UNAHQ 4006 [The
Sound of Taketomi Island –OKINAWA]
のPCM192-24/DSD11.2
フィールド・サラウンド録音と音楽制作
Mick
Sawaguchi C.E.O UNAMAS-Label
はじめに
ハイレゾ音楽制作レーベルUNAMAS-Labelでは、筆者のライフワークである自然音サラウンド・フィールド録音と音楽をコラボレーションした「サラウンド・スケープ」というコンンセプトでこれまでに5アルバムを制作してきました。本作は、6作目となるアルバムで、レコーディングは、2017年2月13日から16日に沖縄八重山諸島の一つ「竹富島」で行いました。
この島は、多くの民謡、古謡、芸能、伝承、風習など、八重山地方の伝統文化を大切に継承している島としても有名です。本アルバムは、竹富島の自然音と三線と歌を中心にしたルーツ音楽である古謡の録音を企画し昼は、音楽録音を行い静かになった深夜にフィールド録音を行いました。録音は、エコ音楽制作志向としコンパクトながらもPCM-192-24サラウンドと今回初めてDSD11.2ダイレクト2CH録音を並行して行いましたのでその舞台裏をレポートします。
1竹富島の地理と文化
地図の左下八重山諸島の石垣島の左にある小島が竹富島です。
地図を見てお分かりのように沖縄県の八重山諸島にあり、八重山地方の中心地である石垣島からは、高速船で約15分程(約6km)の距離にある人口365人(2016年7月末現在)の小島です。隆起サンゴ礁でできた平坦なこの島は、平屋の赤瓦、珊瑚の石垣、珊瑚を砕いた白砂の道といった沖縄の原風景を今なお残し沖縄の他のどこよりも「琉球に来た」ということを実感させられる風景です。「自然環境が育んだ文化景観の島」として全体が西表石垣国立公園に指定され、西部には日本最大のサンゴ礁である石西礁湖が広がっています。1986年、住民の総意に基づく「竹富島憲章」が制定され「売らない」「汚さない」「乱さない」「壊さない」「生かす」と島の景観や自然を守るための5原則が謳われ住民による自治体性が確立されている島です。
2フィールド録音
2-1最近の傾向
フィールド録音もステレオやダミーヘッド録音といった2CHステレオ録音に留まらず、各種サラウンドでの録音も行われています。大きなきっかけは、VR ARといった3D音響のニーズからでワンポイント・サラウンドマイクと4CH〜8CH対応のポータブルレコーダーを用いたシステムがメインです。 3Dサラウンドのフィールド録音では、どのようなマイキングが有効かといった決定打がありませんが、3Dフィールドレコーディングを行っている人々が各自工夫し2CHビルトインマイク付きのレコーダーを4台上下アレイに組み合わせ8CH録音するといったアイディアから本格的な4CH〜8CHマイクアレイを上下に組んで実施するといった例が見られます。
古くからヨーロッパを中心に使われてきたAMBISONICというコーディンング技術を応用したワンポイント・サラウンドマイクにもこの3D音響のトレンドが後押ししてか新しいAMBISONIC対応のワンポイント・サラウンドマイクが登場してきました。アメリカでは
Eigenmik という新進のメーカーが32CHワンポイントマイクをリリースしていますし、老舗のSennheiser社もワンポイント・サラウンドマイクの新製品をリリースしました。
2−2竹富島でのフィールド録音
筆者のフィールド録音システムは、自然音をアンビエンスとして録音するのではなく、明確な音像と定位としてサラウンド録音したいという考えからメインマイクは、Sanken CUW-180 XYワンポイントマイクをフロントとリアに使用した4CHを基本にしています。CUW-180には、専用でカゴ型風防+ウインドジャマーが用意されていますので海辺などでも安心です。他社の製品は、そこまで気をくばった風防アクセサリーがないので、別途規格に合う風防などを探さなくてはなりません。レコーダーは、SONOSAX SX-R4という4CHのレコーダーで192-24での録音を基本にしています。深夜の録音風景は、こんな感じです。
最近のZOOM社のF-8CHレコーダーなどでは内臓メモリーも最大512GBと容量が大きくなり長期間のフィールド録音でも安心ですが、SX-R4は60GBのメモリーをHDとCFでミラーリングするタイプなので長期ロケでは別途PCを持参してデータをバックアップしメモリーを空にしておかなくてはなりません。
サラウンドでのフィールド録音では、前方のみでなく、360度で均一な音場が録音できるポイントを見つけなければなりませんので昼間に竹富島のロケハンを行い、どこにどんな音があるのかを調べておいて交通(石垣島をハブにした高速艇が30分おきに八重山諸島へ向けて就航していますのでエンジン音が島中に轟き、昼間は録音できません!)の収まった深夜に現場に出かけて録音しました。サンゴ礁隆起島なので平坦で大きな変化はありませんので、
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サンゴ礁の浜辺 岩場 砂浜 後ろが樹木の浜辺など
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デーゴやガジュマル、バナナ畑と言いた樹草木と風音
です。
海辺でのサラウンドマイキング
