June 10, 2007

第44回サラウンド塾 2007年JPPA AWARD学生部門授賞作品から 片野裕史

By. Mick Sawaguchi
日時:2007年6月10日
場所:三鷹 沢口スタジオ
講師:MIX担当 片野裕史(現 ニュービデオ 勤務)
テーマ:2007年JPPA アワード 学生部門授賞作品から
~部門2 シルバー賞受賞「もしもライブに行けたなら」サラウンド作品~
日本工学院八王子専門学校

沢口:2007年6月の定例は24日で企画していましたので今回は、急遽飛び込みの寺子屋塾です。毎年日本ポストプロダクション協会が優れた編集 ミキシングに対して表彰しているJPPAアワードという行事があり今年2007年で11年目を迎えました。私はミキシング部門の審査員を担当していますがこの表彰式が5月25日に青山で開催され、それに出席していた時に学生部門の授賞のなかにビッグバンドのスタジオ制作をサラウンドで行った作品がシルバー賞を受賞したのが目にとまりました。たまたまその学校でクラスを担当しているのがInterBEEシンポジュームをともに企画している掘さんでしたので、堀さんにお願いしてこの作品を担当した学生の片野さんを講師に寺子屋を開催しようと思いました。プロの世界でもまだまだ音楽のサラウンドを手がけるひとは少ない中で、なにか我々にも参考になる点が多いのではないかと考えたからです。片野さんは、今春学校を卒業しビデオ制作会社ニュービデオに就職しており、彼の勤務の空くところを工面して頂き急遽6月10日で開催となりました。本日も朝5時からの生放送を終えて、ここへ来てくれました。では、片野さん、よろしく。
片野:こんにちは、片野です。これは昨年8月から卒業制作として取り組んだ企画で、私が企画から準備 収録までを一貫して担当し映像、美術といったスタッフとともに制作した作品です。TVスタジオにラテンビッグバンドを配置してサラウンドでダイレクトMIXするとどんなサラウンド空間が得られるのか経験してみたいと思ったのがきっかけです。そのきっかけを与えてくれたのは、今日もお見えの井上先生です。井上先生が授業でTV朝日映像のお話や実際のサラウンドをデモして頂きそれらのデモを聞いて自分でもやってみたいと思ったのが最初でした。それではDVDを持ってきましたのでまず、これを聞いてみてください。内容はラテンの名曲3曲を映像とともに収録、1曲は音声のみで録音しています。私が企画書作成から制作まで一貫して取り組んだ成果が今回JPPAアワードの部門2でシルバー賞を受賞できましたことは、ほんとうにやって良かったという実感ととともに嬉しい気持ちで一杯です。またご指導いただいた堀先生や井上先生にも感謝感謝です!

デモ再生

片野:それでは当日の収録について資料を参照しながらお話します。

これがスタジオのバンド配置図です。当学校のTVスタジオは約80坪でTVスタジオにしては音楽録音も考慮して響きの少ないデッドな仕上げのTVスタジオですので録音面での心配はありませんでした。バンドの配置をどうするか映像面も考えて検討し、結果的にカメラの動く範囲を広く確保するためにV字形の配置としました。これは幸い演奏者にもお互いの音が聞きやすく好評でした。サラウンド空間へビッグバンドをどう定位させるのがいいかについては事前に彼らのライブを見に行ったりリハーサルスタジオでの練習を見学して構想を練りました。ここにあるのが私の手書きのサラウンド MIXイメージ図です。井上先生からも、録音当日までにサラウンドでのサウンドデザインをしっかり考えてから本番に望むことの重要性をアドバイスしていただきましたので、色々なイメージを検討しました。

