By Mick Sawaguchi 沢口真生
2005年7月31日 三鷹 沢口スタジオにて
テーマ:George Massenburgの世界とUNAMAS JAZZ LIVEを聴く
講師:小林実(三研マイクロホン)
沢口:今回はメインテーマにジョージ・マッセンバーグがプロデュース・エンジニアで制作したサラウンド作品を2曲聞いてもらいます。その後6月に三鷹のLIVE HOUSE[UNAMAS]で私が収録したJAZZのサラウンドMIXを聞いてください。では、小林さんよろしく。
小林:SANKENの小林です。夏休み前の寺子屋なのでじっくり音をきいてもらう企画としました。今日紹介する音源は、私の昔からの友人である、ジョージ マッセンバーグという優れたエンジニアで自らGMLという会社で音響機器も製作している天才が最近プロデュースしたJon Randallの作品を聞いてもらいます。ことのきっかけは、AESバルセロナ コンベンションの会場で彼と会ったときこのサラウンド寺子屋の話をしたところ、彼も大変興味を持ってくれたので、それじゃ何かやってくれないか?とリクエストして実現したものです。彼の略歴や活動については、http://www.gmlinc.comから参照してください。
では、さっそくデモしてみます。スタジオの雰囲気を理解してもらうためまずDVD-Vでセッションの風景をみてください。では次にDVD-Aで送ってきたJon Randallの曲を2曲きいてください。これらの録音がどういった考えで、どんなマイキングなどで録音されたかについてはジョージから詳細なデータも送られてきましたのでその抄訳を読みながら代弁します。
05-07-31寺子屋用George Massenburgのサウンドアプローチ
日本のみなさんへ、特にわたしの古くからの友人である小林実さんと音の良き仲間であるMick Sawaguchiを含めて私の音にたいする考えを述べてみる事にします。私が住んでいるアメリカのナッシュビルという街には、多彩で多様な音楽が息づいています。中でも「カントリー音楽」は皆さんもよくご存知でしょう。Faith Hill&Tim McGraw,Kenny Chesney,といったカントリーのひとたちはエンターテイメントを主眼として活動していますが、アーティストとしての作曲家やミュージシャンもたくさんいます。こうした中でも芸術としての音に取り組んでいるのは、AlisonCkrauss,Emmylou Harris,Steve EarleやGillian Welshといった人々です。私の仕事を振り返ってみて、いつもいい仕事をしたといえるのはアコースティックなサウンドを扱ったときでした。例えばDolly Parton,Linda Ronstadt,Emmylou Harrissなどのプロジェクトは、すべてアコースティックな楽器の録音です。どうして私がアコースティック楽器に魅力を感じるのかは、いまだ明快な答えを持ち合わせていませんが、多分アコースティック楽器が出す微妙な表情や優れたダイナミックレンジといった所に惹かれるのでしょう。こうしたサウンドは、聴く人に深い感動と音楽のメッセージを伝える事ができまたそうした演奏を実現するためには、ミュージシャンも大変な努力と使命をもって研鑽している結果、彼らは、すばらしいサウンドを醸し出してくれるわけです。
では、今回のサラウンド寺子屋で紹介するアコースティック音楽を紹介しましょう。彼の名前はJon Randallです。わたしは、常々レコード会社は、優れたアーティストの録音をじっくり制作することができないことに不満をもっていました。ですから私のところにそうした仕事は回ってこなくなったので、私は、自分でやりたいことを自分でやることにしたのです。私とJonのつきあいはかれこれ数年になりますが、作曲家としてもアーティストとしても大変優れた才能の持ち主です。彼はEmmylou HarrisとEarl Scruggsと共演していますが、Earlはアメリカのトップバンジョー奏者でみなさんのなかにも「Bevery Hillbillies」という曲の中で彼のバンジョーを聴かれた方がいるかもしれません。Jonの演奏スタイルは、ブルーグラスという範疇にはいるといえますが、それにこだわる事無くすばらしい演奏とボーカルの腕前を持っています。この彼の作曲、演奏、ボーカルという才能を融合して生演奏のアコースティック音楽を制作したくなりました。
