はじめに
2010年アカデミー賞ノミネートアニメーション作品「Toy Story3」を候補にして分析を行いましたが、全編音楽中心で構成されており、D-M-Eのデザイン要素が少ないため、2012年20世紀FOXアニメーションICE AGEシリーズの4作目Continental Driftのサウンドメイキングを取り上げます。また1930年代の創成期から現在までのアニメーション・サウンドの貴重な歴史についても参考になる資料がありましたのであわせて紹介します。
1 スタッフ
監督:Steve Martino/Mike Thumeier
Mix: Randy Thom/ Lora Hirschberg (Skywalker Sound)
Sound Supervisor: Randy Thom/Michal Silvers
Sound Design: Randy Thom
Foley Artist: Jana Vance/Dennie Thorpe
Dialogue/ADR Mix: Cameron Davis/Bill Higlev/Charleen R.Steevs
Music: John Powell
Music Rec/Mix: Shawn Murphy at The Newman Scoring Stage 20C-FOX/5CATs Studio
2 ストーリと主要登場人物
ICE AGEは、本作で4作目となる人気アニメーションで制作は、Blue-Sky Studioです。毎回狂言まわし役で登場するドングリ大好きのリス「スクラット」が騒動をおこしてストーリが展開していきます。今回は、スクラッドが、氷河期のとある山の上でドングリを氷へ差し込んだことで山が割け地球のマントルまで落下し、マントル内でドングリを追いかけるうちに地球の地殻が壊れて5大陸ができるというイントロから物語が始まります。
ある氷河期の大陸に住んでいる平和な動物達、中でもマンモスの家族マニーと妻のエリーには、最愛の娘ピーチがいます。その周りには、群れを外れたトラのディエゴ、おとぼけなまけものシド ピーチの友達モグラのルイス等が暮らしています。そこへシドの家族が、年老いたグラウニーおばあさんをやっかい払いに預けにきます。グラウニーおばあちゃんは、周囲の冷たい視線にもめげずに元気者で、物語の最後では、みんなを救うことになるクジラのプレシャスというペットを海に飼っています。
平和な大地も大陸変動の影響で、氷河が崩落、大地が崩壊し始めます。
一方海に流された3人。実際は、グラウニーおばあさんも木の穴で寝ていてそのまま一緒になり4人が陸地への帰還を試みます。
しかしその海には海賊キャプテン・ガット様が君臨。4人は海賊の捕虜となりますが、無事脱出。怒り心頭の海賊は、リベンジとばかり陸のマンモス親子を捕虜にしてリベンジ決戦となります。海賊有利、あわや全員降参か!という時にクジラのプレシャスが救援にきて無事全員、新天地で平和な暮らしを取り戻します。
平和と家族愛が、テーマ曲「We are family」に象徴されています。
3 作品の構成 起承転結とは?
アニメーション作品では、長編となる88分です。
● オープニング 2’03”
狂言回し役のドングリ大好きリス「スクラット」が山頂の氷河の中でドングリを食べようと氷河へ突き刺します。突然ひびが入り、大地の裂け目から地球の核へ落下、それでもなお、ドングリを捕まえようと格闘するうちにマントルに激突、その衝撃で地上の大陸は、現在の5大陸へと分裂します。そのひとつマンモス親子や愉快な動物達の暮らす大地にも異変がおきてしまいます。
● 起 22‘31“
マンモスの夫婦マニーとエリーを中心としてトラのディエゴ、おとぼけ者シド、その家族が預けていったやっかいなおばあさんグラウニー、マンモスの年頃の娘ピーチと彼女が憧れるイケメンマンモス イーサン、モグラの友人ルイスといった主要登場人物がここで紹介されます。
不吉な天変地異が起こる予感の後、地殻変動のため氷河が崩壊しその一片に乗ったマンモスのパパ マニーとディエゴ、シドが大地から海へと流されてしまいます。残された動物達は、安全な土地を求めて南の橋に大移動していきます。
