By.Mick Sawaguchi サラウンド寺子屋塾 主宰
日時:2011年07月10日
場所:株式会社ソナ 試聴室
講師:冨田勲
テーマ:「源氏物語幻想交響絵巻・完全版」「惑星(プラネッツ) Ultimate Edition」サラウンド制作について
沢口:2011年7月のサラウンド寺子屋は、冨田先生の新作ついて、制作の舞台裏なども含めて試聴とお話をいただきたいと思います。本日の内容にふさわしい素晴らしいサラウンド再生環境ということでソナさんの試聴室を提供して頂きました。いつも有難うございます。では冨田先生にじっくりとお話とデモをしていただきたいと思います。
冨田:冨田勲です。私の念願の「源氏物語」と「プラネッツ(惑星)」の両方の曲をアルバムにしてサラウンドにしてリリースをしたかったのですが、ご存知のようにレコード会社はサラウンドはもう取り上げないという傾向になっています。だから源氏物語のサラウンドが出来ましたと言って沢口さんのお宅までスーツケースに入れて、まだレコードになる前ですよね、Nuendoに入れて聴いてもらったのがもう二年位前です。それから色々レコード会社の人達に聞かせたのですが、プラネッツは、以前出したのも覚えている人もいるし、これは是非出したいけれどもサラウンドは追って考えましょうといった状況でした。私は、最初からサラウンドで出してくれる所ではなければ嫌だという事で時間が経っていましたが、最終的にDENON系のコロムビアがやりましょうということで発売になったといういきさつです。今レコード会社は歌モノが主体になっているのですが、インストゥルメンタルなアルバムというのは余程でないとCDでも取り上げてくれない。その上サラウンドという条件が付くとなおのこと。非常に難しい状態でこれは一体どういう現象なのかやっぱり皆さんで考えないとこのまま行きますとサラウンドっていうのは没落してしまう。過去の一時期の流行った一つの方式みたいな事で忘れられてしまうような気がしますので、今までサラウンドにかなりこだわってきた私としてもこれじゃちょっと忍びないものがありますので今日は、皆さんにも私はこういった形で作りましたというのをお聴き頂いて色々ご意見などを頂けるとありがたいと思っております。
私のサラウンドの音の組み方というのは、人為的なところが非常に強いと自分では思っています。映画館で聴かれる音というのは結構微妙な音でも、防音された部屋の中でお客さんに囲まれている。しかも料金払って来ているので払った分だけ吸収しようという気持ちがあるわけです。だから聴く気構えが違うのと、それだけに集中させるような場になっていますけれども、一般家庭ですと外に車も走るし子供が騒ぐ。そういう中でドラマが観られているという事を平均的な観られ方として考えなくてはいけないなと私の考えが自然になってしまった訳ですね。それはサラウンドにしたってそうだと思います。この(試聴室の)ような装置で聴いてくれる人っていうのはほとんどいない。勿論ホームシアターで凝った人達がいますからそういう層の人もいるのですが、ただその人達だけを相手にしていたらレコード会社は儲からない訳です。
● 源氏物語の制作
平安朝、このスピーカーに囲まれたこの中が1000年昔の平安朝時代の王宮の日々、庭園のある王宮である宴がそこで催されているというような雰囲気をこの場の中に創るという事。つまり音場演出ですね。「桜の季節、王宮の日々」という2番目の曲あるのですが、シチリキが後ろの方で聴こえてだんだんそれが移動してきて、結局正面のスピーカーの所まで来るというような移動もしています。これにはナレーション坂田美子さん。琵琶奏者でおられるのですが語り部もされるので、一般のナレーターにやってもらうよりもミュージシャンですから背景のオーケストラとの兼ね合いをよく考えて頂けるのではないかということでお願いしました。原作は中居和子先生、最近亡くなられましたけれども、京言葉で源氏物語を綴った本があるのですけれども、いわゆる京都の雰囲気。まあ雰囲気があるんですね。そういうような京都の雰囲気でポツリポツリと語り始めるところからこの音楽は、このサラウンドは始まるような雰囲気にしました。最初が源氏の誕生のところ。桐壺が本当のお母さんなんですけれど、帝にものすごく可愛がられる。可愛がられたんだけれども身分がそれほど高くないので周りからいじめられる。そうこうしているうちに神経衰弱になっちゃって出家をするのかな。まあ早くして亡くなっちゃうんですね。それで藤壺があとから来るお母さんなんですが、年は自分と近いので源氏は初恋の人が藤壺で。それが2曲目「桜の季節、王宮の日々」です。