By. Mick Sawaguchi
日時:2011年6月9日
場所:TACシステム
講師:ナワビ・ファヒム(フラウンホーファーIIS)
田村 示音(メディア・インテグレーション)
テーマ:Sonnox Fraunhofer Pro-Codecを使った配信用サラウンド・データの仕上げ方
* USTREAMのアーカイブはこちらです。
沢口:2011年6月の第71回サラウンド寺子屋は、インターネットで手軽にサラウンドを実現するためのエンコードプラグインのデモと解説です。今日講師をお願いしましたのはFraunhofer Japanからナワビさん、そして実際の動作解説は、メディアインテグレーションの田村さんです、宜しくお願いします。(一同拍手)
ナワビ:沢口さんに紹介いただきました、Fraunhoferのナワビと申します。今日の流れなんですけれどもMPEG Surroundを中心に私がご説明致しまして田村さんは実際の製品でデモを行います。まず、Fraunhoferがどういう研究所かを簡単に紹介したいと思います。
まずFraunhoferというのは多分ご存にの方もいらっしゃいますが、人の名前だったんです。ドイツでは伝統的に有名な物理学者とか学者の名前を使って研究所を名付けるんです。彼は研究者であって発明家であって起業家だったんですね。我々も研究だけではなくて、つまり基礎研究だけではなくて、それは応用するまでのビジネスを行なっていますので、とても性格は似ていると思います。組織は、60の研究所から結成されています。だいたい1万7千人で主にエンジニアとサイエンティストのスタッフなんですが、年間予算は、17億ユーロなんですけれども、今はユーロは非常に安いので日本円に換算しますと2000億円位かな。研究予算はどこからきているかといいますと、その3分の1はドイツ連邦政府から頂いています。後の3分の2は先ほど申し上げました応用研究をしている関係で、色々な民間企業とのコラボレーションによるものなのです。つまり企業から研究を受託して、その研究成果を提供した段階で、その研究費をいただいています。それ全部足しますと17億ユーロの3分の2になります。
主な研究分野は、情報技術、マイクロエレクトロニクス、後は表面技術とか、生産技術、コンポーネント、マテリアル、ナノテクノロジー、防衛とセキュリティーとライフサービスつまり技術の分野では、ほぼ全てカバーしている研究所でヨーロッパでは最大の応用研究所になっています。60の研究所の中でFraunhofer IISといいまして、ここにmp3とかオーデイオ技術、そのFraunhofer IISの中でも一つの部署だけオーディオに関する研究を行っています。場所はニュールンベルグ、700人で組織しておりFraunhoferの中でも一番大きい研究所になります。
それでは、MPEG Surroundの技術背景について紹介します。MPEG Surroundはどういうものかと申しますと…サラウンド5.1chをですね、まずMPEG Surroundエンコーダーでステレオにダウンミックスします。ダウンミックスしたものはAACエンコーダーでエンコードして出します。ここまでだと相手側はそのステレオのダウンミックスしか聴こえないんですよね。そのサラウンドコンテンツからですね、サラウンドに関する定位情報パラメータデータを計算して、ストリームの中で一緒に流します。デコーダー側はもしステレオのデコーダーでしたらそれはそのダウンミックスのものだけをデコードして、そのパラメーターのデータを無視します。デコーダー側がMPEG Surroundのデコーダーでしたら、そのパラメーターから5.1chのサラウンドを復元します。
これは、二つ大きなメリットが挙げられます。一つは伝送ビットレートがステレオとほぼ変わらない、オーディオデータではないのでパラメータデータでだいたい10kbps程度なんです。つまりサラウンドをステレオ並みのビットレートでエンコードデコード出来るので非常に軽いデータで扱うことが出来ます。
もう一つの大きなメリットは、一本のストリームでステレオのデコーダーしか持っていない人も、サラウンドのデコーダーを持っている人も、一本で済みますので、もし例えばAAC、HE-AACのとかmp3もそうなんですけれども、サラウンドのものはステレオのデコーダーで聴くと2chでしか聴こえないんですけれども、この場合はフルにダウンミックスを聴く。この大きな二つのメリットがあります。