海辺の波音をどう捉えるかは、録音する人それぞれです。筆者は、遠浅の砂浜であれば少し沖まで機材を持って出て行き、波が360度で展開するような音場が好みですが、竹富島の海岸は、サンゴ礁の粗い岩盤が多かったので波打ちぎわにマイクを設置してフロントは波に向けて下げリアのマイクは、上に向けて波の反射音を狙いました。また別の場所では、砂浜の後ろが樹木でシマフクロウが鳴いていましたので、そこではフロント・リアともに水平でフロントは波音をリアは樹木の風音とシマフクロウの声といったコントラストを録音しました。
樹木のそよぎ
肉厚の葉を持つデーゴやマングローブの林では、樹木に囲まれたポイントを探しておいて、360度で風や樹木のそよぎが聞こえるポイントに機材を設置し、マイクは、フロント・リア両方とも上向きに設置しています。バナナ畑や草原、等では、葉が揺れる音を狙って録音しました。ワンポイントでない独立したマイクの組み合わせでは、こうした録音場所の状況に応じて水平設置から上向き、下向き、あるいはそれらの組み合わせと自由度の高い設定ができることがメリットです。(面白いことにこうした360度に均一な音場を4CHで録音し再生すると上方の感じがよく出ます。)
3 DSD11.2ダイレクト2CH録音とPCM192-24 4CH音楽録音
竹富島のルーツ音楽は、基本三線と歌というシンプルな構成が多いのですが、今回は、萬木忍さんとライン・プロデューサーの山崎さんが変化を持たせるためにオカリナ・フルート・お囃子そして太鼓の伴奏のある楽曲を入れて計10曲を公民館の広間で録音しました。
音楽録音で用意したシステムは2タイプで、筆者が定常的に使用しているPyramix NATIVE DAWによる192-24 PCM録音に加え今回は、RME社の新製品ADI-2 Pro によるDSD11.2ダイレクト2CH録音を並行して行いました。DSD11.2については、2016年11月の三鷹風のホールにおけるRME Premium Recordsのアルバムレコーディン時にテスト検証が行われ、コンパクトながらも優れた音質と使い勝手から本作での本格デビューとなりました。
録音系統図を以下に紹介します。
PCM録音のマイキングは、メインSanken CO-100KX2CH+アンビエンスSankenCUW-180X1 2CHでこれは、最終的に自然音サラウンドと馴染みの良いように空気感をたくさん録音するマイキングです。一方のDSD11.2は、音楽だけで成立するように単一指向性のA-BペアマイクBLUE Bottle Rocketx2を使用しRME ADI-2 PROのインターフェースからダイレクトDSD録音というシンプルな構成です。特にAsadoya-Yunta(安里屋ゆんた)については、これまで時間の関係で全曲オリジナル楽曲がレコーディングされたことがないという萬木忍さんのお話を聞き、ぜひ全曲を録音しておきましょうということになり23番目までの完全録音を行いました。
Music by
Shinobu Maki (Vocal, Sanshin,
Dora)
Yukie (Flute, Ocarina,
Hayashi)
Tadashi Nehara (Taiko,
Hayashi)
アルバム曲リスト
Hamabata(浜辺)-----14’58”
01 Asadoya-Yunta(安里屋ゆんた 前半)
02 Toebalerma(とぅばらーま)
03 Takidun-Watashi(竹富渡し)
Usukaji(そよ風)------11’51”
04 Michi-Uta(道唄)
05 Densa-Fushi(でんさ節)
06 Syonkane-Guwa(しょんかねぐゎー)
Kaji(風)----10’09”
07 Medetai-Fushi(めでたい節)
08 Akatasundunchi(赤田首里殿内)
09 Nuchigafununigai(命果報ぬ願い)
Hikinuyu(月夜)---13’40”
10 Tukinukaisya(月ぬ美しゃ)
11 Asadoya-Yunta with Ohayashi(安里屋ゆんた 後半)
4 DSDファイルのPyramix DAW内でのワンストップ編集からMIXまで
DSD録音した音源は、これまで録音から最終マスターまでをワンストップで制作できるフローが限定されています。(最初からDXDで録音する方法ならワンストップで完成)そのため2CH・マルチトラックで録音したDSD楽曲のOKテークの編集、リバーブ付加や加工といったプロセスとどう折り合いをつけるかでDSD経験者も様々知恵を出しているのが現状です。Pyramix ver-10にバージョンアップされてから、幾つかの方法を用いてワンストップ・ワークフローでDSDマスター制作が行えるようになりました。(どのDSDフォーマットが必要なのか[2.8-5.6-11.2]に応じて最適なフローを選択してください。シンプルなフローであるほど音質は、維持されます)
例-01 全てをPCMで行い完成したファイナルデータをDXD変換し、これを内蔵プラグインのDSDコンバーターにてDSDに変換
例-02 MIX DOWNの段階で「CD-SA.CDデータ作成」機能を使い、Generate CD Imageの中の「アルバム・パブリッシング」という機能で必要なファイル形式を一気に作成
DSDでオリジナル録音した今回の場合は、これをDXD編集画面に取り込み必要な編集やリブーブ付加などのプロセスを実施し最終音源を「アルバム・パブリッシング」機能を使って一気にDSDデータを作成する例-02を使用しましたので、この詳細を紹介します。
