By. Mick Sawaguchi
日時:2009年6月14日 三鷹 沢口スタジオにて
テーマ:2009 JPPA AWRD受賞作品「パンダフルライフ」サラウンド作品の制作とミキシング
講師:高木 創(東京TVセンター)
沢口:毎年日本ポストプロダクション協会JPPAが、優れたエディティングと優れたミキシング部門の表彰をしています。2009年6月のサラウンド寺子屋は、その中のドキュメンタリー部門のミキシングシルバー賞を受賞しました、パンダのドキュメンタリー「パンダフルライフ」を取り上げました。東京テレビセンターの高木さんが制作を担当しています。同録も含めて全体のサラウンドの仕上げが大変素晴しかったので、今日は皆さんに舞台裏も含めて解説していただこうと思います。私もこのJPPAアワードが13年前に出来た時からミキシング部門一般の部の審査員を担当していますが、審査員の皆さんも同録の段階から音が素晴しいという話でした。実際の作品は映画上映です。
JPPAアワードは今年5月28日に表彰式でした。その他にも嬉しいニュースがありまして、コマーシャル部門でシルバー賞を札幌のアップリンク横山さんが、ハイポネクスというコマーシャルのサラウンドでミキシングで受賞しました。それから今年から新設されたサウンドデザイン賞に、なんとソニーPCLの喜多さんのHONDAのCMサラウンド編、これは1991の永田さん 北村さんと一緒にやったものが初回のサウンドデザイン賞それもサラウンドの作品が選ばれたという事で我々も大変嬉しいニュースです。それからサラウンドじゃないのですが、イマジカの村越さんの“告知せず”というドラマがグランプリ、尚かつ経済産業大臣賞という事で(拍手)サラウンドにまつわる色々な活動が少しずつ根付いてきているのは嬉しいことだなと思います。では高木さんよろしく。
高木:皆さん初めまして、東京テレビセンターの高木と言います。パンダフルライフという作品を去年仕上げまして皆さんに突っ込んで頂きたく、ここで発表させて頂きます。パンダフルライフ、パンダのドキュメンタリー映画です。このお話を頂いたのは2005年と2006年にNHKのハイビジョン特集で世界自然遺産という番組がありまして、それがサラウンドのドキュメンタリー仕上げだったんです。その監督と映画も2本やらせていただいたんですけども、知り合いの監督さんがドキュメンタリー映画やるみたいなんだけど整音やらない?と紹介していただきまして非常に緊張して面談しました。監督の毛利さんとお会いした時には既に撮影は開始していました。お会いした時にはパンダフルライフは2008年夏公開、100分未満、納品日と編集上がりの日程、ナレーションを録って仮ミックスをして松竹で試写する可能性もあるという状態でした。音はVEの高橋さんという方が、もうSennheiser MKH-416とかで録っていると。撮影自体も5分の2ぐらい終わっていて、残り5分の3を今からでも間に合うなら現場をサラウンドでいった方が良いものが出来ますよ、と提案しました。でも結果、現場サラウンド収録は無しでという事になりまして、ではスタジオ作業でサラウンド化するにはどうすれば良いか、どのくらいの日程が必要かという事を必要最小限の日程という事で先方に見積もりを立てました。
<作業見積もり>
仕込室における仕込み
・同時録音系 3日
・音響効果仕込 3日
・監督チェック及び仕込室での修正 1日
スタジオにおける作業
・ナレーション録音 1日
・小直し 2日
・ダビング 3日
・LtRtミックス及びME作成 1日
・マスタリング 1日
高木:同時録音系はカメラマイクで撮られた音だったり、VEの方がマイクを振って録った音、音響効果仕込については、どうしても足りない所は出るであろうことは予想されたので、VEの方に録ってきていただく予定の現場のDATの音を5.1ch化するのに3日、ざっと作って出来たものを監督にチェックして頂くのに1日、お金のかかるスタジオに入ってからの日程も仕込みでたっぷり7日間使っているのでスタジオに入ったらダビング自体は3日で終わりますよという事で話を進めました。予備日3日、更にこの後2日間予備日があるかもという事で見積もりを立てて先方に送りました。