庭園で宴が行われていて源氏が藤壺に惚れたきっかけでもあるんですね。結局藤壺は源氏の子供を宿してしまう。これはひどいものですよ。帝が親父さんですよね。その同じ運命が女三の宮の時に自分が、葵上が早くして亡くなってしまったので二番目の后に女三の宮を迎えるのですが、実は同じ目に源氏も遭うんですね。非常に好色な柏木に寝取られてしまって。その生まれた子供を自分の子供として認知しなくてはいけないという。そこの部分も音楽にありますけれども、そこまでかけていますと日が暮れちゃうので、出だしの所を。このナレーションだけ聴いていると京言葉ってストレートに英語みたいに言わないから、あまり意味が分からないと思うのですが、ただ雰囲気が物凄くあると思います。じゃあ聴いてみましょう。
[ 視聴 ]
冨田:冒頭の部分を聴いて頂いた訳ですが、これは、深田さんに録音をお願いして愛知万博の前夜祭の時に名古屋フィルハーモニー交響楽団によって1時間半のものを、高橋恵子さんの朗読で、名古屋の芸術劇場でコンサートをやりました。その時はまだ曲そのものやオーケストレーションがあまりよく出来てなかったのと、ホールが非常にデッドでこういうものを演奏するにはあまり相応しくなかったという事もありまして。でもヒビノ音響さんと放送の方は深田さんがいい状態にしてくださいましたけれども。それから少し作り直して今回に至った訳です。5年前ですかね、愛知万博でしたから。これはナレーションの伴奏音楽ではないと思っているものですからもっと音楽と同化してオペラで言えばその中に出てくる歌を歌う歌手のようなつもりでナレーションをやってくれる人を探していたところ、やはり琵琶奏者の坂田美子さんはミュージシャンですからその辺はよく心得ておられると思うのと京言葉がまたなんとも言えない雰囲気を醸し出していますので非常に良かったかなと思っております。これはあの帝、源氏のお父さんですよね。この事実を知っていながら感情の表に一切出さないで、それで藤壺の生んだ子供を自分の子供として非常に可愛がって、勿論認知はしてるわけですね。この辺が大変大人というか。でも皇室のスキャンダルですね、これは。(一同笑い)大変ですよ。やっぱり紫式部の文才ですかね。400年前、織田信長の時代ですよね。ヨーロッパで色々な文豪が出ました。さらにその600年も昔。世界中に文豪なんていない頃にこれだけの小説を書くということは。まあ日本に文字が入ってきたその後だからこういう小説が書けたんでしょうが、世に不思議ですね。それで美しいんですよね。この後六条の御息所が源氏の二番目の后、藤壺は亡くなってしまうんですけれども、二番目の妃に女三の宮を迎えて、それでそこで源氏はかつて親父にした事と同じ事を柏木にされるわけですけれども。でもそれは自分の子供として認知しなくちゃいけない。それは絵巻に載っていますね、源氏が赤ん坊を抱いているところの有名な絵があるわけですけれども。
あの頃は印刷という技術はないから書き写した訳ですけれども、書き写す人もストーリーが面白いからストーリーに引きづられながら模写と言うんですか。書き写したものが何冊もあってそれを抑えたところで今で言うYouTubeみたいなもので。こっちを抑えた所でこっちが残っていればそっから出てきちゃうという所があって、おそらく抑えきれなかったんじゃないかと勝手に想像するわけです。
次にお聴かせするのは「生霊」。これは葵上に六条の御息所という、いわば愛人ですよね、わかりやすく言えばそういったものです。葵上は本妻で、六条の御息所が愛人ですね。普段から引け目を感じている上にそういうしぐさを葵上は六条の御息所にされるので。だけれどプライド高いでんですよね、六条の御息所っていうのは。自分は教養のある人間だと。そういう関係でずっと続いてきたのが葵の行列、これ今でもありますけれども光源氏が馬に乗ってその行列に加わるという晴れ姿。これを六条の御息所は一目見たいと、愛しい源氏の晴れ姿なので一目見たいというので早くから牛舎でお供を連れて良い場所で待っていたわけです。そしたら三々五々、色々な牛舎が来て賑やかになってきたわけですが。その最後に葵上のお妃の行列がドーンときて。こともあろうに六条の御息所の牛舎の前でふたをしちゃったわけですね。むしろ奥のほうに追いやってしまって家来同士の喧嘩になって、これが有名な車争いですけれども。一昔前の花火見物の車の良い所を最初から陣取っていたのに、後から来て見えなくしちゃったみたいな。今は、係りがいて、そうゆうところには車を入れないし、駐車場には係がいてそうゆうことはないですが、昔は結構あったんですね、多摩川の花火大会なんかも。(一同笑い)それと似たようなことなんだと思うんですよ。