By. Mick Sawaguchi
日時:2006年5月21日
場所:音響ハウス第3スタジオ
講師:石井久雄(オタリテック株式会社)
テーマ:サラウンド音楽スタジオでサラウンド音楽ソフトを聞きまくろう!
沢口:2006年5月の持ち出しサラウンド寺子屋を始めたいと思います。今回は、出来上がったばかりでピカピカの音響ハウス第3新サラウンド音楽スタジオでサラウンド音楽ソフトを聞きまくろう!という大変ぜいたくな企画です。スタジオを提供していただきました音響ハウス 田中さん、大変ありがとうございます。今日の講師役は、オタリテックの石井さんです。石井さんは業務で、GENELECのスピーカを担当していますが、実は大変なサラウンド音楽ファンであることが最近わかり、寺子屋ホームページの「塾生お薦めソフト」にもたくさんデータを提供してもらっています。その豊富なコレクションから今日はサラウンド音楽をたっぷり楽しんでください。
石井:オタリテック石井です。私は4年程前から国内外のサラウンド音楽ソフトを購入するようになり現在200タイトルくらいになりました。まだまだ一般のレコード店で気楽に購入できる状況にないのが残念でおもに通販で購入せざるを得ない状況です。今日はそのなかから年代順に最新作までを聴いて頂こうと20タイトルほど用意しました。
M-01Carpenters/ Singles 1969-1981 (2004年) 試聴曲:CALLING OCCUPANTS OF INTERPLANETARY CRAFT
このサラウンドMIXはアル シュミットが担当しています。(再生)
M-02Jeff Beck/ Blow By Blow (2001年) 試聴曲:DIAMOND DUST
次はジェフ ベックの作品です。これは70年代に4CH ステレオとして制作されたマスターを使用していますのでセンターチャンネルはありません。おもしろいのは、CDステレオ版は国内のみで海外では5.1CH版のみ発売というソフトです。(再生)
M-03Emerson Lake & Palmer /Brain Salad Surgery(恐怖の頭脳改革)(2000年) 試聴曲:TOCCA
たった3人というメンバーのELPですがサラウンド空間として大変多彩な音楽表現が出来上がっている点がすばらしいと思います。これを2CHステレオで聴くと彼らが意図した空間が十分再現できないと感じています。(再生)
M-04 Toto / TOTO IV (2002年) 試聴曲:I WON’T HOLD YOU BACK
彼らの作品でサラウンド版はこのTOTO4だけです。これも国内版はCDのみで海外では5.1CH版発売という組み合わせです。サラウンドMIXはエリオット シャイナーが手がけています。彼のHPにアクセスすると彼が今まで手がけたサラウンドタイトルがでてきますが約50タイトルほど担当しているまさにサラウンド音楽エンジニアと言えます。(再生)
M-05 Roxy Music/ Avalon(2003年) 試聴曲:THE SPACE BETWEEN
このMIX はボブ クリアマウンテンです。フロントとリアで波打つようなスペース感覚のMIXがおもしろいと思います。(再生)
M-06Miles Davis/ TUTU (2002年) 試聴曲:TUTU
このMIXは私の好きなビル シュニーです。彼のHi-Fiなサウンドを聴いてください。
M-07Shirley Horn (with Strings)/Here' To Life (2004年) 試聴曲:WHERE DO YOU START?
