June 17, 2019

第3回 分析!アカデミー Best Sound Editing受賞作品:第88回 音響効果賞受賞「MAD MAX FURY ROAD」のサウンド・デザイン

Mick Sawaguchi UNAMAS Label
Fellow M. AES/ips
サラウンド寺子屋塾主宰


1 MAD MAX Fury Roadのサウンド・デザイン

MAD MAXの映像は独特の映像センスで制作されていますが、本作でシリーズ4作となりました。CGは使わず全て本物の撮影がナミビア砂漠とシドニー郊外で行われ、セリフは95%ADR,登場する多くの車両やバトルシーンの音響効果が受賞理由だと思います。18ヶ月をかけた全編打ち込みの音楽と8ヶ月の音響制作、75日間のMIXという2時間の大作をデザイン面から分析してみます。



1−1 制作スタッフ

Director: George Miller
Music: Tom Holkenborg (Junkie XL)
Recording/Mix: Simon Leadley Scoring Stage Sydney
Sound Design: Mark Mangini. David White. Christopher Aud. Chuck Michael
Re-Mix: Chris Jenkins. Gregg Rundolf. Steve Maslow
Foley Artist: Dan Johnson. John Simpson. Mario Vaccaro
Production Sound: Ben Osmo
Sound Recordist: Oliver Machin
Final Mix at Lane Cove Deluxe and WB Dub-10


1−2 ストリーと主要登場人物

砂漠化し荒廃したウエイスト・ランドで、元警官マックスは、V8インターセプターを走らせていると暴徒の襲撃に遭いシタデルという砦に連行されます。この砦はイモータン・ジョーを首領とし、潤沢な地下水(アクア・コーラ)と農作物栽培で人民を支配しています。ジョーの部隊を統率するフュリオサ・ジョ・バッサ大隊長は、出産のみを目的とした5人の妻をウォー・リグに乗せてフュリオサの出生地である「緑の地」に向かいます。それに気づいたジョーは戦闘集団ウォーボーイズを引き連れ、彼女らの奪還へ向かいますが、マックスはウォーボーイの一人ニュークスの「血液袋」として追尾車両に鎖で繋がれこの争いに巻き込まれます。

追跡劇の最中に砂嵐に遭遇したマックスは、フュリオサ一行に加わり一昼夜をかけて走破した場所でかつての仲間である鉄馬の女たちに出会いますが目指した「緑の地」はすでに汚染で荒廃し消滅していました。一行は、新たな地を目指そうとしますがマックスはシテダル砦に戻るよう説得します。砦に向かって激走するフュリオサ一行を発見し、ジョーの軍勢と壮大なバトルが行われ遂にジョーは倒され一行は無事砦に凱旋し群衆に歓迎されます。平和な生活を迎えた一行を背にマックスは旅たちます。

1−3 起承転結と時間配分

起 00:00:00—00:30:20

アバンタイトルからMAD MAX FURY ROADのタイトル後マックスが登場し、砂漠を走行中にシテダル砦の暴徒に捕捉され砦で血液袋の代用とされます。砦では支配者のイモータン・ジョーが資源を武器に人民を支配しています。ガスタウンへ向かうワーリグが東へ方向転換したのを不審に思ったジョーは、5人の子産み女がワーリグに乗り逃走したことに気づき追跡劇が開始されます。砂漠でヤマアラシ軍団やジョーの軍団とフュリオサの運転するワーリグ車両が戦闘を行います。輸血袋として車両に繋がれたマックスの乗るウォーボーイの一人ニュークスの車は、ガソリンをまいてワーリグへ自滅攻撃を図りますが、失敗し砂に埋まってしまいます。ここでは第1の山場となるバトルシーンが展開されます。


承 00:30:20—01:00:04

ここではマックスとフュリオサ一行の出会いがあり、ワーリグで「緑の地」へ向かう途中でオートバイ軍団とイモータン・ジョー軍団とワーリグとの大きな攻撃シーンが第2の山場として展開されます。