後から来て何だって言うこととですが、多勢に無勢ですし、向こうは位も上ですし、家来の数も違いますからね。この車争い、互いの家来が喧嘩している有名な絵巻があります。ただ、あのころの源氏物語で気がつく点は、刀で相手を傷づけた話が一箇所も出てこないです。車争いのとき、どうやっていたのか調べると、木の棍棒なんですね。それで殴りあったんですね。危険な物を、持ち歩かない時代だったんですね。ところが、腕力は相手の方があり、牛車を追いやり柄をおられちゃって、ひっくり返され、公衆の面前で大恥をかかされたわけです。これがねちょっと読んでて、六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)も、ちょっとこれは収まり付かなかったと思うんです。また、腹が立ったのが、源氏の君がその前を素知らぬ顔をして通りすぎて行ったとあります。でも、収まりきれなくて、ついに生霊となって葵の上の寝室で殺しちゃうわけです。そうゆうシーンでも、なんか美しいんですね。これはいったい何なんですかね。ここは、サラウンドならではの、エフェクトをしたいと思って、坂田美子の建前のほうのナレーションが前の方から出ます。ようするに、一生懸命自分でこらえている、相手を憎むことなんてはしたないと、一生懸命こらえているんだけれども、自分の生霊、魂が出ていってしまうんですね。「抑えきれまへん」と言ってますけれども。それで、本音のほうが後ろのスピーカーから出てきます。「髪の毛をつかんで引きずり回し、打ちのめし」これが同じ坂田さんです。優しい顔をした人なんですよね。それが、、、お聴きになった方が下手な解説よりいいですね。(一同笑い)それでは、「生霊」のところをお願いします。
[ 試聴 ]
これが、六条御息所の生霊のところです。このような、描き方をしてみました。もっと、後ろから出る声を天井から聞かせるために、全部同位相にして、頭の中から聞こえるようにした方がいいのかとか、色々考えましたが、結局後ろから出したほうが、前に対して後ろですね、この方が効果があるかと、こうゆう形にしました。それから、もう一つ、六条御息所が死んだあとに死霊となって、紫の上は正式な后にはなれなっかのですが、一番長く源氏仕えて、このストーリーで一番長く登場しているんですね。その、紫の上が亡くなったわけです。それは、源氏が女三宮を新し后としてむかえ、そこから急に衰弱してしまった、ようするに、今まで長く源氏に仕えてきたのですが、これで自分のやることは無くなったという思いになったのではないかと想像するんですが。大変な仕打ちを源氏から受けているんです。仕打ちというのは読者から見てで、源氏は感じていないんですね。それを、耐えに耐えて耐えてしたのが紫の上だと思うんですが、紫の上が亡くなってから源氏がそれに気づくところが出てくるわけです。雪の降る日なんですけども、鳥辺野というところが今でも京都にあるんだそうですけれども、そこが葬儀場です。非常に錆びれた所で、その時、源氏が紫の上を思い出すわけです。紫の上は10歳のときに、雀を逃がしたと泣きじゃくる子、まだ、藤壺の面影が紫の上にあり、その子をみそめて、どうにも誘拐して。今から思うとひどい話なんですね。自分の理想の妻に育て上げるんだと、でも身分からして后にはなれなっかた。そこのところで、ずーと源氏に仕えたきた。そこで、源氏のご乱行はひどいものですよ。いろいろあったんだけれども、結局は紫の上をこころの拠り所にしたようなところがあって、それで、葬儀の後に源氏が、ガックリときちゃって、それからどんどんどんどん年老いちゃって、しまいに亡くなるわけです。その思い出の中の一つに、女三宮、后の所へ行って泊まるわけですけれども、結局は紫の上の所へ、ときどき忍び帰って来るわけですね。そのときに、雪の朝に、朝早く紫の上の玄関の前で、雪が降っているんだけれども、なんが入りづらい。そうやって立っていたら、紫の上が察して、迎え入れてくれた。もう、何事もなかったように源氏を迎え入れたんだけれども、その(紫の上)袖を見たら涙で濡れていたと言う部分があるんです。結局のところ、この物語は、死霊になって六条御息所が紫の上を襲って死んだと言うふうな書き方をしているんですが。葵上の場合は理解できるんですが、なんで紫の上なのか、私もよく分からないですが。それでは、「御息所の死霊」のところをお願いします。シンセサイザーで音を作った部分です。
[ 試聴 ]
● 質問コーナー
この後まだ終曲「平家の世へ」までありますが、今日は、「プラネッツ」もありますので源氏物語はこのあたりまでで、何かご質問はありますか?