残念ながら2005年秋に他界したシャーリーホーンのJAZZですがストリングスに包まれるような心地よさと彼女のボーカルがとても気持ちいい作品です。MIXは、アル シュミットです。(再生)
M-08Yes /Magnification (2002年) 試聴曲:GIVE LOVE EARTH DAY
次はプログレロック界の巨頭バンドです。キーボードがいなくなった替わりにフルオーケストラと競演した作品です。ロックとクラシックオーケストラが違和感なく融合したアレンジがポイントだと思います。(再生)
M-09Pat Metheny Group/ Imaginary Day (2001年) 試聴曲:FOLLOW ME
これは少し古い録音ですが大変広大な音楽空間が構築されていることがサラウンドでよく認識できると思います。(再生)
M-10John McEuen & Jimmy Ibbotson/ Nitty Gritty Surround (2001年) 試聴曲:TOO LATE LOVE COMES TO ME
これは主にカントリー 音楽を制作しているアメリカのインディーレーベルが出したJAZZ系の作品です。一枚のディスクで片面DVD-A/片面DVD-Vというパッケージとなっています。(再生)
M-11Mark Knopfler/Shangri-La(2004年) 試聴曲:EVERYBODY PAYS
ダイアーストレーツのボーカリストのリーダーアルバムです。ロックらしさを出すために定位はセンター中心としてあとのチャンネルに響き成分を配置した構成がおもしろいと思います。(再生)
M-12Al Jarreau /All I Got (2002年) 試聴曲:LOST AND FOUND
MIXはアル シュミットです。彼はボーカル録音が大変いいので私のお気に入りでもあります。
M-13Aaron Neville/ Nature Boy (2003年) 試聴曲:THE VERY THOUGHT OF YOU(w/L.Ronstadt)
MIXはエリオット シャイナーです。
M-14B.B.King & Eric Clapton/ Riding With The King(2001年) 試聴曲:RIDING WITH THE KING
エリック クラプトンはサラウンドの制作が多いアーティストの一人です。これはデュエット作品ですが、2人の定位がハードセンターを挟んで両側に定位してあります。近作ではレイ チャールズの作品でも同様な定位が行われています。
M-15Al Di Meola/Flesh On Flesh (2002年) 試聴曲:FLESH ON FLESH
これはテラークレーベルの作品ですがMIXはマイケル ビーショップでDSD録音をそのままSadie DSD-8というDAWで編集マスタリングがなされています。リア側の空間表現が大変すばらしいと思います。(再生)
M-16Herbie Hancock / Gershwin’s World (2004年) 試聴曲:ST.LOUIS BLUES
これはCDが98年に販売され5.1CH版は2004年にでています。おもしろいのは録音がブルース スエディーンでサラウンドMIXはアル シュミットです。ブルースはサラウンドが嫌いなので分担したそうです。(再生)
M-17小野 リサ/Lisa' Ono Bossa Hula Nova (2004年) 試聴曲:MANOA
この制作チームは日本人です。
M-18角田健一ビッグバンド/Big Band Stage(2006年) 試聴曲:AIR MAIL SPECIAL
今年の最新作DVD-Aです。パッケージは2枚組でDVD-AとCDが独立してパッケージされていますが、最近多くなった形式です。ビッグバンドのように情報量の多い空間がサラウンドで大変良く表現されていると思います。MIXはミキサーズラボのベテラン内沼さんです。
M-19Donald Fagen/ MORPH THE CAT(2006年) 試聴曲:BRITE NITEGOWN
ドナルド フェイゲンもサラウンド制作が多いアーティストの一人です。彼の最新作もDVD-AとCDの2枚がワンセットになっています。MIXはエリオット シャイナーです。ドナルドはサラウンド制作経験が多いので作曲やアレンジの段階でサラウンド空間を前提にした作り方ができている一人です。(再生)