ここからは、海へ流された3人の行動と、南へ避難していく動物達という2つのストーリが交互に登場する展開となります。海に投げ出された3人は、必死で大地へ戻ろうとしますが、彼らの行く手では、大嵐や大竜巻に遭遇、ハラハラどきどきのストーリ展開でリスナーを引きつけていきます。無事嵐を乗り越えた3人が一安心しているとなにやら不気味な音が氷山の木の穴から聞こえてきます。なんとあの厄介者のグラウニーおばあさんがいたのです。こうして海に流された仲間は4人となりました。
● 承 53‘55“
ドラマの展開を区切るシーンで必ず狂言回しのリス スクラットとドングリの展開が登場する構成です。承の冒頭もスクラットが登場し、氷山に乗って島へ到着、しかしそこには、白骨になったリスがいるだけです。海の底を見ると、なんとドングリが見えます。深海までもぐってドングリを見つけると中身は、ありません!しかしそこには、ドングリ王国「スクラットランティス」へたどり着く地図が書いてありました。
承の主役は、海賊キャプテン ガット一味の登場と海に流された4人の攻防です。
● 転 61‘35“
転のきっかけ部分にも同様にリスのスクラットが登場し、ここでは、木の葉に乗って島を脱出しようという短いカットが入ります。転の山場は、海に現れたセイレーンによる幻想シーンです。幻覚をおこしながら4人を海に沈めようとします。
● 結 77‘00“
この転換点でもリスのスクラットが登場。木の葉で海に飛んだ後、やはりセイレーンの幻覚に遭遇します。
一方南へ移動した動物達は、新天地へ行くための橋が崩落していることを見て失望してしまいます。そこへ海賊一味が乗り込み、マンモスの親子を人質にリベンジの戦いが開始。4人は、勝ち目のない戦いを強いられこれでもう最後かと覚悟したとき、厄介者だったグラウニーおばあさんのペット「プレシャス」が登場します。なんとおばあさんのペットというのは、巨大なクジラだったのです。クジラの活躍で海賊を撃退した4人が、新大陸を目指して動物たちと移動していきます。新天地での動物たちの平和な暮らしが戻ったのです。ここで家族愛というテーマが明確に表現されています。
エンドロールへいく最後のオチに、再びリスのスクラットが登場します。ドングリの地図をたよりにリスの楽園「スクラット・ランティス」を見つけたのです。そこには、食べきれないほどのドングリがありました。興奮したスクラットは、手当たり次第にドングリに手を出します、そして最後に手を出したのは、抜いては行けない「スクラット・ランティス」の止水栓でした。海へ沈没崩壊した「スクラット・ランティス」から再び地球の一角へ現れたスクラット。そこはなんと死の砂漠「デスバレー」でした。
● エンドロール 79‘00”
デスバレーの熱波で日干しになるスクラットのアップでストーリは終わり、家族愛「We are family」のテーマ曲に乗ってエンドロールが流れます。
では、それぞれのシーン毎に具体的なサウンドデザインをみてみましょう。本作は、アニメーションということもありスコアリング音楽の果たす役目が、重要なので特徴的な音楽部分に注目して、紹介します。
3−1 プレオープニング
Blue sky Studioのロゴとともに音楽が始まります。これはロゴを包むだけで27“と短いバンパーの役目をしています。
リスのスクラットがドングリを氷へ突き刺して山が半分に割け地球のマントルへ落下するシーンでは、効果音と音楽の役割分担の好例がありますので、そこを紹介します。まず山が割ける部分は、大胆なSEでドーンと山が割けると、低レベルのシンバル・クラッシュがはじまり、続いてティンパニそしてオーケストラへと編成が拡大していきます。効果音と音楽の棲み分けが効果的なデザイン例だと思います。落下の音楽に加えてスクラットの叫び声や壁を押さえるSEが全面でリバーブにより響きを付加しています。マントル内でドングリを追跡する度に地殻変動をおこしその衝撃SE と分裂する5大陸の風土に合わせた音楽がメインで流れています。最後にはスクラットが宇宙へはじき出され、そして再び氷塊の上へ着地し、タイトルが登場します。
ここでの音楽と着地の効果音の役割分担が、明快です。それは、氷塊へ着地する直前までは、軽快な音楽だけで進行していますが着地の直前で音楽は、カットアウト、そして着地音はSE のみという棲み分けが行われている点です。一般的にこうした場合、音楽も最後の着地までを表し、そのタイミングへシンバルやティンパニといった楽器をフィーチャーした楽曲となり、一方のSEでもそこへ着地音を用意して、Final MIXの段階で「ぶつかる」といったことが起きがちになります。本作では、他のシーンでもこうした役割分担が事前に検討されていることが良くわかります。