今MPEG Surroundがどこでどういう規格に入っているかと申しますとDAB/DAB+。ヨーロッパの放送ですね。DRM+、あと衛星放送なんですがDVB-Hですね。なんと日本のISDB、ISDB-Tmm、ISDB-TSBなんですが、これはマルチメディア放送といいまして、アナログテレビの帯域が周波数、バンド幅が空きますので、そこを使ってマルチメディア放送をスタートしようという動きはあると皆さんも御存知かと思いますけれども、そのスペックの中ではオーディオはMPEG Surroundとして放送される。そうしますと例えば車の中でサラウンドのデコーダーを持っている人、同じストリームをサラウンドで聞こえるし、携帯型のものはステレオのデコーダーで同じストリームをステレオで聴こえると。オープンDKMAとか3GBPとかも今進行中です。デジタルラジオにも、今スウェーデンのデジタルラジオにも実際に採用されていまして、ドイツでもテストなんですけれども、ブロードキャスト。今はビットレートが低い、しかもステレオとサラウンドの互換性があるということを申し上げたんですけれども、実際に音を聴いてみたいと思います。
決して私のオススメではないのですけれども、とりあえず64kbpsステレオ。つまり1chあたり10kbps程度なんですけれども、これ位の低いビットレートでもなんとか合格線に行くかなというオーディオなんですけれども、ちょっと再生してみたいと思います。時間の関係もありますので、7つの曲の中ではどれにしますか。
観客:Queenをお願いします。
[ 視聴中 ]
ナワビ:今ステレオも120(kbps)とかそれ以上のビットレートを使っていますので、どんなに遅いネットワークでもストリーミングは可能です。しかも悪くはないと私だけは思っています。(一同笑い) ブロードキャストに関しても、マルチメディア放送に関して先程言いましたけれども、だいたい192kbps位のスペースはあります。そうしますともっとビットレート上げればいい音は出ます。後同じMPEG Surroundも320kbpsで再生したいと思います。これは自分のアーカイブにストリーミングじゃなくてダウンロードしたものを使えば、もっとハイクオリティの音声で聴くことが出来ます。こちらもですね、お好みありますか?
観客:Philip Baileyをお願いします。
[ 視聴中 ]
ナワビ:これは320kbpsですので、後一つ二つ再生してもよろしいですか。
[ 視聴中 ]
ナワビ:はい、ありがとうございます。もう一度繰り返しになるんですけれども、そのストリーミングのために低いビットレートと、後ステレオと、サラウンドの両方一本のストリームで可能になりますので、そういったメリットが有ります。コンシューマ・エレクトロニクス (Consumer Electronics) にも、もちろん先程AVアンプの写真があったんですけれども、MPEG Surroundはですね、AACでなくても他のコア・コーデックとも合わせて使うことが出来ます。それこそHE-AACとか他社のステレオコーデックでも使うことが出来ます。こちらはですね、ある展示会でも、日本のInter BEE CEATECでも話したんですけれども、実際の音楽をですね、ipodの中でMPEG Surroundファイルを保存した、ipodのそのままのデコーダーでしたら全然気づかないんですよね。それをそのままステレオのままで再生します。ステレオダウンミックスで再生します。ドッキングステーションを使ってサラウンドに繋ぎますと、自分のipodの音楽は元々MPEG Surroundで保存したものはサラウンドで再生されるというメリットがあります。次はですね、HE-AACとかAAC自身ももちろんサラウンド機能がありますので5.1chだけではなくて22ch、40chもエンコード、デコード出来る元々のコーデックもそうなのですが。ただステレオのデコーダーで聴くと一部しか聴こえないというデメリットがあります。これは皆さんご存知のように日本の着うたとか、ストリーミングとか、後日本の地デジの音声もAACになっていますので、それもそのままのマルチチャンネルをもちろん使えます。
HE-AACと他のコーデックのクオリティ、音質のテストを行った結果はですね、160kbpsはエクセレントという結果が出ています。歴史的にはですね、97年AACが出来て、99年はMPEG4で、2003年でSBRが加わって、2004年でもう (HE-AAC) Version2が出来上りました。
サラウンドサウンドは技術とかコーデックとかそういったものは整っているんですけれども、サラウンドのコンテンツはまだ無い現実があります。せっかく色々なサラウンドのもの、機材とかスピーカーとか環境あってもコンテンツはまだまだ手に入らない現実です。Fraunhoferでは、SX PROというツールを開発しまして、これはどういうツールかと申しますと、ステレオのコンテントをサラウンドに変換するというツールなんです。ステレオの曲を再生します。そのまま再生中にそれをサラウンドに切り替えたりします。もちろん耳でも聴こえますけれども、2とか5にしましたら画面でも観ることが出来ます。Aerosmithを再生します。
