July 17, 2022

2009年第81回アカデミー長編アニメ作品賞受賞「Wall-E」のサウンド・デザイン



                        

Mick Sawaguchi 沢口音楽工房
Fellow M. AES/ips
                UNAMAS-Label・サラウンド寺子屋塾主宰

はじめに

2008年制作の長編アニメーション「Wall-E」を取り上げます。本作は、長編アニメーション作品賞受賞と同時に音響効果賞とBEST MIXにもノミネーションされました。サウンド・デザインは、Star Wars以来久しぶりにロボット・メカ音に取り組んだBen Burttが殆ど一人で3年の準備と9ヶ月のポスト・プロダクションを行ったサウンドです。

Ben Burttは、ウオルト・ディズニーとの制作ということもあり、ウオルト・ディズニー.スタジオが1930代から築いてきたアニメーション効果音の偉大な歴史とそれを現在まで継承しているスタッフや貴重な効果音用具も応用して制作された2500ファイルに及ぶ膨大な効果音が本作を表情豊かにしています。

                     


 今回は、サウンド・デザインというよりも個々のサウンドをどういった考えとアイディアで制作したのかを中心に分析してみます。


1 スタッフ

Director: Andrew Stanton

Music: Thomas Newman

Sound Character/Voice Designer: Ben Burtt

Dialogue Mix: Vince Caro/Doc Kane

Foley Artist: Jana Vance/Denice Thorpe

Supervising Sound Editor: Matthew Wood

Re-Recording Mix: Tom Myers/Michael Semanick at Skywalker Sound

Music Rec/Mix: Tommy Vicari

Orchestra Rec: Armin Steiner at Sony Pictures/20C-Fox/Paramont Scoring Stage



2 ストーリと主要登場人物

時代は、29世紀の地球。ゴミの山と化した地球ではWall-Eと呼ばれるゴミ掃除ロボットだけが、黙々とゴミを収集しています。Wall-Eは、毎日好きな映画音楽(1960年代のミュージカル・ナンバーHello DollyからPut on Your Sunday Clothes)を再生しながら町中を駆け回ってゴミ掃除に奔走しガラクタの中から興味あるものは、My-Boxへいれて我が家へ持ち帰っては、収集しています。

地球は、BNLという巨大企業が支配し人類は、すでに700年前に宇宙船アキシオム号で宇宙へ飛び出し、お世話ロボットに全てをまかして一見快適な生活をしています。NBL企業のC.E.Oは、いつかゴミ掃除が終わり再び住めるようになれば地球を再植民地化しようと緑化するための植物を見つけるA-113計画をたて調査、収集のために卵型ロボットを宇宙へ派遣します。そのひとつEVAがある日地球探索へ舞い降り、そこでWall-Eと出会います。Wall-Eは、手をつないで愛を語り合うシーンで流れる「It only take a moment」という歌にあこがれておりいつかLoveを感じたいと思っているロボットです。EVAと出会い、その気持ちは、高まりますが、EVAは、植物を発見して宇宙船へ持ち帰るという使命以外には、興味ありません。Wall-Eが、ゴミの山から見つけて持ち帰っていた植物の苗をみつけ、宇宙船へ帰還しますが、そのロケットに同乗したWall-Eも宇宙船へ。そこで緑化計画を推進しようとする船長とそれを阻止しようとするコンピュータとの争いのなかで2人は、緑化計画A-113計画を実行し、人類は、無事地球へ。メカを壊されたWall-Eは、EVAの献身的な助けで収集していたスペアーパーツで無事回復し2人は、手をつなぎ合ってHappy Endを迎える98分の作品です。


3 作品の構成 起承転結と特徴的なデザイン

3-1  オープニング 4‘00“

おなじみPixarのロゴの後、宇宙から地球そしてズームインし街の風景になるとそこがゴミの山で出来ている事が分かります。オープニングの音楽は、監督のこだわりであるレトロなサウンドということで1960年代のミュージカル映画Hello Dollyから軽快な音楽が流れます。ゴミのビル街俯瞰ショットでリバーブの余韻でフェードアウトすると、今度は、Put on Your Sunday Clothesが、ソースミュージックに加工されて登場。後でこれは主人公Wall-E本体にあるカセット再生機から流れている事がわかります。このデザイン手法は、Ben Burtの先輩になるWalter Muchが1973年の映画アメリカン・グラフティで使った手法として知られています。