2003年にこの計画を進める手始めとして生演奏にわずかばかりのオーバーダビングによる歌を重ねテスト録音を行いました。録音は96k/24bitでプロツールズに録音しています。プラグインのエフェクトもほとんど使っていません。それまで私の仕事の多くはすでに録音の終わったトラックのミキシングでしたが、このとき初めて96/24の録音を手がけました。録音は、Petewood studioで行い、同時に映像も記録することにしました。このスタジオは友人のPete Wasnerのために私が設計したスタジオでとても良い響きを持っておりおもにデモ録音スタジオとして運営しているスタジオです。SONY MUSICが気に入ってくれたので出来上がったマスターをSONY MUSIC N.Y へ持って行きました。そこのA&R担当は、これを聴いて「これはいけるね!でもどうしてWhisky LULLABY は入ってないんだ?」と言いました。しかし、我々は、SONY MUSICナッシュビルの連中から「それはいれないでくれ」と言われていたのです。しかし、N.Yのお偉方は、「これはJON自身の演奏としてレコード化しよう」と言ってくれました。そこで我々は、制作に必要な資金の提供を受けWhisky Lullabyを制作することができたわけです。
Whisky Lullabyは、私自身世に出したいと思っていた音楽なので、空間を最大限に生かしてストリングスセプテットですべてLive録音する事にしました。歌の内容を考えて、ビオラなどを主体としたローキーのストリングス編成がいいのではと考えました。制作にあたり私は、友人のDavid Campbell(彼はBeckの父親です)にこれを聴いてもらいアレンジを考えてもらいました。彼もこの楽曲が大変気に入ってくれいいアイディアを提供してくれました。いよいよ録音となり、私は響きの良いスタジオということでCapitol Studio-Bとロスアンジェルでトップのストリングスチームを手配しました。映像も収録するため2台のDVX-100Aを用意し映像編集は、Final Cut Pro HDで、音声は5.1CHで私自身マスターを制作しています。
このやり方は、今後の音楽制作のあるべき方向だと思っています。ビデオ制作のプロに頼むと音楽のエッセンスも分からずやたらと手の込んだ映像を撮影したり派手なコンピュータグラフィックと組み合わせた映像になりますが私は、収録スタジオそのものでミュージシャンがどういったアプローチで制作しているのかをじっくりと観察してもらえることが重要だと考えているからです。撮影は機動性のあるカメラで我々が行いました。
Whisky Lullabyのレコーディング
私の録音哲学はクラシックであろうとPOPSであろうとすべてのミュージシャンが同一の場を共有しLIVEで演奏することです。そしてできるだけお互いが生の音を聞きながら、可能な限り歌も一緒に録音するようにしています。だめな時は、その後にボーカルだけオーバーダビングしますが、こうしたやりかたが最良の結果をもたらしていると考えています。私は、録音時には、いつもスタジオ内にいることにしています。コントロールルームでのエンジニアリングは、信頼のおける友人にまかせています。私は録音にはいるまでに最終の仕上がりを完璧に設計してから録音に望みますので、ミュージシャンがスタジオにきてあれこれ悩むことはありません。録音に使用する機器は、ほとんど私が設計したGMLの機材を使います。なによりどんな音になるかを熟知しているからです。もちろん日々市場にでてくる様々な製品も入念にチェックしています。メイン機器は、GML-8304/GML-8200/GML-8900で、ミキサーが必要な場合は、GML-HRTを使用しています。モニター用にこのミキサーを使う事もあり、モニターSPは、ATC-020/Genelec8050/ATC150等を使っています。マイクロフォンは、カスタム仕様のU-67 C-24 C-12 Coles 4038 AEA R-84 Royer R-121 B&K 4006+Millennia HV-3 ダグサックスがオリジナルで制作したCK-12カプセル使用のチューブマイク、Sennheiser MD-431(スネア用)D-112(キックドラム用) Alesis AM-40そしてEvil Twin&Demter DI等がメインマイクです。プロツールを使う場合もプラグインソフトはほとんど使いません。MDWのEQくらいです。小型モニターSPは、ATS-020 Genelec 1031a /1032を使っています。
AGtには、sankenCU-44XをX-Yで使います。ただしX-Yの向きは縦方向でなく横方向です。この方が、私には、サウンドが自然だと思うからです。CU-44Xは、大変フラットでナチュラルな音がしますのでAGtには、よく使っています。