[ 視聴中 ]
ナワビ:これは5chなんですね、変換された後のファイルです。今ステレオです。そのままのオリジナルのステレオです。これが変換した後です。こちらでもですね、自分のステレオのデータのベースを何百何千曲を一気にSX PROでサラウンドに変換したとしても、後からもちろん機械でやりますので、やっぱりオリジナルの方が良かったと思った時も、その両方のオリジナルのものと、SX PROで変換されたもの両方コピー、バックアップしなくても、SX PROで一回変換したものはですね、ステレオのデコーダーで聴くとオリジナルのものが聴けますので、特にデータ量とか二つのデーターベースの管理をする必要はありません。もう一曲Billy Joelいきます。
[ 視聴中 ]
私の方からは以上です、どうもありがとうございました (一同拍手)
沢口:ナワビさん、ありがとうございました。次は、実際に素材をコーディングしていくデモと解説をメディア・インテグレーションの田村さんにお願いします。(一同拍手)
田村: 配信には、各種エンコードの技術や、方式も多様にあります。iTunesやアマゾンでの配布は、WAV形式で納品し、エンコードされた物を聞いてみると"あれっ"と、自分が思っていたのと違ってた、それではどうするかとなります。AAC形式で、一度自分でiTunesでエンコードし試行錯誤し、レベルやEQなどを調整するノウハウをお持ちだと思います。マスターを書き出す、変換する、聞く、修正する、また書き出す、変換すると、手間がかかりノウハウが蓄積しずらいといった要望が、マスタリングエンジニアやミキシングエンジニアからありました。では、実際にどのように音楽が作られていいるのか、フランフォファーで検討したこところ、DAW環境でエンコード後の試聴ができることが、まず第一となりました。そこで、フランフォファーでは、技術力の高いSonnoxをパートナーにしてSonnox Fraunhofer Pro-Codecのプラグインを開発しました。今日は、サラウンド寺子屋ですので、サラウンドもエンコードしますが、まず、ステレオのセッションで基本的な仕様を説明します。
これがマスターにインサートした、一画面構成のプラグインです。こちらがインプットのメーターです。こちらでコーデックを選択します。
[ コーデックを違いのデモ ]
こちらのグラフは、黄色がインプット、赤がリファレンス(エンコーダーで切り捨てた部分)として表示されます。緑はNMR(ノイズ・マスク・レシオ)の表示です。
[ グラフ表示のデモ ]
フランフォファー社のエンコーダーのいい点は、ロスレスのファイルに、ロスレスのエンコーダーに対応していない携帯プレイヤーのためのコア呼ばれるファイルが含まれている点です。
DIFFのスイッチでエンコーダーでカットされるデータのみを確認するできます。
それぞれの圧縮率の確認ができます。
エンコーダーでのクリップが確認できます。クリップを防ぐために、それぞれのエンコーダーをトリムで調整できます。
任意のエンコーダーのA&B比較や、ブラインド試聴もできます。
[ 比較試聴のデモ ]
メータの切り替えで、FFT表示と位相表示ができます。
このプラグインは、フランフォファー社の最新エンコーダー・アルゴリズムで書き出しができます。また、自動で解りやすい名前を付けることもできます。オンラインまたは、オフラインの書き出しができます。複数のエンコーダーで同時に書き出しができます。
[ 書き出しのデモ ]
Q:アップロードの機能はありますか?
A:ありません。
Q:試聴できるものは、エンコードし、デコードしたものですか?プラグインの遅延はどのくらいですか?
A:はい。エンコードし、デコードしたものです。エンコードを優先しているために遅延は大きく、ライブのセッションでは外すことをおすすめします。
Q:Sonnox Fraunhofer Pro-Codecがない場合は、どのくらいの時間が必要ですか?
A:このプラグインがない場合は、バウンス ~ エンコード ~ 試聴 ~ 修正 ~バウンス、と一つのフォーマットだけでもこのような手順が必要です。Sonnox Fraunhofer Pro-Codecでは大変な時間の短縮ができます。また、エンコーダーでの違いがリアルタイムで確認できることで、それぞれのエンコーダーに関するミックスのノウハウの習得が簡単になります。
Q:Sonnox Fraunhofer Pro-Codecでは、エンコーダーとデコードがリアルタイムで確認できますが、世の中にたくさんある、実際のエンコーダーの品質のバラつきは確認できますか?