4−1 DSDデータの取り込み
Project MIX画面の作成時に図でマークしたDXD Mixing Project画面を呼び出します。ここへDSDオリジナル録音ファイルをコピーして、必要な編集、プロセスを行います。
(画面右下を見るとSFがDXDになっていることがわかります)
4−2 OKテークを並べる
楽曲OKテークを曲順に並べます。
4−3 CD-SACD作成タブでマークをつける
画面右下にマークしたCD-SA.CD作成機能を呼び出します。
新規ディスク作成を作り、必要なデータとマークを打ちます。
それぞれマークが打ち終わったMIX画面は以下のようになります。
4−4 Project画面の中にあるGenerate CD-Imageを呼び出す
呼び出した画面の右上にあるImage Projectは「デジタル・リリース」にして必要な保存先を入力しておきます。ここにもSA-CD用というターゲットもありますが、これを選択するとDSD2.8Mでデーができてしまいますので、DSD11.2を一気に作る場合は、お勧めしません。右下の「アルバム・パブリッシング」にチェックを入れて同時に作成したいファイル形式をADDで選択し曲ごとの個別ファイルが必要な場合は、画面右のONE AUDIO FILE
per TRACKもチェックします。
曲間の間をつけるのか、曲単独で個別のDSDファイルにするのかもここで選択し、DSD11.2の項目をクリックしてSETTING項目を開きSDMの設定がデフォルトのDに設定されていることを確認しておきます。
個別ファイルの保存先もここで入力しますが完成後名前をつけても構いません。OKをクリックしてマスタリングがスタートするとまずデジタル・リリース用のマスターファイルが出来上がり、そのあとアルバム・パブリッシングで選択したファイル形式に応じたデータが下図に示すようなコーディング・プロセスによって完成します。
4−5 DSD11.2の完成
HDの保存先を見るとDSD11.2
DSFファイルができていることが確認できます。
4−6 DSDマスターファイルの試聴再生
Project画面から今度は、DSD Projectを呼び出しDSD11.2のMIX画面に先ほど完成した曲をコピー・ペーストします。(MIXチャンネル数は、2−8の偶数で設定します。)
画面右下のSFがDXDでなくDSD 11.2と表示されています。次にスピーカから再生するための設定を行います。MIX画面の右下にある出力BUSSでHORUSのD/Aコンバーターからモニタースピーカに接続しているバスを選択します。(ここではA/D-4
の主力1がLCHに2がR-CHに接続です。)
モニターレベルの調整は、HORUS内部のモジュール画面内D/A-4のスライドボリュームでの設定となります。0dbのままではSPを壊すほど大音量で出ますので注意してください。
DSD11.2でのマスターを無事再生確認できれば、これで完成となります。この設定のままでは、PCMでの作業時に再生レベルが低下してしまいますので必ずこのスライダーを0dbに復帰してください。
終わりに
都市近郊でのハイレゾ録音では、外部からの様々な電磁波ノイズに悩まされますが、今回竹富島という人工物がほとんでない島での録音では、このemcノイズがほとんでありませんでした。特にフィールドレコーディングした192-24データのスペクトルを見るとほぼ100KHz目でなんのノイズも見られませんでした。都会に暮らす人々は、24時間こうしたノイズに曝されていることでストレスが高くなっているという研究結果は、大変納得のいく事実だと感じました。
海外ですが、フィールド録音の世界の動向やテクニックを紹介しているサイトやAmbisonicによる環境音ライブラリーを制作販売しているN.YのSEライブラリーのサイトを以下に紹介しておきます。ここには、すでに東京の様々なアンビエンスをAmbisonic録音したライブラリーがリリースされています。これはまさにVRやAR face bookなどが進めるVR映像を意識した動きでしょう。
また筆者らが2015年に兼六館出版から刊行しました「サウンドデザイン・バイブル」の中にも第7章フィールド録音編や11章ダミーヘッド録音、そして参考資料編の3ではフィールド・サラウンド録音について詳細なノウハウを紹介していますので合わせて参照してください。
自然界の音は、楽器に比較するとはるかに複雑で広範囲な周波数成分を含んでおり、ハイレゾ・サラウンドで録音すると単なる環境音を超えた世界が広がります。
配信マスターは、多様化しているリスニング形態に合わせてサラウンドだけでなく2CHそしてMQAというコーディング・ファイルやヘッドフォン試聴ユーザー向けのバイノーラル・コーディング技術HPLを使ったファイルを提供しています。国内ではe-onkyo musicからワールドワイドでは、https://www.highresaudio.com/en、さらにDSD11.2 2CHマスターがRME
Premium Recordingsから、MQA-CDはOTTAVA
Recordsからもリリースされています。
レコーディング思い出集
ユーザーのみなさんの再生環境に合わせて様々な形式でお楽しみください。(了)
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