今回は、sankenの新製品co-100kマイクを4本高さ2.5mで配置しました。このマイクの特質は、10k-25kの範囲に人工的な不自然さが見られない大変自然な音をしている事です。レコーディング中に私の仲間も音を聞きにきましたがAl Schmittもこのマイクの素直な音をいたく気に入っていました。(了)
では、このときのマイクアレンジを以下に示します。見ておわかりのようにJonを中心として円形にストリングスが配置され、それも大変近接しています。VOには、U-67 SP AGtには、cu-44xをXYで、ストリングスには、C-12をそしてサラウンド用にCO-100Kを使用しています。ストリングスの編成がユニークな点は、ビオラX4 チェロX2Wbx1というローキーな編成です。ジョージによればこの楽曲は失恋の歌なので悲しさを表現するためこうした編成にしたといっています。
沢口:どうも有り難う御座いました。芳醇なアコースティックサラウンドを堪能できたのではないかと思います。
冨田:いやー!私は、あんなにマイクが近いのにストリングスのおとが松ヤニ臭くないのでなぜかと画面をじっくりみてました。 彼らが演奏する弓の位置がいつもより駒から遠いんですね!まあ演奏者の腕もあるのでしょうがミュートなどつけずにあんな柔らかいおとがでているのがよかったですね。
沢口:では、残りの時間でJAZZクラブの雰囲気を楽しんでください。これは三鷹のLIVE HOUSE[UNAMAS]の一周年記念イベントのときに録音しました。以下にマイキングとデザインを示します。Dsのover headには、sanken co-100kを使いました。シンバルの響きをとらえることができると思ったからです。WBsは同じくsanken CUW-180を使っていますが、これはデザインのところを見てもらうとおわかりのようにハードセンターにラインOUTを入れ、マイク成分をセンターの左右に広げてベースのうなりを出したかったからです。VOとTsはハードセンターでなくやや手前、すなわちハードセンターとSL/SRにこぼすというレイアウトです。
録音はマッキーONIX 8CH MIC PREX2でAESデジタルOUTをPYRAMIX DAWへ接続という極めてシンプルな構成です。フォーマットは48K/24BITです。
では、6月1日のセッションからメンバーはVO:安則チャカ真美 Apf:ユキアリマサWBs:佐藤ハチ恭彦 Ds:原大力。そして6月3日のセッションからメンバーは、ts:井上淑彦 A pf:大石学 WBs:上村信 Ds:原大力です。
寺子屋終了後のメールでは、ジョージ・マッセンバーグの同時演奏やモニター無しでお互いの音を聞きながら演奏するのが最良の演奏になるといった録音哲学、そしてでてきた自然で豊かなサラウンドの世界を堪能したというメッセージに効率優先の音楽産業だけでいいのか?という思いがこめられていたと思います。今回は関西から新たに参加がありました。またどうぞ!(了)
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「サラウンド入門」は実践的な解説書です
Mick Sawguchi & 塾生が作る サラウンドクリエータのための最新制作勉強会です
http://surroundterakoya.blogspot.com
July 31, 2005
第25回サラウンド塾 George Massenburgの世界とUNAMAS JAZZ LIVEを聴く 小林実
July 10, 2005
スターウォーズ エピソード-3「シスの逆襲」のサウンドデザイン
A.M 05-05 by S.Bullins 抄訳:Mick Sawaguchi 沢口真生
[ はじめに ]
スターウォーズ エピソード-3は、これのみがすばらしいというだけでなく、映画音響の歴史を継承し最先端のノウハウが発揮されているという点でも注目される。というのもこれに関わった優れた才能の人々が、その持ち味と最大限のアイディアを発揮した結果であると言わざるを得ない。音響効果のエディターを担当したTom Myersは「勿論我々は、ベストの力を出し切りましたが、それを可能とするだけの十分なスケジュールも確保できたのが重要です。これは、スターウォーズシリーズの最後を飾るわけですし、、、、」とコメントしている。
Tom Myersと仕事をともにしたのは、サウンドスーパバイザーのMatthew WoodそしてSkywalker Sound V.PのGlenn Kiserのコンビである。
