講師:
江夏 正晃 氏 (マリモレコーズ 代表)
江夏 由洋 氏 (マリモレコーズ 専務)
テーマ:小規模プロダクションでの4K映像・サラウンド制作について
日時:2013年2月3日 代々木WINK2 ステージ1
2013年2月に発売になる4KカメラSony F55を使った5.1サラウンドショートムービー「Seven Colors」の上映とそのサウンドデザインおよび映像制作のワークフローを解説します。映像制作とサウンドデザインが同じ会社出出来ることのメリットや、I型と呼ぶワンストップ制作を紹介します。なお本作品は、2012年InterBEE SONYシアターでも上映されました。
沢口:2013年2月のサラウンド寺子屋塾を始めたいとおもいます。今回は、多くの初参加のみなさんがお集りいただき、テーマへの関心の高さを感じます。
今回は、ご案内のように、4Kという最先端の映像制作、およびサラウンド制作についてお二人からデモを交えながら紹介していただきたいと思います。
会場は、前回の寺子屋と同じ代々木のWINK2 ステージ1を福田さんのご好意で提供していただきました、また再生機材のオペレーションを岡本さんにお手伝いいただきます、大変ありがとうございます。さらにサプライズ イベントとして今回使用しましたSONY 4KカメラF-55の実機を実際に体験していただけるようSONYのご好意で実機をステージ2のスタジオへ展示してありますので講演終了後に見学してください。
江夏さんご兄弟は、「marimoRECORDS」という自身の制作プロダクションで音楽制作からVP.CM、最近はU-STREAM LIVE配信など、幅広く活躍していますが、なによりも感度の高い最先端のテクノロジーを制作に導入していく姿がみなさんにも多いに参考になると思います。
江夏正晃:
みなさん、こんにちは。兄の江夏正晃です。最近は、映像は映像だけ、音声は音声だけといった独立作業よりもお互いが一体となった制作ビジネスが増えてきました。その対応で兄の私が主に音を担当し、弟の由洋が、映像制作を担当するというコンビでスタッフ7名という小規模の制作プロダクション「marimoRECORDS」を運営しています。
2009年に、我々は国内に先駆けて4K映像の動向に注目してきました。そしてアメリカのRED ONEという4K対応のカメラを扱うようになって、これからどんなワークフローが求められるかを考えながら4K制作に取り組んできました。今日のテーマであります小規模プロダクションでのSONY PMW F-55 4Kカメラを使用したワンストップ ワークフローを映像と音声から紹介したいと思います。
最初に、この4K作品「SEVEN COLORES」がなぜ我々のような小規模プロダクションにオーダーがきたかを紹介します。この話が進んだのは、2012年InterBEE開催のひと月前の打診ということでどこもやれなかった訳です!超短期間で納品、それもまだベータ機のF-55 4Kカメラで我々も十分扱うことになれていないなかでの制作となりました。
「SEVEN
COLORES」のコンセプトは、将来の進路に悩む女子高校生の心の葛藤を4K映像とサラウンド音響で描いた内容で、脚本は弟の由洋が書きました。
製作期間は、
撮影4日
編集2日
カラーグレーディング 1日
音楽制作2日
PRE-MIX1日
サラウンドFINAL
MIX1日
という過密なスケジュールです。もちろんこの前に台本制作やキャスト スタッフの用意が含まれます。当初は、音は2CHステレオでということで進行していましたが、急遽サラウンドでやっても良いということになりサラウンド制作が実現しました!
みなさんびっくりすると思いますが4K映像作品(10分内容)がこんな短期で制作できる時代になったのです。私は、こうした映像の進展にくらべ音響の進展は十分対応していないのではないかと感じています。
カメラで記録できるフォーマットは、現状48KHz-24bitで最大でも2−4CHの記録です。映像が高品質化しているのであれば、記録側も最低でも96KHz-24bitで最大8CH記録がアナログだけでなくデジタルのフォーマットで対応してほしいと思います。
( デモ 〜 拍手 )
江夏正晃:
4Kの映像には、2CHでなくサラウンド音響だと思っていましたので、そのための工夫をいろいろやりました。サラウンドは、大変だとか難しいという先入観をお持ちのみなさんもいるかもしれませんが、48KHz-16bit 2CH音響にこだわらずにおおいに挑戦してほしいと思います。
4Kコンテンツにふさわしい音は?