M-20 NTVブラボークラシックDVDより
NTV今村です。NTVのクラシック番組が初DVDになったので最新スタジオで是非再生してみたいと思いデモさせてもらいます。NTV ではBS-デジタル 地上デジタルで定時ブラボー クラシックというサラウンド放送を行っています。このソフトはサントリーホールでの収録で公演が大変すばらしかったのでDVD化し音はDTSエンコードしています。(再生)
石井:長時間どうもありがとうございました。これで終わりにします。(拍手)今回様々なソフトを再生して私自身も気づいたのですが、モニターレベルを揃えようとすれば最大で10dBもの差がありました。DVD-AやSA-CDのメリットは120dB以上のダイナミックレンジを活かすことができるメディアですので。従来の音圧競争に走るのではなく、レコーディングやミキシングした状態をそのままパッケージして欲しいと感じたしだいです。
沢口:石井さんどうもありがとうございました。残りの時間でせっかくの機会ですから第3スタジオと隣のマスタリングルームについて音響ハウス田中さんとスタジオ音響設計担当のソナ中原さんに解説をお願いします。
田中:音響ハウス 田中です。私がサラウンドに興味を持ったのは2003年11月に三鷹の沢口さん宅で行われたSONY PCL染谷さん講師のサラウンド寺子屋に参加してからです。この時はオノ セイゲンさんに紹介してもらい参加したのですが、以来音響ハウスでのビジネスにどうしたら結びつけられるか?を考え始めました。ちょうど2004年にここ7階の改修のためのプロジェクトが発足し次世代をめざした音楽スタジオとして高品質ハイエンド サラウンド対応のスタジオとマスタリングを打ち出したコンセプトで1年かけて2006年春に完成しました。特にモニター環境にこだわりましたので電気的な処理補正を行うことなくITU-Rのモニター環境を構築するためソナ中原さんとじっくり時間をかけて設計施工した結果大変納得のできるモニター環境に出来上がったと思います。マスタリングルームも従来2室だったところを1室にしてサラウンドマスタリング空間を十分確保しました。機器間の接続は、煩わしさは承知の上で単体同士の接続をはかりクロックも単体の音質の一部として扱っています。詳細はプロサウンド6月号をお読み下さい。
中原:ソナ中原です。音響設計のポイントとしては我々初めての音楽スタジオサラウンド対応ということで従来ポストプロダクション スタジオにおいて積極的に使用してきたモニタリングでの電気的な特性や時間補正、ベースマネージメントなどを行わず純粋音響設計でそれを実現するという点でした。そのため最終調整の許容度が得られる据え置き型でリスニングポイントから同心円状のスピーカ配置としています。もっとも留意したのはLFEの選択と時間補正でした。これには4種類ほど絞り込み音色とメインとの時間補正を検討しました。
従来と大きく異なる点は、マシンルームという考えがこの規模のコントロールルームでなくなってきた点です。
その分音響空間設計に使える点が我々としてはメリットでした。
第3スタジオ フロント
マスタリング ルーム フロント(物理配置によるLFE 時間補正!に注目)
[ 終わりに ]
3時間たっぷり、それもできたての次世代音楽スタジオサラウンドコントロールルームでの試聴をみなさん十分堪能されたようでした。今回は初参加のかたがほとんどということもありAFTER-5ではみなさんのサラウンドに対する思いや制作側と再生側の考え方などたくさんの情報交換もできました。サポートいただいた音響ハウスのスタッフのみなさんと田中さん、ならびに休日においでいただいた音響ハウス取締役貝原さんにもサラウンド寺子屋からお礼申し上げます。(了)
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「サラウンド入門」は実践的な解説書です
Mick Sawguchi & 塾生が作る サラウンドクリエータのための最新制作勉強会です
http://surroundterakoya.blogspot.com