タイトルロゴになると音楽の背景で「大陸大移動」を表す大地の割けるSEが、360度のフライオーバー、サラウンドで展開します。
3−2 起
これから起きる天変地異を予告する地響きや遠雷が不気味に響きます。主要登場人物の紹介と動きに合わせた音楽が主役で、アニメーションでは、よく使われるアクションにリンクして楽曲が展開していく「ミッキーマウス」と呼ぶ手法が使われています。
起の山場は、10‘10“に及ぶセグエ手法のアクション・スコアリングです。まずマンモスの家族の年頃の娘ピーチがイケメンマンモス イーサンに恋い心を持ち彼らの仲間が窪地でダンスをしているシーンへの展開は、遠くで聞こえるダンス音楽がリアLSから点音源で聞こえ、次にダンスシーンになると、これまでのオーケストラ編成から軽快なディスコ風のBGMになります。キック音には、大胆にLFEが使われテンポ感を強調しています。
山の上からシカがジャンプしてダンスに参加しようとするシーンでは、台詞がリアからフロントへフライオーバーし着地します。実写映像では、セリフは、殆どセンター定位であるのと異なりイーサングループの会話は、登場人物の定位に合わせ、細かく動きをつけています。
それを見つけた父のマニーが娘をとがめていると、突然大地が崩壊するアタック音がリアで始まり、大地の氷が割けていくSEがフロントL-C-Rと続きます。この後一瞬、間があってリアから単発でコロンと氷のかけらが転がります。レンジ感を出した良いデザイン例だといえます。次にオーケストラのストリングスが静かにフェードしはじめると大音響で大地の崩壊がはじまり、LFEを活用したSEと音楽が全面で山場を作っています。
マニーとディエゴ、シドの乗った氷塊が沖へ流されます。海のシーンでは、波音が大変控えめのアンビエンスとなっていますが、これは、その後次々とスコアリング音楽が登場するためだと思います。遠くで嵐雲が見え始めると、リアから突風がアクセントをつけ、フロントで遠雷と風が鳴り、これをきっかけにスペクタクル音楽が始まります。アクションやシークエンスのけじめにブラスセクションが登場しながら次々と音楽が展開します。渦のなかを進む3人の乗った氷と波は、大胆なLFEアタックを伴って突き進みますが、ついに竜巻に飲み込まれると3人の叫びは、360度サラウンドで回転し、天空へ放り出されます。ここでこれまでの大スペクタクル音楽は、一転して優しいコーラスに変わり、すぐに落下のカットとなると落下のSEと短いバンパー音楽でシーンを区切っています。
ここも落下直前まではコーラスとティンパニ音楽で、落下瞬間は大胆なLFEを使ったSEという棲み分けがなされています。展開の区切りを明確にサウンドで表現したデザイン例といえます。
シーンが変わって大陸側の動物大移動になると、それまでの大きなダイナミックスにコントラストをつけるように、移動のワイドショットにL-Rで移動のアンビエンス、Cに動物のざわめきが大変小さなレベルで表現されています。2つのシーンのメリハリをダイナミックレンジのコントラストで表した例といえます。大スペクタクルシーンで過激なレンジを使った後は、こうした耳をリセットする低レベルのサウンドというデザインが多く見られます。その小さいレベルを突き破るように突然マンモスの娘ピーチの目の前を大地滑りが海まで発生しますが、ここは、全面サラウンドでダイナミックスを十分使うことで再びレンジ感を強調しています。
3−3 承