「エピソード-1の段階で我々は、編集段階でのサウンド制作をプロツールズベースで制作するシステムを構築しました。徐々にそれを全体の制作フローへ拡大していくことを検討し、このエピソード-3でその構想が完成したという訳です。エピソード-3の撮影は、中国、タイ、スイス、チュニジア、シシリー、などで行い、スタジオ撮影はオーストラリアのシドニーFOX SOUND STAGEやイギリスShepperton, Elstree Studio等で行いました。極力ADRをしないで済むようにいい音を現場で録音し、映画の3/4は、現場同録(production sound)を使っています。音楽は、もうこのシリーズでは無くてはならないJohn Williamsがロンドンフィルで録音。ADRの大部分は、ロンドンGold crest Postで行い残りはバハマ、バミューダなどで実施しています。」とKiserは、述べている。
制作過程
G.Lucasのサウンド制作ポリシーは、「できるだけ少人数でじっくりやる」という考えである。こうすることでサウンドの統一性と創造性を高めることができるため、プリからFinal mixまでをこうしたやりかたで統一している。
Kiserも「なにか打ち合わせが必要になっても少人数であればすぐに顔をつきあわせてアイディアを出し合えるし機動性があります。以前私はLAで仕事をしていましたが、そこでは音声編集だけも40名のクルーがいました。彼らは必要もないサウンドを予備トラックとして何百トラックも仕込んでくるためFinal Mix担当のミキサーは、頭をかきむしりながらどれが一番最適かを選択しなければなりません。
でもここのシステムでは台詞担当1名、音響効果担当1名が全責任をもって編集作業を行い、その結果はつねに統合されたDAWプラットホームで共有しています。ですからFinal Mixの段階にきたらほぼ完成形に近いデザインにすることができます。音響効果担当のTom Myersと台詞担当のChris Scarabosio、音楽担当のAndy NelsonがFinal Dubbing Stageへ入れば、すぐに完成形ができあがります。というのも少人数で何ヶ月も試行錯誤し仮Mixをつくりあげてきたチームだからです。この方法の落とし穴は、少人数で同じ音を何ヶ月も聞いているので耳が先入観をもってしまうことです。ですから常に新鮮な感覚で音を聞かなくてはなりません。スターウォーズ作品では、ベテランのサウンドデザイナーBen Burtとも、それまでの音源をどこにどう使うかを話合い有効に活用しています。
新しいスタジオに新しい手法を
我々は、Final Dubbing Stageでのpre-mixという過程をスキップして、編集から一気にFinal Mixへいく過程をプロツールズの総合システムによって実現することができた。編集室やpre-mix roomはプロツールズ プロコントロールと既存のツールが融合できる設計であるが、基本はすべての音がプロツールズHDに記録されておりFinal Mixでもここにある音源をコントロールしているという極めてシンプルな構成である。今回は、加えてデジデザイン社がプロツールズHD をコントロールするI-CONデジタルコンソールを提供したので、システムはさらにシンプルとなった。
G.Lucasが、Finalの段階で細かい変更を出したとしても、今までのように「George30分もらわないとその変更は無理だね。」と言わないですむようになった。
ADRセッション
海外ADRを行う場合、スタジオの録音媒体はまだDATなどテープベースがほとんどである。
我々は、プロツールズをメイン機材としていたので、持ち運び可能なプロツールズADRセットを作りあげた。ADRセッションは、細やかな機能が必要で役者に聴かせる同録、タイミングを知らせるキュー音、映像のプリロール、ミキサーは片側に同録、片側がADR。G.LucasはADRのみモニターなど。これをラップトップにまとめていつでもどこでも簡単にセッションが録音できるようにした。
スターウォーズが最初に制作された1975年の段階からG.Lucasは、映画の音響にも撮影監督と同じ責任を持つ専属のサウンドデザイナーが必要で、その制作プロセスも最初から最後までをすべて少人数で行えるシステム構築を意図してきた。エピソード-3は、その集大成として新機軸が盛り込まれた作品である。(了)
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[ はじめに ]