じゃあやりましょうとなり、実際にスケジューリングされて仕上げた期間は合計18日間で仕込む事になりました。もう5分の2撮影が終わっているとはいえ、ちょっとでもパンダの音をしっかり録りたかったので、カメラマンの手伝いも忙しいVEさんにすみません、パラボラを2つ持っていってくださいって言ったらダメですと言われました。じゃあSennheiser MKH-816持っていってください。それと6mの竿でぶんぶん振ってくださいとお願いしたら、それは一応やっていただけました。部分的にそれを使っていただけて効果的に現場録音録っていただけた所が何カ所かあったのですが、パンダの養育所センターは基本的に人があまり入っちゃいけない所で撮影自体カメラマンしか入れないという所もありました。実際の音の約半分の同録音はカメラマイクでした。それも監督から聞いていたので忙しいVEさんには申し訳ないんですが、ステレオで前後、フロント用とリア用で3分以上録音していただけたら、サラウンドらしいサラウンドの環境音を作れる事は出来ますので、ちょっとチープなセンターの同録音であってもそれを補うだけの物は作れるかもしれません、だからぜひともよろしくお願いします。という事をお願いしてDATで3本は録ってきていただきました。監督がおっしゃるにはパンダの繁育基地は山奥では無く、都市の比較的近郊であるという話でした。どれほど近郊かというとこういう具合です。
高木:左下が成都の中心でそこから車で15kmくらいの所にあります。中国の高速道路網は比較的多く走っていて、あそこの下の太い道を大型のトラックが、ばんばん通っています。映画のサラウンドですと音響効果マンがしっかりサラウンド音場を作ってきて、それに対して現場で同時録音したものが、むしろセンター定位でしっかり奇麗に効果音とかちあわさない様な整音を心がけるんですが、今回ドキュメンタリーとして効果部はもちろんつかないので、ライブラリからの音源によるサラウンドの音は創作しないという決めごとを自分の中で作りました。先ほどの成都のパンダ繁育研究センターは都市所に本当に近いんですが、実際被写体になるパンダ達は本当にささやかにしか動かなかったりするので都市郊外・都市近郊音を排除してパンダの存在をパンダ好きの人達の為に目だけじゃなくて、耳でも楽しんで貰える方向で際立たせてやるという所を強烈に意図して整音しました。生音は整音の過程で引っ張り出せるものは、なるべく引っ張り出せる様にして後で付け加える事は極力やらない様にしました。結果的にテレビドキュメンタリーの場合はある音をピークがたたない様に、台詞、インタビューがしっかり聞こえる様にベースノイズは全く無視されたのぺっとした音に作られるんですけれど、劇場に行ったらそういう音ではなくて見る人間がパンダに対してパンダがどういった音を出しているんだろうと耳を澄まして聞くような音響を作ろうと思ってチャレンジしました。どうすればいいだろうと思い手帳に絵を書いたりして具体的に音の固まりのイメージを音だけでイメージする事は出来ないので、図にしてみて頭の中に組み立てました。
「パンダって可愛い、でもひょっとしてパンダって可愛い面だけじゃなくて違う生々しい部分がきっとあるはずだ」って思いまして、作っている最中監督と二人で「もしかしたらパンダは人をごりごり食べているかもしれないですよ?」「じゃあ可愛くないねそれは。」という事でもっと可愛い部分は何なんだろうかという事で、ダジャレながら監督と話して作っていました。あとは音自体周波数帯域での積極的な棲み分けをしないと音が団子になってしまうのはプロフェッショナルの皆さんご存知でしょう。まずはモノラルのサラウンド化をするには、カメラマイクが録ってきた音やVEが録ってきたトータルの音のノイズの除去をします。そこから改めて先ほど申し上げた、個別音の強調をイコライジングとレベル調節で、瞬間瞬間を比較的苛烈に引っ張り出しています。ただノイズを除去すると、俗にいわれている空気感とか雰囲気が確かになくなるので、その空間を再現する意味でリバーブをかけアンビエンスを作り、更に強調した個別音で移動している音はドライ主要音のパントラックを作り、かつ再録のアンビエンスのトラックも含めて、前後感で大きなスクリーンで見た時の立体感を心がけました。