Q:初演のときと比べて、シンセサイザーとか楽器構成が違いますか?
冨田:あの時は、コーラスを呼ぶことができなかたので、キーボードでコーラスの部分を篠田君が演奏したんですが、そんな程度(の違い)です。それと、生霊の部分、これ名古屋でやった場合そうなんですけれども、やはりどうしても、前もって用意する必要があって、それはメモリーに入れて、篠田くんが押さえると、あらかじめ作ったナレーションが後ろから聞こえると。今回は、全くシンセサイザーは入っていません。東京交響楽団と和楽器奏者だけですね。
Q:ナレーションと音で表現された部分の構成は、どう考えましたか?
冨田:ナレーションは音楽効果の一部だと思っています。ただ、やはり言葉として中井 和子さんの人格権もありますから、原作者とよく話をして、打ち合わせてやりました。だから、原作者も納得の上で、一つの流れを作ったわけですね。
Q:明珍火箸のさらさらと雪が舞っている音は、どうやって録られたんですか?
冨田:あれは、5人スタジオの中で、4本ばちの、だから一人8本ですね両手で持つから、こうやって持つとチリンチリンと、あと5人同じように。
Q:マイクアレンジどのような方法ですか?すごく、綺麗に聞こえたので。
冨田:マイクはどうやって録ったかな。いい加減だったと思うんですが。(一同笑い)さらさらと雪の降る、冷たいんだけれども、その中に物語性を持ったような感じの音のつもりで入れたんですがね。この前の名古屋の時も明珍火箸を入れましたし、結構、毎回登場します。明珍火箸は今でも、姫路城の売店に行くと売っていますよ。これは鋳型に流しこんで作るんではなく、出雲の砂鉄が棒みたいなやつを、叩いて丸くしているんですね。本当に昔からの鍛冶屋の工房ですね。それを、今だにやり続けている。息子さんが、その後を継いで、明珍さんはすごく喜んでいました。息子さんが3人おられて、その内の一人が、ハリウッドのラストサムライの殺陣(たて)をやったんですね。すごい人がいるわけです。
Q:この作品でサラウンド的に、一番こだわたことはありますが?
