August 10, 2005

一歩前進アメリカPOPSサラウンドMIX~TEC AWARDノミネーション作品から

By B.Jackson 2005-08 抄訳:Mick Sawaguchi 沢口真生

[ はじめに ]
ここで紹介する5作品のサラウンドMIXで特徴的なことがあるので、まず紹介しましょう。それは従来アメリカのエンジニアが度々いっていたセンターは使いたくないということとリアよりもフロント重視という概念が変わってきたことです。すなわち「センターは友達」といっているようにセンターを積極的に使うMIXになっったきたことと、5チャンネルを均等に使うということをためらわなくなった点です。この意味では、寺子屋の中で実施しているコンセプトに近づいたといえるでしょう。みなさんおおいに自信をもってアイディアをだしてください。それと大規模収録でもPCM-3348がスタンバイでNUENDOがメイン収録機器という時代かといううことです。これ以外にもステレオエフェクターの使い方やハードセンターでなく、少し前にだした定位のやり方など参考になりますので。(MICK記)

様々な賞でもサラウンド制作の部門が登場するようになってきた。とはいえ普及するまでにはどのフォーマットにするか、制作コストは、どうプロモーションするか?など解決すべき課題は多く横たわっているのも事実である。
今年初めてグラミー賞とTECアワードにサラウンド制作というカテゴリーが創設された。ここではTECアワードに優れたサラウンド制作としてノミネートされた5作品について紹介する。余談だがステレオ作品の場合の受賞トロフィーに比べてサラウンドの場合は、数多く用意しなければならないのが悩みだが、、、、、、、、、、、

◎ BONNIE RAITT[NICK of TIME]のサラウンドMIX by Ed Cherney

1989年にグラミー賞を受賞したこのアルバムは、サラウンド制作に適した内容である。このオリジナル録音とMIX も担当したEd は、「最初は、あまり乗り気でなかったけど、EMIから声をかけてくれたのが嬉しい。プロツールズとホーム録音というスタイルでは音が平面的でおもしろくないけど、このNick of Timeのマルチトラックテープを再生したとたんスピーカからすばらしいサウンドがあふれてきたので、これはやりがいがあると感じました。」オリジナルMIXは、レコードプラントにてNEVE VRで行ったが、今回は同じコンソールが入ったCAPITAL-C STUDIOで実施した。「音が動き回るとかエフェクトを多用するといった手の込んだ仕掛けはせず、オリジナルがもっている雰囲気を拡張するために空間を感じてもらうといったやりかたでMIXしています。このために楽器のアンビエンス感をリアに持って行き広さをだしています。」

いつも話題になるセンタースピーカの扱いについてはどうであろうか。
「5.1サラウンドMIX をやり始めた頃は、センタースピーカを使うことにナーバスになっていました。当時サラウンドをやっていたエンジニアとも話した結果です。しかし最近は「「センタースピーカは我々の友達」」という感覚で積極的にセンターを使うことにしています。とはいえVo 等は、ハードセンターだけに定位させるとほかから浮き上がってしまいますので、馴染むような定位とし、かつセンターにはレベルは大きくないですがBs/Kick/Sn/ときにリズムGtなどをいれてスイートスポットの拡大とグルーブ感をだしています。
エフェクトやリバーブといった機器は、従来のステレオ製品を使いフロントL-RやリアL-Rといったペアで使います。時にフロントRとリアRといった組み合わせもやります。リバーブについては、1in-5outのような使い方ではなく極力1:1で使いっています。」

アーティスト側のサラウンドMIXに対する反応は、どうだったのであろうか?
「VoもGtも彼らの演奏をサラウンドで聴いたのは初めてでした。サラウンドでRE-MIXしたいと言ったときかれらは、どうしてまた同じ事をやらなくてはいけないの?と乗り気ではありませんでした。私は、最新のテクノロジーでこの音楽に新しい表現が加えられ人々に新たな感動を与えられるよ。と答えました。
オリジナルを壊すつもりはないので信用してくれ!と。それでサラウンドになったものをサンフランシスコに送り聴いてもらいました。でも彼女は気に入らなかったようです。その後彼女からのコメントをもとに少し修正をかけ、それを今度はCAPITAL STUDIOで聴いてもらいました。結果は、大満足でその場でいままでのアルバム全部を5.1でRE-MIXしたいと言いました。」

◎ CRYSTAL METHOD LEGION OF BOOM 
サラウンドMIX by FRED MAHER/NATHANIEL KUNKEL


これは、テクノや電子音楽のジャンルに属する音楽で、かれらにとって3枚目のアルバムとなる。ダンスフロアーで踊りだしたい気分の音楽を目指している。
「我々は電子音楽でサラウンドをやりたいと考えていました。世界でそうしたことを手がけるひとがまだ少ないからです。いままでの楽器や曲奏からは全く異なったアプローチでループを多用したり、まるで音のジャングルと言えるような世界を構築しました。」LAにある自宅でMaherが使っている機材は、NUENDOとJBL SPがメインである。「これにまずベースとなる音源をD-Pからコピーしました。これには6日間を使用。というのも彼らは何百というプラグインエフェクターを使っており私のOS-9 VERでは十分でなかったからです。
これをサラウンド化するのにすべてのチャンネルを均等に使い、かつ音の動きも大胆につけています。こうしてできたMIX は、ツアーに出ているバンドのところへ送り、チェックしてもらいます。彼らは時間のあるときに地元のHi-Fi Shopへこれを持ち込んで再生しチェックしていましたね。」マスターはDTSのマスタリングルームへ持ち込みここで微調整したあと完成となる。

