May 14, 2006

第32回サラウンド塾 カムチャッカ世界自然遺産 サラウンドロケ 高木創

 By. Mick Sawaguchi
日時:2006年5月14日
場所:三鷹 沢口スタジオ
講師:高木創(東京TVセンター)
テーマ:カムチャッカ世界自然遺産 サラウンドロケ


沢口:2006年5月は2回開催とタイトな予定になってしまいました。本日は、東京TVセンターの高木さんを講師にフィールド サラウンド ロケの取り組みについてお願いしました。高木さんは、今年の一月にNHK BS-hiで放送された「世界自然遺産 火と氷の王国~カムチャツカ火山群」の長期ロケを担当。その前にはアフリカ ビクトリアの滝をサラウンド ロケしています。熱帯から極寒まで厳しい自然条件のなかでどのような点に注意しながらサラウンド ロケを行ったかはみなさんにも参考になる点が多いと思います。

高木:よろしくお願いします。いつもは、映画のファイナルMIXを担当しておりロケーションに出る機会は少ないのですが、ロケも大好きなので私の経験をお話したいと思います。「火と氷の王国 カムチャッカ火山群」は昨年8月に長期ロケを行いました。スタッフはディレクター2名 カメラマン VE/A そしてサラウンド収録が私といった構成であとロシア側からガイドや後方支援をチームをお願いしました。ディレクターはグレート ジャーニーという番組を制作していたスタッフでハードな自然番組を多く手がけてきています。

まず、今回の自然条件と機材の対応です。

1 気温が-20度から20度くらいまでと急変する。
2 標高4000mクラスの火山郡に登頂するので気圧が通常の半分になると予測される。
3 厳しい環境での制作なので極力シンプル 軽量な機材
4 ツンドラ地帯以降ほとんど音らしい音がない静寂の環境なのでS/Nの良い収録が必要
5 予想されるロケで氷穴調査や氷河の調査があるのでこうした音を可能な限り録音

これらを検討して機材は以下の構成としました。
レコーダ:Attone Canter HD-8ch レコーダ
サラウンド マイク:sanken CUW-180+CS-1 W-A/B方式、sanken WMS-5 W-MS方式
小型ステレオマイク:sanken COS-22 ピンマイク
特殊マイク:sanken MO-9E 氷中マイク ペア
これとは別にカメラに同録としてガンマイク。ですから私の録音はサラウンドとして使用できる素材を専用に録音するという役割でした。

1に関しては前回アフリカ ビクトリアの滝では、安定した気候と電源事情で恵まれていましたが今回は、バッテリー管理と充電体制を考え我々が取材する場所の近くにベースキャンプを設営し自家発電機で充電することにしました。気温の変動による露結対策はキャンプの大型テントには機材を持ち込まず、ロケが終了時点でカバーをしたまま通常の外気と同じ条件の我々の個別テントにおいておくことにしました。Canterは低温にもヘビーデューティなのでその点は安心しました。移動中にホワイト アウトという視界ゼロの吹雪にもめぐり合う危険があるので、ツエルトとよぶ軽量テントを携行し防寒対策としました。実際これがなかったら遭難していたかもしれないといった気象条件でした。

2の気圧については、山岳取材経験の豊富な今回のカメラマンから標高が4000m以上になると気圧の半減からパソコンのHDがよくクラッシュする。と聞かされましたので使用するファイアーワイアーケーブルとHDを機密保持対策しました。具体的にはケーブル内に充填剤を注入、HDもケースにいれて充填封入としました。

3サラウンド マイクの選定については、前回はMKH-416x5というマイクアレイを制作しヘルメットに装着して使用しましたが、今回は広がり感と機動性を重視したかったので選定に苦労しました。ちょうどNHK技術研究所の公開を見に行ってWMS-5の試作品にふれこれなら使えそうだと思いました。サラウンド寺子屋コネクションを使ってsankenの小林さんとコンタクトすることができ、WMS-5の2号機、それにW-A/B方式のCUW-180+CS-1の組み合わせを使うことができました。また氷河の音を直接録音したいとおもっていたのでこれも長野オリムピックのスケート放送で用いたエッジ音収録用氷中マイクというのもあると知りこれも使うことができました。ステレオ ピンマイクは氷穴が発見できた場合の先行調査を行うディレクターのヘルメットに取り付ける小型HDカメラHDW-1000の横にとりつけ現場音を生々しく録音するのに使用しました。この素材はポストプロダクションでフロントハードセンターとリアファンタムセンターに定位させました。

4については、音源がレベル的に十分であればWMS-5で、音源を明確に定位させて録音したい場合はCUW-180をと使い分けをしました。無音の自然界ではWMS-5のS/Nでは厳しいものがありました。収録セットはバックパックに一体として収容し背中にポールを立ててここにCUW-180セットを、機動性にはWMS-5を手持ちで対応という組み合わせです。それでも当初20kgの重量になったので山岳移動録音ではここから不要不急の機材ははずし軽量化を図りました。