スクラットが黄金の地図をたよりに海中を歩行していると釣り針にかかり海賊船の帆先へ張り付きます。ここでも10‘44“に及ぶスコアリング音楽が展開します。スクラットが、後にドングリ王国を見つけるという伏線としてベートーベンの第九から歓喜の歌のフレーズがライトモチーフとして登場してきます。まずは、リスのスクラットがドングリの殻の内側へ書かれた黄金の島スクラット・ランティスの地図を見つける喜びから使われます。地図を見ながら海中を歩いていると突然釣り針にかかります。ここで音楽は、カッッとアウトしこの後海賊船の舳先へ張り付くまではSEが担当します。ここでもスクラットが舳先にベタンと張り付くと一瞬、間をおいて一緒に引き上がられたガラクタが落下する音がリアに定位します。氷のかけらの表現と同様のデザイン例です。次に再び音楽へ役目を渡し、映像がズームアウトしてここが何か?を示すと海賊船のきしみが加わり海賊キャプテン・ガッドの登場を表しています。海を偵察していた海賊キャプテン・ガッドの手下のトリが4人を見つけ一声鳴くタイミングで音楽は、不気味な予感を表す曲調に変化、4人のえさを見つけたと報告する船上ではリアから不気味なきしみが鳴っています。4人を捉える海賊の声は、リバーブ処理でサラウンドに定位し霧のなかでの海賊船というムードを表しています。単音でLFEを大胆に使ったのは、骨製のアンカーが海賊船から4人の乗った氷塊へ投げ込まれるSEに使用しています。
いよいよ攻撃となると、逆にリアからキャプテンの声が「かかれ!」と極端なONで定位しています。この表現は、本作で唯一ここだけです。そして捕虜になる4人の船上では、リアできしみが定位し、 キャプテン・ガッドを紹介するテーマ音楽がバンド編成で軽快に進行します。ボーカルは、海賊の手下のいる配置に合わせて定位が変化しています。4人の反撃では、刀や飛び道具が大胆にフライオーバーで表され、崩壊沈没までを音楽でテンポ良く包んでいき沈没後の海上波音は、このシーンで全面サラウンドを強調した波音になっています。11’18”のセグエを利用したもうひとつは、4人が海賊へリベンジし大陸へ戻る戦闘シーンで、タイミング良くアレンジが変化したスコアリングです。
3−4 転
比較的短い転です。これまでと違って海の妖精セイレーンに化けた怪物がみんなを幻想によりおびき寄せ海に沈めて餌食にしようとします。セイレーンの声には、サラウンドリバーブが付加されています。この幻想シーンを7‘00“の音楽で包んでいます。
3−5 結
ここでも14‘19“に及ぶスコアリング音楽が活躍します。
まずリスのスクラットがシーンの区切り役として登場しますが、ここでも歓喜の歌のライトモチーフが使われセイレーンがスクラットを幻覚に誘います。
無事船を奪還した4人がみんなの待つ大陸へ到着します。無事再会かと思うと海賊 キャプテン・ガッッドが娘ピーチと母エリーを人質にリベンジの戦いとなります。救出へ登場したのは、モグラのルイス。彼が投げたナイフで海賊を取り囲む氷が割れるシーンでは、氷の割ける音が360度のフライオーバーで表されます。部下のトラ・シーラを叱咤するキャプテン・ガッドの着地音にも大胆なレベルのLFEが使われています。
キャプテン・ガッッドとマンモス・マーニーの戦いのシーンでガッッドの刀がスローモーションでフロントからリアへ流れるカットで、音楽は無くなり、刀の空を切るSEのみが大胆な低域を伴ってフロントからリアへフライオーバー、その後再び音楽が復活という構成です。
4人の形成不利となったところでグラウニーおばあさんのペット クジラのプレシャスが登場し活躍します。ここもクジラの大きさを大胆なLFEを伴ったSEで強調。マンモスの娘ピーチもキャプテン ガッドを粉砕しますがここもフライオーバーでロープをジャンプしていく動きを表現しています。一件落着し、無事動物達を新大陸へとプレシャスが運びここでの新しい生活が始まります。
3−6 エピローグ
リスのスクラットが再び登場。これまで伏線としてライトモチーフにしていた歓喜の歌が全面で使われ、スクラットのドングリ王国「スクラット・ランティス」発見と興奮を表現しています。しかし、興奮のあまり島の生命線である止水栓を抜いてしまい、王国は、水没、スクラットは、地球へ飲み込まれます。再び顔を出したところは?なんと灼熱のデスバレー。デスバレーのひび割れが全面サラウンドで展開します。エンドテーマ曲We are Familyが約2‘00流れ、エンドロールとなります。We are Familyというリフは、リアにも定位しリピートの効果を出したMIXに仕上がっています。
4デザイン上の特徴
● アニメーション作品では、一般的にシンプルなサウンドデザインが好まれるようで本作も単発のカッットエフェクトやサラウンドで動きをつけたフライオーバーの音移動が多くみられますが、重厚な音響空間は、構築していません。特にアンビエンスは、極端に控えめで、再生音レベルをかなり大きくしないと気づかないレベルとなっています。