当初ビッグバンドが360度で全方位に配置するとどうだろうといったことも考えましたが、実際のスタジオでのバンド配置から、それぞれのかぶりが多いのでイメージしたようなサークル音場を作るのは難しいことが体験として理解できました。今回は、あくまでスタジオをライブ会場と考えてスタジオ天井からの吊りマイクとスタジオ後壁に設置したPZMマイクによるアンビエンスサラウンドをメインとしています。ドラムは、私がこだわったところで今までの実習やライブハウスなどにいって聞いた音やマイキングを参考にしてセッティングしました。また当日のスタジオフロアー担当にはマイクの距離や角度なども細かく注文してセッティングしました。ブラス関係は、リハーサルの音を聞きながら距離を調整しています。

これは本番当日の回線図とスケジュールです。準備から収録までリハーサルも限られているし、ダイレクトサラウンドMIXなので大変緊張しました。サラウンドMIXは、そのまま収録VCR PANASONIC D-5 8CHレコーダーへ6トラックをサラウンドMIXで、残り2トラックにステレオのダウンMIXを収録しています。ポストプロダクションといった過程は全く無しで、収録後はディレクター、編集マンと映像中心で編集し、マスターが完成です。ポストプロダクションで曲間に拍手などを入れてみようと言うことでトライしてみましたが、逆に、違和感を感じたのでこれは採用しませんでした。(笑い)

堀:少し補足説明しますと、このラテンビッグバンドは、アマチュアとしては大変息の長いラテンビッグバンドで三砂さんが東京キューバンボーイズを解散したときにそのスコア全てを譲り受けたというくらいレベルが高く現在30数名の団員がいます。高校生から高齢者まで多彩で隔月で川崎にてライブ活動を行っています。バンマスが私のJAZZの師匠でもあることから、機会があれば学生の制作実習で収録してみたいと考えていました。通常学生の制作実習で取り上げる音楽というとどうしてもロックバンドと相場が決まっており、社会に出る前に色々なジャンルの音楽を経験しておく大切さを常日頃感じていたひとりでした。とはいえ学生自身にそうした意欲がないと実現できませんが、2006年の学生の片野君が大変意欲的でなおかつサラウンドで制作したいというので実現したものです。

サラウンドフロントSPはEXCUSIVEの上の黒い部分

リアサラウンドSP

以下参加者とのフリーディスカッションです。
Q-01:スタジオのモニター関係は?
A:おおげさなモニターは組んでいません。カメラマン用にMIXOUTを場内PAそれにVOがありましたのでこれを薄くバンド全体にバンマス中心で返しています。
Q-02:やってみてどんな感想ですか?
A:やってみて良かったと思います。ステレオでは味わえない臨場感が経験できました。また音楽だけでなくドラマや映画、バラエティなどでサラウンドをやったらどうできるのかなど、挑戦してみたいです。学校にはサラウンドの設備がありますが、今まで放送制作関係では使ったことがありません。昨年声をコラージュした作品が卒業制作で作られていますがその1作くらいです。私はせっかくサラウンドという新たな音を創造できる時代になったのだから自分でも是非これを経験してみたいと考えていましたので、とても勉強になりました、今の会社でもいつか是非実現したいと思います。
Q-03:ボーカルの曲ではどんな仕上がりをイメージしてMIXしましたか?
A:ボーカルがバンド全体に柔らかくなじむようなイメージにしたいと思いました。
参加者:そのためにはサラウンドでのリバーブの使い方を工夫したらいいですね。今回のMIXでは、フロントにかたよりすぎてやや浮き上がった印象でした。
Q-04:専門学校2年間でどういった実習が行われるのですか?
A:2年間は大変短いのが実際です。この間に放送制作に関わるあらゆるジャンル:スタジオ制作、中継、ロケ、ポストプロダクションやコンサートライブなど経験しなければなりません。一つのことを突き詰めるためには学生個々人のやる気の大小が2年後には大きな差になってきます。基本が重点となるのでサラウンドの学習はほとんどできません。

