Mick Sawaguchi 沢口音楽工房
Fellow M. AES/ips
UNAMAS-Label・サラウンド寺子屋塾主宰
はじめに
2003年オーストラリアの監督P.Weirの作品です。1800 年代のイギリスとフランス帆船フリゲート艦による航海やバトルをドキュメンタリー・タッチでサウンド・デザインしたRichard Kingにとって初音響効果賞受賞作品になります。
彼のアクション作品における貢献は、ここからスタートしたと言えます。当時の大砲や銃器、ホーン岬で荒れ狂う嵐や風のデザインを中心に紹介します。
1 制作スタッフ
Director: Peter Weir
Sound Design: Richard King
Final Mix: Paul Massey D.M Hemphill
At 20c Fox John Ford theater
Music: Iva Davis Christopher Gordon Richard Tognetti
Music Rec and Mix :John Kurlander
At Village Recorders Studio 20cFox Newman scoring stage capital studio
Foley Artist: Gary Hecker Nancy Parker
Production Sound: Arthur Rochester
Sound Recordist: John P.Fasal Eric Potter
2 ストーリーと主要登場人物
ナポレオン戦争中の1805年、イギリス海軍のフリゲート艦サプライズはラッキー・ジャックこと名艦長ジャック・オーブリー指揮の下、フランス海軍の新鋭艦で捕鯨船などを急襲し略奪を繰り返すアケロンの拿捕命令を受けていました。しかし、アケロン号は旧式のサプライズ号に比べ速度もまた艦の規模も勝っており、アケロン号との最初の戦いではサプライズ号側は甚大な被害を被ります。
オーブリー艦長は下士官たちのイギリスへの帰国希望をものともせず、さらにアケロン号の追撃を続けますが、嵐、それに続く無風状態など気候によるダメージによって船員たちの士気は低下の一方となります。また、オーブリーの部下に対する態度は、無二の親友であり、サプライズ号の医者、そして博物学者でもあるマチュリンとの間に、激しい口論を引き起こしてしまいます。こうした様々な不利な状況を乗り越え、オーブリー艦長以下サプライズ号の乗組員は知略を活かしアケロンと戦います。
3 起承転結毎の特徴的なサウンド・デザイン
3−1起
●当番兵が船内の各部屋を巡介して全体像を観客に紹介するシーンです。特別手の込んだデザインがおこなわれている訳ではありませんが、ここで紹介したのは、後述します船内のフィールドロケがDEVA-4CHで行われた大変自然な空間を紹介したいと思ったからです。ハリウッド流だとモノーラルかステレオアンビエンスを組み合わせてこうした空間を作る場合が多いのですが、実際の4CH素材が持つ自然な軋みや空間のつながりが大変すばらしい例です。この後も船室でセリフがメインのシーンでは何度も登場します。
● フランスの私掠戦アケロン号から不意打ち攻撃されたシーンです。
砲弾が船側に当たり作列、その威力で船側や後壁の木の壁が木っ端微塵になり部屋中に散乱します。砲弾が飛んでくるときの低域ブーム音が大変印象的ですが、これは弓を弾いた音を近接マイクで録音した素材を加工して作ったそうです。16“の短い部分ですが全体の周波数分布と砲弾炸裂時のLFEも併せて示します。見事に全周波数帯域をバランスして使っていることがわかります。
● 国旗のはためき全面
帆や旗の素材は、モハビ砂漠にパーツを持参して録音しています。これもサウンド・デザインというにはシンプルですが、サラウンド全面を使った国旗のはためき音も存在感があって素晴らしいので紹介します。
3−2承
この部分は、主に将校室や船員の会話がメインで進行しますので特段のデザインは、ありません。
3−3転
●ホーン岬での荒れ狂う暴風雨デザイン
このデザインとラストに登場するアケロン号との壮絶なバトルシーンで音響効果賞が受賞されたと思います。実際に天候の悪い日を選んで帆船を海上に出して録音した波とバハのタンク特撮時に使った大量の放出水素材と彼らが考案した風音発生器による強風素材がデザインされ全面サラウンドの嵐がデザインされ低域から高域までバランスの良いMIXがなされています。特に風音には、原作を読んで動物が唸るような音がするというくだりを参考に様々なサンプリングVOICEを加えて生き物の感じを出したと述べています。
このシーンのスペクトルを見てもバランスの良さがわかると思います。