● 台詞の定位は、画面定位に忠実でL-C-Rでの明確な定位に加えてL-C C-R間といった中間ファンタム定位を使用し人物の移動にも丁寧に定位の動きを付けています。台詞の加工でいえば、木の穴のなかの声、洞窟内 水中 ロングショットといった部分で響きを付加する程度です。基本は、ドライな台詞をしっかり聞かせるという方法でこれは、対象が成人にも子供達にも分かり易いという観点にあるからだと思います。
● LFEは、パンチや着地、噴火、地滑り、爆発といった素材で使われ、海賊キャプテン ガッドが手下のトラ シーラに警告をするシーンでは、彼の足音に大胆なLFEを付加し、その怖さを強調しています。スコアリング音楽全体も、控えめですが、LFEをわずかに使っています。● 高域素材としては、刀のこすれ、低域は地鳴りや渦巻き、地滑りといったLFE成分になります。
5音楽
音楽の占める割合は、実写作品より多くエンドクレジットロールの音楽を除いて79%、これも入れると88%になります。アニメ作品での音楽の役割がいかに多いかお分かりになると思います。
作曲を担当したJohn Powellは、1963年生まれのイギリス人でこれまでのメジャー作品は、「シュレック」「ハッピーフィート」「リオ」等とクレジットされています。
ユニークなのは、音楽録音を20世紀FOXのスコアリングステージでShawn Murphyが行っていますが、MIX-DOWNは、ロスにある彼のスタジオ5 CAT STUDIOで行っています。
Home Studioとしては、規模の大きなStudioでメインルームでは、約30名までのストリングスも録音できるそうで天井には、そのためのDecca Treeもセットアップされています。
最近、MIX DOWNは、こうした作曲者のHOME STUDIOやスコアリングミキサーのHOME STUDIOといたところで行う例もみられますが、制作コストの影響でしょうか。それともじっくり好きに仕事ができるという観点からでしょうか。
本作のスコアリングのバランスは、とてもオーソドックスで最近のハリウッド映画で聞かれるような極端なダイナミックレンジの使い方をしていません。これは、Randy Thomがアニメーションでの台詞を重視したのか、観客の対象が成人ではないという点を考慮した結果ではなかと思います。
サラウンドの使い方も一部特定の楽器がリア定位という楽曲が数曲見られた程度でオーソドックスでした。
通常のオーケストラ編成の音楽以外で使われたのは、
● 冒頭の大陸分割でそれぞれの風土を表すワールドミュージック。
● 地球のマントルとはなにか?を紹介するジングル
●イケメンマンモス イーサンの仲間が踊っているシーンでのディスコ風バン
ド編成。ここでは、ディスコにふさわしくキックドラムには、大胆なLFEが付いています。
● キャプテン ガッッドのテーマ。軽快なアコーディオン等を使ったバンド編成
● 本作のテーマ音楽We are Familyです。
6効果音 Foley
Foleyは、クレジットからSkywalker SoundのFoley Stageで行われたと思います。Foley Artistは、Jana VanceとDennie ThorpeとクレジットされFoleyは、大変丁寧で細かい音までカバーされています。効果音と音楽の棲み分けがしっかり検討されていますが、音楽の使用比率が高いので効果音のデザインをフィーチャーした見せ場は多くは、ありません。
効果音のデザインで力をいれたと見られるシーンは、
● 起のラストにある氷塊に乗った3人 マンモスのマニーとトラのディエゴ、なまけものシドが嵐の中へ巻き込まれ、渦巻に巻き込まれ、そして竜巻となり、天界へと押し上げられて浮揚しているシーン。3人の叫び声は、大胆に360度回転させています。
● 転での海賊キャプテン・ガッドとの戦闘シーン。
● 結の部分でのキャプテン・ガッドのリベンジと戦う4人というところで登場したクジラのプレシャスによる大反撃シーンです。ここでは、アクションのキューに同期した様々な音楽に絡まってタイミングよくカッットエフェクトとして単発のSEが刀、ロープ 着地 などアクション系SEが活躍します。
おわりに