この扱いが通常と異なるのは、Wall-E が街を移動しているON-スクリーンの時のみ流れOFFスクリーンでは、流れていません。通常は、時間の継続性を考えてOFFスクリーンのカットもレベルを下げる等して連続性を維持するのが一般的ですがこの意図は、Wall-Eロボットが小さいので街に響くほどの音量が出ていないということを示すためかカットカットで流れる事で観客に注視してもらうといった意図かもしれません。


3-2  起 10‘20“ 

タイトル音楽は、Scoring音楽でハープのシンプルなリフで構成されていますが、このリフが後にも登場してくるWall-Eと卵形ロボットEVAとの愛のテーマになっています。Wall-Eが、かつて地球を支配していた日本企業BNLが運営していた様々な商業施設の廃墟を移動しているとフォログラフィー・スクリーンが立ち上がりBNLのC.E.Oの宇宙で快適に暮らそう!というキャンペーンCMが流れます。このアナウンスは、街中に拡散するデザインでハードセンターに明瞭なアナウンスが定位しフロントとリアの4CHにリバーブ成分が定位するというデザインです。

Wall-Eの移動中は、トラッキング音楽の扱いでタイトル音楽から、シーン毎に曲想を変えながらWall-Eが、我が家へ帰宅しゴミ収集の間、再生していたミュージカル音楽を体内再生機から取り出して我が家のビデオ再生機で再生するまで継続します。再びPut on Your Sunday Clothesがソース音楽として部屋の中で再生され、Wall-Eは、それを聴きながら今日収集したお好みのガラクタを棚に整理します。この中には、後でEVAとの交流で活躍するジッポのライターも伏線として登場しています。ソース音楽は、変わって甘いラブソングになり、Wall-Eはこの歌と恋人2人が手を取り合って歩いていくシーンにうっとりしています。お気に入りの歌としてこれも自分の内蔵レコーダへ録音します。ここで登場した2曲の音楽と手を取り合って愛を表現するということが本作の大きなモティーフとなっています。


3−3 承 36‘43“

一夜明けると充電のきれたメロメロのWall-Eが立ち上がり屋上で太陽光充電をします。フル充電完了を知らせる音にはMacの起動音が使われています。

いつものゴミ収集作業へ出かけゴミの中に鉄製のBOXを見つけたWall-Eは、レーザー光線で焼き切り中を開けます。すると中には古い靴の中に緑色の芽をだした小さな植物がありました。これもMy BOXへ収集します。こうした一連の動作音は、ひとつひとつBen Burttが有機物素材をもとにして作った効果音です。 





本作は、台詞が殆どありませんが、アーとかイーといった発音で何らかの感情を観客に分かってもらうための作り込みに膨大な時間をかけたとBen Burttは、語っています。我が家へ戻る途中で道に異様な赤い光の投射を見つけます。この光はだんだん小さく円形になってWall-Eを取り囲むようになると、それは巨大な宇宙船だったのです。宇宙船が着陸する寸前までは、音楽が盛り上げブラス・セクションとシンバルで終わるとこの後を受けて効果音だけでLFEも十分つかった轟音とともに着陸音が全面サラウンドで展開します。この素材には、昔から使われてきたサンダー・マシンと呼ぶ鉄板をスティックで打ち鳴らした素材が使われています。


緊急避難のため地下へ潜っていたWall-Eが顔を出します。巨大な宇宙船の船底にぶつかる音をきっかけに音楽が開始し、卵形のロボットEVAを排出するまで続きます。このシーンではLとRで宇宙船の排気音そしてLSでハッチが開くSEが登場し宇宙船の大きさがとてつもなく大きい事を表現しています。