◎ RAY CHARLES GENIUS LOVES COMPANY サラウンドMIX by Al SCHMITT

 この5.1MIXは、Al Schmittが、数週間かけてコンコード レコードのために完成させた。我々は、サラウンドMIX を行うときもステレオMIXから大幅なレイアウト変更なしでいけるコンソール配置を考えている。このMIXは、CAPITALSTUDIO-CでNEVE VRコンソールで行われた。デュエット曲なのでRAYの定位はL-Cの中間とし相手を反対へ定位させている。またフロント全面から少し前に出た感じとするため他のチャンネルに少し音をこぼしている。
アンビエンス以外に、リアに音を配置することをサラウンドの初期はずいぶんためらったというが、今ではチャンネルを均等に使う事にためらわなくなったという。
「勿論LIVEコンサートなどのMIXでは、聴衆がリアでバンドはフロントという配置にしますが、スタジオ録音の場合は、積極的に5チャンネルを生かすようになりました。ダイアンクラールのMIXでもそうしています。リスナーも5チャンネルから均一なサウンドが出てくれる事を期待し始めていますから。」
こうしてAlは、サラウンドMIX でも最初のグラミーを受賞することになった。
このアルバムは、レイの53年の音楽生活をかざるためにコンコード レコードのJohn Burkによって企画された。この録音はレイとそれまで関わりのあった多くのボーカリストたちがLIVEでレイと歌うということが目的である。レイの優れた才能のうちひとつは1950年代にトムダウトから学び、それ以降はLAにあるレイのスタジオRPM STUDIOで録音が行われてきた。
本録音の大部分もここでなじみのミュージシャンとともに行いエンジニアも永年ともにしたTerry Howardが行っている。5曲についてはフィル ラモーンと彼のエンジニア Ed Thackerが担当。3曲についてはオーケストラとのLIVEで録音は、ワーナーブラザースのスコアリングステージが使用されBobby Fernandezがエンジニアを担当。SACDのためにHerb Waltlが参画している。
全てのMIXは、Al ScmittがCapital studio-cでNEVE VRで実施した。

RPM STUDIOで録音するにあたりBurkは、フィル ラモーンの力を借りる事にした。フィルはこのような大規模で複雑なprojectのスタジオワークをいかにスムースに進めるか、またいかにいい音で録音するかに経験豊かなプロデューサ/エンジニアだからである。実際彼は庭で使う大型の傘を用意し、それにフォームを貼付ける等してドラムの録音を行った。このスタジオは1950-60年代の作りでやや四角形、明るい音のするスタジオである。Voマイクは、いくつかテストした結果Audio Technica 4060を選択した。あとは、機動的に録音していくだけである。Voマイクの後にはNEVE 1073 MIC PREとSUMMIT AUDIOのEQがはいっている極めてシンプルな構成である。フィルはA-級回路を採用した機器が好みである。録音は、PRO TOOLSへダイレクトに接続しスタジオのQE-8コンソールはモニターとして使用した。レイは録音の直前までいろいろなアイディアをだしベストの歌を録音しようとした。すでにアレンジは決まっていたとしても、それにとらわれないでそのときのベストな気持ちを優先したからである。
当初オーケストラで録音する予定はなかったが、レイがIT WAS A VERY GOOD YEARという曲はオーケストラでやろうと提案し、急遽実現した。コンソールはSSL 9000J で行われた。レイはMIXでも全てに立ち会いたい性格であるが、今回は容態も悪化していたためED-NET回線で彼のところへMIXを送りながらMIXを進行した。全てが完成するまえにレイは肝臓がんで亡くなってしまったが、彼のメッセージの全てはこの中に残されている。

◎ SIMON&GARFUNKEL OLD FRIENDS LIVE ON STAGE
サラウンドMIX by MICHAEL BRAUER


Michaelは、pops rockの大ベテランであるが、最近はサラウンドMIX も行っている。最初のサラウンド作品は、IMAX用に制作されたR.STONSのSTEEL WHEELSである。「私の考えは、リスナーに最上の席で聴いている音楽を提供をすることです。」彼のスタジオQUAD STUDIO は、N.YにありSONY DRE-777サラウンドリバーブをメインに使っている。「私は、フロントにある楽器をこうしたショートリバーブやDELAYでリスナーの横方向まで広げあたかも居心地のいい空間にいる感じを作ろうと研究しました。MIXのやりかたは、サラウンドでいいバランスを作り、ステレオはそのFOLD DOWNとして両方を同時にMIXします。FOLD DOWNではリアのレベルが5-6dB下げておき、ステレオでリバーブ過多にならないようにしています。

◎ ERIC CLAPTON&FRIENDS CROSSROAD GUITAR FESTIVAL
サラウンドMIX by NEIL DORFSMAN/MICK GUZAUSKI


2004-07にテキサスで行われたギター ジャイアンツのコンサートである。
この録音はNUENDOに記録(バックアップとしてPCM-3348を使用)しそれをPRO TOOLS へコピー、MIX は、SONYOXFR-3を使用。
野外コンサートの特徴としてリアにはほとんど目立った音がないため、MIX ではリバーブやDELAYを使用してリア成分を強調している。
通常はサラウンドMIXとステレオMIX は、別々に行うが、今回は膨大な音源を1週間という期限で仕上げなければならなかったので同時に行っている。彼のセンターチャンネルの考えは、ほんの少しパンチを加える程度の比重でKICK BS SnとリードVoが入っている。 (了)

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