May 21, 2006
May 14, 2006
第32回サラウンド塾 カムチャッカ世界自然遺産 サラウンドロケ 高木創
By. Mick Sawaguchi
日時:2006年5月14日
場所:三鷹 沢口スタジオ
講師:高木創(東京TVセンター)
テーマ:カムチャッカ世界自然遺産 サラウンドロケ
沢口:2006年5月は2回開催とタイトな予定になってしまいました。本日は、東京TVセンターの高木さんを講師にフィールド サラウンド ロケの取り組みについてお願いしました。高木さんは、今年の一月にNHK BS-hiで放送された「世界自然遺産 火と氷の王国~カムチャツカ火山群」の長期ロケを担当。その前にはアフリカ ビクトリアの滝をサラウンド ロケしています。熱帯から極寒まで厳しい自然条件のなかでどのような点に注意しながらサラウンド ロケを行ったかはみなさんにも参考になる点が多いと思います。
高木:よろしくお願いします。いつもは、映画のファイナルMIXを担当しておりロケーションに出る機会は少ないのですが、ロケも大好きなので私の経験をお話したいと思います。「火と氷の王国 カムチャッカ火山群」は昨年8月に長期ロケを行いました。スタッフはディレクター2名 カメラマン VE/A そしてサラウンド収録が私といった構成であとロシア側からガイドや後方支援をチームをお願いしました。ディレクターはグレート ジャーニーという番組を制作していたスタッフでハードな自然番組を多く手がけてきています。
まず、今回の自然条件と機材の対応です。
1 気温が-20度から20度くらいまでと急変する。
2 標高4000mクラスの火山郡に登頂するので気圧が通常の半分になると予測される。
3 厳しい環境での制作なので極力シンプル 軽量な機材
4 ツンドラ地帯以降ほとんど音らしい音がない静寂の環境なのでS/Nの良い収録が必要
5 予想されるロケで氷穴調査や氷河の調査があるのでこうした音を可能な限り録音
これらを検討して機材は以下の構成としました。
レコーダ:Attone Canter HD-8ch レコーダ
サラウンド マイク:sanken CUW-180+CS-1 W-A/B方式、sanken WMS-5 W-MS方式
小型ステレオマイク:sanken COS-22 ピンマイク
特殊マイク:sanken MO-9E 氷中マイク ペア
これとは別にカメラに同録としてガンマイク。ですから私の録音はサラウンドとして使用できる素材を専用に録音するという役割でした。
1に関しては前回アフリカ ビクトリアの滝では、安定した気候と電源事情で恵まれていましたが今回は、バッテリー管理と充電体制を考え我々が取材する場所の近くにベースキャンプを設営し自家発電機で充電することにしました。気温の変動による露結対策はキャンプの大型テントには機材を持ち込まず、ロケが終了時点でカバーをしたまま通常の外気と同じ条件の我々の個別テントにおいておくことにしました。Canterは低温にもヘビーデューティなのでその点は安心しました。移動中にホワイト アウトという視界ゼロの吹雪にもめぐり合う危険があるので、ツエルトとよぶ軽量テントを携行し防寒対策としました。実際これがなかったら遭難していたかもしれないといった気象条件でした。
2の気圧については、山岳取材経験の豊富な今回のカメラマンから標高が4000m以上になると気圧の半減からパソコンのHDがよくクラッシュする。と聞かされましたので使用するファイアーワイアーケーブルとHDを機密保持対策しました。具体的にはケーブル内に充填剤を注入、HDもケースにいれて充填封入としました。
3サラウンド マイクの選定については、前回はMKH-416x5というマイクアレイを制作しヘルメットに装着して使用しましたが、今回は広がり感と機動性を重視したかったので選定に苦労しました。ちょうどNHK技術研究所の公開を見に行ってWMS-5の試作品にふれこれなら使えそうだと思いました。サラウンド寺子屋コネクションを使ってsankenの小林さんとコンタクトすることができ、WMS-5の2号機、それにW-A/B方式のCUW-180+CS-1の組み合わせを使うことができました。また氷河の音を直接録音したいとおもっていたのでこれも長野オリムピックのスケート放送で用いたエッジ音収録用氷中マイクというのもあると知りこれも使うことができました。ステレオ ピンマイクは氷穴が発見できた場合の先行調査を行うディレクターのヘルメットに取り付ける小型HDカメラHDW-1000の横にとりつけ現場音を生々しく録音するのに使用しました。この素材はポストプロダクションでフロントハードセンターとリアファンタムセンターに定位させました。