今回は、アニメーションのサウンドデザイン例を紹介しました。アニメーションでは、ディズニーアニメに見られるような音楽主体のデザインが主流ですが、2004年のアカデミー受賞作「The Polar Express」に始まるRandy Thomや「WALLE-E」のBen Burtといった実写のサウンド.デザインを経験している人たちのアニメーションデザイン表現は、参考になると思います。それは全面音楽表現というだけでなく、必要なところは音楽以外の要素も活用し、その役割分担をしっかりわきまえたサウンドデザインにあるのではないかと思います。
参考資料編 BOOM BOX POSTというスタジオのオーナーであるKATE FINAN氏が執筆したアニメーションにおけるサウンド・デザインの歩みという資料がとても参考になりますので
抄訳して紹介します。
アニメーション・サウンド制作の歴史
BY KATE FINAN, CO-OWNER OF BOOM BOX POST
SOUND ON PICTURE
1928年、ジャズシンガーが最初の「トーキー」でした。アニメーションスタジオは、画像上の音を同期させる可能性をすぐに受け入れました。その同じ年、ウォルトディズニースタジオは、同期されたサウンドトラックでアニメーションを世界に紹介する蒸気船ウィリーを制作しました。 「ミッキーマウス」という用語は、すぐに、綿密に振り付けられた画面上のアクションとサウンドの同義語になるようになりました。
https://www.youtube.com/watch?v=BBgghnQF6E4&feature=emb_logo
THE WARNER BROS& DISNEY APPROACHES
1920年代と1930年代には、録音機器は非常に大きくて重いため、スタジオの外に持ち出すことはできませんでした。フィールドで効果音を録音することができなかったため、スタジオはアニメーションのサウンドを作成するための新しいアプローチを発明することを余儀なくされ以下のような2つの異なるアプローチが開発されました。
1つのアプローチでは、音楽録音セッション中にミュージシャンが効果音をシミュレートしました。これらは主にティンパニ、シンバル、ウッドブロックなどの打楽器で演奏されました。トーキ」以前は、ピットドラマーと呼ばれる打楽器奏者が映画館で打楽器の効果音を扱うために映画館に雇われていました。アニメーション映画にシンクロナイズドサウンドが含まれるようになると、スタジオは同じミュージシャンを雇ってスタジオ内で録音しました。ピットドラマーは、スライドホイッスル、口琴、電球の角、ブレーキドラムなど、彼らが一般的に使用するさまざまなアイテムを持ってきました。
2番目のアプローチは、スタジオで外界の音を再現できる複雑な効果音マシンを作成しました。
WARNER BROS ANIMATION: CARL STALLING & TREGOWETH BROWN
1930年、ワーナーブラザーススタジオは、作曲家のカールスターリングとサウンドエディターのトレゴウェスブラウンを雇いました。
カール・スターリングは、つま先立ちのキャラクターのためのピッツィカート・バイオリンや象の発声のためのトランペット・グリッサンドなどを採用することで、おどけたオーケストラ効果音のパイオニアとしてワーナー・ブラザースのアイコンとなりました。
一方、トレゴウェスブラウンは、ワーナーブラザースの実写映画セットのレコーディングの豊富なライブラリをアニメーションで使用する実験を開始しました。彼は、アニメのキャラクターが突然停止するときに車のスキッド音や、画面からズームアウトするキャラクターに飛んでいる複葉機の音を使用しワーナーブラザーズ・アニメーションの特徴を形成しました。
さらに、録音機器がよりコンパクトになるにつれて、ブラウンはテープレコーダーをスタジオからフィールドに持ち出し、現実の世界でサウンドを録音しこれらのサウンドを彼らのサウンドエフェクト・ライブラリに保存しました。
この編集方法はアニメーションにとってまったく新しいものでしたが、すぐにプロセスの重要な部分になりました。
Crash! Bang! Boom! The Wild Sounds of Treg Brown Part 1. Click play to watch.
