July 22, 2017

第94回 "サウンド・デザインについて"勉強会 サラウンド寺子屋塾 in NOGOYA


日 時 : 2016817() 19:00-21:00 (水曜日)
場 所 : テレビシティ
企 画 : 株式会社テレビシティ 夏原拓朗氏
      ()東海サウンド 澤田 弘基 氏      
      名古屋芸術大学 サウンドメディアコース准教授 長江 和哉氏 
講師:斉藤元(東海サウンド) 

       

           

第94回サラウンド寺子屋が名古屋で開催されました。当日は、第1部でサラウンドデザインの基礎とDolby Atmos音楽制作の例としてMick Sawaguchiからデモと解説を行いました。続く第2部で名古屋東海サウンドの斉藤さんからサラウンド制作例として近作「BAKEMONO」をれにしたワークフローのデモと解説がありましたのでここでは、主に第2部を中心にレポートします。
安藤:塾長ありがとうございました。サラウンド・デザインという土台が理解できた上で、第2部では、東海サウンドの斎藤元さんからサウンド・デザインの具体例を紹介していただこうと思います。
斎藤:東海サウンドの斎藤です。私のパートでは、最近担当しました映画の素材を使用して実際にサウンド・デザインのワークフローや、どんな点に注意しながら進めると作品の完成度が高まるのかをデモを交えて紹介します。

まず自己紹介したいと思います。東海サウンドでの仕事は14年目になりますが、TVの番組の音響効果を担当した後、最近4年ほどはサラウンドのデザインを中心に映画やVPを担当するようになりました。担当作品数は、20作品ほどになりますので、ここではこの経験から得た、私なりのデザインアプローチを紹介します。



1サウンド・デザインの目的と役割

日頃サウンド・デザインに携わっていて痛感するのは、ロケ現場の同録担当音楽作曲効果音といったそれぞれの連携がなくそれぞれが独立して仕事を進行しているために最終的なFINAL MIXまでで凸凹を生じてしまうという点です。そのため私は、極力事前の打ち合わせを行いトータルの音のコンセプトを擦り合わせてお互いが相乗効果を生み出せるようなマネージメントやスケジューリングを心がけています。効果音担当でいえば、事前に必要と思われる素材音をロケーションしておくといったことなどです。



2 デザインワークフロー
デザインのワークフローは、以下のような手順になるのが一般的です。
プリプロダクションでは、作品に必要な音素材が集められます。
それらをもとにポストプロダクションでは、
️セリフ:同録音の整音・ADR
️音楽:選曲・作曲
FOLEY録音
️効果音制作

が行われ、プリ・MIXした後で各要素別にステムを構成し、FINALMIXはそのステムを用いて作品を仕上げます。


2−1 事前準備
効果音関連では、台本を検討して、事前に録音しておく効果音素材があれば、最適なロケ場所を探して事前に録音しておきます。今回も様々なフィールド録音素材をあらかじめ録音しました。静かだと思っていても遠くの飛行機や交通音などが聞こえ、1時間録音しても使える長さは限られます。





2−2 セリフの整音同録とADR


同録セリフは、最近レストレーションプラグインが充実したのでこれを使って整音します。また同録で使えない部分は、アフレコ(ADR)します。セリフの音質についてはその作品がTVなのかWEBなのか映画なのかによってもっとも違和感なく聞こえるようにしなければなりません。

2−3 アンビエンスの役割
アンビエンス音は、作品の土台となる重要な効果音です。どれくらいのレベルや質感が最適なのかを検討します。時には、アンビエンス音がストーリーを高める音楽的な役割を持つ場合もあります。

デモ01
ここでは海岸にいる2人が将来のことを話しているシーンを再生します。
最初は、オリジナル同録された音声。次にADRしたセリフのみ。3番目は新たに付加した5CHアンビエンスとフロント波音とウミネコの効果音トラックです。4番目にピアノソロの音楽も入った完成トラックを再生します。

