February 10, 2013

第80回 サラウンド寺子屋 Canon C-300によるデジタルシネマ「KEYNOTE」制作


By Mick 沢口 サラウンド寺子屋塾 主宰

テーマ:Canon C-300によるデジタルシネマ「KEYNOTE制作




講師:
阿尾 茂毅 キーノート 監督 音楽担当
染谷和孝 サウンドデザイナー 東海サウンド
山田 克之 サウンドエンジニア






期日:2012年10月20日               Wink2代々木スタジオ ステージ−01



沢口:今回のサラウンド寺子屋塾でちょうど80回の開催となりました。70回目は、今日も参加しています作曲の上畑さんが音楽サラウンドについて講演してくれたのですが、時の経つのは早いものです。



今日のテーマは、阿尾さんの初監督デジタルシネマ「KEY NOTE」のサラウンド制作についてサウンドを担当したみなさんから紹介していただきます。今日の開催場所もこの作品をMIXしました同じWink2代々木スタジオのステージ−01での上映という大変ぜいたくな寺子屋となりました。会場を提供していただきましたWink 2福田さん、そして本日のオペレーションをしてくれますスタッフ高久さんに感謝申し上げます。それでは、最初に監督の阿尾さんから制作までの経緯を紹介していただいてから本編を再生したいと思います。

阿尾:この制作のきっかけは、CanonC-300というカメラを使って何かやろうという福田さんの提案から始まりました。最初は、プロモーションビデオができればいいね、と話していたのですがC-300というカメラがデジタルシネマをターゲットに開発されたということでショートムービをやろうということになり、監督も決めて脚本を一緒に書いていました。借りるスケジュールが、変更になり予定の監督が参加できなくなって、1週間前に急遽私が監督もやることになりスタートしました。ストーリーは、若手作曲家の創作の苦悩と彼女とのラブストーリを絡めた内容で30分強です。







● 制作スケジュール

制作スケジュールは、4日間ロケ、その後のオフラインからオンライン映像編集で一ケ月、音のPRE-MIXで3日、FINAL MIXが2日間というスケジュールです。ロケーションは、熱海周辺で行いました。
音声は、サラウンドで制作ということで同録関係を山田君にサウンドデザインは、染谷さん、そして音楽は、私という旧知の仲間で行いました。それでは、上映します。その後で同録担当の山田、サウンドデザインの染谷さんから制作の紹介をしてもらいます。

再生:拍手

● 同録音声について
山田:今回の同録とFINAL MIXで台詞/音楽パートを担当した山田です。阿尾さんは、私の師匠になります。阿尾さんから、アフレコせず同録メインでやりたいという希望を受け、いつもはMKH-416を使うのですが今回SANKEN CS-2を使いました。MKH-416EQポイントが違うのでなれるまで少し時間かかりましたが、自然な台詞が仕上がったと思います。


定位は、基本ハードセンターで台詞に関連したアンビエンスをリア側に定位しています。阿尾さんは、音の立場でいつもは私に「監督が音のとれないような場所をロケにする時は、遠慮なく変更を提案しろ」と言われていましたが、今回は、川のそばでのロケとなりPRE-MIXでは、ノイズ除去のためのプラグインiZotopeを駆使しました。(笑い)

山場になるスタジオでの音楽録音シーンは、純粋な音楽トラックとは別にカメラ横からドキュメンタリー風な現場音声も収録して使い分けることにしました。

● サウンドデザイン.効果音制作について
染谷:東海サウンドの染谷です。初めての方もおられるので簡単に自己紹介します。私は、主にゲームや映画作品のサウンドデザイナー、そしてミキシングエンジニアとして仕事をしております。最近は、プラネタリュームやアニメーション作品の映画などに関わっています。


本作品では、監督である阿尾さんがメインのサウンドデザインもやっていますので、私はそれをサポートする立場で参加しました。私のアプローチとしては、作曲家が作曲で悩んでいくと、周囲が何も見なくなってしまう性格をきちんと表現すること、また彼女とのラブストーリーを派手なサラウンド音響を駆使するのではなく、日本的な同録中心のサウンドを自然に聴いて頂けるようなサウンドデザインを心掛けました。


● ワークフロー:
今回に限らずサウンド制作におけるポストプロダクションでのワークフローは、大きく4つのプロセスに分割されます。

具体的には録音 編集 PRE-MIX FINAL MIXと工程が進められます。国内では、このうち特に重要なPRE-MIXに重きを置かず、いきなりFINAL MIXに入るため、サラウンド環境
での適切なバランスや定位、リバーブの調整が出来ていません。
私はこの慣習を何とか改善したいと思い、機会がある毎にPRE-MIXの重要性をお話しています。
● PRE-MIXの目的
1 素材のチャンネル数を軽減しFINAL MIXでの負担を少なくする。そのため最終MIXを 
  イメージした定位や音質、レベルを設定する。
2 全てがちがちに固めないで修正の余地を残しておく
3 ダイナミックスは、十分確保する
4 演出意図を理解したミキシングデザインを行う