冨田:とくに、この次のプラネッツなんかは、実時間で演奏していないわけで、組み立てて行く感じですね。この、源氏物語も、アバコスタジオで、2部屋使いセパレートして録ったんです。となりの部屋でも、ヘッドフォンから音が聞こえ、なおかつ、テレビモニターで指揮者の様子がわかる形でセパレートして(パートごとに)録ります。なので、結局その後の作業は、私がシンセサイザーを使って、いろいろな音源を、最終的にサラウンドミックスダウンするのと同じような手法で作りました。基本的には、センタースピーカーから、ナレーションが出てきますが、あまりセンタースピーカーは信用しいないんです。(一同笑い)それで、サラウンドでベストポジションはここでよと、テープが床に貼ってあって、ここで聞いてい下さい、ここが一番良く聞こえるんですよと。これだから、(サラウンドが)普及しないんだと思うんです。それで、すごい装置をそろえたと、買った人は思っているんですよ。でも、)ベストポジションがそれしかない、ってゆうのは。やっぱり、僕はテレビと同じように、家族でみんなで聞くとか、そうゆうふうでないと普及しないと思うんです。僕は基本的には、4面ステレオです。特に、プラネッツの場合は宇宙ですから、前後や横もないわけで4面ステレオ、源氏物語もそうです。やはり、ナレーションとか、前らしき所にくるものは、ときどき、真ん中にきています。サラウンドでしか出ない効果を、一般の方にも楽しんで頂きたいんです。
交響詩ジャングル大帝、これは私が指導します尚美学園(大学大学院・冨田勲研究室)の研究生たちが、学校の予算でプロのオーケストラ、日本フィルハーモニー交響楽団と藤岡幸夫さんの指揮で、アバコスタジオで、自分たちが現場を持って、サラウンドに組んだんです。
どうやってサラウンドに組むかとなったときに、そのとき私が言ったのは、コンサートホールの音は、コンサートホールに行かないと聞けないんじゃないか、オーディオで聞く場合は、そのの特質を生かした音でないと意味が無いじゃないか。さっきお話しした、音までは、バイロイトのワーグナーが作った劇場にしても、ドレスデンにしても、すごい響きがすると思うんですが、それが収まったとしても、聞く側がちゃんとした装置で聞いてくれないと、少なくともコンサートホールと同じ音量で聞いて、それこベストポジションで聞いてもらえないと、効果がでないと思ったわけです。それで、いっそのこと一般的にするならば、子供たちがどう聞くか、尚美学園の近くに小学校がありますから、ちょうど夏休みでしたので理解のある先生にお願いして、パイオニアの簡易サラウンドセットを持って行って、これが結構いい音するんですね、ウーファーも付いて。そのときは、ハードディスク(DAW)から再生し、子供たちの反応を見ながら作ったんです。やはり、サラウンドが低迷してきた、放送も少なくなっていますし、レコード会社もほとんど取り上げてくれない、今回、本当に苦労したんです。なぜ、このような状況になったかと、サラウンドって言うとみんな口をそろえて、何百万もするようなスピーカーをそろえなきゃ本当の効果がでないのではと。結線が素人にはめんどうだとか。なんとなく、サラウンドが聞いてみたいと思っても、厄介なんじゃないかと思うのが、一般的の認識になってしまっているのではないでしょうか。それで、サラウンドもコンビニ感覚でやらないと、コンビニで子供とお母さん方を無視したものは売れませんよね。だから、まず子供が喜ぶ、お母さん方も喜ぶと言う部分も、もちろんそればっかりで困るんですが、そう言う部分も必要なんじゃないかと。
● 次世代のクリエータについて
僕も5歳の頃、北京の天壇公園で聞いた、不思議な音の聞こえ方、記憶に残っていて、いまこう言う仕事をするようになったのは、父親が連れて行ってくれて、それがきっかけじゃないかと思うんです。そうすると、サラウンド子供たちが興味を持って、サラウンドって素晴らしいと言う気持ちを持てば、彼らが成長してもっと凄いものを聞いてみたいとなります。それをやらないで、いきなり子供たちを無視して、放送局もレコード会社も、今のような結果になりますよね。なので私も、尚美学園、神戸電子専門学校ここがまた熱心でやる気のある人たちが多く、名古屋芸術大学でもやりました。ようするに、どこまでが録音で、どこまでが作曲と言う区分けが、いろいろな機材が発達して安くなり多様化してきたので、区分けが付きにくくなりました。逆に才能のある人間は、非常に発揮できる時代になってきたと思います。