オリジナルでは、カットごとに異なる不連続な波音が聞こえると思います。
ピアノ音楽は、当初使用音域が高く、音質も固いサウンドでしたので、波音と当たってしまい、どちらも活きないと予想したので使用音域は1オクターブ低くして、音質も柔らかい音質で作曲を依頼することにより効果音帯域と音楽帯域が棲み分けできました。

デモ02
次にアンビエンス音がストーリー展開に果たす役割の例を再生します。このシーンでは主人公が江戸へ出て一流の絵師になることを決意し母に告げるシーンです。冒頭では庭で虫が当たり前のように鳴いていますが、話が核心に入るにつれてフェードアウトして、セリフだけになり、シーン終わりでまた復活するという使い方でストーリーの緊張感を高めています。



2−4 SE全体の役割

インディーズ映画などでは、全面音楽で表現したり派手な映像を強調した作品が見られますが、それだけだと、作品のリアル感、空気感が損なわれている様に感じます。私は作品のストーリー性を表現する上で効果音の存在がリアル感を認識させる重要な要素だと考えています。一見地味な存在ですが、大切な役目を持っていることを認識してほしいと思います。


デモ−03
まずオリジナル音声のみで再生します。次にFINAL MIXを再生しますが、ここでは、不要ノイズの除去に加え、シーン外のアンビエンス、そして動きに合わせたセリフの移動が施されています。

デモ−04
これもオリジナル音声のみを再生した後、FINAL MIXを再生します。
ここではノイズの除去に加え、カットに応じたセリフの大きさと奥行きを調整することで立体感が表現されています。またシーン外では隣の部屋から聞こえるガヤや音曲、庭の虫そしてFOLEYによる動作音が付加されていることがわかると思います。

2−5 FOLEYの役割

動作音や道具が発する音です。画面に見られるようにキャラクターごとで色分けし、役割がわかりやすくしています。録音した素材は、そのカットにふさわしい音質にするためEQ/COMといった加工も行います。










2−6 音楽の役割

スコアリング音楽を考える場合に大切なのはセリフやVFX効果音との両立性です。まず重要なセリフを邪魔しないこと、そしてVFX効果音とどううまく棲み分けをするかにあります。このため音楽のタイミングや定位を検討してお互いが相殺されないようにします。音楽打ち合わせでは、この点を確認しながら、出来上がった音楽は、完成形だけで受領するのではなくステムや独立素材を受領しFINAL MIX時の自由度を確保します。私の経験ではこの方法がもっとも完成度の高いMIXになっています。

デモー05

タイトルシーンのデモです。最初に音楽パートのみを、次にVFXのみを、次はアンビエンスSEのみ、最後にFINAL MIXを再生します。
この例ではディレクターの地を這うような冒頭イメージにしたいという希望を受けて、低域中心の音楽が流れ、タイトルカットでは一旦音楽はピアニッシモとなりタイトル後で印象的なメロディが登場という流れにしてもらい、タイトルはVFXでバンパーの役割を担うという構成にしました。

2−7 PRE-MIX
PRE-MIXという作業は作品の完成度を高める上で大変重要なワークフローとなります。もしこれをないがしろにして膨大な素材をそのままFINAL MIXに持ち込むと時間がかかる上に、完成度の低い作品となってしまします。本作では素材段階で500トラックありましたが、PRE-MIXを行い整理することで100トラック、13のカテゴリー分けとなったトラックでFINAL MIXを行っています。

2−8 FINAL MIX
ここで大切なのは、台本を検討した段階で考えたデザインコンセプトがしっかり反映できたかどうか?です。
画面は、カテゴリー別のステム構成画面とレベルのオートメーション画面を表しています。


まとめ

日本においては、制作側にもサウンド・デザインの重要性を認識してもらわなければ良い作品にはならないことを常日頃から我々が具体例でアピールしておかなければなかなか十分なスケジュールと予算が確保できないという現状があります。ですからサウンドデザイナーには、センスやテクニックスキルに加え、プレゼンテーションスキルも重要になってきます。言ってみれば営業センスも身につけておくことが、創造性、技術と同等に大切だと思っています。どうもありがとうございました。

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