June 15, 2019

第1回 分析!アカデミー Best Sound Editing受賞作品: 連載に当たって

Mick Sawaguchi UNAMAS Label
Fellow AES/ips
サラウンド寺子屋塾主宰



1 サラウンド寺子屋塾への連載に当たって

サウンド・デザインという分野は、対象が幅広くかつ、純エンジニアリング・スキルだけでなく、情緒的なアートの分野も含み中々把握しづらい仕事と言えます。

本連載では筆者も参考にしてきたアカデミー音響効果賞をメインにして映画におけるサウンド・デザインの実例を分析してみようという意図で企画しました。アカデミー賞を受賞していなくても優れたサウンド・デザインが光る作品もありますので合わせてそれらも分析してみたいと思います。

アカデミー賞は1929年に優れた俳優の方々を顕彰しようとハリウッド郊外のホテルの広間に270名の関係者が集まって密やかに行われたのが始まりと言われています。

アカデミー賞に効果音に対する功績賞が設けられたのは、1963年の第36回からです。その名称もBest Sound EffectsからSound Effects Editingそして現在は、Sound Editingとなり、サウンド・スーパバイザーやサウンド・デザイナーといった職種の人々が対象となっています。

国内ではサウンド・デザインという分野がまだ曖昧で効果音制作者とミキシング・エンジニアがなんとなくお互いに協調しながら作品を仕上げていますがワールド・ワイドな視点から見ればサウンド・デザインという分野が確立されています。もともとは音声編集を行っていたスタッフが監督や作曲家、映像編集といった人々と音の編集をどうするか?から始まりそこからトータルな音響構成の役割を担い始め最近では、VFXと連携した音響構成の役割が重視され始めこうした役割が認識されています。

この連載では、サラウンド音響が導入された80年代以降の優れた音響効果デザインについて分析してみたいと思います。毎年ノミネートを含めて複数の作品がリストアップされますので受賞作やノミネート作またはこれ以外でも筆者が素晴らしいと感じたサウンド・デザインを分析してみます。


〜日常を普遍化する〜

1 デザイン分析を行う前に

私達の耳は、大変わがままな感覚器官だといえます。外界で発している音の情報が、全て万人が同じように「音」として聞こえているかは、誰も検証できません。音響制作に関わっているみなさんも日頃経験していると思いますが、こんな例は、スタジオで日常茶飯事でしょう。

客観性を持ったサウンド・デザインを分析する訓練が必要な理由は、ここにあるといってもいいでしょう。教育機関や音響開発メーカーなどで採用している「聴能形成」という手法があります。これは、もともとヨーロッパの教育機関で音の専門家「トーンマイスター」を育成し健全な音楽制作を行うために始められ現在は、国内外の教育機関でもとりいれている耳の訓練カリキュラムです。

こうした基礎トレーニングの上に、さらに実践的な耳の訓練方法として「クリティカル リスニング トレーニング」というプログラムがあります。これは、誰でもできますので、時間のあるときに実践してみると良いと思います。以下にステップを追ったクリティカル リスニング法を述べます。

1−1クリティカル リスニング トレーニング

● 15〜30秒といった短いCMを題材にする

いきなり複雑なサウンド・デザインの作品を聞いてもまず脳が聞き方になれていないので、短い作品から初めます。そしてその音響要素が、台詞部分 効果音部分 音楽部分でどういった組み立てで成立しているか?を用意したチャートに記入していきます。その表記は、みなさんが分かる表記で結構です。

要素
時間経過







台詞








役割








音楽








役割








効果音








役割










これを10回再生して、結果を記入して、どこにどんな音の要素が組み立てられていたかを分析します。これで瞬間的に全ての音を聞き分けることに耳がなれてきたら次にもう少し長い時間の作品で同様のトレーニングを行います。

