December 20, 2024

2024年 第96回アカデミーBEST SOUND受賞 「The Zone of Interest」のサウンド・デザイン

Mick Sawaguchi 沢口音楽工房
Fellow M. AES/ips
UNAMAS-Label・サラウンド寺子屋塾主宰

はじめに


 

2024年第96回アカデミーBEST SOUNDには、大変珍しいProduction soundの録音と編集を手がけたポーランドのTom Willersと控えめながらアウシュビッツのホロコーストを心象サウンドで表現したJohnnie Burnの二人が受賞しました。予想では、Oppenheimerではと言われていましたが、今回は、抑制された映像表現に応じた2人の功績を紹介します。フォーマットは、5.1chですがほとんどは、70年代を想起するような典型フロントL-C-Rです。


1 制作スタッフ


Director: Jonathan Glazer

Sound Design: Johnnie Burn

Final Mix: Johnnie Burn

At Halo Post London

Music: Mica Levi

Music rec-mix: Mat Bartram/David Wrench at AIR studio London

Foley Artist: Jacek Wisniewski

Production Sound: Tom Willers

Sound Recordist: Tom Willers Max Behrens Simon Carrol


 

2 ストーリーと主要登場人物

1940-1945年まで設置されたポーランド・アウシュビッツ強制収容所の初代所長として赴任してきたルドルフ・ヘスとその家族の1943年当時の日常を描いています。妻のヘドウイッグ・ヘスは、4人の子供ともに自分が夢見た理想の生活を地元使用人とともに築いています。屋敷には、広大な庭、花壇、菜園、温室。そしてプールと生活を満喫しているヘス一家です。




 しかし壁を隔てた隣では、日常的にホロコーストや強制労働・銃殺刑により多くの人びとを死に至らしめる殺戮が行われ連日焼却炉の煙突からは死体を焼く煙が立ち上がっていますが、ヘス一家は、ほとんど無関心に彼らの平和を感受しています。

ヘス家の使用人の中に一人若く小柄な娘アニエラが働いていますが彼女は、かつてポーランド・レジスタンスに参加し反ナチズム抵抗活動をしていた一人で深夜密かに収容所の人々に食べ物の差し入れを行っています。

ある時ヘスにオラニエンブルグへの転勤命令が出ますが、妻は、今の生活から離れたくないと異動を拒みます。単身赴任したヘスは、オラニエンブルグでの収容所所長全体会議で70万をこえるユダヤ人移送計画が審議されヘスが立案した計画が採用されこれが上司であるハインリッヒ・ヒムラーの目にとまり、実行責任者として再びアウシュビッツ強制収容所へ復帰します。どうやって全員をガス殺戮するか、、、、

タイトルの「The Zone of Interest(関心領域)」は、第2次世界大戦中、ナチス親衛隊SSがポーランド・オシフィエンチム郊外にあるアウシュビッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現する隠語として使われていました。


3 起承転結毎の特徴的なサウンド

いわゆる映画的な感情の起伏やダイナミックな映像表現は、一切なく、ただ淡々とヘス一家の日常が10台の固定カメラで捉えられていますので明確な起承転結は、わかりにくいのですが、一応展開に沿って区切ってみました。






 

3−1起 000h00:00-49m48sec

49分と長いですが、この中でヘス一家の日常が淡々と紹介されます。家には、4人の子供3人の使用人がおり、たまに近所の人々も来て世間話をしています。

常に固定カメラで客観的なカットの連続ですがその背景には、収容者の壁と煙突が見えるだけです。

⚫️ オープニングの音楽

音楽は、基本シンセサイザーとボーカル素材を合成した一種のミュージックコンクレートで、映像の編集リズムに合わせた特定のキューで変化する作りではありません。基本2CHmixでそれを3CH 2.1CH 3.1CH あるいは5.1CHにremixしています。




