January 15, 2019

UNAHQ 2014 Touch of CB Immersive Audio recording BTS

UNAHQ 2014 Touch of ContrabassImmersive Surround11.1ch制作
第25回日本プロ音楽録音賞ハイレゾ部門最優秀賞 BEST STUDIO賞受賞

By Mick Sawaguchi UNAMAS Label C.E.O
 


はじめに
2018年8月にAES 国際コンファレンスが開催されました。テーマは、空間音響ということで海外からもImmersive Audioについての研究や録音方式などが発表され盛況なコンファレンスとなりました。
筆者も大賀ホールで制作してきたクラシックアルバムでの音楽性とハイトCHマイキングの関係について初日の午後のワークショップでデモと講演を行いました。ヨーロッパの研究は、主に11CH固定マイクアレイを構築しそれが如何に理に叶った方式であるかをアカデミックにアピールしImmersive録音を行うというアプローチですが、筆者の考え方は固定マイクアレイに拘らず制作する音楽性にふさわしい空間音場を作るためにハイトCHのマイキングはその都度変えるべきだという主張でしたので、参加者には、新鮮だったと思います。
(この詳細は、プロサウンド2018-8号にリポートした第100回サラウンド寺子屋塾を参照してください)

本アルバムは、その中でも最も大賀ホールの空間情報を捕らえるためにホール2階席中央にハイトマイクを設置した例になります。レコーディングは、2017年12月11−12日 軽井沢大賀ホールです。

本アルバムは、2018年第25回日本プロ音楽賞ハイレゾ部門で最優秀賞とBEST STUDIO賞を受賞しました。常に新たな挑戦で音楽制作を行っているUNAMAS制作チームへの感謝の言葉を添えてレポートします。




 制作コンセプト
アルバム制作で変わらぬ基本は、「ART」「Technology」そして実現のための「Engineering」のトライアングルをどう構築するかにあると考えています。
今回の制作でこの3要素をどのように具現化したかについてまず、紹介したいと思います。

1Art
1−1制作コンセプト
UNAMAS  Labelは、低域を重視したアルバム制作を統一したコンセプトに掲げて製作してきました。本アルバムでは、クラシックの楽器の果たす役割の中で常に脇役という楽曲が多いCbをソロ楽器としてフィーチャーした選曲とし大賀ホールの豊かな響きとCbの持つ繊細かつ、低域の迫力を追求したアルバム[Touch of Contra Bass]というテーマにしました。ここで選んだ楽曲は以下の3つになります。
楽曲:
Gran Duo Concertante  by Giovanni Bottesini

ボッテシーニ、グランデュオ(ヴァイオリン&コントラバス、伴奏付き)
ソロ2(ヴァイオリン・コントラバス)+伴奏5(ヴァイオリン2・ビオラ1・チェロ1・コントラバス1) センター前面にCbVlを配置してその周りを5人が取り囲む配置でレコーディング。

2 Sonata for Strings NO1 in G Major by Rossini Gioacchino Antonio

4(ヴァイオリン2・チェロ1・コントラバス1)
ロッシーニのソナタはオリジナル楽曲がVlx2 VcCbというUNAMAS流の
構成と成っておりVlの2人が掛け合いを行うパートなどもあり、配置は左右にVlとし真ん中にVc/Cbでレコーディング。4人なのでこの録音は、通常のDecca Tree方式で行うこととしました。LsRsには音響カプセルを装着してフロントからのかぶりを抑えめにしています。

3 Theme from Schindlers List by John Williams

S.スピルバーグ監督の名作「シンドラーのリストのメインテーマ」
オリジナルのスコアをCbのソロにアレンジ。Cbの持つ豊かな感情をこの楽曲でダイナミクスも広くとって表現することにしました。




1−2「UNAMAS Strings Septet」のプロフィールを以下に紹介します。

北村一平 Ippei Kitamura Cb

埼玉県出身。2002年東京藝術大学器楽科卒業、05年同大学院修士課程修了。在学中、別府アルゲリッチ音楽祭に参加。2005年、ガウデアムス音楽祭(オランダ)参加、JULIAN YU作曲PENTATONICOPHILIAにてソリストを務める。2006年小澤征爾音楽塾Ⅶ「復活」に参加。コントラバスを永島義男、黒木岩寿、西田直文、山本修、石川滋の各氏に師事。オーケストラから吹奏楽、スタジオワークやミュージカルまで、幅広く活動。東京藝術大学管弦楽研究部非常勤講師を経て2006年に東京交響楽団に入団し、現在に至る。