●船員から不吉を呼び込む将官と思われ無視されることに悩んだホロムは、当直の夜に砲弾を抱えて自殺してしまいます。甲板でしめやかにおこなわれる水葬儀式の背景になる波とはためく帆音という大変静かなダイナミックスのシーンです。
●ガラパゴス島の自然なアンビエンス
失意のうちに帰国を決意した艦長一行は、休養と医者の動物調査のためガラパゴス島に立ちよります。そこで動物の収集や測定をおこなっている自然の何気ないアンビエンス です。作品のほとんどが船上シーンなのでこうした自然環境のアンビエンス は、観客にも気持ちを変える良いデザインだと言えます。
3−4結
●捕鯨船に偽装したイギリス艦船サプライズ号とフランスの私掠船アケロン号のバトルシーンです。トータル6‘43“あり前半がお互いの砲撃、後半はアケロン号にのり込んでのマスケット銃や刀による戦闘場面です。
このスペクトログラムを前半の砲撃中心と後半の小火器中心で示してみました。
小火器になると高域成分が高まっているのがここからもわかると思います。
4 Foley.効果音 素材録音
サウンド・デザインを担当したRichard Kingは、制作の一月前から原作を監督と読み、監督の全編過大なレベルの連続なる作品にはしたくないのでどこにどんなサウンドが必要かを検討してほしいとリクエストを受けデザインを検討したと述べています。以下は、彼がインタビューを受けた内容から参考になりそうな部分を中心に紹介します。
Gun
映画の主任歴史コンサルタントであるゴードン・ラコと私は、24ポンド砲と12ポンド砲を所有するミシガン州のコレクターを見つけ録音に協力してもらいました。私と、ラコ、およびサウンド・レコーディストのJohn Fasal. Eric Potterとミシガンに行き、近くのMichigan Army National Guard州兵基地で録音しました。
1月のミシガン州の雪の中で、Zaxcom Devaの24ビット4チャンネルレコーダー、ステレオNagra、DATなど計6台で大砲の発射を記録しています。武器のような大きな音では、アナログの歪みがよい結果を生み出してくれるので、Nagraと2台のDATマシンを銃の近くに設置し、さまざまなマイク(大型ダイアフラムマイク、PZM)をさまざまな距離に設置しました。
私はポータブルDATとNeumann190ステレオマイクを備えたスノーモービルに乗り大砲のローエンドを得るために走り回わりました。近くのマイクからの亀裂音から、飛翔音、大きくて深い低域ブーム、頭上に向かっているショットそして、砲弾でなくガラクタ類の素材を詰めた発射音が空中を駆け巡る音などを録音することができました。
Pre-mixの段階で大砲に、まだ十分な低域飛翔音が足りないと思い弓矢を引いたときの風切り音を追加録音しこれを素材に弾丸が飛んでいく低域空気音を作りました。
さらに砲撃を受けたときの散乱音のディテールが足りないと思い私たちは2、3日かけて、さまざまな木片(接合用ダボ、木片、ギザギザの木片その他のオブジェクト)で満たされたパチンコをマイクの前で発射し録音しました。これらから以下に示すような素材別の20−25のPRE-MIX素材を整理しました。
●大砲のショット
●空中を通過する音
●船弾着打撃音
●破片
●破片が床の表面に落ちる音
などでトータル32チャンネルのProToolsが6台動くことになりました。
マスケット銃の録音は、ロスアンゼルス郊外のサンタクラリタにある峡谷で録音しています。私たちはこの小さなマスケット銃のセッションをいくつか行いましたが、銃口からのフレア、7バレルのボレーガン、小さな大砲のようなホチキス砲を備えた小火器の録音を行いまた.75口径と.45口径の黒火薬マスケット銃の実弾発射も記録しました。
レコーダーは、5台用意し峡谷のさまざまな場所にマイクを設置。その中でもSchoepsのペアマイクを丘に向けた録音はとても素晴らしいサウンドでした。
ある録音では、素晴らしい低域ブームが記録できておりそれがどんな配置であったかをチェックしたところ、なんとスタンドが倒れて地面に横たわった状態での録音でマイクが地面に沿って伝わる音を捉えていたのです。平均的に良かったのは、銃器から46m以上離れた場所からのものでした。近接火薬の煙硝とアッタクのディテールには近接マイクをまた低域ブーム音は遠くの録音から得ています。
風音
私は、印象的な風音を得るために木製のフレームを考案し1インチと0.5インチの麻を上下に並べ、ターンバックルで締めトラックの床から20cm上に載せてそのトラックを48km/hの風が吹くモハベ砂漠で時速112km/hで走行しDevaに録音しました。レコーダーは、毛布と発砲スチロールで保護しマイクは、近接設置したのでトラックの音はまったく聞こえませんでした。また、楽器「ウィンドハープ」も設置し風切り音を録音しました。
そこで得られた素材とバーベキューや冷蔵庫の音などをmixし船上を通過する風のさまざまな音を作成しました。