● 3分程度のゲームやティザー、予告編で実施

手法は、おなじですが、少し長めの作品で分析ができるようになります。

● 映画のあるシーンを切り取って5分程度で行う。

最後の訓練は、映画作品のなかでも音響要素が複雑に組み立てられているシーンを選んでその部分を5分程度やはり10回再生しながら、分析を行います。

私が、分析に取り上げた作品は、主にアメリカのアカデミー受賞Best音響効果賞の作品から取り上げましたので少しアカデミー・オスカー賞の歴史を振り返っておきます。


2 アメリカーハリウッド村の世界戦略「オスカーAWARD」

オスカー賞の歴史
毎年開催されるハリウッドで最も権威のあるオスカー賞の歴史を振り返ってみると、この賞は1927年に結成された映画芸術科学アカデミー(AMPAS)の発案によりスタートし現在に至っています。映画俳優のダグラス・フェアバンクス、シニアがアカデミーの初代会長に選ばれ最初のアカデミー賞授賞式は、公衆の目から離れて、ハリウッド・ルーズベルトホテルで、1929年5月16日に開催されました。当時の参加者は、たったの270人で参加費は、5ドルでした。

最初のオスカー式典は2つの特別な名誉を除いて12の部門から成り賞は、1927年と1928年の映画制作の優れた功績を称えサイレント映画’The Last Command' and 'The Way of All Fleshの主演男優Emil Janningsが受賞しています。最優秀女優賞は「セブンスヘブン」、「ストリートエンジェル」、「サンライズ」でジャネットゲイナーに贈られました。
Directionでは、Frank BorzageとLewis Milestoneがそれぞれ2つのDramatic PictureとComedic Pictureを受賞しました。

控えめに純粋な芸術性や創造性を顕彰していた時代から今日オスカー授賞式は、200カ国以上の視聴者にテレビ放送され芸術よりもビジネスが優先されるようになりました。

ハリウッド村と言われるように、現在のアカデミー・オスカー賞の選考は、全米で6687人(2018年までは6000人)の投票権を持つ会員で構成されその内訳は、94%が白人で77%が男性、しかも60歳以上が86%という極めて白人至上主義のビジネスです。(まさにAMERICA FIRST!の典型と言えます)
この賞を授与することでハリウッドという映画村の価値を世界に高く売り利益を独占してきましたが2019年のオスカー受賞が脱ハリウッド作品になったことをきっかけに今後より公平な選考過程が模索されなくてはならないと思います。

サウンド関連オスカー賞としては現状3つあります。

3 ベスト音響効果賞Best Sound Editing
この賞は、オスカー賞設立後34年経った1963年からスタートし最も美的なサウンド・デザインまたはサウンド編集に授与される賞です。受賞は、通常、映画のチーフ・サウンド編集者(Supervising Sound Editor)がサウンド・デザイナーと共に受け取ります。第1回目は、「It’s a Mad Mad Mad Mad World」でWalter Elliottが受賞しています。

これまで多くの受賞を受けたサウンド・デザイナーは、以下のようできっと皆さんにもおなじみのデザイナーかもしれません。

Ben Burtt
Charles L. Campbell
Per Hallberg
Richard Hymns
Richard King
Gary Rydstrom

4 ベスト・サウンドMIXING
1929年にスタートし当時は、Best Sound Recordingと呼ばれていますが1958年からBest Soundに名称を変更、さらに2003年からはBest Sound Mixingに変更されています。

この部門の歴代受賞を見ると主にミュージカル映画などの優れた音楽レコーディングが受賞しており、サウンド・デザインの観点からはBest Sound Editing賞に着目するのがいいと思います。

5 ベスト・スコアリング作曲賞
1934年からスタートし優れた映画音楽の作曲者に授与されます。Max Steinerが「The Gay Divorce」で第1回目の受賞をしています。
スコアリング音楽に関心ある方は、初期のスコアリング表現に偉大な貢献を行ったMAX SteinerとAlfred Newmanのアプローチを研究することをお勧めします。(了)

///// 分析!アカデミー Best Sound Editing受賞作品 ///// 
第2回 作品の構成把握とデザイン要素 - 作品終了後のレビューの重要性
第3回 第88回アカデミー音響効果賞受賞「MAD MAX FURY ROAD」のサウンド・デザイン
第4回 第87回アカデミー音響効果賞受賞「アメリカン・スナイパー」のサウンド・デザイン
第5回 第85回アカデミー音響効果賞受賞「Gravity」のサウンド・デザイン

「Let's Surround」は基礎知識や全体像が理解できる資料です。
「サラウンド入門」は実践的な解説書です。

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