スターウォーズ エピソード-3は、これのみがすばらしいというだけでなく、映画音響の歴史を継承し最先端のノウハウが発揮されているという点でも注目される。というのもこれに関わった優れた才能の人々が、その持ち味と最大限のアイディアを発揮した結果であると言わざるを得ない。音響効果のエディターを担当したTom Myersは「勿論我々は、ベストの力を出し切りましたが、それを可能とするだけの十分なスケジュールも確保できたのが重要です。これは、スターウォーズシリーズの最後を飾るわけですし、、、、」とコメントしている。
Tom Myersと仕事をともにしたのは、サウンドスーパバイザーのMatthew WoodそしてSkywalker Sound V.PのGlenn Kiserのコンビである。
「エピソード-1の段階で我々は、編集段階でのサウンド制作をプロツールズベースで制作するシステムを構築しました。徐々にそれを全体の制作フローへ拡大していくことを検討し、このエピソード-3でその構想が完成したという訳です。エピソード-3の撮影は、中国、タイ、スイス、チュニジア、シシリー、などで行い、スタジオ撮影はオーストラリアのシドニーFOX SOUND STAGEやイギリスShepperton, Elstree Studio等で行いました。極力ADRをしないで済むようにいい音を現場で録音し、映画の3/4は、現場同録(production sound)を使っています。音楽は、もうこのシリーズでは無くてはならないJohn Williamsがロンドンフィルで録音。ADRの大部分は、ロンドンGold crest Postで行い残りはバハマ、バミューダなどで実施しています。」とKiserは、述べている。
制作過程
G.Lucasのサウンド制作ポリシーは、「できるだけ少人数でじっくりやる」という考えである。こうすることでサウンドの統一性と創造性を高めることができるため、プリからFinal mixまでをこうしたやりかたで統一している。
Kiserも「なにか打ち合わせが必要になっても少人数であればすぐに顔をつきあわせてアイディアを出し合えるし機動性があります。以前私はLAで仕事をしていましたが、そこでは音声編集だけも40名のクルーがいました。彼らは必要もないサウンドを予備トラックとして何百トラックも仕込んでくるためFinal Mix担当のミキサーは、頭をかきむしりながらどれが一番最適かを選択しなければなりません。
でもここのシステムでは台詞担当1名、音響効果担当1名が全責任をもって編集作業を行い、その結果はつねに統合されたDAWプラットホームで共有しています。ですからFinal Mixの段階にきたらほぼ完成形に近いデザインにすることができます。音響効果担当のTom Myersと台詞担当のChris Scarabosio、音楽担当のAndy NelsonがFinal Dubbing Stageへ入れば、すぐに完成形ができあがります。というのも少人数で何ヶ月も試行錯誤し仮Mixをつくりあげてきたチームだからです。この方法の落とし穴は、少人数で同じ音を何ヶ月も聞いているので耳が先入観をもってしまうことです。ですから常に新鮮な感覚で音を聞かなくてはなりません。スターウォーズ作品では、ベテランのサウンドデザイナーBen Burtとも、それまでの音源をどこにどう使うかを話合い有効に活用しています。
新しいスタジオに新しい手法を
我々は、Final Dubbing Stageでのpre-mixという過程をスキップして、編集から一気にFinal Mixへいく過程をプロツールズの総合システムによって実現することができた。編集室やpre-mix roomはプロツールズ プロコントロールと既存のツールが融合できる設計であるが、基本はすべての音がプロツールズHDに記録されておりFinal Mixでもここにある音源をコントロールしているという極めてシンプルな構成である。今回は、加えてデジデザイン社がプロツールズHD をコントロールするI-CONデジタルコンソールを提供したので、システムはさらにシンプルとなった。
G.Lucasが、Finalの段階で細かい変更を出したとしても、今までのように「George30分もらわないとその変更は無理だね。」と言わないですむようになった。
ADRセッション
海外ADRを行う場合、スタジオの録音媒体はまだDATなどテープベースがほとんどである。