ここで注目する効果音は、EVAを宇宙船から排出するまでの一連のメカ動作音のテンポやリアルさと様々な音色です。全てハードセンター定位で、L-Rにアンビエンスというシンプルな定位でそれぞれは、一瞬の音ですが、それらがスムースな一連の有機的なメカ音として構成されています。

EVAの登場から音楽が始まりEVAの探索シーンをBGMとして包んでいます。偵察中にWall-Eと出会います。「Who are you」らしき言葉を発するEVAは、手から強力なレーザーガンを発射します。

2人で街を探索しているBGMには、サッチモが歌う「バラ色の人生」が使われています。Wall-Eが恋人同志で手を取り合って歩いていく大好きなミュージカルのシーンをEVAと実現したいと考えていることがこの音楽で分かります。バラ色の人生は、Wall-Eが鉄パイプの山で押しつぶされる効果音で終わります。再びBGM音楽となりEVAの探索シーンをフォローし巨大磁石に補足される効果音でカットアウトします。

EVAの地球探査の目的は、光合成を行う緑色の植物を発見、回収して宇宙へ帰還することでした。そのため町中を探索しレーザー・スキャンしているのです。その途中でBNL海運の巨大磁石のついたクレーンに補足されますが、EVAは、レーザー銃で破壊します。このレーザー銃の素材は、吊り下げたスプリングをスティックで叩いて得られた共鳴音が使用されています。

ここで2人は会話らしき言葉を交わします。「指令で来た」「どんな」「ヒミツ」そしてお互いの名前を呼び合います。この2人の台詞、EVAは、女優の声からボコーダをメインにプロセスし、Wall-Eは、Ben Burtt自身の声を素材に音節単位でコピー.ペーストしペン.タブレットツールを使ってピッチやサステイン、レベルなどを変えて作り出しています。声の制作だけで9ヶ月をかけたそうでシーン毎の台詞が固まればアニメーターが動きを描く場合も非常に感情が一致した表現になると述べています。


突然警報がWall-E体内で鳴り嵐がくることが告げられた2人はWall-Eの家へ避難します。EVAの訪問を歓待しようとWall-Eは、ガラクタを見せます。

魚の人形が「Don’t worry be happy」を歌うとハープのリフで愛のテーマが流れます。大好きなビデオを上映するとソース音楽でいつものミュージカルが流れ2人はダンスに興じますが、EVAの振動で天井へ放り出されたWall-Eは、右の目パーツが壊れてしまいます。しかしガラクタ棚を探して無事スペアと交換し無事回復。これは、ラストのWall-Eが機能不全で宇宙船から地球へ戻った時にEVAが、スペア・パーツを取り替えて回復するシーンの伏線になっています。

ここでの各種パーツの音と回復後の細やかなメカ音もすばらしいサウンドです。メカ音だけで表情を出すという時の参考になると思います。

EVAが、棚からジッポライターを取り出し点火すると愛のモティーフが流れます。Wall-Eは、あのミュージカルで手を取り合って歩いていく恋人のシーンに憧れていることをここで暗示しています。

次のガラクタとしてWall-Eが見せたのは、朝方にMy BOXへ投げ込んだ植物でした。そうですこれこそEVAが探索していた目標物なのです。EVAは、体内へこれを取り込むと帰還プログラムが動作し休眠状態になってしまいます。

どうして回復させればいいか分からないWall-Eは、懸命に回復させようと様々な努力をします。ここもBGMで包みその終わりにミュージカルの楽曲が登場し落胆したWall-Eの「ハー」というため息とともに終わります。

翌日いつものゴミ収集へでかけたWall-Eの目にEVAを回収して宇宙へ帰還させるための巨大宇宙船が着陸します。ここでの様々なメカ音もすばらしい仕上がりです。LFEをたっぷり使ったロケットが発射し地球ゴミ帯から大宇宙への旅が始まります。ここまでも曲想を変化しながら4’30”のBGMで包んでいます。


