October 28, 2005

第27回サラウンド塾 LPFがメインチャンネルに及ぼす音質劣化要因と解決にむけた「フェーズコントロール技術」 細井慎太郎

By. Mick Sawaguchi
日時:2005年10月28日
場所:パイオニア 第一スタジオ
講師:細井 慎太郎(パイオニアスピーカ技術部 Email:shintaro_hosoi@post.pioneer.co.jp)
テーマ:LFEチャンネル:LPFがメインチャンネルに及ぼす音質劣化要因と解決にむけた「フェーズコントロール技術」

[ はじめに ]
沢口:音楽のサラウンド制作を行っているとメインのチャンネルでいいバランスをとっても、それにLFEを加えるとどうも低域の勢いが減ってしまう!という悩みを感じたことはありませんか?これは、主に音楽のようにメインチャンネルの音源(ベース・キック・等)をLPFしてLFEへ送った場合に生じています。(相関関係のある音源と呼んでいます。)この原因と解決方法についてパイオニア 細井さんが取り組み昨年のAESベルリンで技術発表。その成果を「フェーズコントロール」という名称で録音制作の入り口から再生側の機器にいたるまで統一した考え方を提起しました。プロ業界のみなさんにも広くしってもらうために10月28日に2回にわけてデモと講演が行われ総勢46名の皆さんが参加、2回目は、主に寺子屋メンバー主体で実施しましたので、その概要をレポートします。
細井:私が、この問題に気づいたのは、パイオニアDVD-Aサラウンドチェックディスクを制作するため、このスタジオで音楽のMIX を行っていた時にメインチャンネルのバランスではいい感じなのにLFEを加えると低域がやせてしまうという現象を経験し、これは何故か?を研究しはじめたことがきっかけです。音の時間と位相のミスマッチを解消し、低音を意図どおり再生するための技術コンセプトとして「フェーズコントロール」という考え方を制作から再生までトータルで提案したものです。
・ 現象は(LFEchとメインchとに相関がある場合)メイン音を変質させます。
・ 原因はメインchとLFEchとの「時間」「位相」のミスマッチで主な原因はLFE の帯域制限を行うデジタルLPFが発生する群遅延にあります。これはどんなタイプの フィルターを使っているかによって多少の遅延時間差がありますが、おおむね3-6msecの遅れとなります。既存のサラウンド音楽ソフト100タイトルを調査しましたが、メインチャンネルとLFE との位相関係が揃っていたのは、1タイトルだけでした。

映画・ドラマなどメインチャンネルとLFEが無相関な場合 楽音源は全てが同じ音源・時間軸なので相関が高い
・ 原因の所在は「ソフト」と「再生側」にあります。
・ 解決策を“PHASE CONTROL”と呼んでいます。

無相関型
メインチャンネルと全く無関係な信号を使用して、LFEを作成。これは主に映画音響やドラマ、ドキュメンタリー、アニメなどメインチャンネルとは相関のない音源を使用して新たに作り出すLFEの場合です。この場合は上記のような現象を生じることはありません。


相関型
音楽のように時間軸が同じでベースやKICKといった一つの信号から、ローパスフィルター(LPF)を通してLFEを作成する場合に相当し、このときにメインチャンネル音とLFE音の位相ずれが音質劣化を生じます。LFE作成時のローパスフィルターの遅れによる影響で、LFEとメインチャンネルの時間と位相のミスマッチにより、干渉を起こしメインチャンネルの低音を変質させる結果になります。下の図でも分かるようにカットオフ周波数付近で深いディップを生じています。


制作側での解決方法(DAWを使用する場合)
バス単位でPHASE CONTROLを行う場合
LFEのBusにLPFを入れる、LFE以外のBusにDelayを入れるs最適ディレイ表に従って、Delayを調整
利点:簡便であり、DSPパワーも食わない
欠点:メインにDelayが入るので音質的な懸念がある。

チャンネル単位でPHASE CONTROLを行う場合
LFEに使用するチャンネルをデュプリケート、LFE用のチャンネルにLPFを入れる、LPF で生じる遅れの分最適ディレイ表の時間から値を見て、音源クリップのリージョンを早める。
利点:メインを変化させないので、音質的な問題がない
欠点:作業が多少煩雑、DSPパワーも多く必要

フェーズコントロールが無い場合のLPF周辺の特性ふ・ェーズコントロールを行った場合のLPF 周辺の特性
相関型LFEをモニターする場合の注意点
・ ディスクリートの場合(5.1CHモニターがそれぞれ同一モデルでセットした場合)
サブウーファーのLPFをバイパスする
※ バイパス不可能なサブウーファーもある
・ バスマネージメントの場合(サラウンド モニターなどが低域をカットされたベースマネージメントの使用を前提としたシステム)
適切なバスマネージメントで純正組み合わせで使用するのが無難
例えば、GENELEC や M&K等

パイオニアからの提案
PHASE CONTROL技術を適用しただけでは、消費者にはわかりません。そこで、ロゴマークをパッケージに表記して、LFEの問題が解決されたソフトであることを知らせることを提案します。

PHASE CONTROL技術を業界内に広く提案、無償ライセンス
・AES116th Conventionで学会発表
・Prosound8月号に解説記事掲載
PHASE CONTROL採用決定ソフト
・ CHAGE & ASKA 限定DVD 
・ マーラー第3番(SACD&DVD-A)オクタヴィアレコード 
・06年春公開映画、DVD等にも採用予定
・広く業界に対して、業界団体等に提案活動中

Q&A:
Q:Dolbyやdts・AAC などのエンコード・デコードが入る場合の遅延はどれくらいか? 
Q:LFE 側で逆相SWがあるがこれでは解決しないのか?
Q:再生アンプで位相の補正を行うとのことだが、それで制作側でずれた、位相関係が修正されるのか?
Q:無償ロゴライセンスの手続きと制作したソフトの品質チェック方法は?
Q:スタジオ音響設計を行っているが、相関型と無相関型のソフト制作でモニタリングの位相処理を変えるといったことを考慮しなければならないのか?
Q:100タイトルほどチェックした結果だが、制作側では今までそうした現象に気づかなかった? (了)

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