実際の手順としては、台詞パートを固めてそれに沿ってSE部分を構成していきます。
 REVについては高価なものでは無く、多くのスタジオでも広くに使用されているプラグインを使います。私の場合は、D-VERBRE-VIBEを基本にしています。D-VERBは、フロント/リア用に2セットRE-VIBは、サラウンド定位分(5.0ch)5セットを用意し、ダイアログ素材から導き出した各シーンのテンプレートを最初に作成します。あとはそこから素材によってパラメータを変更して、各素材にフィットするように微調整を行います。

台詞の持つ帯域をマスキングしないサウンドデザインを心掛けるために定位や周波数バランスを整理します。
では、今回のSE関係について紹介します。大きく8つのカテゴリーで構成しています。
1 アンビエンス 屋外  20トラック(ステレオ素材)
2 アンビエンス 室内  14トラック(ステレオ素材)
3 波関係          0トラック(ステレオ素材)
4 小道具関係      6トラック (モノ素材)
5 車通過音       13トラック(ステレオ素材)
6 Foley-01        7トラック(モノ素材)
7 Foley-02        7トラック(モノ素材)
8 ドア関係+LFE    11 トラック(ステレオ素材)
となります。モノーラル換算で計156トラックとなります。基本的に考えられる効果音は全て創ります。Final MIXでは、消去法で用意した効果音の中から不必要なものを削除していきます。




サラウンドでのアンビエンスは、ステレオ素材を使う場合が多いのでフロント用とリア用と役割分担をさせながら取り囲む感じをさりげなく構成します。この場合に必ずやっておくことは、ステレオでモニターして位相キャンセルによる音質変化が無いことをチェックしておきます。LFE成分を作る時は、必要な低域成分のある素材からDBX 120XPというサブハーモニックス発生器を通して低域を作ります。この時もチェック項目としては、オリジナル音と生成したLFE音でわずかな遅れがでますのでそれをタイミング補正しておくと言う点です。私の経験では、大体8-SFくらい遅れます。

● PRE-MIX時のチェックポイント
サウンドデザインを行う場合に様々な要因を考えながら素材を構成していくことがFinal MIXで成功するキーとなります。
1 音の役割を十分果たした素材が用意されたか?
2 必ずガイドで台詞トラックを聴きながら台詞をマスキングしていないかチェック
3 リア成分は、必ずステレオでモニターして位相キャンセルが無いことを確認
4 各PRE-MIXは、Final MIXで使うであろう適正レベルを予想してそのレベル付近でしっかりと表現意図が出るようにします。

これはPRE-MIXの際によくあるケースですが、受け取る効果音素材がすべてフルビットに近いようなレベル創られていることがありあます。もちろん適正レベルではありませんから、PRE-MIXでレベルを下げることになりますが、レベルを下げると音のテンションが変化します。当然聴こえ方も変化します。フルビットでは良く表現されていましたが、レベルを下げてしまうと表現されなくなってしまいます。要するに適正なレベルで効果音を創らないと、正確な表現意図が再生されない危険性が多くあります。

PRE-MIXで各素材のブラッシュアップを正確かつ、意図した通りに行えていれば、Final MIX作業の80%は成功したと言っても過言ではありません。ですから、再度強調しておきたいのは、Final MIXに進む前のPRE-MIXでしっかりとした準備を行うことです。

● PRE-MIXでのデータの作成方法は、以下に述べる2つの方法があります。
1 すべてをDAW内部で完結する方法私は.DATAPRE-MIXと呼んでいます。
2 もうひとつは、外部コンソールやエフェクターを使う方法私はコンソールPRE-MIXと呼んでいます。
それぞれにメリット、デメリットがあり、前者は変更や修正に迅速に対応できますが、音素材などが見づらくなってしまい、状況をすぐに把握できずに操作ミスを引き起こしやすい点です。サウンドデザインを行う場合は、この両方をコストやスケジュール、内容によって使い分けるスキルを持っていることが大切だと考えています。今回は、前者の方法を採用しました。

● サラウンドMIXのポイント
1、各素材をどこから再生するのか?定位のパズルに気を配る。
2、周波数配分を考慮して、各素材に含まれる音色が相殺していないか?
  周波数構成に注意をする。
3、最後はトータルバランスを考える。
の3点を上げておきたいと思います。


● FINAL MIX


FINAL MIXは、映画の場合、映画館再生を想定してMIXしますので音場も通常のポストプロダクションと異なり大規模、大空間 大音量となります。ですから基本的にDCP上映も含めて映画作品である以上、通常のMA室などでミックス作業を行う事は、ひとりのエンジニアとして非常に危険なことだと考えます。
さて今回は、台詞/音楽で一人、SEで一人という2マンMIXを行いました。台詞と音楽は、密接な関係があるので一人でバランスをとるのが良い結果を生むと考えているからです。DAWは、台詞/音楽関係で1台、SEは2つに分割して2式の計3台のプロツールズを使いました。ここから5.1CHFINAL MIXD-M-Eの各ステムMIXを完成させました。以上が今回の大まかなワークフローとなります。