A:フランフォファー社では、最新のエンコーダーで最高の環境を提供すること。それと同時に、最新のエンコーダーでも、デコードでは絶対の互換性を保つことが信念です。
次に、サラウンドのエンコードについて説明します。サラウンドのバスにプラグインを入れることでサラウンドになります。そして、サラウンドに対応のエンコーダーを選択します。今日は、無料でダウンロードできる、MP3サラウンドプレイヤーで再生しましす。
[ サラウンド・エンコードのデモ ]
先ほどと同じようにアートレビューとかが付くようにして書き出しをしたいという場合に実際どのようにするかというと、、まず一度再生してみましょう。
[ 視聴中 ]
これはDAW上でもクリッピングしていましたが、Sonnox Fraunhofer Pro-Codec上でトリムして書き出します。今回はリアルタイムで書き出す方式にしています。リアルタイムの場合はARMして、範囲を指定していただいて、、では書き出します。
せっかくなのでいくつかの音源でエンコードを試してみます。まずは沢口さん最新の音源「Evening Call」というものです。
沢口:書き出し中はアナライザーの画面はでないのですか?
田村:はい。Pro Toolsのバウンス時のように、書き出しするときは全てを専念するために他のことはさせないという形です。
では聴いてみましょう。
[ 視聴中 ]
こちらのコーデック前と後を聴き比べましょう。
[ 視聴中 ]
ではこちらを書き出してみます。DAW上の波形的には一切クリッピングしていないようですがmp3 Surroundにエンコードするとクリッピングするというのがわかります。エンコードする時や、WAVで納品して納品先でエンコードが行われる場合においてもWAVを書き出すときにレベルを下げておくかもしくはどこかでコンプレッサーなどでなんらかの処理をしてやる必要が出てくるということがわかります。
書き出しと視聴
これで書き出した音源は指定したとおりの形で書き出されています。
Q:クリッピングの監視はどの段階で行われているのですか?
A:ここでプラグイン上に出ているのはエンコード後に起こるクリッピングの監視です。
Q:エンコードして、(PCMに)戻ってきたものの監視ということですか?
A:そうですね、結局エンコードしたデータをデコードして再生したらクリッピングするということではあります。
Q:年々圧縮の品質が上がっているとおっしゃっていましたが、昔と比べて同じ圧縮率で音質がよくなっているという意味ですか?
A:そうです。圧縮率が低くなるのもいずれ限界がありますから低い圧縮率で高い音質を目指す傾向です。
田村:このプラグインのサラウンドのエンコードには4つのコーデックがありまして、ビットレートも選べますし、mp3 Surroundにもバリアブル・ビットレートもあります。
ナワビ:ステレオでは5つのコーデックだったのですがサラウンドではHE-AAC v2がないので4つです。
田村:ここにいらしている方は制作はいっぱいされている方だと思うので、気軽にmp3やAACでサラウンドで書き出して、mp3 Surroundの場合は特にプレイヤーは無償ですのでそれを人に配って聴いてもらうことはかなり気楽に出来る状態にはなっているかと思います。SACDをプレスするのはなかなかハードルが高いとは思うのですが、ファイルのディストリビューションで、先程のコアのように普通の人はステレオで聴けて、プレイヤーを使ってくれればサラウンドで聴けると。さらにサラウンドのプレイヤーは持っているけどサラウンドスピーカーを持っていない人も、ヘッドホンでバーチャルに普通のステレオとは違う体験をしてもらえると知らせることによってサラウンドの体験をしてもらえる人が増えるのではないかと思います。
最後に1曲視聴してみます。
[ 視聴中 ]
エンコードの前にはやはり配信フォーマットに最適化したトリミングしておいたほうがよさそうというのがこのプラグインでわかりますね。
これからご覧いただくmp3 Surroundプレイヤーはこちらhttp://www.all4mp3.jp/software/family.html でダウンロード出来ますMac版Windows版両方あります。これはFraunhoferさんへのリクエストなのですが、スピーカー配置がどのようにアサインされるかという設定があるといいと思います。L, R, C, LFE, Ls, Rsの順のトラックアサインで製作環境もセットアップしてもらえればmp3 Surroundプレイヤーに行っても同じ配置で再生されます。それでは先ほど書き出したmp3 Surroundデータを聴いてみます。
[ 視聴中 ] (ステレオ・サラウンドを切り替えながら)
先ほどの書き出し時にはかなり長い時間書き出していたんですけれども、ファイル容量は非常に小さく、サラウンドのデータが含まれるものとしては十分に小さく人に配信しても嫌がられないレベルのデータ量だと思います。じゃあ、サラウンド配信が簡単にできたとして、実際スピーカーを5個用意してくれている人が特に若い人でいっぱいいるかというとなかなかそうじゃないというところで、ヘッドホンモードがあります。このヘッドホンモードで聴いたときにステレオとどれくらい違うかというのをTACシステムさんがディストリビューションされているAVIOMのヘッドホンディストリビューターをご用意していただきましたので順々に視聴してください。ステレオモードと、ヘッドホン(バーチャルサラウンド)モードです。
[ 視聴中 ]
私も事前にヘッドホンモードをチェックしているときに、「スピーカーのボリューム絞り忘れたかな?」 と思うくらい、いわゆるヘッドホンでの脳内定位とは違う響きになりますね。
Q:Macのヘッドホンアウトから直接聴いてもサラウンドになるんですよね?