⚫️ ヘスの誕生日から荷物が届くまで

この背景音になっているのがガス室・焼却炉から出ている不気味な低域で合成してアンビエンスです。ヘス家の日常シーンには、レベルの大小はありますが常に背景音としてこの合成音が、アンビエンスの役目をしています。                  

もう一つは、ヘスの庭から収容所の壁に近接した時のアンビエンスは、これにLFEが付加され距離感の違いを出しています。

             

         








                                  アンビエンス基本のスペクトラム

     

 

⚫️暗視カメラ・イメージシーンとME

少女アニエラが収容所の飢えた人々に深夜食料を差し入れするシーンでMEが2ヶ所使われています。焼却された灰の山にそっとりんごなどを置いていくというシーンです。

 



⚫️ヘス・アップとロングの阿鼻叫喚

ヘスが庭を眺めているアップにロングでガス室アンビエンスに加えて子供から老人までの阿鼻叫喚が響いています。収容者内で行われている殺戮の様子を様々な音だけで表現した一例です。

⚫️赤い花クローズアップとME

庭に咲いている花が突然真っ赤な画面に転換する印象的なカットです。10“という短いMEですがフルビットLFEが強烈なメッセージを表しています。






⚫️ヘス妻に異動を告げる

近所の家族を招いて庭で食事会が行われヘスが妻ヘドウイッグにここを離れてオラニエンブルグへ移動になると告げます。そのアンビエンスには、収容所の収容者で結成されたオーケストラの演奏が響いています。


3−2承 49m48sec-01h17m27sec

⚫️窓外を眺める息子 1:16‘00“-16‘55“

このシーンでは、アンビエンスに加えて収容所の看守が叫ぶ声やリンゴを奪い合いする人々の声、そして連行した人々を川に沈めろ!と叫ぶ看守の声などが響きています。

3−3転 01h17m27sec-1h26m40sec

⚫️所長会議終了後のアンダー・スコアー 1:21’41”-22’37”

ここは珍しく5.1CH MIXがされています。


 

3−4結 1h26m40sec-1h65m00sec

⚫️ エンディング・テーマ 1:38‘15“-1:45’00”

6‘19“のエンディングテーマで、5.1CH MIXとなっています。





エンディング・音楽のスペクトラム

         


4 PRODUCTION SOUNDの実際

 


Production soundの録音を担当したのはポーランドのTom Willersで、インタビューによれば、撮影現場の40ポイントに各種マイクを設置し20トラック同時録音しています。主要出演者は、ワイアレス仕込みマイクを設置し、庭や花壇では、「Plant Mic」と呼ぶ仕込むマイクを設置したそうです。ワイアレス・システムは、LECTROSONIC社の様々なタイプを使用しています。






      

1シーンごとに20トラックで録音し、それらを約8ヶ月かけてpre-mixした努力は、まさにBEST SOUNDに相応しい功績だと思います。参考にこうしたマルチトラックProduction録音を1975年に最初に行った、Jim Webの資料がありますので紹介します。


参考資料:1975年公開『NASHVILLE』で初導入された8 トラック・プロダクションワークフローとプロダクションMIXER Jim Webの功績


 

Jim Webは、同僚のJack Cashinとともにロバート・アルトマンの『ナッシュビル』、『バッファロー・ビルとインディアン』、『3人の女たち』、『ある結婚式』といった一連の映画でマルチトラックレコーディングによるプロダクション録音システムを開発し、映画で、複数のキャストの台詞や、交錯するストーリーラインを録音したマルチトラックプロセスのパイオニアです。

監督のR.アルトマンは、群像劇を同時に撮影し、それぞれのセリフも同時に録音することでリアリティを重視する撮影を望んでいました。アルトマンの撮影監督であるポール・ローマンは、ウェッブがグレイトフル・デッド、アイク&ティナ・ターナー、レオン・ラッセル、ピンク・フロイド、カーズ、ジョン・ファーラーといったアーティストのロック・コンサートやコンサート映画・スタジオ・セッションのロケ録音で発揮したマルチトラック技術を評価していましたのでジム・ウェッブをProduction Mixerに推薦しました。彼は、アルトマンに『それを可能にするのは、全員にラジオ・マイクを装着して同時に録音することだ』と提案しました。

