By. Mick Sawaguchi
日時:2006年5月21日
場所:音響ハウス第3スタジオ
講師:石井久雄(オタリテック株式会社)
テーマ:サラウンド音楽スタジオでサラウンド音楽ソフトを聞きまくろう!
沢口:2006年5月の持ち出しサラウンド寺子屋を始めたいと思います。今回は、出来上がったばかりでピカピカの音響ハウス第3新サラウンド音楽スタジオでサラウンド音楽ソフトを聞きまくろう!という大変ぜいたくな企画です。スタジオを提供していただきました音響ハウス 田中さん、大変ありがとうございます。今日の講師役は、オタリテックの石井さんです。石井さんは業務で、GENELECのスピーカを担当していますが、実は大変なサラウンド音楽ファンであることが最近わかり、寺子屋ホームページの「塾生お薦めソフト」にもたくさんデータを提供してもらっています。その豊富なコレクションから今日はサラウンド音楽をたっぷり楽しんでください。
石井:オタリテック石井です。私は4年程前から国内外のサラウンド音楽ソフトを購入するようになり現在200タイトルくらいになりました。まだまだ一般のレコード店で気楽に購入できる状況にないのが残念でおもに通販で購入せざるを得ない状況です。今日はそのなかから年代順に最新作までを聴いて頂こうと20タイトルほど用意しました。
M-01Carpenters/ Singles 1969-1981 (2004年) 試聴曲:CALLING OCCUPANTS OF INTERPLANETARY CRAFT
このサラウンドMIXはアル シュミットが担当しています。(再生)
M-02Jeff Beck/ Blow By Blow (2001年) 試聴曲:DIAMOND DUST
次はジェフ ベックの作品です。これは70年代に4CH ステレオとして制作されたマスターを使用していますのでセンターチャンネルはありません。おもしろいのは、CDステレオ版は国内のみで海外では5.1CH版のみ発売というソフトです。(再生)
M-03Emerson Lake & Palmer /Brain Salad Surgery(恐怖の頭脳改革)(2000年) 試聴曲:TOCCA
たった3人というメンバーのELPですがサラウンド空間として大変多彩な音楽表現が出来上がっている点がすばらしいと思います。これを2CHステレオで聴くと彼らが意図した空間が十分再現できないと感じています。(再生)
M-04 Toto / TOTO IV (2002年) 試聴曲:I WON’T HOLD YOU BACK
彼らの作品でサラウンド版はこのTOTO4だけです。これも国内版はCDのみで海外では5.1CH版発売という組み合わせです。サラウンドMIXはエリオット シャイナーが手がけています。彼のHPにアクセスすると彼が今まで手がけたサラウンドタイトルがでてきますが約50タイトルほど担当しているまさにサラウンド音楽エンジニアと言えます。(再生)
M-05 Roxy Music/ Avalon(2003年) 試聴曲:THE SPACE BETWEEN
このMIX はボブ クリアマウンテンです。フロントとリアで波打つようなスペース感覚のMIXがおもしろいと思います。(再生)
M-06Miles Davis/ TUTU (2002年) 試聴曲:TUTU
このMIXは私の好きなビル シュニーです。彼のHi-Fiなサウンドを聴いてください。
M-07Shirley Horn (with Strings)/Here' To Life (2004年) 試聴曲:WHERE DO YOU START?
残念ながら2005年秋に他界したシャーリーホーンのJAZZですがストリングスに包まれるような心地よさと彼女のボーカルがとても気持ちいい作品です。MIXは、アル シュミットです。(再生)
M-08Yes /Magnification (2002年) 試聴曲:GIVE LOVE EARTH DAY
次はプログレロック界の巨頭バンドです。キーボードがいなくなった替わりにフルオーケストラと競演した作品です。ロックとクラシックオーケストラが違和感なく融合したアレンジがポイントだと思います。(再生)
M-09Pat Metheny Group/ Imaginary Day (2001年) 試聴曲:FOLLOW ME
これは少し古い録音ですが大変広大な音楽空間が構築されていることがサラウンドでよく認識できると思います。(再生)
M-10John McEuen & Jimmy Ibbotson/ Nitty Gritty Surround (2001年) 試聴曲:TOO LATE LOVE COMES TO ME
これは主にカントリー 音楽を制作しているアメリカのインディーレーベルが出したJAZZ系の作品です。一枚のディスクで片面DVD-A/片面DVD-Vというパッケージとなっています。(再生)
M-11Mark Knopfler/Shangri-La(2004年) 試聴曲:EVERYBODY PAYS
ダイアーストレーツのボーカリストのリーダーアルバムです。ロックらしさを出すために定位はセンター中心としてあとのチャンネルに響き成分を配置した構成がおもしろいと思います。(再生)
M-12Al Jarreau /All I Got (2002年) 試聴曲:LOST AND FOUND
MIXはアル シュミットです。彼はボーカル録音が大変いいので私のお気に入りでもあります。
M-13Aaron Neville/ Nature Boy (2003年) 試聴曲:THE VERY THOUGHT OF YOU(w/L.Ronstadt)
MIXはエリオット シャイナーです。
M-14B.B.King & Eric Clapton/ Riding With The King(2001年) 試聴曲:RIDING WITH THE KING