移動はカムチャッカの首都からマイクロバスで移動14時間揺られて5つの火山郡のなかでも活発な北側にむかい。そのなかでウシコフスキーという火山にあると言われている氷穴を見つけて探査するという工程です。氷穴の探査では、まず有毒ガスがないかどうか検知したあと4日間内部を取材しました。カメラとは独立して内部の氷穴音を録音するため音は別個に録音しました。またここを表現する音楽にからむ音素材用にと持参した長さの違うバチで氷洵やつららをたたいてその響きをポストプロダクションで加工してME的に使いましたが、大変有効だったと思います。

Pre-mix/post production
帰国後のpre-mixは、映像編集がすべて出来上がった段階から開始しました。こうした目的のためのpre-mix roomがないので仮設で設備をくみ上げて仕込みとしました。前回のビクトリアの滝で使ったMKH-416サラウンド アレイの音に比べ前後のつながり感は大変自然でしたのでアンビエンス用のレイヤーは少なくてすみました。モニターレベルは83dBで行い、Final mix時は79dBでミキシングしました。Pre mixでは、基本的に音楽がなくても成立する現場サラウンドを構築しています。

ではデモで再生しながら具体例をお話します。

(再生)

沢口:どうもありがとうございました。皆さんからの質問をどうぞ。
Q:データのバックアップは?
A:canterに内臓のDVD-ライターがあるので一日取材が終わればその日のうちにDVDバックアップしました。

Q:寒さでケーブルなどはトラブルありませんでしたか?
A:CUW-180のハンガーにあるゴムが寒気で固まってはずれてしまいました。マイクケーブルはカナレの低温対策ケーブルを使いましたので問題ありませんでした。

Q:モニターはどうしたのですか?
A:ダウンミックス モニターが内臓されているので事前にこちらで聞き比べしながらもっとも自然なバランスとなるダウンミックス係数として使いました。

Q:予備機は?
A:TCD-D10を持参しましたが、登場願うことは幸いありませんでした。

Q:バッテリーは大丈夫でしたか?
A:使うときだけONで使いましたが立ち上がりが早いのでチャンスを逃がすといったこともなくバッテリーひとつで3日くらい持ちましたので安心でした。

Q:収録レートは?
A:48khz-24bitです。これで全記録容量は100Gでした。

Q:マイクの音の差はどうでしたか?CUW-180の開き角度は?
A:明確な音源を表現するにはCUW-180が良かったです。あとS/Nもいいので静かな録音にはこちらを使っています。開き角度はフロント リアとも120度でつながり重視としました。

Q:私は以前フロント90度、リア120度で録音しましたが前後のつながりという点ではいまひとつだった経験があります。
Q:あれがあればもっと良かったといった機材はありませんでしたか?
A:やはり録音機の軽量化ですね。特に今回のような山岳取材では。メモリーレコーダーでサラウンド録音できるような機材が欲しいですね。

Q:番組で使ったロケ音の割合は?
A:99%使いました。一つだけイメージに使いたい音があったので新規に録音して加工しましたが。

Q:LFEは今回どんなところで使いましたか?
A:水の流れや氷河の音 山鳴りなどであくまで味付け程度で使いました。前回のビクトリアの滝にくらべれば控えめです。(笑い)

どうもありがとうございました。メインのテーマはここで一段落して今回参加の北日本放送荒井さんと朝日映像 井上さんが近作を持ってきてくれましたのでデモしましょう。

荒井:北日本放送の荒井です。今日は富山から参加しました。KNB北日本放送で今年の4月に立山 標高2400mから中継を行いました。その時にサラウンド収録をしてみましたので、その様子とスタジオ制作もホロホンH2 PROをトークの収録に使ってみたのできいてください。立山の現場と中継車までは600mで、従来映像、音声で敷設するケーブルも多くかつ低温でだめになってしまうことが多かったのですが、今回はIKEGAMIの同軸多重装置を使い大変シンプルな敷設でした。クレーンカメラのよこにサラウンドマイクをアタッチメント自作で取り付けてみたものです。

(デモ)

井上:これは試作で、本格的にはCS ep05 CH で放送する予定の東京街角シリーズのサラウンドです。私は前からなにげない街角のサラウンドに大変興味があり今回企画提案したものです。デモは一日で築地から始まり下町、羽田 渋谷までを駆け足で収録したものです。カメラはDV-CAMですがサラウンドはCUW-180+CS-1の構成です。今後年間シリーズで制作予定です。

(デモ)

今回は、大阪から三村さん、富山から荒井さんそして今韓国からミキサーの仕事で滞在している魯さんと各地からの参加がありました。フィールドロケ、それも非常に条件の厳しい中での長期ロケの経験談でしたので、活発な質問で盛り上がり大変貴重な時間を共有できたと思います。(了)

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