一方同僚のジョンは、John Stephensが独自に開発していたバッテリー駆動可能なマルチトラックレコーダーに着目し、これをメインとしたプロダクション・録音用のシステムを新たに構築したのです。そして、これがロバート・アルトマン、ジャック・カシン、ジム・ウェッブの一連の映画におけるコラボレーションの幕開けとなったのです。


ジャック・カシンはUSCシネマの卒業生で、開発した録音システムは、スティーブンスの1インチ8トラックレコーダーを使い1トラックをシンク信号に割り当て、7トラックをディスクリート・オーディオ用に使用しました。スティーブンスの1インチ8トラック・テープレコーダーは、キャプスタンなしで作動しプロのオーディオ界ではほとんど知られていませんでしたがこのテープレコーダーに着目したのです。


 

当時、ポータブルロケ用mixerといえばスイス Perfectone 3CHmixerが主流の時代でした。


直流で動作するマルチトラック・ミキシング・パネルとして新たに8入力4出力のコンソールをカスタムで制作し2台連結し電源は、12ボルトのオートバイ用バッテリーから供給するといったロケカートです。





ジム・ウェブのこの言葉は、常にProduction Mixerの座右の銘となるでしょう---
「良いプロダクション・サウンドにはプロダクション・バリューがある!あきらめないで。一貫性を持って、ベストを尽くせ。」

翌1977年の映画A.パクラ監督作『大統領の陰謀』でもこのシステムは、活躍しアカデミー賞を受賞しています。


6 サウンド・デザインとFinal Mixを担当したJohnnie Burnの2年に渡る600ページ素材メモと素材録音


 制作の2年前に監督からサウンド設計を依頼され2年かけてアウシュビッツに関する資料や音声アーカイブ、地理などを調査し、そこでどんな音が生じていたかをまとめ600ページにわたる資料を作成しています。これは、まさに1977年のStar WarsでBen Burtがアメリカ中を素材収集のために歩いた道のりに相当します。そこで収集した素材は作品の中で

・機械音

・火葬場の音 炎

・長靴 サイレン

・銃声

・叫び声

・収容所オーケストラ

・バイク・トラック・列車

・犬の威嚇

などに活用されました。

叫び声の一つには、2022年パリで行われた労働争議の声もロケーションして使ったそうです。彼のインタービューによればPre- mixまではAtmosフォーマットで用意したが、監督の意向でFinal mixは全てDown mixした簡潔さに落ち着いたそうです。


 

J. Glazerが目指したのは、恐怖を誇張した表現ではなくBanalityという言葉を使っていますが多分シンプルさや平凡さといった削ぎ落とされた本質のみを残すアプローチだったことがスタッフのインタビューから伝わってきます。


すなわち、準備までは、あらゆる可能性を考えて最大限の用意をしておき、最終的には、どんどん簡潔化しているわけです。

7 ミュージックコンクレート

音楽も同様で映画の約50%を占めるスコアリング音楽を制作していますが、最終的には4‘39“しかなく0.04%の使用となった簡潔さも同様だと思います。

終わりに

監督のJonathan Glazerが目指した、アウシュビッツの現実を客観カメラ視点という抑制的な映像・音響表現するという意図は、見事に達成されています。


 