学生たちにも、今何を持って作曲と言うのか、僕らの頃は、和声学、対位法、楽式論をやって、おそらくハイドンあたりが築いた理論を今だに音楽学校で教えていますし、それは、無難だからで(一同笑い)、いや僕は否定していませんし、基礎として大事だと思います。でも、逆は真ならずで、モーツァルト達がそれで素晴らしい曲を書いたからと言って、それで名曲が書けると勘違いする人たちがいると。そこに、自分のクリエイティブの独自性をどんどん出して行かないと。それをやるには、今がチャンスじゃないかと思うんです。と言うのは、就職先がないと、作曲ですとゲーム音楽、ゲーム会社とは契約があるが他にあまりない。録音も、今どんどん録音スタジオがなくなっているから、就職先がないと。いま、アメーバのように訳がわからなくなっていますでしょ。今、そんな時代じゃないですか、全てに対して。だけどしたたかに自分の生きる方法を見つけて、生きていく。自分でツボを捕まえてそこに住むこと、自分自身のマネージメントもしなくてはなりません。それには、腕があるからと、通り一辺倒に売り込んでも仕事は来ませんからね。仕事はたまに、一回や2回は来ますが、それが一生のしごとにはなりません。どうですか?僕は最近の仕事をみてそう思うんです。だから、サラウンドだってはっきりしない。最終的には、多く層のリスナーの方が面白いと思ってくれることが結局正解かな。これは作曲も編曲も演奏もそうです。それはこうゆうものだと定義がこれだと定められないような時代で、だから面白いだと思うんです。
冨田:それじゃあプラネッツの方を。これはもう完全なアニメ、漫画です。前作と多少形が変えてあります。RolandのJUPITER-80などの音が入ってかなり音がしっかりしてきました。1曲目からいきます。
[ 視聴 ]
冨田:その次はマーキュリー。3曲目です。
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冨田:これはMOOGシンセサイザーの素材音を76cm/sのスピードで録っておいた訳です。これは非常にややこしい事をやっていますのでNuendoで何年か前に組み直しました。そのNuendoには96kHz対応とあるのですが、あちこちややこしい事をやるとどうも対応できなくなってしまうようで、それで源氏の時は48kHzにした訳です。本当は(源氏物語と)その逆のほうが良かったなと思っているんです。というのはMOOGシンセサイザーというのは原音との比較がないわけですよね、だからやっぱり楽器や自然の収録は96kHzがいいと思います。シンセサイザーの場合は比較がない訳ですよ。96kHzにしたから音が良くなるという物ではなし、やっぱり聴いて音を自分で判断するわけですから、判断した時のその時の状態でいいのです。それと今の宇宙との交信は、よく宇宙船で地上の小学生とかとやりとりをする時の音がもう本当にすぐそこで喋っているような、あるいはラジオと同じようなクオリティで会話ができるのでつまらなくなってきています。(一同笑い)やっぱりあのころのトランシーバーの音とか短波放送の音というのは歴史に残る音なのでやっぱり使いたいなと思って僕はそのまま使ってます。それからロケットの飛び立つところは東名高速で録りました。マイクを風に当てるとバリバリバリという音がしますよね。あの頃のロケットの発射の音はだいたい歪んでいたんです。歪むと逆に迫力があるのでどこのテレビ局もそういう録り方をしたのかもしれないですね。そんな風にシンセサイザーだけでなくて色々やりました。だから音の素材になるものはなんでもなれという感じで。その後のJUPITERなんですが、これは有名なメロディーで、だいたい今まではJUPITERのメロディーまでくると針を上げちゃって、その後が聞かれないんです。実はライナーノーツにも書きましたけれど、糸川さんに対するレクイエムの気持ちがその後にあるのでその後も聞いて頂きたいなと僕は思います。
● 糸川英夫さんの思いで