我々は、プロツールズをメイン機材としていたので、持ち運び可能なプロツールズADRセットを作りあげた。ADRセッションは、細やかな機能が必要で役者に聴かせる同録、タイミングを知らせるキュー音、映像のプリロール、ミキサーは片側に同録、片側がADR。G.LucasはADRのみモニターなど。これをラップトップにまとめていつでもどこでも簡単にセッションが録音できるようにした。
スターウォーズが最初に制作された1975年の段階からG.Lucasは、映画の音響にも撮影監督と同じ責任を持つ専属のサウンドデザイナーが必要で、その制作プロセスも最初から最後までをすべて少人数で行えるシステム構築を意図してきた。エピソード-3は、その集大成として新機軸が盛り込まれた作品である。(了)
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July 5, 2005
第24回サラウンド塾 FM YOKOHAMA開局20周年記念 SRS方式によるサラウンド制作 柳浩一郎、西本憲吾、橋田裕造
By Mick Sawaguchi 沢口真生
2005年7月3日 マランツ恵比寿ショールームにて
テーマ:FM YOKOHAMA開局20周年記念 SRS方式によるサラウンド制作
講師:柳浩一郎(FM YOKOHAMA技術部長)西本憲吾(Vivid)橋田裕造(YAMAHA)
ショールームアテンド:鈴木(マランツ)
沢口:参加申し込みが三鷹の我が家の定員を超えましたので!!!、マランツ鈴木さんのご好意で昨年11月以来の持ち出し寺子屋を恵比寿マランツのショールームで行います。40名をこす参加の方々で初参加の方もたくさん見えました有り難うございます。今回はFM局でのサラウンド制作というテーマで行いますが、近年アメリカやヨーロッパでデジタルラジオアピールへ向けたサラウンド化が取り組まれています。国内でもTOKYO FMがコマーシャルFM局としては先駆的に取り組んでいますが、今回は、FM-YOKOHAMAの取り組みについてデモと講演を行っていただきます。
制作実現までの経緯
柳:FM YOKOHAMAの柳です。今日は、FM YOKOHAMA開局20周年のタイミングで取り組みましたFM放送でのサラウンド制作についてお話させていただきます。我々の技術スタッフは4名ですべての事をやらなければなりませんので今回の制作の実際についてはVividの西本さんにお願いしました。現在各種ジングルやコンサートLIVEなどに取り組んでいます。
これが実現するまでに1年かけてサラウンド啓蒙活動を社内で実施し技術以外のセクションにサラウンドの優位性をアピールしました。今後は、技術も単なるオペレートだけでなく、営業センスを持ったスキルが必要な時代だと思います。その後スタジオテスト録音やSRSエンコード/デコードによる夜間オンエアテストを行いこれなら既存の設備に多少の追加を行うだけで十分いけるという確信をもてました。サラウンドで放送するためのアーティストやプロダクションへの普及努力も我々で行いました。FM YOKOHAMAは4名の技術しかいないというファミリーですが、いいものを提供して行く努力は社内でやりたいと考えています。今後は、横浜をアピールできるような中継やCMなどにも前向きに取り組みたいと考えています。では、実践編を西本さんにお願いします。
制作の実際
Vividの西本です。今回の制作を担当しましたのでまず、最初にいろいろなジングルを聴いてみてください。
◎ 横浜の港をイメージしたジングル。これは地図を参照してもらうとわかる と思いますが、横浜港の海の上で聴いているようなデザインにしました。
◎サーフィンのイメージ:サーファーの眼前を波が過ぎて行くイメージ
◎音楽ジングル/波の中で音楽が漂っているジングル
◎横浜はJAZZの街なのでJAZZのリハーサルルームに入り込んだイメージ、JAZZクラブのイメージです。
デザインコンセプト
FM YOKOHAMA初のサラウンド放送ということでまず、サラウンド感を十分にいかせる構成としました。今回使用した、方式はSRSという方式でその特徴をどうやったらうまくいかせるか?をカット&トライで行ってみました。SRS方式は5.1CH サラウンドをデジタル領域で2CHにまとめてしまうマトリックス方式ですので各チャンネルが独立したディスクリートにくらべ幾つかの注意点があります。
ジングル-1のデザインコンセプト