・映像では、

略奪した衣類やコート、ダイアモンド、

息子がおもちゃにしている歯

ヘスの屋敷の壁に撒く焼却した灰、

ロングショットで常に空に流れていく煙突の煙、

川遊びしているヘス家族に上流から流れてくる灰、

ヘスの家にいるポーランドの使用人少女がうづ高く積まれた灰の山を片付ける人々のために深夜にリンゴを置いていく暗視カメラ映像

などで抑制したホロコーストを表しています。

・音声では、

ヘスの屋敷越しワイドショットに聞こえるOFFの銃声、

機械音、

叫びやバイク、鉄道、

囚人オーケストラ、

犬の唸り声、

全編BGMのように流れる焼却の低音、

少女が灰の中から見つけた缶の中に入っていたヨセフ・ウルフの曲をヘスの家のピアノで演奏する場面などです。


8ヶ月に渡る20トラックの整音作業で一切ADRを行わなかったTom Willersの地道な努力と制作2年前からアウシュビッツのアーカイブを調査して600ページに及ぶ音声資料を準備したJohnnie Burnにハリウッド映画人も尊敬の気持ちを込めた受賞だったと思います。


PS: 一方筆者のように作品におけるサウンド・デザインに関心ある立場で言えば1993年S.スピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』や2002年R.ポランスキー監督作『戦場のピアニスト』のようなホロコーストの描き方に共感します。多分本作のような作品は、10回ほど熟慮鑑賞をすることでじわじわと進化が発揮されるのではないかと思います。

「Let's Surround」は基礎知識や全体像が理解できる資料です。
「サラウンド入門」は実践的な解説書です。

November 3, 2024

2002年第74回アカデミー音響効果賞受賞 「Pearl Harbor」のサウンド・デザイン

Mick Sawaguchi 沢口音楽工房
Fellow M. AES/ips
UNAMAS-Label・サラウンド寺子屋塾主宰


はじめに

2002年第74回アカデミー音響効果賞受賞作2001年制作Pearl Harborのサウンド・デザインを紹介します。監督のMichael Bayは、近作Trans Formerシリーズで知られていますが、彼はいかにもハリウッド好みの派手な爆発やアクションシーンで知られています。 

本作の縦軸は、LOVE STORYですが、横軸となる真珠湾奇襲シーンでILM が担当したVFXと相乗効果を生んだおよそ30分に及ぶ壮烈なサウンド・デザインがメインとなった3時間3分の長編です。


受賞に大きく貢献したのは、様々な飛行機や武器をフィールド録音したJohn Fasalの貢献が大きいと筆者は感じています。 




1 制作スタッフ


Director: Michael Bay

Sound Design: Chris Boyes Ethan Van Der Ryn

Final Mix: Kevin O’Connell Greg Russell

At Sony Pictures Studio Cary Grant Theatre

Music: Hans Zimmer

Music mix :Alan Meyerson at 20c FOX Newman scoring stage

Foley Artist: John Cucci Dan O’Connell

Production Sound: Peter J. Devlin

Sound Recordist: John Fasal Scott Guitteau


2 ストーリーと主要登場人物

レイフとダニーは、幼い頃から兄弟同然に育ちいつも一緒で飛行機遊びが大好きな少年でした。そしてレイフが、字が読めないことをダニーはかばっていました。第一次世界大戦で兵士として戦ったダニーの父は、その記憶からPTSD気味です。2人は、陸軍航空隊に志願しロング・アイランドにあるミッティエル陸軍飛行場配属になり腕を磨いていました。一方看護師の新人一行もN.Yに到着します。パーティでレイフは美しい看護師のイヴリンと出会い恋に落ちます。 レイフは、上官ジミー中佐の命令でヨーロッパ戦線に参加となりイギリス空軍イーグル中隊に配属になりますが、イギリスのパイロットは、アメリカからの友軍とはみなしていませんでした。その頃、ダニーとイヴリンは、ハワイのパール・ハーバーに転属となります。だがその直後、二人が受け取ったのは、レイフの戦死の知らせでした。悲しみに沈むイヴリンにダニーは、なんとか気持ちを回復してほしいと慰めるうちにやがて深い関係になってしまいます。戦死と思われたレイフは、フランスの漁船に救助され苦労の末にアメリカへと帰国しますが、二人が恋仲になっていることを知って失意に陥入りイヴリンを巡ってダニーと対立するようになります。そんな1941年12月7日の朝、真珠湾攻撃のためにハワイ北西沖へと到着した大日本帝国海軍の空母機動部隊の攻撃隊が日曜朝の平穏なパール・ハーバーを奇襲します。