4については、音源がレベル的に十分であればWMS-5で、音源を明確に定位させて録音したい場合はCUW-180をと使い分けをしました。無音の自然界ではWMS-5のS/Nでは厳しいものがありました。収録セットはバックパックに一体として収容し背中にポールを立ててここにCUW-180セットを、機動性にはWMS-5を手持ちで対応という組み合わせです。それでも当初20kgの重量になったので山岳移動録音ではここから不要不急の機材ははずし軽量化を図りました。
移動はカムチャッカの首都からマイクロバスで移動14時間揺られて5つの火山郡のなかでも活発な北側にむかい。そのなかでウシコフスキーという火山にあると言われている氷穴を見つけて探査するという工程です。氷穴の探査では、まず有毒ガスがないかどうか検知したあと4日間内部を取材しました。カメラとは独立して内部の氷穴音を録音するため音は別個に録音しました。またここを表現する音楽にからむ音素材用にと持参した長さの違うバチで氷洵やつららをたたいてその響きをポストプロダクションで加工してME的に使いましたが、大変有効だったと思います。
Pre-mix/post production
帰国後のpre-mixは、映像編集がすべて出来上がった段階から開始しました。こうした目的のためのpre-mix roomがないので仮設で設備をくみ上げて仕込みとしました。前回のビクトリアの滝で使ったMKH-416サラウンド アレイの音に比べ前後のつながり感は大変自然でしたのでアンビエンス用のレイヤーは少なくてすみました。モニターレベルは83dBで行い、Final mix時は79dBでミキシングしました。Pre mixでは、基本的に音楽がなくても成立する現場サラウンドを構築しています。
ではデモで再生しながら具体例をお話します。
(再生)
沢口:どうもありがとうございました。皆さんからの質問をどうぞ。
Q:データのバックアップは?
A:canterに内臓のDVD-ライターがあるので一日取材が終わればその日のうちにDVDバックアップしました。
Q:寒さでケーブルなどはトラブルありませんでしたか?
A:CUW-180のハンガーにあるゴムが寒気で固まってはずれてしまいました。マイクケーブルはカナレの低温対策ケーブルを使いましたので問題ありませんでした。
Q:モニターはどうしたのですか?
A:ダウンミックス モニターが内臓されているので事前にこちらで聞き比べしながらもっとも自然なバランスとなるダウンミックス係数として使いました。
Q:予備機は?
A:TCD-D10を持参しましたが、登場願うことは幸いありませんでした。
Q:バッテリーは大丈夫でしたか?
A:使うときだけONで使いましたが立ち上がりが早いのでチャンスを逃がすといったこともなくバッテリーひとつで3日くらい持ちましたので安心でした。
Q:収録レートは?
A:48khz-24bitです。これで全記録容量は100Gでした。
Q:マイクの音の差はどうでしたか?CUW-180の開き角度は?
A:明確な音源を表現するにはCUW-180が良かったです。あとS/Nもいいので静かな録音にはこちらを使っています。開き角度はフロント リアとも120度でつながり重視としました。
Q:私は以前フロント90度、リア120度で録音しましたが前後のつながりという点ではいまひとつだった経験があります。
Q:あれがあればもっと良かったといった機材はありませんでしたか?
A:やはり録音機の軽量化ですね。特に今回のような山岳取材では。メモリーレコーダーでサラウンド録音できるような機材が欲しいですね。
Q:番組で使ったロケ音の割合は?
A:99%使いました。一つだけイメージに使いたい音があったので新規に録音して加工しましたが。
Q:LFEは今回どんなところで使いましたか?
