXDから192-96と選択肢があり、
別の方式ではDSDがある。それぞれが、コストとワークフロー、狙いを考
えた上でこうした中から最適なフォーマットを選択できる。
4 配信ダウンロードでも軽いデータのi-tuneからHD配信でかつサラウンドの
データが配信できるようになった。
ちょうどタイミングよくe-onkyo
musicも5月30日からHDサラウンドの配信をスタートさせます。今までは、このUNAMASレーベルもリリースしているhqm-storeしかなかったHDサラウンド配信サイトがひとつ増えた訳で、今後のリスナーの反響を私も注目しているところです。
とはいえ、現状家庭で手軽にサラウンドダウンロード音源を再生できるインターフェースとしては、今日私も持参しましたRME
FIREFACE UCなど限られたインターフェースしかありません。
48-24クラスですと選択肢もあるのですが、192-24や96-24でサラウンドとなるとまだ手軽に再生できる環境ではないのも事実です。私が、期待しているのは、ホームシアター用のサラウンドAVアンプに従来の映画再生をメインとするだけでなくこうしたインターネット ダウンロードのHDサラウンド再生機能を重視していく方向です。オーディオメーカではすでにいくつかこうした方向を取り入れようとしていますので、ここにも期待したいところです。
2−3 UNAHQ 1004「FOREST」の制作とデモ
それでは、UNAMASレーベルの「SOYOGI」以外のサラウンドソフトのデモと制作の舞台裏を紹介したいと思います。最初に192-24サラウンドで制作したのがこのユキ アリマサさんのピアノソロ「FOREST」です。これも音響ハウスの第一スタジオで、AGS音響拡散体をガラス面に設置しています。
録音は、Pyramix
NativeとMacbook proでインターフェスは、RME FIREFACE UCという大変コンパクトな機材です。マイキングは、ピアノL-Rにsanken co-100kx2 低域にブラウナーのファンタムクラシック Ls-Rsには、sanken CUW-180という構成です。
[ 再生 ]
2−4 UNAHQ 1006 「Everything for Drums」
これは、全編ドラムソロだけでドラムの様々な表現力を表してみたいという意図で制作しました。全編ドラムソロのアルバム制作は、ドラマーの永遠の夢と言われていますが、実際には、リスクが多くてなかなか実現しません。これはドラマーの深水洋さんと入念にアイディアを出して、即興でなく曲の構成をとりスティック ブラシ マレット ハンドと様々な演奏スタイルのドラムソロとしました。録音は、同じスタジオで録音機材は、このときインターフェースにRME
FIREFACE UFXを使っています。ここに搭載された新しいマイクプリを試してみたかったからです。マイキングは、L-RにB&K 4011 CにはSchoeps
CMC-6/MK-を使っています。この方式は、東京芸大の亀川さんが考案したオムニ8という方式の応用です。
Ls/Rsは、B&K4003 KickにAudix D-6/Sony C-38B
でアンビエンスは、u-87Aix4と言う構成です。
POPS系のドラム録音では、アタックとパーツの定位を重視しますが、このアルバムでは、楽器が持っている「鳴り」を重視した音場を聞きていただきたいと思います。
[ 再生 ]
これは尺八の原型と言われる法竹(ホッチク/地なし延べ尺八)のソロアルバムです。録音は、同じスタジオです。この法竹も大変小さな音ですが、自然の竹をくりぬいて吹口をつけただけの素朴な音に魅せられた海外の愛好者が多い楽器です。この演奏を継承している日本の演奏者も限られており今回は奥田敦さんに演奏してもらいました。通常の音楽スタジオは、大変デッドで邦楽の演奏に向いていませんので、ここでも演奏者を囲むようにAGSを立て、そこで崎山さん特注の背面板をつけて跳ね返りを補強しています。また床からの反射をコントロールするためにAGSを床おきで設置しました。
マイキングは、メインがROYER 122とゲッフェルUM-900をCにLs-Rsは、床おきのAGSを上から狙っています。法竹は、リードオルガンよりももっと小さな音しか出せませんので、通常のサラウンドピックアップでは、スタジオ暗騒音を拾いかねません。床においたAGSに耳をすませると面白い音とレベルも十分ありましたのでここをLs-Rsとしています。
以上でUNAMASレーベルからのデモを終ります。ソロ楽器のアルバムが多いのは、ひとえに個人のコスト負担では、大規模な編成は、無理なので地味ながらも継続することを優先で制作しているからです。(笑い)では、次に2Lレーベルの新作を聞いてもらいます。
3 2L 初JAZZアルバム
2L-087-SABD「Quit Winter Night」より
2Lのモートンは、DXDという方式で優れたサラウンド クラシックアルバムを制作していますが、今回初めてJAZZアルバムを制作しました。日本の寺子屋メンバーにも聞いてもらいたいというメッセージとともにマスター音源をFTPからダウンロードしてくれというメールが来て、ダウンロードした音源96-24サラウンドからいくつか再生します。マイキングや教会内での配置は、図のような関係でドラムス(PERC)がリアでギター、ピアノ、ベースそしてソロ楽器がフロントです。
彼の録音スタイルも毎回決まっておりPyramix DXD録音 メインは、DPA-4041です。マイクプリは、ミレニアでバランスは、演奏者の配置で決めます。
最近彼は、高さ方向にも意欲を見せて録音しており、従来の水平5/7CHに加えてその上に高さ用のセットを付加した方法を採用しています。(AURA 3Dに準拠した方式)
[ 再生 ]
4 スペシャル音源再生 深町純ラストレコーディング「黎明」から
では、最後に今年8月以降でCDとHDサラウンドでリリースします深町純さんのラストレコーディング「黎明」から2曲ほど聞いて下さい。録音は2010年7月7日NAE SOUND Labでの録音で一時間ほど一気に即興リハなし演奏した内容です。
実は、この録音のあとに2011年春で本格的に深町さんのソロアルバムを制作する予定で企画を進めていたのですが、2010年の11月に突然の訃報を受け取ることになりました。マイキングや機材は、これまでと同じですがこれは96-24サラウンド録音です。
JAZZやPOPSでスタンウエイピアノを近接マイクで録音した方なら経験していると思いますが、スタンウエイは、ダンパーのコントロールによってガシャーンというメカニカルノイズを発生します。クラシックのようにOFF気味で録音している場合は、問題ないでしょうが、これは悩みのタネです。しかし深町さんは、どんな奏法でも全くダンパーノイズがありませんでした。ご本人も「ペダルワークに関してはうまいからね」と話していました。では2曲ほど再生します。
[ 再生 ]
Q-01 マイクプリは、何をつかったのですか?
A:RME Octamic-2をL-Rに低域用には、TLAudio A-1を使っています。私の基本構成は、いつもこれですね。
Q-02 RME UFXに使っているマイクプリの印象はどうですか?
A: Everything for Drumsの録音で使いましたが、大変クリーンで静かなマイクプリだと思います。私の場合は、録音中にレベルをいじるタイプなのでマウスでレベル調整は苦手なので物理ツマミタイプのモデルを出して欲しいとメーカにはリクエストしています。
沢口;今回は、講師役も担当してのサラウンド月間連動サラウンド寺子屋塾でした。リードオルガンの解説をしていただきました上畑さん、そして会場を提供していただきましたソナの皆さんにもお礼申し上げます。(拍手)
「サラウンド入門」は実践的な解説書です