VEさんが録ってきたDAT3本は、ステレオ環境音のサラウンド化という部分でこれはモノラルの時と同じく、都市環境音をまず除去しました。前用後用にで録ってきていただいた音は、そのままProToolsのトラックにL、R、Ls、Rsとして配置しました。またステレオでしか録っていない音源は、例えば4本録られていたら前1分30秒後ろ1分30秒を、L、R、Ls、Rsという様に編集して同時に出る様にします。同一ステレオ音源のサラウンド化は、特徴のないベースノイズに対しては有効です。それとL、R、Ls、Rsだけですと大きいスクリーンでは前のすわりがあまり良くなくなるので、ステレオ音源はマトリクスデコーダーでデコードし、デコードされたサラウンドは破棄しL、C、Rのみをまたベースノイズに足すという事をしました。
整音する設備としては、東京テレビセンターのフィルム試写室を臨時に改装してまだ当時ProTools Ver.7.2が入りっぱなしの頃だったんですが仕込み室用にあてがわれていた24MixPlusという古いタイプのProToolsを使いました。ノイズの除去に関しては、CEDARのDNS3000というノイズサプレッサーが大変有効であると色々な人間から聞きまして、寺子屋メンバーの中村さんというWOWOWにいらっしゃる方に相談しましたら代理店を紹介していただきまして一週間貸して頂くという話を強引につけまして、仕込み室にそのスケジュールにあわせてとりました。スピーカーは使わなくなったJBLの4312シリーズをかき集めてこういう部屋を作りました(絵をみながら)。サブウーファーは左は使わず、右からだけ普通に出すという特に厳密な音場調整も出来ず、単にローパスフィルターで120Hz24dB/octで切ったものを、インバンドゲインでちょっと上げてという調整をした程度です。スピーカーも同じJBL 4313がそろわなかったので、両脇をJBL 4313を使い、センタースピーカーだけ他のスピーカーを使いました。
Q:今の写真でLsとRsの高さが違うように見えるのですが?
A:気のせいです(笑い)高さは同じになっています。台は、今この沢口スタジオにあるこれと全く同じ台です。
Q:同じものですか?
A:ええ、でも鳴りがあるので、中に樹脂を充填しています。
Q:この部屋は広いんですか?
A:程々ですね。(写真の)このスクリーン面からこのProToolsの机までが、ここ(沢口スタジオの椅子の位置)から、向こう側の壁くらいの距離ですね。
Q:大きい部屋ですね?
A:20~30人が入って、35のラッシュの時に観るようにしていた部屋だったので。
Q:5.1chは、Dolbyだけの予定だったんですか?
A:実は、5.1chとしては日本で初めての劇場公開ドキュメンタリー映画です。
Q:デコーダーはDolbyのハードウェアのデコーダーを使われたんですか?
A:内部処理でのマトリクスデコードは、Dolby Surround Toolsを使いました。
Q:特にアウトボードでアップミックスして広げて、後ろを切り捨てる的な事は考えずにマトリックスデコードだけにしたのは何故なのですか?
A:アウトボードしてアップミックスしてという、そういう高級なアウトボードはなかったんです。
Q:苦肉の策?
A:苦肉の策っていうか、ある意味伝統というか。DS4なりSD4なりでLtRtのサラウンドを作っていた頃って、ステレオ音源でセンターだけを立たせたい時によくDS4でデコードしたものをまた乗せたりとかしてたんですね。もう古くて廃れてる技術ではあると思います。後々5.1chのディスクリートだけでなくてマトリクスも作らないといけないじゃないですか?で、マトリクスを作るときに広がっちゃって困ったよ。っていうのは避けたかったんですよね。だからあらかじめ広げちゃったものを突っ込んでやれば、マトリクスとディスクリート5.1chと概ね聴感上同じものは出来てくるんで、その辺のコンパチビリティ優先っていうのはありました。
高木:では作品をご覧ください。
<作品デモ>
高木:という映画でした。見直すと粗もちょっとあって、うーん反省しきりな感じなんですが。
沢口:では高木さん待望の突っ込みタイムです。
Q:音楽はサラウンドミックスされたものなんですか?