沢口:では、阿尾さんから音楽パートの紹介をお願いします。

阿尾:では簡単に、音楽は、LFEを使わないでしっかり低域まで表現できるように作曲しました。ボーカルは、ハードセンター定位で、それ以外の楽器を全体にちらばしています。今回は、気心の知れた仲間でMIXをやりましたので音楽は、5CHMIXした完成形で作りました。そうでない場合は、最終でのバランス変更に対応するため極力楽器別のバラ素材でもっていきます。映像との関係でバランスを変えることは今回せず、あくまで純音楽としてのバランスを優先してMIXしています。他の機会があれば映像に同期した音楽バランスというMIXも是非やってみたいと思っています。



沢口:みなさんありがとうございました。最後にQ&Aにしたいと思います。

Q-01 SEDAWを2台にした理由は何ですか?
A:1台でも容量的には十分ですが、小さな素材音もあり画面が見えにくくなるため2画面としました。さらにSEの修正などを私と青木君でやりましたので別々のほうが操作もしやすかったためです。

Q-02 スタジオシーンでの演奏シーンに出てくるカットバックシーンでのアンビエンス感が大変すばらしかったのですが、どういった工夫をしたのですか?
A:当初音楽のMIX素材と現場で同録したスタジオ音を使い分けてやろうとしましたが、同じテンションが維持できなかったので、音楽MIX音だけでカットバックシーンは、そこから加工して作成しています。

Q-03 定位のパズルを解決するというコメントがありましたが、具体的にはどういったことをやるのですか?
A:様々なケースがあるので一概には言えませんが、基本は「何を一番聞いてもらいたいか?」を考えて各素材の定位を考え、お互いがマスキングしないようにすることです。例えば大爆発の効果音とヒソヒソ声の台詞が同時にあるといった場合に台詞のハードセンターは爆発効果音が入らないようにして、ファンタムセンター定位を使い、台詞の領域を確保することが重要なってきます。

Q-04 彼女が店内でいるシーンで雷を背景に使った意味は、なんですか?
A;約束を守らなかった彼氏への怒りを代弁するという意味もありましたが、それ以外にあのシーンが映像として間延びしているので音でタッチをつけるという意味もありました。映像を補完するという役割もサウンドの大切な役目の一つでもあります。

Q-05 同録に入っているアンビエンスをうまく馴染ませる方法は?
A;同録で入っているアンビエンスをよく聞いて、それに近い素材を用意することから始めます。ステレオ素材であれば、ハードセンターへ入れた時の位相干渉がないことをモニターでチェックして使って下さい。
撮影で、ゆとりがあればロケ現場のルームトーンを数分でいいので録音しておくとこうした場合に有効です。ただし、使っているシーンの時間帯も考えておかないと朝と夜では、同じ現場でも音のニュアンスが異なりますのでそこも注意してください。アンビエンスをサラウンドで使いたい場合は、ステレオ素材の前半、後半で分割して一方をフロントへ残りをリアへと振り分けて使うと馴染みの良いサラウンドアンビエンスができますので参考にしてください。

Q-06 同録が使えるか、アフレコするかの判断はどうやってすればいいのですか?
A;今様々なノイズ削減プラグインが出ています。まず同録をどれくらいきれいにできるかをトライしてみてください。全帯域にわたるホワイトノイズ系は難しいですが、特定帯域のノイズであればかなり押さえることができるようになりました。DAW内のプラグインだと使用できる長さに制限がありますので単体機器になっているタイプがお勧めです。

Q-07 今回のようにサウンドの分かる人が監督をやるとどういったメリットを感じましたか?
A;共通の言葉で会話できるので意思疎通は、大変楽でした。監督をやる時に、全体のサウンドイメージができているので撮影などでもスムースでした。しかし、やってみて思ったのは、監督になると視点が変わってサウンドだけで見ないようになるということも経験しました。ですから川のそばをロケ現場にしてしまった訳です(笑い)。
先ほど染谷君も強調していましたが、国内映画製作では、あまりPRE-MIXを重視していないことで生じるデメリットを今回のワークフローでPRE-MIX重視で行ってみて色々なデータもとれましたのでこれは今後有効にアピールする材料にしたいと思っています。

Q-08 撮影監督DPとはどういった関係で進行したのですか?
A;今回のカメラは、これも旧知のカメラマンで移動撮影や映像美感覚に優れた人でしたので絵コンテを渡して以降の現場でのアングルやショットはすべて彼にお願いしました。
今後C-300といったデジタルシネマ用のカメラをもっと追い込んで絵作りができるとすばらしい世界が手軽に出来る時代になると実感しています。

沢口;キーノートの制作に関わった皆さんから貴重なお話を紹介していただきました。また会場を提供していただきましたWink-2スタジオ 福田さん、スタッフのみなさんにも感謝申し上げます。



 

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