June 25, 2006

第34回サラウンド塾 オーディオドラマのサラウンド制作 西田俊和

By. Mick Sawaguchi
日時:2006年6月25日
場所:三鷹 沢口スタジオ 講師:西田俊和(NHK)
テーマ:オーディオドラマのサラウンド制作



沢口:今月の寺子屋は、オーディオ ドラマのサラウンド制作についてです。講師は、1980年後半からオーディオドラマ一筋にミキサーとして活躍しているNHKの西田さんです。ではよろしく。


西田:今日はオーディオドラマのサラウンドとしては最新作になります4月17日FM放送「査察機長」をきいてもらいながらこれまでの取り組みやどのようなサラウンドデザインがあるのかなどをデモと解説で進めたいとおもいます。

オーディオ ドラマでのサラウンド制作の歴史

1987年 シュナの旅 DOLBYマトリックス
でスタートしその後 年2−3本をサラウンドで制作してきました。
1998年に「夢の棺」で初3−2サラウンド制作となり
2001年にLFEを加えた5.1CHが「アルケミスト」で制作
2004年からは「乳房」でDOLBYPL-2による放送波での5CHオンエアが実現してきました。


オーディオドラマの制作フロー



オーディオ ドラマの制作フローは以下のような流れで行われています。
1 制作うち合わせ
2 台詞録音
3 効果音録音
4 音楽録音
5 Pre-Mix
6 Final Mix
Final Mix されたマスターは現在5.1CHでHDに保存し、一方放送用にそれをエンコードしてDolby PL-2の2CHエンコードマスターが制作されます。 Final Mix 時はデコードした音もモニターしながらミキシングを行っています。


では、50分の「査察機長」をお聞き下さい。NHK FMでは毎週土曜日の22:00−22:50に FMシアターという枠で様々なオーディオ ドラマを放送していますのでこの機会に是非じっくりとお聞き頂きたいとおもいます。
デモ

査察機長のデザインコンセプト

この作品では狭い圧迫感をサラウンドで表現することに挑戦しました。ドラマの進行がコックピットという狭い空間の中で進められますのでこれをどう表現するかが今回の私のテーマです。基本的な空間配置は以下のようなデザインを基本とし、これとコントラストをつけるため広がりのある空間として空港ロビーや夢のシーンを対比させています。



台詞収録マイキングはM/S両指向としSマイク成分を分岐してセンターにもっていくことで3CHの壁のような台詞定位としました。
これとは別にモノローグはモノローグ専用のマイクでハードセンターへ定位させています。コックピットの中が実際どんな音がしているのか体験したことがありませんでしたので各種ビデオやDVD資料などで雰囲気をあらかじめつかんでおくことにしました。


音楽録音は、毎回苦労の連続ですが、今回はサラウンド メインマイクアレーを置かないで楽器別スポットマイクとパーカッションパートにサラウンドマイク、そしてティンパニーにYAMAHA SUB-KICKマイクを付加してこれをLFEに送っています。



ディスクリート5.1CHサラウンドとDolby PL-2の聞き比べ

ここで実際の5.1CHマスターとPL-2にエンコードした2CHそしてデコードした5CHを同じMIXで聞いてください。 
私の経験では、ほぼ意図した音場が再現できていると思います。定位に関してはPL-2特有の定位コントロール回路が入っていますので微妙な定位やゆっくりしたパンニングは苦手です。


それでは、これ以外の最近作からいくつかクリップを用意してきましたのでお聞き下さい。

デモ 2005年11月3日に2時間の特集として放送した「古事記」

原作市川森一 音楽小六礼次郎さんです。デザインコンセプトはSF映画のような音場です。



次は2005年8月14日の終戦記念として放送された「見よ蒼い空に白い雲」から
これは実在の沖縄戦体験者の手記をドラマ化したものでデザインコンセプトは戦争の恐怖です。音楽は西村朗さんですがオンドマルトノや様々なPER を使用しました。



次は、FMで毎日15分の枠で放送している青春アドベンチャーの中から「ミヨリの森」をおききください。
これは連続10回シリーズで2004年11月15日ム12月26日で放送されました。50分のドラマほど制作スケジュールがとれませんのでサラウンドパートは予め2CHエンコード処理を行いFinal Mix 時には、デコードしたモニターを聴きながら制作しています。このメリットは通常のステレオ機材を活用でき効率的に制作出来るという点です。