A:このミックスは、3人で作曲してましてその内1人の作曲家が自分でミックスしてます。で、初めてのサラウンドミックスっていうことで、ミックス立会いに行って、こういう感じになりました、明日はもうミックスしなきゃいけないですという状況で、これで結構ですっていう風に帰ってきました。(一同笑い)初めてなのでサラウンドをしっかり出そうっていうことだったみたいで、まあいいかなと。(一同笑い)無理にこうナチュラルなサラウンド感を求めるのは時間的にちょっと問題があったので、これもありかなと。
Q:フィルムの所謂ドルビーデジタルやEXなど、5.1ch音声は、二次使用というかDVD、Blu-rayのとき何か(ミックスは)変えますか?
A:実はですね、これ知らない間にDVDになっていました。(一同笑い)
Q:プロダクションマスターはもう自分の手元から離れたってことですか?
A: そうですね。映画用として納品して、でDVDなったらかなり小さい音で作ってるので、あのTVじゃよく聞こえない音も出ますよって言っていたんですが、DVDできましたって言われて渡されました。(一同笑い)だからこれは多分原盤は、オーサリングのとき、どういう処理を加えているか分からないんですけど、フィルム原盤です。
Q:聞かれた感じDVDと劇場のダビングステージ、スタジオで受ける印象とは違ってましたか?
A:家で聞いたら、やっぱりDVDミックスちょっとはしたかったなと思いました。ナレーションがちょっと奥に引っ込んだ感じになっちゃうのと、あとサラウンドがリア83dBCでやってるので、どうしても2dB大きくなっちゃうんですよね。音楽ミックスもその初めてのミキサーによるサラウンドレベルの大きい音楽ミックスだったので、家庭で聞くバランスとしてはあまり良くはないかなと。 ただ映画用ミックスを家庭用にということでリミッティングしてメイクアップゲインで上げちゃうとつまんなくなっちゃう傾向がありまして。(一同頷き)だから、弄らないのも一つの手かなと。で以前DVDミックス絶対やらなきゃいけないという考えだったんですけれども、逆に劇場用のミックスを聞きたいユーザーも確かにいるという話をいろいろ聞きまして、民生機側でのダイナミックコントロールを弄れる環境にあってるから、むしろ弄らなくてもいいんじゃないのってことは言われました。でもスタジオとしてはDVDミックスもやっていただいたほうが、このご時世やっぱり嬉しいなっていう話はありますね。
Q:コンボリュージョンリバーブはどういう風に工夫されているのですか?
A:Altiverbを使いたかったんですけども、TL Spaceを使ってそれの内部パラメーターを弄くってるっていう感じですね。特にパンダの子供がこう爪を引っかいて歩く所あるじゃないですか、あれの響き自体は爪の音だけを純粋に同録よりもだいたい15dBぐらい、1つ1つのひっかかりの音を摘みだしてるものに対して、リバーブをかけてあげて、あんな感じにしてるっていうのがありますね。
Q:オープンの時には何か効果的なプリセットはあるんですか?
A:オープンの時にはTL SpaceはTLメドっていうパラメーターがあるんですけれども、あまり良くないんですね。その辺はAltiverbのブリックウォールとかのパラメーターの方が全然いい音が出ると思うんですけど。
Q:それはProToolsにはいってるプラグインですか?
A:TL Spaceに関してはバンドルされてます。あれは有効です。
Q:ファイナルミックスの時点でやっぱり何か足らない、いわゆるプラグインじゃなくてアウトボードで足したりはしましたか?または作ったんだけどやめたプラグインなどはありますか?
A:今回の作品ではそういうことはなかったですね。ステムとして、芯のある音とアンビエンスと、後パンと、それ以外の中庸をいく芯のある音、4ステムぐらいでミックスしたので、それのバランスで対処したという感じでしたね。
Q:ノイズの除去は主に近くに走ってる道路だったり、他にもノイズ源として除去を苦労された部分はありますか?
A:1番除去したものとしてはやはり近くを通るトラック、交通騒音のずっと流れている音ですね。取りきれないものもあるんですけど、中国人は結構クラクション鳴らすので、そこら辺は手作業でエディットで逐一取っていく。あとそこの繁育センターも観光地なんで、ロケは開演前にはしてるんですけれども、こぼれたりするとお客さんが来ちゃうんですよね。で、その声を取ったり、エディットで取るしかない。
Q:所謂メカニカルなノイズ、カメラのズームする音だったりとか、テープの駆動音とかもあんまり気にならなかったんですが?