エリック クラプトンはサラウンドの制作が多いアーティストの一人です。これはデュエット作品ですが、2人の定位がハードセンターを挟んで両側に定位してあります。近作ではレイ チャールズの作品でも同様な定位が行われています。
M-15Al Di Meola/Flesh On Flesh (2002年) 試聴曲:FLESH ON FLESH
これはテラークレーベルの作品ですがMIXはマイケル ビーショップでDSD録音をそのままSadie DSD-8というDAWで編集マスタリングがなされています。リア側の空間表現が大変すばらしいと思います。(再生)
M-16Herbie Hancock / Gershwin’s World (2004年) 試聴曲:ST.LOUIS BLUES
これはCDが98年に販売され5.1CH版は2004年にでています。おもしろいのは録音がブルース スエディーンでサラウンドMIXはアル シュミットです。ブルースはサラウンドが嫌いなので分担したそうです。(再生)
M-17小野 リサ/Lisa' Ono Bossa Hula Nova (2004年) 試聴曲:MANOA
この制作チームは日本人です。
M-18角田健一ビッグバンド/Big Band Stage(2006年) 試聴曲:AIR MAIL SPECIAL
今年の最新作DVD-Aです。パッケージは2枚組でDVD-AとCDが独立してパッケージされていますが、最近多くなった形式です。ビッグバンドのように情報量の多い空間がサラウンドで大変良く表現されていると思います。MIXはミキサーズラボのベテラン内沼さんです。
M-19Donald Fagen/ MORPH THE CAT(2006年) 試聴曲:BRITE NITEGOWN
ドナルド フェイゲンもサラウンド制作が多いアーティストの一人です。彼の最新作もDVD-AとCDの2枚がワンセットになっています。MIXはエリオット シャイナーです。ドナルドはサラウンド制作経験が多いので作曲やアレンジの段階でサラウンド空間を前提にした作り方ができている一人です。(再生)
M-20 NTVブラボークラシックDVDより
NTV今村です。NTVのクラシック番組が初DVDになったので最新スタジオで是非再生してみたいと思いデモさせてもらいます。NTV ではBS-デジタル 地上デジタルで定時ブラボー クラシックというサラウンド放送を行っています。このソフトはサントリーホールでの収録で公演が大変すばらしかったのでDVD化し音はDTSエンコードしています。(再生)
石井:長時間どうもありがとうございました。これで終わりにします。(拍手)今回様々なソフトを再生して私自身も気づいたのですが、モニターレベルを揃えようとすれば最大で10dBもの差がありました。DVD-AやSA-CDのメリットは120dB以上のダイナミックレンジを活かすことができるメディアですので。従来の音圧競争に走るのではなく、レコーディングやミキシングした状態をそのままパッケージして欲しいと感じたしだいです。
沢口:石井さんどうもありがとうございました。残りの時間でせっかくの機会ですから第3スタジオと隣のマスタリングルームについて音響ハウス田中さんとスタジオ音響設計担当のソナ中原さんに解説をお願いします。
田中:音響ハウス 田中です。私がサラウンドに興味を持ったのは2003年11月に三鷹の沢口さん宅で行われたSONY PCL染谷さん講師のサラウンド寺子屋に参加してからです。この時はオノ セイゲンさんに紹介してもらい参加したのですが、以来音響ハウスでのビジネスにどうしたら結びつけられるか?を考え始めました。ちょうど2004年にここ7階の改修のためのプロジェクトが発足し次世代をめざした音楽スタジオとして高品質ハイエンド サラウンド対応のスタジオとマスタリングを打ち出したコンセプトで1年かけて2006年春に完成しました。特にモニター環境にこだわりましたので電気的な処理補正を行うことなくITU-Rのモニター環境を構築するためソナ中原さんとじっくり時間をかけて設計施工した結果大変納得のできるモニター環境に出来上がったと思います。マスタリングルームも従来2室だったところを1室にしてサラウンドマスタリング空間を十分確保しました。機器間の接続は、煩わしさは承知の上で単体同士の接続をはかりクロックも単体の音質の一部として扱っています。詳細はプロサウンド6月号をお読み下さい。
中原:ソナ中原です。音響設計のポイントとしては我々初めての音楽スタジオサラウンド対応ということで従来ポストプロダクション スタジオにおいて積極的に使用してきたモニタリングでの電気的な特性や時間補正、ベースマネージメントなどを行わず純粋音響設計でそれを実現するという点でした。そのため最終調整の許容度が得られる据え置き型でリスニングポイントから同心円状のスピーカ配置としています。もっとも留意したのはLFEの選択と時間補正でした。これには4種類ほど絞り込み音色とメインとの時間補正を検討しました。
従来と大きく異なる点は、マシンルームという考えがこの規模のコントロールルームでなくなってきた点です。
その分音響空間設計に使える点が我々としてはメリットでした。
第3スタジオ フロント
マスタリング ルーム フロント(物理配置によるLFE 時間補正!に注目)
[ 終わりに ]
3時間たっぷり、それもできたての次世代音楽スタジオサラウンドコントロールルームでの試聴をみなさん十分堪能されたようでした。今回は初参加のかたがほとんどということもありAFTER-5ではみなさんのサラウンドに対する思いや制作側と再生側の考え方などたくさんの情報交換もできました。サポートいただいた音響ハウスのスタッフのみなさんと田中さん、ならびに休日においでいただいた音響ハウス取締役貝原さんにもサラウンド寺子屋からお礼申し上げます。(了)
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