転 01:00:04—01:29:14

無事に逃げ切った一行は、沼地を進みます。ぬかるみにタイアを取られ、イモータン・ジョー軍団に追いつかれますがマックスの機転で攻撃トラックを爆発し無事沼地を脱出した一行が通過したのは、汚染され荒廃したかつての「緑の地」でした。一行が進むうちに塔の上で叫ぶ声が聞こえます。フュリオサはここがかつての故郷だと直感し、車を降りて叫びます。オートバイでやってきた女たちはかつてのフュリオサの母たちと緑の地で生活していた人々です。
汚染されて緑の地はなくなったことを知った一行は、塩の湖の彼方へ希望を求めますがマックスの提案でシテダル砦へ戻り新たな生活をする決意をします。


結 01:29:14—01:53:31

砂漠で一息ついていたイモータン・ジョー軍団がマックス一行を発見。凄まじい争いが第3のバトルシーンとして展開されます。戦闘で怪我をしたフュリオサは最後の力を振り絞ってイモータン・ジョーの仮面を剥ぎ彼は死を迎えます。なお追いついてくる軍団を阻止すべくニュークスは、自らの命を犠牲に谷間の道をふさぎ、一行は無事シテダル砦へ向かいます。人々に迎えられたフュリオサが中心となり平和な暮らしが始まります。

エンドクレジット 01:53:31—02:00:00

2 特徴的なサウンド・デザイン

2−1 起

WBロゴ
WBのロゴが冒頭に登場しますが、マッドマックの雰囲気をよく表しています。ハードセンターにイモータン・ジョーの息、マックスの愛車V-8インターセプターエンジン音、メカ音、L-Rには鯨の潮吹き音、エンジン余韻、LS-RSよりメカ音がフロントへFlyoverします。



アバンタイトル
マックスのモノローグで荒廃した世界が描かれます。マックのモノローグは、ハードセンターLS-RSの3点に独立音として配置されL-Rに1-oct下のモノローグが配置されます。背景となる人々の声は、独立4CHであちこちから聞こえてくるというデザインで、マックスに助けを求める少女や女性の回想はマッックス同様にハードセンターとLS-RSの3点配置となっています。


アバンタイトル−02 砂漠とマックス
ここからマックスがウエイスト・ランドの丘の上にいる場面になります。ここでも亡霊の回想が独立4CHで配置されマックスを取り囲むイメージです。マックのモノローグは、先ほどと同じくハードセンターとLS-RSの3点配置です。画面手前にトカゲがいてマックスに近寄ると靴で踏まれ、食べられたしまうシーンは、ハードセンターでトカゲの動きがあり、靴で踏まれると密やかですが砂の飛翔音がLR-RSに配置されています。



シテダル砦の人々とイモータン・ジョーの演説
岩山でできたシテダル砦の足元に人々が水を求めてやってきます。砦ではウォーボーイがガスタウンへ向かう準備で活動していますがここは4CH全面を使った人々のアンビエンスにより広大な空間を表しています。やがてイモータン・ジョーが登場し演説を行います。この声も空間を表すためにハードセンターのONセリフと反響成分が4CH配置されています。
人々が鍋や皿で水を求めて前進するアップのカットに隠し味としてL-Rでハエが飛んでいます。



イモータン・ジョー が子産み女の部屋へ移動
彼は、スターウオーズのダースベーダー並みの人工呼吸器音を発していますが部屋を移動してトンネンル内を抜け子産み女の部屋へ行き皆を探します。トンネル内はこの息が強調され4CH前面に反響し、部屋では、子守のギティが構えた散弾銃の炸裂した弾が壁面で飛び散るSEが天井から響きます。


バトルシーンの基本デザイン

本作では、ワーリグに乗ったマックス・フュリオサ・子産み女たちとイモータン・ジョー軍団との壮絶なバトルシーンが4シーン登場します。いずれもデザインの基本は、同じですのでまとめて紹介します。


ハードセンターは、メインのセリフ・メカ音Foley・アタックSEなどでL-Rに大きさを表すメカ音、爆発ONそしてサウンドデザインチームがワーリグの性格付けとして用いた鯨の潮吹き音と熊の叫び声を加工したSEが配置。
LS-RSには爆発の余韻やメカ音のOFF、前後の移動音があります。同時に4CH+LFEを伴ったスコアリング音楽がありますので、大変重層構造のデザインです。