3-4転 86‘00“

地球のWall-EとEVAの2人の行動から、宇宙船アキシオム号の中でのシーンへと展開していきます。様々な天体へ探索に出かけていたEVAと同型のロボットが次々と回収され、目的の植物があるかどうかチェックされていく一連のメカ音もすばらしい表情です。宇宙船内のアンビエンスはステレオでメカ音はハードセンター定位です。ここでMOというかわいいお掃除ロボットが登場しますが、この声もBen Burttの声から作り出しています。

EVAが植物を回収し体内に保管していることを検知した捜査ロボット.ゴーファは、船長室へ案内します。廊下からエレベータ、そして船長室と一連の移動にはトラッキング音楽が流れ、シーンに応じたメカ音が活躍します。

キャプテンは、700年の旅をしている人類が光合成のできる植物の繁殖により再び汚染の無い地球に住むためのA-113計画のマニュアルにそって植物をアキシオム船内の広場にある「ホロディテクター」へ入れるよう指示します。

しかし地球帰還に反対している自動操縦コンピュータ「オート」は、EVAの体内から植物を盗み出し廃棄しようとします。ここも一連のBGMが包みオートのコンピュータボイズや司令室のコンピュータサウンド、などメカ音が活躍します。

植物を持っていないEVAは、プログラムが異常だったと判断され修復室へ入れられます。後を追うWall-Eは、EVA助けようと腕をとるとレーザーガンが暴発し宇宙船は、パニックに、そして2人は危険分子と認定され宇宙船内の追跡シーンが展開しここでもメカ音が活躍します。

盗まれた植物は、地球帰還ロケットに積まれ、途中で爆発するよう仕組まれています。このロケットに逃げ込んだWall-Eは、ロケットが爆発寸前船内にあった消化器をみつけ爆発と同時に脱出します。このシーンもメカ音が様々に活躍します。

無事なWall-Eを見つけたEVAは、宇宙のランデブーを楽しみます。2人が宇宙船の回りをダンスする推進力に消化器の噴射音がうまく活かされています。


植物を無事回収したWall-EはEVAに渡し、船長のもとへ届けます。A-113計画に反対のオートは、3人を監禁し、反乱をおこします。2人は、機能停止となり宇宙のゴミとして放出されるため宇宙船内のゴミ処理場へ投げ出されます。ゴミ圧縮されたWall-Eは、基板が壊れ機能不全となってしまいますが、なんと植物を取り戻して持っていたのです。この一連のシーンもメカ音が活躍している見せ場となっています。

監禁された船長も奮起してオートを機能不全とし、EVAが持っている植物を広場のホロディテクターへ入れるようアナウンスします。人々も広場に集まって見守っています。オートもこれを阻止しようとホロディテクター回路を破壊しますがWall-Eが捨て身で動きを制止します。傾いた宇宙船は、不安定で人々は、落ちてきた扉に押しつぶされようとしますがこれはEVAが来て防止します。

全てが危機一髪という時、S.キューブリック監督作「2001年宇宙の旅」のテーマとして使われた「ツァラトゥストラはかく語りき」が蒼然と流れ奮起した船長の努力で無事ホロディテクターへ植物が投入されます。そしてプログラムが作動し10秒で地球へ帰還します。

このシーンは、11‘15“のアクションSCORING音楽と人々の声やメカ音満載でサウンドとしては、最大の山場となっています。


3−5結 90‘00

宇宙船がたっぷりのLFEを含んで轟音とともに地球へ着陸します。砂埃から映像がグレーアウトするとロケットの扉があく金属音先行で、地球帰還を告げます。

EVAは、機能不全のWall-Eを抱え家に向かいます。棚にある収集物からWall-Eのスペア.パーツになるものを探し、次々と交換、最後に命を吹き込むため天井に穴をあけて太陽光で充電します。

無事回復するかどうかというシーンは、6”の殆どノンモンに近い静かなアンビエンスで緊張感を表しています。この一連の動作のメカ音もすばらしいと思います。6“の緊張感が終わるとMacの起動音が作動しWall-Eの回復を告げます。全てがリセットされたWall-Eは、単なるお掃除ロボットとしてしか回復しませんでした。ここでのEVAとWall-Eの動作音は、せつない感情のこもったまさにBen Burttの真骨頂があらわれたサウンドです。

