Mick Sawaguchi
UNAMAS-Label・サラウンド寺子屋塾主宰
はじめに
2005年版King Kongのサウンド・デザインを分析している中で大変興味深い資料をたくさん発見しました。その中にKing Kongのモンスター・サウンドを創作したMurry Spivackとオリジナル映画音楽を作曲したMax Steinerに関する文献がたくさんありましたのでPart-02として現代の映画音楽作曲家やサウンド・デザイナーが異口同様に映画サウンドの先駆者と認めている2人のアプローチを紹介しします。
1Murry Spivackの功績1903-1994
1903年ロシアに生まれ1928年、マレーは指揮者のジョサイア・ズロのために演奏した最初のドラマーの1人でニューヨークのストランド・シアターで無声映画に音楽をつけるピット・ドラマーとして活躍していました。 1929年、マレーはカリフォルニア州ハリウッドに移り、RKOスタジオの音響部門部長として
この時期に彼がオリジナルのキングコング映画のすべての効果音を作り上げています。キングコングが1933年に完成した後、1935年RKOを去り1937年に20世紀FOXで活躍、1953年 聖衣、サウンドオブミュージック、オクラホマでは初の6トラックステレオMIXを仕上げその後1955 年に初のフリー.ランスミキサーとなり1969年ハロー・ドリーそして1970年パットンで引退しています。彼はサウンド・デザイナー 音楽MIXERファイナルダビングMIXERとしてだけでなく元々ピット・ドラマーだったので彼のドラムメソッドを広め多くの名ドラマーを輩出していることでも有名です。
当時のRKO Sound Department 1933
Murray Spivack ... sound designer sound effects
Earl A. Wolcott ... sound recordist
Walter Elliott ... sound effects associate
Eddie Harman ... sound recordist
Clem Portman ... sound re-recording mixer
Harold E. Stine ... boom operator
Richard Van Hessen ... boom operator
Max Steiner ... composer
2 King Kongのモンスター・サウンド
彼は、まず様々な動物の鳴き声をフィールド録音するためにセリグ動物園でライオン・トラの様々な唸り声を録音。さらにRKOのアーカブにあるヒョウ・ライオン・トラ・ゾウなど50万フィートの音源から様々な動物の鳴き声を素材にして逆回転や低速再生により多く表情を作り出しています。まさに現代のモンスター・Soundのお手本と言えます。
Prehistoric Monster sound Roar and Hiss for Sound Film
BY Andrew R. Boone 193304 POPULAR SCIENCE MONTHLY
という科学雑誌に執筆したAndrew自身がスタジオでサウンド・メイキングの具体例をMurryからインタビューしどんな素材をFoley録音しそれを上記のようなピッチ可変や逆再生で作ったのかを知ることができます。
● King Kongが彼の胸を打つ重たいサウンド
Spivackは、ケトルドラムで最初録音しました。ケトルドラムの表面は重い板で覆われ、布がしっかりと張られていました。彼は手に2本のパッド入りドラムスティックを持ちボードを軽く叩き部屋はその共鳴音で充満しました。しかし、録音したサウンドからは、期待したはずの深みのあるしっかりとした肉厚の音は作れませんでした。スタジオの効果音スペシャリストであるウォルターG.エリオットは、「ケトルでは、空洞すぎる」と述べ「床を試してみよう。」ということになりスピバックはドラムから近くの椅子に向きを変え未知の世界のこの想像上のサウンドに挑戦しました。
アシスタントがマイクを床から1インチ上に持っていました。椅子は柔らかい繊維状のパッドの上に置かれSpivackはドラムマレットで椅子の杖の底を叩き始めました。彼のビートはよりしっかりした音を出しましたが聞いてみるとこれも失敗。
最後にアシスタントのエリオットの胸をドラムスティックで最初は軽く、次に強い打撃で胸を叩き打ちそれを背中側からマイクで録音しこれが最終的に採用されてコングが胸を叩くような音が映画に流れました。Spivackには、そのサウンドが大満足だったのです。
●King Kongの息