2−2 承

砂嵐後のマックス生還シーン
長さにすると2’11”ですがこのデザインも秀逸です。ノンモンに近い砂漠のアップから始まりそこへ砂粒のさらさらという微かな音が4CHで聞こえ始めます。次にL-Rで風音が入り、マックスが砂から顔を出して飛び出します。ここで砂が全面にFlyoverすると息と心臓音とアクセント音がハードセンターから強調され、マックスの首につけている輸血ピンを抜くFoleyがセンターとシューという強調された余韻を伴ってL-Rから表現されます。鎖の先はウォーボーイの一人ニュークスの腕に繋がれています。砂の中に倒れている彼を探し腕から鎖を外そうとするFoleyは、センターとその余韻が4CH全面でデザインされ画面で見る鎖以上の存在感を出しています。

2−3 転

マックスの目覚め
イモータン・ジョー軍団との争いも一段落し緑の大地を目指している一行は、それがすでに汚染された沼地になってしまったことを告げられ新たな旅へ出かけます。ホワイト・アウトで場面転換した砂漠のロングカットでマックスが再び過去の女性と少女の幻覚に襲われますがここもアバン・タイトルでデザインした声のコラージュが登場します。違いは、リアから先行した声により一層緊張感を高めている点です。

ワーリグ車内のセリフ定位
巨大輸送車であるワーリグの運転席空間を表現するために車内でのセリフのやり取りに短い反射音が4CHで付加されています。金属の反射の質感を出しているのが特徴です。


2−4 結

ニュークスが谷間でワーリグを横転爆発
軍団に追跡されバトルを繰り返しながらマックス一行は、シテダル砦を目前にします。猛追してくる軍団の進路を防ぐためにニュークスが捨て身の戦術でワーリグを谷間に横転させ行く手を防ぐ最大の山場となるシーンです。横転したワーリグのアタックにL-Rで鯨と熊の叫び声があり、ハードセンターで横転のアタックがあります。横転したトラックのスローモーションでは様々なパーツがフロントからリアへ流れていきます。


3 スコアリング音楽

本作のスコアリングを担当したTom Holkenborgは、18ヶ月をかけてほぼ一人で作曲制作しています。監督のG・ミラーは、「これはロックオペラとして考えた」というだけにスコアリング音楽が占める割合は、88%とほぼ常に音楽があるという構成です。楽曲のイメージは、ほぼ同じですがCUE ポイントは、実に細かく丁寧な転換が連続しており、まさに「セグエ技法」のオンパレードです。

音楽の基本は、ドラムや和太鼓を主体としたリズムがL-Rに幅広く定位し、その前面にロックギターが鳴り響く構成が基本で、このイメージを少し変化させた楽曲構成がL-S-RSにあるという4CHが基本です。


彼は、1967年オランダ出身でロックバンドから1998年スコアリング音楽を目指してハリウッドへ。ハンス・ティマーの元で修行し、2014年の全編CGによる異色作「300」でメジャー・デビューし本作を担当という新世代スコアリング・コンポーザーです。

こうした新世代スコアリング・コンポーザーは、映画だけでなくゲームやRE-MIX ・DJなど活動の場が広く、かつ全て打ち込みで完結させるというワンマン・ワークフローが特徴と言えます。






ハードセンターを使った音楽は少なくフュリオサとマックスの友情を表すシーンでのVcのリフとエンディング音楽の後半で出てくるメロディ程度です。
このVcのアイディアは、彼が尊敬するスコアリング音楽の巨匠Bernard Hermannが映画「サイコ」で用いたストリングスの使い方をヒントにしたそうです。

SEのリズムにシンクロした音楽のリズムによる展開
興味ある使用例としては、承パートの冒頭32’36”から砂嵐から抜け出したワーリグに積もった砂をフュリオサがスパナで叩き払い落とすシーンがあります。このスパナのリズムを受け継ぎながらスコアリング音楽のリズムが展開していく例です。SEのピッチと音楽のイントロのピッチのシンクロというデザイン例は見かけますが、リズムのシンクロという例は、大変興味ある使い方だと思いました。


