September 21, 2017

RME Premium Recordings 192-24 9CHサラウンド制作リポート




RME Premium RecordingsContigo en La Distancia 〜遠く離れていても〜』
192-24 9chサラウンド制作リポート

Mick 沢口 沢口音楽工房

はじめに



       



シンタックス ジャパンが運営するハイレゾ音楽制作レーベルRME Premium Recordingsの11作目となるアルバム『Contigo en La Distancia 〜遠く離れていても〜』が2017年6月20日にリリースされました。本作は、ガット弦を使ったバイオリンとApfのヂュオ編成アルバムでレコーディングは、2016年11月29−30日に三鷹芸術文化会館「風のホール」で行いました。

今回初めてRME Premium Recordingsの制作にエンジニアとして参画しましたので、「風のホール」における9CHサラウンド制作の舞台裏を紹介します。

1アーティストプロフィールと曲目
1−1演奏曲目リスト

アルバムタイトル『Contigo en La Distancia 遠く離れていても』
1.Naufragio
(難船) ポルトガル

2.Olha Maria ブラジル 
3.Soledad
 メキシコ 
4.Chorinho Pra Ele
ブラジル
5.Chiquil
ín de Bachín アルゼンチン
6.O Voo da Mosca
蚊の飛行 ブラジル
7.Eu te amo
ブラジル
8.Alfonsina y El Mar
 アルフォンシーナと海 アルゼンチン
9.Contigo en La Distancia
 (遠く離れていても)キューバ 

10.
ボーナストラック Cancion para Mi Guitarra Sola アルゼンチン




1−2 喜多直毅プロフィール
国立音楽大学卒業後、渡英し作編曲を学ぶ。その後アルゼンチンにて タンゴヴァイオリン奏者のFernando Suarez Paz に師事。その後、鬼怒無月[gt]、常味裕司(oud)、翠川敬基(vc)らの グループに参加。2011年よりメインプロジェクトとして喜多直毅クアルテットを開始。出自であるタンゴと様々な音楽の融合によって生み出される独自の世界は、その深い精神性によって高い評価を得ている。黒田京子(pf)とのデュオではユニークな編曲による映画音楽等を演奏。即興演奏を中心とする齋藤徹(cb)の企画へも多数参加。舞踏家やアジア伝統音楽奏者とのコラボ、欧州での演奏活動も多い。





1−3 田中信正プロフィール
4歳より電子オルガンをはじめ、16歳でクラシックピアノに転向。国立音楽大学作曲学科中退。クラシックピアノを小灘裕子、ジャズピアノを藤井英一、橋本一子、佐藤允彦 各氏に師事。1993年横濱ジャズプロムナード第一回コンペティションで、グランプリ及び個人賞ベストプレイヤー賞受賞。共演者と創り上げる自由で即興性に富んだ演奏活動は、JAZZのフォーマットばかりではなく多岐に渡る。 現在は、数多くのユニットのメンバー としてライブやレコーディングに参加している。オリジナルと独創的なアレンジによるソロピアノは、比類なき唯一無二の演奏として評価が高い。2014年より、超弩級ユニット「田中信正トリオ作戦失敗[落合原介b、橋本学ds]」を新たに始動、201511CD「作戦失敗」を リリース。 

2 制作コンセプト

2−1ART
リーダーの喜多直毅さんは、タンゴを基本としながらもJazzの即興性を取り入れ、自由なインプロビゼーションを繰り広げるというアプローチをしている方です。一方の田中信正さんは、Jazzピアニストであり、歌の伴奏にも定評があります。本作では、ラテンアメリカのタンゴやボサノバの名曲を喜多直毅風に自由な即興で演奏、それをしなやかに支えるApfによるヂュオアルバムです。



ヂュエットの演奏をどう言った関係で捉えるのがいいのかは、2人がどんな対話をするのかでバランスが決まります。お互いが対等でエネルギーをぶつけ合うのか?それともリード楽器に寄り添って支えながら、ポイントによって自己を表現するのか?今回は、後者の関係を選択しました。ホールでこのお二人をどう表現するのがいいか?レコーディングの前に行われたリハーサルに参加して、音場の設計図を検討しました。
「朝モヤが漂う湖面に浮かぶ一艘の小舟の上で笛を吹く貴公子」
というのが今回のイメージでした。すなわちホールの響きをたくさん取り入れたやや大きめのApfにスポットとしてのVnという構図です。これに基づいてステージの配置とマイキングを検討しました。