田尻順Jun Tajiri (Vn1

7歳よりヴァイオリンを始める。本間美子、故久保田良作各氏に師事。1988年桐朋学園大学を卒業。卒業と同時に群馬交響楽団に入団、在籍中は首席代理奏者を務める。群馬交響楽団とコンチェルトの共演やリサイタルを開催するなど主に群馬県を中心にソロや室内楽の活動もする。1994年“プラハの春”国際音楽祭、ウィーン芸術週間に参加。1994年首席奏者として東京交響楽団に入団。皇居内の桃華楽堂において御前演奏するなど東京交響楽団ともソロを共演。1998年同団のアシスタントコンサートマスターに就任。2002NHK FMリサイタルに出演。2004年にシリウス弦楽四重奏団を結成。東京交響楽団弦楽四重奏団としても光が丘IMAホールでのシリーズを展開。他にもスタジオミュージシャンとしてもCMや映画音楽などの録音にも携わりその活動は多岐にわたっている。

竹田詩織Shiori Takeda (Vn2)

1988
年生まれ。
2010
年東京藝術大学音楽学部器楽科ヴァイオリン専攻卒業。京都芸術祭「世界に翔く若き音楽家の集い」京都市長賞受賞、全日本学生音楽コンクール、日本クラシック音楽コンクール、横浜国際音楽コンクール、ルーマニア国際音楽コンクール等数々のコンクールに上位入賞、入選を果たす。
大学在学時より、ソロ・オーケストラ・室内楽での活動の他、多数の著名アーティスト楽曲レコーディングやライブサポート等様々なフィールドで活動。自身がリーダーを務めるストリングスでの活動も多数。2012年より東京交響楽団ヴァイオリン奏者としてのキャリアをスタート。2014UNAMASレーベルよりハイレゾリリースした「Four Seasons,2015UNAMASレーベル「The Art of Fugue」にキーメンバーとして参画し以降UNAMASクラシックアルバムでのキーメンバーとして活躍。

西谷牧人Makito Nishiya (Vc)

奈良出身。東京藝術大学音楽学部を経て、同大学院修士課程修了後、アメリカのインディアナ大学にて研鑽を積む。チェロを河野文昭、菊地知也、堤剛、ヤーノシュ・シュタルケルの各氏に師事。2005年留学を終えて帰国し、佐渡裕氏率いる兵庫芸術文化センター管弦楽団に第1期生として入団。これまでに、コンチェルトのソリストとして秋山和慶、尾高忠明、佐渡裕ら各氏との共演や、大谷康子弦楽四重奏団、小松亮太タンゴ楽団、ライブイマージュ、葉加瀬太郎Violin Summitへの参加など、多岐にわたる演奏活動を行っている。2013年1月にはピアニストの練木繁夫氏を共演者に迎え、東京と京都でのリサイタルを開催。好評を博し2013年度青山音楽賞を受賞。2015年、新たな音楽分野への挑戦として、東京交響楽団首席ヴァイオリン奏者の清水泰明氏とユニット「清水西谷(shimizunishiya)」を結成。全曲オリジナル曲&2人の演奏のみの多重録音によるデビューCDアルバム「KODO」を11月に発売。作曲、編曲、ライヴ活動も展開している。2008年より現在、東京交響楽団首席チェロ奏者、及び東京藝術大学非常勤講師。

中村楓子(なかむら ふうこ)vl2
5
歳よりヴァイオリンを始める。桐朋女子高等学校音楽科(男女共学)を卒業後、桐朋学園大学音楽学部カレッジ・ディプロマコース在籍中に東京交響楽団のオーディションに合格。現在、東京交響楽団第1ヴァイオリン奏者。第65,66回全日本学生音楽コンクール東京大会ヴァイオリン部門高校の部入選。第22回日本クラシック音楽コンクール高校女子の部 第4位。第7回横浜国際音楽コンクール弦楽器部門 大学の部 第1位。
2011
年 桐朋Studentsconcert、桐朋学園音楽部門 平成24年度高校卒業演奏会、第20回河口湖ヴァイオリン・セミナー優秀者によるハーフリサイタル“新しい風”などに出演。
2013
北九州国際音楽祭オープニング・ガラ・コンサートに祝祭弦楽合奏団として参加。アフィニス夏の音楽祭2016山形に参加。これまでにヴァイオリンを宮崎ありさ、吉野薫、豊田弓乃の各氏に師事。