 


戦火の中で反撃に出たダニーとレイフ、そして負傷者を必死で救出、手当てするイヴリン。翌年4月18日アメリカはB-29 16機による初日本本土爆撃奇襲作戦Doolittle-Raidを行います。

 

3 起承転結毎の特徴的なサウンド・デザイン

3−1起 00h00’00”-33’35”

レイフとダニーそして看護士イヴリンとの出会いがメインです。ここでは、フィールド録音したP-40戦闘機の様々な素材を聞いてみるためにレイフとダニーが腕を身がいている上空の飛行シーンから機内と機外のサウンドを紹介しスペクトルも紹介します。コックピット内での風防に当たる風切り音や2機がアクロバット飛行する時のエンジンと風圧のリアルさに注目しています。




P-40 コックピット音


 

                 P-40 機外飛行音



 3−2承 34’35’-1h50’07”

意外に短い承パートです。

●レイフは、命令でイギリス空軍イーグル中隊へ派遣されドイツ空軍メッサーシュミットと戦います。出撃命令が出た彼のスピットファイアー は、まだ給油系統が未整備のまま出撃し交戦途中でオイル漏れとなり海中に沈んでしまいます。海への衝突と水中へ散乱する機体のデザインです。



 

●ミラー兵曹艦上ボクシングシーン

平和を満喫している太平洋艦隊のシーンとして登場するボクシングの場面です。皿洗いに甘んじているミラー兵曹と機関室の大男がお互いの賭けグループの応援を受けて試合をしています。パンチの音は、LFE成分がなく、その代わりL-Rにパンチの低域成分があるデザインで、応援団は4CHで周りを取り囲み応援しています。


3−3転 1h50’07’-2h07’07”

日本の機動部隊が12月7日朝の平和なパール・ハーバーを奇襲攻撃します。約30分のバトルシーンは、ほぼ全面爆発と機銃や魚雷攻撃、飛行場、病院攻撃と派手な爆発シーンの連続ですのでここでは、3つほど紹介するに留めます。




 ●戦艦アリゾナに命中した時限爆弾とアリゾナ大爆発

ゼロ戦からトリガー音とともに落下した爆弾が、アリゾナの砲弾貯蔵室へ落下、時限装置の羽がクルクル周り、やがて戦艦は2つに破砕されます。最初の時限爆弾落下までは、砲弾散乱音と密やかに回る羽音という静かさで次に大爆発となります。爆発の低域成分と戦艦の破砕金属音成分でバランスが取れています。ここもMIXトータルとLFE成分のみのスペクトラムを紹介します。






アリゾナ大爆発




 

アリゾナ爆発LFE




●戦艦の司令塔崩落

攻撃を受けた戦艦の司令塔が甲板に崩落します。縦位置の映像シーンは、サラウンド向きと言え、このデザインもフロントから落下してリアに散乱する破片の飛散がダイナミックさを表現しています。







●機銃掃射で飛散する兵舎の窓ガラス

このシーンもサラウンド向きのカットです。フロント前面に兵舎の窓がありそこに零戦からの機銃掃射が開始されガラス片は、フロントからリア側に飛散していきます。ガラス片の飛散中心なので参考にスペクトラムも測定してみました。



 

兵舎ガラス窓飛散



 3−4結 2h07’07’-3h03’00”

トルーマン大統領が日本へ戦線布告の発議を議会へ提出。1942年3月3日には、ジミー中佐をリーダーとした報復爆撃作戦Doolittle-Raidが計画され4月2日空母ホーネットから決行されます。