糸川英夫さんになんで僕が興味を示したかというと、僕が小学校5年生の時にあの人はハヤブサ戦闘機というのを設計しました。僕はその設計者にものすごく関心がいきました。今回の川口淳一郎先生のはやぶさはリハーサルもなしに小惑星イトカワの粒子を地球へ持ち帰って来ました。やっぱり運のいい人もいるんですね。非常にびっくりしたのは、このプラネッツをカセットに入れて貝谷バレエ団に売り込んだんですよ。もしよかったらバレエに使ってくれと。まだレコード会社が取り上げると言ってなかった頃で。そしたら貝谷八百子さんから電話が掛かってきて、今度帝劇で貝谷バレエ団の会をやるんですがその時に是非使わせてくださいと言われた。それで実はご存知でしょうけど糸川博士がうちのバレエ団に入団されて俺に踊らせろとおっしゃるんですよ、僕にとっては願ってもないことでした。貝谷さんはそれほど糸川博士の事を評価されてなかったのか、わからなかったのか、有名な科学者だからと優遇せず上から5クラス位下のクラスに入れたんです。それでも糸川先生は一生懸命になって、足が10センチ上がるようになったとか耳まで届くようになったとか、中学生や高校生のまだ習いたての子達と一緒のクラスですよ。そのクラスで僕のプラネッツを聞いたそうです。そしたら是非俺に踊らせろと。JUPITERの後のエマージェンシーじみた所があってそこで時計のような音が聞こえてくる、そこは土星に入る前の、僕が一番つまらない所じゃないかなと思うところをわざわざ糸川さんが選ばれて、あそこを俺がやりたいと。そしてそこに盲目の科学者というタイトルを付けて欲しいと言うわけですよ。いや、僕は小学校5年生の時の空を飛んだハヤブサのイメージがあるんで…。糸川さんに最初にお会いしたのが帝劇の楽屋だったんです。レコードの中に糸川さんが踊られてる写真が載っているんですが、盲目の科学者とはいっても、成功しない科学者で乞食の格好です。それを踊られたわけです。これがかの人かという感じがしました。小惑星にイトカワという名前が付いたというのは、日本だけでなく世界的に糸川さんの業績が認められたからです。じゃあそのJUPITERを。エマージェンシーの後に惑星とかハヤブサという部分があります。これはやっぱり糸川さんのレクイエムの意味もありますけども、やっぱり夢ですね。
[ 視聴 ]
この後も旅は続くわけですけでども、長くなりますので今日はこのへんで。このあと原作では天王星にいく、当時は遙か彼方離れたところの星というイメージだったんでしょうけれど、(さらに遠い)冥王星なんかが発見されているんですが。最近冥王星は太陽系の一族ではないという話まで出てきて。まあいずれにしてもこの後も遥か遠くを描いているわけです。これくらいで終わらせていただきますけれども。なにかご質問ありましたらどうぞ。
● 質問コーナー
Q:シンセサイザーで大変表情豊かに演奏されていたのを聴いて感動しました。表情豊かにするというのでヒューマンインターフェースが非常に重要じゃないかと思うのですが、フェーダーやツマミやエクスプレッション・ペダルなど、このように表情豊かに演奏されるために冨田さんはどのようにされたのでしょうか?
冨田:実はずいぶん早くからコンピュミックス、クォードエイト、それはただボリュームだけでしたけれども、それをメインに使っていました。ペダルだとどうしてもレベルが曖昧になってしまうんですよね。 コンピュミックスだとレベルがはっきりしますので。ただしアナログ・テープレコーダーの1チャンネルはそのデータで、「ケロケロケロケロ・・・」という音でとられてしまうので。ところがアップデートして直したいなと思うときにはもう1チャンネルいるわけですね。となりのチャンネルに入れながらそれを修正したり、他とのレベルを合わせるにも何度も何度も入れて。でそれを入れておくとタイミングが遅くなっていくんですね、なぜかわからないのですが。例えば妙なノイズがあったところを一瞬引っ込めたいとき、うまくいったと思って何回もやっていると隠していたものがずれて出てきてしまったり。なので何度もアップデートは出来なかったですが それを使ったためにかなり正確に行ったと思います。まあ今のPro ToolsやNuendoはオートメーションを書いたらその通りに再現してくれますがそんなものはなかったですからね。いやあ苦労しましたよ、思い出すのももう。(笑い)ひどかったですよ。仕事部屋に寝袋を持って行って、とにかく睡眠時間はなかったです。それで海岸で日光浴するような木の椅子を持ち込んで寝るんですよ。それで寝ていると2時間くらい経つと体が痛くなってくるんです。それが目覚ましになって起きて次をやるっていう。だけど不思議なのは病気しなかったことです。(一同笑い)
Q:プラネットはマルチの音源を持っていらしたとおっしゃっていましたが?
冨田:付け加えたのもずいぶんありますが、今回は全てNuendoで一からミキシングし直しました。そのまま使えるところはそのまま使いましたが音のクオリティは良くなっているはずです。
Q:かつてクォードエイトでやられていたフェーダーワーク、例えばダイナミクスの盛り上がり方とか そういうのも今回はマウスでやられたのですか?