Q-05どの曲が満足な出来ですか?
A:私は最後の3曲目が好きです。先生方もこれが一番いいと言ってくれました。それはバンド自体も3曲目でようやく乗ってきたし、映像スタッフもディレクターやカメラマンがスコアを追いながら楽器を捉えることができるようになったからです。カメラマンはSAXといってもどれがSAXなのか始めは知りませんでした。またディレクターも歌詞の無い音楽スコアは初めてで3曲目でようやくスコアを追えるようになりましたので映像と音がここでうまく絡んだ結果だと思います。
Q-06:逆に反省点は?
A:そうですね。パーカッション楽器をもう少し追い込みたかったと思います。全てごちゃごちゃと団子に混じってしまったので。
Q-07事前にどんなイメージトレーニングをしましたか?
A:学生バンドコンテストというのが学校で開催されますが、この時に色々なマイクを試して感覚をつかみました。またスタジオにいままでの録音素材がフェアライトDAWに残っていますのでそれを素材にして空いた時間をみつけてサラウンドにするとどうなるのかといったトレーニングをしました。
Q-08:卒業制作は他に何がありましたか?またスタッフは?
A:ほかにドキュメンタリーとドラマの制作が並行して進行しましたので学生は掛け持ちで役割分担しながら制作しました。私は、2006年の8月から企画書を提出して、準備期間を経て2007年の2月に制作へこぎ着けました。最終的な事柄が決まったのは1週間前で、それまで映像や美術と様々な検討をおこないました。ディレクターは音楽ドラマにしたいという意見でしたし、私は、純粋な音楽番組にしたいと考えていましたのでその調整も大変いい勉強になりました。
参加者コメント:そうですね。特に音楽番組でサラウンドや新たな試みをやりたいと思ったときは音声だけでなく制作側をいかにその気にさせるかの説得も大変重要だというのが我々プロの間でも大切です。きっとこの企画が実現したのも井上流企画書の書き方という伝授があったからではないでしょうか(笑い)
Q-09:今はどんな仕事をしているのですか?
A:現在入社したばかりなので色々なTV制作業務のアシスタントをしています。カメラマンのアシスタントとかやると、映像のことがわかるので「ブームはここからはいればやりやすい」とか「もしこの番組をサラウンドでやるとしたらどんなことができるだろうか」等と言ったことを考えながら仕事しています。
友人でも音声志望でしたが実際の仕事をしたらカメラマンのセンスが良くてカメラマンになったひともいるので幅広い経験は大切にしたいと思います。

沢口:片野さんどうも有り難うございます。では参考にDMPのTOM JUNGが制作したビッグバンドサラウンドと内沼さんが制作したDVD-Aのビッグバンドサラウンドを聞いてみましょう。

デモ:

深田:参考になるとおもっていくつか素材を持ってきました。私が今年5月にウイーンで行われたAES CONVENTIONのなかの学生制作コンペティションのサラウンド ノンクラシカル部門の審査員を担当したときのヨーロッパの学生が制作したサラウンド作品です。

4曲 デモ

深田:いずれも学生が全て制作した作品ですがどれも大変音楽性やミキシングという点でも参考になると思います。これが世界の学生のレベルだとうことを我々プロとして仕事をしている仲間も認識しておかないといけないでしょう。私が印象に残ったひとつにロシアの学生がヌエンドで初めて収録から完成までを担当したアコースティック作品があります。サラウンドデザインとしては今一歩でしたが、そのクオリティの高さは特筆で審査員一同感心しました。

沢口:片野さん長時間有り難うございました。今日は朝5時からの生放送を終えての講師役ということで、どうも有り難うございました。社会人になって2ヶ月たらずという片野さんにとっては、周りの先輩に囲まれての講演は、いささか緊張きみでした!

世の中にでると自からの仕事を他の人へどうプレゼンするかも大変大切なスキルです。ステレオだけではなく学生時代にサラウンドに挑戦したそのバイタリティを今後の業務でも活かしながら次はニューメディアという会社の環境のなかで周りにいい企画をだしてサラウンド制作が実現することを寺子屋メンバー一同期待しています。またその時はこのサラウンド寺子屋塾で堂々と講演してください!(了)

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