A:水の流れや氷河の音 山鳴りなどであくまで味付け程度で使いました。前回のビクトリアの滝にくらべれば控えめです。(笑い)
どうもありがとうございました。メインのテーマはここで一段落して今回参加の北日本放送荒井さんと朝日映像 井上さんが近作を持ってきてくれましたのでデモしましょう。
荒井:北日本放送の荒井です。今日は富山から参加しました。KNB北日本放送で今年の4月に立山 標高2400mから中継を行いました。その時にサラウンド収録をしてみましたので、その様子とスタジオ制作もホロホンH2 PROをトークの収録に使ってみたのできいてください。立山の現場と中継車までは600mで、従来映像、音声で敷設するケーブルも多くかつ低温でだめになってしまうことが多かったのですが、今回はIKEGAMIの同軸多重装置を使い大変シンプルな敷設でした。クレーンカメラのよこにサラウンドマイクをアタッチメント自作で取り付けてみたものです。
(デモ)
井上:これは試作で、本格的にはCS ep05 CH で放送する予定の東京街角シリーズのサラウンドです。私は前からなにげない街角のサラウンドに大変興味があり今回企画提案したものです。デモは一日で築地から始まり下町、羽田 渋谷までを駆け足で収録したものです。カメラはDV-CAMですがサラウンドはCUW-180+CS-1の構成です。今後年間シリーズで制作予定です。
(デモ)
今回は、大阪から三村さん、富山から荒井さんそして今韓国からミキサーの仕事で滞在している魯さんと各地からの参加がありました。フィールドロケ、それも非常に条件の厳しい中での長期ロケの経験談でしたので、活発な質問で盛り上がり大変貴重な時間を共有できたと思います。(了)
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「サラウンド入門」は実践的な解説書です
日時:2006年5月14日
場所:三鷹 沢口スタジオ
講師:高木創(東京TVセンター)
テーマ:カムチャッカ世界自然遺産 サラウンドロケ
沢口:2006年5月は2回開催とタイトな予定になってしまいました。本日は、東京TVセンターの高木さんを講師にフィールド サラウンド ロケの取り組みについてお願いしました。高木さんは、今年の一月にNHK BS-hiで放送された「世界自然遺産 火と氷の王国~カムチャツカ火山群」の長期ロケを担当。その前にはアフリカ ビクトリアの滝をサラウンド ロケしています。熱帯から極寒まで厳しい自然条件のなかでどのような点に注意しながらサラウンド ロケを行ったかはみなさんにも参考になる点が多いと思います。
高木:よろしくお願いします。いつもは、映画のファイナルMIXを担当しておりロケーションに出る機会は少ないのですが、ロケも大好きなので私の経験をお話したいと思います。「火と氷の王国 カムチャッカ火山群」は昨年8月に長期ロケを行いました。スタッフはディレクター2名 カメラマン VE/A そしてサラウンド収録が私といった構成であとロシア側からガイドや後方支援をチームをお願いしました。ディレクターはグレート ジャーニーという番組を制作していたスタッフでハードな自然番組を多く手がけてきています。
まず、今回の自然条件と機材の対応です。
1 気温が-20度から20度くらいまでと急変する。
2 標高4000mクラスの火山郡に登頂するので気圧が通常の半分になると予測される。
3 厳しい環境での制作なので極力シンプル 軽量な機材
4 ツンドラ地帯以降ほとんど音らしい音がない静寂の環境なのでS/Nの良い収録が必要
5 予想されるロケで氷穴調査や氷河の調査があるのでこうした音を可能な限り録音
これらを検討して機材は以下の構成としました。
レコーダ:Attone Canter HD-8ch レコーダ
サラウンド マイク:sanken CUW-180+CS-1 W-A/B方式、sanken WMS-5 W-MS方式
小型ステレオマイク:sanken COS-22 ピンマイク
特殊マイク:sanken MO-9E 氷中マイク ペア
これとは別にカメラに同録としてガンマイク。ですから私の録音はサラウンドとして使用できる素材を専用に録音するという役割でした。
1に関しては前回アフリカ ビクトリアの滝では、安定した気候と電源事情で恵まれていましたが今回は、バッテリー管理と充電体制を考え我々が取材する場所の近くにベースキャンプを設営し自家発電機で充電することにしました。気温の変動による露結対策はキャンプの大型テントには機材を持ち込まず、ロケが終了時点でカバーをしたまま通常の外気と同じ条件の我々の個別テントにおいておくことにしました。Canterは低温にもヘビーデューティなのでその点は安心しました。移動中にホワイト アウトという視界ゼロの吹雪にもめぐり合う危険があるので、ツエルトとよぶ軽量テントを携行し防寒対策としました。実際これがなかったら遭難していたかもしれないといった気象条件でした。