冨田:そうです。もう一つはマウスだとジグザグしてしまうので不安感があるので、数字で入力しています。あれはもう確実ですよね。無機的のようには思えますがそうとう細かく出来ますよね。それから篳篥のようなもの、この作品は実際の篳篥を使っていますけれども、それ的な表現をする場合に、ピッチコントロールのコントロールを書いています。どこの数字のところで半音になるとか、一音になるとか、そういう表を作ってそれに基づいてやっています。でも大変な手間です!でこれはやっぱり自分でやらないとだめですね。
他の分野の場合はもちろん学生たちと一緒にやる場合もありますけど、この「源氏」と「プラネッツ」は自分だけでやってみたいと。それとレコード会社がもう経済的に、売れる歌ものは一生懸命やるけれどもこういうインストゥルメンタルっていうのは、しかも新しいものはほとんど取り上げなくなりましたよね。本当に今回苦労しました。これからはサラウンドってドバーッと前に出るようにしましょうよみなさんで。どこのレコード会社も「(サラウンドと)表記すると売れなくなる」って言うんですよね。その売れなくなった原因というのはつくる方にも責任はありますからね、放送もどんどん無くなってしまって、なぜですかね?
Q:音を耳元で聴こえるようにするサラウンドのコツはありますか?
冨田:それは愛・地球博の前夜祭コンサートの時は、ローランドのRSSをつかってやっていました。その時僕は指揮をしていたのでその場にはいられなかったのですが、RSSをいくつも使って位相の関係でやって席にいた人が生霊が自分の頬を撫でていったという方がいたようです。ただそれも全員じゃないんですよね。干渉が起きたひとだけなるという。そういう人がいるとすごいことになったということになりますよね。個人的にはあまり積極的にはやってない手法ですが、やってみたいなとは思います。スピーカーのあるところから近づいてくるというのはRSSなどを使う以外ないのではないですかね?あれだと映像の3Dとも合うような気がします。ただ視聴ポジションが限られてしまうのがどうでしょうかね。一人で楽しむ分にはいいと思います。
Q:僕も「プラネッツ」をレコードで聴いてきまして、完璧とずっと思ってきたわけなのですが、今回ローランドのJUPITER-80などで差し替えがあったじゃないですか。それは当時は(今回差し替えた)その音をイメージされていたのですか?
冨田:当時は技術的な面で仕方が無いと思ってOKしていた部分があります。というのは低音が、MOOGシンセサイザーが低音にいくほど芯がないんですよね。例えば鋸歯状波を元にベースみたいな動きをした場合、もちろん効果的に使っているミュージシャンもいますが、今回のあの低音はMOOGじゃ出ないんですよ。なぜかというと低音といっても一周期が複雑な波形になっているのが、鋸歯状波だと一発だけ。あれが低い音にいくにつれてペカペカな音になってしまう。それで僕はアナログシーケンサーでこういう風にして、コントロールインプットが1ボルト/オクターブ、なんでスピードをそんな風に手間かかるのにモーグさんが設計したのかわかりませんが、つまりキーボードで演奏したようにピッチが変わるのです、周期が。あれで低音を作ると充実した音になるので。だから僕の今まで作ってきた物もMOOGシンセサイザーで作った割には低音がしっかりしている部分はそれなんだけれども、やっぱり満足な低音じゃないんですよね。特にパイプオルガンの低音なんていうのは出なかったですね、リバーブかけて広いホールで出したような効果は試行錯誤やりましたがシーケンサーの繰り返しを使っても出なくて。今回JUPITER-80を使ってはじめてまあこういう物かなと。そういうことが随所にありますね。昔は機材がこんなに並んで一つしか効果はありませんでしたが、今はJUPITER-80ひとつとっても色々出来ますからね。面白いですよ。これからの若い人達は幸せですよね。あれはアナログと、必要なところはデジタルにして。あれは工夫すると結構な表情が出てくると思いますよ。人間の声が歌っているようなのも出せるでしょう、下手な歌手呼んできてスキャットさせるよりも全然。(笑い)
沢口:どうもありがとうございました。源氏物語幻想交響絵巻完全版とプラネッツのUltimate Editionを聴きながらの冨田さんのサラウンド制作に対する変わらぬ情熱を、熱く受け止めたことと思います。是非次ぎにつなげていく責任が我々には、あるということです。冨田先生そしてスタジオを提供していただきましたソナの皆さんに感謝申し上げます。(一同拍手)
[関連リンク]
交響詩ジャングル大帝のサラウンド制作と大学の取り組み 冨田勳、野尻修平
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「サラウンド入門」は実践的な解説書です
下書き担当サラウンド寺子屋サポーター:Go HaseGawa、tomomiMUSHnemoto, Tsubasa Sato and NSSJP
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