ナワビ:バイノーラルになっているのですが、バイノーラルの難しいところは人それぞれ頭の大きさや耳と耳の距離など個人的な違いがあります。ヘッドホンでmp3 Surroundをかけて展示会などで聴いてもらうんですが、たまに違いがわからない方がいます。それは私たちも色々分析して、4つのモードを作りました。モードA,B,Cでだめで、モードDでやっとわかった!というケースもたまにあります。ほとんどの方は一つのモードで、70パーセント以上なんですがわかります。それ以外の方が10パーセントずつです。たまにサラウンドに聴こえない方は、違うモードで試していただければ自分にふさわしいモードがあると思います。私はオーディオの専門家ではありませんが、2つの信号でサラウンドを再現するには複雑な分析をします。耳と耳の距離や頭の形によっては効果がない場合があります。いわゆるHRTF (Head-Related Transfer Function) ですね。
Q:mp3 SurroundはPCでしか再生できないということですよね?要は一番聞かれるiPodなどの携帯プレーヤーの類で再生するときにこれが選べるのが一番重要だと思うのですが ?
A:研究所の中にはそういう試みはあります。結局私たちが技術開発してもプラットフォームになる会社が同意しないと実装できないわけですから、開発は進んでいるのですがAppleやGoogleのスマートフォンにアプリケーションを載せることによって出来るようになります。スマートフォンでは機能的には全然問題ないレベルにきていますからあとは実際に採用されるかどうかです。
Q:GoogleのAndroidはソフトウェアの開発がオープンじゃないですか。誰かしら開発していただける可能性はありますよね。
A:当たり前のことなんですが、バイノーラルは携帯型端末のために意味があるんですね。ですから電車の中などで聴くものです。家の中や車の中にはディスクリートのスピーカーがありますからヘッドホンで聴く必要はないですね。そしておっしゃるとおりAndroidは良いチャンスだと思います。
田村:私もいくつかテストで聴いていたのですが同じ音源も(ヘッドホンモードで聴いたほうが)ステレオモードで聴くより疲れないと感じました。なので飛行機などでこれが聴ければすごく気持ちいいかもしれないですね。
ナワビ:長時間それこそ飛行機などで何時間も音楽を聴くとバイノーラルのほうが疲れや圧迫感が発生しないという結果も出ています。
田村:今回のFraunhoferのプラグインなどを使ってどんどんmp3 Surroundにエンコードしていただければご自分で聴けますし、mp3 Surroundプレーヤーをダウンロードするページから世界中の色々なアーティストがmp3 Surroundで曲を無償公開しているページもあるので、そこで曲をダウンロードして楽しむことも出来ますし、「Contact us」に応募すれば自分の曲も載せることが出来ます。
Q:mp3 Surroundの日本語サイトはないのですか?