効果音FOLEY録音の楽しみ
私は、オーディオ ドラマの楽しみのひとつにFOLEYや効果音つくりをあげたいと思います。これはまさにアイディア勝負の部分でもありディレクター 音響デザイン ミキサー3者がスタジオで色々なアイディアを出し合いながら作っていく作業です。
一例に今ポリ袋を持ってきていますが、これを素材に井戸の中に落ちたポチャンという水音がサラウンドに広がっていく効果音をつくりました。効果音作りは担当者の個性がもっとも良くでる部分として私も色々なアイディアをいつも考えています。



沢口:西田さんありがとうございました。感想や質問があればどうぞ。

Q-01 長時間音だけのドラマを聴いたのは初めてのことでしたが、いつもはながらで聴いている音楽DJ番組とちがってじっくり聴き応えがあるということがわかりました。放送にもすばらしいメディアがあったのだと感激しました。

Q-02私もオーディオ ドラマをサラウンドで聴いたのは初めてです。映画と違って客観的に眺めるというのではなく、私自身もこの世界に一緒に入り込んで体験しているという気持ちがしました。それだけパーソナルな世界だなあという感想です。

Q-3 コックピットの機内音などはサラウンド録音したのですか?ステレオ素材からどういった方法でサラウンドにするのでしょうか?
A 機内音などアンビエンスはステレオ素材しかありませんので、それらを各種組み合わせてサラウンドにしています。例えば同じような素材をフロントとリアに配置し、機器類やアラーム音などをスポット的に散らして配置するといった組み合わせで作っていきます。

Q-4 いわゆるドラマ音楽は通常の音楽にくらべ台詞や効果音とぶつからないようにしなければならない分バランスが難しいと思いますが、今回はどうして録音していますか?
A その通りで、台詞や効果音とぶつかっては意味がありません。そのため音色としてはマイクの距離で調整するのとメインの台詞や効果音が定位している部分をよけるといった定位の2通りでバランスを考えます。

Q-5コックピットとその後ろにある仮眠室のアンビエンスは大変静かでしたが、実際は隣なのでもっとうるさいのでは?
A 実際の状況からいえばその通りです。しかしこのドラマのストーリー展開を考えると仮眠室というのは回想や夢といった別世界へいく糸口という役割をしておりその意味で通常のコックピットとは対比を付ける意味であえて静かな真空状態にしています。ドキュメンタリーであれば指摘のような音場にしていたでしょう。

Q-6 PL-2で定位をコントロールする場合の注意点は?
A マトリックス方式のエンコーダ・デコーダでは宿命的にこの問題が生じます。そこがディスクリートのサラウンドとは異なる点です。ひとつは必ずエンコード・デコードでモニターしながらMIXをするということ。そして音源の定位はあまり中間的な定位にしないで明確にFL/C/FRといった定位にすることで動きがふらつくことを回避します。また音源のパンニングがある場合は、ゆっくり動かさずに早めにうごかして定位のふらつきを予防するなどが注意点です。

Q-7 各シーンごとにサラウンドの音作りをする場合の基本はスタッフ間でどうしているのですか?
A うち合わせの段階で絵コンテを描いておきこれによって基本がスタッフ間で統一されますのであとはそれをより練り上げていくことで全体のデザインがぶれないようにしています。

西田:NHKの放送は1925年にラジオから出発し今年で81年の歴史となりました。その間モノーラルからステレオそしてサラウンドと立体音響への歴史と挑戦の歩みだったとも言えます。私たちはそうした先輩たちの表現方法を振り返りながら今後のあらたな表現を模索していく必要を感じています。デジタルラジオが実現すれば本来のディスクリートサラウンドで作品がまたお聴かせできると思います。
今日は若い方々も多かったので映像だけでなくこうしたオーディオ ドラマのもつ魅力についても再発見し、機会があれば仕事にもしてほしいと思います。

*今回は ドイツ バイエルン放送協会からサラウンドの勉強にNHK深田さんのところへ一月来ているウルリケさんや芸大でサウンドデザインを受講している若手も交えて世代を越えての楽しいAFTER-5も行われました。(了)


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