2の気圧については、山岳取材経験の豊富な今回のカメラマンから標高が4000m以上になると気圧の半減からパソコンのHDがよくクラッシュする。と聞かされましたので使用するファイアーワイアーケーブルとHDを機密保持対策しました。具体的にはケーブル内に充填剤を注入、HDもケースにいれて充填封入としました。
3サラウンド マイクの選定については、前回はMKH-416x5というマイクアレイを制作しヘルメットに装着して使用しましたが、今回は広がり感と機動性を重視したかったので選定に苦労しました。ちょうどNHK技術研究所の公開を見に行ってWMS-5の試作品にふれこれなら使えそうだと思いました。サラウンド寺子屋コネクションを使ってsankenの小林さんとコンタクトすることができ、WMS-5の2号機、それにW-A/B方式のCUW-180+CS-1の組み合わせを使うことができました。また氷河の音を直接録音したいとおもっていたのでこれも長野オリムピックのスケート放送で用いたエッジ音収録用氷中マイクというのもあると知りこれも使うことができました。ステレオ ピンマイクは氷穴が発見できた場合の先行調査を行うディレクターのヘルメットに取り付ける小型HDカメラHDW-1000の横にとりつけ現場音を生々しく録音するのに使用しました。この素材はポストプロダクションでフロントハードセンターとリアファンタムセンターに定位させました。
4については、音源がレベル的に十分であればWMS-5で、音源を明確に定位させて録音したい場合はCUW-180をと使い分けをしました。無音の自然界ではWMS-5のS/Nでは厳しいものがありました。収録セットはバックパックに一体として収容し背中にポールを立ててここにCUW-180セットを、機動性にはWMS-5を手持ちで対応という組み合わせです。それでも当初20kgの重量になったので山岳移動録音ではここから不要不急の機材ははずし軽量化を図りました。
移動はカムチャッカの首都からマイクロバスで移動14時間揺られて5つの火山郡のなかでも活発な北側にむかい。そのなかでウシコフスキーという火山にあると言われている氷穴を見つけて探査するという工程です。氷穴の探査では、まず有毒ガスがないかどうか検知したあと4日間内部を取材しました。カメラとは独立して内部の氷穴音を録音するため音は別個に録音しました。またここを表現する音楽にからむ音素材用にと持参した長さの違うバチで氷洵やつららをたたいてその響きをポストプロダクションで加工してME的に使いましたが、大変有効だったと思います。
Pre-mix/post production
帰国後のpre-mixは、映像編集がすべて出来上がった段階から開始しました。こうした目的のためのpre-mix roomがないので仮設で設備をくみ上げて仕込みとしました。前回のビクトリアの滝で使ったMKH-416サラウンド アレイの音に比べ前後のつながり感は大変自然でしたのでアンビエンス用のレイヤーは少なくてすみました。モニターレベルは83dBで行い、Final mix時は79dBでミキシングしました。Pre mixでは、基本的に音楽がなくても成立する現場サラウンドを構築しています。
ではデモで再生しながら具体例をお話します。
(再生)
沢口:どうもありがとうございました。皆さんからの質問をどうぞ。
Q:データのバックアップは?
A:canterに内臓のDVD-ライターがあるので一日取材が終わればその日のうちにDVDバックアップしました。
Q:寒さでケーブルなどはトラブルありませんでしたか?
A:CUW-180のハンガーにあるゴムが寒気で固まってはずれてしまいました。マイクケーブルはカナレの低温対策ケーブルを使いましたので問題ありませんでした。
Q:モニターはどうしたのですか?
A:ダウンミックス モニターが内臓されているので事前にこちらで聞き比べしながらもっとも自然なバランスとなるダウンミックス係数として使いました。
Q:予備機は?
A:TCD-D10を持参しましたが、登場願うことは幸いありませんでした。
Q:バッテリーは大丈夫でしたか?
A:使うときだけONで使いましたが立ち上がりが早いのでチャンスを逃がすといったこともなくバッテリーひとつで3日くらい持ちましたので安心でした。
Q:収録レートは?
A:48khz-24bitです。これで全記録容量は100Gでした。
Q:マイクの音の差はどうでしたか?CUW-180の開き角度は?