ホーン岬での嵐のシーケンスをミックスしたときに、サンプリングされたボーカル要素をいくつか追加しました。 原作オブライアンの本の説明を読むと、嵐は「千匹の動物が拷問されている」ように聞こえるかもしれないと書かれておりそれをヒントにしたのです。
「また、撮影が終わってから数日後のメキシコ・バハのオープンセットは、巨大な水タンクがあり索具やデッキ、船全体を模倣した2つのフリゲート艦モデルに数トンの水を投棄しますがこのときの音も有効な素材となりました。
船がホーン岬を回るときに、さまざまな低域から高域までの素材を使用しました。普通の雨だけでなく、着氷性の雨でもあるので、その刺すような雨音が必要で課題は、すべてを有機的な全体にMIXすることでした。特定の瞬間ではなく、大きな単一のモンスター嵐です。この時は、監督のピーターが以前私にくれたアドバイスを思いおこしました。それは『細かいことにこだわりすぎると結果は、小さくなる』と言うことです。これが嵐のパラダイムです。詳細を聞きたいときに何かに集中する場合もありますが、全体をより印象的にする方法は、細部から離れて全体を俯瞰することでより印象的なものにすることです。」
帆船
船上素材音は、エンセナダ沖のローズ号とLAからの2隻の大型帆船で必要な船のきしみや揺れなどを3日間で録音しました。風が強い日に出かけたかったので、10mの高波と小型船の就航禁止警告がある日を選びました。海上では、大きな雷が鳴り響き、波が船の側面にぶつかりとても危険な天候でした。帆のドロップや揚げと取り付けをなど帆船操作素材に加えてデッキの下に設置した4CH-Devaで録音した部屋の空間は、実にリアリティのあるサラウンド空間が得られ多くのシーンで活躍しています。
砂漠での帆と船上の動き
ロサンゼルス北部の砂漠で個別の帆の動きと帆上の風を記録しました。 「私たちはローズ号からいくつか帆を借りて、砂漠でマストを装備しました。」また映画の嵐のシーンのために異常な風の音を録音するために非常に長い時間を費やしました。多くの人間が動き回る船上騒音については、撮影終了後のローズ号が利用可能になりデッキを歩いたり、走ったり、動き回ったりする乗組員の動きをDevaに4CH録音しました。」
ADR
プロダクション・サウンドは「巨大な扇風機エンジンやタンクを使用して風と水を流すシーンといった特撮が大部分だったのでほとんどダイアログは、ロンドン、バンクーバー、オーストラリアでADRしています。「イギリスでは、12のガヤグループで様々な戦闘シーンのガヤを録音しています。この作品は、非常にフォーリーを多用する映画であり、ゲイリー・ヘッカーがFoleyを行い、戦闘シーンでの剣の戦いFoleyは、ロサンゼルスのソニーで録音しています。
5 スコアリング音楽
音楽は、大きく3タイプ+船員、将校の合唱、そして医者と艦長のVc-Vn演奏のソース・ミュジックに分類されます。トータルで43‘21’作品に占める割合は、31.5%と大変控えめです。
音楽スーパーバイザーのサイモン・レッドリーは、LAのザ・ビレッジで伝統的なハリウッドスコアリングと異なった型破りなスコアを録音することに取り組みました。メンバーは、オーストラリアのバンドIcehouseにいたIva Daviesがいます。彼はクラシックを勉強後ポップスターになりました。もう一人は、映画音楽の常連であるクリストファー・ゴードンと、オーストラリア室内管弦楽団の芸術監督であるリチャードト・ネッティがいます。これらの3人の異なる思考がコラボーレートされました。心象音として扱ったパートがたくさんありますが、これらは、シンセサイザーと高域中心の弦楽器、パーカッション、太鼓やベル、さまざまな金属サウンドなどで構成されています。
「監督のピーターは、従来のスコア音楽を望んでいませんでした」「緊張と精神を伝える何かを望んでいました。そのため、戦闘配置に着く前には、「ウォー・ドラム」があります。人々は戦闘映画にある種の音楽を期待していますが、ここではその期待を裏切っています。」いくつかクラシックの名曲を使用しましたが、これはFoxのNewman scoring stageで録音しました。
終わりに
サウンドには関係ありませんが、海上シーンの特撮を行ったメキシコBajaの巨大特撮シーンスタジオに興味がりましたので紹介したいと思います。
建設は、1996年で翌年J. Cameron監督のTitanicで世界的な評価を獲得しました。
2001年のPearl Harborでも大活躍し2003年本作に至っています。規模の大きさで現在世界最大級のWater tank-01を備えた特撮スタジオです。
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