A:それも取りました。カメラマイクのところの帯域は全て取ってます。
Q:一度その車のノイズを取ったあとに、駆動音なりにむけて設定を変えてRECし直す作業をされたんですか?
A:何度も繰り返しちゃうと音が極端に痩せてしまうので、一発で決めるようにしてました。逆に取る部分をしっかり捉えるためにCEDARで処理をかける前に7bandEQで狙った帯域だけを2dB上げるんですね、そこからスコーンと抜くとそこだけ抜けたってよりも、うまい具合に減るので。抜く前エンファシスといいますか。
Q:今回ドキュメンタリーはドキュメンタリーですが、サブウーハーをドキュメンタリー音の中から作り出す所で狙ったところはありますか?
A:それはもうパンダの山場のところですね。
Q:音楽はどうなされたのですか?
A:おまかせでしたね、全体的にミックスされていたのであえていじらなかったですね、意地悪じゃなくてです。(一同笑い)
Q:音楽はどういう形態で納品なされてたんですか?
A:音楽はProToolsのセッションですね。
Q:マルチのセッションですか?それとも、ステムでしょうか?
A:ステムミックスされたセッションです。ステムミックスしたセッションをタイムラインに並べてるまでをお願いしました。
Q:ダビングのフェーダーを握ったっていうのは?
A:私だけです。
Q:それは逆に言うと効果がいなかったからですか?
A:まあ効果マンがいなかったっていうのは確かにあります。
Q;逆にやり易かったですか?
A:そうですね、はい。
Q:ただその場合プリミックスのロールとして何ロールぐらい、フェーダーの本数は何本ぐらい?
A:フェーダーの本数的にはさっき言った同録系で4ステム、別途効果系で3ステム、だから7本ぐらいですかね、それに音楽のフェーダー2本で。ただ激しく動かすのは仕込みの段階で整えてあるんで、全体の聞こえ方ですね。
Q:パンダが暴れてるシーンで、元の音はどのマイクの音ですか?
A:パンダの暴れてるところはSennheiser MKH-416です。
Q:その場面で特別なサラウンド処理はありますか?
A:モノで広げてもちょっとしんどかったので、(パンダが)鉄オリをつかむところは、テレビセンターの室内の階段が鉄製なんですね、で10年ぐらい前に後輩と一緒にボウリングの玉を使ってそこにガンガンやってグォーングォーンという音を録ったんですよ。で、それをステレオで録っていたので、何かしらの処理をして帯域をモノと合うようにイコライザで調整して、サブウーハーに回して全体に広げて、だからモノとは思わないですよね。そこはちょっとうまくいった感じで。
Q:劇場でひそやかな音場っていうのはお客様にどういった反応がありましたか?
A:寝てましたね。
Q:やっぱり映画館で静かな音場って向かないっていうことですか?
A:映画の世界に合致していれば寝られても私はOKかなと思うんですけれども、寝られちゃ困るような部分をずっと寝るような音響構成にするわけにはいかないので、やっぱりぐーっと下げてもその間が持ちそうにないって時には次のカットの檻をあける音を強烈に大きく出したりとか、目を覚ませる的ミックスはやらざるを得ない部分はありましたね。その映画的に画面の緊張感が強くあれば、その密やかな音を緊張した映像に当ててく手法が効果的に出ると思うので、必ずしも密やかな音が映画音響において向かないっていうことではないと思います。
Q:お客さんはやっぱりお子様が多かったですか?
A:どちらかというとカップルや青年が多かったみたいです。
Q:パッケージの方が売れるんじゃないんですか?
A:そうですね、それをかなり期待してたので。当初かけてた予算規模もそんなに大きくないので、その辺の収支を見極めたうえでの制作だと思います。
Q:Blu-rayでやる予定はないですか?
A:話は聞いてないですね。でも結局同録関係の広げで非常に苦労したのを監督もよくご存知で、効果も時間をかけた割にはなかったなというのも監督もわかっていただけて、今年の秋から冬にかけて、よしサラウンドロケしようってことでお仕事を一本いただけました。
Q:そこでちゃんとステップアップにはつながったんですね?