A:明確な音源を表現するにはCUW-180が良かったです。あとS/Nもいいので静かな録音にはこちらを使っています。開き角度はフロント リアとも120度でつながり重視としました。
Q:私は以前フロント90度、リア120度で録音しましたが前後のつながりという点ではいまひとつだった経験があります。
Q:あれがあればもっと良かったといった機材はありませんでしたか?
A:やはり録音機の軽量化ですね。特に今回のような山岳取材では。メモリーレコーダーでサラウンド録音できるような機材が欲しいですね。
Q:番組で使ったロケ音の割合は?
A:99%使いました。一つだけイメージに使いたい音があったので新規に録音して加工しましたが。
Q:LFEは今回どんなところで使いましたか?
A:水の流れや氷河の音 山鳴りなどであくまで味付け程度で使いました。前回のビクトリアの滝にくらべれば控えめです。(笑い)
どうもありがとうございました。メインのテーマはここで一段落して今回参加の北日本放送荒井さんと朝日映像 井上さんが近作を持ってきてくれましたのでデモしましょう。
荒井:北日本放送の荒井です。今日は富山から参加しました。KNB北日本放送で今年の4月に立山 標高2400mから中継を行いました。その時にサラウンド収録をしてみましたので、その様子とスタジオ制作もホロホンH2 PROをトークの収録に使ってみたのできいてください。立山の現場と中継車までは600mで、従来映像、音声で敷設するケーブルも多くかつ低温でだめになってしまうことが多かったのですが、今回はIKEGAMIの同軸多重装置を使い大変シンプルな敷設でした。クレーンカメラのよこにサラウンドマイクをアタッチメント自作で取り付けてみたものです。
(デモ)
井上:これは試作で、本格的にはCS ep05 CH で放送する予定の東京街角シリーズのサラウンドです。私は前からなにげない街角のサラウンドに大変興味があり今回企画提案したものです。デモは一日で築地から始まり下町、羽田 渋谷までを駆け足で収録したものです。カメラはDV-CAMですがサラウンドはCUW-180+CS-1の構成です。今後年間シリーズで制作予定です。
(デモ)
今回は、大阪から三村さん、富山から荒井さんそして今韓国からミキサーの仕事で滞在している魯さんと各地からの参加がありました。フィールドロケ、それも非常に条件の厳しい中での長期ロケの経験談でしたので、活発な質問で盛り上がり大変貴重な時間を共有できたと思います。(了)
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「サラウンド入門」は実践的な解説書です
May 10, 2006
第5回サラウンドへの道 日常性を普遍化する Road to Surroundの35年を振り返って
By Mick Sawaguchi 沢口真生
" 何事も一人前になるまでには、キャリアと様々な経験を積み重ねなくてはなりません。そこで大事なことは、それぞれが経験した経験則を普遍化し俯瞰する見方を取り入れるということです。仕事は毎回異なるのだからそのつど新たなことをやっているので普遍化はできない!という職場の声も聴きました。しかしそれでは毎回積み重ねたことが財産になりません。「この道20年かかったのだから新人も同じように20年かけて一人前」というパターンでは、次の一手を考えるゆとりがなくなり、同じ事の継承という域を出ることが難しくなります。 " 「放送技術」より
「サラウンドへの道」 Index
「サラウンド入門」は実践的な解説書です
" 何事も一人前になるまでには、キャリアと様々な経験を積み重ねなくてはなりません。そこで大事なことは、それぞれが経験した経験則を普遍化し俯瞰する見方を取り入れるということです。仕事は毎回異なるのだからそのつど新たなことをやっているので普遍化はできない!という職場の声も聴きました。しかしそれでは毎回積み重ねたことが財産になりません。「この道20年かかったのだから新人も同じように20年かけて一人前」というパターンでは、次の一手を考えるゆとりがなくなり、同じ事の継承という域を出ることが難しくなります。 " 「放送技術」より
「サラウンドへの道」 Index
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