スコアリング音楽は,ほぼ打ち込みで、全編LFEがあるのも特徴です。LFEがこんなに連続すると疲れるのではないかと思いLFEの周波数を見てみましたが、通常効果音などで意図的に使うLFEに比べ穏やかなLFE特性です。


音楽制作は、サウンドデザインチームがPRE-MIXを行ったシドニーのLane cove Deluxeスタジオに近いLeadley Scoring Stageで制作しており、



サウンドデザインチームと毎朝打ち合わせしながら効果音が重要なシーンでは、これらとぶつからないで音楽が存在するかを考えたとインタビューで述べています。
(Clashed with Tonalities)

彼の制作舞台裏がYouTubeにシリーズで紹介されていますのでスコアリングに興味ある読者は、是非アクセスしてください。

4 Foley.効果音 車の素材録音

ハードセンターだけ聞くと、様々なアクションに伴うFoleyも丁寧に使われていることがわかりますが、残念ながら全編音楽とダイナミックな効果音が連続しているため真価がわかりにくいという側面があります。

以下に示すようなロケーションシステムでプロダクションサウンドの録音が行われましたが、セリフは、激しいバトルの連続なのでほとんど使えず、95% ADRしています。

各種車の素材については、膨大な録音を行っています。ロケーション範囲が長いためスタッフへの送り返しや連絡系の構築が大変だったとインタビューで述べています。



● 4 Sound Devices 788T recorders with CL-8 accessories
● 1 Sound Devices 744T recorder for sound effect
● 1 Pro Tools® 10 system
● 6 Lectrosonics™ Venues
● 2 Venue fields
● 1 Mackie Mixer 1604 for monitor mixes
● 1 Meon UPS and Meon Life
● 4 Lectrosonics IFB transmitters
● DPA 4061 lapel mics

終わりに

サウンドに関するインタビューやニュースなどを以下のようなサイトで参照しましたので、そこからサウンド・デザインの考え方をまとめてみます。

https://www.youtube.com/watch?v=yKAHGwCyamc
https://www.youtube.com/watch?v=WyPZzCmdFtE
https://www.youtube.com/watch?v=VkNeXS0Lmxc
http://www.btlnews.com/ November 20, 2015.
http://www.btlnews.com/December 29, 2015
http://deadline.com/2016/02/
http://www.scpr.org/programs/the-frame/2016/02/02/
http://www.ew.com/article/2015/05/14/
http://m.timestelegram.com/article/ZZ/20160215/
http://collider.com/mad-max-fury-road-featurette-junkie-xl-score/

Mark Manginiはサウンド・スーパバイザートして参加していますが、制作にはサウンドチーム総勢35人という最近では大きな構成規模で準備から8ヶ月、Final Mixで16週(10週間をシドニー・6週間をハリウッドWB)を費やしています。特にワーリグと呼ぶ巨大トラックの性格をどう音で表すかを検討し映画「白鯨」に登場する巨大鯨のイメージが浮かんだのでワーリグの素材には、鯨の潮吹き音やジャンプ、また熊やハゲタカやナガイタチと言った素材を使ったと述べています。


彼が気に入っているサウンド・デザインは、

マックスが砂漠に埋まった静寂から飛び出すデザイン
● レンチで車を叩くリズムと音楽のリズムをシンクロさせた展開部
最後の山場となる谷間でワーリグが横転した時の効果音だそうです。

MIXが終わり監督のG・ミラーが我々に「MAD MAXは耳で聞く映画だ」と述べてくれたことが最高の賛辞だったと述べています。(了)

///// 分析!アカデミー Best Sound Editing受賞作品 /////
第1回 連載に当たって - クリティカル リスニング トレーニング
第2回 作品の構成把握とデザイン要素 - 作品終了後のレビューの重要性
第4回 第87回アカデミー音響効果賞受賞「アメリカン・スナイパー」のサウンド・デザイン
第5回 第85回アカデミー音響効果賞受賞「Gravity」のサウンド・デザイン

「Let's Surround」は基礎知識や全体像が理解できる資料です。
「サラウンド入門」は実践的な解説書です。

No comments:

Post a Comment