4K映像は、従来の2Kに比べてほんとに表現力が深いです。これに対応した音響表現は、サラウンドだと思います。高品質映像にふさわしい音響は高音質サラウンドです。特に映像撮影での音声収録機材については、まだまだ改良の余地があると思います。
撮影現場同録
撮影現場での同録は、まだ4KカメラF-55がアナログ2CH分しか対応していない状況でしたので、カメラ側は、カメラマイクの音をガイドとして記録するのにとどめて別にセミプロ機TASCAM DR-680マルチトラックレコーダにMKH-416ガンマイクと仕込みワイアレス2波の3CH 96KHz-24bit同録でした。ですから撮影現場では、サラウンド音声となる素材は、まったく録音できていません。
撮影終了後で、ポータブルの2CHレコーダで、必要となる素材を録音した程度です。特にコスモス畑のシーンは、宮崎で撮影したのですが、撮影中自衛隊のジェット機の飛行訓練があり、別のF-55に悩まされました(笑い)。
PRE-MIX
台詞のOKテークは、仕込みマイクをハードセンターに定位させ、ブームマイク+モノーラル リバーブをリアに定位させまこれで擬似的な空間を作っています。
Foley素材は、撮影現場で足音やアンビエンス素材を収録しこれを利用してサラウンド空間としています。
音楽制作
音楽は、私があらかじめ台本で指定された部分の長さをめどにMIDIで ピアノデーターをレコーディングし、VSTiのThe Grand3(ピアノ音源)を使っています。ピアノ音源は聞いただけでは本物のレコーディングとほとんどその差は無いようになりました。
それにVLとVOをオーバーダブしています。2日間での音楽制作ですが、基本のピアノデータはMIDIなので映像のタイミングや長さの変化にも兄弟でフットワーク良く対応できました。marimoRECORDSのMIXルームは、10畳ほどの小部屋でここに以下のようなシステムを設置しています。機材は、以下のような構成で制作しています。
DAW:Steinberg NUENDO5.5
Console: YAMAHA DM2000
Controller:StudioComm model 68&69
Loud Speaker: KS digital Coax8 (coaxial)+YAMAHA SW10 STUDIO
Plugins: WAVES R360 Surround Reverb,
L360º Surround Limiter
Steinberg REVERENCE
Console: YAMAHA DM2000
Controller:StudioComm model 68&69
Loud Speaker: KS digital Coax8 (coaxial)+YAMAHA SW10 STUDIO
Plugins: WAVES R360 Surround Reverb,
L360º Surround Limiter
Steinberg REVERENCE
4Kコンテンツ サラウンドが、こうした小規模プロダクションでもできる時代になったということとあまり規格にしばられずにサラウンド音響を制作してほしいというのが今回の感想です。(拍手)
それでは、次に4K映像制作について弟の由洋から紹介します。
江夏由洋:
映像を担当しています由洋です。私からは、ワンストップ型ワークフローで4K映像を制作する仕組みを紹介します。なにぶん映像中心の仕事しかしていませんので音響の方々にはなじみのない言葉が出てくると思いますが、ご容赦ください。
4Kへの取り組み
我々の4K映像への取り組みをはじめに紹介します。2008年9月にアメリカでRED ONE S-55というカメラが登場し翌年、我々もそれを使う機会がありました。
当時国内では、CANNON 5DMK-2が登場してデジタルシネマを手軽に制作できる土台ができつつありました。しかし国内では4K映像への取り組みは、あまり活発ではなくいつそうした対応機器が登場するのか我々も注目していました。そこへSONY F-55が出てきた訳です。そのスペックをみると十分吟味して実現したことが実感できます。
F-55 4K撮影のメリット:
映像コーディックは、X-AVCという圧縮で4Kデータを300Mbps 10bitカラーサンプリングは、 4-2-2 にてS-log2によりSxS PRO+のメモリーに記録します。このファイルを受け付ける編集ソフトがあれば、即取り込んで編集できるストレートなワークフローが可能です。(RED ONEカメラは、RAWファイル収録専用です。)
F-55でRAWファイル記録が必要な場合は、カメラ後部にRAWレコーダアダプターを装着すると2Gbpsでの記録ができます。
もうひとつ、すばらしいのは、センサー素子です。センサーの感度の高さは、基準ISO感度で表しますが、通常800くらいです。F-55は1250です。これは、肉眼では見えないような映像もノーライトで撮影できるほどです。さらにラチチュードもストップ数14ステップときめ細かく広ダイナミックレンジで高いS/N比の映像を得ることができます。
シャッター機構は、グローバルシャッターといわれ、後5年先くらいに実現できる技術といわれていたシャッター機構です。従来はローリング シャッター機構といい、これは、映像に特有の歪みを派生しますが、グローバル シャッターはそれがありません。
