September 24, 2007

冨田勲 第1回エレクトロニクス・アーツ浜松賞 受賞記念講演会

2007年9月24日ACTCITY浜松
By漢那拓也

今年ローランド音楽財団の第1回エレクトロニクアーツ賞を受賞されました冨田勲さんの記念講演が浜松で行われました。その模様を尚美の冨田門下生漢那さんが尚美学園のHP用にリポートした内容を寺子屋NEWSとしても掲載許可を頂きましたので、お読み下さい。(沢口)





本文

9月24日月曜日、アクトシティ浜松にて「冨田勲エレクトロニクス・アーツ浜松賞受賞記念講演会」が行われました!
この講演会は、主に浜松市在住の音楽ファン、音楽指導者、音楽を学ぶ多くの学生を対象としたもので、予定されていた定員を上回る満席状態。まさに立錐の余地も無い、大盛況の講演会になりました。






梯郁太郎氏からのご挨拶から始まった講演会は、冨田先生の半生を10分間の映像で紹介したビデオ上映、梯氏と冨田先生の対談と続き、30年以上ものお付き合いがある間柄ならではの、貴重なシンセサイザー黎明期の昔話などをお話しされていました。
他のメーカーが、アナログ・シンセサイザーのコントロール電圧(CV)の入力規格を簡略化していく中、ローランドだけは最後まで従来の規格を通していたそうで、冨田先生はそのことに対して大変感謝されていました。
従来の規格である「1ボルト上がるごとに1オクターブ上がる」方式(oct/V方式)は、非常に回路が複雑になる反面、プログラムをするものにとって、入力するコントロール電圧の計算はとても簡単になります。
単なる「手弾きのキーボード楽器」に収まらない、冨田先生のシンセサイザー妙技を活かすためには、計算のしやすい「1ボルト上がるごとに1オクターブ上がる」方式が、とても重要だったそうです。
昨年の「冨田勲トークセッションレポート」では、冨田先生が奏でる「音」の秘密について、MOOGの不安定さやファジーさに触れましたが、今回の講演においても、「技術と芸術の相互関係」の大切さを改めて感じました。
今となっては「古の技術」となってしまったお話なので、若い世代の方には少々難しいお話であるにも関わらず、客席では制服を着た学生の方々が、要所要所で熱心にメモを取っているのがとても印象的でした。
梯氏と冨田先生の対談の後は、NHK番組の音楽制作から始められた、冨田先生の50年以上のキャリアを紹介する冨田先生による講演となりました。




「3時間で書いた曲が50年以上使われている」という、「今日の料理」のテーマ音楽、「新日本紀行」や大河ドラマ「新・平家物語」、手塚アニメの「ジャングル大帝」などに代表される、ステレオでオーケストラを主に使われていた時代。アルバム「月の光/ドビュッシー」や「殻のついた雛の踊り(展覧会の絵より)」、「パシフィック231/オネゲル」などの曲に代表されるMOOGシンセサイザーと4つのスピーカーを使ったサラウンド表現を追求された時代。そしてサウンドクラウド。近年のオーケストラとシンセサイザー、そしてサラウンド表現を合わせた、「源氏物語交響絵巻」に代表される時代。
それぞれの時代ごとの作品を通して、技術の進化や制作環境の変遷、それによって幅の広がった音楽表現の可能性について、実感をもってより深く知ることができる様な内容の講演でした。
どの時代においても冨田先生は工夫を欠かさず、例えば「新日本紀行」では拍子木に深い残響効果が掛かっているのですが、今では当たり前のように使われているリバーブが当時はなく、非常階段の残響をうまく利用されていたり、それから20年後、MOOGシンセサイザーでの表現を追求されていた時代には、4chサラウンドを表現するため、ミキサーのフェーダーを使って音の移動を表現したり(相当フェーダー捌きの練習を重ねられたそうです)されていたとのことでした。


そんな冨田先生の発想力が会場を沸かせたのがヒヨコと猫とニワトリが追いかけっこをする様子を描いた「殻のついた雛の踊り(展覧会の絵より)」で、いかにもヒヨコ!といったシンセサウンドに、これまたいかにもドラネコ!というようなシンセ音、そしてニワトリ以外想像出来ないシンセ音の、それぞれキャラクター味溢れるMOOGサウンドが会場を縦横無人に駆け回り、客席からは拍手喝采、サラウンド表現が持つ、エンターテインメント性が遺憾なく発揮されていました。研究生も是非見習わせて頂きたいです!

サラウンドに傾倒した時代として紹介された、3つのオーケストラが織り成す「波のフーガ」や優雅な世界に渦巻く女性の激情を「本音」と「理性」に分けて描いた「浮遊する生霊(愛地球博前夜祭より)」のシーンなど、会場一杯に広がるサラウンドの存在感に、圧倒された方も多かったのではないでしょうか。
さらには比叡山延暦寺・根本中堂で、源氏物語を人形師・ホリヒロシさんの人形舞と共演された映像も、一部紹介され、美しい人形の造詣やホリヒロシさんによる人形の演舞、生霊のシーンの「髪の毛を掴んで引き摺りまわす」表現に、鳥肌が立つくらい釘付けになりました。
冨田先生の「源氏物語交響絵巻」のアルバムジャケットにも使われているホリさんの人形は、やはり見ている人を引き込む何かを持っているのではないでしょうか。

その他にも、こういった場では今回初めて「月の光」のサラウンドバージョンが披露されるなど、貴重な音源に触れさせていただけたり、この度初めて試みた「SONAR」による音だしも非常に好評で、高音質の音楽空間を楽しむことができました。
最後に冨田先生の一番最近の作品である、みんなのうた「鳳来寺山のブッポウソウ」が映像付きで上映され、会場からの拍手とともに約2時間に及んだ講演会は幕を閉じました。

私個人の感想としましては、この日の冨田先生の講演からは「技術の進化した近年では、様々な音楽の楽しみ方がある」という若い世代の人たちへのメッセージを感じました。この講演会に参加され、熱心にメモを取っていた学生の方々にも、きっとそのメッセージが届いていたのではないかと思います。
SONAR操作・音声コントロール/野尻修平
レポート著/漢那拓也
写真提供/財団法人ローランド芸術文化振興財団

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