Mick Sawaguchi 沢口音楽工房
Fellow M. AES/ips
UNAMAS-Label・サラウンド寺子屋塾主宰
はじめに
イレーザー・ヘッド以来独特の映像とサウンドを作品に取り入れてきた1984年David Lynch
監督による本作は、第57回アカデミーBest Soundにノミネートされました。
(受賞作品は、モーツァトの生涯を描いたAmadeusでした。)
1 David LynchとAlanの作品
Alanは、David Lynchとコンビを組み彼の主要作品でサウンド・デザインを担当しました。
●1970年Grand Mother
●1977年ErazerHead
●1980年Elephant man
●1984年本作Dune
●1986年Blue Velvet
●1990年Wild at Heartなどです。
Alanがフィラデルフィア・インダストリーFilmで働いていた時にDavid Lynchと出会い、独特のムードを音響面から作り出すセンスが認められました。1979年には、動物をテーマにしたCarroll Ballard監督の作品の一つであるThe Black Stallionで競馬レースの馬の素材録音と音響効果の功績から1980年アカデミー特別功労賞を受賞しています。これは妻のAnnとともに馬にカスタムの録音アタッチメントを取り付けて録音した多様な馬のドラマティック表現が評価されたものです。
良きパートナーとしてコンビを組んだ妻のAnn Kroeberは、キャリアのスタートがユニークで、元々国連で資料整理の仕事をしていましたが上司からNagraレコーダーとマイクを渡されて街でお祭りがあるのでそれを録音して欲しいと依頼があり録音など何もわからないままパレードを録音、ヘッドフォンから聞こえるサウンドに感動して以来サウンド・レコーディストになったという経歴です。西海岸へ移動してからは、サンフランシスコ在住の発明家Arnie Lazarusが考案したコンタクト・マイクFRAPを入手して産業機器から発生する発電機、モータ、冷蔵庫、エアー・ダクト、発電所の振動やアーク放電など様々な振動音を録音するようになりました。
彼女のフィールド録音で特徴的なのは、片CHがコンタクト・マイク、もう片CHにSchoeps CMC-4の組み合わせでダイレクト振動音+空気サウンドを録音する方法です。これらの素材が、Alanの『インダストリアル・サウンド』と呼ばれる音響を形成する上で大きな貢献を行なっています。
これ以外にも彼女は、動物から自然音まで多種多様なフィールド録音を行い業界からは女性サウンド・レコーディストの先駆者として高い評価を受けています。彼女のライブラーからは、The Lord of Ring, Gladiator, Pirates of Caribbean , Polar Express, Indiana Jones Kingdom of Crystal Skull , K-19と言った作品が生まれています。
2 1984 Dec AMERICAN.CIMEATOGRAPHER by RIC GENTRYより
1984年Duneのサウンド・デザインについて詳細なリポートが7ページにわたりありますのでここからデザインに関した部分を抄訳して紹介します。
当時は、今のようなDAWと各種プラグインソフトがあるわけではなくダバーと呼ぶシネテープと単体効果機器を駆使しての情熱と結果に筆者も深く共鳴します。
抄訳:
最初の Splet の仕事は、Dune のそれぞれのシーン・アンビエンス に使用できると思われる音を見つけ、録音し、処理し、組み合わせるというものでした。 「惑星アラキスにぴったりの何かを作るかもしれませんが、それがうまくいくかどうかはわかりませんでした。あるいは、ハルコーネンの星Geidi Primeのサウンドになるかも・・
それから私は、メキシコの撮影現場にいるデビッドに素材を聞いてもらい、彼はコメントし、アイディアを話し合いました。メキシコシティのチュラブスコ・スタジオで制作が進行している間、Spletは、自宅からわずか数マイルのところにあるバークレー Fantasy studioで、彼と妻のAnn Kroeberがベイエリア周辺で録音した音を再生し、サウンド・デザインに取り掛かりました。
Nagra IV ステレオ録音機と、Schoeps CMC 4 および Arnie Lazurus 製の FRAP コンタクト・マイクを含むいくつかのマイクを装備してSplet と Kroeber は、Dune にふさわしいと思われる新しい音を探しに行きました。
彼らの最初の録音場所の 1 つは、リッチモンドにある Chevron Oil Refinery でした。ここで、Geidi Prime に応用できる大量のサウンド素材を見つけました。 「パイプを流れる重い蒸気とパイプを流れる油の音がすばらしかったのですがそれ以上に私が「サウンドピープルの運」と呼んでいる偶然の巡り合わせによって、膨大なサウンドを手に入れました。例えば、空の直径 50 フィートのオイルパイプでした。 「シェブロンの人々がそれを設置に取り組んでいました」「ピー」という音がしていましたのでアンはFRAPコンタクト・マイクをタンクの上に置き、Schoepsのマイクを空中に掲げ、あらゆる種類のチェーンや金属棒でこのタンクを叩き、蹴り録音し、これらは、砂丘の多くの戦闘シーンの素材として活用されました。
Splet と Kroeber はまた、地元の公益事業会社である Pacific Gas Sc Electric Company を訪問し、バルブからのさまざまな排気音と、送電線共振、ハミングする電力線を記録しました。