レンズは、単玉で¥30万クラスをワイド20mmから望遠135mmまでPLマウントで用意しています。これも従来は、高価なレンズをレンタルして使っていましたが我々がレンズを所有できる時代になりました。
今回の撮影では、このなかでも135mmが活躍しました。それは、ぼけ味と解像度のバランスの良い絞りをF-8で実現できたからです。引きじりの関係があるので室内では制約もありますが今回のような屋外撮影では、有効です。
大変小型なので機動性がいいことです。機内持ち込みにした場合もカメラバッグに3台納まりますので、我々は「これで12Kだね」といって持ち歩きしました。
撮影クルーは、総勢10名でカメラ関係は、実質5名です。多くのシーンは、DP一人と私だけでカメラをまわしました。特機関係は、ピコ ドリーやジブクレーン、手持ちと従来の機器が使えます。機材交換の「待ち」がないのがこうした短期間撮影では有効でした。
撮影後のワークフロー
ワークフローは、大きくいえば
●
I型ワークフロー
●
W型ワークフロー
●
Y型ワークフロー
と大別でき、それぞれメリット/デメリットがありますが、我々は、通常ストレートに完成までいけるI型で映像を、編集済み映像を音響制作へ送るためのY型を組み合わせています。
SxSメモリーにX-AVCフォーマットで記録した撮影データから ストレートにAdobe Premiere Pro CS6へNATIVEで取り込み、編集に入れます。
ここで編集が終わればAFTEREFFECT CS6にコピーしてグレーディングに入ります。今回は、グレーディングにBlackmagic Design DaVinci Resolveを使うという前提がありましたのでスーパーやクレジットをいれた後で一度変換行程が入ってOpenEXに書き出しています。
グレーディングが終わると音響のFinal mixをいれてマスターが完成します。これは、DPX連番データでの納品となります。
2013年は色をコントロールする時代に
今年は、4K映像が特別でない年になると思います。私はACTIVE
4Kといっています。今回の映像からも森のなかの枝や葉っぱのディテールが大変すばらしい諧調ででています。それもアベイラブル ライトのみです。デジタル シネマが定着し、色の表現をするカラーグレーディングのノウハウが重要になる年だと思います。
(デモ 〜 拍手)
沢口:江夏ご兄弟、どうもありがとうございました。では、Q&Aにしたいと思います。
Q-01:映像編集後の音声制作フローは?
A:まず映像でOKテークをつないでいきます。そこにはガイドになる同録音声が入っています。この音をきっかけにDR-680でマルチトラック録音した音3CH分をタイミング合わせして貼付けます。これをH.264のQTデータに変換してサーバーへアップします。
TCは、aftereffectsで発生させて焼き込んであります。これをサーバーからNUENDO5.5で呼び出すと、そのままタイムラインに張り付きます。
これに、残りのSE FOLEY
MUSICなどをPRE-MIXして、サーバーへアップしておけば、映像側ではそれをダウンロードして全体像をつかむといった仕組みです。
Q-02:山のシーンは、音楽が印象的でしたが、現場で音は録音したのですか?
A:絵コンテの段階で、同録が必要なシーンやここは、音楽だけで良いといった判断をしていますので、あの山のシーンは、音楽だけで表現する予定でしたので現場音は、とっていません。
A:タイムラインにHD映像が簡単に乗るシステムは、どんなものが良いかを検討しました。小規模プロダクションでは、機材にも投資できませんので、市販品映像モニターなどを有効に使えるシステム構築が必要だからです。
その結果、DAWはNUENDOで映像は、Premiere という組み合わせになりました。これですとHDMI OUTから市販映像モニターでモニターできます。
データのやり取りも簡単です。NUENDO6になるとタイムコードの処理も簡単になります。Premiere というソフトは、現在考えられるあらゆるコーディックに対応しているのが大きなメリットです。
Q-04:音楽の修正は?いつどうやったのですか?普段私が担当するMAなどでは、そんなことがあると頭を悩ましています。
A:映像編集の段階でFINAL MIXの途中でも映像のカットが変更になるような状況は、みなさんも経験していると思います。兄弟で映像/音声を制作している強みですが、編集の途中でも変更がでるとすぐに連絡できますので、それに合わせて音楽のMIDIデータを変更したりMIX ROOMで演奏し直して対応しました。これが、それぞれ独立した制作形態でしたら、変更に迅速に対応は、なかなか難しいと思います。
この後階下のステージ02スタジオ内にてF-55の実機展示を参加者で見学し小型で静音なF-55におおいに興味をそそられました。(録音側からの視点でいえば、これはGOOD)
今回もすばらしいダビングステージを会場に提供していただきましたWINK2福田さんそしてわざわざ実機展示をしていただきましたSONY 共信コミュニケーションズの水島/藤本さんにも感謝申し上げます。
WINK2代々木公園スタジオ
marimoRECORDS
[ 映像技術用語解説参考リンク ]
X-AVC:
NATIVE編集
DPXフォーマット
OPEN EXRフォーマット
aftereffect グレーディング
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