https://www.youtube.com/watch?v=Xqaeds-wO4A&feature=emb_logo
Crash! Bang! Boom! The Wild Sounds of Treg Brown Part 2. Click play to watch.
https://www.youtube.com/watch?v=x6IeTsHfcvU&feature=emb_logo
WALT DISNEY STUDIOS: JIMMY MACDONALD
https://www.youtube.com/watch?v=PtY-eYXrYTs
Hollywood Lost and Found
http://hollywoodlostandfound.net/tributes/macdonald/
https://soundworkscollection.com/post/imagineering
Tributes
ジム・マクドナルドの作り出した効果音を作品を聞いたことがない人を見つけるのは難しいでしょう。ディズニーの短編アニメーション、長編映画、またはディズニーパークなど、50年以上にわたって、ジミーはスタジオの特徴を効果音で作成しました。
ジェームズマクドナルドは、1906年5月19日にスコットランドのダンディーで生まれ彼が、生後1か月のときに米国に来ました。フィラデルフィアで育った彼は、1927年にカリフォルニアに移る前に、工学の学位を取得しました。
ロサンゼルスでのエンジニアとしての仕事は、マンホールから落ちて怪我をしたことにより中断しその後、彼はミュージシャンとしての仕事を追求することを決心しました。 1934年にDollar.Steamship Linesのバンドでドラムとパーカッションを演奏している間、彼はミッキーマウスの漫画の音楽を録音するためにディズニースタジオに呼ばれました。彼の非の打ちどころのないタイミングと才能は、スタジオのサウンド部門を形成するための恒久的な地位を獲得しました。
彼の音楽トレーニングは、効果音「楽譜」を作成する方法を開拓するのに役立ちました。つまり、各音とその持続時間を表す音符を音楽スタッフに書きます。次に、ミュージカルの演奏者と同じようにビートを数えながら、これらの効果音を演奏します。多くの場合、投影された画像と同期してこれらの効果音を演奏します。
おそらく、ディズニーでのマクドナルドの作品の最もユニークな側面は、効果音を作るために使用される何百ものユニークなガジェットと小道具の作成でした。彼の驚くべき仕掛けは、電車から蚊まで何でも音を再現することができました。
彼は、ハンドルで回転できるトラックに車輪を取り付けレールに乗っている電車の車を完璧に再現した「クラッキークラック」を作りました。この小道具は、電車が遠くの山を一周するときに、ディズニーランドのサンダーマウンテン鉄道で毎日聞くことができます。
ジミーは古い自動車から回収されたブレーキドラムを大いに利用し音階のある楽器にしました。ました。「私は何年も前に古い解体屋でそれらを拾いました」と彼はテレビのインタビューで説明しました。「それらはグリース、砂、泥で3インチの厚さでした...私はそれらをサンドブラストしてもらい、それから半音階の13音を得るためにそれらを調整しなければなりませんでした。チャイムが必要なときはいつでもそれらを使用しました。」それらは、「ピーターパン」のビッグベンのチャイム、「シンデレラ」の真夜中の時計のチャイムとして、数え切れないほどのディズニー映画で聞かれました。また、ディズニーパークのホーンテッドマンションで、ドゥームバギーに乗るときに毎日聞くことができます。
1977年、彼は引退し1991年2月1日金曜日心不全にて亡くなりました。
ディズニー在職中、マクドナルドは139本の長編映画と335本の短編映画で28,000を超える効果音を作成したと言われています。
追補 byスティーブ・リー
