October 1, 2021

11.1ch Immersive recording at やまびこHALL 八ヶ岳

八ヶ岳 やまびこホールにおけるImmersiveレコーディング

Air-Mei 制作レポート

                       Mick Sawaguchi  沢口音楽工房


 

はじめに



Immersive Audio Musicを真摯に制作してきたシンタックスJapanのPremium RecordsがPicnic Recordsと合同で2021春に新作Air-Meiというアルバムを制作しエンジニアとして参画したので技術面を紹介します。

                 

Vocal  Mei Piano 中村朱里 Violin Moe

作詞・作曲 坂牧恵

編曲 中村朱里

 

アルバムは、2CHでの配信とMQA-CD 11.1CH MIXやバイノーラルHPL 2CHなど多岐に渡りますが、ここでは主に11.1 CHでのレコーディングとMIXについて紹介します。Premium Recordsが2017 年10月にレコーディングした12作目のアルバムが今回の編成やコンセプトと似ていますので両者を比較しながらImmersive Audioへのアプローチを紹介します。


1目的

今回は、アルバム制作以外にいくつかの目的がありましたので以下に紹介します。

1-1 シンガー・ソングライターとして都内LIVE活動をおこなっているMeiさんのオリジナル楽曲10曲をVo-Apf-Vnの編成でレコーディング。

1-2 シンタックスJapanが扱っているMADI ・AVBといった伝送規格によるマイクプリ新製品でどのような音質の違いがあるのか検証し、合わせてその結果をデータとしてユーザーにHPで提供。

1-3 やまびこホールでのImmersive Audio録音に適したハイト・マイキングを検証するスタートとする。

1-4 従来の2CHモニタールームに加えて11.1CH モニタールームも併設し関係者がImmersive Audioを現場で体験する。

2レコーディングの実際

レコーディングは2021年4月13日−15日で北杜市のやまびこホールで行われました。このホールは、FIG-03でみるように木組み構造のホールでとても柔らかい響きをしています。ここで以前Premium Recordsが入交氏によって録音された音源を聞いたときにとても弦楽器や生音に合う響きだという印象がありました。筆者には、初のホールですので、現場に入ってから最初にピアノの位置を決め、それに合わせてVnとVoの立ち位置を検討しました。3人がお互いに呼吸を合わせて目線も合わせられるように3角形の配置という2017年と同様の配置となりました!

         

FIG-04にはレコーディング系統図を示します。3機種のマイクプリアンプを音質検証するためメイン楽器は、3系統に分配してそれぞれ3台のDAWに192kHz−24bitで録音されました。


FIG-05は2CHモニタールームを紹介します。Genelec同軸モニターは、2019年のフィンランド・シベリウスHALLでのレコーディングで初使用しましたが自動キャリブレーションGML Ver4.0で76dB/CHに設定、アコースティック楽器のモニターに最適です。



FIG-06には11.1CHモニタールームを示します。

 マイキングは以下のようです。規格の異なる3種類のマイクプリに信号分配するのでセッティングの時間を考慮してシンプルな構成としました。演奏の皆さんには、ホールでの空間を感じながら演奏をして欲しいのでモニターは、ヘッドフォンを使わずVOにFB専用のOC-818を独立設置して小型MIXER経由でFB-SP設置でモニターとしました。

 


FIG-07/ 08に今回のマイクプリ設置を示します。


 

Voは、Vanguard V-13 TUBE

Apfは、Austrian Audio OC-818-L-C-R

Vnは、Sontronics Appolo X-Yステレオ リボン

SL-SRは、Sanken CO-100KX2

ハイト用4CHは、Sanken CUW-18- XYX2

FIG-09-14参照







3 Immersive mixと最終マスター

前回のPremium RecordsのレコーディングPROJECTは、2017年10月5−6日で三鷹芸術文化会館「風のホール」にてVOX-Apf-Vcという編成でしたのでその時のアプローチと比較しながら今回のMIXについて述べます。FIG-15 にJKをまたこの時のImmersive Audio MixのデザインをFIG-16に示します。

          

このデザインでは、Apfを実音としてフロントとリアに配置し、SL-SRには、Sanken CO-100K としています。またハイトCHに実音を入れたかったのでVoにパラ設置したUM-900をハイトのFL-FRへ、Voのリバーブは、ハイトの4CHとしています。Vcは、この時モノーラル録音を前提にしていましたのでフロント定位になっています。


***余談になりますが、サラウンド対応のリバーブを192-24で使用した経験がある方々の悩みは、Immersive Audioとして8CHくらいのリバーブをVST3プラグインなどでインサーとするとそれだけでDAWのCPU 負荷が70%くらいになり再生だけなら問題ないのですがMIX DOWNにすると途中でノイズやフリーズする経験があるかと思います。そのため2CHリバーブの複数組み合わせや外部ハードウエアー・リバーブに負荷を切り分けするなど苦労します。

筆者は、妥協の産物として4CHモードでベースCHとハイトCHに切り分けてCPU負荷を50%程度に抑えてMIX DOWNでもフリーズを何とか防止していますが***

 

FIG-17 18にホールとボーカルマイキングを示します。FIG-19 20にはその時の録音系統図を示します。

 



 




FIG-21には今回のサウンド・デザインを示します。

 

マイキングとそれぞれの定位は、ほぼ1:1の関係になりますので、Pyramix DAW上で11.1CH MIX PROJECTを作ると各トラックを3Dパンナーで振り分ければ後は、微調整くらいです。今回は、Vnをステレオ・リボンマイクで録音しましたのでLs-Rsに配置しました。FIG-22からFIG-24までにMIX画面を紹介します。1:1なのでとてもシンプルなことがおわかりになると思います。








 

マスターprojectの表示を紹介します。トラック・アサインは、ワールド・スタンダードアサインで上から順番に

L-R-C-LFE-SL-SR-Ls-Rs-Top FL-TopFR-Top rl-Top rrの12CHです。

4 Dolby Atmos配信用やSONY 360RAレンダーデータの作成

Projectを48-24ファイルに変換

ProjectファイルをDolby Atmos レダラーに接続してレンダリングし.ATMOSなど3つのファイルができますのでそれをまずADM-BWAVファイル形式にエキスポートします。最終的には、これをさらに配信用の軽い形式である.mp4というファイルを作ります。

360RAでは、同様に48-24ファイルからArchitectと呼ぶレンダラーでファイルを作成し、さらにこれをエンコーダーでエンコードして配信用の.mp4フォーマットにします。扱えるCH数は、10-24CHまでの3Dオーディオになります。

これ以外にもAuro3Dや最大64CHまでを扱えるHOA- Ambisonicsなど各種ありそれぞれで運用の上でのメリット・デメリットや扱えるOSの相違もありますので市場とユーザーの動向、さらに5Gをターゲットにしたストリーミング・プラットフォームの動向などを調査分析して次の一手を準備するのが日本の文化ガラパゴスを回避する方法だと思います。

終わりに

2014年来11.1CHでのアルバムをUNAMAS Labelで制作してきた筆者にとって2021年にApple MusicやSONY 360 RAが新たに加わり、国内でも制作してみようかという動きが出てきたことを歓迎したいと思います。個人的には、過去のマルチトラック音源Re-Mixや2CHマスターをプラグイン頼みでアップMIXしたような音楽に3D MUSICと言った看板をつけてリリースして欲しくないと切望しています。


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