2−2TECHNOLOGY




ホール録音ではすでに定番としてUNAMAS制作でもおなじみのRME-MICPRE-MADI伝送−MADI分岐から現用・予備DAW録音という一連の系統は、本作でも変わりません。メインとなるデジタルマイクKM-133Dは今回、ApfL-R-Cで3本、ガット弦Vnに近接ペアで2本とし、Ls-Rs及び9CH用ハイトマイクはアナログとしました。またEMCノイズ対策やステージ・モニタールームの機器電源供給もオールバッテリーからの供給としていることもこれまでと同様です。







通常のステレオ録音だけであれば、一般的なコンサート形式を順守してステージに向かってやや下手にVnその隣にApfという配置で、メインマイクは、やや下手から斜め方向でセンター定位を設置といった配置が考えられます。しかし本作での全体の音場は、2CH-5CH-9CHを前提にしていますのでL-C-Rのラインは、斜めでなくステージと平行で成立させたいと思いました。
本作は、Jazzエッセンスを取り入れた即興演奏であり、お互いが目線を合わせて、呼吸を同一化した配置がいいのではないかとも思いましたので通常のコンサートステージ配置でなくやや手前に出したApfの後ろでピアニストと目線が相対する場所をVnとしました。これは事前に会場下見に参加されたVnの喜多さんにもその旨をお伝えし、実際にその場所でVnもテスト演奏していただき、それで大丈夫でしょう。という確認をいただき実施することができました。








ガット弦のVnは、とても繊細で、通常のlive録音などでは、コンタクトマイクを付けて録音しているとのことです。しかしせっかくのホールにおけるセッション録音ですので、コンタクトマイクの併用は、控え楽器の鳴りを全体で捉えたいと思いましたので、この配置とすることでApfからのダイレクトなかぶりも抑えられ、かつL-C-Rの直線性も確保することができます。

2−3ENGINEERING
さてデュエットで9CHハイトサラウンドをどう実現するか?「風のホール」は空席時の残響時間が1.8秒で、UNAMASレーベルの定点である軽井沢大賀ホールと特性は同じでした。リハーサル時に観客席を動いて音を聞いいてみましたがとても均一な拡散特性でした。当初ホール2階席にハイト用のマイクを設置する予定でいましたが、リハーサルを聞いてガット弦の音量が小さいので、響きをS/N良く録音できないだろうと思い、大賀ホール録音でのステージ端から客席を狙うハイトマイキングに変更しました。
Ls-Rs は、Sanken CO-100K x2TopFront-L.R TopRear Ls.Rsは、CUW-180 x2です。








Apfの拡散板を今回は使用しました。Apfの伸びやかな響きをホールに飛ばしたいと思ったからです。前作「Dimensions」を録音した大賀ホールでも使用しましたがAcoustic Revive製のシルクディフーザーをピアノの下部へ設置しています。調律を担当していただいた按田泰司さんも「コンサートで使ってみたいですね。」と興味を持っていました。






3 2CH/5CH/HPL-9/MQA制作
今回の録音チャンネル数は、12CHです。MIXは、それぞれのフォーマットに応じて独立してMIXしますのでいわゆるDOWN MIXは行っていません。特に2CH MIXは、すべてのマイクを使うと位相干渉が生じて音色が濁ってしまうため、必要最小限のマイクのみを使っています。次に5CH MIXを次に9CH MIXをと少ないCH数からMIXを行っています。逆の方法でまず9CHそして5CH、最後に2CH MIXを行う方もいますので、どちらが正解というわけではなく、やりやすい手順で行えばいいと思います。筆者が、2CH MIXから始めているのは、各CHのバランスをまとめてチェックしやすいので2CHから始めているだけです。