A:そうですね、お願いしました。
Q:現場に行かなかったから変な音になったとか、現場に行くと現場の感動とか空気とか知ってるから、なかなか難しいなと思ったんですけれども。
A:それは強く思いますね。
Q:音数がたくさん付いてると思ってるんですが、音の種類というか、音色の違うものが少ないので、作品全体長いじゃないですか、すごいその辺苦労なされたんじゃないのかなと思いまして。音のメリハリ感。
A:その点も含めて現場に出れない悔しさはありましたね、もし現場に出てればその通り一遍な印象音、それだけじゃない音、むしろ自分が求めて録りに行くこともできてるんで、現場で良い鳥の声が囀ってたら、多分長いロケーションの時間でしたから、その音を録りに行ったりとか、色々ディテールを録りにいくことができると思います。今回の作品の場合にはカメラの周りの音だけなので、だからバラエティにかけた感じがあるなと思いました。
Q:作品は90分ですか?
A:90分ですね、ロールにして全5巻ですね。
Q:整音作業で実質6〜7日とかかかってるっていうのは、実際作業やり始めて思ったよりかかったのか、それともこの作品を仕上げるにあたってこれぐらいの時間はかかるのですか?
A:そうですね。最初からそう思っていました。この仕事は監督とは初めてだったので、あまり強く出れないというのはありましたね。やせ我慢でぎりぎりの日程を言って、で「日程内に終わったじゃないか、でも22時間はやったけど」みたいな所ひょっとしたら我々の実情なのかもしれません。
Q:これ撮影ってVですよね?HDVの24とか?
A:これは確か全編VARICAMで録ってますね。
Q:ファイナルステージで音の時もV出し?
A:V出しですね、現場に23.976で回して、東京テレビセンターは29.97です。タイムコードとしては。
Q:エンコードした後にエンコードしたファイルをもう1回プレイバックをするのですか?
A:はい、します。
Q:不満はなかったですか?
A:ないです。圧縮による劣化は見越しているので、たとえ劣化していてもそれは想定内です。やっぱり機械のせいに出来ない部分があるので、機械の限界を見越したミックスで人様から評価いただけないと。
Q:AC3ってコーデックなわけだから、それを見越してミックスされているのはさすがだなって思いました。
A:ひとつの諦めですね。
Q:仕込みの作業するときにつねに音楽はここにあるっていうの分かっている状態で?
A:そうですね、そこにシートがありまして。(写真を出して)音楽ラインとしてこういうシートが事前に渡されます。
Q:ここはこういう曲が鳴っているはずだから、と考えながら?
A:そうですね、後はこの場所に仮のデモとかが付いている場合があるので、大体こんな感じかなと。今回の作品の場合はほとんど聞かずにやりました。逆に聞きながらやらないと無駄な整音作業をたくさんしちゃう場合もあるので、それは作品によりけりですね。
Q:最初と途中に女の子のパンダの名前を呼ぶ声が2回あったんですが、あれは監督の意図なのですか?
A:いや違いますね。あれは2回目の時に家族が映っていたじゃないですか。あれは録ったままです。どこを使うかは監督の裁量ですが、そこでパンダと言ってとは絶対言ってないです。これはドキュメンタリストとして基本的なスタンスなので。被写体に対して働きかけるということは、まあする人もいるでしょうけれども、基本的にはしないです。
Q:あれは中国のセンターでも、そういう事が起こっているんですか?
A:基本的に開場前にロケをしているので、そういう大きい声が交っているところというのはこの映画の中でほんの10カットくらいです。それはちゃんと観客が映っているところだったりするので。縄張り争いをしているところもあれは観客がいたところだったので、人の声を取りきれない部分もあったりとか。パンダ幼稚園で子供が木から落ちるところもよく聞くと外の方で観客が「わお」って言ってるんですよ、たぶん西洋人だと思うのですが。
Q:保育器の中でお腹さすっている音っていうのはあれはどのように?
A:いいところ見つけましたね。あれは、女の人の皮膚をシュシュシュッて日本でこすってます。(笑い)プロの耳はごまかせないですね!
沢口:高木さん、まさに詳細な舞台裏を紹介いただき大変ありがとうございました。次の仕事では現場でもサラウンド録音ができるそうですので是非臨場感豊かなアンビエンスを期待しています。(了)
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