そして記憶をよみがえらせようとWall-Eの手をしっかり握った時間経過のもとでWall-Eは、無事回復します。そしてオープニングで使われたミュージカル音楽「Put on Your Sunday Clothes」が流れます。


3−6エピローグ 

ピーター.ガブリエルの作曲演奏による「Down to Earth」とともに映像は、人々の地球再生からズームアウトし宇宙へ拡大し、エンドロールへ転換します。エンドロールは、スコアリング音楽に戻ります。


4 効果音の制作と声の制作

サラウンド・サウンド・デザインという面で見るとハードセンターに各種メカ音があり、アンビエンスはL-R、余韻はリアで、時々嵐や宇宙船内での走行音がFly-Overする程度で地味なデザインと言えますが、本作の特徴は、登場メカひとつひとつの膨大なサウンド制作にあります。

メインとなって制作を担当したBen Burttは、インタビューのなかでこれまで担当した作品の中では最大となる2500から2600のファイルを用意、制作したと述べています。これまでは、Star Warsで1000ファイル、インディージョーンズシリーズ「レイダース失われたアーク」では、700〜800だったそうです。監督のAndrew Stantonは、2003年制作の前作「Finding Nemo」の完成後すぐにこうしたサウンドを一から作り上げるのはBen Burttしか無いと決め、本制作に入る3年前に準備をするよう打診したとのことです。

Ben Burttのサウンド作りの基本は、有機的な素材を使い、その後様々なプロセッサーやプラグイン/サンプリングキーボード等最新のツールを使ってオリジナルなサウンドを作り上げる点にあります。このことでアニメーションという映像にリアリティを感じるようにサウンドでサポートしていると考えて「ファンタジーにリアリティを感じてもらうには、この考え方が適している」と述べています。本作での有機物素材例としては、

Wall-Eの走行キャタピラー音:低速/高速

この素材には、軍用手回し発電機と複葉飛行機エンジンの起動に使う手回しスターターが使われています。いずれもe-bayのオークションで購入したそうです。有機物素材が有用なのは、自分で様々な表情や変化をつけた音が録音できる点にあり発電機も回転速度を様々に変化することで一台から色々な表情を得る事が出来るからです。複葉飛行機のスターターというアイディアは、以前のインディジョーンズ「レイダース失われたアーク」の中で使ったことをヒントにしたそうです。 



 

風音

1930年代から風音を作るためのWind Machineという道具が使われてきました。これはキャンバス地の布をかけた円形回転機で風の大きさは、回転速度の変化で作り出す事が出来ます。これに加えてBen Burttは、キャンパス地のサンドバッグを廊下で引きずり回して素材音にしています。


雷音発生鉄板

これも昔から使われてきた雷鳴発生機で長方形の大きな鉄板を吊り下げて様々な道具でこすったり、打ち鳴らしたりして雷鳴を作ります。Ben Burttは、新規にこれを制作してティンパニー用のスティック等を使って素材としています。これは、ロケットの打ち上げや暴風が町に押し寄せるシーンで活用しています。


その他に使用した素材例

スプリング

スプリングをはしごの上からたらしていろいろなスティックで叩いて録音しその共振音でEVAのレーザーガンの発射音に使っています。


NIKONカメラのシャッター音/戦車のメカ音

カメラのシャッター音をWall-Eが色々な細かい動作をする時のメカ音に

Demolitionカーレースの走行音

Macの起動音 Wall-Eの充電完了音

ラジコン

手錠 メカ音素材

ショッピングカート 

Wall-EとMOロボットの声

ロボットでありながら観客に共通に理解できるニュアンスを作り出すのは、大変な根気が必要で、Ben Burttは、色々な素材を試した結果、最終的には自分の声で喜怒哀楽を出しています。


色々なニュアンスで同じような声を録音し、それらをDAW上で切り出し、ペンを使ったタブレットで操作してピッチやベンド、サスティーン、速度等をプロセスし、こうしてファイルができあがると監督とアニメータースタッフ5〜6人で視聴しどこにどれを使うかを選択したと語っています。