A:あります。mp3 Surroundの聴き方や、エンコーダーもバッチのファイルタイプのものも無料でツールを公開しています。
Q:いままでのお話はソフトウェアエンコードのお話ですが、テレビ放送関係でしょっちゅう行き当たる問題として、テレビ放送がMPEG-2のTSで送られてきてテレビ受像機のデコーダーでデコードされる形でシミュレーション出来るようなものが開発されるご予定はありますか?実際の放送に近いようなかたちでファイナルのミックスがどう聴こえるか? というような。さらにサラウンドの場合は自動的にダウンミックスされてしまいますので、そのダウンミックスまで自動的にシミュレーションして聴けたらいいと思うのですが。
A:研究所に伝えておきます。ドイツ国内ではデジタル放送に関する技術もやっていますが、日本に関してはまだです。私は知らなくてもすでにやっているかもしれません。私は日本に来ていて浦島太郎になっているかもしれません。(一同笑い)
山形(トムソン技術研究所):今のデジタルテレビの規格は厳格に決められていますのでその中で例えばmp3を使った5.1chが流れるということはありえないと思うのですが、最近良く耳にするIPTVやスマートTVやWEBTVなど、テレビと携帯それから通信も一体化する時代に入ってきました。mp3も最近使われているところが急激に増えてきたのはテレビなんですね。明らかにWEBとリンクして使われるテレビが急激に増えています。Androidの場合もベースはmp3は入っていますけれどもその中にアプリケーションとして5.1chも非常に簡単になりますのでおそらく従来のデジタルテレビにそのまま入ることはないと思いますが、「テレビ」と呼ばれるもの全体で言えば間違いなく5.1chが入って色々なフォーマットが楽しめるという可能性はどんどん広がっていくという時代にきたと思います。
ナワビ:そうですね、テレビもPCもゲーム機も一体化して、それで色々なフォーマットも必要になると。
沢口:どうもありがとうございました。
最後に私から非常に現実的な提案をしたいと思います。ここにお集まりの方は、みなさんサラウンドのクリエイターの方なので「サラウンドで作ったから友達にきいてもらって」というレベルは、すでに超えているんですよ。これをどうやってビジネスにしていくか? ということを考える段階にきていると思います。そのためのブレイクスルーになるのは、モバイルでのヘッドホン試聴に対応した再生アプリで、iPodアプリとして、100円とか200円で買えるAAC Plusに対応したアプリの開発です。こういうビジネスモデルをつくらない限り、発展しないと思います。iTunes Storeで対応出来るフォーマットHE-AAC、(AAC Plus)ですね。AAC Plusのファイルとしてサラウンドを制作側は、提供しリスナー側は、アプリでデコーダーを買ってiPodのヘッドホンでサラウンドを聴く。この回路がちゃんと出来ないとビジネスのベースにならないんですよ。これであれば、Appleとの契約も難しくはないと思います。普及に弾みを付けるためには、若者と携帯というリスナー側の回路を早急につくって欲しいというのが我々サラウンドクリエイターからの大きなリクエストです。
ナワビさん、田村さん本日は、どうもありがとうございました。また会場を提供いただいたTACシステム 山本さんとスタッフのみなさんにもお礼申し上げます。(一同拍手)
セミナーに先立って、TACシステムからのインフォメーションとして山崎さんより、プロツールズのNATIVEでの低レイテンシーを有効に活用するためのプラグインの接続方法。デジタル一眼レフカメラによる映像撮影にマッチしたQue Audio社の超小型ガンマイク、NABショーでの新製品情報の紹介などが有りました。
[ Sonnox Fraunhofer Pro-Codecの仕様 ]
• Mac OS X、Windows対応
• 主要な圧縮コーデック(mp3、mp3 Surround、AAC-LC、HE-AAC)に対応。
• ロスレス・コーデック(mp3 HD、HD-AAC)にも対応。
• mp3 Surround、AAC-LC、HE-AAC、HD-AACは5.1サラウンドに対応。
• 5種類のコーデックを選んで、比較試聴可能。
• ブラインド・テスト・モードを含むAB比較モードも用意。
• 変換後クリップ量のdB表示を見ながら、音量をトリム可能。
• 圧縮でカットされるデータを耳で確認する「DIFF」ボタン付き。
• 原音、カットされる音、ノイズ/マスキング比を視覚的に確認する高精細なFFT表示。
• リアルタイム、オフラインでFraunhofer純正アルゴリズムによるエンコード書き出し可能。
• Cubase、Live、Logic、Nuendo、Pro Tools、Sequoia、Sonar、Wavelabなどに対応。
• 定価:¥58,800 発売記念特価:¥35,280
[ 関連リンク ]
Sonnox Fraunhofer Pro-Codec
http://www.sonnoxplugins.com/pub/plugins/products/pro-codec.htm
Fraunhofer
http://www.fraunhofer.de/
Fraunhoferオーディオ コーデック技術について
http://www.iis.fraunhofer.de/jp/bf/amm/produkte/audiocodec/
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