April 1, 2002

大きなイベントはHD-TVと5.1chサラウンドで 2002冬季オリンピック サラウンド NBC

By Jim Starzynski(NBC 音声統括エンジニア)02-APRIL 抄訳:Mick Sawaguchi 沢口真生

私は2002年冬季オリンピック ソルトレークシティでのHD-TV 5.1CHサラウンド音声制作を担当出来たことを光栄に思っています。これまでに私がNBCで手がけたサラウンド制作は、サタデーナイトLIVE等でしたがこれだけ大規模なイベントでサラウンド制作を担当できたことに興奮しています。
勿論実現のためには多くの優れた人材の集結とそれを世界へ放送しようとする熱意、加えてサラウンドでの楽しみが総合された結果でもありました。
エンジニアとしてまたこのPROJの責任者としてこのソルトレークで味わったような新技術と制作された結果のすばらしさがうまく融合した例は私自身あまり経験がありません。放送人に心からオメデトウといいたい気持ちです。
HD-TVによる生放送は家庭の視聴者と我々プロにかつて無いほどの興奮と迫力をもたらしました。これが簡便に実現するのであれば私はどのTV番組も映像はHD で、音声は5.1CHで制作したい気持ちでいっぱいです。

アメリカのD-TVは、1996年から公式には開始されました。この規格のなかには、マルチチャンネル サラウンドでの音声放送が含まれています。しかしどうしてHD-TVやサラウンド音声での制作が活発にならないのでしょうか?
アメリカの統計では、現在Dolby Digital対応の受信機は1200万台市場に出荷され5300万台のDVDプレーヤが普及しています。映画ソフトはこうした家庭向けのパッケージに熱心で5.1CHというロゴマークをセールスポイントにしています。

TV業界は映画チャンネルやスポーツチャンネル、ネットワーク局 衛星局そしてCATVと複雑な混成構造で成り立っています。流れる信号はNTSC-アナログが主流でHD-TV+5.1CHはこの基盤にさらに追加をしていく技術として放送経営にとっては2重化投資をためらう傾向が見られます。5.1CHの音声を扱うとなると既存の音声設備では対応不可能で、加えて経営者やビデオエンジニアの勉強不足から設備の整合性がとれていないという現実もあります。

ではどうすればいいのでしょうか?
我々プロは最小限のコストで最大の効果が発揮できる解決策を見いだして行かねばなりません。特にD-TVの立ち上げ初期にあたる現在ではこの視点が大切です。デジタル放送送信技術者にたいする教育と啓蒙が最優先課題でしょう。

圧縮されたデジタル音声はどう扱うのがトラブルの防止になるのか?
ビットレートとは?5.1CHトラック配置は?レイテンシーや同期は?
リップシンクがずれていた場合にどこを調整すれば解決するのか?
台詞ノーマリゼーションの仕組みは?デジタル基準信号とは?・・・

勉強しなければならないことがたくさん目の前にあります。プロならばこれらを理解する努力を怠ってはなりません。
音声の場合はどうでしょうか?ステレオ音声からマトリックスサラウンドを経験したエンジニアはD-TVにスムースに取り組むことができます。ここで得たエンコーディングや5チャンネルでのモニタリングといったノウハウが5.1CH D-TVに反映されるからです。マネージャーの立場にある人は、スタッフがこうした新しい技術や機器を習得するための円滑なサポート体制を確立しなくてはなりません。新しい送信機に灯がいれられてもすぐに順調な運用が行えるとは限りません。これは特に音声信号の扱いの部分でおきやすいでしょう。
しばらくは性急さを求めず息永くサポートしなければなりません。
キー局と映画産業は優れたソフトを考え、業界は協力して機器の普及と価格の低廉化を進めなくてはなりません。放送とイベント関係者も協力してマルチユース可能な機会を提供することで5.1CHサラウンド音声制作が容易になりこれにより視聴者がさらに5.1CHサラウンドの魅力に触れる機会が増えCMもデジタルへの移行を加速します。まさに鶏か卵か?を具体的に進めることになります。願わくば本稿をお読みになって何らかのヒントが得られれば皆さんの手近な所から映像はHDで、音声は5.1CHサラウンドで制作されることを願っています。(了)

「サラウンド制作情報」 Index
「サラウンド入門」は実践的な解説書です

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