EVAの声

こちらは、女優の声を録音後全て電子音シンセサイザーで制作。1940年代に開発されたSONO BOXのサウンドをヒントにしてボコーダーを活用したそうです。


5 音楽 

Thomas Newmanは、1955年ロスアンジェルス生まれで、アメリカ映画界の代表的なScoring作曲者です。代表作には、本シリーズでもすでに紹介した「007 Sky Fall」「Finding Nemo」「Road to Perdition」「Green Mile」といった音楽を担当しています。2002年の「Road to Perdition」は、大変優れたサラウンド ・デザインがラストで行われていますので機会を見て本誌でも分析してみたいと思っています。


本作でのScoringの扱いは、Sky Fallに比較すると伝統的な作風で起伏のあるキューポイントでの転換というよりもひとつのストーリ毎で緩やかに変化していくといった構成です。LFEは、控えめながらも使っていますが、サラウンド・チャンネルを大胆に使うという楽曲は、あまり見られませんでした。






Wall-EとEVAの愛のモティーフとして「It only Take a Moment」という既成曲以外にもハープの単音のメロディを初めの2人の出会い、Wall-EがガラクタのコレクションをEVAに見せるシーン、EVAが動かなくなって宇宙船の迎えを待つシーン、アキシオム船内で2人が手を握り合うシーンなのでライト・モティーフ風なメロディが使用されています。

ソースMUSIC扱いの部分は、「Put on Your Sunday Clothes」をWall-Eが自分の体内再生機から流しながらゴミを収集するワイドショット、帰宅してからの再生、ガラクタの魚が歌う「Don’t worry be happy」などが使用されています。

オーケストラ音楽以外で使用されたのは、

ミュージカル映画 Hello Dollyの中からWall-Eの大好きなテンポの良い楽曲「Put on Your Sunday Clothes」がテーマ曲、そしてWall-Eのゴミ収集中の自分の再生機からの再生、家に戻ってからのビデオ再生そしてエンド曲として使われています。もう1曲は、愛のバラードで「It only Take a Moment」が愛のテーマとしてEVAとの心の交流で使われています。

もうひとつは、サッチモが歌う「バラ色の人生—La Vie en Rose」がWall-EとEVAが地球におりてから町を探索する2人のシーンに使われました。こうした古い曲を使用した理由について監督のAndrew Stantonは、インタビューのなかで、Pixarの最新CGアニメーション映像にレトロな音楽という組み合わせが心を和ませると考えこの3曲が一番ぴったりときたし、20C FOX FILMも協力してくれたおかげだと述べています。

エンド曲「Down to Earth」

ピーター.ガブリエルのブランド力を応用した曲で詞は、良い内容です。しかしmixは、残念ながら、すばらしいとはいえず、殆どモノーラルmixされたブロックを4chに配置しわずかにウインドチャイムがリアでアクセントをつけています。音質も今はやりの過激圧縮Lo-Fiでレベルメーターは、全く動きません。映画のエンド曲として使うのであれば、素材からRE-MIXしたほうが良かったと思います。

音楽の使用時間は、総計77‘06“ で作品に占める比率は。78.6% となり、やはり長編アニメーションで音楽が果たす役割は大きな比重となります。

おわりに

今回は、サウンド・デザインの視点でなくクリエイティブな効果音制作という視点でWall-Eを紹介しました。


///// 分析!アカデミー Best Sound Editing受賞作品 ///// 
第2回 作品の構成把握とデザイン要素 - 作品終了後のレビューの重要性

第3回 第88回アカデミー音響効果賞受賞「MAD MAX FURY ROAD」のサウンド・デザイン
第4回 第87回アカデミー音響効果賞受賞「アメリカン・スナイパー」のサウンド・デザイン
第5回 第85回アカデミー音響効果賞受賞「Gravity」のサウンド・デザイン

「Let's Surround」は基礎知識や全体像が理解できる資料です。
「サラウンド入門」は実践的な解説書です。

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