 

B-29の様々な素材が大変リアルにデザインされていますので紹介します。またここもMIX全体とLFEのみのスペクトルを紹介します。


B-25 機内音




B-29 機内音全体とLFE




 4 スコアリング音楽


音楽を担当したHans Zimmerは、作曲に先立って4−5タイプの仮mixを彼の既存アーカイブから制作し監督のMichael Bayと方向性を決めたので音楽は大変スムースだったと述べています。写真は、2001年当時から、Media Ventureと呼ぶプロダクション・スタジオで一貫した音楽制作をおこなっていたHansの若かりし姿です。



30秒ほどのバンパーの役目をする短いキューからバトルシーンのアンダースコアーとなる9分の組曲まで多彩な音楽となっています。監督のMichael Bayは、音楽で塗りたくるアクション映画にはしたく無いとの考えで音楽占有率は、61.7%と控えめと言えます。レコーディングは、20c FOX Newman Scoring Stageで長年コンビを組んでいるAllan Meyersonが担当。

本作では、膨大な効果音の嵐と格闘すると予想されたのでレベルを上げても邪魔にならないように多くのリボンマイクを使用したと述べています。

Final MixはHansのHome StudioであるMedia Ventureでおこなっています。 



7CHメインマイキングとして典型的なDecca Treeのmic preスナップがありましたので紹介します。

        

 

5 Foley.効果音 素材録音 Final Mix

George Watters IIとChris Boyesは、まだ歴史の証人であるベテラン退役軍人の方々がいる中で如何に1940年のサウンドを再現するかがサウンド・チームに課せられた課題だったと述べています。素材としては、当時の飛行機であるB-25、メッサーシュミット、スピットファイアー 、P-40、零戦、戦艦、爆撃、銃火器などです。


飛行機全機種のあらゆる素材録音

これはカリフォルニア州Chinoにある歴史飛行機展示場に出向き約3ヶ月かけて機内、機外、エンジン、離着陸、上空飛行音を録音














銃火器録音

ジョージア州アトランタ在住の第2次大戦の武器を研究しているコレクターのところで約20種類に及ぶ銃器のフィールド録音を実施、特に跳弾や通過音に重きを置いて最大4CHで実施。Final Mixで有効なLFE成分についても素材録音を行いLFEプロセッサーによるLFE創出をしないように心がけたそうで同じLFEでもオリジナルのニュアンスがあることが有効と語っています。




 ●戦艦の軋みや揺れ、金属破砕音は、メキシコBajaの特撮スタジオで録音

 


●Foley

Foleyも膨大な素材が必要でone step upスタジオで28日かけています。その中には、水槽、レザー・ジャケット、軍服、靴、薬莢などが含まれています。



●Final mix

膨大なサウンドデータになりますので事前Pre-mixで整理を行うためプロデューサーのofficeに仮設5.1CH MIX ROOM作り監督と打ち合せしながら素材をFixしたそうでこれが大いに有効だったと述べています。Final Mixは、7.1CH SDDSフォーマットで行いここから5.1CH DOWN MIXも作成。本作のような複雑な音響構成ではスクリーン側に5CHあるのは実に有効だったそうです。




監督は、本作のようなVFXメインの作品でもADRは、やりたくないという方針だったのでプロダクション・サウンドのノイズ除去のために一人専用でクリーニングをおこなったそうです。この当時は、現在のようなインテリジェント・レストレーション・プラグインなど無い時代ですのでDoby CAT-43をメインに活用してノイズ除去をおこなっています。

終わりに

1996年建設され翌年J. Cameron監督のTitanicで世界的な評価を獲得しましたメキシコBajaにある現在世界最大級のWater tank-01を備えた特撮スタジオでの2作目が本作になります。








 「Let's Surround」は基礎知識や全体像が理解できる資料です。
「サラウンド入門」は実践的な解説書です。