山下公園の沖合をリスナーポイントとしてデザイン。ロケーションはSANKEN CUW-180のサラウンドマイキングとFOSTEX PD-6で収録。最初は、イメージにあった全体の音がとらえられるまで粘りましたがどうしても現実はうまくいかないので、素材のパーツ別で収録しそれらを組み上げて行くことにしました。私は、今までの経験から5.1CHは、横の情報がうまくでにくいと感じていましたのでCUW-180ペアの4CHに加えAKG C-451でサイド情報をピックアップし計6CHで実施しました。当初定位重視のマイキングとアンビエンス重視の2タイプで実験しましたがディスクリートサラウンドでは意図した相違が現れますがSRSエンコードを行うとクロストーク成分が発生するため当初の意図は不明確となりましたので結果的には機動的なロケーションを行えるCUW-180ペアによる4CH録音というシンプルなマイキングで実施しました。MIX-DOWNは、NUENDO+SRS/ENC-DEC(これはPCプラグインソフト)でモニタリングしながら実施。大変シンプルなシステム構成で行いました。
音楽ジングルのサラウンド
音楽制作については、ディスクリートサラウンドMIXをそのまま使えないというのがマトリクス方式のデメリットなので欠点のでないサラウンドMIXのためにどういった音の組み合わせにしていくのか?が課題。JAZZのピアノトリオの場合、3つを独立した音場にしてもマトリックスではうまくいかないのでまだまだ課題。サラウンドMIXのダイナミックスは2CHに比べて十分広いがFM放送では音圧競争に入っているのであまり広いダイナミックレンジはとりませんでした。
これらの経験から言える事は、1980年代からのマトリックスサラウンド制作で経験したノウハウは、現在でも十分通用することです。逆相の扱いやモノーラル/ステレオとのコンパチ、レベルの大きいところに定位が動くというステアリング回路の動作や響き感の相違などです。
音楽LIVE HITOMI YAITAコンサート
極力ハンディでシンプルな収録システムで行うことを前提にしています。特にFM-YOKOHAMAクラスの放送局では大型録音車や録音ブースを専用に設置して収録を行うといった規模での制作は大変限定されます。今回は、フロントのBAND録音は、通常のステレオ録音と相違ない配置とマイキングでAUDマイクは8CHを使用し4CHペアを2組設置しON/OFFを構成しています。現場ではサラウンドモニタリング環境を設定せず、24トラックで個別録音としています。全体の仕上げは、客席10番目くらいで聴いているイメージでデザイン。今後音楽のLIVE サラウンドは、アンビエンス重視だけでなく音楽的な組み合わせをどう表現して飽きさせない音場を作って行くかが課題かと感じています。
以下質問項目概要です。
Q1:音像がレベルによってすこし動くがこれはマトリックスだから?
Q2:車で聴く場合、どこをポイントに?
Q3:海の中でどう録音した大変だと思うが?自分でマイクをかついで録音?
Q4:WHY SRS?
A:T-FMの先例があるのは心強い。扱いがシンプルだ。6-2-6マトリックスで低域管理もやるので簡便である。LFE/C-CHがSRSでは自動生成される。ステレオでいいバランスにしておけばサラウンドでもいい感じになる。これは小規模な放送局での制作システムとしてはメリット。
Q5:ラジオ局の音圧競争はなくならない?
Q6:今回のサラウンドSRS放送の事前PRはどの程度?デコードモードは:MUSICモードで?あるいは CINEMAモード?
Q7:プロダクションとの交渉?たいへんだったと想像するが?
A:最初は、PA-OUTでいいと言う感じだったが。舞台監督ともスケジュールなど綿密に打ち合わせして進行も通常並みでステレオ制作で支障がなければいいという感じで実現した。トラックダウン時にステレオ/サラウンドを比較視聴してもらった結果サラウンドも意外といけるという感想を持ってもらったので成功だったと感じている。
Q8:山下公園のデザインコンセプトは?Dolby PL-2やDTS-NEO6などとの互換性は?
など活発かつ現実的な質問や互換性チェック試聴まで行いました。
恒例WINE PARTYでは、冨田さん持参の山田錦の焼酎に木村佳代差し入れの金沢の自然水で夜更けまでのサラウンド談義となりました。初回参加のみなさん、興味をもたれたら次回も是非どうぞ。その後ミュージシャンとサラウンドというテーマでメールが飛び交ってます。
WINE PARTYの冒頭で私の定年とパイオニアでの新たなスタートを祝ってアメリカのレコーディングの仲間がお祝いのメッセージと花束を届けてくれました。寺子屋メンバーのご配慮感謝です。(了)
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