June 21, 2023

2023年第95回アカデミーBEST SOUND 受賞 「Top Gun: Maverick」のサウンド・デザイン

Mick Sawaguchi 沢口音楽工房

                   Fellow M. AES/ips

                UNAMAS-Label・サラウンド寺子屋塾主宰

 



はじめに

1986年に故Tony Scott監督により制作されたTop GUNの続編として2022年に制作された本作は、オリジナルのサウンドで発揮されたJet機のダイナミックな飛行を強調するサウンドを継承しながらコックピット内をマルチカメラと音声で収録しリアリズムをさらに高めた作品となりました。サウンド・チームがSynapticサウンドと呼ぶハイパー・リアリズムとDolby Atmos mixを分析します。

 

1 制作スタッフ

 

Director: Joseph Kosinski

Sound Design: 

James Mather 

Al Nelson 

Bjorn Ole Schroeder 

 

Final Mix: 

Chris Burdon 

Scott R. Lewis 

Lloyd Mattock 

Mark Taylor

Christopher Boyes

At Twickenham London




Music:

Harold Faltermeyer

Hans Zimmer.

Lady Gaga

Scoring Mixer: Al Clay

Scoring Mixer: Stephen Lipson

Rec at VSL Synchron Stage Vienna

 

Foley Artist: 

Ronni Brown  

Shelley Roden 

Jana Vance 

John Rosch

 

Production Sound: Mark Weingarten

Sound Recordist: 

Al Nelson

Ben Burtt

 

2 ストーリーと主要登場人物

 

ピート・“マーヴェリック”・ミッチェル海軍大佐は、輝かしい戦歴とは裏腹に、昇進を拒み続け今は、極超音速テスト機「ダークスター」のテストパイロットです。上司チェスター・ケイン海軍少将は、今後は、パイロット無しの戦闘機開発に傾注しており、基地に出向いて本プロジェクトを潰そうとします。しかしマーベリックの独断飛行でマッハ-10を達成しますがダークスター機は、破壊、無事脱出し帰還したマーヴェリックは、飛行禁止となるところを太平洋艦隊司令官トム・“アイスマン”・カザンスキー海軍大将の強い要望でノースアイランド海軍航空基地の「トップガン」教官職を命じられ、三十数年ぶりに戻ります。





彼のミッションは、NATO条約に違反して密かに建設しているウラン濃縮プラントを破壊する作戦のトップガン12名に3週間で訓練を施すという厳しい任務です。その中にかつて事故で亡くした親友グースの息子ルースターがいます。






マーヴェリックは、旧式F/A-18E/F を機体と選定し訓練に臨みますが僅か3週間の訓練で目標を達成できないと判断した司令官から、教官を降りろと命令されます。しかし彼は、無断でF/A-18Eを操縦し作戦のデモンストレーションを行い見事に成功、パイロットたちの信頼を得て、編隊長として飛ぶことになります。そして訪れた特殊任務の日、マーヴェリックたちは空母セオドア・ルーズベルトから飛び立ち、プラント破壊に成功しますが、対空ミサイルSAMからの攻撃に遭いマーヴェリックとルースターはお互いをかばう形で撃墜されます。




森で再会した2人は敵基地に無傷で残っていたF-14を強奪し離陸、迎撃にやってきた敵の第5世代戦闘機を撃墜しますが、最後の1機を相手にするときには弾薬を使い果たし、脱出装置も故障してしまいます。絶体絶命のマーヴェリック機、そこにハングマン機が駆けつけ敵を撃墜、無事空母に帰還した2人は、若き頃のマーヴェリックとグースのように親友となります。




 

 

3 起承転結毎の特徴的なサウンド・デザイン

 

3−1起 00h00’00”-00H32’40”

 

⚫️ Opening艦上シーン




オープニングは、5.1CHメインテーマとハイトには発艦通過音JETに関連した効果音、艦上アナウンスなどで構成。




⚫️ テスト機ダーク・スターの挑戦





マッハ9まで到達しましたがマッハ10を目指してテスト機ダーク・スターがハイパーソニック領域に入ったシーンです。ハイト・チャンネルはテスト機の機内音が定位しています。