多井 千洋(たい ちひろ) va
大阪府大阪市出身。愛知県立芸術大学、東京藝術大学大学院、京都市交響楽団を経て、東京交響楽団に在籍中。2010年ヴィオラスペース名古屋公演にて、今井信子氏と室内楽で共演。第21回レ・スプレンデル音楽コンクール室内楽部門1位。オーケストラのみならずソロ、室内楽においてバロックから新作初演まで、幅広く活動している。ネクスト・マッシュルーム・プロモーションメンバー。

菅野紗綾Cb Saya Sugano
高知県出身。10歳より小学校の部活動でコントラバスを始め、高校から本格的にレッスンを受け始める。東京芸術大学音楽学部器楽学科に入学。在学中、学校内の室内楽コンサートに出演。別府アルゲリッチ音楽祭に参加。同大学卒業後、フリーのコントラバス奏者として、バレエやオーケストラなどで活動中。これまでに、永島義男、石川滋、山本修の各氏に師事。

2Technology
今回は3つの異なる楽曲でアルバムを構成したため、いつものUNAMASSubjective Surround Mikingだけではカバーできず、ノーマルDecca TreeMini Decca Treeの3方式によるレコーディングとなりました。
Gran Duo Concertante  
7人編成なのでUNAMAS流マイキング
Sonata for Strings NO1 in G Major 
4人編成なので全周囲レイアウトでなくフロント配置 Decca Tree
Theme from Schindlers List   
CbソロなのでMini Decca Tree

マイキングは以下の図を参照してください。





3Engineering
基本システムは、これまでのシステムを継承しています。メイン5CHは、NEUMANN KM-133Dデジタルマイクロフォン。LSRSという平面の中間をつなぐマイクロフォンには、Sanken CO-100K、そしてホールのハイトCHマイクはSanken CUW-180という構成です。またCbのスポットマイクにはBrauner Phantom Classicです。最近の録音ではこのマイキングが定番となりました。ハイトCHのマイキングは、距離や接続の効率とSL-RSとの音質の統一を考えて全てSankenにしています。BraunerはもともとVo用に設計されているようですが、感度が高いのと豊かな低域を捉えるので愛用しています。
ステージに設置したRMEのデジタルとアナログマイクプリからMADI光回線で約50mほどです。ステージ機器とモニタールームの機器はそれぞれELIIYPOWER社のPOWER ELIIY3というバッテリードライブで100V出力からはそれぞれの機器へアイソレーショントランスを経由してノイズ対策を行っています。RMEの製品でACアダプター12V駆動の機器は、付属ACアダプターでなくAcoustic Revive社のRBR-1 12V電源と言ったアナログ電源で供給しました。こうした地道な取り組みはJIONの宮下さんの努力の賜物と毎回感謝しています。例えば全音休符の部分などをよく聞くとその静寂さがよくわかります。



11.1CHサラウンドマイキング〜前作との相違〜
これまで大賀ホールで制作してきました楽曲は、図に紹介するように楽曲の持つ空間再現を重視して毎回異なった位置にハイトCH用のマイクを設置してきました。本作では編成も大きいことから大賀ホールの2階席中央にハイトマイクを設置し大賀ホールの豊かな響きを捉えることにしました。







今回のハイトCHマイキング


5 録音システムとノイズ対策〜Virtual Earth BOXの導入
毎回少しずつ改善してきたS/N比向上のための電源系統のDC電源供給やEMCノイズ対策、コモンモードアイソレーション、各種振動対策や接点のクリーニングといった積み重ねに加えて今回は、宮下さんがオリジナルの「仮想アースBOX」を製作し、各機器用とメイン電源用に接続しています。
これまでのアルバムに比較しても大変静寂感が増し弦楽器の音色が大変自然になったと思います。今回の電源系統を以下に示します。





まとめ
楽曲構成とそれにふさわしいハイトCHマイキングというテーマについては今回の制作で一定の集約を行うことができたと考えています。すなわち

1ステージの天井からの初期反射音の利用
2ステージ端から客席を狙った残響の飛び
32階バルコニー席から客席を狙った響き
42階席中央からのホール残響

です。こうした積み重ねを行うことでIMMERSIVE AUDIOの空間を音楽によってどう構築していくことが可能かをノウハウとして経験し、それを次のプロジェクトに生かしていくことができると思います。
ファイナルMIX192-32から以下のフォーマットで作成しています。

1 SL-RSを生かした11.1CH MIX
2 SL-RSをファンタム定位とした9.1CH MIX
3 配信用5.1CH
4 通常2CH MIX
5 MQA 2CH MIX
6 バイノーラルコーディングを行ったHPL-9 2CH
Pyramix内のアルバムパブリッシング機能を使ったdsd11.2
8 サンプル試聴用mp-3







 



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