サラウンドMIXでは、全CHから音が出ますので、それだけで満足してチャンネル間のバランスを見誤る場合があるからです。今回のヂュエットの定位は、実音がフロントにしかありませんのでサラウンドは、ホールのアンビエンスだけになります。Vnは狭いA-BペアでレコーディングしましたのでL-C-Rパンで少し内側へ定位させてハードセンターにも実音を少しこぼしています。
Vnのマイキングをモノーラル1本でレコーディングしていればVnを実音モノーラルでハードセンターへ定位させることができますが、本作ではガット弦のディテールを捕らえるためにA-Bペアで録音したためです。

5CH9CHのマスターが完成した段階でバイノーラルレンダリングのためのHPLフォーマットを作成しますが、今回は、5CHマスターと9CHマスターのどちらがバイノーラルレンダリングしてヘッドフォン再生した場合に有効かを検証してもらうために2タイプでテストレンダリングした音源をRME Premium Recordings皆さんへ聞いてもらい、意見をいただいて最終的には9CHマスターからのバイノーラルレンダリングを行いHPL-9としました。

MQAコーディングについては、本作もOTTAVA RecordsからMQA-CDとしてリリースしましたので192-24 2CHマスターをCDファミリーの176.4-24Pyramix上で変換したデータをイギリスのBob氏へ送りMQA 44.1-16 Flacデータを受領後、後は、通常のルーティンであるDDPファイルを作成しCDプレスとなります。注意点は、一度MQA Flacになったデータはその後で何らかの加工やプロセスを行わないという点です。筆者も以前MQA-FlacになったデータをDDP作成時にレベルを修正したことがありましたが、そうするとMQAデコード情報として埋め込まれているメタデータと一致しなくなるためMQA音源としてデコーダーが認識しなくなりますので必要なプロセスがあれば必ずMQAエンコード前に全てを実施しておき一旦MQAデータになったからは何もしてはならない!という点が注意点です。


4 初トライアルADI-2 PRO によるDSD11.2PCM768KHzダイレクト録音




今回のレコーディングでは、RMEとして初めてDSDの録音・再生に対応したADI-2 Proを使用して、試験運用としてDSD256およびPCM768kHzでの録音もシンタックス ジャパンの皆さんにより実施されました。ステージ上に立てられたステレオワンポイントマイク(Blue Microphones)をアナログのままコントロール・ルームへ伝送、2台のADI-2 Proにより録音。DSDPCMの音質の違いなどを検証するための資料として記録されました。こうしたテストの成果は、半年後の沖縄 竹富島でのルーツ音楽録音でDSD11.2初アルバムとしてRME Premium Recordingsからリリースという形で実現しています。



終わりに
6月20日にVnの喜多さん、そして今回のA&Rを担当しました名古屋の三ヶ田さんも参加したプレスリリースがシンタックス ジャパン5Fラウンジで行われ、なんと喜多さんがガット弦で演奏まで披露していただきました。

またYouTubeにも3本のPVがアップされていますので是非ご覧ください。





制作スタッフ
Recording Date 29th-30th November 2016 at Mitaka KAZE-Hall
Producer Naoki Kita
A&R Michiko Mikata
Venue Organizer Seiji Murai
Recording Engineer: Mick Sawaguchi
Assistant Engineer Tomomi Aibara
Mix/Mastering Mick Sawaguchi

Recording Equipment:
Digital Mic KM-133D as MainMic (Sennheiser JAPAN K.K) Sanken CO-100KX2 Sanken CUW-180X2
MADI Rec by RME DMC 842/Micstasy M/MADIface XT/Fireface UFX+/MADI Router (Synthax Japan Inc)
DAW: Pyramix V-10 192-24 Rec-Master. Magix Sequoia V-13

Peripheral Facility: Kiyotaka Miyashita (JINON)
Battery Power Supply: PowerYIILE PLUS (ELIIYPower co.ltd)
Cover Photographer: Toru Tsuji Photographer: Tadao Hosomi
Art director: Nao Masaki (Lifedeco)
Designer: Koichi Fujimoto (fujimotogumi)

Special Thanks: Ryuichi Sasaki (OTTAVA) Norman Renger (Pixel Arranger)

Online High-Resolution music distribution http://www.synthax.jp/RPR/



No comments:

Post a Comment