ファンタジーで働いている仲間のサウンドマンがさらに素晴らしい場所を教えてくれました。それは、炭素棒を通して 1 5,000 ボルトの電気を吐き出して鉄くずを溶かす場所です。 「基本的には電気炉です」 「彼らはこの鉄くずをすべて入れてからその下の3つの巨大な電極、直径約1mの炭素棒で鉄くずを溶解します。それから、台車のような天井クレーンから巨大な圧力ガスを発射します。そのため、電気が入っているだけでなく、ガスが炎に向かって発射され炉内は白熱します。その時に出る音は、信じられないような叫び声となるのです。電気アーク放電音は、まさにリンチが求めている世界を表現するのに最適で映画のさまざまなシーンで使いました。
「砂漠の惑星であるアラキスの熱く乾燥した風の素材は、ほとんどがライブラリから引き出されました。私は、これらの風を 3 つ、4 つ、時には 5つ同時に使用しました」「これまで制作した映画、スコットランドやネバー クライ ウルフからも使用しこれらを加工して多くのサウンドを得ることができました。」
より複雑でより興味深いのは、アラキスの宮殿を取り囲んで保護する城砦の盾-シールドでした。
「宮殿の周囲を防護している音の素材は、ケーブルのきしむ音で、これを 6 倍または 8 倍遅くして轟音を出しました。 」 なぜこれに決めたか?と言えば 「それはちょうど私に何か閃きがあったのでしょう」「物事について論理的に理解できれば、その後、論理の世界を離れなければなりません。これらの多くはどこにあるのかわかりません、まさに一期一会の閃きなのです。」
原作ハーバートの本の最も記憶に残る特徴の 1つであるサンド・ワームは、抑圧されたアラキスの住人フレメンのシンボルであり、アラキスの主な生産物である香料メランジュの源でもあります。このサウンドは、4 種類の動物: 馬、ヒヒ、ピューマ、豚の素材から速度を落とすことで作りました。ボコーダーを使った場所もありました。これはゼンハイザーのデバイスで、入力音声を他の音に変換するために使用しています。
他は、私のライブラリー音源の爆風から作られています。これらは、6倍ほど減速しました。アンはフラップコンタクト・マイクを持って砂場に行き、それを砂の中にあるプレキシガラスに接着し、その上に砂をこすりつけたり、こすったり、引きずったりして、あらゆる種類の録音をおこないました。私は彼女が手に入れたほとんどすべてを使いフランジャー、ハーモナイザーを通してそれを処理し砂漠の下を移動するwarmの移動サウンドにしました。
Alanの手元にあった効果機器は、Eventide社のハーモナイザー・インスタントーフランジャー・遅延ユニット・Urei G-EQそしてTechnics SH-901 EQとレキシコン-224リバーブ・ゼンハイザー ボコーダーなどです。これらをTEAC 8トラックオープリールで制作しています。
Dune のFinalミックスは、1984年5 月に Formosa Avenue West Hollywood の Goldwyn Studios で始まり、8 月に完了しました。チーフ・ミキサーは Bill Varney 音響効果ミキサーはケビン・オコンネル、スティーブ・マズローは音楽ミキサーですべての劇場に対応するために、ドルビー ステレオ オプティカル リリースとモノラル リリースがありさらに70mm 磁気 6 トラックも作成しました。
3 Dune 1984で見られるAlanのサウンド・デザイン 例
3-1アンビエンス ・デザイン
記事の中でAlanが述べているように3つの星が登場し、それぞれに多様な場面がありますので、彼は、アンビエンスをどのようにデザインするかに注力しています。
基本は、セリフがメインのシーンでは、アンビエンス フロントL-Rでワイドショットなどは4CHアンビエンス です。特徴的なのは、100-200Hz帯域を多く含んだ低域重視のアンビエンスである点です。4CHの場合は、フロントL-Rが中高域中心、リアが低域中心に素材を配置し、記事にあるように様々なインダストリアル・サウンド活用されています。
参考に皇帝の星カイテインでの部屋とハルコーネンの星ギエディ・プライムのアンビエンス スペクトラムを紹介します。
3-2 アーク放電素材を活用したデザイン例
13‘32’でポールが、重臣ガーニとシールドのトレーニングを行うシーンです。様々なアーク素材を重ねています。これもスペクトラムも紹介します。
3-4 アラキス星保護シールド音
記事の中でケーブルの軋みを6-8倍遅くしたと述べています。芸術創作の中で『思いつきと瞬間芸』の相違は何か?とよく言われる言葉があります。Alanのこのサウンドは、まさに瞬間
芸といえます。
3-5 Warmスタンパー始動
1H22’22’からポールがWarmを誘き出すスタンパーを起動します。2021 Dune Part-01では、砂漠へフィールド・録音に出かけていますが、本作では、モーターや振動素材などインダストリアル・サウンドを組み合わせていると思います。
3-6 Warm
記事の中でも馬、ヒヒ、ピューマ、豚の素材から速度を落として制作した。と述べていますが、これがハード・センターに定位し4CHには、砂の素材が加工されています。
Alan Spletは、1996年にアカデミー受賞作English Patientの制作途中で死去し、後任となったのがWalter Murchでした。サウンド・デザイナーのRandy Thomは、尊敬するサウンド・デザイナー3人の一人にAlanの名前をあげています。
独創的なデザイン力は、まさに尊敬に値する功績だったと思います。(了)
「Let's Surround」は基礎知識や全体像が理解できる資料です。
「サラウンド入門」は実践的な解説書です。
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