 

3−2承 00H32’40”-1H00’28”

 

⚫️  訓練生12名とマーベリックのDogfight




機内音は、フロントに高域成分、リア側に低域成分が定位、ハードセンターは、パイロットのブレスが強調されています。ハイトチャンネルは、メリーゴーランドのように360度回転するジェット気流がおかれています。




 

⚫️ 実践訓練 チェッカー・フラグカット

 



 

さらに核施設を想定した地形を使っての激しい訓練が始まります。ここは、各訓練生1機ずつの訓練と失敗した原因を解説する基地内クラスルームとが短いカットで交互に現れ8カット・トータル5’25’のチェッカーフラグ・カットです。それぞれのカット頭には、印象付けるための激しいバンパー音があり映像のテンポを強く印象づけることに成功したデザインです。ハイト・チャンネルの使い方も大変積極的で特に音楽低域が360度回転するデザインは、2013Gravityのデザインを想起します。




3−3転 1H00’28’-1H24’57”

 

⚫️ タフな実践訓練とマーベリックデモ飛行




攻撃が1週間早まりさらに厳しい訓練が続きます。F-18のデザインは、基本以下のようなデザインです。2019 年受賞作のFord vs Ferrariの車内シーンと相似のデザインです。




3−4結 1H24’57’-02H10’14”

 

ここでもスリル満点のJet機攻撃やSAMミサイルとの追撃戦が音楽を伴って展開しますが、Jetのデザインは、基本的に同様です。

 

3−5 ハイト・チャンネルの使い分け

 

本作は、扱うテーマが空中戦という要因だと思いますが、2時間10分の中でハイト・チャンネルが使われたシーンは、36ヶ所あり、これは、2016年からの受賞作の中でも圧倒的な使用数と言えます。使用目的で言えば

 

⚫️ 臨場感を高めるアンビエンスデザインは、格納庫・Jetエンジンアイドリング・アイスマンの葬儀弔銃3ヶ所のみ

 

⚫️ メインは、Jet戦闘機関連でスコアリング音楽と効果音が輻輳

 

3−6 ダイナミックスにコントラストをつける静かなシーン

 

フルビットのダイナミックスを使った後のシーンは、通常耳をリフレッシュするためにほぼノンモンに相当するレベル設定を行いますが本作でも、

 

⚫️ テスト機ダークスター落下後の町のカフェを訪れて水を飲むマーベリック




⚫️ 訓練機激突後のクラスルーム内ルースターとマーベリック




⚫️ マーベリックが実践した攻撃シミュレーション成功後の司令官室




⚫️ ルースターが墜落した雪原の2人




4 スコアリング音楽

 

作曲をメインで担当したのは、前作1986年のTop Gunでも音楽を担当したベルリン在住のHarold Faltermeyerで他にHans Zimmerも加わり、エンディング曲「Hold My Hand」は、ボーカルにLady Gagaが参加しています。全体の音楽プロデューサーは、ロンドン在住のLorne Balfeで、彼は、Hans Zimmerと永年コンビを組んできました。

 

 





音楽の使用時間トータルは、エンディングクレジット終わりまでで1H3440秒あり、作品に占める割合は、72%と非常に多い使用率です。

音楽は、打ち込みとオーケストラが混合した最近の傾向を反映しておりいわゆるハイブリット音楽で大きな特徴は、積極的にハイト・チャンネルを利用していることです。

いくつかデザイン例を紹介します。

 

1 ストリングスのハイト・チャンネル定位

 

ハリウッド系のストリングスが5.1CH重視なのに比べてストリングスでも、ハイト・チャンネルが使われています。多分Atmos MIXを念頭においてのMikingではないかと想像します。




 

写真は、2Fにあるmixルームからのショットですが、非常に高い場所にあるのがハイト用ではないかと思います。




2 Gtリフをハイトの左右に独立定位

 