火を送る装置であるフイゴをきつく吹くと、40フィートのKing Kongの荒々しいしい呼吸が生まれました。Spivackは動物プーマの音に圧縮空気ポンプからの蒸気のようなノイズと、彼自身の喉の発音をマイクから数インチのところで録音した素材をMIXしています。Spivackはメガホンを持ちマイクの前にで「r-r-r-ump」、「r-r-r-ump」、「r-r-r-ump」といったフレーズを長短で発声し先史時代の愛の呼びかけを作っています。
● 砂の中を歩く
King Kongが砂の上を歩く音は、配管工が使う道具で再現されました。
これは砂を詰めた袋を実際にFoleyしています。
● 唸り声。
エリオットは、トリケラトプスのうなり声を拾うのに中空の「二重ひょうたん」を使ってうなり声を上げていました。あるいは、床に半分かがみ込んで水で満たされた口からメガホンにうなり声を上げて動物がうめくサウンドをつくり出しています。
エリオットはブロントサウルスが鳴き声を上げてシューッという音4回のヒスノイズごとに1回の鳴き声を挿入し咆哮をつくり上げていきます。リアルな泣き声は8-9秒くらいなのでこれを編集して6つのピークと3秒の余韻を持つ30秒の声に作っています。この小さな仲間の体長は、わずか25フィートですが、映画のなかでは雄牛のように怒鳴り、男を怒らせ茂みに投げ込みます。このサウンドには像の鳴き声を編集で長くした上で逆回転にしたサウンドが使われました。
2 Max Steinerの映画音楽の功績 1888-1971
オーストリア生まれの彼は、1904年ウィーン楽友協会音楽院に入学、その才能で4年の課程を1年で終えています。その後ロンドンで活動し1914年ニューヨーク・ブロードウェイ・ミュージカルの指揮者として15年働いた後1929年、RKOからハリウッドに招かれ1933年の『キング・コング』の映画音楽によって映画音楽の作曲手法を確立したことでアルフレッド・ニューマンとともに映画音楽の父と評価され3回アカデミー作曲賞を受賞し26回ノミネートされています。
1933年のking Kongは、当初制作予算が限られていたため、RKOは、作曲家のMax Steinerにすでにある既存映画の音楽を再利用するように指示し、オリジナル映画音楽を作曲しないことにしました。しかし監督のクーパーは、この映画が新たに作曲するに値すると考え、シュタイナーに自費で5万ドルを支払って作曲しました。
シュタイナーは6週間でスコアを完成させ、46人編成のオーケストラで録音しました。完成したスコアは、映画音楽の歴史に大きな変化をもたらしたのです。
キングコングの楽譜は、アメリカの「トーキー」映画のために書かれた最初の長編楽譜であり、単なるバックグラウンド音楽ではなく主題を持った最初の主要なハリウッド映画であり、46ピースのオーケストラを使用した最初の音楽です。
当時の映画音楽は、最大で10人、1セッション3時間・マイクは1本というスケジュールだったことを考えるとシュタイナーの音楽が先駆者と言われる理由も理解できると思います。
彼の作曲手法
● 映像と同期するためのクリック・トラックの活用
アニメーション映画で正確な映像との同期をとる必要から考案されたフィルムに傷とパンチを開けることで指揮者がタイミングをとる手法を本格的に導入して映像と同期した音楽を作り上げました。このために編集が完成したフィルムを見ながらスポティングという工程をあらかじめ設定し、正確な同期音楽を作曲しています。
● キャラクター・モティーフ
それまでのアニメーションで一般的だった細かな動きを音楽で補強するミッキー・マウスと呼ぶ作曲からストーリーを展開していく重要人物のキャラクターを示すキャラクター・モティーフを設定しました。King Kongの恐怖だけでなく優しさの感情や緊張といった性格を表しています。
● ライト・モティーフの導入
クラシックの作曲を学んだ彼は、リヒャルト・ワーグナーがヨーロッパのオペラ・オペレッタに導入したライト・モティーフを映画音楽に導入しました。
● ソースミュージックとアンダー・スコアの連続
それまでの作曲家の多くは、音楽単体として成立するコンサート形式の作曲には関心がありましたがセリフの背景としてなんとなく流れるアンダー・スコアーは関心がありませんでした。しかし彼は、映画では映像が重要なのでそれに付随させながら音楽自身に注意が向けられるのではなくそこから何を感じてもらうかを主眼に作曲した点が先駆者といえる点だと思います。
もう一つは映画のシーンとして実際の音楽が演奏されているソース・ミュージックとそれが知らないうちにアンダー・スコアに展開する手法を開発したことです。今日この手法は、実に効果的に多くの作品で用いられています。
第2回 作品の構成把握とデザイン要素 - 作品終了後のレビューの重要性
第4回 第87回アカデミー音響効果賞受賞「アメリカン・スナイパー」のサウンド・デザイン
第5回 第85回アカデミー音響効果賞受賞「Gravity」のサウンド・デザイン
「Let's Surround」は基礎知識や全体像が理解できる資料です。
「サラウンド入門」は実践的な解説書です。