1941年、ウォルトディズニースタジオは、映画「ダンボ」で最初にセリフに音声処理を行いました。これは、パフォーマーの喉の両側に保持されたブリキ缶に似た外観の2つのシリンダーを備えた装置であるSonoBoxを使用して達成されました。録音されたサウンドはメタリックな音質でしたが、俳優のパフォーマンスも維持されていました。このデバイスの現代版はボコーダーです。
HANNA-BARBERA: GREG WATSON & PAT FOLEY
https://www.youtube.com/watch?v=QGYuOqA0pnw&feature=emb_logo
https://www.youtube.com/watch?v=CWgcizAgxOs
1950年代後半、テレビアニメーションの最前線にいたのはハンナ・バーベラでした。 1960年代に、ハンナバーベラのテレビシリーズ「原始家族フリントストーン」は、その時代のスタジオコメディテレビシリーズの人気のある側面であるライブスタジオの視聴者の感覚再現した笑いトラックの使用を開始しました。
1960年代を通じて、グレッグワトソンは、トレッグブラウンのワーナーブラザース・ライブラリに対応する漫画のサウンドライブラリを作成しました。ワトソンは、宇宙家族ジェットソン、ヨギベアショー、原始家族フリントストーンのサウンドの後に象徴的なサウンドを作成しました。パットフォーリーは1980年代までハンナバーベラのためにこの仕事を続けました。それらの共有された遺産-ハンナバーベラ・ライブラリは今日まで古典的な漫画の効果音の縮図のままです。
NEW TECHNOLOGY, BETTER SOUND
技術が進歩し続けるにつれて、音とアニメーションの両方がますますリアルになり、1990年代初頭のデジタルオーディオワークステーションの出現により、サウンドトラックの数は無制限になりました。
この技術の変化により、アニメーションサウンドは、サウンドを録音および編集する1人の作業から、すべて異なる責任を持つサウンド・プロフェッショナルのチームに割り当てられたタスクに変わる道が開かれました。
CONTEMPORARY SOUND DESIGN: A MIX OF METHODS
現代のサウンド・チームは、多くの個人で構成されていますが、サウンドデザイナーの役割は、その創造的な重要性において衰えていません。
ベンバートの活薬は、重要な例です。 2009年、長編映画「ウォーリー」での彼の作品は、彼と彼のチームにアカデミー音響編集賞を授与しました。サウンド・デザインへの彼のアプローチは、トレッグ・ブラウンとジム・マクドナルドの取り組みに関する彼の幅広い知識を大いに利用しています。
サウンド・デザインの現代的なコンセプトに合うように、バートは伝統的な録音技術、特注の仕掛け、デジタルで制作および操作された要素の組み合わせを採用して、ウォーリーのサウンドを作成しました。
Animation Sound Design: Ben Burtt Creates the Sounds for Wall-E (Part 1)
Animation Sound Design: Ben Burtt Creates the Sounds for Wall-E (Part 2)
A GREAT CONTRIBUTION TO THE ART OF ANIMATION
何年にもわたって、アニメーションのサウンドエディターまたはデザイナーの役割は大きく変化しました。パーカッショニストから機械エンジニア、デジタルエキスパートまで、しかし目的は常に同じです。つまり、聴衆の作品への共感を促進する、新しくて興味深いものを作成することです。それがピチカートのつま先であろうと、ウォーリーの忘れられないロボットのボーカルであろうと、サウンド・デザイナーは永年にわたってアニメーション芸術に大きく貢献してきました。
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