これは大変ユニークな配置だと感心した使い方です。5.1CHにはバンドのサラウンド配置が行われ、ハイトにGtのリフがそれぞれ左右で異なった演奏をしています。


 



 

3 リフをフィードバック・ディレイで動かす。

 

ハイトチャンネルに使用したリフにフィードバック・ディレイを行い動きのある表現を行なっています。




 

4 ストリングスとリズム系やPERCを複合的に定位

 

これは、とても込み入った定位をハイトCHで行った例といえ、ベースチャンネルで通常行うような定位をハイト・チャンネルでも積極的に行った例です。




5 低域楽器をBoom成分として360度回転、船酔い状態です。





 






 

録音が行われたのは、オーストリア・ウイーンにあるSynchron Stage Vienna

でここは、サンプリング音源を制作リリースしているVienna Symphonic Library社が1940 年代に映画スタジオに隣接して建設されたホールを2013年に購入し最新の音響と設備を持った音楽スタジオになりました。最大で120名のフル編成オーケストラが録音できる設備は、イギリスのAbbey RoadAir Lyndhurstに並ぶ欧州で優れた映画音楽制作の拠点になっています。


 






 

5 素材録音-Final Mix

 

サウンドのコンセプトは、

⚫️ ハイパー・リアル

⚫️ インパクトを重視。これには前作でサウンドを担当したChris Lebanz

Cecelia Hallのアプローチを参考に短いカットの連続では、カット頭を強調するサウンドに、またJetの飛行音は素材録音だけではドラマティックに聞こえないので動物の声などをmixして生命力を持ったサウンドを作ったとのべています。

⚫️ コックピットでは、ブレスを強調

Production MixerMark Weinは、コックピット内のセリフ・特に重圧に耐えるブレスをリアルに録音するため海軍が仕立てたカスタムパイロット服にコンタクトマイクを装着、また機内機器の操作音なども録音するためそれらを映像と共に一括スタート・ストップできるコントローラーを活用したと述べています。

作品のキーとなるJetの素材は、海軍空母に1週間同乗し録音したそうです。




 

コロナ禍での制作でしたのでPre-mixまでは、アメリカSkywalkerチームが担当し、Final Mixは、イギリス・ロンドンの老舗スタジオであるTwickenhamスタジオでSTAGE―01がDolbyAtmos,STAGE-02IMAX Mixを実施しています。

IMAXシアター・サウンドも以前は、6.1chシステムでしたが最近は、Immersiveサウンドを反映してサイド2CHと天井4CHを追加したトータル12.1CHシステムになっています。


 




 

終わりに

 

アカデミー受賞は、音響効果のみでしたが、私は、映像の優れたセンスと最新テクノロジーを導入した映像設計にも注目すべきだと思います。DPを担当した

Claudio Mirandaは、1986年前作でもDPを担当しています。



随所に影や深い陰影を生かし、空のトーンもマジック・アワータッチで素晴らしい表現だと思います。

 




 

F-18 Jetの撮影は、機内・機外・陸上と3ヶ所から撮影。





 

特にF-18コックピット内の撮影は、SONYのカメラを分離しヘッドだけを6台特別に設置し、どのようなショットがベストかを編集で選択できる仕組みを作っています。これには、トム・クルーズの情熱とそれを実現したアメリカ海軍の協力で実現した結果です。





また機外撮影には、Cine Jetと呼ばれる撮影専用Jetが活用され機動性と迫力を撮影しています。こうした最新鋭機材がインフラとして揃っている環境は、まさに映画大国の証だと思います。





 

私が、映像美として印象に残る作品は、1970B.ベルトリッチ監督作の「暗殺の森」でDPを担当したV.ストラーロの陰影の表現と1978T.マリック監督作「天国の日々」でDPを担当したN.アルメンドロスです。毎日20分しかない夕方のマジック・アワーだけで撮影した映像美は、素晴らしい色調です。

 

 

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